ピンク・フラミンゴ

三月 イタリア ミラノ。 一枚の絵がもたらす断片的でありつつも、確固たる記憶と衝動。

 三月 イタリア ミラノ
 
 とある青空の日。それは誰にも、何ものにも干渉されず、左右されないことそのものを示しているような、そんな晴天だった。暖かい陽気は二月の寒さを一瞬だけ忘れさせ、春が近いことを知らせた。この時期のヨーロッパにしては珍しく一切の冷気が断ち切られていた。風もなく、外で身体を動かすのに最高のコンディションだが、僕は美術館の前にいた。だから、僕にとってはどうでもいいことなのかもしれない。いくら外の外気が晴天晴れ晴れとしていても、これから屋内に行く僕に作用するわけでもないのだ。僕は美術館の画廊を目指していた。厳密に言えば、僕が目指しているのは画廊ではない。もっと別の抽象的な瞬間そのものだ。それにそれがここで手に入るかの確証はない。僕はある種の賭け事に講じているのだ。それはどこか皮肉的な要素を伴った祈りに似ている。僕は一体、何に対して祈りをささげるのだろう。希望的観測か、気まぐれな幸運か、或いは必然的に強要される運命か。いずれにしろ、僕がしていること自体は賭け事と大差ないように思われた。僕は冷え切った券売機の前へと歩みを進める。
 平日の午前中ということもあり客足はなく、周りには誰もいなかった。しかし人で溢れかえっているよりはマシだ。何にも節度はあるし、何かに投じるべき環境もまた存在している。今回で言えばその環境とはまさしく途方に暮れるような静けさそのものだ。だから僕だけが一人、静まり返った券売機の前に取り残されていた。というのは実に整った環境であるように思う。舞台が整っている。僕は券売機に手を伸ばす。
券売機は機械的な冷たさをそこに宿したまま、僕が指示した通りに大人一人分の入場券を吐き出した。極めて機械的な発行音。静まり返ったその場には酷くその音が響いた。けれど、それはあらかじめ用意されていた静けさがもたらすものであった。決してイレギュラーではないのだ。入場券を持って、美術館の入り口に向かう。窓口らしいところには白人の中年女性が一人いて、いくら読み返しても変わらないようなすすけた色の新聞紙を広げていた。中年女性は鼻歌まじりに、時折、紙面をめくった。鼻歌はよくよく聴いてみれば、マイケル・ウェーバーの「サンシャイン」だった。「サンシャイン」の明るい鼻歌と対象的に窓口はいささか古ぼけてじめじめとしていた。仕方ないのだ。典型的な美術館の窓口なんて誰も気にしないから。僕が窓口に差し出した入場券を見ると、一瞬の間をおいて彼女は一連の動きを止めた。静止から再生。
「あら、ごめんなさいね。気がつかなくて」
そう言って、紙面から顔を上げると入場券の半券をもぎ取って、こちらに返した。実に手馴れた手つきだった。彼女はずっとここで働いているのだろうか。こんなじめじめしたところで?そう考えると聊か彼女が可哀想に思えた。
「珍しいわね、こんな時間に。しかも外人さんが」彼女は言う。「あなたは、イタリア語がわかるのかしら」
「ええ、少しだけなら」僕は言った。
彼女はそれを聞いて、二度ほど頷いた。そこに意味はない。
「大丈夫よ、発音も綺麗だもの。発音さえできてしまえば、大抵の言葉は通じるわ。少なくともここの言葉はそうなの。ところで、あなたは中国大陸から来たのかしら?」
「いえ、日本からですが」僕は言った。
先ほど同様、彼女は頷くと今度はうっすらと笑顔を浮かべた。それはどこか好意的な笑顔だった。好意的で友好的な笑顔。僕にはそんな表情は思いつかないだろう。
「礼儀正しい国の人ね」彼女は笑った。
「礼儀正しいですか?」
「ええ、とても、ね。あなたたちは、ルールをきちんと守ってくれるもの」
「なるほど」
「でも、別にこれは差別しているわけではないのよ。ただ、あなたたちのいいところを褒めただけなのよ」
「大丈夫ですよ。ところでそのルールというのは?」
彼女は窓口の硝子窓に張られた張り紙を指差した。
「写真は駄目。絵がほしいなら出口の売店で絵葉書を買って頂戴。それと、絵には絶対に触れないで。それだけよ。」
「ありがとう」
お礼を言って僕は窓口を後にした。
恐らく彼女は普段からこんな風に来場者に声をかけるのかもしれない。確信はないが、僕にはそれがごく自然になされたように感じられた。
半券をコートのポケットに突っ込むと僕は美術館の正面玄関から中に入った。美術館は洋館づくりで屋根や壁こそは古いものの、そこには確かな荘厳さが閉じ込められていた。長年染み付いた雨の匂いがした。館内には大理石の冷たい匂いが漂い、足元に敷き詰められた真紅の絨毯は館内に一切の靴音の侵入を許さなかった。中世のヨーロッパを思わせる大きなシャンデリアが絨毯に僕の影を映す。それは改めて僕しか館内にいないということを如実に示した。けれどそれもまた舞台設定であり、相応しい環境なのだ。僕は案内板に従って、画廊を目指した。
どれくらい奥まで来たのだろう。そう思ったのは随分、多くの画廊を見て回った後のことだった。ここまで実に多くの絵画を見た。デッサンからクロッキー、肖像画、版画、印象派、写実主義の一派と実に様々な絵画がこれまで画廊に並んでいた。あるものは描いた者の顔を鏡のように映し、あるものは歴史が塗り替えられるほんの数十秒を切り取っていた。どの絵画も日本絵画にはないヨーロッパ独特の情調・色合いを持ち合わせており、また、それらの配列や位置にも美術館側のこだわりが見て取れた。けれど、それでも僕の心を掴む作品には出会えていなかった。僕が言うところの「賭け事」の詳細である。僕はなんの目的もなしに美術館を訪れたわけではない。少なからず、一応の目的を持って、ここを訪れていた。それは、作品との出会いである。僕は作品との出会いを求めてここに引きつけられた。僕が探しているその魅惑的とも言える類の絵画は残念ながら日本にはないのだ。魔性にも似たその熟成された絵画は現地にしか存在しない。当たりがないに等しい賭け事にどうしてそこまでするのか。多くの人が、骨が折れるだけの徒労だと思うだろう。けれど、それは他人が抱く感情でしかない。僕には関係のないことだ。それに常にこんなことをしているわけではない。ときどきだ。だから、そこまで骨は折れないし、金もそこまでかからない。絵を見るだけだから。否、金でそれが手に入るのなら僕は苦労しないだろう。僕が求めているのは感情だから。僕は画廊に並ぶ絵画を一つ一つ細かく点検するように見て回る。情調的な小波が押し寄せてくる。確証にも似た感情の高ぶり。約束された偶然。
やがて、偶然が重なりあってその瞬間がやってくることを僕は知っている。それは胸の鼓動が高鳴ることによって、感じることができた。この先に、僕が求めている絵画がある。
