Parallel Mail【36】

もし「もし」が叶うなら、あなたは何を願いますか?

そんな力を手にした一話完結の物語です。

『もし』あの時ああしていれば
『もし』あの時こうしなければ
人は誰しもそう後悔する生き物です
でも、本当にそうなった時あなたは何を願うのでしょう?


【プロローグ】
初恋の相手は幼稚園の時の先生。年上だから好きという言葉も出さずに卒業してしまった。
初めて告白されたのは中学の時の後輩の女の子。実はこっちも好きだったけど男友達に反対されたから振ってしまった。
一番人を好きになったのは高校のクラスメイト。彼女は地元に僕は上京、何も言わずに離れ離れに。

『同窓会にご案内』
平日なら参加できなかったが、今年はゴールデンウィークの初日にあってくれて助かった。地図が印刷されたはがきをスーツ上着ポケットにしまいこんだ。仲森高校同窓会、と書かれた紙が貼られたドアの前でもう一度自分の姿を確認する。
「お前、宏(ひろむ)か?」
後ろからする聞き覚えのある声で振り返る。
「・・・やっぱり真人か。」
年相応になったが老け顔と『兜真人(かぶとまさと)』という名前負けが印象的で、13年ぶりでも名前が直ぐに出てきた。
「お前変わらないな~!」
お前の方こそ、と肩を叩きながら久しぶりの再会を分かち合う。
「ほら入った入った。みんなお待ちだぜ。なんてったってうちのクラスでの出世頭なんだからな!」
昔と変わらずムードメーカーブリを発揮して背中を押されながらドアの向こうの懐かしい雰囲気に飛び込んだ。

「じゃあ千田(ちだ)くん今院長なの!?」
「いや、だから院長『候補』ね。実際なるのは大変なんよ。」
きゃっきゃわいわいと周りに元クラスメイトの女子たちが騒いでいる。いかんせん地元就職が多かったので大卒の医師は珍しいのだろう。
「ねぇ、電番交換しようよ!」「これうちの名刺!」
高校の時にはあまり話したことのなかった女子たちも今や母親や仕事盛りのサラリーマン、『学歴』『収入』に食いついているんだろう―と冷静に分析できてもやはり注目されるのは嬉しい。真人の連れ出しのおかげでなんとか抜け出したが。
「やっぱり将来性があるやつはモテるなぁ。」
会場を出てトイレに向かう廊下でそうつぶやく。
「そんなんじゃないでしょ。モテるというより知り合いになりたいっていう気持ちでしょ。」
宏の癖に生意気だ、と顔をクシャクシャにして笑いかける。やはりこいつの変わらない接し方にホッとした。13年経っても変わらないものが実感できた。
「そういえば羽佐田(うさだ)は今日来てないのか。」
用を足した後の洗面台で鏡越しに真人を見ると、洗っている手が止まる。自動の水も止まった。
「そうか、お前知らないのか。」
頭にハテナが浮かぶ。大抵こういう言い出し方の続きは想像できる。遠くに住んでいるのか、海外にいるのか、あるいは―
「先月亡くなったよ。葬式も身内でしかやってないから知らなくて当然か。」
予想の斜め上をいった。二人だけしかいないトイレに無音が充満する。

放課後の教室で俺が勉強していた時にドアが開く音がした。
参考書から顔を上げると目の前にクラスメイトの彼女。夕日のせいか時間のせいか、ほとんど話したことのない彼女の顔は悲しそうだった、となんとなくわかった。ただただ彼女の声にならない愚痴を聞くことしかできなかった俺は、結局その日の参考書をそれ以上進められなかった。
それからちょくちょく俺の前の席に缶コーヒーを片手に彼女が座り、彼女の話を聞く日々が続いた。元彼のこと流行っているドラマのことその日の授業のこと。彼女が話す言葉の端々に彼女らしさを感じ、それを心地よく感じるのに時間はかからなかった。
だけど俺は俺の気持ちをこれっぽっちも伝えぬまま、いや、言葉もろくに伝えることなく卒業してしまった。彼女に何かを言うことは無理だと思ったし、それは俺らしくないとも思った。

