鳥になる夢

ミクシィ上のコミュニティで画像から連想したお話。
パッと浮かんだイメージに話になるように尾ひれをつけていくという方式で作成。

画像を元に書いた短編物語

 ちょっと信じられない話なんだが、これは僕の身に起こった本当の話なのである。

 それは僕が高校生だったときの話である。当時サッカー部だった僕はごくありふれた高校生活をごくありふれた悩みの中で過ごしていたのである。
 2月、まだ寒さの厳しい季節。
 授業を受けていた時のこと。白衣を着た地理の先生が地層の話から、いつしか自身の大好きな恐竜映画の話へ変わっていた。なかなか話上手に加えて、授業がしばしサボレるとあって生徒達は興味深々であったが、僕はあまりの眠気にそのまま少しウトウトとしてしまった。
 チャイムが鳴り、いつの間にか地理の授業は終わっていた。教室から退場する生徒達。
「西野、昼どうすんの?俺ら学食行くけど」
 西野とは僕の事で、話しかけてきた二人の男子生徒は同じサッカー部の木村と林である。
「俺弁当持ってきたから、それで済ますわ」
 そう言いながら僕は席を立とうとした。だけども、なぜか足が言うことを聞かず、石になってしまったかのように動かない。
「なにやってんの?おまえ」
 と、巨漢の林に突っ込まれる。だが、自分が聞きたいところだ。なぜ、急に下半身が動かないんだ?これが、テレビで聞いた金縛りって奴か?でも、一部だけ動かないなんてことあるのか?上半身だけクネクネと動かしている様はなんとも滑稽だったろう。
「いや、足が動かないんだって」
 はじめは何の冗談かとボケーッと眺めていた林と木村だったが、段々顔が青ざめていく僕の様子にいよいよタダゴトではないと感じ取ったようだ。
「なんだ、おまえ達まだいたのか?今日もうここ使わないから鍵締めちまうぞ?」
 一旦、奥の控え室に入っていた地理の教師が白衣を脱いでもう一度現れた。僕と林と木村は地理の教師に状況を説明する。とりあえず、地理の教師と林の肩を借りて保健室へ向かうことになる。保健室のおばちゃん先生に足が動かない旨を説明するが、当然保健室ではどうすることもできない。疲れた時はふいに金縛りがあるなんて事を説明されたが、僕は疲れてないし、たっぷり睡眠はとっていたのである。それにストレスなんてものは、それほどはないと思っている。たぶん。
 ともかく僕は一旦ベッドに横になり、様子を見ることになった。林と木村は「いいな、授業サボれて」なんて他人事全開な発言をしていたが、こちとら足が動かないのだ。このまま一生下半身麻痺なんて事を想像していた僕は憤慨した。
 僕は不安な気持ちのまま、ベッドに横たわり保健室の天井を見ていた。窓から一匹の羽虫が入ってきて人体模型に止まる。時折、廊下を歩く人の足音。足をさすってみたが感覚はあれども、やっぱり動かない。僕の考えはどんどんと暗い方向へ向かっていた。
 足が動かない僕は当然サッカー部を退部するしかない。自慢じゃぁないが、僕はそこそこモテる。でも、サッカーもできない満足に歩くこともできない僕に女の子は誰も見向きもしなくなるだろう。そして、男友達も離れていく。
 僕が一体何をしたって言うんだ?残酷な未来を想像して少し疲れた僕は次第に瞼が重くなっていた。

 これは夢だろうか?最初はそう思っていた。自分の体を見ると真っ白い大きな翼をつけた鳥になっていた。鳥になったのなら取りあえず飛ぶしかないだろう。飛んだ事はなかったが、僕は取りあえず翼を動かしてみた。
 動く、こいつ動くぞ……。笑おうと思ったが鳥故に顔面の筋肉は動かず笑えなかった。

 選択肢がないと言うのは時に楽である。それ以外は考えなくて済むのだ。選択肢があるというのは自由であるんだろうけど、その自由をうまく扱えない奴にとっては、なんとも煩わしいものでしかないように思う。

 気づくと僕は宙を舞っていた。なんだ、空を飛ぶなんて簡単な事じゃないか。僕が下を見下ろすと、そこは見慣れた僕の学校だった。僕はさっきまでの不安なんか一切忘れていて、ただ空を飛ぶ事に夢中になっていた。もの凄い速さで空をどんどんと滑っていく。感じる風、羽ばたくことで少しずつ溜まる疲労。この感覚は夢ではなく、本物だった。
 
