Not Mature
完全身内ネタです。キャラはネットの友達を使ってます。あと、ギャルゲみたいに幾つかルートがあります。以上です。
キャラ紹介
主人公
ボードゲーム同好会に所属している県立高砂高校の2年生。人当たりがよく誰とでも打ち解けることの出来る。高2の春休みの終わり頃に迷子になった時に偶然見つけた教会の前で神父に出会う。
神父(しんぷ)
県立高砂高校の2年生。主人公と運命的な出会いをする。あまり目立つタイプではないが、美人で柔らかい物腰なこともあり密かにファンが多い。過去に父親を亡くしており、その形見の十字架のネックレスをいつも首にかけている。
リリム
県立高砂高校の3年生で主人公の所属するボードゲーム同好会の部長。頭脳明晰、運動神経抜群。文武両道の超絶美人だが、思ったことをすぐに口に出してしまい他人と衝突することも少なくないが、それでも彼女を支持する人間は多く男女共にファンが多い。しかし、夜になると怪しい動きをしだす。
悠紀(ゆき)
県立高砂高校の3年生でボードゲーム同好会の副部長。可愛いを体現したような女の子で天然な部分が結構ある。リリムのことをさんつけで呼んでいて、やめてと言われてもやめない。リリムを最も苦戦させるのは、彼女であると言われている。和菓子屋の一人娘で結構忙しそうにしている。
うに
主人公の従兄妹。県立高砂高校の1年生。主人公に誘われて、ボードゲーム同好会に入部する。幼い頃から主人公に恋心を抱いている。背が低いことを気にしていて、毎日牛乳を飲んでいる。彼女自身ラッキーガールでよく、宝くじが当たったり道でお金を拾う。
白麗(はくれい) みき
うにと一緒にボードゲーム同好会に入部した県立高砂高校1年生。あまり素直になれず、よく人のことを馬鹿にしてしまう。しかし、彼女自身の言葉のボキャブラリーが少ないため逆に馬鹿にされる。主人公などに生意気な態度をとっている。口癖は「馬鹿」。
かいちょー
主人公の中学からの同級生。サッカー部に所属している。中学の時生徒会長だったこともあり、かいちょーと呼ばれている。
シグ
主人公の中学からの同級生。機械部に所属している。とても辛そうだ。がしかしイケメン。
よ鹿
通称、鹿。こちらも主人公の中学時代の同級生。これもサッカー部。とりあえず馬鹿。それと作者。
プロローグ
4月4日(金曜日)
主「あれ?この道さっきも来たな」
この道に出たのは何度目だろう。俺は今、同じ場所を自転車で何度も回っていた。もちろん、故意でそんなことはしない。するとしたら、欲しいゲームが置いてないことを受け入れられず、何度も2つのゲーム屋を行き来する時くらいだ。じゃあなぜこんなことをしているのか?迷子だ。俺は今絶賛迷子中である。高二にもなって、迷子なんて恥ずかしいと思うかもしれない。でも、知らない場所に行ったら誰しも迷子になる可能性は高いと思う。もちろん、ケータイの位置情報を見れば簡単に迷子をやめることは出来る。でもそれを俺はしない。したくない。
俺は暇な時、どこに行くのでもなく自転車を漕いで適当なところに行く。言ってしまえば、日帰りの一人旅のようなものだ。旅に迷うことはつきものだと思うし、醍醐味でもあると思う。その旅の醍醐味を自分で捨てるほど俺も物好きではない。
ふと、この辺ではあまり見かけない建物を発見した。教会だ。実物を見るのは初めてで、俺はしばらくの間その建物を眺めていた。
?「あのー…。何かご用ですか?」
どれだけの間そうしていたのかわからなかったが、俺は声をかけられて我に返った。
声のした方を向くと、箒を持ったシスターの子が立っていた。年齢は俺と同い年くらいで、綺麗なオレンジ気味な茶髪に、透き通る様な青い瞳の女の子だった。この子の後ろに集められてある桜を見る限り、掃除でもしていたのだろう。昨日はかなり雨が降って結構桜も散っただろうし。よく見ると教会の敷地であろう庭には、大きな桜の木が植えてあった。
シスター「あのー?」
シスターが俺の顔を上目遣いのような形で覗きこんでくる。彼女と目が合った。
主「あ、すみません。用とかじゃなくて、珍しいなって思って」
俺は照れ臭さで思わず目を逸らしながら、そう答えた。そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。彼女の笑顔はとても眩しくて、いつまでも見ていたいくらいのものだった。
シスター「そうなんですか。ここに来るのは初めてですか?」
主「まぁ、はい。実は自転車をこいでブラブラしてたら迷子になっちゃって……ははは」
シ「そうなんですか……それは大変ですね」
それからしばらく俺たちはたわいのない世間話を話していた。
すると彼女はあっ!と何かを思いついたように呟き、教会の方を振り返った。その時、彼女の少し、いや、かなり赤みを帯びてどちらかというとオレンジ色っぽい茶髪が宙を舞う。それは、今も舞い落ち続けている桜たちのようで、何か儚い美しさだった。そして、そのまま顔だけを俺の方に向けこう言った。
シ「折角ですし、よければお茶でも飲んで行きませんか?疲れてるでしょうし」
主「じゃあそうさせてもらお……」
トゥルルルルルル…トゥルルルルルル…
シスターさんに了承の返事をしようとした時、突然俺のケータイが鳴りだした。ケータイをポケットから取り出し、発信名を確認すると母親からだった。
母『ねえ。今どこ。今スーパーマーケットにいるんだけど、荷物が重くて大変なの。だから、今から来てくれない?じゃあ…。あ、場所は藤沢マーケットね。じゃあね。』
主「え?ちょっ……!待っ……!」
電話を一方的にかけてきて一方的に切られた。これじゃあ行くしかなさそうだと、心の中で悟った。
今の話が聞こえていたらしいシスターさんはいつの間にか俺の方に身体を向けていた。
主「今の聞いてた?」
俺はケータイをポケットにしまいながら、聴いた。
シ「はい、残念ですがまた今度」
俺はうんと言い、片手をあげてその場を後にした。ケータイを使いながら自転車を漕ぐのは危険だが、道がわからないし、あまり遅くなると母親に殺されるかもしれないからだ。
そして今思い出したが俺はあのシスターさんの名前などを聞くのを忘れていたことに気付いた。今になって後悔したが、また今度きた時にでも教えてもらえばいいと考えていた。今はそんなことよりも母のご機嫌の方が大事だった。
1章
4月7日(月曜日)
今日から学校も始まり、俺は少し憂鬱になっていた。まぁ今日はクラス発表と始業式だけなのだが、それでもやはり気分が上がらないのは皆同じだろう。
学校に着くと、1年の時のクラスで集まって体育館に移動させられた。しばらくすると、校長のどうでもいいような話が始まる。別に俺はそれを聞く気もないので、終始この前の教会でのことを考えていた。結局あれから、一度も教会には言ってなかったのだ。そして話し始めてから20分くらい経ってからようやく校長の話が終わった。校長という生き物は相変わらず話の長いやつで、十数本しかないその頭の毛をすべて抜いてやろうかと思うぐらいきつかった。
その後自分たちの学年の階に移動させられた。俺たちは二年だから三階に集められ、そこで新しいクラスが発表された。俺は四組だった。この辺りには高校はここ、県立高砂高校(けんりつたかさごこうこう)しかなく、かなり生徒数も多い。一学年の生徒数は250人を超えていて、自分たちの学年もクラスは8組まである。その中でも、結構見慣れた顔もあってかなりすごしやすそうなクラスだった。
(楽しそうなクラスで良かったな)
まぁこのクラスなら一年間退屈しない日はないだろ。
担任の自己紹介が終わり、出席番号順に自己紹介するように担任が言う。すると、窓際の席から順に生徒の方がひとりひとり自己紹介を始める。どうやら、窓際から出席番号順に座っているらしかった。自己紹介することは予想外ではあったがそれ自体はそこまで驚きもしなかった。俺は当たり障りのない、適当な自己紹介を済ませて終わらせた。でも俺が驚いたのはその後、俺の自己紹介が終りその後の7、8人目くらいの時だった。
その人は、オレンジに近い茶髪に透き通る様な青色の目のした整った顔立ちの女の子だった。
(あの時の教会の子だ。間違いない)
記憶力に自信がある方ではないが、あれだけの美人のことを忘れるわけがない。ましてや4日前のことだ。覚えてるに決まってる。
シ「○○ 神父です。1年の時、同じクラスだった人は少ないですがよろしくお願いします」
そう言って、神父と名乗った少女は席に着いた。彼女のことが衝撃的すぎて、その後のことは覚えていない。
終礼が終わり、帰る準備をして教室を見回すと神父さんは教室を出るところだった。
主「あ、あのさ!」
神「はい?」
その子はドアの前で振り返る。その時に神父さんの茶髪が揺れる。そして俺の顔をジッと見ている、ような気がした。いや、俺の勘違いかもしれなかったが、その時はそのように思えた。
主「この学校だったんだ」
神「は、はい」
主「知らなかったな。あはは」
