君と見た星空
戦国時代の越後を舞台に書いた恋愛小説です。最初は上杉謙信か竹中半兵衛にしようかと思ったんですが、謙信の甥の景勝にしました。景勝は史実通り無口ですがきっと優しい人だなって。戦国時代って輝いてますよね。
戦国武将と恋愛
この学校の夏休みは長くもなく短くもない。春日氷雨はこの学校に通う高校二年生である。氷雨は戦国武将が好きで、休み時間になるといつも戦国武将と話す妄想をする。上杉謙信と話す妄想や武田信玄と漫才をする妄想も…。しかし、氷雨は友人には戦国武将の話しなどやらなかった。何故なら恥ずかしいからだ。友人たちとは今流行りの服とか音楽を話題にしている。友人たちと話すのは楽しい。氷雨も友人たちと話すのは好きだ。しかし…氷雨は話題についていけなくなり寝てしまった。
それから…氷雨の瞼は閉じられていた。
「おい…そこの女。目を覚ませ。」
氷雨は誰かの声に気づく。男の声が聞こえた。凛とした鈴の音に似た綺麗な声。氷雨は眠りから覚めて声のするほうを見た。そこには愛の文字を象った前立ての兜を被った武将が氷雨の前にいた。その武将は目鼻立ちが整っていて若い。20代前半か。
「誰?あなたは?」
氷雨は目を擦りながらその武将に聞いた。確か二年くらい前の大河ドラマに出ていた武将だろう。真田幸村だろうか?石田三成?氷雨は一生懸命頭を働かせる。自分の知っている戦国武将の名前を挙げていく。しかし、この武将は思い出せない。
「それより…女子のなのにそのはしたない格好は何だ?」
愛の兜の武将は氷雨のスカートを指差す。え?氷雨は武将の指差した方向を見る。
「きゃ!」
氷雨はスカートを見てびっくりした。何と氷雨のスカートが捲れていたのだ。下着が見えそうなくらいで危ない。
「今、気づくとは御主も馬鹿ではないのか?」
氷雨はスカートが捲れていた事に気づき、頬を赤くした。
「うっ…。」
武将は氷雨のスカートの右端を掴む。何をするつもりだろう?
「すまん。話が逸れたな。儂の名は直江兼続だ。越後の領主の上杉景勝様に仕えている。」
「あの…冗談ですよね?直江兼続さん?」
武将の名前は直江兼続という。氷雨は直江兼続の存在を今ここで分かった。史実なら徳川家康に喧嘩を売った手紙を送ったらしいが本当かどうかは分からない。直江兼続と名乗るこの武将は今…ドラマの撮影をしている俳優なのだろう。氷雨は戦国無双や大河ドラマをよく見るが…。
「あの、スカート摘まむの止めてくれません?」
氷雨は直江兼続?にそう言う。直江兼続?は怪訝そうに氷雨を見た。
「分かった。離してやろう。だが…お前の様な奇抜な服装の女は見た事がない。景勝様は無口だが…お前の様な変な女を見たら驚く事だろう。」
氷雨は直江兼続?の言っている事が嘘に見えた。この人は氷雨を馬鹿にしているのだ。直江兼続の役をしている俳優に違いない。
「あの…あなたこそ変な格好じゃないですか。私を変とか、あなただって兜と鎧着て…ドラマの撮影に出てるんでしょ?直江兼続とか言って私に冗談を。」
氷雨の言葉に直江兼続?は突然きれた。直江兼続?は怒っていた。
そして刀の鞘を掴んだ。氷雨はそれに驚く。
「このアマ!儂は直江兼続だ!正真正銘のな!」
氷雨はそれを見て恐くなった。武将に斬られるなんて事になったら…。直江兼続?は憤怒の形相で氷雨を睨む。
「刀も本物なの…?」
氷雨は恐る恐る聞く。氷雨の答えに直江兼続はイラついた様に鞘から刀を抜く。刀は作り物ではなく正真正銘の日本刀だった。切れ味が凄そうな刀だ。
「そうだ。下手をすればお前を斬るかもしれん。」
直江兼続は氷雨に刃を向けた。氷雨は身体を小刻みに震わせる。怖い…。やはり本物の直江兼続だったのだ。氷雨は自分が殺されるかもしれないと思い泣いた。涙が頬を伝う。やはり、武将は怖い。
「おい、直江。女の子泣かせるなんて最低だな!」
飄々とした声が氷雨の隣で聞こえた。
「フン。そこにおったか。甘粕。」
兼続は吐き捨てる様に呟いた。
「こんな可愛い娘泣かせんなよ。ほら、可愛いじゃねぇーか。」