僕は真紅の絨毯の上を一歩、また一歩と進んだ。そうして、今まで足元に敷き詰められていた絨毯が次の展示場から消えていることに気がついた。案内版には、第三展示場と書かれていた。第二展示場の境界から見た第三展示場には、今までとは違ったモノクロの世界が広がっていた。床にミリ単位の誤差も許さずにきっちりと交互にはめ込まれた白と黒のリノリウム板がその空間を成立させていた。窓側は全て硝子張りの仕様になっており、ちょうど中庭の噴水が見られるようにつくられていた。陽射しを受けた水は生き物のように光り輝き、生命力に溢れていた。
第三展示場に足を踏み入れる。足元のリノリウム板は靴底と反応して、実に短絡的な音を発した。奥へと進む。感情を伴う歩み。奥へ進むことで僕は二度と後に戻れないように感じた。物理的なことではない、極めて深層心理的な部分でなにかがかちりと音をたてて、振り切れた。
第三展示場には驚くべきことに絵画が一枚しかなかった。しかし、その一枚だけでいいと思えた。この絵画は一枚でのみ、その存在を示す。それは僕が求めている絵画であったからだ。僕はその絵画を見た。鼓動、小波、高ぶり。それらが僕の中で繋がった。
そこには鮮やかな一羽のピンク・フラミンゴがか細い一本の足で、白いカンバスに沈んでいた。羽毛の線一本一本に至るまでに写実的かつ忠実的に描かれていたフラミンゴには、生命が宿っているのが目に見えてわかった。このフラミンゴは、生きている。生きたままその一瞬を止められ、カンバスに沈められた。僕には、その絵画が生と死の狭間を表現しているように感じられた。僕は突き動かされる。衝動的な高鳴り。
それから僕はしばらくその絵の前で考えを巡らせた。けれど、その考えは脈絡もなければ、ドラマチックでもない。ただ単純に内側から漏れてくる私見的な考えでしかなかった。夢にも溢れていなければ、愛にも溢れていない。そこらのロックバンドでさえも歌わないようなこと。そんなつかみどころのない思考が溢れ出る。
僕は考える。この白いカンバスに沈んでいるフラミンゴのように僕もこの社会の中に沈んでみてはどうだろうか。何も考えず。公園のベンチに腰掛けてこの世の中を見つめているのはどうだろうか。そのとき、僕の目には一体、どんな社会が映るのだろうか。楽観的か、悲劇的か、歌劇的か。或いは、限りなく閉鎖的か。
「それも悪くない」僕は小さな声でもごもごとぼやいてみた。
僕は気に入った絵画を見つけると必ずこうしてその絵画の前で思考を巡らせる。その瞬間だけは、僕の周りの世界は止まって感じる。時間を気にせず、いろいろなことに考える。それは東京の雑踏だったり、ポルトガルの象徴的な鶏だったり、あるときは資本主義経済の根幹についてさえ僕の思考は及んだ。ある意味、どこにでも通じている思考回路を形成するのだ。
そして今回の思考は、僕の故郷についてだった。僕は自分の故郷について思いを巡らせた。それは、この絵画が僕に与えたものなのか、それとも僕自身が望んで考えたことなのか、それはわからない。けれど、僕は克明に自分の故郷について思いを馳せた。
僕はもともと九州南部の出身だった。僕が高校時代まで過ごしたその地はいわゆる工業地帯だった。あちらこちらにそびえ立つ煙突からは朝から晩まで絶えず灰色がかった黒煙がもくもくと吐き出されていて、それは雲と一体化するまで空に伸びていた。海と繋がっていた川の水にはヘドロや油が混じり、ひどい異臭を放っていた。時折、大きな漁船が付近の海を通るとその波に乗って油などが川に注がれるためだった。けれど、近隣住民はそれを当たり前のこととして考えていた。人々はそういった有様が工業地帯というものだと割り切って考えていたのだ。その頃の僕はそんな何の面白みも持たない、判を押したような町に飽き飽きしていた。僕はあの町になんの思い出も見出せなかったのかもしれない。思い出せるのは、煙を吐き続ける煙突と奇妙な色に濁った川だけだ。そして、それは歳を重ねた今でも同じだ。変わらないものなのだ。
この結論に恐らく当時の僕は気づいていただろう。だからこそ、そんな皆無に等しい世界から脱しようと必死に逃げ場を探した。僕は高校を卒業と同時に上京し、小さな大学に籍をおいた。その後、現在の美術関係の仕事につき、イタリアに渡った。価値ある絵画を取引する仕事だ。
しかし、今日は仕事で美術館を訪れていたわけではない。僕はきっとこうして絵画の前で考えるべきであったのだ。それがたとえ、どんな内容であるにせよ。とにかく、僕は考えるべきであった。当てのない思考回路を回すべきだった。だからこそ、考えさせてくれる絵画を求めていたのだ。ある種の感情を伴う思考の渦。
僕の意識は徐々に、試行錯誤の土砂降りから解放されつつあった。館内には相変わらず、人気がない。依然としてどんな音も生じることを許されない閉鎖的な空間が継続されていた。足元に敷き詰められたリノリウム板は次の展示会場まで白黒の順序を違えることなく、続いていた。僕は絵画の下にあるプレートを見て、この絵画を描いた画家の名前をなぞってみた。聞いたことのない画家だった。この画家がなにを思ってこのフラミンゴを描いたのか。それは僕にはわからない。けれど、それはきっとこの画家だって同じはずだ。描いた本人にさえその趣旨は、わかりはしないのだ。けれど、その具体的な形を持たない意思によって描かれたものには必然的に芸術性が宿っている。それはある種の画家としての経験がもたらすものなのかもしれない。何万枚もの絵画を描き続けることによってしか得ることのできない経験がこの絵画に生命を宿したのだ。
フラミンゴは白いカンバスの中で静かに目を閉じていた。僕はそれに習うように目を閉じる。僕は自分の内部に目を向けた。
そこには、僕の中には今までに感じたことのない僕がいた。どこか排他的に支配されつつも、形而上的であり続ける僕の内部の感情はかすかに顫動した。やがて、別の僕と目が合った。僕の内部にいる彼はどこか儚げで、少し頬が削れていた。
「僕はこのフラミンゴが恋しいんだ」
その無感情で淡白な言葉に僕の手は震えた。僕はまだ暗闇を見つめている。僕には別の僕が確かに溶け込んできているのがわかった。液体がじっくりと時間をかけてティッシュペーパーの繊維を伝って、全体に染み渡るように、僕の中にいる彼もまた、確実に僕を侵食していた。侵食し、僕の体内にどろりとした違和感を産みつけた。僕には彼が意図していることを理解できる。それは当然のことであった。僕自身が考えることであるし、そして他ならぬ自分のことであったからだ。
僕はゆっくりと目を開ける。目の前にいるフラミンゴは変わらずその瞳を頑なに閉ざしていた。頑なにその瞳に光りが宿ることを拒否していた。今の僕には何もできないのだ。けれど、それが正常である証拠のようにも僕には感じられた。
それから僕はどろりとした違和感を孕んだまま、フラミンゴが描かれた絵画の前を後にした。いずれはやってくるものだから。
それからもいくつかの展示場が続いた。けれど、画廊に並んだ絵画が僕の内部に侵入してくることはなかった。感情は静かに流されて行くばかりであった。結局、館内で誰かに会うことは最後までなかった。舞台は終始完璧であった。