 どれくらい空を飛んだだろうか?体は大分疲れてきたし、少し飽きてきた。どんなに突然のショッキングな事も簡単に出来てしまったり、単調だったりすると割とすぐに慣れてしまうものである。これが人類の環境適応能力なのか?いや、今は鳥なのだから脳味噌も鳥の脳味噌なのか?でも、そうだとしたらこんな事自体考えられるだろうか?
 なんだか考える事が面倒臭くなってきたので、見えてきた砂浜に取りあえず降りることにした。
 さほど大きくない砂浜では、何人かが泳いでいたり、砂浜で遊んでいたりする。僕は砂浜と道路を隔てるコンクリートの壁に降りることにしたのだが、飛ぶことより降りることの方が断然難しい。危うく顔面から派手に落下する所だったが、生まれ持った類希な運動神経で人生初のランディングもうまいこといった。
 ここはどこなんだろう?取りあえず気の向くまま、風の向くまま飛んでみたのであり、どこら辺かというのは全く把握していなかった。取りあえず来たことの無い場所であろうことは確かだった。それに僕の学校から海までは随分距離がある筈だ。気づかない内にかなり飛んだのだろう。
 砂浜で楽しく話している一組の家族に目がいく。父親と母親とその息子。兄と妹が近所の子供を預かっているなんて事も考えられるが、何となく仲の良い家族って雰囲気がした。
 母親は年の頃は30くらいだろうか?水着の上にTシャツを着ている。品の良い笑顔が印象的だ。そして父親はと言うと……水着のハーフパンツを履いた普段はサラリーマンでもしているんだろうって感じである。そして、僕は思った。本当に直感でという感じで……。
 この父親は僕なんだ。
 全然年上で知らない綺麗な女の人と一緒にいて、男の子を連れているが、この男は僕だ。たぶん未来の僕なんだろう。
 良かった。ちゃんと足は動いている。
 
 安心したのも束の間。両親から離れ、小学生低学年だろう男の子が、どんどんと沖の方へ泳いでいく。両親からは自然の岩壁が邪魔して視界に入らない。その為、全く気づいてはいないようである。
 僕は心配になり、飛び立つ。不安は的中する。
 男の子は沖の方で足でもつったのだろう、もがいている。このままではいずれ溺れてしまうだろう、僕は両親に向かって上空から鳴き声を上げてみたが、巧い事大きな鳴き声が出ず、中途半端なしゃっくりみたいなのが出るだけである。
 あぁ、鳥であることは空を飛ぶには便利かもしれないが、人に何か伝えるには何とも不便な体ではないか。
 暢気に奥さんと話している自分の未来の姿に頭に来た僕は頭の上にフンを落としてやった。我ながら見事なコントロールである。父親が空中からの爆弾で憤慨した後、沖に流された息子にすぐに気づき、どうやら事なきを得たようだ。その様子を見た後、僕の意識はすぅーっと鳥から離れていった。鳥の形をしていた意識が宙に溶けて分解していくような感じだった。

 僕が目覚めると、天井には蛍光灯の光。そしてすっかり暗くなった窓の外の景色。僕が少し首を持ち上げると保健室の先生は机の上で何か書類を書いているようだった。僕は上半身だけ起きる。乾いた喉がむせて軽く咳きをする。保健室の先生がこちらに気づく。
「あ、起きた。西野君大丈夫?」
「ええ、まぁ……なんとか」
 僕の足は何事も無かったかのように動いていた。普通にそのままベッドから降り、立ち上がり歩いて見せ、足をさする。全く何の問題もない。これでは僕が今まで性質の悪い冗談でもやってたみたいだ。
「足はちゃんと動くみたいね。痛くない?」
「はい……痛くはないっす」
「また同じ事が起きるみたいだったら、ちゃんとお医者さんに見たもらった方がいいね」
「はい」
 原因はなんだったのだろう。それにあの鳥になった不思議な体験はなんだったのだろう。どうせ人に言っても信じてもらえないだろうし、僕自身もあんまり信じられなかったので、暫くこの事は誰にも言わないでおこうと思った。

 取り合えず、その後ずっと同じような事が起こる事もなく僕はサッカー部を続けられ、女の子からの人気もそこそこのまま高校生活を終えることになる。あの時海岸で見た自身の姿、あくまでそう感じただけだが、あれは本当に未来の僕の姿なのだろうか?それはずっと先の事であるが、真偽のほどはいずれ解るだろう。
 

鳥になる夢

何気にそこそこの女子からの人気のある高校生生活ってうらやましいなぁって自分で書いてて思っててみた。
普通であることって凄い難しいし、逆にあんまりあり得ない事であるように思う。
みんな何かしら事情があって、どっかしら異常な事があるもんだ。

まぁ、とりあえずありがちな「俺は○○、どこにでもいる普通の高校生」みたいなイメージが浮かんできてしまったので仕方ない。
我ながらなんて、能のない出だしだ。

鳥になる夢

とある高校生が突然、授業の終わりに足が動かなくなってしまう。 そして、保健室で横たわりながら彼は妙な体験をする。自身が鳥になってしまうのだ。 そこで、人生初の鳥の体験をしながらまた妙な光景を目にする事になる……。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-04

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