果て無き
果て無き 2007,10
半年の海外出張から帰った。
俺は飛行機から降り、トランクを持ち歩いた。
日本へ戻って来た。
空港を出て、青の空を見上げる。やはり、日本の空は俺の目に馴染む。
トレンチコートの襟を立て、タクシーに乗り込む。俺達の過ごして来た場へ向う。
海岸線を行き、鷲が空を円を描き飛んでいる。
彼女の婚約者が病死し、俺達は他所の目を気にしながらも海岸の見える家でひっそりと会って来た。
彼女の親族は認めずに、俺の友人だった佐竹の死後の一年後、二人が引き合った事を反対していた。
佐竹への心が無かったわけでは無かった。無情からでは無い。
彼女と引き合った事は極自然な事だった。
きっと、彼女は自分に彼への後ろめたさもあっただろう。それでも、どんなに反対され様が、悲しみを抱えつづける事は彼女を辛くした。
だが、俺は信じていた。
俺達はだ。
いつかは佐竹も認めてくれるだろう事、天から鷲に乗り、彼を看病しつづけた彼女が幸せになる事を見ていてくれる事を。
果て無い海に誓い合い、天高い青を共に見つめつづけた。
よく覚えている。
半年前の海の色。空を行く風。どこまでも続いたそれらに俺達は全てを描きつづけていた……。
果て無き旅路は 海の先まで俺を誘って行くさ
鷲の行方は 俺の夢の果て 空高く天に鳴くさ
青の先は 青の空に 行き果てぬ その声は
夢の旅路は空の果てに 夢を描かせて飛ぶわ
貴方の瞳の 色の先まで 全てを導いて行くと
その心は 貴方の心に 見果てぬ その愛は
果て無き旅路は 海の先まで俺を誘って行くさ
鷲の行方は 俺の夢の果て 空高く天に鳴くさ
(……貴方と 空高く……)
あの
あの 空に
いつか飛び立てたなら
何時までも 貴方と共に生き続け 信じ行くまで
弐貴方の優しさ。
貴方の雄大さ。
あたしが貴方にあの日救われて天に飛び立てるなら、情操をも乗せて飛び立とう。
誓い合った日々を、この今の海に思い描きながら……。
木造の洋館は、白のペンキで塗られては、木漏れ日を眩しく浴びていた。
あたしは門扉を越えて進み入り、頭上を振り仰いだ。
緑色のフェルトコートから両手を出し、冬の明るい寒空を手をかざし見つめた。
真っ白なカモメが、飛んでいる。たくさん。
背後の青い海は、爽やかであり、冷たい空気はすこし場違いにも思えるほどの青さだった。
あたしは緑ペンキの剥げかかったドアを開けた。
風が入り込んでいき、静寂なエントランスは背後の潮騒を巻き込むと、ひっそりと響いた。
「あなた」
あたしはマフラーを解きながら呼びかけ、ミシミシと音を鳴らせながら階段を上がってゆく。
あたしは薫りに微笑み、つられるように居間へ進んだ。
「明日の披露宴が待ち遠しいわ」
そう言いながら進み、開け放たれた扉窓を、眩しさに目を細め見た。
透明なカーテンが風に翻る間に彼は白のシャツに風を含ませ、ベランダから海を見渡している。
彼の背後に来て横に並び、背に手を当てて共に見渡した。
よく、二人で歩いた浜辺は、一望できては彼の男らしい横顔を見上げた。
「ようやくこの時が来たな」
「そうね」
彼は現在48歳で、あたしは28の年齢だった。
待ち焦がれた婚期を、向えてながきに渡って浜辺から海を見つめつづけたあたし達は、既に友人以上、恋人以上の間柄になって6年。
時には、国を隔て其々の国から海を見つめ合った日もあったけれど、ようやく結婚までを時が紡いだのだ。
あたしは幸せの感情を微笑みに広げ、青の海を見渡した。
あの あの 空に いつか追いかけるから
何時までも貴方と共にいれると信じ行くまで
あの あの 空に いつか飛び立てたなら
何時までも貴方と共に生き続け信じ行くまで
夢の旅路は空の果てに 夢を描かせて飛ぶわ
貴方の瞳の 色の先まで 全てを導いて行くと
その心は 貴方の心に 見果てぬ その愛は
あの…… あの……
空にいつか染め上げるなら
いつまでも貴方の傍にいるだけ
天に行くまで
果て無き