 出口にさしかかったところで、窓口にいた白人の中年女性が再び僕に声をかけた。中年女性の手元には、もみ消された吸殻が何本か規則正しく並べられていた。彼女は煙草を吸うようだ。
「どうだった?」
「ええ、なかなか見応えがありましたよ」
彼女は満足そうにはにかんだ。僕にはどうやってもつくりあげることのできない表情。
「でしょう。ここには有名な絵画こそはないのだけれどその分、多くの絵画を所有しているのよ。たぶんここらじゃ、一番多いでしょうね」
会話のついでに僕はあのフラミンゴの絵画について訊いてみることにした。計算された台詞ではない。他愛無い会話の一部に過ぎない。
「ところで、第三展示場にあったフラミンゴの絵画についてあなたは何か知っていますか?」
「第三展示場?・・・ちょっと待ってね」
彼女はそう言うと、窓口の外側に差してあったパンフレットを一部引き抜いた。僕が午前中に見たときと同様に、彼女はパンフレットを広げ、視線を落とす。
「ああ、ファビオ爺さんの絵ね。あれはこの美術館で唯一の市民作品なのよ」
「市民作品?」
「ええ、プロの画家の作品ではないわ。アマチュアの作品なのよ。でも、ここの館長がえらくファビオ爺さんの絵を気に入ってね。それで置いているのよ。他にも作品はあるらしいけど、館長はあのフラミンゴの絵がとびきりお気に入りらしくて、あれだけ画廊に出しているらしいけど」
「第三展示場を一枚だけのために全て使うほどに、ですか?」
「全くよ。なんでも、世界感が重要らしいわ。私にはあの絵画がそこまですごいものには思えないのだけれど。まあ、それは館長の自由よね、この建物も絵画もすべて館長のコレクションなんだもの。誰にもケチつける権利はないわよ」
そう言うと彼女はパンフレットを折り畳んで、もとあった場所に戻した。それから目線を僕に合わせる。
「まあ、あの絵に興味があるなら直接本人に訊くのが一番だと思うけどね」
「直接ということは、その方は存命なのですか?」
僕がそう訊くと彼女は少々、表情を曇らせた。それはいつかのガールフレンドが僕に対して向けた表情を思い出させた。あのときの彼女は、とても機嫌が悪かった。
「ええ、ピンピンしているわよ。彼は歳相応の歳のとり方をしていないからその点、厄介なのよね。労わってあげようという気にならないもの」
僕には彼女が言わんとしていることがうまく飲み込めなかったので、曖昧に頷いた。窓口内にかけられた時計に目がいく。時刻は昼過ぎを回っている。
「それで、その方にはどうしたら御目にかかれますか?」
「・・・そうね、あの人は週に一回はここを訪れるけれど曜日とかは特に決まっていないのよね。本当に気分次第って感じよ」
「・・・そうですか」
僕はそれを聞いて少しがっかりしたのかもしれない。確かかはわからない。なぜなら、僕は特にその人に何を尋ねたいというわけでもなかったからだ。ただ、単純にあのフラミンゴの絵画を描いた人がどんな人物であったのかに興味を持っただけだ。
「ねえ、あなたにもあの絵は特別に見えたのかしら?」
彼女は手元に規則正しく並んだ吸殻を見つめたまま、つまらなそうに言った。
「・・・そうかもしれませんね。少なくとも画廊に並べられている他の絵画よりは特別に感じました」
僕と彼女の視線が再び繋がる。単純なアイコンタクトのようだ。
「・・・なら、あなたは彼に会ったほうがいいかもしれないわね」
彼女はそう言うと、並べられていた吸殻の一本を指で弾いた。その瞬間に、今まで保たれていた規則的な並びは崩壊した。崩壊とは終わりを象徴すると同時にある種の始まり、起源であるのかもしれない。例えば、南極の氷山のように。
「・・・・、この美術館の裏側に館長の別宅があるのよ」彼女は静かに口を開く。
「館長なら一日中そこにいると思うし、ファビオ爺さんの住所も知っているんじゃないかしら」
「・・・僕は、行くべきでしょうか」
彼女は背もたれに身体を預ける。パイプ椅子は一瞬だけ断末魔の悲鳴にも似た音をたてて、軋んだ。
「あなたの好きにすればいいのよ。これはあなたの問題じゃない。けれど、敢えて言わせてもらえば私は行ったほうがいいと思うわ」
案外、特別な出会いであるかもしれないわ、と彼女は付け足した。
僕は彼女にお礼を言うと窓口から離れた。午前中にもそうしたように。
彼女の言葉を受けて、僕は館長のところを目指して歩き始めた。彼女の言葉が僕の決心を確たるものにしたわけではない。ただ、そう言ってもらいたかっただけなのかもしれない。
「ねえ!」
彼女の呼びかけに僕は振り返る。
「やっぱり、あなたは礼儀正しい国の人ね」
僕は彼女に向けて、手を振る。彼女はそれに応えるように微笑んだ。彼女はきっとこれからもあの薄暗い窓口でマイケル・ウェーバーの「サンシャイン」を口ずさみながら、すすけた色の新聞紙を広げるだろう。けれど、そこにもやはり確固たる自信は一切、介在してはいない。あってはいけないのだ。

 館長がいるという別宅を目指して、僕は昼下がりの街を歩く。昼下がりのミラノの街並みは午前中に僕が見たものとはまた少し違って、なだらかな時間の流れの中にあった。ミラノでの時間の流れは僕が一時期東京で学生をしていたときよりものんびりとしたものだった。街を行く人々は決して東京の人波のような切迫感にも似たせわしさをもっていない。僕はここに来て、どれだけ東京が忙しい場所かを知った。石畳の道路にはレールが併設されており、その上を路面電車がのんびりと流れていく。広場では若者達が本を読み、討論を繰り返し、どれだけ自分の考えが理論的かを滔々と聞かせていた。テラスでは老夫婦がコーヒーを交えて、談笑している。教会の鐘が鳴り、無数の鳩が群れとなって飛んでいった。この街においては起こること、なされることの全てがなだらかな時間の中で行われた。
そして、僕もまたそのなだらかな時間の中にいた。ここには煙突も濁った川も、能面を貼り付けて蠢く雑踏も存在しない。紛れもない今の僕がいるべき場所であった。しかし、それは今だけの話なのかもしれない。僕はまた東京に戻るかもしれないし、あの思い出のない工業地帯に帰郷する可能性だってある。
「或いはもっと、やつれた場所か」内側で彼が静かに呟いた。彼はずっとそこにいる。僕が生きてきた時間と同じ時間だけそこにいる。本当のことを言えば、僕はもう日本には戻りたくなかった。けれど、そういうわけにもいかない。いつかは必ずこのなだらかな時間の中から出なければならないのだ。だからせめてそのときまではここが僕の居るべき場所なのだと思いたかった。