神「私も知りませんでした。だから自己紹介の時ビックリしたんですよ?」
主「そ、それは俺もだって!」
神「ふふ。お互い様ですね」
神父さんは口元に手を当てて小さく笑う。こんな笑い方をする人を見たのは初めてで、他の人には無い魅力が感じられた。
主「神父って名前なんだ」
神「はい。変な名前ですよね。教会の娘だから神父って。それに神父って男の人の役職だし」
主「そんなことないよ。いい名前だと思う」
俺たちは教室の出入り口で話をしていた為に通る人の邪魔になったらしく、俺の肩と同級生の肩が触れる。そいつはどこか急いでるらしく走っていってしまった。さすがにそのままその場所で話すのは邪魔になることに気付いた俺たちは窓際の席に移動した。
主「それで神父さん……」
神「あ、そのさんってやめて下さい。その……落ち着かないので。あと出来れば名前もやめてもらえると嬉しい……かな」
彼女は自分の腹の前で手をもじもじさせながらそう言った。
主「あ、ごめん。わかった。う〜ん……じゃあ神父だからシンちゃんなんかどうかな?」
神「あ、シンちゃんですか?大丈夫です」
よっぽど気に入ったのか彼女は満面の笑みを浮かべて、「シンちゃんシンちゃん」と何度もそう呟いた。
主「それでシンちゃんって。この後何かあるの?」
神「はい。あなたは?」
主「俺は部活が」
神「そうですか。ではまた明日」
そう言ってシンちゃんは教室を出て、廊下を歩いていった。俺は神父ちゃんが見えなくなるまでそれを見ていた。
女の子と話をするのは意外と慣れてなく、体温が上がり変な汗をかいてしまっているのがわかった。俺はブレザーを脱いでYシャツをまくった。その時に外から桜が舞い落ちてくる。ここの桜は時期にしては少し遅く今日くらいが満開だった。俺はようやく新学期が始まったことを感じ、部室まで急いだ。
俺は校舎から渡り廊下を渡り、部室棟を歩いて部室へ向かっていた。部活は部活だが同好会だし、文化系だしでかなり楽だ。部員の人数もそこまで多くなく、緩い部活である。ただ問題があるとすれば、肝心の人たちが変人だということだ。
しばらく歩いていると、目的の場所が見えてきた。ドアの前に立って、ドアに貼ってある紙を見た。
『ボードゲーム同好会』
その紙にはそう書いてる。俺が入部した時からずっと貼ってある紙だ。
俺はドアノブを回し、ドアを開いて中に入った。
主「こんちゃーす」
とりあえず礼儀ということで挨拶はしている。もう入部してから1年。大抵のことでは驚かないと思っていたが、毎回その人たちの行動は俺の予想の斜め上に行く。
リリム「ボードゲーム同好会部長の○○ リリムです!」
悠紀「副部長の○○ 悠紀です」
部室に入ると部屋の奥で、長く綺麗な黒髪にシンちゃんとは真逆な吸い込まれるように赤い瞳の美人と可愛いというような言葉を体現したようなセミロングの金髪をポニーテールにしている二人の女子は何かをしていた。そう、これが我が部活、ボードゲーム同好会の部長と副部長だ。まあ予想の斜め上を掠めても、彼女たちの行動なら大抵のことに慣れたのでそこまで驚きはしなかった。
主「何やってるんですか? 部長はともかく悠紀先輩まで」
この部長は美人で常識もしっかり持ってるし成績も良くて頭もいいが、俺には少し思考回路が追いつかないとこがある。
リ「ん? 新入生が入った時の挨拶の練習よ」
主「で? そんなことのために呼んだんですか?」
基本この部活は緩いため、午前中しか学校がない日などは活動していない。だが、こういうのは珍しい。俺は立っているのもなんなので、近場の椅子に座った。
リ「違うわ。どうやって新入生をうちに引き入れるかの作戦会議」
そう言いながら、部長は俺と向かい合わせになる席に座った。悠紀先輩もそれに続いてその隣に座った。
主「なるほど。例えば新入生歓迎会ですか?」
リ「まぁ、近いけど全然違うわね。私たちは同好会だからあれの出場権はないわよ」
主「あ、そっか」
リ「はぁ……これだから、成績がそこまでよくない人は」
主人公「う……い、いや……一応129位で真ん中くらいですし……」
部長に言われると何も言い返せなくなる。頭のいい人から言われるのがここまできついとは。
悠「リリムさんは成績いいしねー」
リ「まぁいいわ、とりあえず三人で考えましょう。あとゆーきちゃん、そのさんってやめてくれる?」
悠「えー」
悠紀先輩は意外に天然なのか、結構リリム先輩とはこんな感じだ。そしてリリム先輩のことを同学年なのにさん付けで読んでいる。天然と天才。ある意味似ているようで似てない大物二人のコンビは校内でもかなり有名だった。
それでも、こんな調子で話が進むのか少し心配になった。
結局、あの後は三個くらいしか意見が出ず、俺がテキトーに挙げた意見が採用された。こうなることが半分くらいは予想することは出来た。3時くらいにリリム先輩の「今日は解散!」その一言で部活は切り上げになった。部室の戸締りは一応下級生ということで、俺が行ない。そのまま家に帰った。それからすることもなく、リビングでテレビを見ていると母が話しかけてきた。
母「あ、そうだ。従兄妹のうにちゃんっていたでしょう?」
主「うん。でうにがどうかしたに?」
母「その子、今年からあなたの学校通うらしいの」
主「……………え? えーーーーーーー⁉」
その一言が衝撃的で思わず叫んでしまった。振り返り座っているソファーを乗り出して母に対して文句を言う。
主「そんな大事なこともっと早く言ってくれよ!受験決まった時とかに! それだったら、もっと学校のことを教えてたのに」
母「ま、まぁそれは……ごめんなさい!」
主「あ、逃げた」
母さんは急いで台所に逃げて行った。うにのことが衝撃的すぎて、頭がいっぱいになりテレビどころではなかった。このままテレビをつけていても別に見ることもなかったので、まだ10時だったがテレビを消して寝ることにした。
(それにしても、うにがこの学校にねえ)
布団の中で考えを巡らせていたが、十五分くらいで眠くなってきたので寝ることにした。携帯電話からはメールの受信音がしたが気にしなかった。そういえば、明日は入学式で俺は学校がないことを今になって思い出した。
2章-a神父編part1
4月9日(水曜日)
学校に着くとクラスには15人程しかいなかった。
(ちょっと早く来すぎたかな)
いつもより二十分程早く目が覚めたので、早めに学校に来たのだが、時間がちょっと早いだけでこうも人がいないものなのかと実感した。
唐突に一昨日、部長に言われた部活勧誘のことを思い出した。
(暇だし時間潰しにでもするかな)
俺はシンちゃんを誘うことにした。幸いにもシンちゃんはもうすでに学校に来ていて、鞄の中の物を机の中に入れていた。シンちゃんの席は教室の中央当たりで、俺の席は窓際の一番最後尾だった。俺は自分の机の上に鞄を置くと、意を決してシンちゃんの席まで言って話しかけた。
主「おはよう、シンちゃん」
神「あ、おはようございます」
主「今日は天気がいいね」
神「そうですね」
シンちゃんはいつも通りの笑顔でそう返す。
ダメだ! ダメだ!! ダメだ!!! こんなんじゃ絶対ダメだ。落ち着け俺。上手く誘う方向に持っていける話題は……これだ!
神「ど、どうかしました?」
シンちゃんは首を傾げ、頭にハテナマークがあってもおかしくないような顔をしている。
主「い、いや。なんでもないよ。ところでシンちゃん」
神「は、はい」
俺はシンちゃんの方に顔を近づけて言った。それと連動するようにシンちゃんは少し後ろにさがった。後で考えたら、この行動は限りなく無意味なものだと思った。周りからは変な目で見られ、シンちゃんからは引かれる恐れさえある。
主「シンちゃんって部活入ってる?」
神「い、いや。入ってないですけど。」
主「じゃ、じゃあ俺の部活に来ない?」
ここまでは大体考えた通りの展開だ。シンちゃんはどうくる!
神「う〜ん……何部ですか?それがわからなければなんとも……」
主「えっと、ボードゲーム同好会って言うんだ!楽しいし、結構緩くていいよ。週に3回しかないし。月、水、木。」
神「う〜………………」
長い。
神「う〜…………………………ん。決めました。体験だけでも行ってみます」
計画通り。これで入ってもらわなくても部長には何も言われないはず。出来れば入ってもらいたけど、強制するのはまずいしな。
主「じゃ、じゃあ。放課後ね。絶対!」
神「はい」
最後にそう言って俺たちの会話はここで終了した。
自分の席に戻って、俺も鞄のものを机に移す作業を始めた。
?「うっす」
俺は声をかけられ、その方向を向いた。
主「おお!かいちょー、シグはよー」
そこにいたのはかいちょーとシグだった。
か「そのかいちょーっていうのやめてくれよ。生徒会長だったのは中三の時だし」
シグ「いいじゃん。かいちょーはかいちょーで」
この二人とは中学から一緒で結構馬鹿とかもしてたなぁ。親友って呼べる人間の一人だし。今はここにいないけど、よ鹿も…ってあれ?
