Apple

★Apple 2000,12

エデン。昔のアダムとイヴは罪を犯した。
「喉が渇いたわ。」
「本当かい?どうするか……。」
「ねえ。神の果実はきっと喉を潤してくれるわよ……。」
アダムは微笑んだ。
イヴも微笑んだ。
「ああ。かもしれない……。」
悪魔に惑わされて、ただ林檎を食べてしまったの。それだけ。
それがいけないんじゃない。神に試された罠にはまってしまったの。
禁じた果実を何故神は2人に紹介したか?何故万物の神がこの星に果実の根を下ろしたか?神々は二人を試した。悪魔はただ一つの目的を果たしただけ。
それに純粋な2人は引っ掛かってしまった。馬鹿ね。いくらあたしがアダムとイヴを軽蔑しても遅い。だってあたしも禁じられた果実を齧ってしまったから……。
禁じられた果実と言う名の様々な罪は2人の時代から、ええ。2人の心の内にも、一人一人の心の内にも有る。
禁じられた果実は邪心にとって変えられ一人一人の心の内にも存在していた。
罪無き神から作られた純粋な二人。なのに『罪』を犯したのは何故。
神の行なった力の一部でも有るのにね。神は心の何処かに悪意があって、それがたまたま2人に入ったのか?善いことばかりしなくてはいけない事に嫌気が差して変わりに2人に罪を犯させたのか?神はただ愉しむためにこの星を用意し、罪を犯させたのか?
罪無き神から作られた純粋な二人。なのに『罪』を犯したのは神の心から邪悪を捨てて二人に罪を犯させる場所を見たかったから。そして神は愚かな自分の分身が犯す罪に鉄槌を落としたがり偽善の慈愛を分け与え崇められたがる人が作り出した逃げ道。神は存在しないからいいのよ。いくらでも感情は善行を描けるから、都合良く姿無い神に任せてきた。形あるものには傷を伴い、心も身体も血に塗れてしまう。
神はきっと試したのね。強い心の人間にしようと。自然を愛し、分をわきまえ、多くを求めず、知恵無くとも限りある最低限の知識の中だけで、他の動物達と共に番のみで生きていく本来の地球生命隊としての姿を忘れないために。
そして見つづけたいと思ったの。神も飼育者もいない観賞用ペット『人間』を。
既にアダムとイヴ、大罪である余計な知恵を身につけたヒトの時代からこの星か神に捨てられたと思う?それは勝手な人間の判断と逃げ。大罪を絶てばいいことを人は知っているわ。知恵を捨てればいいのだと。誘惑に負けた者の子孫は要ら無いから。
アダムの骨から出来たイヴ。初めから血の繋がり同士が愛し合うと神は仕向けた時点で、性の自由を、男と男を、女と女を肯定し、男女同士の仲を制御させるため。
怒り狂った神。怒り狂った笑い。逃げ惑う神の心。
イヴという女の身体に苦痛を与えた。それなのに快感を残した。人は溺れる。男同士と、女同士も等しく。性欲と快感と愛欲と感情というエデンの名残の内に、それを神は愉しむ。人に関しては男女での愛自体が大罪なのよ。
始祖と勝手に位置付けられる細胞レベルでのアダムとイヴが弱かったのか?純粋だったから無理も無い。愛で充たされた世界、愛し合う2人、お互いは他に取られる心配も無かった。2人だけだったから。なのに他を求めてしまった。罪という者を。刺激を持つ者を。その時の快感はいかほど?美しい果実の味は。怒りを2人は知らない。愚かな2人。
神のなした追放。
それは本来ならば死。
その時罪を犯したことへの恐れが根付いたんでしょうね。
今の世の中自体が禁じられた場。その場は今何処に?罪のエデンは、本当のエデンではない偽りのエデンよ。今すぐ消えたって構わない人の世界という名の。目に見えて存在する事は追放によってあり、ただ、心の中にもある。それはアダムとイヴの記憶。2人の食べた禁じられた果実に入っていたの。
神は見ている。禁じられた果実を食した者の子孫が罪を犯すことを、今か今かと罰するために。
ただ、果実を食べただけが始まり。2人は神に近づきたかった。父が食べる物と同じ物を食べたかった。猫が主人の食べる夕食を欲しがる様に、子供は猫に与える。母は禁じる。子供は悪魔。
神の果実を食べた。それは小さな事に思えて唯一神と交信の取れた2人の犯した神に逆らうという最も大きな罪。それが段々本来は罪では無い殺人、自殺、戦争、悪魔崇拝、それらに人間は規制を敷きたがり偽の神の態度を浅ましくも取りたがる。
様々を偽りの罪へと発展させ。仕舞いには大罪こそを神と崇める愚かな人間達。
陣地を構える猫と侵略者のえことの大戦に人間は罪を感じるか?皆のものである場に陣地を構える無垢な猫に罪を感じるか?
男は女という果実を食す。自分を純粋と自負する者も生まれる前から果実は心の内に消化され存在している。純粋な二人が罪を犯したんだから。
悪魔は一躍有名になった。全能の神の子に罪を犯させたんだから……。
そして、果実の内に入り込み人間に罪を犯させようとするのは悪魔じゃ無いの。人間自身。愚かなこと。
ねえ。本当に神は果実を食していたの?ねえ。本当に神は悪魔と対立している?事実は分からない……。