そんなことを考えながら2次会のカラオケで『十五の夜』を熱唱していた。
「お前珍しいな~。酔ってるな~。」
何を言っている、失礼な。俺は生まれてこの方酔ったことなどない!
「何言ってるかわからないよ~。」
真人も含めた男子たち数人での悲しい2次会だ。そしてどうやらさっきの考えも言葉として出ていたらしい。酒は怖い。
「本当にお前が羨ましいよ~。俺もちゃんと勉強しときゃよかったわ~。」
あぁそうか、俺はお前みたいにもっとチャラくいきたかったよ。
「そんなんなんにも役にたちゃしないよ~。備えあれば憂いなし、ってな~。」
キィーンと耳障りなハウリングの音。いや、耳障りなのはこいつの言葉か。
「・・・憂いだらけさ。」
彼女に何も言えなかった自分が、言おうとしなかった自分が許せなかった。
「もし、もしが叶うならなぁ。」
酒臭い息と一緒に吐き出した言葉が出た先から後悔へと変わる。
「あ~ん?なにもしもし言ってるぁよ。電話かよ~。ん?電話、りんりん、そうだ次『リンダリンダ』歌おうぜ!」
「くだらん!」
くだらない真人の提案を足蹴にしながら、卓上リモコンに『THE BLUE HEARTS』と入力した。


【一日目】
「・・・はぁはぁ、二日酔い。」
痛いと言っても痛いのは取れないのはわかっているが、思わず口に出してしまった。まだ体内のアセトアルデヒドが分解されていないようだ。
部屋を見回すと男三人がソファーで雑魚寝していびきをかいている。幸い誰1人吐瀉物まみれのものはいない。
「・・・5月4日、朝8時・・・。」
携帯を開きながら独り言が出てきた。まぁ周りの連中はどうせまだ寝てるだろ。しょうがない、こいつらのために下のコンビニで朝飯でも買ってくるか。
立ち上がり寝癖を直すと、右手に持った携帯が光っているのに気づいた。メールの着信だ。
「・・・ふぉん!?!?」
どこから出たのかとんでもない声がでた。でもそれも仕方ないだろう?だって差出人が―
「羽佐田葉子(うさだようこ)、っておい!」
死んだと聞かされた人からメールが来たのも驚いたが、携帯に登録されているのに何よりも驚いた。おおお落ち着け、とりあえずメールの文面を確認だ。

昨日は久しぶりだったね。また二人で話したいな。いつでも連絡チョウダイ!

スクロールすると見知らぬ写メが。そこには無愛想な顔の俺と満面の笑みの真人、そして二人に挟まれた少し小柄な茶髪の女の子が―
「うるせぇなぁ~、寝かせろよ~。」
隣の真人がゴソゴソと起き上がる。
「おい!真人!こいつ誰だ!?」
写メを見せながらまくし立てる。眠そうな目を開いた真人はめんどくさそうに一瞥し、再び寝に入る。
「誰って~ウサダだろ~。後でその写メ送っといて~。」
・・・うん、落ち着こう。冷静に沈着に、とりあえず素数でも数えるか?いや、それはそれで面倒だ、取り敢えず落ち着いて買い物に行こう!
部屋の隅にかけてある上着を羽織り、玄関から逃げるように飛び出した。

エレベーターを待つ間携帯のメール画面を見ていると、羽佐田の前に見知らぬメールが着ていることに気がついた。返信済みのマークもある。

『もし』あの時ああしていれば・・・
『もし』あの時こうしなければ・・・
そんな願い、叶えて見ませんか?

そんなあなたに三日間だけのチャンス!
ルールは三つ。
一つ、このメールにあなたが変えたい『もし』を返信してください。
曖昧でも構いませんが、文章通りの結果になりますので正確に書くことをお勧めします。期限は本日いっぱいです。
二つ、『もし』の世界を体験できるのはメール送信を行った次の日からの三日間。三日目の夜に継続するか否かの確認メールをお送りします。継続を希望しますとそのままその世界に、希望しないと元の世界に戻ります。
三つ、新しい世界でこれらの事実を伝えられる人間は一人だけ。それを破ればペナルティを与えます。
以上が必要最低限のルールとなります。その他に関しては質問を受け付けておりませんのでご了承ください。
Presented by Parallel Mail


読み終えたと同時に昨日の自分を思い出して返信の内容が容易に想像できた。エレベーターを降りてコンビニに向かう。返信メールを確認すると、たった一文。
「もし羽佐田葉子が生きていたら。」
信じるとか信じないとかそんなんじゃない、だって知らない間に叶ってるんだもの。
疑う余地のない事実を前にして、俺は冷静にオニギリとパンとお茶をカゴに入れていた。