主「そういや。よ鹿は? いつも一緒に来てんじゃん」
シ「ああ、鹿?」
か「鹿は寝坊したから遅れて来るって」
主「馬鹿だろ。もう朝礼始まるぞ」
俺は笑い交じりでそう返した。
キーンコーンカーンコーン
次の瞬間に朝礼を知らせる鐘が鳴った。よ鹿は学校二日目、授業初日で遅刻という快挙 (?)を達成した。
キーンコーンカーンコーン
鐘が鳴り、昼休みになった。俺の席の周りにかいちょーとよ鹿が弁当を持って集まってきた。二人とも近くの席に座って、「借りるぞ。」と、その席の持ち主に言って俺の机とくっつけた。俺は弁当を開けて中を確認する。どうやら今日のメインは昨日の残りのハンバーグのようだ。
主「てかよ鹿お前、二日目からやらかしてくれんな。くく……ふふふふ」
俺は朝のことを思い出し、笑いを抑えきれず笑い出してしまった。
鹿「しょうがねえだろ。朝は起きれないものなんだ。俺は一日の半分を寝て過ごしてもいいぜ」
か「それをドヤって言うなよ」
かいちょーが呆れたように言う。
こんな会話も久しぶりで楽しかった。こう楽しいと、弁当も進む。
鹿「シグって部活だっけ?」
か「うん、確か」
鹿「大変だよなー。機械部。全国いったらしいしな」
主「あー……な」
鹿「r…」
主「言わせねーよ⁉」
俺は少し、いや、かなり食いぎみに言った。だいたいこいつのいうことは予想できる。
鹿「まだ何も言ってねぇ!」
か「あはははは」
主「お前の言おうとすることはだいたい予想できる!」
鹿「まぁサッカー部もキツイけどな……マジ部活行きたくねえ…」
か「お前はもうちょい頑張れよ」
鹿「だって、先輩とかの弄りキツイし……」
か「それはドンマイ」
主「まあ、二人とも辛そうだけど頑張れよ」
か「おう!」
鹿「そういや、昨日FC1で見つけたエ…」
主・か「飯食ってる時にその話題をふるな!」
三人とも食べ終わり、しばらく話していると、かなり疲れた顔をしたシグが帰ってきた。それが合図かのように、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り周囲の生徒達は一斉に授業などの準備を始めた。
放課後。終礼も終わって今から部活に行く。でも今日はいつもとは違った。隣にはシンちゃんがいる。今日は体験だから入るかわからないけど、それでもなんか新鮮だ。
主「そうだシンちゃん。シンちゃんはゲームとかしたりするの?」
さすがに部室までの間無言というのも気まずいので、適当な話題なんかをふってみる。
神「結構やりますよ。これでも得意な方です」
主「マジで⁉」
シンちゃんは握り拳を作り、目の前でガッツポーズをしている。俺はてっきり「やったことない」とか、「少し」といった感じの答えが返ってくると思っていたので、かなり驚いてしまった。横に少し飛ぶくらいには驚いた。オーバーリアクションだと思うかもしれないが、普通はこうなると思う。
神「ど、どうしたんですか⁉」
そんな俺に驚いたシンちゃんがそう声をかける。今いる場所はちょうど渡り廊下の真ん中あたりで、人通りは比較的少ない場所だが、今日は結構人がいてかなりの注目を浴びてしまった。
主「いやー、シンちゃんがゲームすんの意外でさー。つい」
俺がそう言うと、シンちゃんは頬を膨らませて怒ったような素振りを見せ、俺の顔を覗き込んできた。
神「えー。そんな意外ですか?失礼しちゃいます」
怒ったシンちゃんは意外で、俺はこういうシンちゃんもいいなと思ってしまった。でもすぐにいつも通りのシンちゃんに戻ってしまった。それから俺たちは一言も話すことなく部室に到着した。俺がドアを開け先に入って中を確認する。中には、部長と悠紀先輩がいつものようにいた。それから神父ちゃんに入るよう目だけで合図する。
主「こんちゃーす」
俺は普段のように挨拶をしながら部室に入るが、シンちゃんは初めてでどうしていいか分からず、部室に入る前に一度会釈をしてから入った。先輩たち見えてないのにな。と思いながら、俺はシンちゃんを横で見ていた。シンちゃんは部室に入ると簡単な自己紹介を行った。
神「こ、こんにちは。○○ 神父です。き、今日は体験入学ということでき、来ました」
かなり緊張しているらしく、結構噛み噛みだった。そしてロボットのようなぎこちない動きでお辞儀をした。
主「えっと……俺のクラスの娘です。ゲームとか好きっぽいので誘いました」
さっき知ったばっかだが、そういう理由にしておこう。それを聞いた部長は物凄く速さでシンちゃんに詰め寄った。
リ「本当⁉ 入ってくれるの⁉ うちに⁉」
神「えっと、その……」
部長がシンちゃんの手をとって問い詰める。シンちゃんはかなり動揺しているらしく口をパクパクさせているが声を出せていない。
(全く。シンちゃん怖がってるじゃないか)
悠「リリムさん。神父ちゃん怖がってるよ」
主「それとまだ、体験ですから」
リ「あ、そうだったね。ごめんね」
先輩はシンちゃんの手を話して、離れた。全く人騒がせな人だ。しかしというか、これでもやはりよ鹿ほど、人騒がせでも初見殺しでもないのは当たり前のことだった。
リ「じゃあどうしようかしら。4人集まるのは久しぶりだし。なにか4人で出来るいいゲームは……」
実はこのボードゲーム同好会というのは名ばかり、というわけではないが部室に置いてある半分くらいはPSPなどの携帯ゲーム機やテレビゲームなどである。もちろん見えないように工夫はされてるが。そこで、俺は棚の奥に少し埃を被った物を見つけた。それは
主「人生ゲームなんてどうでしょうか?」
そう、俺の目に止まったのは人生ゲームである。最低二人以上のプレイヤーで億万長者を目指して競い合うという、誰でも一度はやったことがあるであろう双六型のボードゲームだ。大人数で出来、なおかつ盛り上がる。これほど適した物はないと思った。部長と悠紀先輩も同じ意見で二人は同時に「それだ。」と言い、満場一致で人生ゲームに決まった。
決まってからは皆準備に取りかかり、あっという間にする準備が整ったのだった。
順番はジャンケンで決めて、悠紀先輩→俺→シンちゃん→部長となった。
そして、勝負は中盤に差し掛かった頃。順位は上から部長、俺、悠紀先輩、シンちゃんだった。次は俺の番。ここで勝負が左右する重要な場面だ。
(絶対に5をだしてボーナスを貰う!)
主「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!ふん!」
俺はかけ声とともに、ルーレットを回す。ルーレットはどんどん回転の速度を増し回転していく。
カラカラ…カラカラ…。とルーレット特有の音を出しながら、俺やその場にいる全員を焦らす。
そして、ルーレットの回転が弱まり止まりだった。
(3、4、5、来い!ここで止まれ!止まってくれえええ!)
5で止まりかけ、ここで止まったと思った。だが、現実は違った。ルーレットは俺の期待を裏切り、5を通り過ぎて6に止まった。
(そ、そんな……馬鹿な……)
俺は全身の力が抜けてその場に崩れ落ちる。少し残念ではあるが、こういうのもゲームのうちだと思えば、大抵のことは気にしないでいられる。とりあえず、気を取り直してそのマスまで進めてみた。『このマスに止まっている人と結婚し、他の二人から結婚祝いで3000円ずつ貰う。誰も止まっていなかったら貰わない。』だった。
主「部長!この人生ゲームちょっとおかしくないですか⁉普通はNPCと結婚するものですよね⁉プレイヤー同士の結婚なんて聞いたことありませんよ⁉」
リ「そんなこと言われても人生ゲームって今これしかないし……」
部長は頬を指で掻きながら、そう言う。まあここで文句を言っても仕方がないので気にすることはやめた。あいにくこの場所には今誰も止まっていない為それは起こることはなかった。
しかし、俺が安堵していると隣で「あっ」という声が聞こえた。それはシンちゃんから発せられた物でシンちゃんの出した数字は3で、そこから3マス進むとなんと俺のいるマスに止まることになる。そして、そのマスは同じマスに止まっている人同士を結婚させるマスだ。
主「ということは……」
リ「二人とも結婚おめでとーう!」
悠「パチパチパチ〜」
どこに置いてあったのか、先輩はいつの間にかクラッカーを手に取り俺たちに向かってそれを放っていた。
パーン!とクラッカーの音が部屋に鳴り響き、先輩たちの声だけが残る。俺はしばらく状況が飲み込めずにいたが、ようやく飲み込め、恥ずかしさのあまり動揺を隠せずにいた。
主「べ、別にそういうのじゃないですって!俺は嬉しいけど。シンちゃんだって嫌かもしれないじゃないですか!」
シンちゃんもやはり恥ずかしいらしく、顔を赤くして俯いている。
主「だ、だよね。シンちゃん?」
俺がそう尋ねるとシンちゃんは俯いたまま、俺の手を握ってきた。
主「え?ええ⁉︎」
俺は握られただけでも驚いているのに、その後の言葉を聞いてさらに驚かされる。
神「……わ、私は別に嫌じゃないですよ」
主「……え?」
俺はそれを聞いた時は聞き間違いなのかと思った。しかし目の前のその光景を前にしても信じがたいが、それはそういう意味なのかと思ってしまう。
(え?それってもしかして…)
リ「お二人さーん。戻ってきてー。二人だけの世界に入るのはやめようねー」
主「あ、いや。そんなんじゃないですよ!」
そう。シンちゃんが俺のことをそういう風に思ってるはずもない。そうだ。そうに違いない。
俺はさっきのことが忘れられず、まだゲームに集中出来ないでいた。しかし、無情にもこの二人の先輩はそれを待ったりはしない。俺たちのことはお構いなしにゲームは進んでいった。
人生ゲームは終わり、片付けをしている。勝ったのはあのまま部長になるかと思いきや最後の最後に悠紀先輩が全員を抜き去り、一番にゴールに辿り着いた。経済面でも、元々一位だった悠紀先輩は完全優勝を果たしたのだった。
俺とシンちゃんは恥ずかしさのあまり、それからは一言も話さなかった。相変わらずシンちゃんは俺と顔を合わせようとしない。
(まあ、あんなことがあれば当たり前だよな。入ってくれないかもしれないな)
そんな考えを思い浮かべながら、俺は片付ける手を進める。
片付けが終わり、いつもと同じように部長の解散宣言で部活は終わった。時刻は五時頃で部活を終えるには少し早い時間帯だった。しかし先輩たちはいつものように帰宅を始める。別に残ってもすることがないので、俺もいつものように部室の戸締りを確認し帰る準備をしていた。すると後ろから「あの」と声をかけられた。後ろを振り向くとそこにはシンちゃんがいた。てっきり帰ったと思ってたので、俺は少しびっくりした。
神「えっと、今日はごめんなさい!」
するとシンちゃんは深く頭を下げて俺に謝ってきた。目の前のことに少し驚いたが、俺はすぐに我に返りシンちゃんに顔を上げてもらった。
主「別にいいよ。大丈夫だって」
俺のその言葉にシンちゃんはすぐに反論しようとする。
神「で、でも……!」
主「あー。そういうのダメダメ。もうこの話お終い! シンちゃんの方こそ大丈夫だった? 嫌じゃなかった? 今日楽しめた?」
俺はシンちゃんの言葉を遮り、逆に質問をして無理矢理話を終わらせた。
神「あ、はい。楽しかったです。それに私も嫌じゃないですよ……むしろ……しい、と……か……」
主「ん?なんて?」
神「いえ、なんでもありません」
最後の方は小声すぎてよく聞こえなかったが、楽しめたみたいで良かった。
そこで俺は一つ疑問が浮かんだ。
主「そういえばシンちゃんってどうして敬語なの?」
その言葉を聞くとシンちゃんもなんでだろうというような顔をした。
神「初めて会った時が敬語だったから、きっとそのままの流れだと思います」
シンちゃんは口元に人差し指を当てながら言う。思わずシンちゃんの唇に目線がいくが、俺は邪な考え打ち払うべく頭を振って考えないようにした。
主「じゃ、じゃあさ。これからはタメ口でお願いできる?同級生だし」
神「は…じゃなくて。うん、わかった!」
シンちゃんは太陽のように輝いた笑顔でそう返した。
