ラヴ・キューブ~同性にならなくても~第5話

まあ、いつも通りです。数か月どころじゃないほど空いたので変かもしれませんが。

運動会が終わって二週間ほど経ったある放課後のある日、いつものように私のいるグラウンドではボールを蹴る音が響く。
私はいつものシュートの練習を何度も何度も繰り返す。一応、パスの練習もたまには。
そして、もう一つ、欠かさないことある。
ゴールに背を向けて、飛んできたボールをバック宙でもするかのように回って蹴ってシュートする。
詰まる所、オーバーヘッドシュートだ。部活の中でこれが一番上手くできると学校で話題だ。今日は十回中十回成功。本番さながらの練習じゃないから当たり前と言われたらそこまで。入った当時からかっこいいとか考えて練習してたけど、学校内では女子の間だけで話題になって、練習を見るのは女子が多くなっただけだ。別に気にしないけど、たまにフェンス直撃のシュートをする。驚かすのが時々楽しい。別に嫌がらせってわけじゃないよ。時々、こっちに蹴ってほしいと言われるから。一応、2年になってからは応えるようにしている。
すると、遠くのほうに優がいるのに気付いた。向こうも気付いたようで、こっちを見つめる。この間の勢い100%の告白を思い出す。あれでよかったのか、そうでないか分からない。でも、したことは戻せない。無意識に見つめてると、背中にボールが当たった。どうやら蹴ったのは先輩のようだ。
「裕那、何分見つめてると思ってるの!?」
「えっと、まだ一分ですよね?」
「とっくに二十分以上たっているよ!こんな大事な時期にそっちばっかり集中しないでよ。」
そんなに経っていたのと思って時計を見ると、既に5時半だ。確か、優に気づいたのが5時過ぎ…私の一分が速い。そういえば、運動会の時期も優のことばっかり考えていた。恋愛が障害…にならないようにしないと。再び優のいたところを見ると、優はいなかった。
…もう、県大会の時期に差し掛かっているのは自覚している。思考が優に依存しているのも自覚してはいる。でも、直さない、直せない。
何よりも優から返事が聞けてないのが大きいと思う。ただ、Yes/Noのどちらに振れるかは想像はついている。理由は彼は男だけにしか恋しないから。彼にとっては一択だろう。諦めるのも悪くないかもしれないと思う自分が臆病だと思ってしまう。
部活終わりに金子に声を掛けられる。何をいうかと思ったら、試着してほしいものがあるから部屋にきてほしいと言ってた。
今日はこのまま帰っても特にすることはないので、素直に行ってみることにしよう。どうせ、着せられるのは普通の服だろう。

…素直に言って、どうしてこんなのがあるのだろうと思う。素直に部屋に行ってみた結果がこれなのは予想できなかった。
見るからに女性が着る服じゃなくて、男性が着るもの。男装に抵抗はそこまでないけど、不安がよぎる。何をさせるつもり?
具体的に言うと、これは執事の服だ。まだ文化祭の出し物が決まってないのに、行動に移すのは早いだろう。
「ところで…これはどこで買ったの?候補はクラスの多数決にするって一週間前に決めたでしょ。」
「友人をはさんで買ってみたよ。高いから複数必要になったら作るほうがいいけどね。でも、これはサンプルとしてはいいよね。サイズ等は裕那仕様だから着てみてくれる?」
「…高いことと私仕様でオーダーメイドを疑うけど、まず着てみるね。」
試しに着ると、サイズが合ってる。どこで私のサイズを調べ上げたのだろう、というほどで済まないくらい異常なまでに私にサイズが合ってる。健康診断は別々だったから、なおさら疑問だ。服のサイズでよくSかMで悩んでいるのに。で、Sにしたら、小さくてどうしようってなって、Mだと大きいとか思って決まらないのに。
「予想以上に似合うね。これだったら男子と間違えそうだよ。」
金子に言われて試しに鏡を見てみると、男性かと思いたくなるような状態になっていた。この格好で優に会ったらどういう反応されるのだろう。するって決まったわけじゃないのに、今から楽しみになる。
「こんな格好で学校歩いたら、女子が寄ってくるだろうね。イケメンが学校を闊歩しているって、中身は女子なのに。あ、でも、すでに女子に好かれてるから全く変わらないか。」
「印象はかなり違うと思うよ。カッコイイ女子とカッコイイ男子だったら、私は絶対に男子がいいかな。あと、麻美への牽制になりそうなのも大きいし。何より優が振り向いてくれそうだから、そう考えれば、悪くは…ないのかな。でも…。」
男装したままということを考えると、誰なのかがわからなくなるだろう。印象が悪くなるような気がしてしょうがない。でも、決まったら私はこれを着ることになるのだろう。女という事実がイメージに負けそうだ。
「ところで、文化祭でやることは明日話し合う予定だよね?」
「そうだよ、他に候補なかったら、私はこれを着て学校を歩くことに…別人と扱われるのを祈るしかないか。」
「同じ人には見えないと思うけど、それは人次第じゃない?でも大丈夫!男装の似合う裕那だから。」
「元も子もないよ…。」
残るのは不安と不安と不安だ。男子として見られること、女子にどれだけ影響が出るのか、そして優はどう思うのか…。
そう考えながら制服に着替えて執事服を返そうとすると、
「あ、返さなくて大丈夫だよ。それは裕那にあげるから。部屋で一人の時に着てみたら?」
「…着るかどうかは別として、一応もらっておくよ。」
嫌な予感がするけど、気にしないでおこう。そもそも私の体に合わせているから貰うのも当然だろう。
部屋に帰って、すぐに執事服をしまう。どう考えても高いものだから大事に保管しよう。
机の上には何もない。前は花を植えた鉢植があったけど、今はなにも育ててない。次はどうしようか悩むけど、明日以降考えよう。
…優のこと最優先で部活ができるかは不安だ。ベッドで横になりながら、多分恋に依存しやすい私はこんなことに大分悩んでいる。そのまま眠るまでずっと考えていた。

