shy girl

★shy girl 2001.8

サラ=キャージー 気の弱い女子高生
サラ=キャージー 気の強い女子高生

★1

 あたしの名前はサラ=キャージー。
気の弱い高校生で、この16年間彼氏はいない。眼鏡に三つ編みの長いスカート。いつもうつむいて

歩いている。勉強は出来た。体育はからっきし駄目だった。
ドンッ
「気をつけなさいよ!」
「家柄がいいだけで中身はクズなんだからよお」
「そのダサいの移るわ」
「……ごめんなさい」
あたしは立ち上がってとぼとぼ歩いた。
涙のにじむ目で廊下を見つめながら歩く。また人に当たった。
「おいおい大丈夫か?しっかり上向いて歩かなきゃ駄目だって言ったろ」
体育教師の先生だ。
「あ……。先生」
優しくて、若くて、背が高い、とても魅力的な先生は大人気だった。
「ごめんなさい……」
あたしの顔は紅くなっていることが自分でも分かる。あたしは駆け出した。
ドンッ
「……ごめんなさい」
顔を上げる。
「……。あ……」
嫌な人に会った。
サラ=キャージーだ。
「どこ見てるのよ。あたしと同じ名前なんだからしっかりしてよね」
きびすを返して歩いて行く。
彼女はチアリーダーだ。性格もはっきりしていて、お洒落で男子から人気者だ。あたしとは違う……


それでも小学校の頃は仲が良かった。転校してきた彼女。あたしと同じ名前ということで仲良くなっ

て、気の弱いあたしをいつも守ってくれていた。
『あんたのお守りなんてもうたくさんよ。いじけ虫』
中学に入学してすぐ、同じ男子を好きになった。打ち明けたら、そう言われた。
それでからあたしはサラと話してない。
「あら。帰ってきたの。気づかなかったわ」
「ママ……ただいま」
「何か言った?」
「………」
階段を上がる。ドアを開けてベッドに寝転がる。サイドの写真立てを見る。
「……ママ」
あたしのママは死んだ。理由は分からない。パパはすぐに新しいママを連れてきた。
今のママは嫌い。
その横の写真を見る。学園祭だ。先生があたしを撮ってくれた。
その時、いつもの様に先生は女性とに囲まれていた。あたしは遠くにいた。いつもの様に人にぶつか

って転んで……先生はあたしに気づいて駆け寄って保健室まで負ぶってくれた。足は骨折。
『せっかくの日にとんだ災難だったな。病院まで俺が送ってくから待ってろ』
『先生、いいんです。折角先生楽しんでるのに』
ガララッ
『あ!いたいた先生!早く行こう!』
サラ。
『あら。何よあんた先生と2人きりで』
サラがあたしを睨んだ。そして先生の腕に腕をくるませた時にあたしの足を思い切り踏んだ。
『きゃあっ』
『!!』
『ふん。いい気味』
パアンッ
『つっ』
『キャージーは骨折しているんだぞ!』
初めて先生は怒って平手打ちをした。サラは頬を押さえて走って行った。
『あ、』
その時の先生の後悔の顔。
『……後で謝らないとな。どんな理由があるとしてもあんな事して』
先生はあたしをおぶって病院まで送ってくれた。連絡していたママが来た。
『全くこの子、下ばかり見て、だからこうなるのよ。呆れるわね。すみません。先生の手をわずらわ

せて』
『俺の事は気になさらずに。な。キャージー。折角綺麗な顔してるのにもったいないぞ。上見て歩け

ばいい』
そう微笑んだ。
次の日、2日目の学園祭なのに先生は家まで様子を見に来てくれた。その時、拗ねた顔のサラもいた

。でも、改まった顔をして言った。
『ごめん。何も知らなかったからって。良かったら学園祭行こ。車椅子』
その日は3人で回った。サラも昔のサラに戻っていた。楽しかった。その時3人で撮った写真とか、

サラが撮ってくれた先生との写真とか、先生が撮ってくれたサラとあたしの写真。久し振りに笑った

日だった。
『ふふ!サラは笑顔がいいんだから!』
でも……。
『先生、本当に優しいわよね……』
2人になった時があった。先生はあたし達にジュースを持ちに行ってくれていた。あたしの言葉にサ

ラは信じられない事を言った。
『夜も優しいのよ』
そう微笑んだ。
『まあ、あたしが昨日無理やり抱き付いたから成り行きだったんだけど、すごく良かった。誰よりも

ね。やっぱり大人は違うわ』
なおも微笑む。
『……サラ?何泣いてるのよ』
『……ううん。何も』
『ふふ!サラは笑顔がいいんだから!』
………。次の日からサラがあたしに話し掛けて来ても話す勇気をまた無くしていた……。
翌日、学校に向かう。この10年間車での登校。
「行ってらっしゃいませ。お嬢様」
「……ありがとう。行ってきます」
誰もがあたすを見る。ヒソヒソ言う。
「みせびらかしもたいがいにしてもらいたくない?」
「てめえの足で来いっての」
「あんたも車じゃん。今度乗せてよ!」
「あいつの車みてえにキャディラックじゃねえけどなあ」
………。あたしは何度もパパに言ったけど、聞き入れてはくれない。
「ようキャージー!」
「あ、先生……おはようございます」
「おっはよう!よう皆もおはよう!」
「今日体育あるのよね先生。水泳水泳」
「何言ってるのよ。あなたいつも見学してさぼってるじゃない!先生の水着姿ばっか見てさ!」
あたしはその場から逃げる様に走って行った。
「弱虫サラ。いじけサラ。気弱サラ。ドジサラ」
「……サラ」
「あんた、いつまで逃げる気。先生と付き合いたいならそうすればいいじゃない。あたしが力になっ