シンちゃんとは校門で別れ、俺は自転車で駅に向かった。なぜなら、今日から家にはうにも一緒に暮らすことになっているのだ。だから駅までうにを迎えに来ている。実はそのことも昨日聞いたことなのだが。自分の自転車に少し寄りかかって携帯をいじっていると、聞き慣れた声に呼ばれた。
?「お兄ちゃん。お待たせ」
そこにはうにがいた。水色の髪にツインテールで背の低い女の子が立っていた。
主「おー、うに。お前全然背伸びてないなー」
俺は少し小馬鹿にしながら、うににそう言った。するとうには頬を膨らませ、抗議をしてきた。
う「伸びたもん!0.2cm伸びたもん!」
主「半年で?どちらにせよ全然伸びてないじゃん」
すると、その言葉でさらに機嫌を損ねたうには俺に向かって何度も「馬鹿」といいながらポカポカと胸を叩いてくる。さすがにからかいすぎたと思い、俺はうにをなだめ始める。
主「悪かったって。そうだうに。お詫びにアイス買ってやるよ」
うに「本当?」
それを聞いたうにはそれまでの行動をストップし俺に上目遣いで確認してきた。
主「ああ。本当だ」
う「やったー!」
そう言ってピョンピョンと跳ねる従兄妹の頭を撫でると、うには「えへへ」という風に笑った。俺たちはそのまま近くのコンビニに入っていった。
帰り道。俺とうには自転車を二人乗りで帰っていた。うにが後ろの荷台に座り、俺が漕ぐような形になっている。うにの体重はとても軽く、ちゃんと食べているのか心配になる。そういううには俺の後ろでアイスを食べていた。
主「落としても知らねえぞ」
う「大丈夫だよー。絶対落とさないもん」
そう言ってうにはあっという間にアイスを食べてしまった。
主「お前頭痛くならねえのかよ」
う「大丈夫だよー。お兄ちゃんと違って頭強いもん」
主「まるで、俺が馬鹿みたいな言い方だな⁉︎」
う「えへへ。お兄ちゃんの背中温かいなー」
主「…ったく」
それから、俺たちは何気ない話をしていた。なんせ半年ぶりの再会だ。お互いにたまっていることもあったのだろう。話は全く尽きることはなかった。そして家に帰ると母は料理をもうすでに作り終わっていて、すぐに晩飯になった。うにが今日から暮らすからなのだろか。今日の晩飯は一段と豪華だった。
うには疲れが溜まっていたのか、早めに寝てしまった。俺もすることがなかったので、今日は寝ることにしたが今になってうにを同好会に誘ってないことに気付いた。が、もう寝ているし明日にしようと考えながら、眠りについた。俺も疲れが溜まっていたようで、目を閉じたらすぐに夢の中へいくことが出来た。
3章-a 神父編part2
4月10日(木曜日)
ジリリリ……ジリリリ……
部屋中に目覚ましの音が鳴り響く。目覚まし時計の針は7時を指していて、俺はその目覚ましを忌々しそうに見つめる。俺は布団の中からは出ず、布団から手を出してその目覚ましを止めた。カーテンの隙間からは少し朝日が顔を覗かしていて、俺は開けた目を少し閉じてしまう。その朝日によって完全に目を覚ました俺は、ベッドの上で軽く伸びをしてベッドから飛び降りる。目が覚めたとはいえ、やはり朝は苦手だ。そんなことを考えながら、部屋を出てからそのまま洗面所まで向かう。そこで顔を洗い、歯を磨く。いつも通りの何も変わらない朝。ただ一つ違うのは。
う「お兄ちゃんおはよう」
この家にうにがいるということだった。
主「ああ、おはひょう。うに」
う「歯磨き終わってからでいいよ。お兄ちゃん」
俺が歯磨きをしながら挨拶すると、うには苦笑いを浮かべていた。
歯を磨き終わり、俺はあらためてうにに「おはよう」と言う。すると、うにも「えへへ。おはよう」と返す。背もそうだが、行動などなにもかもが子供みたいで、一つ年下は思えないほど彼女の全てが幼く見えた。
それから飯を食べ、それぞれの支度をして俺とうにが家を出たのは8時だった。外の空気は家の中よりも気持ち良く、こんな朝は久しぶりだった。俺は玄関の前で深呼吸していると、靴を履いていたうにが「お待たせ」と言って家の中から出てきた。俺はそんなうにをジッと観察していた。
う「ど、どうしたの。お兄ちゃん」
と恥ずかしいのか少しうつむき上目遣いで俺を見るうに。
主「やっぱりうにって小さいよな。色々と」
う「な⁉︎」
うには背だけでなく靴のサイズも小さくて、手の大きさや色んなところが小さかった。
う「お兄ちゃんそれってどういう意味?」
相当機嫌を悪くさせてしまったのか、うには下を向いて肩を震わせている。そうして、俺の腹に思いっきり拳をめり込ませる。俺はその場に立っていることが出来ずその場に崩れ落ちた。
う「お兄ちゃんなんて知らない!」
俺はその場から走り去っていくうにを見ていることしか出来なかった。
なんとか動けるようになった俺は急いで学校に向かっていた。すると、前を歩いている従兄妹の姿があった。なんとかうにに追いつくことが出来たらしい。俺はうにの前に回り込み、謝罪の言葉を口にした。
主「本当すまなかった。さっきのは俺が悪かった」
頭の上で手を合わせる俺を見てうにからも俺に謝ってきた。
う「……私もさっきのはやりすぎちゃったかも。私の方こそごめんね。お兄ちゃん。だから顔を上げて。その……恥ずかしいし」
俺は顔を上げて周りを見ると通勤や通学中の人たちの真っ只中である事に気付いた。俺は慌てて「ごめん」と言うとうにの隣に並んだ。
そこで俺は昨日うにを部活に誘おうと考えていたことを思い出した。
主「そういえばうにって入る部活とかって決まってるの?」
う「うん。一応ね。中学の頃からやってた卓球部に入ろうかなって」
うには頷いてそう答えた。
主「そっか。気が向いたらでいいからうちの部活もちょっと見ていってくれよ」
十字路に差し掛かる。車の音が聞こえたため俺たちは一度立ち止まった。
う「うん。一度体験に行ってみるよ」
そこでタイミングを見計らったかのように目の前を白のワゴン車が通り過ぎて行った。それからの俺たちは適当な会話をしながら学校まで向かった。
学校に着き、下駄箱でうにとは別れた。俺は自分の教室に向かっている途中、階段の踊り場でシンちゃんを見つけた。俺はシンちゃんのいる場所まで走って行き、シンちゃんに声をかけた。
主「おはよう。シンちゃん」
その声で俺の存在に気付いたシンちゃんは俺の方を振り向いていつもの笑顔で俺に挨拶をする。
神「ふふ。おはよう」
俺とシンちゃんはお互いに挨拶をしあって、教室に向かった。教室に着いた後も俺とシンちゃんは会話を続けていた。俺は自分の席に鞄を置いて、シンちゃんの隣の席に座った。するとシンちゃんから意外な言葉が出てきた。
主「あ、あのね。私…ボードゲーム同好会入ろうかなって思ってるんだ」
その言葉を聞いた時、俺は一瞬何を言ってるかわからなかった。少しの間唖然としていた俺は、我に返ってようやく言葉の意味を理解した。
主「え? 本当に⁉︎ 本当にいいの⁉︎ 」
俺は身を乗り出してそう聞いてしまう。
神「う、うん。楽しかったし。それに……くんも……い……から」
最後の方は小声だったために聞こえなかったが、入ることを決めたのは確かだった。あんなことがあったから、入らないかもと思っていたので俺はかなり嬉しかった。
神「それで今日もあるんだよね。同好会」
主「え?あ、うん。そうだよ」
まあ、月水木だからあるんだけど、それがどうしたのだろう。
神「じゃ、じゃあ一緒に行こうね!」
少し照れ臭そうに笑うシンちゃんの笑顔は今も咲き続けている桜よりも美しいと、そう思った。
放課後。俺とシンちゃんは部室に向かっていた。すると部室棟と校舎を繋ぐ渡り廊下で後ろから勢いよく走ってくる足音と叫び声が聞こえた。
?「せっんぱーい!」
俺は何事かと振り返った時にはもう、クロスにされた腕が俺の目の前まで迫っていた。どうやらその腕の持ち主はセミロングの焦げ茶の髪に、うに程ではないがそこまで高くない身長の女の子だった。俺はその少女に見覚えがあった。そしてその少女は俺にクロスチョップを入れる形で飛び込んできていて、慣性の法則に従い俺にクロスチョップをお見舞いした。俺はそのまま思いっきり吹っ飛ばされる。そこまで力の強くない女子の力でも、勢いをつけた捨て身の攻撃はなんの準備もしていなければ、大抵のやつを吹っ飛ばせるエネルギーを持っていた。
俺は上半身を起き上がらせすぐさまその少女に怒声を浴びせる。
主「みきてめえなにしやがる!」
み「えー。だって先輩なら受け止められると思ってたんだもーん」
主「だもーん。じゃねえ!いきなりされて対処出来るか馬鹿!」
今まで唇に人差し指を当てて、上を向いていた目の前の少女はその言葉に反応した。
み「ば、馬鹿って言った方が馬鹿だし!ばーかばーか」
罵っているつもりなのかこの馬鹿は俺に向かって「ばーか」と言い続ける。
主「お前相変わらず、馬鹿しか言えないのな。もっと言葉のボキャブラリー増やせよ」
神「え?えっと。その」
シンちゃんはまだ突然の出来事にまだ追いつけていなかった。そんなシンちゃんに俺は彼女の説明をした。
主「あー。彼女は白麗(はくれい)みき。俺の中学時代の後輩だよ。で、こっちは○○神父。お前の先輩だから、あまり変な口の聞き方するなよ」
とお互いにお互いの紹介をした。すると、後ろからまた声が聞こえる。
う「待ってよー。みきちゃーん」
その声はうにのものだった。
俺の存在に気付いたうには、俺を見てびっくりしていた。
う「あ、お兄ちゃんどうしたの⁉︎って部活か。あ、そうだあのね。この子は白麗みきちゃん。ボードゲーム同好会に入りたいんだって」
そしてみきの紹介を始めるうに。今のこの状況を何もわかってないうにが俺には道化のように見えた。
主「うん。知ってるよ。だって中学の時の後輩だし」
う「あー。そうなんだー……ってええ⁉︎」
それを聞いたうには俺に詰め寄る。
う「え⁉︎ 二人が知り合いなんて知らないよ! なんで言ってくれなかったの⁉︎」
主「いや、俺も知り合いなんて知らなかったし」
そう返した俺にうには「うー」と言った。そんなうには若干不機嫌そうだった。
み「え? お兄ちゃんってもしかしてうにちゃんって先輩の?」
ここにも驚愕している奴がいた。恐らく、シンちゃんはもっと驚愕しているだろう。なんせ中学時代の後輩が出たと思ったら、その同級生で俺のことをお兄ちゃんと呼ぶ人物が現れたのだから。
主「確か紹介がまだだったな。うには俺の従兄妹なんだ。でこの子は○○神父。俺のクラスメイト」
そう紹介すると、シンちゃんとうにはお互いに自己紹介をしあった。そんな中、普通は二人に交じって自己紹介をする場面なのにみきだけが俺に問い詰めていた。
み「なんで先輩、うにちゃんが従兄妹だって黙ってたんですか。そういうことは事前に言ってもらわないと」
主「いやお前らが知り合いなのも知らなかったし、そもそもこの学校に受かってることすらも知らなかった」
そんな感じで俺はみきを軽くあしらい、シンちゃんとうにに声をかけて部室に向かった。後ろからみきが「あ、待ってー」と言っていたが無視して俺はその場から立ち去った。
現在部室には謎の緊張感が漂っていた。その原因はうにとみきで、自己紹介をするはずが三年生を前に緊張してしまっているのだろう。しかしその沈黙を破ったのはみきだった。
み「に、入部を希望している白麗みきです! よ、よろしくお願いします!」
みきは頭を下げ、軽い自己紹介を行なう。俺はこいつが頭を下げるところを初めてみたような気がした。全く。こういうところがあるのなら俺にも少しくらいましな態度をとってほしい。みきを見ながらそんなことを考えていると、今度はうにが自己紹介を始めた。
う「えっと。同じく入部希望の○○うにです! よろしくお願いします!」
とみき同様頭を下げるうに。俺はその言葉に少し疑問を抱いた。最初はそれが何かわからなかったが、それをすぐに理解することが出来た。
主「ってうに! お前卓球部に入る予定だって言ってたろ⁉︎」
そう、うには今朝部活は卓球部にすると言っていた。それがここでは入部を希望している。これは俺にとって一つの謎だった。
う「だ、だって卓球部はやっぱりいいかなって思ったのと、あとお兄ちゃんが入ってるし、誘われちゃったから!」
それを聞いた部長は口を開き目を丸くしている。そして「お兄ちゃんって……」と呟いていた。
(まずい……!)