 館長の別宅は美術館から十五分ほど歩いた住宅街にあった。美術館そのものを所有しているくらいだから僕は館長が相当の金持ちだと考えていた。ひょっとしたら、古くからの伝統的な家柄などではないかとさえ僕は考えていた。真っ白な大理石の家、広い庭、室内プール、ガレージにぎゅうぎゅうに詰め込まれた高級外車の数々。
けれど、実際に僕が行き着いた館長の別宅はそれら僕が考えていたものとは全くもって正反対のものであった。否、正反対にももっと拍車をかけたものであったかもしれない。
そこら辺にあったレンガを積んだだけのようなその建物は壁が風化していて、ところどころレンガの隙間からセメントの部分がむき出しの状態になっていた。郵便受けらしきものも設置されていたが、プレートの文字はかすれて既に読むことができない。インターホンはなく、代わりにドアノックが玄関口らしきものにぶら下がっていた。ドアノックの内側にはうっすらと埃が溜まっており、それはここしばらく来訪者がないことを顕著に表していた。僕は窓口の女性にもらった住所と照らし合わせてみる。けれど、それはいくら睨み続けていても変わることはなかった。
僕はその場で少し考えてから、ドアノックを握り、二回ほどドアを叩いた。木製のドアは一瞬、崩れ落ちそうになりながらもなんとかドアノックを弾いた。乾いた木の音はびっくりするくらい辺りに響いた。そして、再び静寂が訪れた。いないのだろうか。けれど僕がもう一度、ドアノックに手をかけようとしたところで、ドアの奥からか細い老人の声が聞こえた。
「誰かね」
抑揚のないしわがれた老人の声は目の前の薄そうな板張りのドアを通しても聴きとりづらいものだった。これが普通のドア越しに行われたらきっと老人の声は届かないだろう。老人の声はそれほどまでに小さいものだった。
「急に御邪魔してすみません。あなたが所有しているという美術館について少し御話がしたいのですが、あなたは館長様でよろしいのでしょうか?」
「絵なら売らんよ」
老人の低い声が響いた。
「それに、その気持ちの悪い丁寧語はなんだ。そんな胡散臭い喋り方をするのはアジア諸国の人間だけだ」
それから暫くドアの向こう側はしんとした。
「・・・絵を買い取りに来たわけではありません。ただ、少しあのフラミンゴの絵画のことでお聞きしたいことがあるのです」
板張りのドアから返事が返ってくることはなかった。老人はまだドアの向こう側にいるのだろうか。もう、奥に戻ってしまったのだろうか。けれど、そうした心配はドアがわずかに開いたことで不要になった。
ドアは酷く立て付けが悪いのか、何度か足蹴りされてからゆっくりと開かれた。開かれると同時に酷い音が耳に響いた。それこそ、断末魔の叫びであった。ドアの隙間から背の低い老人が顔を出した。いくらか刻まれた皺に、こけた頬、眉は雪が降り積もったように真っ白に染め上げられていた。
「誰からここの場所を聞いたのかね?」
老人はいかにも喋りにくそうに口をもごもごと動かした。
「窓口の女性です」
僕がそう言うと老人は眉間に皺を寄せた。皺だらけの顔はくしゃくしゃに丸められた新聞紙のようになり、額に一層、大きな皺が浮き上がった。
「困ったものだね」
老人の様子から僕は明らかに歓迎されていなかった。人にこれだけ迷惑がられたのは何年ぶりだろう。僕がそう考えている間にも、老人は足元に向けてなにやらぶつぶつ文句を垂れていた。
「・・・あの、ご迷惑でしたら、その、」
「かまわないさ、入りなさい」
そう言うと、老人はもう一度ドアを蹴飛ばしてから開け放した。室内の冷気に僕は一瞬、驚いたが促されるまま中に入った。僕が入ったことを確認すると老人は外側からドアをまた蹴り、ドアの底を引きずるようにして戻ってきた。
「何分、たてつけが悪いのだ。こうしないと言うことを聞かなくてね。さ、応接室へ行こう」
老人はそう言うと僕を応接室に案内してくれた。廊下の足元には美術館に敷き詰められていたものと同じ真紅の絨毯が敷かれていた。そして、美術館と同じ匂いがした。照明こそはシャンデリアでないものの、やはり古いもののように感じられた。ここが原点であるなら、あの美術館がいわば派生的なものだろう。
「あの、先ほども伺いましたが、あなたがあの美術館の館長さんで間違いないのですね」
僕は老人の小さな背中にそう訊いた。老人は静かに頷いて見せた。
「ああ、あれは私の生涯のコレクションさ。何物にも替え難い私の人生そのものなんだ。だから、私は存外、君が尋ねてきたことを嬉しく思っているのだよ。さっきは酷いことを言ってしまって悪かったね」
「いえ」僕は言う。
「ここのところ、絵を買いたいという輩がやたらと訪ねてきてね。本当に困ったものだよ」老人は溜息を吐いた。吐息は室内だというのに不思議と白く広がった。
「彼らは聊か勘違いしている。他人の人生は金で買えない。なら、それと同等のものだって等しく金では買えない。それがわかっていないのだよ」
「あなたの人生である絵はお金には替え難いのですね」
僕がそう言うと館長はまた静かに頷いた。
「そうとも、さっきも言ったようにあれは何物にも替え難い私の人生そのものなんだ」