てあげる」
今日のサラは雰囲気が違った。
「……何で木の上にいるの?危ないわ--」
「さあ。サラ=キャージー。手をお貸しなさい」
ストンとサラは高い木の上からおりた。チアリーダーのサラ。体は柔軟だからって……。
学校の大木だ。
サラはあたしの手を取る。
グラッ
「え、」
バタンッ
「サラが倒れた!」
「え、何?!」
声が遠のく--……
………。

 ………。
目が覚めた。
「ここ」
……サラの部屋。窓とドアだけは同じの小学校に来たきりの部屋。
「一体どういう事よこれ、」
声もサラ。口調も。
「やだ、わけわからない」
スタンドミラーを見る。サラが映っている。
どういう事?あの木の上のサラは……。
ベッドサイドの受話器。
「もしもし。サラ=キャージーはいる?」
自分の家の番号。
「ここはデイラー家ですけど?」
「え?そんな筈ないじゃない。そこはあたしの家よ」
「切るわよ」
ガチャッ
「………」
あたしはベッドに横になる。
コンコン
「サラ、先生がお見えになっているわ」
先生はサラの担任だ。
どうしよう!
かちゃっ
「え!」
自分の声に驚く。それ以上に先生も驚いていた。
あたしはミラーに映っていた姿を思い出した。ランジェリー姿。しかも紫。サラはランジェリー姿で

寝るのだ。中学の海外研修でもそうだった。
「ごめんな」
そういってドアを閉めた。
あたしは服を着る。それでも時間が掛かった。露出度の高い服ばかりだ。
「いいよ」
「ああ。………。何で真夏なのに冬服なんだ……?」
先生の口調や表情がいつもと違う。
「まあ、いいか。調子どうだ?」
ソファに腰掛ける。
「もう大丈夫、です」
「……です?お前頭打ったか?」
手をあたしの額に当てる。
「熱はねえか。良かった」
微笑んだ。あたしは何が何だか分からない。
「いきなり木の下で倒れてたもんな。驚いたぜ」
「サラ、どうなった?」
「?ここにいるじゃねえか」
「違う。もう一人の方よ。眼鏡かけてて気が弱くて、もう一人のサラ=キャージー」
「どうしたって言うんだ?あの学校にはお前以外サラ=キャージーはいねえよ。はは、おかしな事言

うなよ」
どういう……。
「先生。本当にいるのよ!あたしがそうなの!」
「……『先生』って」
先生は顔を曇らせた。
「先生?」
「俺のこと、飽きたのか?」
「え?」
先生はあたしの顔を上目遣いで覗き見る。こんなに近くで見たのは初めてだった。あたしにディープ

キスをしてきた。
悲しそうな顔で一回うつむいて向き直った。
「俺がお前にとっていらねえ男になったなら、まあ、俺も男だ。潔く諦めるぜ。でも理由聞かせろよ


「理由って言われても、ちょっと待って。あたし達、付き合って……るの?」
「おい。大きな声出すな。親にばれるだろ……。何でそんな事言う。2ヶ月前から付き合いだしたん

じゃねえか……」
あたしの頬を優しくさする。
「……あたしの事、本当に愛してくれている?」
自分の耳を疑う。
「その為に女と別れたんだろ。お前がその女の所に殴り込みに行った時は流石だと思ったな」
あたしが……。
「俺はお前だけだ。愛してる。何度も言うけどな。まさかそんな事気にしてたのか?らしくねえよ」
優しいキス。目が霞む。悲しげな笑顔がセクシーに見えた……。
「………」
あたしは声が全く出なかった。
先生はそっとあたしを抱きしめた。
今までの先生の印象が全て消える。こんなに一人の男の人に見えるなんて……。
あたしも先生の背を抱いていた。あたたかい。
涙が出ていた。
「泣くな……。俺がずっといてやるから……」
まるで慣れた様に、優しく先生は言う。あたしは頷く事しか出来ずにいた。
サラ。気の強いサラ。プライドの高いサラ。自信に満ち溢れるサラ。輝くサラ。
何故泣くの。
ねえ、サラ……。
先生はあたしの頭をそっと撫でて帰って行く。
「サラ、どうでした……?」
ドアに耳を寄せる。
「もうだいぶ気分も良くなっているみたいで安心しましたよ!」
「そうですか、わざわざすみません」
サラのおばさんが姿を現す。
「……大丈夫」
「ええ大丈夫よ。悪いわね。心配させた」
おばさんは意外そうな顔をした。
「そ、そう。ふふ。よかったわ」
何かおどおどしている。
「?」
ドアを閉めて階段を下りていく音。
「………」
部屋を見回す。あたしの部屋とは全く違う。
紅の家具。白のファー。壁にはファッション雑誌の切り抜き。天井の金具の照明。金の金具のベッド

