破滅のプロセス

 夫が殺されてから三日が経った。
 あそこは安全な場だったはず。彼らがそう話しているのを聞いたのだ。だから久方ぶりに、ゆっくり食事を楽しんでいたというのに。
 私は彼らの言葉がわかる。いつもそれで有利にことを運んできた。けれど今回は、それが油断につながった。
 もっとも、彼らの誰かがルール違反をしたらしいのが最大の原因なのだ。彼らもそれで騒いでいた。ただ、連中が仲間内のルールさえ守れない最低な生き物であるのは、前からわかっていたことだ。私がすべて悪い。悔やまれてならない、などという言葉では無論足りない。私は一番大切なものを失った。
 もう生きていても意味がない。私は彼らが恐れているものも知っている。この身ひとつでも、彼らを破滅に追い込むことができる。それを実行するのだ。

 私は西の方へとでかけた。
 不吉な病が流行っているというその町で、しばらく過ごす。仲間たちが幾らか死ぬのを見た。近づいて亡骸を眺めた。きっと私の身体にも、病の原因が宿ったに違いない。
 もうあまり時間がない。私は急いで戻る。夫が殺されたあの場所へ。身体が重い。病の原因が、刻々と育っているのだろう。それでいい。そうでなくては困る。
 明け方、あの場所へたどり着くと、彼らがいた。その中に、見覚えのある姿があった。あのときもいた連中だ。やつらだ。やつらが夫を殺したのだ。
 薄靄が立ち込める中、私はやつらに近づく。やつらも疾うに私に気づいていた。笑っているようだ。きっと、間の抜けた恰好の獲物だと思っているのだろう。
 黒いものが私を狙っていた。私は更にやつらの近くに行った。鋭く大きな音がして、身体に強い衝撃を感じる。それと同時に、私の意識は消え去った。

 鳥がすぐ近くに落ちてきたので、密猟者たちは慌てて退いた。羽と血と糞が飛び散って、彼らにもついたようだった。
 一人が舌打ちして、自分の身体を見下ろす。
「汚ねえなあ」
「こんなに近づいてくるとは思わなかったよ。すごい勢いだったな。馬鹿なやつだ」
 もう一人がいった。
「まあなあ、まさか撃たれるなんて思わないだろ」
「ここは禁猟区だしな」
「いや、ここが禁猟区だって鳥は知らないだろうけどさ」
 彼らは笑う。ひどく楽しげに。その鳥が、感染したなら致死率80%の病原菌を持っているとは露知らず。

破滅のプロセス

破滅のプロセス

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-04-05

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