苦渋の戦士
核兵器の使用が危惧されるような国家間の対立が表面化する事態は今のところなかったが、あたかもその代理戦争であるかのような局地的紛争は世界のあちこちで起きていた。
当然その戦闘形態に沿った兵器の進歩は止まず、遂に極東の技術先進国で戦闘強化服が実用化された。
開発者たちはかつての郷愁をこめ、その人型有人兵器に「機動戦士」と名付けた。
機動戦士は数体作られ、演習では驚異的な実力を発揮した。
上層部の評価も満点で、予算は拡大され、さらに数体が開発された。
勿論、一台ごとに改良が加えられ、制約のない環境を与えられた開発者たちは次々に強力な機体を産み出していった。
便宜上、個々の機体にはシリアルNo.が与えられ、最初の機体である「機動戦士1」から現在は「機動戦士9」までが実戦に投入されていた。
つまりNo.が性能の高さを相対的に意味している事実は敵軍も認知しており、機体の正面と背面に付いたプレートに刻まれたその数字が上がっていく度に、彼等は震え上がった。
まさに、「名は体を表す」という格言を、機動戦士部隊は具現していた。
そして、それまでのノウハウが結集された最新の機動戦士が完成した。
その性能は過去の機体と一線を画しており、戦局を圧倒的に優位にするであろうと思われた。
ただ、非常に些細な問題が開発者の間で起こっていた。
「どうすんだよ名前」
「だから0でいいじゃん。なんかかっこいいし」
「いやふつう10だろう」
「それじゃだめなの。全角じゃないと」
「じゃ半角にすりゃいいだろうが!」
「だからだめなんだって。兵器省は全角で登録してんだから。半角に変えるなら申請しなきゃ」
「めんどくせえな役所仕事は全く。じゃ全角で1と0並べればいいんだろ」
「もうプレートにそんなスペースないんだよ。だから0しかないの」
「お前そう言うけどなあ、0になったらなんか逆戻りみたいだろ。性能が下がったみたいな」
「じゃどうすんだよ。文句ばっかいいやがって。代案出せ」
「う。じゃじゃじゃあ記号はどうだ? そうだ!とか。機動戦士!」
「お、いいな」
「だろだろだろ。性能も大幅アップしてんだからうってつけじゃないか」
最前線に送り込まれた機動戦士!はその名の通り予想以上の戦果を示し、敵の本拠地まで迫った。
ただ予想外の問題も起こった。
あまりに飛び抜けた機動力と破壊力を有した機動戦士!は、味方の援軍が追いつかず孤立する事が多くなったのだ。
これでは深追いがイコール無謀となりかねない。
そこで急遽新たな機動戦士が製作された。
開発期間がなかったためほぼ機動戦士!のコピーとなったが、援軍にはそれで十分だと判断された。
しかし、思わぬ落とし穴があった。
前線に投入された新しい機動戦士は、機動戦士!に合流したもののまるで役に立たなかった。
武器を発射するのをやめたり、あるいは味方に武器を向けたり、移動中急に立ち止まったり、頭を抱えて座り込んだりした。
戦況を注視していた指揮官は激怒し、横にいる部下から双眼鏡をひったくった。
そのおかしな機動戦士のプレートには、最新の機種名が刻まれていた。
「機動戦士?」
苦渋の戦士
改題後転載したものです