部屋に戻るまでの間に冷静さを取り戻した俺は、改めて今の状況を確認した。そして出た結論。
よかったじゃないか。
人の命は運に左右される。職業柄色んな命の救いと散りを見て来たが、それらは全て運だ。
直ぐに救急車を呼べるという運。渋滞せずに病院に着く運。名医がいる病院に運ばれるという運。当直の医者の運。もちろん俺の目の前に来た患者の命は何が何でも治す。しかし俺の元に来れない人の命が散ってしまったら、それは運がなかったと言わざるを得ない。
だから彼女が死んだのは運が悪かったわけで、それを拾えたのは運が良かっただけだ。そんな事を彼女のメールを読みながら思っていた。不思議と二日酔いは冷めていた。
「よかったよかった。」
むさ苦しい男たちが寝静まる部屋の端で携帯を閉じた。
「・・・また逃げるのか?」
閉じた携帯を見つめる。きっと彼女から今日はこれ以上メールが来ないだろう。そしてこれから先も連絡先を交換した事実が携帯に残るだけ。
「・・・酒の力凄いねぇ。」
誰かに想いを伝える。アルコールに任せていつもは自分がしないような暴挙は、この十何年間自分が一番したかった事じゃないか?
「いや、まだ酔いが抜けてないんだ。」
そう自分に言い聞かせてシャワーを浴びに行った。

「全く!なんで昨日の今日なのよ!」
シャワーを浴びた後二日酔いの男たちを朝食と共に追い返した俺は、彼女を喫茶店に呼び出していた。時計はすでに午後の3時を回っている。そう、多分まだ酒が抜けてないんだ。
「あぁ、ほら、昨日あんまり話しできなかったじゃん?」
写メで見たドレスとは違い上は春らしい色のワンピース、下は動きやすいデニム姿。髪は茶髪の長髪を短く纏めている。久しぶりに見た彼女は想像の斜め上を行くこともなく、綺麗にそのままの成長を遂げていた。
「まぁ確かにね。あの後みんなでカラオケでも行ったの?」
「まぁ、ね。」
朝から声が枯れ気味なので、恐らく彼女が生きていること以外は同じなんだろう。改めて彼女を誘わなかった違う世界の昨日の自分を悔やんだ。
ムギュ
頬を思っ切りつねられた。
「何を難しい顔してんのよ。せっかくこんなに美人になった同級生をデートに誘っておいて。なんか悩み事?」
相変わらず笑った時に見えるえくぼ。改めて自分が惚れていたのを実感する。
「・・・いや、なんでもない。それより今日は予定ないの?」
う~ん、と声にならない返事をする。俺の席にあるコーヒーカップを持ち上げてみると、そのまま返した。
「じゃあさ、買い―」
「連休だからセールとかやってるよね!せっかくだから付き合ってよ。」
・・・はぁ、またこのペースか。

十数年振りに会う彼女は相変わらず俺を引っぱりながらデパートを回った。夏服のセール、ブランドバック、アクセサリー。まわるまわる俺の意見を聞くが、そのどれも買おうとはしない。まるで自分を紹介するかのように、俺の気を使いながらウィンドウショッピングを楽しんでいた。
結局デートが遅かったので、夕飯も近くの居酒屋で済ませることになった。
「買わなくてよかったの?」
ここに来る直前の店で一番時間がかかっていた。確かあれはデパート一階の化粧品コーナーだ。
「いいのいいの。」
化粧っけが極端に少ない顔を見ていると、自分を意識されていないと改めて痛感する。下地が悪くない分、ちゃんと化粧をしたら見違えるだろう。
「それより宏の方こそ楽しかったの?男ものほとんど見なかったけど・・・。」
ここで「お前がいればそれでいい」みたいな歯が浮くセリフを言えればいいんだけど。まぁ、それが言える性格だったら後悔もなかっただろうからなぁ。
「久しぶりだったし楽しめたよ。」
精一杯の強がりの言葉。でも、やっぱり彼女は笑顔で返した。
「さぁ、デザートも食べたし帰ろっか。」
「・・・そうだね。」
五月なのに外は寒く感じた。俺は地下鉄で、彼女はタクシーで実家の方に向かう。つまり、ここでお別れだ。
「あんなぁ、羽佐田。俺なぁ―」
「じゃあ、またね。」
駅の近くにあるタクシープールに歩いていく羽佐田の背中は、「話かけないで」と抵抗されているようだった。俺の感情を察して傷つけないための配慮か、それともただの拒絶か。どちらにせよ振られたらしい。
「まぁ、大きな進歩じゃないか。」
地下鉄に降りる階段で独り言で慰める。そう、酔った勢いでよくここまでやった。結局、過去を変えても何も変わりゃしないじゃ―
踵を返して階段をダッシュで駆け上がる。
過去を変えても、未来は変わりはしなかった。だからって、逃げる理由にはならない。
階段を登り切って短く一息つくと、彼女が歩いて行った方向を見る。
だから信じるんだ、自分の力を。それが「逃げない」っていう、後悔しないことだ!
タクシープールを見回したが、彼女は見当たらない。
長い長い二日酔いの結果がこれか。やはりアルコールの力は怖い。
やっと見つけた彼女は、道路の端でうずくまっていた。一気に酔いが覚めた。