館長は応接室に僕を案内すると暖炉に火を燈し、温かいコーヒーを出してくれた。コーヒーからはしばらく湯気が昇っていたがやがてそれも収まっていった。応接室には長い平テーブルに、薄い生地のソファチェアが二脚向かい合わせに置かれていた。通りに向けて大きくスペースをとられた窓は厚いワインカラーのカーテンによって閉ざされていた。
向かいあった我々は暖炉の木々がぱちぱちとはぜる音に耳を澄ませながら、コーヒーを啜った。決してうまいとは言えないコーヒーであったが、不思議とそれは僕の胃の中に吸い込まれていった。館長がカップをテーブルにおいたのはそれから幾ばくかしてからのことだった。カップはカタリと音をたてた。
「それで、君が私に訊きたいことというのは、どんなことなんだね」
館長は眉に積もった雪を払うように真っ白な眉にそっと手をやった。大通りを通る路面電車の震動がわずかに伝わってきて、わずかにテーブルを揺らした。それにあわせて、カップもかちゃかちゃと揺れた。
「第三展示場にあるフラミンゴの絵画のことです」
僕は言った。僕の内側では彼もまた同じように言ったのかもしれない。けれど、それは決して僕という器から零れることはなかった。
「・・・、そうか。君もあの絵が気になったんだね」
「はい」
館長はどこか儚げに組まれた自分の手に視線を落とした。骨ばった館長の手には青白い血管が浮き出ていた。
「君には、あのフラミンゴは何色に見えたか、訊いてもいいかな?」
僕には一瞬、館長が何を言いたいのかわからなかったが、素直に応えた。
「ピンク色をしていました」
「君にはそう見えたんだね?」
「ええ」
僕は第三展示場とそこにいる一羽のフラミンゴを鮮明に再現してみた。僕は赤い絨毯の敷かれた第二展示場から第三展示場を見ていた。
第三展示場には白黒のリノリウム板、大きく開いた窓、庭園の噴水。そして、やがて視線がフラミンゴへと向けられる。そこには片足でカンバスに沈み込んでいるピンク・フラミンゴがいる。遠くから見たフラミンゴは雪原に咲く一輪の曼珠沙華のようだった。その美しさに内部にいる彼は徐々にフラミンゴの絵画へと歩み寄る。僕には彼のしたいことがわかる。それは他ならぬ僕自身であるのだから。やがて、彼はカンバスに手をかける。どこかで窓口の中年女性が彼に言う。
「あなたはルールを守れなかった」
彼女の声は酷く悲しみに満ちていた。僕は彼に止めるように叫ぶ。けれど、彼にその声は届かない。僕は所詮、器でしかないのだ。
彼はカンバスの中でじっとしているフラミンゴに手を伸ばす。そこにはなんのためらいもない。それは衝動的な行動でしかない。
しかし、彼はフラミンゴに触れることができない。そこにはもう、フラミンゴの姿はないのだから。彼は全てを失ったのだ。
「私にはあのフラミンゴの羽毛が白く見えるんだ」館長は言った。
「君は知っているかい?フラミンゴというのはもともと、白いんだ」
「・・・いえ、存じませんでした」
僕が今まで動物園やテレビで見ていたフラミンゴたちは皆、淡いピンク色をしていたため僕はフラミンゴの羽毛は最初からピンク色などだと認識していた。
「彼らは、とても興味深い生物だ。生まれ落ちたときには、真っ白いのに食物から色素を吸収することによって羽毛の色が変化するんだ。そして、死と同時にまた生まれたときの真っ白な姿に戻る」
僕は館長の声に耳を澄ませた。彼の言葉は不思議と淋しげだった。
「わかるかい?真っ白に見えているということは、私に見えているフラミンゴはもう死んでしまっているんだ」
「・・・生まれ変わったとは、考えることはできないのでしょうか?」
僕がそう言うと館長は見開いた瞳を一瞬、こちらに向けてから親しげに微笑んだ。それは窓口の女性がしたものと同じ類の微笑みだった。どこか慈愛に満ちた微笑。決して僕が浮かべることのできない微笑。
「君は面白い考え方をしているね。なるほど、彼女が君にここを教えたのには一理あるのかもしれないね」
「そうですか?」
「ああ、そうとも」
どこかで教会の鐘が鳴っている。鐘の音はなだらかな時間が流れるミラノの街に染み渡り、水面に波紋を描くようにそれは広がっていった。石畳には人々の靴音が響く。けれど、そこには決して切迫感がない。街行く人々の靴音にはどこか古めかしい哲学的な何かが存在していた。
「私が考えるに、あの絵は見る者の死期を諭してくれる絵なんだ」
僕は黙って館長の次の言葉を待った。
「私があの絵を見つけたときには、あのフラミンゴは鮮やかな紅色をしていた。けれど、時間が経つにつれてその鮮やかさは失われていった。絵が劣化していったというわけではない。この場合は、見る側の価値観が劣化しているんだ。それは絵を見る人によって、見える色が違っていることから明らかなことだった」
僕はもう一度、あのフラミンゴを思い出してみる。けれど、やはりフラミンゴは淡いピンク色をしたままだった。目を閉じたまま、カンバスに沈んでいた。
「私はもう、長くないだろう」館長は悲しみに満ちた声でそう言った。館長は死期を悟っていた。

館長の家から外に出たときには、既に夕刻となっていた。街には冷気が徐々に入りこんできており、風に乗って甘い香りに似た雨の匂いが漂っていた。ミラノに渡ってから約二ヶ月の時間が経っていたが、それでも僕はこの夕刻の空気に馴染めていなかった。
帰りにいくつかの広場と通りを通過したが、どこにも午前中に見受けられた光景は残っていなかった。必ず何がしかの変化があり、また違った匂いがした。人々はこれから舞い降りる夜のために各々、準備をしているようだった。夕飯の買出しをする者、店を開けるために店内の最終調整を行う者、街でさえ夜を迎えるために街頭に明かりを燈しはじめた。そこには午前中のなだらかな時間は流れていない。だからと言って、切迫したものであるわけでもない。ただ、街は特別な雰囲気に包まれていた。それは日本や館長が言うところのアジア諸国にはないヨーロッパ独特の雰囲気であった。
僕は小さな公園を通って、ホテルに戻った。ホテルとは言っても大学寮を改装したものであったので、大それたものではない。フロントマンは常駐しているものの、ルームサービスやその他のオプションは一切ない。食堂は一応あったが、長期滞在者の財布には大きな負担となるため僕は自炊の道を選んだ。
元大学寮ということもあって、各部屋には備えつきのわりと本格的なキッチンや冷蔵庫、あらかたの調理器具が完備されていた。そして、なによりも格安であった。僕がわざわざこのホテルを選んだ理由はそこにあった。
フロントで鍵を受け取り、階段で部屋まで登る。エレベーターも完備されてはいたが、何分、元が寮であっただけにその耐久性は疑問に思われた。
四階まで上がって、湿った廊下を歩く。足元に敷き詰められた絨毯は美術館の絨毯とは違って安物で、歩く度に靴が引っかかった。ここに滞在してから毎日、一連の行動を繰り返しているが未だに馴染めない。そして、ホテル内で誰にも遭遇していなかった。
部屋に入り、明かりをつける。清掃員が来たらしくベッドメイクが綺麗になされ、ゴミ箱のゴミは紙屑ひとつ残さず捨てられていた。ベッド横のサイドボードからは置いておいたチップがなくなっていた。僕は冷蔵庫を開いて、十分に中身を検分してから閉めた。僕は以前、清掃員に缶ビールを一本盗まれたことを未だに根に持っていた。
部屋の隅には栓をされたワインの空き瓶があり、テーブルの上には今朝の朝刊と読みかけの小説がおいてあった。小説はイタリアに渡る前に買い込んでおいたものの一冊だった。僕はソファに腰掛け、ぱらぱらと小説のページを捲ったあとテーブルの上に戻した。何も変化はない。
僕はまだフラミンゴのことを考えていた。僕は忠実な日常に戻るべきなのだ。それこそが今の僕に求められていることだった。
浴室で熱いシャワーを浴びながらヴィリー・ジーンの鼻歌を歌うのも、酒の肴にしかならないような夕食も、毎日舐めるようにして減らしているブランデーでさえ変動することのない僕の生活を構成し、維持するには重要なものだった。そこに内部の彼は存在しない。それはただ単に僕自身が気づいていないだけかもしれないし、彼の興味を引くものでもないからかもしれない。いずれにしろ、彼が介入してくることはなかった。
ふとポケットにメモ用紙があることに気がついたのは、ブランデーによって徐々に頭がぼんやりとしてきたときのことだった。ポケットからメモ用紙を取り出し、記憶と照合を計る。それは、館長から教えてもらったファビオ爺さんの住所だった。館長が言うには、僕はファビオ氏に会ったほうがいいらしい。僕は館長の言葉を思い出す。
「申し訳ないが、君があの絵に関して本当に知りたいことはここにはないのだ。私が知っているのはあの絵がどういう絵なのかということだけなのだよ。私はそれしか知らないのだ。けれど、あの絵を画廊に置くにはそれだけでよかったのだよ」
館長はなにがしかの意思を僕に届けたかったのかもしれない。けれど、いくら考えても館長の言葉の全てを僕は理解することができなかった。今は全てのことがブランデーによって曖昧なまま流されている。曖昧に流され、それは二度と僕のところには戻ってこないだろう。それから僕は泥のように眠った。