俺は瞬時に自分への危機感を察知したがもう手遅れだった。部長は一瞬で俺の目の前に詰め寄り、両手で胸ぐらを掴んできた。そして、俺の体を前後に思いっきり揺さぶる。それは見た目からは想像も出来ない程の力だった。この人の力はどこから出てきているのか。俺は不思議でならなかった。
リ「ち、ちょっと! 君にこんな可愛い妹がいるなんて聞いてないわよ!」
主「い、妹じゃなくて、従兄妹です!」
俺は揺さぶる手を止めてほしく、自然と声が大きくなる。
リ「だとしても! なんで黙ってたの⁉︎ 羨ましいわよ! 本当!」
悠「リリムさん本音が漏れてるよ」
悠紀先輩が部長に指摘を入れる。
いや、そこじゃない。何故俺がこんなに責められてるのかではないだろうか?
俺はしばらくの間部長に胸ぐらを掴まれたままそんなやりとりをさせられたが、ようやく治まったのか、俺のことを解放してくれた。俺はそこで、シンちゃんが入部を決めたことを思い出した。俺は襟など、乱れた制服を正しながら、それを報告した。
主「そういえば部長、シンちゃんもうちに入りたいらしいですよ!」
リ「知ってるわよ。朝本人から聞いたもの」
部長は俺の言葉を聞くなり腕組みをして、なんだ今更かとでも言ってるような表情で俺のことを見てきた。
(なんだ知らなかったのって俺だけか)
俺はまるで自分だけが時代の波に置いていかれたような、そんな感覚に陥る。
主「てか知ってるなら先に言ってくださいよ⁉︎」
リ「まあ、いいじゃない。あなたもうにちゃんのこと黙ってたんだし。そんなことより今日は何しましょうか? 人数も多いし」
俺のことを軽く流して話を続ける部長。
(俺の扱い酷くね⁉︎)
と言おうとしたが、それを実際に口にすることはなかった。なぜなら、俺が口を開けたところで別の人物が俺の言葉を遮ったからだ。
悠「はいはい!」
と言って手を挙げたのは悠紀先輩だった。
ピョンピョンと手を挙げながら跳ねる姿は小動物のようで、先輩とは思えないような可愛さがあった。
リ「はい。ゆーきちゃん」
そんな悠紀先輩を指名する部長。その姿はどこぞのSOS団の部長のようにも見えた。
その言葉を聞くと、悠紀先輩は手を下げて跳ねるのもやめた。俺はもうしばらくさっきの悠紀先輩を見ていたかったが、その気持ちをぐっと堪えた。
悠「wiiUのマリオ!あれなら5人で出来るし一人ずつ交代でやれば丁度いいよね?」
おお!という声が周りから上がる。俺や部長を含めたその場にいる全員がその意見に賛成していた。シンちゃんやうには拍手しているくらいだった。それで何をするかは決まったらしく、部長の掛け声と共に準備が始められた。
リ「そうと決まれば始めるわよ!」
その声と共に俺と部長と悠紀先輩は動き出した。その動きは素早く、部長は棚に置いてある大量のボードゲームを退かすと、隠していた48インチの薄型テレビが露わになる。悠紀先輩は部室の鍵を閉め、窓のカーテンを閉める。そして俺はトランプをテーブルの上に出して、いかにもババ抜きをやっていたように並べる。一方ここには突然動き出した俺たちを見て戸惑っている人たちもいた。今日から入部というシンちゃんや、本人たちは入部すると言っているが、実質体験入部であるうにと白麗である。
神「あれ? そういえば何でボードゲーム同好会なのにマリオが?」
無理もない。この部活はボードゲーム同好会であるが、棚の裏などの見えないところには大量のゲーム機が置いてある。そしてそれをやる時は絶対にバレぬよう鍵などを閉め万全の状態にする。そうやって俺たちは今まで一度も見つからずにやってきた。
リ「さ。出来たわよ」
そんな疑問を抱いたシンちゃんを片目に部長はwiiUの準備を終わらして俺たちに声をかけた。
主「まあ、こういう部活なんだよ。うちは。嫌だったら今から辞めてもいいから」
俺はシンちゃんの肩をぽんと叩く。するとシンちゃんはふるふると首を振る。
神「ううん。大丈夫だよ。楽しそうだし」
主「そっか」
そんなやり取りをしていると、もう他の人はテレビの前に集まっていた。俺はシンちゃんに「行こ」と言うと、シンちゃんはコクと頷いた。そうやって俺たちは下校時刻ギリギリまでゲームをしていた。
部活中はやっぱり顧問や他の先生が見に来ることもなく、俺たちは無事にマリオをやりきった。クッパを倒したわけではないが、それでもかなり楽しい時間ではあった。
最終下校時刻の7時前、正門は運動系の部活などに所属している生徒で溢れかえっていた。冬に比べれば日は長いにしろ、もうすでにあたりはもう暗くなっていた。俺がシンちゃんたちと正門でうにとみきを待っている時だった。どこからか聞き覚えのある話し声が聞こえてきた。そしてその話し声は少しずつだが近づいてきているのだ。俺は声のする方を向くとやはりというか、おなじみのメンバーが丁度帰るところだった。
鹿「やっと終わったぁ。マジここのサッカー部頭おかしい。ハードすぎだって!」
か「鹿はもうちょいがんばれよ。シグの方が辛そうだぞ」
シ「……まあ、お互い様だと、思う」
鹿「なんでそんな途切れ途切れなの⁉︎どんだけ辛いんだ機械部!」
そうおなじみのメンバーとは、かいちょー、シグ、よ鹿である。運動部の部室棟はグラウンドの方にあるのに、俺たちが来た方と同じところから来た辺りを見ると、サッカー部が終わった後に機械部の前でシグのことを待っていたのだろう。
主「奇遇だな。かいちょー、シグ」
か「おお、お前らも帰るとこか」
シ「………よ」
主「相変わらず機械部は大変そうだな」
シグは生気をほとんど失っていた。するととうとう我慢しきれなくなったよ鹿が大声で話しかけてくる。
鹿「ちょ、俺は無視⁉︎」
主「じゃあ行くか」
よ鹿がそう言うのと、俺が鞄を持って歩き始めるのはほぼ同時だった。
鹿「だから、無視すんなゴルァ!」
よ鹿は俺の前に一瞬で回り込んでくる。その結果よ鹿は俺の斜め前にいる人物に気付く。俺が死角になっていて、かいちょーとシグも気付かなかったその人物を見て、よ鹿は目を輝かせた。
鹿「白麗お前受かってたのか⁉︎」
かいちょーとシグはその言葉を聞き、俺の前に顔を出す。そこには、確かに自分たちの中学生時代の後輩がいる。そしてそれを直接確認した二人もその人物、みきのところへ向かった。
み「怪鳥に鹿にシグさんだ! 超久しぶり!」
か「なんで、シグだけさん付け」
シ「いいじゃん別に」
み「そーだ。ばーか」
鹿「てか白麗お前よく受かったな。馬鹿だから受かってないかと思った」
み「な⁉︎ 馬鹿じゃねーし! 馬鹿はそっちだろ! 鹿のばーか!」
よ鹿の言葉でかなりムカついたのか、よ鹿に向かって「ばーか」と言い続けていた。
4月18日(金曜日)
あれから約1週間が経った。うにとみきは結局ボードゲーム同好会に入った。そして昼休み、いつも一緒に飯を食べてるかいちょーとよ鹿は明日行われる新入生歓迎会の打ち合わせだとかでいない。そういう理由もあり、俺は一人自分の席に座ってパンを食べていた。最近は親が忙しく弁当を作れないので、こうやって学食に頼るしかないのだ。
俺が一人で飯を食べていると、シンちゃんが声をかけてきた。
神「前いいかな? 一緒にご飯食べたいから」
主「あ。う、うん」
俺は少し驚きを隠せなかった。シンちゃんから昼飯に誘われるなんて思いもしてなかったからだ。俺の返事を聞くと、「ありがとう」と言って前の席に座る。
神「今日、パンなんだ」
シンちゃんは彼女の弁当箱が入っているであろう包みを取り出す。
主「うん。最近親が忙しくて弁当作れないんだ。学食も並ぶの面倒臭かったから、途中のコンビニで買ったんだよ」
神「そ、そっか。じゃあ今日ってそれだけなんだ」
主「え?うん、そうだけど」
シンちゃんは俯いてモジモジしている。窓の外から吹いてくる風は今のシンちゃんとは対局的で、堂々と教室の中へ入ってきては俺とシンちゃんの髪を凪ぎ、クラスのプリントなんかを吹き飛ばした。
神「あ、あのね。やっぱりパンだけじゃ足りないだろうし、栄養も偏ると思うんだ」
主「確かに足りないけど……」
神「じゃ、じゃあ!」
足りないけど大丈夫。それを言おうとするのを遮り、今まで下を向いていた顔を上げて机を乗り出してきた。その時シンちゃんの顔が自分のすぐ目の前にあり、少し近づいたら鼻が当たるような所にあった。それに気付いたシンちゃんは「ごめんなさい」と言って椅子に座り直す。
神「あのね。それでお弁当作りすぎちゃったから。半分どうかなって、思って……」
シンちゃんは男子たちが使ってるような大きめの弁当箱を取り出す。最後の方はシンちゃんの声が小さかったのもそうだが、教室がうるさくよく聞き取れなかった。しかし俺も馬鹿ではないので、シンちゃんの言葉の先くらいは解る。シンちゃんが弁当箱のふたを開け俺にも中身が見えるようになる。中には玉子焼き、唐揚げ、ミニトマトなど弁当の定番メニューにご飯というシンプルな弁当だった。
主「もらっていいんだ」
よく聞き取れなかった俺は念のため確認をとる。するとシンちゃんはコクリと頷いた。