。机の上のサラの友人達とも写真。隠した様に先生との幸せそうな写真。サラのこんな顔初めて見る

……。家族写真は一枚も無い。そしてパソコン。本棚にはファッション雑誌。CD。レコード。アル

バム。
開く。家族写真は無い。高校時代からの友人達との写真。先生との写真。
「………」
パソコン。
駄目よ。サラのプライベートは……でも。
「日記?」
意外な一面。
そこには家族関係がうまく行かず、常に父親から蔑みの目で見られる苦痛。認められたい事への一心

。自分に素直になれずに父親に反抗し続ける事への反省。母親の気遣いが分かっているのに自らの母

親に手を上げてしまう事へのもどかしさ。家庭内での孤独。自身に自信が無い事。虚勢を張る毎に増

していく不安。友人達との楽しい時間に自分だけが感じる言い知れぬ孤独感。チアリーダーは好きな

のにチアリーダーとしていつからかもてはやされる事での窮屈感。モデルという仕事を捨てきれずに

薦める大学に行かなくてはならない事への不満。男は見かけだけで寄って来る事への苛立ち。自分を

止められない事への苛立ち。
そして、全てに虚勢を張り強がる事への孤独感。
初めて知った。こんな事……。
それでも日記の後半には先生との出会いで今に本当の幸せを掴めそうな気がすると記されている。
2ヶ月前からの日記は無い。
「サラ」
あたしは外に出る。
「体はもう大丈夫なの?」
「大丈夫よ!ママ!ちょっと出かけて来るわね!」
「え、……ええ、」
学園祭でのサラの微笑み。
優しく包括してくれた先生。
「え……」
あたしの家が無い。--そんな。
他の家が建っている。それも元からある様に。あたしの家は元から無いように……。
木の上のサラ。
気の弱いあたし。
一体……。
「あらサラじゃない!あんた今日ガッコーでぶったおれたって?一体何があったのよ!もう平気なわ

け?」
隣のクラス。サラの友人の一人、レナー。あたしは話した事が無い。
「もう平気に決まってるじゃない!ちょっとねえ、この頃夜遊びしすぎてさ」
「あっは!あんたが何いってんの?」
「ねえ。それよりサラの家どこよ」
「ええ?あは!何言ってるの?」
「ああ、別に!悪いわね。じゃあ!」
「え?サラァ?」
あたしは走る。自然に足が進む。どこに行くというの?サラ。
マンション。階段を上がる。知らないのに自然と。
ひとつのドアの前。
ここ。
ブルー=ラガジェシー
先生の……。
「ブルー……?」
自然に口から出る。弱々しい声。
ガチャッ
「サラ!どうした」
先生の何てうれしそうな微笑み。黒のシャツと黒のパンツ。全く雰囲気が違う。
あたしは先生に力強く抱きついていた。
「会いたかった……ブルー」
「……サラ」
先生はあたしを部屋に招き入れてくれた。男の人の部屋に入るのは初めてだった。黒と青を基調にし

た奇麗な部屋。今の先生雰囲気をそのままの。こういう部屋に住んでたんだ……。
先生はコーヒーを出してくれた。
「--苦いっ」
「?ブラック派だろ?甘党になったのか?」
あたしはブラックは飲めない。サラはブラックが好きで、甘い物が昔から大の苦手だった。
「ううん。どうってことないわ」
「そうか。きっと疲れてたのかもな」
なんて優しい微笑み。何て落ち着くのかしら。この広い胸。先生の優しい声。あたたかい手。
ずっとサラはここにいたがっている。
先生が不意に言った。
「このまま2人で逃げよう……」
「……ブルー……」
「いつも思う。だが義務が邪魔する。でももう我慢なんか出来ねえよ……」
いいの、サラ。
「逃げよう、ブルー。全てから……しがらみも何も捨てたい……」
「連れのやってる店がある。そこにいろいろ揃えてある。行こう。サラ。俺達の事を誰も知らない所

で、追って来る奴等も来ない所で」
「愛し合おう……」
あたし達はその夜に出た。
先生の車でいくつもの街を越えて、その店に着く。
入りづらい。大人の店。サラならよく入っていただろう。自然に体は颯爽と動く。
「あら。ブルー」
「いたのか。おふくろ」
「!」
ママ、
死んだ筈の……。
どういう事。
「サラ=キャージーだ」
「………。こんばんは。サラちゃん」
写真と同じ笑顔。でも、一瞬あたしの名前を聞いたママの顔は強張った。
「どういう事よ、ねえ!!」
「サラ?!」
サラはママに手を掛けていた。
「何で、何で死んだなんて事になってるのよ!……」
待って。あたしの事を知っている。消えた筈のあたし、もう一人のサラ=キャージー。
「ねえ、あなたリサルド=キャージーを知ってる筈よ」
あたしのパパの名前。サラのパパはゴードン=キャージーだった。
「どうしたサラ」
あたしは先生の顔を見る。涙が溢れる。
わけがわからない
どういう事。
これ。
「リサルドとは離婚したのよ。そしてシマー=ラガジェシーと再び寄りを戻したのよ。でも、何故あ