 翌朝、僕は鋭い首の痛みに目が覚めた。どうやらあのままソファで寝てしまったようだ。部屋には無数の冷気が漂い、窓には結露した水滴がびっしりと張り付いていた。僕が思うに明け方が一番寒い。それは万国共通だ。どんなに暑い砂漠でさえ、夜には氷点下を迎えるように。テーブルに置かれた腕時計を手に取る。金属製の腕時計は芯まで冷え切っており、さながら氷のようになっていた。
時刻は午前6時を回ったところだった。僕はもう一眠りしようとベッドに潜り込んだが、冷え切ったベッドに耐えられなくって諦めた。エアコンのスイッチを入れ、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターをやかんに注ぐ。
火にかけ、コーヒーフィルターを用意する。ヨーロッパの水は基本的に硬水であるのでコーヒーなどには適さない。硬水で淹れた場合、いつも以上にまずいものを飲むことになる。僕は食パンをトースターに押し込んでから湯が沸くのをじっと待った。窓にはミラノの街が映っていた。
午前六時のミラノは朝焼けに満ちていた。眠ったままの街に朝日がゆっくりと流れ込んでくる。ミラノはまた落ち着きに似た時間の流れを取り戻しつつあった。きっとこの街のなだらかな時間は陽の光りによってもたらされるものなのだろう。
湯が沸くと、カップにフィルターを被せて、ゆっくりと湯を注ぐ。カップから立ち上るコーヒーの匂いは昨夜から部屋に溜まり続けていた冷気を一掃する。僕の一日はこうして始まる。部屋を暖めて、身体を温めて、全ては再起動する。文字通り、目を醒ますのだ。
朝食をとってからバスルームの洗面台に自分の顔を映す。そこには他でもない僕がいる。
この世に生を受けてから今に至るまで生きてきた僕の顔には成熟のピークを超えた年齢の老いが徐々に現れ始めていた。僕はシェービングクリームをたっぷりと塗り、髭を剃ってから丁寧に洗い流した。それから身支度を整えながら、天気予報を確認する。昨日と大して変わらない情報が流れると僕はテレビの電源を落として、部屋を出た。
フロントにはいつものフロントマンがいた。フロントマンは眠そうな顔をしながらパソコンの画面を睨んでいたが、僕の姿が見えると業務上のにっこりとした笑顔を貼り付けてこちらにやってきた。僕が思うにこの業務上の笑顔が最も難しい笑顔だ。
「今日もおでかけですか?」
「ええ、ところでこの住所の場所がどこにあるかわかりますか?」
僕はそう言うと館長から受け取ったメモ用紙を部屋の鍵と一緒に出した。フロントマンはしばらくメモ用紙を平然とした目で見てから、「少々、お待ちください」とフロントの奥へ入っていた。僕一人になったフロントは恐ろしく静まり返った。用意されていた静寂ではない。必然的な静寂。食堂も同じく一階にあるものの音は全くしていなかった。聞こえてくるのは控えめなクラシック音楽だけだった。
まもなく、フロントマンはプリントアウトされた地図を持ってきた。ご丁寧に住所の場所にはボールペンで赤丸が記されていた。どうやら住所の場所は街のはずれに位置しているようだった。
「ここからですと結構、距離があるようですね。よろしければ、車をお出しましょうか?」
「いや、大丈夫だよ。それよりこの地図、もらってもいいかな?」
僕がそう言うとフロントマンは笑顔を崩さず、プリントアウトされた地図を手渡した。僕はお礼を言ってからホテルを出た。

 僕があのフラミンゴの絵画について本当に知りたいこととは一体なんなのだろう。館長が昨日、僕に説明してくれたフラミンゴの絵画についての情報は僕の知らないものではあったが、別にそれが聞きたくて僕は館長のところを尋ねたわけではなかった。だとしたら、館長が言うように僕が真に知りたいことはこれから尋ねるファビオ氏が知っているのかもしれない。僕は朝日が差すミラノの街並みをまっすぐに横切っていく。建物にはまだ明け方の冷気が絡み付いており、人々の姿もまばらであった。僕の内部の彼は徐々に動き始める。そこには今までになかった確固たる意志が感じられた。僕の時間はわずかながらも始まってしまったのだ。僕はもう、後戻りできない。

 ミラノの都市部から離れるにつれて、今まで見えていた背の高い建物達は姿を消していった。足元に見受けられた石畳も気がつけば、砂利道に変わっていた。僕はどうやら随分、歩いたらしい。けれど、未だにファビオ氏の住所には辿り着けていなかった。それから歩くこと約二時間、僕はようやく目安となる川に行きあった。川には大橋が渡され、のんびりと車が通り過ぎていった。地図を見る限りでは、ファビオ氏の住所はこの川の向こう岸に位置していた。僕は川を渡って、ファビオ氏の自宅を探す。ミラノの都心部とは違ってここは田舎なだけにファビオ氏の自宅探しにはそこまで苦労しなかった。地図と照合してみてもぴたりと一致していた。
 黒い屋根に、白いコンクリートの外壁、くりぬかれたような窓、金色の装飾をなされたドアノックが丁寧にはめ込まれた玄関口。それがファビオ氏の自宅だった。その外装は僕に教会を連想させた。僕はドアノックを二回ほど鳴らしてから中の反応を待った。しばらくすると中から黒のタートルネックに、ジーンズというカジュアルな装いの女性がでてきた。女性にはどこか気品高いオーラが漂っており、僕は思わず息を呑んだ。
「・・・どちらさまで?」
「・・・あ、こちらはファビオ氏の御宅で間違いないでしょうか?」
「ええ、そうですが、・・・あなたは?」
女性は僕に確かな警戒心を向けたが、僕はそこにさえ上品さを感じ取った。
「館長さんのご紹介で、フラミンゴの絵について伺いに来た者です」
僕は自分で説明しながら、何を言っているのだろうかと思った。僕はもう少し物事をうまく説明できる人間だったはずだ。少なくともさっきまでは。
「・・・館長さん?」
「あ、ミラノの美術館の、です」
「ああ、あのフラミンゴの絵を気に入ってくださった館長さんね!」
女性は嬉しそうに言った。
「それでそのフラミンゴのことなんですが」
「主人なら、アトリエにいますのでご案内いたしますわ。どうぞ、お上がりになって」
女性はそう言うと玄関にあったスリッパ立てからスリッパを出してくれた。(ここは、何故か土足ではなかった)僕にはどこか違和感があったものの、促されるまま家に入った。      
家のあちらこちらに窓があるためか屋内には日光が差し込んでいた。日光のおかげで室内は暖かく感じられた。
「主人のこだわりなんですよ。それに室内にもお花が置けますから」
僕が窓の方を見つめているのに気づいたのか女性はそう言った。確かに日光が差し込む位置には丁度、ヒヤシンスの鉢植えが置かれていた。ヒヤシンスはまるで外に植えられているみたいに青々とした葉を有し、紫色の小さな花をたくさん咲かせていた。
「主人というのはファビオ氏のことですか?」
「ええ」女性は不思議そうな顔をした。
「それが、何か?」
「いいえ、なんでもありません」僕は何故かそれ以上のことを訊くのをためらってしまった。それがどうしてかはわからないが、どことなく彼女が有している雰囲気がそうさせたのかもしれない。
「主人のアトリエは離れにありますので」
女性は僕を庭の入り口に案内すると、外用のゴムサンダルを用意してくれた。(この家にはどうやらきちんと履きかえるという習慣があるようだ)庭は丁寧に管理されており、敷かれた石畳には落ち葉一つ落ちていなかった。ところどころにプランターに入った季節の花が置かれ、奥にはプラスチック製のアーチにツタが絡み付けられたものが続いていた。
「随分と広いお宅なんですね」
「ええ、都市部のほうでは難しいでしょうけど、なにぶん田舎ですからね。あなたはミラノにお住みで?」
「いえ、今は長期滞在でホテルに泊まっています」僕は言った。
「・・・そうなるといずれは、祖国にお帰りになるのかしら」女性は含みのある言い方をした。
「まあ、そうなるでしょうね」
僕は果たして、いつ日本に帰ることになるのだろうか。確かにいつまでもここにいることはできないのだ。今はここが自分の居場所であっても、どれだけ居心地がよくても日本に帰ることは避けられない。
ファビオ氏のアトリエはツタのアーチを抜けた先にあった。僕は離れと聞いて、てっきり物置かなにかなのだろうと思っていたが実際にはレンガ作りのきちんとした小屋だった。
女性が先に入り、ついで僕が入った。アトリエの内部はなんとも言えない湿り気と絵の具の匂いで満たされていた。ときおり、ニスのつんとした匂いが僕の鼻先をかすめた。
「ごめんなさいね、ひどい匂いで。ちょっと待っていてね」
「ええ」
女性はそう言うと小屋の奥に入っていき、声を張り上げた。恐らく小屋をこんな状態にしていたファビオ氏を叱りつけているのだろう。それからバタンと窓が開かれる音がして、奥からエプロンをつけた中年の男性が現れた。決して、「爺さん」と呼ばれるような歳には見えない。女性と同年齢くらいだ。男性は僕の前までやってくると掌をごしごしとエプロンで拭いてから手を差し出した。
「ようこそ、ファビオ・フィルマーニといいます」
「どうも、僕は・・・」
僕はまた不格好な自己紹介をしないように簡潔に自分のことを伝えようとするが、それは徒労に終わる。
「ああ、君のことは館長から聞いているよ。私の絵のことで訊きたいことがあるんだろう?」
僕が中途半端に差し出した手をファビオ氏はぎゅっと握って、言った。ファビオ氏の大きな手にはまだわずかに絵の具がついていた。