自分のサラサラとした長い髪が誰かに触れらている感触がした氷雨は驚く。自分の右側にアフロ頭の武将がいたのだ。アフロ頭の武将は氷雨の右肩にそっと手を置く。
「ほら、泣かなくていいよ。直江は短気なんだから無視しろ。」
アフロ頭の男は氷雨のブラウスの第一ボタンに触れる。
「直江ー。女の子の胸見るか?」
アフロ頭の男は氷雨のブラウスのボタンを外していく。
氷雨は自分がこの男にされている事に気づき、恥ずかしさと怒りを覚えた。
「もうっ!私を脱がそうとしないでっ!変態!」
氷雨はアフロ頭の男を往復ビンタした。アフロ頭の男はビンタを食らい、情けなくその場にへたれた。それを見た直江兼続は苦笑いをする。
「甘粕…。女子の扱い方に慣れてないようだな?」
氷雨はブラウスを直しながら溜息をついた。
「サイアク。男にこんな事されたのはじめて…。」
溜息をつく氷雨を見た兼続は突如こう言った。
「さっきはすまんな。儂がやりすぎた。お前、もし帰るところがなければ儂についてこい。」
氷雨はどう答えていいか分からず頷く。
兼続は越後の春日山城まで氷雨を案内した。もちろん、あのアフロ頭の甘粕景継もいる。氷雨は兼続の後ろに隠れたり、甘粕とお喋りをしたりした。兼続が仕えている越後の領主上杉景勝はあの名将上杉謙信の甥だという。謙信が亡くなってしまい…今の越後の情勢は不安定だという。景勝は普段あまら喋らない無口な殿様だというが…。
「直江殿…。こちらの女子は?」
髭面のサムライが兼続に尋ねる。
「ああ、こちらは景勝様の許嫁だ。」
兼続は額に汗を掻きながら答えた。氷雨は兼続の答えに疑問を持つ。
「ちょっと…兼続さん。」
自分は上杉景勝の許嫁にされてしまった。何故だろうか。
「いいか?景勝様の前で大人しくしていろ。」
「はい。」
「直江…。私に許嫁らしき娘が来たというのは本当ですか?」
凛とした声、整った女性の様な顔立ち、品のある口元ー。女性の様な顔立ちの領主は上杉景勝だった。美しいと氷雨は景勝を障子の隙間から見て分かった。
「はっ。殿に相応しい娘でございます。」
景勝は少し躊躇うような素振りを見せた。
「困りましたね。武田のほうから菊姫が私と夫婦の契りを結ぼうと誘いが来て…。」
菊姫とは甲斐の領主武田信玄の娘である。菊姫は甲斐では美人といわれるくらい美しい。武田勝頼は菊姫の弟にあたる。
「大丈夫です。あの娘は菊姫よりも殿に相応しい。」
兼続は主君にそう促す。
「おい、氷雨。出てこい。」
兼続は障子の向こう側にいた氷雨に聞こえるように言う。氷雨はあたふたした。どうしよう…兼続さんが息抜きしろとか言って靴下脱いじゃった。裸足なのはなんかまずい。それに制服なのも。
「ごめんなさい!」
氷雨は思いきり障子を開けた。氷雨を見た景勝は思わず笑った。
「あの…私。変ですか?」
氷雨は恐る恐る景勝に尋ねる。
「いえ。面白い娘ですね。」
「は?殿?」
兼続には景勝の笑いのツボが理解出来ない。
「急に飛び出すとは可愛らしい。」
景勝は立ち上がり、氷雨のほうへ近づいてきた。氷雨は戸惑う。男の人が近づいてくるのははじめてだからだ。
「兼続さん。」
氷雨は兼続の後ろに逃げた。しかし…兼続は氷雨を景勝の目の前に移動させる。
「殿を見ろ。お前を気にいったらしい。」
景勝は氷雨の頭を右手で撫でた。氷雨は恥ずかしくなり俯く。
「氷雨ですか。可愛い名です。」
氷雨は頭が逆上せてしまった。景勝が近づいてきたのが少し怖かった。氷雨は隣にいる景勝を見た。景勝は氷雨を見つめ続ける。そして、氷雨の右頬に触れた。
「そんなに怯えないでください。甘粕ならあなたを襲ってたかもしれませんよ?」
「怯えてない。」
氷雨は裸足なので寒かった。それに首筋がやけに熱い。熱いのでブラウスを脱ごうかと思ったが景勝が男なので止めた。
「氷雨?顔が赤いですよ。熱でも?」
心配そうに美しい顔を曇らせた景勝は氷雨に尋ねる。
「大丈夫です。」
氷雨は素っ気なく答えた。景勝は氷雨の長い髪を一房掴んだ。
「菊姫が来る前に私とやりましょう」