なたが彼の名前を……?だって、彼は……」
ママもあたしと同じ様な感覚に陥ってでもいる。
「目の前に誰が現れたの!ねえ!」
「---、あなた……」
「サラ=キャージーよ!!」
「……?」
「サラ、逃げなさい。ブルーも、サラも」
「おふくろ?」
「あなたはあのサラじゃ無いわ。早く、早く逃げなさい!!」
わけもわからずに先生はトランクを持ってあたしの手を引いて店を出る。
「ママ!」
ドアのなかのママは泣き崩れていた……。
--ママ……。
「サラ。一体どういう事なんだ」
困惑した先生の顔。
「分からない。何も分からないわ……」
「泣くな……。ごめんな。もう聞かねえよ」
なんて優しいキス。
怖くないの。先生。
「俺がついてるから……不安がるな」
「うん……」
なんて優しい包括。全て……。
そうよ。サラの体とは血は繋がっていない。あたしは違うサラ=キャージーなんだから……。
消えたあたしの存在。消えたサラの心。現れたママ。
先生がいてくれる……。
今は全ての謎に目をつぶって。
先生とずっと一緒にいたい。
逃亡を試みてから2日目だった。携帯にサラの家の番号から電話。
「出るな」
「ええ」
ずっと鳴っていたベルの音は消えた。
サラのおばさん、心配している。



☆2

 どういう事。何故あたしがサラになっているのよ。
そして、本当のあたしを誰もが知らないと言う。ふざけてる!一体何なのよこのふざけた状況は!!
あの女、あの女よ!サラ=キャージーでいて違う女。
いきなりあたしの前にしっかり顔を上げたサラが現れた。
『気の強いサラ。プライドが高いサラ。魅力的なサラ』
『何よ。何が言いたいのよあんた』
『家庭で苦しむサラ。虚勢を張るのにもう疲れたでしょう』
『知った風な口叩かないで!あたしにはあの人がいるわ!』
ああ、ブルー……どこに行ってしまったの……。
「ちょっと!近くに来ないでよ!」
ムッ
パアンッ
「なんですって!もう一度言ってみなさいよ!その整形した鼻へし折ってやるわよ!」
一瞬ビンタする手は戸惑っていた。サラの体が止めてでもいる。動きもいつもより鈍い。
運動しなさいよ!
ザワザワッ
ディマンナは凄い形相で起き上がる。ふん。笑える。
「何するのよ!このブス!いい気になるんじゃないわよ!!」
「言ってやりましょうか?あんたの豊胸手術も整形も男共は気づいてんのよ!ええ?!それでよく歩

いてるものよねえ!」
「--生意気抜かすんじゃないわよ!!」
ザワザワザワッ
「やめなさい!2人とも!キャージーもどうしたんだね!」
「うるさいのよ!」
あたしは自宅謹慎処分、監察官をつけられる。
がちゃっ
「ただーいまー。もう!最悪よ!本当ふざけてるわ!」
サラの継母にカバンを押し渡す。ついいつもの癖が出る。継母は呆然とあたしの顔を見る。
「ご飯いらないから持って来ないでよね!」
バタンッ
「あ~いつ見てもヘドの出る部屋ねえ。余計苛立つ」
白のレースのカーテン。白にピンクの花柄壁紙。ベッドの白いシーツ。茶色の家具。薄いモスグリー

ンのカーペット。クラシックばかり。自然絵画。部屋の一番隅のスタンドミラーはずいぶん使われて

いない。ゆうにあたしの部屋の3倍もある。大きな暖炉はいいわね。
とにかく今の自分の姿に寒気。鏡を引っ張り出す。
ああやだ。最~、悪。
サラの腰まで届く黒髪を解いて眼鏡を取る。
やだ!これ度が入って無いじゃない!目が悪い振りなんかして!
「ん~」
結構美人なのよねえ。でもこの白のランジェリーと無い胸と細い体じゃあポーズも様にならないわよ


あたしは自前のホワイトブロンドヘアをいつもセットしていて体のラインを際立たせるビスチェや黒

いレースや背や脚が出る服が好き。
チェストのなかは……なんて事これ!
ジャキジャキジャキッ
カチャッ
「ねー。ミシンどこよ」
「!あ、あなた何て格好してるのよ!」
「え?ああ失礼~。それよりミシンよ。もう何なのかしらね!センス無い服!あなた少しはマシよね

え。貸してよ。あと車貸して。お金頂戴」
継母は23才の女だ。噂では父親の秘書だった。
やだわ。この前無免でぱくられる寸前だった。ていうか自宅謹慎じゃない。
どうせ今の時間クラブやってないし、夜抜け出すしかないわ。でもこの部屋にいるのは本当癪だわ。
部屋に戻って一通り服を仕立て終えてからいつものストレッチを始める。曲に合わせるダンスもクラ

シックなんか掛ける気も無い。息切れ。本当運動不足。なんなのよこの子は!
昔はそれでもサラが嫌いじゃなかった。
可愛いのに気の弱いサラに自信を付けてもらいたかった。まるで、あたしの心をそのまま映し出した