 僕とファビオ氏が向かい合って席につくと、女性はお茶を煎れに母屋へ戻っていた。
「綺麗な奥さんですね」
「まあ、確かに綺麗なカミさんに違いはないね。でも、怒ると怖いんだ。とても、ね」
ファビオ氏はそう言って、快活に笑った。
「あの、どうしてあなたは『ファビオ爺さん』と呼ばれているのでしょうか?」
僕がそう質問するとファビオ氏は露骨に顔を引きつらせた。
「彼女から聞いたの?窓口の人」
「ええ、最初にあなたの話を聞いたのは彼女からでした」
「困ったものだね」
それは僕が館長の家に行ったときにも聞いた台詞だった。想像するに彼らは日頃から窓口の女性に振り回されているようだった。
「その呼び方は彼女しかしないんだ」
「なんでも歳相応の歳のとり方をしないようで」僕は彼女が言っていたことを言ってみた。
「なんだい?彼女はそんなことまで言っているのかい?」
ファビオ氏は若干、呆れ気味に言った。けれど、「爺さん」と呼ばれるにはそれなりの理由があるに違いない。僕はそう思った。
「それで、どうして「爺さん」と呼ばれているんですか?」
「・・・」ファビオ氏は口を一文字に閉ざし、答えようとしなかった。けれど、答えはすぐにやってきた。
「隠居生活みたいなことをしているからよ」
見れば、プレートに紅茶をのせたファビオ夫人がそこには立っていた。ファビオ氏はなにも言わずに、用意されたティーカップを見つめていた。
「・・・もう聞いたと思うけど、この人はプロの絵描きではないのよ。画家ではあっても、それでご飯は食べられない。本職ではないの」
夫人はティーポットを傾けて、紅茶を丁寧に注ぐ。
「世間から見たら趣味に力を入れる隠居のおじいちゃんみたい、でしょ?」
「・・・僕はそうは、思いませんよ」
僕がそう言うと夫人は眼を伏せてから、にっこりと微笑んだ。
「ありがとう。でも、その線はないと私たちもわかっているつもりよ。彼女はそんな意地悪なことは言わないわよ。でも、まあ、おじさん臭いところはあるかもね」
「今日の君はよく喋るな」ファビオ氏はティーカップに口をつけてからそう言った。
「あら、ごめんなさい」女性は控えめに笑ってみせた。「では、ごゆっくり」
夫人はそう言うとプレートを持って、アトリエから出て行った。夫人が出て行くと部屋には再び絵の具とニスの匂いが戻ってきた。
「あの、余計なことを聞いてしまってすいませんでした」
「いいんだ。君は悪くない」
ファビオ氏はティースプーンでゆっくりと円を描くように紅茶を混ぜ合わせた。ティーカップからはゆっくりと湯気が立ち上っていた。
「それに、真実がそうでないとしても。画家という職業はそういうものなんだ。売れなければ、絵でメシが食っていけなければそれは趣味でしかない。好きなだけでは駄目なんだ」
ファビオ氏は周りの壁に立てかけられた絵画を見ながらそう言った。彼は僕が見ている僅かな間に急激に老けていた。けれど、それは外見的な意味ではない。内面の話だ。本来なら僕には見えないはずのファビオ氏の内側が僕には見えていた。それはどうしてかわからない。だが、僕には確かに見えていた。老いは太陽が徐々に沈んでいくようにゆっくりとファビオ氏に降り積もっていた。僕は理解する。窓口の女性が言っていた「歳相応の歳のとり方をしない」とはこういうことなのだと。彼女も僕と同じものを見たのだ。
「さて、そろそろ君の話も聞かせてくれないかな?」
「・・・ええ」
それから僕はフラミンゴの話をした。