主「ありがとう」
俺は弁当箱の中の唐揚げを手でつまみ口に放り投げる。そうして、口の中で何回か咀嚼して飲み込んだ。その間、シンちゃんはずっと俺のことを見ていた。俺はそれを食べ終わると素直な感想をシンちゃんに言った。
主「すっげえ美味いよ!」
その言葉が相当嬉しかったのか、シンちゃんはすごい笑顔で「本当⁉︎」と言う。そしてシンちゃんは弁当の説明を始める。
神「あ、あのね! これ私が全部作ったんだ! その唐揚げも! って言っても唐揚とかは冷凍のだけどね」
なぜかシンちゃんは俺の分の箸も持ってきていて、それから俺たち二人はシンちゃんの弁当箱を箸でつつきあった。
二人で食べたこともあってか、弁当は簡単になくなり、そのほとんどを結局俺が食べていた。
神「そんなに美味しいなら……その……毎日作って……こようか?」
すると、そんな俺を見てシンちゃんがそんなことを聞いてきた。少し照れているのかその頬は少し朱色を帯び、目線は少し横を向いている。それは流石にシンちゃんに悪いので、俺が断ることにした。
主「いいよ。シンちゃん大変だろうし」
シンちゃんはやっぱり別の方を向いてモジモジしている。しかし俺の返答を聞くなり、俺の方に目線を戻した。
神「だ、大丈夫だよ……一人分も二人分もあまり変わらないから。ね?」
そんな必死な彼女を断ることが出来ず、結局彼女に押されて、俺は弁当を作ってもらうことになった。本当にこれでいいのかと思ったが、本人が良いと言っているのだからこれ以上は何も言わないことにした。それから俺たちはたわいもないことを話していたが、俺が忘れたい話題をシンちゃんがあげてきた。
神「そういえば、明日の学力テストの勉強ちゃんとやってる?」
主「…………」
神「ダメだよ。ちゃんとやらなきゃ。いくら成績に入らないからって」
主「わかってるけど、難しいじゃん」
神「そうだけど……」
シンちゃんが少し困った顔をする。彼女のそういう顔は見たくなが、勉強もしたくない。俺はその顔を見ることが出来ず、窓の外に視線を移した。そして思わず考えていたことが口から出てしまった。
主「そういえばなんでこの学校って土曜日も学校あるんだろ。私立ならともかく、公立で週六は珍しいよな」
もうすぐ昼休みが終わることもあり、校舎に戻る生徒を何人か見かける。さっきまでの喧騒が嘘のように、静かな時間だった。
神「週六で授業は嫌?」
そんな俺を見てシンちゃんは聞いてきた。
主「まあ、嫌だよ。だるいしね」
俺はシンちゃんの方を向き直って答える。シンちゃんは「そっかぁ」と呟く。そしてシンちゃんは胸に両手を当て目を閉じる。
神「私は嬉しいよ」
その言葉が少し意外だったが、俺は何も言わずに話を聞いていた。
神「だって、その分他の学校よりも多く皆に会えるから。一週間だったら一日多く、一ヶ月だったら四日か五日、一年間だと長い休みとかも含めると約40日、それだけ多く皆に会えるんだよ。私は部活の皆やあなたに会えるのがすごく嬉しいから」
微笑むシンちゃんは天使、いや聖母様のようだった。それだけその時のシンちゃんは彼女自身だけでなく、その言葉や仕草、彼女の全てがなによりも輝いて見えた。俺がしばらくの間目を離せないでいるた。「あっ」とシンちゃんは何かえお思いついたらしい。
神「学力テストの勉強……一人だと大変なら、私と一緒ならどうかな?」
シンちゃんが首を傾けて少し机を乗り出す。
主「うん。いいよ」
俺はシンちゃんの提案に即答する。俺には彼女と一緒の時間が作れるなら願ったりだったからだ。
昼休みを終えるチャイムが鳴り、シンちゃんは自分の席に戻ろうとした時、もう一回俺の方を振り向いた。
神「じゃあ、今日学校終わったら私の家でお勉強会だからね」
主「……え?」
ニッコリと笑って自分の席に戻っていくシンちゃん。その言葉を聞いて少し頭が回らないでいたが、すぐに言葉の意味を理解でき思わず心の中でガッツポーズをとった。
放課後。
俺はシンちゃんの家まで来ていた。彼女の家は俺と彼女が初めて会った教会で、庭に立っている桜の木は桜よりも緑が大分多くなっていた。
家の玄関は教会の裏にあるらしく、俺はシンちゃんに案内されてそちらに向かった。シンちゃんが「ただいま」と言って家に入っていくのに続いて、俺も「お邪魔します」と一声かけてから家に入った。
玄関からすぐ右には階段があって、そこから上がって2番目の部屋がシンちゃんの部屋だった。
シンちゃんがその扉を開けて中に入る。部屋の真ん中には丸いテーブル、そして左には勉強机、奥にはこの部屋唯一の窓があり、そこから光が当たるように窓際にはベッドが置いてあった。
神「今お茶出してくるから、ゆっくりしててね」
シンちゃんはそう言って部屋を出て行った。
主「ゆっくりしてて、か」
とは言われたものの女の子の部屋に一人でいて落ち着くはずもなく、俺は部屋の中をじっくりと観察していた。すると気になる物が目に入った。それはタンスの上に置かれた一枚の写真だった。しかもただの写真ではなくそこには、手に十字架のネックレスを持った少女が誕生ケーキのロウソクの火を消している姿が写っていた。おそらくこれはシンちゃんが小さい頃の誕生日に撮ったものなのだろう。右下には2006.4.27と書いてあった。
(四月の二十七日か。結構もうすぐだな。プレゼント用意しておかないとな)
俺がその写真を眺めているとドアが開き、手に持ったお盆に二人分の麦茶とチーズケーキを乗せたシンちゃんが戻ってきた。
神「おまたせ。じゃあ始めようか。」
お盆をテーブルの上に乗せてシンちゃんが俺の隣に座る。
主「これシンちゃん?」
神「あ。その写真?そう……だよ?」
主「この写真のネックレスって付けてるの?あんまり見ないけど」
俺はそうシンちゃんに聞いた。彼女は「うん」と言って写真をじっと眺めていた。その時のシンちゃんはどこか遠くを見ているような、そんな目をしていた。そしてシンちゃんはゆっくりと話始めた。
神「それね。私が小学3年生の時の誕生日に撮ったやつなんだ。いつも首に掛けてるこの十字架のネックレスは、その時お父さんに貰った物なんだ」
俺は黙ってシンちゃんの話を聞いていた。すると長めの髪を上げ、首元を見せるシンちゃん。今まで髪や服などで隠れていたため全く気付かなかったが、確かにそこには写真の物と同じネックレスがあった。シンちゃんは上げていた髪を下ろし話を進めた。
神「でもね。私のお父さん……その後すぐに、交通事故にあって死んじゃったんだ……。だからこのネックレスはお父さんの形見なの」
衝撃的だった。まさか彼女の過去にそんなことがあったなんて。そしてそんな話を話させてしまった自分への怒りが少しずつ湧いてきた。
主「なんかごめん……嫌なこと話させちゃってさ。嫌だったでしょ? 辛かったら話さなくていいからね?」
シンちゃんはそれを聞くと、首をブンブンと振った。
神「ううん。大丈夫だよ。あなたには知ってほしかったから……だから気にしないで。ほら! 勉強始めよう?」
シンちゃんは俺に気を遣いこの話を無理矢理終わらせた。シンちゃんに辛い話をさせた挙句、気を遣わせてしまった自分にとてつもなく腹がたった。
主「うん。わかった」
俺の返事を聞いて、シンちゃんはノートと教科書を取り出す。そんな彼女は少しホッとしたように見えた。最後まで気を遣わせてしまった自分がどこまでも情けなく思えた。
時刻は午後七時を回っていた。外の空気は冷えていて、昼間の暑さとは大違いだった。俺はシンちゃんに勉強を教えてもらい、帰るところだった。
主「今日はありがとね。すげえ分かりやすかった。」
神「大丈夫だよ。じゃあまた明日ね」
主「うん。また明日」
俺は手を振っているシンちゃんに手を振りその場を去った。勉強を教えてもらってる間はなるべく考えないようにしたが、終わったら急にシンちゃんの話が思い浮かんだ。
主「形見……か」
やはりこの話題には触れない方が良いのだろう。俺はこれ以上シンちゃんにこの手の話題はしないことにした。そこで俺は学校に明日提出の宿題を忘れてきたことに気付いた。
主「…まあいっか」
少し考えたが、学校ももう閉まっている時間だし行かないことにした。
4章-a 神父編part3
4月19日(土曜日)
俺は結局、今日の分の宿題を朝かいちょーのを写させてもらい提出した。シンちゃんは宿題を忘れてしまったらしく、先生に謝っていた。いつも真面目な彼女なのであまり怒られたりはしていなかった。考えてみると、よく探し物をしている姿を見かける。意外と忘れっぽい性格なのかもしれない。
授業が終わり放課後になった。土曜日は授業が午前中で終わるので、学校帰りに遊びに行ったりする生徒が結構多かったりする。クラスには部活に所属している生徒が多いのもあり、弁当や学食を食べている人が固まっていた。かいちょーやよ鹿もその一人だ。
俺も用事があり急いでいるため二人に挨拶をしてその場を後にした。
用事というのはシンちゃんの誕生日プレゼントを買いに行くというものだ。そのために今日は都会の方まで出なければならなかった。