様なのが嫌いだった。あたしはがんばってるのにこの子は自分に自信を持とうとしない。うじうじす

る子が許せなかった。でも、ほんの少しの羨ましさはあったかも。
まあ、勝手に構ったのにあたしが見切ったんだけど。
こんなにサラの事を思い出すのは久し振りだった。
それにしても早く外に出たい。自分の招いた馬鹿な結果だけど。
もう!サプリメントも無ければコスメティックもメイク用品もマニキュアもケア品もトレーニング器

具も無いじゃない!どういう神経してるのかしら!女を捨ててるわよ!
携帯なんてあの子は持って無い。ああ、話だけでもしたい。声が聞きたい。
なのに。
「………」
どこ。
ブルー……。
ポタポタッ
やだ、また涙。
『ブルー=ラガジェシー?そんな教員いないだろう。どうしたんだいキャージー』
何故。何故なのよ。
消えたあたし。消えたサラ。
消えた……、……ブルー……。
マンションも違う家族が住んでいたなんて、わけわからないわよ。この状況が一体なんなのかなんて


考えても何も始まるわけは無い。行動に移したくても時間がかかる。夜まで、何て長いの。
でも、反面ああいう事をして問題を起こせばブルーが騒ぎを聞きつけて飛んで来る。そんな子供じみ

た試みもあった。
ブルー。
『愛してる。サラ』
初めてで最後のあなたの綺麗な涙。
優しくて、強い包括。全て忘れられた。ブルーといるだけで、いてくれるだけでよろこびと幸福感が

溢れた。ずっと、一緒にいたかった……。
あなたの優しい微笑みが、欲しいのに……。
一週間はとりあえず静かにしていた。
いつもならブルーが駆けつけてくれていた筈なのに、しかもこの一週間サラの友人一人もきはしなか

った。いつもうつむいて一人でいたサラ。
サロンに行って、ショップに行って、一通り必要な物買って、エステに行って、クラブに行って、一

人なんて初めてだった。
「よう。いい女だな。俺と踊らねえか?」
「あら。ボイド」
「?へえ?俺の名前知ってるのか」
「クス、よく『ガーゴイル』にいたじゃない」
「君みたいな魅力的な子いたかな」
「サラ=キャージーよ」
ボイドの顔は唖然としていた。ジュニアハイスクールが同じだった。
「あたし、あんたの相手する暇無いのよ。ふふ。じゃあ、ね……」
捜す。
「ねえ。今日ブルー来なかった?」
「ハイ。綺麗な子だな。新顔だね。残念だけど、そういう名前の人間はいないぜ?それよりも俺と」
「今そんな気分じゃないの。せっかくだけど」
ここの奴等どころかマスターまで知らないなんて。マスターはブルーと相当仲がいいマブなのに。
どこのクラブでも、どこのバーも、どこのショップも同じだった。ブルーの事もあたしの事も誰も知

らない。ブルーの連れの奴等までどいつも知らないと言う。あたしの連れは誰もがあたしを初めて見

た顔。
前、ブルーが行こうと言っていたベース専門店。ブルーの連れがやっていて、その近くにおばさんの

やってるホステスクラブがあると聞いた。
そのショップのある街へ車を走らせる。
「ハアイ。ブルーは来ているかしら」
男がいて、その横に初老の女がいた。
「ブルー?悪いが、知らないな」
また。
「--……サラ」
どこかで見た事のあるその初老の女は言う。
「……。あなた、サラの本当の、」
「ラガジェシーさんの知り合いか?」
「え、今なんて?ねえあなた!」
ブルーはサラの……兄ですって?
『先生、本当優しいわよね……』
紅くなっていたサラ。気付いてなかった。
ブルーだって、そんな事……。
じゃあ、体がサラのあたしが愛して今必死に追い求めているのは、そんな--……。
いや。
嫌よ。
「いや!戻りたい!!何でこんな事!!」
「どうした!君!」
「ちょっと!あなたブルーとサラの母親なんでしょ?!」
「--サラ、あなた」
「あたしはあのサラじゃ無い!あなたの娘のサラじゃないわ!!あなた知ってるんでしょ?!ブルー