<1>
自分だけが大切と思えばいい。心に語り掛ける。
自分だけが大切ですって?言い訳。そして言い逃れ。
今、あたしは男という果実をエデンで食している。心という悪魔に惑わされている。
あたしは果実。あなたも果実。美しい果実。もといた人なんていい。子供がいる。妻がいる。
男の本当の女には罪悪感を感じている振りをする。親友だから。
親友は気付いていないのか?きっと気付いている。あたし達に気付かない振りを、傷ついた振りをする。
全てが回っていることに気付かないの?
「悩みは無かったでしょうね。だって、アダムとイヴは神から敬愛を受けて来た。何でも揃う場所で幸せに暮らしたのよ。2人だけ。」
親友はあたしに言う。カフェでアイスコーヒーを飲みながらいつもの様に普通の声で言う。視線は行き交う人の群を見ながら微笑む。夢でも見ているの?あんたは。
「ええ。最高の場所かもね。」
『……あなたの様な悪魔はいなかった……。』親友の言葉の裏側が見える。あたしの皮肉におどけて肩を竦めてはストローで氷を弄ぶ。
「ねえ。もしここがエデンならどうかしら。」
「素敵じゃない。だって、あなた達2人以外は皆番の動物よ?人間の皮を被った愚か者達は暴動的に暴れるわ。心の内だって様々を行なうの。冷静というガードは脆いわ。人間という檻の内側を動物達は素通りするのよ。自分たちはそんな事しないわって思いながら。」
「あなたもその動物なの?」
「あたしも人間。愚かしいわ。一人一人にとって誰もが自分と愛する人以外は動物って勘違いしてるけど、動物の賢さを知っていたら人間など必要無いって気付くわ。ここは不特定不可能だった罪の場所なのよ。ここ自体が檻の内側」
「まるで自分以外は他人って言い草して。」
「他人なのは事実ね。」
「いつでも男を作らないでいるのもそれが理由だから?」
「どうかしら。ただ、男に嫉妬しているのかもね。だって、男は神に最初に作ってもらったと断言しいているのに、女は第二。なんでもね。勝手に男がレディーファ-ストしたって男は優越感に浸っている。」
「変な言い訳。」
「ほら。よくいるわ。男に尽くされている女は自分が一番幸せだって思っている。美貌も何もかも。豊満な身体。男を操る頭。他人は動物。他人とは違うって勘違いしているわ。」
「それらの女性は輝いているわよね。あなただって輝いているわ。」
「どうかしら。所詮本当の動物の世界はオスが美しいわ。鳥も、魚も、蛍も、オスのほうが美しい……。メスも生命として美しいわ。メスのしなやかな動作的な強さもね。自然では。オスが本来美しさでメスを誘うのよ。美しい声や、姿、強さで。人間だって女は化粧をしてこそ美しい。着飾ってこそ美しい。身体有ってこそ美しい。男は元からあるものよ。優れているの。野生本能。群を操る理性。欲望と理性の間で女を操る。」
「でも、男は女がいなくちゃ生きていけないものね。逆に男は女がいなくても生きていける。」
「男を滅ぼすためにも女はいなくなるべきかしらね。万物創造の神は人間の間なんかにはいないから。女が神の変わりに人を壊してあげる事もできるのよ。その為に男は無様にも必死に優位に立ちたがる。その姿は人間としてみても反逆に他ならないわ」
「でも、女がいなくても研究して、開発できてしまう。」
「それが人の最もやってはいけない大罪の一つ。人間の女の必要性は何なのか?何故男の次に女は作られたことになっているのか?もしもアダムとイヴが罪を犯すことが無ければ永久にエデンは継続したのか?元のエデンの自然で生きる素晴らしい動物達の様に裸が一番美しい」
「じゃあ、自然の世界がエデンね」
「ええ。弱肉強食が有るのは素晴らしい事。動物達は求められるままに善き、種類によっては同種も食べ、節度をわきまえて生きている。動物達こそが尊敬される生き物達。『環境』が必要としているもの。」
「それじゃあ人間は。」
「人間は環境が必要としていない罪。人間こそが毒の果実だったのよ。」