窓から夕日が射し込む。伸びた自分の影が窓で途切れる。現在俺は帰りの電車の中だ。ケータイで時間を確認するとちょうど5時に変わるところで、外ではいつものように5時を知らせる鐘が鳴り始めた。
次の駅のアナウンスが終わり、鐘の音も終わりに差し掛かると電車は速度を落とし始める。電車が完全に停止してドアが開いた時には鐘はもう鳴り終わっていて、その音が聞こえることはなかった。
俺は電車を降りると再び帰路についた。
4月21日(月曜日)
3時間目と4時間目の間の妙な空腹感をどうしようかと考えながら、俺は授業の準備を進めていた。ロッカーの中から教科書等を取り出す。俺は英語Ⅱと書かれたその表紙を見てため息をついた。英語は学力別に分けられていているので、教室を移動しなければならない。そのため、教室の中にはもうほとんど人が残っておらず、俺のロッカーを閉める音が響き渡った。
そこで俺はシンちゃんが自分の席の所でおどおどしているのを見た。
主「どうしたの?」
俺はシンちゃんの横まで近づいた。シンちゃんは俺の存在に気付いていなかったのか大きく飛び跳ねて、俺の方を向いた。
神「なんだ……びっくりしちゃったよ」
シンちゃんはホッと胸を撫で下ろした。
主「気付いてないとは思わなくてさ。ごめんて。それで困ってるみたいだったけどどうかしたの?」
俺がさっきと同じことを聞くと、シンちゃんは答えにくそうに少し視線を逸らした。
主「いや、答えたくなかったらいいよ」
神「あ、違うの! そうじゃなくて……」
そう言ってもじもじと自分の腹の上で指と指を絡め始めるシンちゃん。気持ちが整ったらしく、顔を上げて俺の方を向いた。
神「教科書忘れちゃったから、一緒に見せてほしいの」
まずい。
これは非常にまずい状況だ。
英語の時間、俺とシンちゃんは席が隣同士だ。しかし俺は今、シンちゃんに英語の教科書を見せるために席をくっつけている。そのせいでシンちゃんとの距離がとても近い。緊張しすぎて授業の内容が頭に入ってこないうえ、変に意識して横を全然見れない。
神「迷惑だったかな?」
そんな俺を見て心配になったらしく、シンちゃんはそう聞いてきた。
主「そんなことないって。大丈夫」
シンちゃんの方を向いて笑顔を見せる。かなり恥ずかしかったが、彼女に変な気を使わせるよりかは幾分か良かった。
そういえばシンちゃんの机の上にはノートがあるのに、彼女は書こうともしなければ開けもしない。
いつも真面目にノートを撮ったりしているシンちゃんにしては珍しいことだった。
主「ノート撮らないの?」
神「……ちょっとノート間違えちゃって。だから書けないんだ」
シンちゃんはそう言って俺に笑いかけた。
しばらくして、教科書に載っている英文の音読が始まる。シンちゃんは俺の教科書を読むために少し距離を詰めてくる。それによって互いの肩がぶつかる。
神「ご、ごめんなさい」
主「こっちこそ」
今のことで余計に意識してしまい、俺は余計シンちゃんの方を見ることが出来なくなった。シンちゃんもそれは同じなようで、顔を赤くして俺の方を見ずに教科書を無言で眺めていた。それから、俺たちは会話をすることなく授業は終わった。
俺は椅子に座り、自分の机に突っ伏していた。
疲れた。肉体的でない精神的な疲れが俺を襲う。辺りは昼休みの喧騒で溢れかえっていて、それに対抗するように鳥達うるさく鳴き始める。そんな俺のことも知らずかいちょー達が教室に戻ってくる。
鹿「よお! テンション低いな! 大丈夫か!?」
よ鹿が俺の席まで来て抱きついてくる。やっぱりこいつホモだ。
主「うぜえ! 離れろ! 暑苦しいんだよ、ホモ野郎!」
鹿「うぐっ!?」
俺はよ鹿の顎に頭突きをして俺から引き剥がす。そんな光景を見てかいちょーはただ笑っているだけだった。
4月24日(木曜日)
昼休み。今俺は浮かれていた。なぜなら、学食で日替わりオススメパンの争奪戦に勝ったからだ。
そんな風に、テンションの高い俺はスキップ混じりで廊下を歩いていた。
すると、突然女子トイレの扉が開き中から女子が出てきた。
いつもと違う歩き方、というかスキップでそんな場面に遭遇したら、案の定避ける事が出来るわけでもなく俺はぶつかってしまった。
主「あ、すみません。大丈夫ですか?」
手を差し出す。よく見ると自分と同じ学年のようだが、俺はその女子の事を見たことはなかった。一学年の人数が250人を超えるこの学校では別に珍しいことでもない為、そこまで気にすることはなかった。
女「こちらこそ」
彼女は俺の手を取って立ち上がると、そそくさとその場から立ち去ってしまった。
(結局誰だったんだろ、あいつ?)
その女子の背中を見送りながら、俺はそんな事を考えていた。
軽いトラブルもあり、教室に戻るとかいちょー達はもうすでに半分位まで弁当を食べていた。相変わらず二人は俺の席付近を陣取っていた。
か「遅かったな。何かあったのか?」
俺が二人のとこまで行くと、かいちょーは弁当を食べている手を休めると、何があったのか聞いてきた。
俺は二人にさっきの出来事について話してから、買ってきたパンを食べ始めた。
終礼が終わり、俺がシンちゃんと部活に行こうとしたら、シンちゃんは
神「ごめんね。今日は用事があって……」
と帰ってしまった。
俺が部室に行くと、まだ誰も来ていなかった。
俺はすることも無いため、椅子に座って本を読み始める。俺が最近読み始めた推理モノで、合間を見つけては読んでしまうくらいハマってしまっている。
俺がページを10ページほど読み進めたところで、部長と悠紀先輩が一緒に入ってきた。続いて、うにとみきも入ってくる。そこで会ったのかどうかはわからないが、四人はどこかしらで合流してここまで来たらしい。
リ「あれ?そういえば神父ちゃんは?」
部長は中に入ってすぐに一人いないことに気付いて、辺りをキョロキョロしている。
主「あ、シンちゃんなら今日は用事があって来れないらしいです」
俺の言葉を聞くと、部長は「あ、そうなんだ」と返し、
リ「まあ部活って言っても、皆で集まって遊ぶだけだしね。本人の都合が悪いなら来れなくて仕方ないしねー」
ゲームの準備をしながら、部長は軽い調子でそう言った。
部長の言うように、この部活は遊ぶだけのため別に幽霊部員でも許される緩さだ。だからシンちゃんみたいにしっかり断って帰る方が珍しい。部長でさえ、月に一、ニ回はサボっている。
部長がゲームを始める準備を終えて、俺を除いた残り三人にゲームキューブのコントローラを渡す。どうやら、今日はスマブラをやるらしい。
(俺は最初は見てるだけか……)
やれやれと言いながら、俺はいつものように扉の鍵を閉めトランプを並べる。皆の画面を見ると部長が皆を圧倒していた。
(これなら一戦目は早く終わりそうだな)
そんな事を考えながら、俺は皆がゲームをしているのを後ろから見ていた。
部活が終わり、帰ろうとすると思わぬ人物が俺を正門で待っていた。
主「どうしたんだ、よ鹿?」
そう、待っていたのはよ鹿だった。いつもならサッカー部と一緒に帰っているはずなのに、何故か今日だけは一人で俺を待っていた。
鹿「ちょっと話したいことがあってな」
主「どうした。皆にハブられたか? というかホモ臭いぞ」
鹿「ハブられてねえし! ていうかホモじゃねえ!」
多くの部活をして、帰っている生徒の声が鹿の声によって掻き消される。そしてその声を聞いたほとんどの生徒が鹿の方を向いた。
主「お前声でけえよ」
俺は笑いを堪えることが出来ず、その場で笑い出した。
笑終わった後、鹿との話が長くなりそうだったので、俺はうにを先に家に帰した。
主「で、どうしたんだよ?」
鹿「ああ、ちょっとついて来てくれ。」
と言って連れて来られたのは、Mの文字がトレードマークのハンバーガーのファーストフード店だった。
主「………………………」
鹿「ここのポテトって美味いよな」
鹿はセットで頼んだポテトを口に運びそう感想を俺に言ってくる。
主「別に、一緒に飯を食うために俺を待ってた訳じゃねえだろ」
鹿「まあな。そうだなぁ。お前神父ちゃんと仲良いだろ」
急に真面目な顔になって俺にそう聞いてくる鹿。俺は質問の意図が分からず、
主「あ、ああ。シンちゃんがどうかしたのか?」
と返した。
鹿「シンちゃんか……本当仲良いんだな」
「付き合っちまえよ」と茶化す鹿を、俺は話を進めるよう促す。
鹿「で、その神ちゃんが、だ。イジメに合ってるって噂、聞いたことあるか?」
帰り道。俺はさっき鹿に聞かされたことを思い出していた。
鹿『神ちゃんがイジメに合ってるって噂、聞いたことをあるか?』
最初はその言葉を信じられなかったが、鹿はそんな冗談を言う奴ではないし、なにより真面目な顔でこの話をした為、本当のことなのだと悟った。
鹿『俺は一年の時同じクラスだったからわかるけど、神ちゃんはあんなに忘れ物多くないんだ。それで俺が聞いた話だと、それもいじめてる犯人が隠したりしてるかもしれないらしい』
鹿はジュースをストローで大きく吸って続けた。
