神様と深海魚とてんとう虫。
神様を殴っておいた、謝るのは死んでからだ。
人間が、蟻にも見えるようなほど高い崖の辺りに住んでいた。
彼はいつも孤独だった。
彼には家族も友人も、財産も名誉も飼っていたペットもいなかったもので、ある風の強い日に崖から落ちた。落ちたといえば、いくらか気の毒に聞こえそうだが、彼は死を熱望して飛んでみたのだが。結局は落ちた、のだ。
目が覚めた、下方をのぞけば蟻が、てんとう虫にほどに見える地点にいた。そう、彼は誤って生きてしまっていた。
「死ぬことも困難なのか」
彼はいつものように、ぼそぼそと、か細い声でつぶやいた。
今になって思えばこのか細い声が人に魅力を与えなかったのだ。相手に声が聞こえないのは、人との会話を妨げるものにしかならない。いつも下を向いているこの癖が、相手が引き留めにくかったのかもしれない。何にも拘らない、何にも染まろうとしないこの癖は、誰かとのシャッターの代わりになっていた。
彼はあいにく、彼の欠如に死の直前で気付いた。
失神をしていたのでよだれが出ていた。きっと下にいたてんとう虫は、ポツポツと落ちてくるよだれに、雨が降りそうだと言ったに違いない。
言葉通りすがりつく形になった。
さも、アクション映画のワンシーンにありそうな、いや、それよりは滑稽な姿で乾いた木にズボンがひっかかったのだった。ちょうど足の太さの二回り大きな木だった。彼はこの木が神様のように思えた。
彼を二度も孤独と絶望感にさせるこの木は、きっと神様なのだ。
「このやろう・・・」
神様を殴っておいた、謝るのは死んでからだ。
しかし、てんとう虫も神様も何も言ってくれなかった。
それにしても、こんな辺鄙な所に芽だした木を残念に思ったところで、その残念な木に命拾いした彼はとても辱めを受けている気分になり赤面した。神様、ちくしょう。
下を見れば見るほど恐怖はただ増すのみで、がくがく震えて、失禁していたし涙も流れていた。いよいよ、てんとう虫たちもこの羞恥心の固まりのような雨雲の存在に気がついてくれるだろうか。
笑いがこみあげてきた。まさしく滑稽な姿だった。
走馬灯というものが見えてくる、眠たいさなか、チカチカとランプをともしながら駆け回る。
家族を残して出稼ぎに出たのにお金ばかり送って、休日や連休に帰るどころか連絡は皆無だった。家族に捨てられたと思っていた。でもそれは、わたしが連絡しなかったからでもある。対人恐怖症になったのだったのだって、下を向き小さな声でぼそぼそと呟くがために、それを気に入らない上司がこっぴどく叱ったからだ。叱られても尚、わたしは大きな声で挨拶もできなかったからだ。
友人は、友人だって、わたしに近寄ってきたってわたしが受け入れなかったからだ。
今になって分かる、にせものの孤独と絶望。いくらでもわたしは人にかこまれていた。
この木は神様なのか?
それともおまえか、てんとう虫。
「会いたいなあ」
神様ではなく、あなたたちに。
遠くで救急車とパトカーのサイレンが聞こえる。あれに、神様は乗っているのだろうか。
綺麗な走馬灯をみながら、彼は滑稽な姿でひと時の眠りについた。
(深海魚とは落ちこぼれの隠語だという話を聞いて)
神様と深海魚とてんとう虫。
高校生くらいに書いたやつ。恥さらし。