【二日目】
「ありがとうございます、理崎(りざき)先生。」
黒木病院の緊急病棟にある公衆電話で理崎医師から一通りの説明をされた。気づいたらもう外は明るくなり始めている。
『まぁ、構わんさ。それより、私情を挟むなよ。』
無理だ、と言い切りたかったがその言葉を飲み込んだ。今の自分は医師として情報を頂いたのだ。
「わかりました、ではまた。」
ガチャンと電話を切った音が廊下に響く。いつもこの時は緊張するが、今回は格別だった。
それでも昔取った杵柄、いやむしろ職業病か、彼女の病室に向かう足は重くはなかった。病室を軽くノックして中に入る。黒木(くろき)医院長の計らいで個室を用意して貰えた。後でご挨拶に行かなくては。
「おはよう、ひろむ。」
部屋の真ん中にある白いベッドに横たわる羽佐田。いつも思う。なぜ病室のベッドに横たわる患者さんは誰でも神々しいのか。内側が蝕まれてなお、なぜそんなに強く見えるのか。
「起きてたのか。」
彼女もそうだ。何故こんなに強くいられる―いや、強く見えるのか。
「うん、ぐっすり寝たらすっかり良くなった。なんか疲れてたのか―」
起き上がろうとする彼女を無理やりベッドに戻す。来客用の丸椅子で隣に座る。
「原因は極度の疲労と栄養失調による立ちくらみ・失神。すぐに動かない方がいい。」
すごーいお医者さんだ、と茶化すように言う言葉も今ではその裏側が見えてしまう。
「っていうか栄養失調とかなるんだね。私そんなに痩せてないのに。」
「読んで字の如く、栄養が足りない訳だからな。偏った食事、不十分な食事してたら倒れる。それよりも深刻なのが―」
ピクリと彼女が反応する。やはり気づいていたか。
「さっきお前の会社のかかりつけ病院に念の為に連絡を取ってみた。健康診断うけたろ?精密検査の要請が出たらしいな。」
そのかかりつけが理崎病院だ。本当に特例だが、カルテの一部を教えて貰えた。
「・・・そういえば着てたね。私医療知識ないから気にしてなかった。」
もう、苦しいよその言い訳。
「胃の内視鏡検査、血液検査、レントゲン検査。ネットで調べりゃすぐにわかるだろ。」
本当は俺の役目じゃない。でもここで言わなきゃ彼女がまた・・・。これもきっと運なんだ。
「胃癌の可能性がある。」
もっと早く気付くべきだった。何故あんなに毎日のように飲んでいたのに、喫茶店でコーヒーに手をつけなかったのか。
「コーヒーのカフェインは胃癌に悪いと言う説もある。まぁ医療的根拠はないが、その気持ちがお前をそうさせたんだろ?」
静かに、そして無言で俺の顔を見ている。そんな彼女の顔に化粧っ気がないこともまた気にかかった。
「なんで放っておいた?」
「・・・。」
「お前は今どんな奴とつるんでるんだ?」
言うつもりのなかった言葉が口をついた。
「・・・はぁ、やっぱり隠せないか。」
逸らした目線の先には、ベッド横のラックに置いてある携帯電話。彼女のものだ。
「もしかして電話があった?」
「あぁ、夜中に何度もな。だから悪いと思いつつ、でさせてもらったよ。」
『縁太一』という着信音を取ると、お世辞にも頭がいいと言えない若い男の声、しかも酔っ払っていた。聞くと羽佐田の彼氏だと答えた。しかたなく羽佐田の現状を話すと―
「何て言ってたか当てたげよっか。」
「・・・。」
「『あいつ死ぬのか?お金は?』とかでしょ。」
無言の肯定に彼女はまた笑った。でもいつもの笑顔よりも辛い、苦笑いだ。
「そんな悲しい顔しないでよ。えんちゃんはいつもそんな感じだもん。」
何故そんな相手をちゃん付けで呼べるのか理解ができなかった。何て返せばいいか、もう応えきれない。
「私って昔っからこうなんだよね。付き合う男はダメ男ばっか。」
浮気性、DV、ギャンブル・・・と口ずさみながら指折り数えて行く。なんでそんな顔で、なんで笑っていられるんだ。
「・・・ふざけんな!」
耐えられなかった。叫んでいた。病室で叫ぶことも、患者に叫ぶことも、ましてや他人に叫ぶことも初めてだった。案の定彼女は目が点になっている。
「そんなのただ逃げてるだけじゃないか!自分が嫌われるのが怖くて、自分が捨てられるのが怖くて!」
全然性格が違った彼女も、俺みたいに逃げていた。周りが求める自分になるように、ただ、逃げて後悔ばっか。だから言う、昔の自分に対して。
「・・・もう、逃げなくてもいいじゃないか。お前には、お前のことを全部受け入れる奴がいるから・・・ここにいるから・・・。」
情けない言葉、絞り出した言葉、裏返ってしまった言葉。でも彼女はなぜか笑っていた。今まで見たことのないような本当に綺麗な笑顔だった。
「・・・例え病気で先が長くないかもしれない私でも?」
なお一層神々しくなった彼女はそう言った。もう酔った勢いだ!
「もちろん!」
「抗癌剤で髪の毛なくなっちゃうかもよ?」
「医者なめんな!」
「あなたに触れることもHもできないかもよ?」
「・・・あぁ!」
ワンテンポ遅いわ!、というツッコミが入った。思わず今を忘れて笑いあってしまう。白い部屋に二人の笑い声がこだました。
「ふふ、初めてだよ。宏の気持ちが聞けたのは。」
そりゃそうだ、言ったの自体初めてだもん。
「あぁ~あ、もっと早く宏の魅力に気づいていればね~。」
「そりゃ随分と深い後悔だな。」
さてと、黒木院長に挨拶してくるか。立ち上がろうとすると腕を引っ張られた。
「・・・ねぇ、チューしよ。」
照れた顔もかわいいなおい!そっと顔を近づけて口付けを交わす。唇が離れたとき、彼女の携帯が震えた。