翌日、普段通り優と話しながら高校へ行く。あれからも一緒に登校するのは変わらない。突発的にこんなことを聞いてみる。
「もし、もしもだよ?私が男の服を着たらどう思う?」
「その姿を見たら…まず、驚くね。後は似合うかどうかで判断するかな。男の様に見えたら、その時次第。」
「じゃあ、私が男になったら?」
優は少し考えて、
「何度も言うけど、姿次第だね。良かったら付き合うかな。どのくらいかというと崎斗並みだったら。…でも別に無理にそこまでしなくても…なんでもない。」
だったら、あのことはどう思っているのだろう。
「あの時の告白になんて答える?」
「…すぐには答えを出せないな。今でも答えは出せてない。僕は男子以外は好きにならないはずだけど、この気持ちは形になってない。まずラフスケッチにすら出来てないから。」
私はそうと言って流した。私としてはすぐに答えができていたと思っていたけど、勢いで出た言葉が深く響いてるのだろうか。恥ずかしいけど、伝わっていることは嬉しい。
すると、どこかから視線を感じる。ここ最近やけに見られているような気がする。勘が正しいなら見ているのは一人だけだろう。告白した時に好きな人が誰かを初めて知ったあの女子だ。だけどそんな事はどうでもいい。視線を感じるなんて特に部活ではよくあることだ。…でも素直に出てほしいかな。するなら大胆にしてほしいかも。私もシュートもするならオーバーヘッドシュートがいい。狙うのは難しいのは分かってるから、出来ることを実行するのが一番。場合ではロングシュートしたり、パスしたりする。そういう使い分けがいいよね。

学校に着いて朝のホームルームで即座に例のことを取り上げる。
「運動会が終わったので、文化祭の時期!そういうわけで文化祭に何をしたいのか言ってください!」
そのあとは出る候補を書いていく。ところで、金子は座ってないで手伝ってほしい。
「お化け屋敷!」
「迷路!」
「ダンス!」
「メイド喫茶。」
「縁日!!」
「焼きそば店!」
「執事喫茶。」
「演劇!!」
「コント!」
何か変なのが混ざっているような気がするけど、気のせいだろう。と思って、書いたのを確認すると一部の人をピンポイントに狙ったようなのが混ざっている。コントが挙がるならスルーしないで、このボケにツッコミを。片方は挙がるのは予想はしていたけど、逆も出るなんて…。元々共学だから男女同じ人数だけど、何とも言えない。
ひとまず多数決をとる。すると、喫茶が残って他が全滅した。このクラスはどういう考えで成り立っているのだろう。第一希望はこのまま統合しても良さそうだけど、面倒なことになりそうだ。再び多数決をとろう。
取り敢えず、伏せてもらってよくある手法を使ってとることにした。言うのは引けるような言葉が並んでるけど、我慢しよう。
「メイド喫茶の人ー。」
多いのかな…?半分付近だけど。女子は…一人だけか。麻美はいつも通り。
「執事喫茶の人ー。」
手を上げている男子は優以外にいるのはどういう事…。もしかすると、執事をやりたいのかな。昨日の夜からの流れで私もやらされそうなのは心の内に留めよう。
多数決の結果、執事喫茶になった。どうしてこうなるの。ダンスとか演劇とかまともな物はあったはずだけど。でも、そういうことは言わないでおこう。そのまま第三希望まで取り付けた。結果を見て思ったのは一も二も喫茶だから一が崩れた場合、どう進めよう。第三希望のゴリ押しは好きじゃない。