がどこにいるのか!あなたの息子の事よ!!」
「--…あの子は体が弱く産まれて、5才のときに……」
「え?」
--どういう。
混乱する頭。
いつの間にかある家の前にいた。本来のあたしの家のあった所には知らない家。
そうだ。サラの家が今のあたしの家。
「ねえ」
「!!サラ、こんな時間まで--、お前なのか……?」
「今日本当の母さんに会ったわ」
「……!」
「おじ……、父さん、どういう事よ。死んだって聞かされて来たんでしょ」
おじさんの顔も継母の顔も戸惑ってる。
「ブルー=ラガジェシー。知ってる筈よ」
「……お前の父親違いの兄さんは5才の時、亡くなったと聞いていた」
「そんな筈無いわよ。だって」
まずい。泣きそうになる。
ブルーに会いたい。
「もう、もう嫌よ!」
何もかもでたらめにしたい!何もかも信じたく無いわよ!
ダッ
「サラ!!」
バタンッ
力が抜ける。崩れてドアを背に泣いていた。
いつもなら目の前にブルーがいた。
なのに何故いないの--……。
信じない。出会ったというのに、始めからブルーがこの世にいなかったなんて。
確実に実在するわ!
「--!」
学園祭の写真。
駄目もとでも--。
ガサガサッ
サラ、母親、父親、サラ、サラ。
ポツッポツポツッ
無い……。
ブルーの存在も、あたしの存在もどこにも--。
「返して……返してよおっ!!」
ガララッドサッガシャンッドンッ
「何でよ!何でなのよ!こんなのもう耐えられない!!--ブルー!!」
ドンドンッ
「サラ?!どうした!!」
ガチャッ
「!!サラ!ショーン!救急車を呼べ!」
「あ、あ」
「早く!!」
「は、はい!」
「サラ、しっかりしろ!今医者が来る!」
「う、うう--っ、」
上腕部に刺さったミラーの破片より、痛い心。
真っ赤に滴る血のつく鏡に映るメイクが涙で流れる酷い顔のサラ=キャージー。
おじさんは真っ白なシーツを裂いて腕に巻く。食い込む破片は下手に抜くことは出来ずにいて、ずっ

と寄り添って他人の筈のあたしを自分の娘だと信じ疑うことなく励まし続ける。
なんて良い家庭。羨ましかった。
『お前の様なちゃらちゃらした恥知らずは私の娘などと認めん!』
父さんはあたしを嫌っていた。一流の人生を歩んできたのに挫折して一般に成り下がったからなお更

……。母さんはあたしを恐れても心配してもいた。もともといいとこのお嬢様だったから世間知らず

で……。
何故あたしがあのうじうじしていたサラよりみじめな感覚に陥らなきゃならないのっ!
「--っ」
腕に激しさと鋭さ、鈍い痛みが走って体中に駆け巡って、滴るあたたかい血よりも体が熱くなる。吐

き気がしてくる。顔が強張って冷たくなっていく感じ。鋭い痛み、伝う熱い血。それなのに意識だけ

はしっかりしているのが嫌だった。暴れて体内の血液が循環していた分、出血が早くてカーペットは

どんどん赤くなって行く。血の赤、モスグリーン、血色、なんて気持ち悪い組み合わせ。
意識がやけに遠くなって行く。
なんて馬鹿なこと……。
助けて、会いたい、声が聞きたい、抱きしめて欲しい。
「ひっ--ひっく、ブルー……」
「サラ……」
「この部屋ですわ!」
騒がしさ。あたしはその時、段々と気絶していくのが分かった。
目覚めるとあたしは入院していた。初めてだった。
普段運動していれば入院まではいかなかった筈。
そして……、ブルーがいたら……。
「--……っ」
涙、涙、涙。
愛するあなたが見えない。
出会う前よりこんなに辛い。
何故こんなに弱いの……。
しばらくして退院した。腕の10センチの傷は医者が良くてしばらくすると消えると言われた。
腕の包帯が恥。学校。
サワサワ
「おい。すげえいい女」
「ヒュウ」
「転校生かよ」
「腕に包帯だぜ?わけありか?」
「よう。彼女。どこから来た?」
「ハアイ、シモンズ。どこからって、ここからよ?」
「!」
「キャージーの声?」
「おい信じられねえ!」
「セクシー! マジかよ!」
「そうみたいね」
一つ一つの動作に腕が痛む。
周りを見回す。
……いないブルー。
変わらない事実なの……?違う。事実なんかじゃない。そんなの冗談じゃないわよ。この可笑しな夢

から早く抜け出したい。
以前と変わった心境は家庭環境だった。おじさんとよく話して、おばさんと料理をして、家庭は幸せ

だった。以前と同じ友人が出来て、チアガールになって、おじさんの許しでモデルの仕事も始めて、

勉強も前以上に出来て、夜出掛けて、あたしの好みのインテリアになって。
いないのは……ブルー。


★3

 「サラ。ここを越えればニューヨークだ」
「ええ」
俺達はロスからニューヨークへ来た。知人のいる場所でしばらくの間、金を稼ぐ。
「よう。久々じゃねえかブルー。話はついてるぜ」
「ああ。ご苦労。わりいな。いきなりの話だ」
「気にするな。らしくもねえ」
「はは。まあな」
「お前の女か?いい女だ。随分若いじゃねえか」
「サラよ。よろしく」
軽く握手をする。
「で、何やらせてくれる?」
「まあ、こっち来な」
「ああ」
サラの柔らかい手を取って奥に進む。
ロスに行く前は仕事をしていた。
「こんにちは。ミスターラガジェシー。と、ミス。久し振りですね」
「こんにちは。仕事回してもらって感謝してます」
「こんにちは。サラ=キャージーです」
「はじめまして。ミスキャージー。ブラック=G=ラザレロと申します」
ハイバックチェアは空だ。
「アンクルルーカはいないんですね」
「伯父貴は他を当たっているんですよ」
ラザレロファミリーにはガキ時代に随分世話になった。血縁でもある。親父がここの下っ端でおふく

