DIABOLIK LOVERS Music Of Blood
嶺帝学園の体育館。多くの生徒に混じり、逆巻兄弟も(珍しく)全員揃っていた。その容姿、権力から校内でも有名なその兄弟には主に女子生徒を中心に視線が注がれている。サボり癖のある者も居て、学年もバラバラの逆巻兄弟が揃うのは中々見れるものではない。時折、彼らの姿を納めようとカメラのシャッター音も聴こえる。
しかし、彼らは気にする様子も見せない。兄弟が人間の女に価値を見出す事などないのだから。
特に今彼らの機嫌は良いとは言えないようだ。その中でも格段に機嫌が悪そうな三つ子の1人、アヤトが口を開いた。
「体育祭の次は何だってんだよったく…しかもこんな日も暮れないうちに集めやがって…。クソっ…。」どうやら眠気が彼の機嫌を損ねているようだ。
ヴァンパイアである彼らにとって、日差しは大敵である。いつも日が暮れてから起床するので夕暮れ前に呼び出されるのはキツイのだろう。
「仕方ないだろう…こんなくだらない事の為に授業時間を減らしたりしねーし…めんどくさ…。」アヤトの不満に、シュウが眠そうに答える。兄弟一サボり癖のあるシュウが何故こんなに早く学校に来たのか、相変わらず彼の考えている事は分からない、が奇跡かもしれない。
「でもー今度はヘマしなさそうだな、ボクは♪」ニコニコと機嫌良く言うのはライトだ。いや、彼もまた飄々としているので本当に機嫌が良いのかは分からない。
「あ?どう言うことだよライト。」アヤトの紅い瞳がライトを睨みつける。
「もーアヤト君ったらそんな怖い顔しなくてもいいじゃない。ほら、アレ見てみなよ。」そう言ってライトは体育館の前方を指さした。
彼の指さす先、ステージの上にはピアノやギター、バイオリンと言った様々な楽器が並んでいる。
「楽器…?一体アレで何をするって言うんですか…?」三つ子の1人、カナトは腕の中のテディを抱きしめる力を強めた。
「アレだろ、楽器演奏するんじゃねぇのかよ。」そうカナトの問いに答えるのは末のスバル。彼の紅い瞳もまた不機嫌そうな光を宿しているが、他の兄弟程ではないようだ。
「そんなことを聞きたいんじゃありませんよ!何の為に楽器演奏なんてしなくちゃならないのかを僕は聞いてるんです!」スバルの答えが不満だった様のカナトは語気を荒げる。
「あぁ!?俺が知る訳ねーだろそんなの!」とスバルまで怒鳴り散らす始末。逆巻家の日常と言えば日常だが、ここまでのやり取りに痺れを切らしたのか、次男のレイジが口を挟んだ。
「貴方がたいい加減にしなさい!スバルとカナトも落ち着きなさい、学校ですよ。」レイジのその言葉にスバルとカナトは一応黙る。2人が黙ったのを見て、レイジが続ける。
「今度、年に1度の音楽祭があるのですよ。それの説明会と楽器を決めるのです。」彼の言葉をそこまで聞いたシュウが口を開いた。
「音楽祭って…そんなのあったか。俺4年この学校に居て知らなかったんだけど…。」
「4年ここに居ることを自慢気に言うとは…まったく、話にもなりませんね。」
「別に自慢なんてしてない…むしろ最近※1年留年って書かれる事に精神的にキテる。」そんなシュウの裏事情を聞いたところでアヤトがレイジを小突いた。
「いいから説明しろってんだよ、シチサンメガネ!」
「やめなさいアヤト!それにその蔑称は止めろと言ったはずです!本当に…。説明も何もそのままの事ですよ。楽器を演奏するか、歌を披露し学年ごとに上位3位までを決めます。そして…。」
「そして何だよ?」とスバル。
「貴方達はこの上位に入れば、留年免除です。貴方がた…この間の体育祭では散々な結果でしたからね。ここで挽回するしか道はありませんよ。」
「散々だったのはお前もだろ…レイジ。」シュウがめんどくさそうに返す。
「まぁまぁ2人共落ち着きなよー、こんなトコでいがみ合ってもそれこそメンドクサイでしょ?」とライトが仲裁した…本人はそのつもりは無いかもしれないが。とにかく、ライトは余計な争いは兄弟に比べ好まない傾向にある。
「あーもーうっせぇな!さっさと決めて帰んぞ!」アヤトの機嫌は直らない。
「決めるのは良いけど、アヤトくん楽器とか出来たっけ?」グリーンの瞳をアヤトへ向けてライトが言う。
「確かに、問題はそこですね。」とレイジがライトに同意した時、兄弟の後ろから声が飛んで来た。
「だからってサボるー、なんて事無いよねっ?」その声の主に気付いた兄弟は顔をしかめる他なかった。
無神家
時を同じくして嶺帝学園の体育館には無神兄弟も揃っていた。逆巻兄弟と違い、長男のルキを筆頭にほぼ毎日学校に来ている無神兄弟は(逆巻家は長男からして学校に来ない)今日も4人全員がいる。彼らもまた、その美貌から周囲の視線を集めていた。
兄弟の1人、三男のユーマが口を開く。
「で?今日は何の集まりなんだよ。こんな早くに来たから野菜ちゃん達の世話もロクに出来なかったぜ。」彼の趣味は家庭菜園である。兄弟の中でも飛び抜けて身体の大きい彼の見た目には合わない趣味だが、ユーマの作る野菜や果物が絶品なのは事実だ。
そんな彼の声に隣の人懐っこそうな男子が答える。
「なんかねー音楽祭だって!おれの得意分野だよねっ。」と眩しい笑顔を浮かべる。無神家の次男コウは絶世の美貌を持ち、アイドルとしても活躍している。
「音楽祭…何を…するの…?」首を傾げるのは四男のアズサである。彼の包帯だらけの細い細い身体で一体どんな楽器を奏でるのか、それは兄弟でも知らないかもしれない。アズサの問いに答えるのは、ルキだ。
「名の通り音楽祭、だ。各々自分が好きな楽器や歌を披露し得点を競う。各学年で上位に入った者にはそれ相応の音楽の成績が与えられるそうだ。」ルキの冷静な声音からは、彼が少なくともこの行事を楽しみにしている様子は伺えない。
「音楽なぁ…なんも出来ねぇよ音楽なんて…クソッ。」ユーマは不機嫌そうに頬杖えをつく。
「えーユーマくんって音楽苦手なんだー。見た目どーりって感じ?」
「るせえな!俺が歌歌ったり楽器演奏してるとこなんて見たことあんのか?何年一緒に居ると思ってんだよ…ったく…。」
「そういえば…確かにユーマが歌ってるとこなんて…見たことないね…ね、ジャスティン…。」腕の傷を愛おしそうに見つめながらアズサが呟いた。
「まぁ、例え上位に入ったところで音楽の成績が上がるくらいだ。そこまで構える必要もないだろう。…だが、俺達にはやることがある。」と言うルキの言葉にコウが首を傾げる。
「やること?なーに、それって。」
「あの方の言い付けでな。お前達にも手伝って貰うぞ。」あの方。その一言で、兄弟の目が変わった。
「あの方の言い付けか…なら何でもやらなきゃね♪」
「あの方の言うことならやるしかねーかぁ…。」
「うん、そうだね…頑張ろうね…。」
無神兄弟はそこで立ち上がり、ある場所へ向かった。
DIABOLIK LOVERS Music Of Blood