【三日目】
「きゃ!」
暗闇の中で声が聞こえた。眠い目を開けると、どうやら葉子が大きな声を上げて飛び起きたようだ。ラックの電気スタンドをつけると、困惑した顔でこっちを見ている。
「はわぁ~ん。どうした?」
「・・・ううん。ねぇ、今日何日?」
何日って・・・。枕元の携帯を開いた。5月6日6時58分。眩しい。
「5月6日・・・ってまだ7時じゃんか。連休最終日なのに~。」
布団に包まって葉子をみると驚いたような顔でこっちを見ている。なんだ、俺の顔になんか付いてるか?
「何?変な夢でも見たの?」
「・・・ううん、何でもない・・・。」
さっきからキョロキョロと周りを見ているが俺らの部屋がそんなに気になるか?
「ほら、しっかり寝なよ。また体壊すよ?」
ビクンとなって急に詰め寄ってきた。寝起きの顔もかわいいなおい。
「ねぇ、私最近体調悪かったっけ?」
「はぁ?そんなん―」
何を言ってるんだこいつ?頭おかしくなったか?でも真剣そうに俺の顔を見ている。たしか―
「寝不足、冷え症、化粧のノリが悪い、毛先が痛んでるし体重だって―いって!」
いきなり叩かれた。
「ごめんごめん。ほら、こっちおいで。」
布団を開いて葉子のスペースを作ると、渋々隣に寝転がる。照れているのか顔がほんのり赤い。
「ねぇ、私ね、実は宏に言わなきゃいけないことがあるんだ。」
ラックに乗せた彼女の携帯が震えた。

【三日目】改め《一日目》

Parallel Mail【36】

読んでいただきありがとうございます。
よくよく考えてみるとタイムパラドックス的なことが起きてるみたいですが気にしないでださい(笑

不覚にも2話連続で恋愛ものになったので、次回は路線を変更していきたいと思います。
これを読んでくれている方、心待ちにしてくれる方が一人でもいれば幸いです。

Parallel Mail【36】

「もし」がかなってしまった主人公が試行錯誤する三日間。 ※題名横の数字は話数ではありません。一話完結なので気軽に見てください。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-08

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