ろはアンクルルーカの息子の子供だった。ミスターブラックはルーカ=G=ラザレロの弟の息子だっ

た。
入り口で会った男、コリーは俺の幼馴染だ。
「ところで、お母様の近状は。伯父貴がひ孫の様子を気にかけていましてね」
「店はうまく行っていますよ」
「それはよかったです」
……おふくろの様子はおかしかった。サラの事についてだ。聞きはしない。サラにとっては言いたく

ない事の様だったのを無理に聞くのは俺は好きじゃない。
サラがやっと手に入った。それだけでも充分満たされている。
「仕事の話ですが、始めましょうか」
切れ目で小気味良い笑顔が常のミスターブラックは俺達を椅子に促す。
「今回、レディは加わらないということで」
「ええ。お願いします」
ミスターブラックの微笑みにサラも微笑み返す。
「では、この地図を」
説明を終えた頃、ドアが開いた。
「おお!ブルー!はは!私によく顔を見せてくれ!」
「アンクルルーカ。久々です」
巨漢のパワーは強大だ。
「これは美しいレディだ!どうもはじめまして」
「有り難うございます。初めまして。ミスタールーカ。サラ=キャージーです」
「よろしくお願いするよ」
アンクルルーカは美人に弱い。かなりの年にも関わらず年齢を疑う若々しさだ。
「お前に会えてうれしいよ。しかもこんなにいいお嬢さんを連れて来るとはね。流石ブルーだ。短い

期間の再会になるが、充分稼ぐといい」
「ええ。恩にきります」
「ああ」
アンクルルーカは葉巻に火をつけ森が薫った。
「ところで、片方の仕事を辞めたという事らしいな」
「ええ。数年前許しを貰っておきながら勝手をしてすみません」
「いや。お前はもう大人だ。自分の決める路を進むならばけじめをつけて進むといい。ただし、中途

半端は許さんぞ」
「承知しています」


☆4 サラの母親

ブルーと共に現れた少女……。
今は別れている娘の心を持っている。あの子の父親は亡くなった。そう、あの人が死んでブルーが真

っ当な職場につきたいとロスに行くということであたしも向かった。そこで知り合ったのがサラの父

親。彼は企業の失敗にうちのめされた。幼いサラは狂って行く現場にいて精神を病んだ。そして精神

病院に入った。
よく行く病室のサラ。少しの音にも発狂する子……。
よく落ち着いた時に話をする。自分は強くて、魅力的な子……。


★5 ブルーの母親

ブルーを求めて来たサラ……。
ブルーは命を落とした。サラはブルーが亡くなってから関わった男との間の子。今は別々に暮らして

いる。別れた男との娘。どういう事?何故ブルーを知っていたの……。
気が弱くて心配している彼の話を聞いた。でも、目の前のあの子は気が強くて、魅力に満ち溢れてい

た。


☆6 サラの母親

目の前に自分が現れたのは若い頃の事。自分とは全く違う。ギャングの家系の自分。その前に現れた

のは派手な装いの自分。『ここから逃げたいなら力貸してあげる』いつの間にかホステスの装い。精

神を病んだ娘。死んだ旦那。ホステスの仕事をするあたし。あたしは全てをつきとめた。



★7 ブルーの母親

目の前に自分が現れたのは若い頃。自分とは全く違う。ホステスをしていたわ。その前に現れたのは

ランニング姿をした自分。『本当の愛を求めたいならあなたを助けてあげる』いつの間にかランニン

グ姿。死んだ夫。教師をやりたがる息子。その息子を応援するあたし。あたしは全てをつきとめた。


☆★8

あたしは全てを突き止めた。もう一人の消えた自分の事。そしてその頃から2人はリンクした。あの

子までが同じ状況に陥っているなんて。
そう、全く違う世界で生きてきた2人。
現実のあたしと、心に思い描く自分とは全く違う夢のなかの自分。
あの気の強い少女サラは……精神を病んだ気の弱いサラが見ていた夢の姿。
あの気の弱い少女サラは……精神の弱い気の強いサラが映し出した夢の姿。
夢とうつつが混ざり合って自我の強い夢のなかのサラが夢から飛び出した……。そして、もう一人の

あたしの夢のなかの息子までもが外に出て……。
本当のあたしはどっちか分からない。どっちが夢だったのか今ではもう。ここは、今のあたしは夢と

うつつのセンターラインを生きている……。
本当のサラはどっちか。……それは気の弱いサラ。
今、息子と愛し合っているサラは実在しない夢のなかのあの子、息子までもがサラの夢のなかに取り

込まれてしまったとでもいうの……?生と死の2つの顔を持つブルーは一体何者なの……今では、分

からない……。



★9

 仕事が始まるまで仮眠を取る。俺は夢を見ていた。
5才のガキのころの夢だ。俺はくたばりそうになっていた。入院していた俺の元に現れたのは俺だっ

た。
健康的だったが、その時はべそかいていた。足を骨折しただかで俺の横のベッドに入った。
俺達は親友になった。
『健康になりたい?僕の体をあげるよ』
俺は何かの手術の後、目覚めた。アンクルルーカの笑顔が飛び込んだ。今までは仕事が忙しくて見舞