へ?と氷雨はわけが分からず景勝を見つめる。景勝は氷雨のブラウスのボタンに触れる。
「景勝様?」
氷雨は景勝に服を全て脱がされた。露わになった氷雨の肌は冷たい。景勝も服を脱いだ。景勝は氷雨の露わになった肩に口づけをする。景勝の肌は雪の様に白く、綺麗だった。景勝は氷雨の身体を隅なく触れていく。二つの裸が一つになる。氷雨は身体中が火照り泣いた。
「泣かないで、私の可愛い小鳥。」
景勝は氷雨の涙を指先で拭う。氷雨の頬に触れ、首筋に触れる景勝の手は優しかった。氷雨は景勝の胸に顔を埋めた。景勝は氷雨の頭を優しく撫でた。氷雨はいつの間にか眠りに落ちていた。
「水無月、任務を遂行するのだぞ。」
北条氏政は美しい忍びの女に命令する。忍びの女は美しい顔を上げながら、答える。
「上杉家で起きた後継者争いで確か景虎様が命を落とされて…無念ですね。」
氏政はイライラした様子で叫んだ。
「おのれ、上杉景勝め…。我が弟を殺めておきおって!良いか、水無月よ。越後に侵入し景勝を暗殺せよ。」
「わかりました。必ず、景勝の首を殿に届けます。」
忍びの女は妖艶な笑みを浮かべる。
氷雨は布団で横になっている事に気づいた。氷雨は欠伸をして、寝癖を手櫛で直す。
隣を見ると景勝はいなかった。氷雨は自分が生まれたままの姿で布団で寝ていた事に気づく。自分は昨日の夜…景勝と寝た。氷雨は胸元を毛布で隠す。とりあえず着替えたい。氷雨は布団の横に置いてあった黄色い着物を身につけた。
「殿ー。どうすんだよ。武田が織田信長に喧嘩売っちまったらしーぜ。」
甘粕景継は半泣きしながら景勝に言う。
「武田勝頼は確か信玄の後継者らしいな。しかし、信長と戦うのは無謀だ。」
直江兼続は呆れた様に景勝に言う。しかし、景勝は答えない。普段は無口なのだから。
「戦の世が早く終われば良いのだが。信長の天下は儂も望めない。」
「俺だって信長の天下なんか望んでねぇ!」
景勝は二人の話を聞いて少し動揺すれ素振りを見せた。
景勝は黄色い着物を着た氷雨を見て笑った。
「似合ってますよ。氷雨はやはり可愛らしい。」
氷雨は恥ずかそうに景勝を見た。
「景勝様って冗談が上手いんですね…。」
景勝は笑いながら氷雨の頬に触れる。
「今日は城下で祭りがあります。氷雨も私と出かけますか?」
氷雨は祭りにはあまり行った事がない。幼い頃に神社の夏祭りに行った記憶しかない。景勝と歩いたら恋人同士に見えるだろうか?
「行きます。景勝様と是非!」
「良かった。私も氷雨と二人だけで行きたいです。」
氷雨は景勝と手を繋いで祭りの屋台を見た。平成の時代と売っているモノは変わるが。綿飴やイカ焼きの屋台もあるし、何せ値段はそこそこ安い。氷雨は景勝の浴衣の袖を引っ張った。
「ねぇ景勝様。あの簪可愛い。」
氷雨は屋台にある桜の花を象った簪を指差す。景勝は簪を見ながら言った。
「氷雨はあれが欲しいですか。なら買いましょう。」
氷雨は景勝に抱きつく。
「ありがとう、景勝様。」
景勝は氷雨に桜の花の形をした簪を買った。その簪は綺麗で高価なものだ。
「良かったら私が氷雨の髪に差しますか?」
「あ、待って。髪結ばなきゃ。」
氷雨は髪をお団子ヘアに纏めた。
「はい。もういいよ。」
景勝は氷雨の髪に簪を差した。氷雨は今日、景勝から貰った下駄と簪を一生大切にすると決めた。景勝は優しい人だった。
「氷雨、私はあなたを好いています。」
景勝は頬を赤くしながら氷雨に告げた。
「私も景勝様が好き。」
氷雨は景勝にそう告げる。
それをみた忍びの女水無月は景勝を暗殺するのを止めた。水無月は相模に帰ったという。景勝と氷雨は寄り添いながら花火を見た。
氷雨は思った。もう戻れなくてもいい。だって自分には好きになった人がいるのだから…。景勝とずっと一緒にいられるから…。
君と見た星空
結局、氷雨は戻ってきませんでした。景勝と幸せになれて良かったと思います。戦国時代に興味があって武将のエピソードも勉強しました。私が好きな武将は石田三成です。義に生きた人でかっこいい。戦国武将は色んな人がいます。