 ファビオ氏が描いたフラミンゴの絵画について話し終えると、僕は少し気分が楽になった。それは今まで僕が素直に思ったことを言えていなかったからかもしれない。ここまで僕はあのフラミンゴを見た素直な感想を窓口の女性にも、館長にも言えていなかった。否、言っても意味がなかったのだ。恐らく、これはあのフラミンゴの絵画を描いたファビオ氏に言わなければ意味がないのだ。
僕が話している間、ファビオ氏は何度も頷くようにしてきちんと僕の話を聞いてくれた。実際にその絵を描いた人間に感想を述べるのはどこか恥ずかしかった。
「たぶん、君はあの絵画に恋をしたんじゃないかな」
ファビオ氏は煙草に火をつけ、顔の皺をゆっくりとなぞるようにしてから言った。煙草の煙は開け放された窓から入ってきた風に絡みとられた。僕は黙った。
「ああ、でも恋と言ってもそれは厳密に言えば恋ではないんだ。そうだね、魅せられたとでもいうべきか」
「魅せられた?」
「そう。君はあのフラミンゴに魅せられたんだ。館長が魅せられたようにね」
風がゆっくりと庭園に染み渡る。それはまだ昼だというのに寂しげで、冷気を孕んでいた。
「魅せられること自体はそこまで珍しいことではない。僕も若いときに一度だけ魅せられたことがあった」
ファビオ氏の言葉は急に冷たく響いた。彼の意識は少しずつ過去に埋没していく。ティーカップの湯気はもう消えている。
「それで、あなたはどうしたんですか?」
僕の中の彼は確固たる意識をもって、僕の内部を歩いていた。それは少しずつ終わりに向かっていた。
「・・・結局、私はその絵を焼いてしまったんだ。何故だろうね、あのときは焼いてしまったほうがいいと思ったんだ。けれど、私はそれを今も後悔している」
ファビオ氏は着実に何かを回想していた。それは僕が想像しているものよりも遥かに重々しい過去だった。今も彼は過去に焼いてしまった絵画に支配され続けている。僕が彼の内部に見出したあの老いた姿は彼が魅されたなれの果ての姿なのかもしれない。
「君は私のようにならないでくれ」
老いた姿の彼が言った。
その後、僕は彼の絵を買ってから帰った。赤いスカーフを巻いた農夫が畑に立っている絵だった。絵自体はそこまで素晴らしいものではなかったが、辺りの寂しさはあのフラミンゴの絵画と同じ世界観を保っていた。街と街を繋ぐ川にかけられた橋から川をぼんやりと眺める。そこには相変わらず平然な時間が流れ続けていた。

 翌朝、僕はファビオ氏から買った絵を見下ろしながらコーヒーを飲んだ。絵は自然と部屋の一部として違和感なく溶け込んでいた。今、この絵がこの部屋から失われたらきっとこの部屋は不完全なものになるだろう。どうやら、この部屋は最初から不完全だったらしい。僕は朝食を済ませるとコートと昨日のうちにまとめておいた荷物を持って部屋を出た。絵はもうあの部屋の一部なのだ。
フロントでチェックアウトの手続きを行う。いつものフロントマンは例のごとく眠そうな顔をしていた。僕が部屋においてある絵をあの部屋に置いてほしい旨を告げるとフロントマンはそれを難なく承諾してくれた。違和感にも似たその肩透かし加減を僕は奇妙に思ったが、そのままホテルを出た。外の石畳はここ数日降っていなかった冷たい雨に濡れていた。フロントマンは僕が角を曲がるまで深々とお辞儀をしていた。とうとう最後までフロントマンはあの鋭利な丁寧さを崩しはしなかった。僕は美術館を目指して歩く。
雨に濡れた美術館は全てを失って朽ち果てたシロナガスクジラの死骸のようだった。冷たい券売機は相変わらず極めて機械的な仕事をした後、しんと静まり返った。鉛色の空から降る雨が周囲の空しさに拍車をかける。やはり、僕の世界は既に終わりすぎるほどに終わっていた。終わって、朽ち果てていた。この世界には既に僕しかいない。窓口の女性も、館長も、ファビオ夫妻もいないのだ。
僕は窓口のところで半券をもぎ取ると、ペーパークラフトを半券の上において窓口を通った。僕にはもういらないものなのだ。
館内は僕が訪れたときと変わらず冷たい空気に支配されたままだった。隈なく敷き詰められた赤い絨毯に、シャンデリア。何一つ違えることはない。全てはあのままだ。ただ、この場にはおいては僕だけが変わってしまっていた。僕は奥へと進む。ただひたすらにあのフラミンゴの絵画がある第三展示場を目指す。そこには一心の迷いもない。今、僕は内部の彼と完全に同化しつつある。それは内部の彼の鼓動が僕に同調してきていることからわかった。今、僕は確固たる自分の意志で前に進んでいる。
途中でいくつもの画廊を通り過ぎる。僕には並べられた絵画のどれもが同じように見える。ある物は絶叫し、ある物は何かを睨んでいる。けれど、それは僕とは隔絶された世界にあって、決して僕に干渉してこようとはしない。否、僕がそれを真っ向から拒絶しているのだ。
今の僕には他の絵画などどうでもいい存在でしかないのだ。既に彼らは屍と化し、静かに並べられた死体でしかない。画廊は死体安置所の役割しか有していない。
第二展示場と表記されたプレートの前を通り過ぎたところで僕は少し、歩くスピードを緩めた。そして、スピードを緩めた分、周囲に対しての感覚を敏感にした。それは僕が自らやったことではない。僕の中の彼が僕にそうさせたのだ。足元のつるりとした絨毯の感触が足裏にはっきりと感じられる。外の雨音が確かに聞こえる。大理石の匂いがする。
そして、僕は辿りつく。僕が崩壊するべき場所であった第三展示場の入り口に立つ。
崩壊とは終わりを象徴すると同時にある種の始まり、起源であるのかもしれない。僕は反芻する。例えば、南極の氷山のように。凍てついて、青白いのだ。

 僕の視界にモノクロの世界が広がる。足元からは靴音だけがこつこつと反響している。今日も誰もいない。けれど、それは当然なのかもしれない。この美術館は独特の寂しさに包まれたままだった。僕は絵画の前までやってきた。白いカンバスの中にはあのときと変わらず、ピンク色のフラミンゴが沈んでいた。彼女は一本の茎からなり、鮮やかな華を咲かせているようにも見えた。
白黒のリノリウム板、雨が窓硝子を叩く音、僕の内部の彼の存在。全てが僕の中で交わり、今にも僕を侵食してこのピンク色のフラミンゴを絞め殺してしまいそうだった。僕が抱いている殺伐とした狂気は、きっとファビオ氏が絵を燃やした感情に似ている。彼もまた、僕と同じ魅せられた一人だ。だからこそ、彼の気持ちもまた理解できた。魅せられて、恋しいからこそ、彼は燃やすという形であの絵を手にかけたのだ。たとえそれがこの先、一生後悔する出来事になっても。彼は本能ともいうべき衝動を抑えることができなかったのだ。
僕は一歩踏み出し、カンバスの中のフラミンゴに触れる。どこかで窓口の女性の声が聞こえる。
「あなたはルールを守れなかった」
けれど、その声は既に彼には聞こえていないのだ。カンバスの中にいる彼女はとても温かく感じられた。それは僕に陽だまりを感じさせた。彼の叫び声が聞こえる。彼女を殺せと。
僕はその瞬間に暗闇に堕ちていく。それは確かな暗闇であり、僕自身だった。僕は静かに埋没していく。彼女が白いカンバスに沈むなら、僕は暗闇に沈む。僕は全てを失ったのだ。

僕は暗闇の中にいて、そして、白いカンバスの中にいる。僕は彼女と一緒にあの美術館にいる。モノクロの世界。第三展示場で彼女と僕は白いカンバスに沈んでいる。

ピンク・フラミンゴ

ピンク・フラミンゴ

三月 イタリア ミラノ。 一枚の絵がもたらす断片的でありつつも、確固たる記憶と衝動。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-04

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著作権法内での利用のみを許可します。

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