いに来た事はなかった。そして言った『お前によく似た子がいたろう。あの子はお前の生き別れの弟

だよ。あの子は健康に育ったが、お前は違った。だが、自分の体を兄のお前に献上したいと言い出し

てね。その為に生きてきたと言う』
俺は……弟の体を乗っ取った人間だった。ギャングマフィアの実行した闇の手術で生き延びた。
よくチビの俺におふくろは夢の話をした。自分がホステスをしてる夢だ。俺はくたばった親父の事で

沈んでいるおふくろを連れて教師になる為にロスに向かった。おふくろはホステスになった。
たまにおかしな事を言うようになった。いない筈の妹の事だ、新しく見るようになった夢のなかでは

自分は金持ちと結婚して娘が出来ているという事だ。そんな事実は全く無い。おふくろは未亡人にな

ってからずっと一人だ。毎日毎日ホステスの仕事に明け暮れている。暇なんて無い。
おふくろの言葉の意味は分からなかった。




☆10

新しい姿鏡を見つめる。目に映るサラ。一瞬のめまい。
「……え、」
何。
自分が一瞬映った。目をこするとサラに戻る。一体何。
「サラ。夕食だぞ」
「ええ」
階段を降りる。継母の瞳が丸くなる。父親の目もだった。
「どうしたのよ--」
え、自分の声。洗面所に駆け込む。
……サラ。
ダイニングルームに戻ると2人は不思議そうに顔を合わせて首をかしげた。
「はは。おましいな。一瞬サラが全くの別人に見えたよ」



★11

先生の出掛けていった夜だった。あたしは一人、甘いコーヒーを飲んでいる。
「!--甘いっ何これ……」
え、
え……?
視界がめまぐるしく回転する。やだ、何--。
ガバッ
「!」
ここはどこ……。
病院?何で?体がばらばらになりそうな程痛い。
あたしは……叫んでいた。


☆12

体の激痛。夕食を終えてあたしは街にいた。ブルーを捜し求めて。そんな時だった。あたしの横にい

る連れがあたしの顔をまじまじと見る。
「あんた、誰?」
「え?」

声が自分に戻っている。
体を見る。自分の豊満な体。それに、視野に映るホワイトブロンドヘア。あたしは、走っていた。自

分の速さ。変わらない。ずっと、ずっと。
「ちょっと!!」
サラの母親の店。
「!あなた、ブルーとニューヨークに戻ったはず……」
「なんですって?!あなたブルーは5歳のとき死んだって言ったじゃない!」
「--!! あ、あなた、」
「なによ!!」
「!!」
サラの母親は真っ青になってどこかに連絡を入れている。一体。
「そこにサラはいるの?!--何、死んだですって?!」
「え、どういう事」
「娘さん、まさか病院で……?」
「いきなり……、いつもみたいに発狂して……、いきなり息が止ま--っ」
「……--どういう事?!サラは金持ちの娘でしょ?!何よ病院で発狂って!!」
「--夢が……あなたがサラを乗っ取ったのよ……」
は。
「夢って、何言って、ちょっと!とにかくあんた達のわけの分からない茶番聞いてる場合じゃないの

よ!ブルーはどこ!ニューヨークのどこにいるっていうのよ!」


★13

「サラ!どこ行った!」
サラが消えた……。
俺を残して……。
手のなかの金が床に音を立てて落ちた。
目の前のテーブルにミルクコーヒー。
『--苦いっ』
サラはそう言った。
「……なん」
消えたサラ。
いつの間に甘いコーヒーなんて飲むようになったんだ。俺の前じゃあいつはいつだってブラックコー

ヒーを飲んでいた。甘い物なんか見向きもしなかった。
消えたサラ。
どこに……。
俺と逃げる事を誓った、……その筈だ。
……学校じゃあいつも男に囲まれていた。同世代の男だ。16のサラ。24の俺。
……俺を愛してると言った……。
なんで、消えた……。
他の男の所に行ったのかと言う不安は募る。
「サラ……」



☆14

あたしは空港に向かう。
ニューヨーク行きの便に乗り込む。進みが遅く思えてならない。
空を見つめる。青い空はまるでブルー……あなたの様……。
早く会いたい。もうすぐ会える。
やっとで会えるのよ、ブルー。
今あなたが一緒にいるのはあたしじゃない。あたしの心が映し出した鏡……そう信じたい。あたしは

ここにいる。
「………」
ニューヨーク。
ここにブルーはいる……。
--!! ブルー!!!
--ガンッ
「--な、ん、」
「サラ」
クラッ--ドサッ
ブルーの涙。
やっとで会えたブルー。
なんで……。霞むブルーの左手に黒い銃が握られている……。
あたしを……ブルーはあたしを撃った。
……あたしを愛していると言った……。
なんで、撃ったの……。
ブルー。
あたしはあなたを信じていた



★15

銃口が俺自身の頭を吹っ飛ばした……。
サラ
俺はお前を信じていた



☆★

……ここはどこだろう。
まるで病院だった。
病院。
そういえば、結構長い事、ここに横になっている。
……この涙はなんだろう。
まるで悲しい様で。
悲しい。
そういえば、結構長い事、ここで泣いていた……誰かに、逢いたくて。

あたしは

僕は

shy girl

shy girl

  • 小説
  • 短編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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