<2>
あたしはあの人に会いに行く。
「よう。アゲハ。」
「ハアイ。リルド。カーラに今日会った。何かあたし達のことに気付いているみたい。」
「事実か?俺は全く気付かない。様子を見た方がいいな。」
「ええ。」
ベッドに入る。3人でいる時には見せない顔。3人でいる時のリルドの顔は嫌い。その内にあたしが気に入るものを見つけたのはいつ頃だったかしら。ええ。あたしをチラッと見た時の顔よ。仲の良すぎる夫婦はあたしの目にはうざかったというのにね。その瞳を見てから囁いた。あたしの心の果実。
いつでもその果実は甘い蜜であたしの内側を充たしていたのよ。林檎の蜜より甘い密な時間を誘い出す。
男は蜜蜂。そして自ら果実をあたしに捧げると2人の愚かな人間になる。
カーラなんか今の愚かさもお似合いよ。理性を保とうとする罪の人間。今に恐れる終わりの待つ。それを何を考えあぐねているの?あなたは元から罪深い人。あんたは……。
「ねえ。エデンに行かない?あんな女なんて捨ててしまえばいいのよ。ね。だってあんな女飽き飽きでしょう?」
「ああ。離婚する。」

<3>
翌日、一人の部屋にいつも同様あたしに会いに来たリルドの横にカーラがいた。
「………。遊びに来てくれたのね。丁度暇していた所よ。どうぞ。」
カーラはあたしにカセットテープを投げつけた。あたしを睨んでふんと鼻で笑った。
あたしも微笑んだ。嫉妬などという物を燃やすままのカーラに。
「よくも騙してくれたじゃない。2人して。」
「いきなり随分な言い草ね。何よこれ。」
「この人のスーツの襟の裏に盗聴器を仕込んでいたのよ。馬鹿な女に成り下がったんじゃない?あなた、気付かなかったのね。」
「ふ……」
「何が可笑しいのよ。」
「別に?」
あたしは可笑しくて首をやれやれ振った。
「別に知られていても構わないけど、同じ立場に入るならあなたも並ぶべきね。浮気だなんて馬鹿らしいことに興味は無いけれど、あなたはどうだったのかしら?会話で誤解しているみたいだけれど……。」
あたしは引出しから出した写真をカーサに差し出した。カーサの顔はそれと分かる冷や汗が浮び流れた。
「あなた、あたしの昔の男と浮気してるじゃないの。知ってるのよ?なぜか?あの男にあたしがあんたを誘惑する様に言ったのよ。今頃旦那が浮気と勘違いしてむしゃくしゃしているだろうから、可哀想に思ってね。すぐに引っ掛かったじゃない?」
カーサの顔が歪んだ。
「リルド……知ってたのあなた!こんな事する女だって!あなたも今に捨てられるに決まってる!この女……、」
カーラがあたしに殴りかかる。それを身を返して上目でカーラを見て微笑んだ。
「あたし達の目的は浮気じゃ無いわ。浮気を犯させて怒りに任せて誰かを手にかける事」
カーラが眉を潜め首を傾げ、あたし達を見た。
「分からないかしら。あたし達は、人間狩りをする人間達を募っているのよ。」
あたしの昔の男が現れた。彼も駒。嫉妬に燃えた男は突如来て、拳銃でカーラを撃った。
カーラは目を見開き、倒れて行った。男が自分のこめかみに銃口を突きつける。
「お前に旦那がいるなんてもう耐えられない。俺も、もう行く。」
狭い空間に銃声が響き、男がカーラの脚に倒れ込んだ。
「………」
あたし達は顔を見合わせ、静かにうなづきあった。
あたし達があのエデンを失ったアダムとイヴだと言うことを、彼等は知らない。
あのエデンに戻す為に、あたし達は人間達を殺し合わせて行く。
あの日、あの時の記憶の細波はある。
「また一組の殺し合いに成功したわね……」
「ああ。」
リルドと今は名乗らせていた彼が頷き、決して交わる事の無いあたし達は部屋を後にした。アダムとイヴ同士が交わる事自体が大罪だから。
それでもこの大罪の人間達を滅するにはそれぞれがそれぞれに違う人間に大罪を侵させるために罪を犯すことをして、結果殺し合わせる。その時の本来罪でないそれらが積み重なる事で段々エデンは近付いてくる。
人がいない世の中に近付いてくる。そしてそこで、あたし達はたった2人だけの人間として生きるか、本来罪ではない殺し合いをするのか……。

「イヴ。起きたかい?」
「あら。アダム。おはよう。」
「今日もエデンは綺麗だよ。」
「まあ。本当ね。」
素敵なエデンは花開き、動物達が節度を持って生きている。
世界には人間はあたし達2人だけ。それでいい。それでいい。
ここには既に禁断の果実は存在しない。
悪魔も等しく美しい地を治め、エデンは自然神が見守っている。

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  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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