昼休み。クラスの話題は文化祭でいっぱいだ。勿論私の所もその話題が出る。
「予想外の案…と言いたいけど、予想はしていたよ。金子が座っていたのはその為ね。」
「クラスで通るようにするのはできないから祈るだけだったよ。これであの服を…」
案の定、文化祭で着せるつもりだったようだ。それより、今の前半が怖い。威圧でもするのか、脅迫をするのか…そう考えると物騒な言葉を羅列しそう。
「とりあえず、裕那としては内容が決まってよかったな。」
「そうだね、長引くと面倒なことになるからこれでよかった~かな。」
執事とかメイドとかが出る事自体は特に気にしないのね。…もしかして私がずれているだけ?
「執事ってなかったらしいな。メイドは何回かやったクラスがあったって聞いたことがあるが。」
「へぇ~。」
関連事項だから気にする程ではなかったのかな。…普通に考えたら懐疑的に思うだろう。
「ダンスもどうなるのだろうね。昨年どこかのクラスが女装してやっていたから、ここに回ってきたら女装するのかな。」
「そしたら、女子の男装と男子の女装の差はあるだろうけど、男装も出そうだね。」
一瞬私は何を言っていると思ったけど、気づかれなければ問題ないと考えた。
「裕那、後は会議で通すだけだね。ここまできたら楽に終わるかもよ。」
「金子の言葉が物騒に聞こえるのは気のせいってことでいいよね?まあ、すんなり通るなら何も問題ないね。」
文化祭は数か月先。でも文化祭で何をするのか決めるのは1週間後。その間には夏休み、さらにその間にはサッカーの大会がある。順序は解っているけど、優先順位をつけるのは難しい。更に優の事もあるからどれからすればいいのか悩む。もちろんそんなことは口に出さないで胸の内に閉まっておく。優も私とどこまで行くのかを決めかねているのは十分にわかっている…つもり。

放課後。部活では相変わらず練習。今日はシュートとかパスとかだけでなくて、簡単な練習試合もする。
私はFW。もちろん、前衛だけでなく後衛にも動く。MFが一番よく動くとかKPも意外とよく動いて大変だって言われてるけど、そう大きく差はないといつも思う。だってDFだから前のほうに行ってはいけないとか、FWだから後衛に回る必要がないとは限らない。そういうのは戦略の上での話だから常に決まっているわけじゃない。偏りがあるだけ。…私の思考も偏りはある。
場外ではいつものように女子が見ている。そのうちうちわとか横断幕でも作りそうな気がするけど、私が迷惑を被らなければ大丈夫。もちろん私はアイドルじゃないよ。
そうこうしてるとボールがこっちに渡った。目の前はキーパー一人。ゴールは狙える!シュートした直後、
「終了~!!」
ホイッスルが鳴って練習試合が終わった。あと数秒あったらゴールなのに…。考えても遅いか。
終わって反省。個人に集中するのは無し、だから大きいミスをしても一人で落ち込まないようにする。別に今回は特にそういう事は無かったから気にしなくていい。
自分としてはもう少し動き回ったほうがよかった気がする。右サイドだからとかじゃなくて、ボールをもらう機会を増やした方が良さそう。今でも平均的だからこれ以上は必要はないかもしれないのはわかっている。
だったら能動的に動くほうが早い。…それでも来ないなら向こうからの信頼の問題だろう。

寮の部屋に戻って文化祭関連の事をメモする。喫茶が通るかどうかは分かりづらいけど、通ると考えないようにすればいいかな。横の所に喫茶微妙と。あとは特に気にすること…優のことか。結論を待つ以外に方法はないのは重々承知してるけど、どっちになるのか気になってしょうがない。早く決めなかったら私がどうかしそう。依存するのは問題だと考えているから大丈夫…だといいけどね。サッカーだって特定の人を主軸にすると、マークされやすくなるから依存しないように全体で動くほうがいい。逆に意識させる戦略もありだろうけど。
優のこと考えていると、頭の中が一面優で埋め尽くされてるような気がする。優、優…自分が病んでいるように感じる。
今日は寝よう。私がどうなるかは優次第だ。良い方向も悪い方向も彼が持ってくる。

ラヴ・キューブ~同性にならなくても~第5話

ラヴ・キューブ~同性にならなくても~第5話

優にその場の空気と勢いに任せて変な告白をした裕那。 少し失敗したと思いつつも過ぎたことだから反省の仕様がない。 彼女が部活に打ち込む姿に少し変化が見えて来ているようで…

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更新日
登録日
2014-04-04

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