鹿『そこでだ。俺も出来る限り犯人を捜したり、協力する。でも、一番神ちゃんとの距離が近いのはお前だ。だから、神ちゃんに何か変わったとこがあったら頼むぞ。じゃあ俺、そろそろ帰んなきゃまずいから。じゃ』
時計を確認すると、鹿はトレイを片付けて帰っていってしまった。
主「シンちゃんがいじめられてる、か……」
鹿から聞いた話があまりにも予想外すぎて、少し思考が回らなかった。そのせいもあって、自分がそう口にした事を言ってから気付いたのだと思う。いつにも増して暗く感じる夜道を、俺はこれからどうしようかを考えながら家に向かった。
4月26日(土曜日)
昨日も今日もシンちゃんに変わった様子もなく、いつも通りに見えた。
やはり、噂は噂で俺や鹿の考えすぎなのだろうか。
それよりも明日のシンちゃんの誕生日の為に、俺はシンちゃんを明日遊びに誘った。
神「はい。嬉しいです」
とシンちゃんは快く了承してくれた。
午前10時にシンちゃんの家に迎えに行くと伝えて、俺たちは正門で別れた。
4月27日(日曜日)
ピンポーン。
俺は時間の5分前にシンちゃんの家に来た。玄関の扉が開いて出て来たのは、なんとシンちゃんのお母さんだった。俺はシンちゃんがどこに行ったのかを聞くと、シンちゃんのお母さんは「コンビニに行って、30分くらいは帰って来てないわ」と言った。
『神ちゃんがイジメに合ってるって噂、聞いたことあるか?』
鹿の言葉を思い出して、ここで待ってるという彼女の提案を断り、俺はシンちゃんを捜しに走り出した。鹿にもシンちゃんを捜してもらうように連絡し、俺は街のコンビニをしらみつぶしに回った。
一時間半ほど走り回って、シンちゃんを見つけた場所はコンビニではなく河川敷の土手だった。シンちゃんはそこで一人跪いていた。
主「シンちゃん!」
俺は彼女の名前を叫びながら、シンちゃんの元へ走り寄った。
シンちゃんは俺の声にビクッとしてから、俺の方を向いた。
その時のシンちゃんの目から涙が出ていて、顔からは悲しみが滲み出ているのがわかった。そして、シンちゃんがどうにかして絞り出した声はとても微かなもので震えていた。俺の服にしがみつき、シンちゃんはその震える声で言った。
神「……お、お父さんの……形見のネックレス……なくしちゃったよぉ……!」
5章-a 神父編part4
5月1日(木曜日)
あの後、俺はシンちゃんを家まで送り、その日の俺とシンちゃんのデートはなくなった。シンちゃんのお母さんは特別何も聞かなかったが、どんな事があったかは気付いていたようだった。
その日以来、シンちゃんに変わったようには見られない。他の人に心配かけないように取り繕っているのだろう。それでも、彼女は今週まだ一度も部活に来ていない。今日も誘ってはみたものの、「用事があるから」と断られてしまった。それになんだか俺も避けられてるみたいだし。
あの日、俺がいない間に河川敷で何かがあったのは確実だ。おそらく、シンちゃんをいじめている誰かがシンちゃんのネックレスをどこかへ捨てたか隠したのだろう。いや、あの日のシンちゃんの様子を見た感じ捨てられたという線が妥当か。俺は何としても犯人を見つけてシンちゃんに謝らせたかった。
そんな事を考えながら部室へ向かっていると、背後からうるさい声が聞こえてきた。
み「あれ先輩じゃない⁉︎ やっぱり先輩だ〜! おーい! せーんーぱーいー!」
俺の名前を呼びながら走ってくるみき、の隣にはうにもいた。
今一番会いたくない人物だった。みきといるとまともに考え事も出来ない。まあ同じ部活だから、どちらにせよ会うことになるのだが。
み「せんぱ〜い、無視しないでくださいよ〜」
みきは俺に追いつくと、俺の腕に絡みついてくる。多分、構うまでこいつは腕を離してはくれないだろう。中学の時に散々体験したことだった。
主「うっとしいなぁ。少しは考え事くらいさせろよ」
み「まあまあ、いいじゃないですか〜」
と、言ってみきは俺の腕を解放した。それから部室へ行くまでの間、俺はみきの話を聞いているだけだった。いつの間にか追いついていたうにがみきに何かを言っているようだったが、俺にはそれを教えてはくれなかった。それだけでなく、「な、なんでもないよ!」と強く拒絶された。俺ってこんなに嫌われてたっけな。俺はショックを受けつつ、部室へと向かった。
部室にはまだ先輩達は来ていなかった。先輩達が来ていない部室は珍しく、いつものような騒がしさは存在していなかった。俺は今日やるボードゲームを選ぶ為に棚を漁った。
み「そういえば、最近神父先輩来ないですね」
みきが突然シンちゃんの話題を持ち出してきた。あんなことがあった後だから来る気が起きないのは当たり前なのだが、何があったかを誰にも話してないのだからはなすべきではないのかもしれない。もちろん俺にも本当のことは話していない。
主「ああ、予定があるらしいな」
俺はあえてあの時のことは言わずにシンちゃんが部活に来るのを断った理由だけを言った。シンちゃんが誰にも話したくないことを俺が人に話すわけにもいかない。どっちの方がイジメを解決するのに良いかは、正直に言った方が良いに決まっている。それでも俺はシンちゃんの考えを尊重したかった。
俺は棚から"大家は辛いよ"を取り出しテーブルの上に置いた。
み「大家は辛いよですか⁉︎」
主「なんだ?文句あんのか?」
み「大有りですよ! なんで大家は辛いよなんですか⁉︎」
何やら不満気なみきが大家は辛いよを全否定してくる。うにの方を見ると、うにもうにで何かを言おうとしているが言えないでいるような雰囲気だった。そんなに嫌かな?面白いのに。
主「うにも嫌なのか? 大家は辛いよ。てかみきはなんでそんなに嫌なんだよ」
み「そりゃだって、今日はカタンやりたかったんですよ! そういう気分だったんですよ! それなのになんで⁉︎」
相当"カタンの開拓者"がやりたかったのか、みきが勢いよく椅子から立ち上がった。その拍子にみきの座っていた椅子はテーブルから離されてしまった。
主「知らねえよ! それにカタンは最大四人までだから、五人だと一人余るんだよ。」
み「そ、そんなぁ…。」
俺の説得により抗議を諦めたのか、みきは椅子に落ちるように腰をかけた。みきに全体重をかけられた椅子はギイギイと音を立ているが、それでもしっかりとみきの体重を支えていて仕事を放棄せずにまっとうしていた。
みきの抗議が終わったところで、うにが申し訳なさそう口を開いた。
う「お兄ちゃん、私は別に大家は辛いよが嫌って訳じゃないからね。」
主「え?そうなの?」
驚いた。てっきりうにも嫌だったのかと思ってたから。
う「うん」
主「そ、そうかぁ。じゃあ今から大家は辛いよやるか!」
俺のテンションも上がりそう言った時、部室のドアが勢いよく開いた。
リ「おっまたせー!」
俺たちはドアを開けた人物、部長の方を同時に向いた。まあいきなり大きな物音と大きな声を出して入ってきたらそちらを注目するのが普通だろう。もちろん俺もその人物の一人だ。
リ「あら? 今日は大家は辛いよかしら?」
み「そうなんですよー。私カタンやりたいですよ」
部長の言葉に続いてみきが文句を言った。みきの話を聞きながら、部長は部室の奥にカバンを置きに行く。後ろには悠紀先輩もちゃっかりいた。同じクラスだから一緒に来るのは当たり前なのだが、大体は部長たちの方が終礼が終わる時間が早いのでこういう場面を見るのが少ないのと、部長の登場の印象が強すぎてそっちに気がまわらない事から気づきにくい。
リ「いいじゃない、大家は辛いよ。それに結構早く終わるから終わったらカタンも出来るわよ」
部長がみきの隣に座ってみきを説得する。みきはそれに対して「それなら」と了承した。流石部長だな。俺だったら同じ事言っても絶対了承してくれないだろう。これが人柄の差という物なのだろうか。
リ「それじゃあ皆。大家は辛いよ始めるわよ! GMは私がやるわ。私が仕切るんだから面白くないなんて言わせないんだからっ!」
部長の開始の合図により、俺たち四人は自分のアパートを経営する大家になった。
大家は辛いよを終えた後、みきのリクエストであるカタンをやって今日の部活は終わった。
早めに切り上げたとはいえ、まだ外が明るいのを見ると季節の流れを感じる。相変わらず俺は部室の戸締まりを任せられ、一人部室に残っていた。俺は帰る準備を済ませ部室を出るとうにが待っていた。
主「どうしたんだ?みきと帰ったんじゃなかったのか?」
う「その……お兄ちゃんに言っておかなきゃいけないことがあって……」
うには申し訳なさそうに言う。なんだろう。何かしらまずいことでもしたのか。俺に言っておくべきことって一体なんだ。俺が考えに浸っているのを察したらしく、うには俺にその続きを教えた。
う「実は……神父さん、まだ帰ってないんだ」
俺は本校舎の方へと全速力で向かっていた。壁に貼ってある『廊下は走るな』と書いてあるポスターを無視して俺はただ全力で走った。
うには確かにシンちゃんがまだ学校にいると言った。それはどういうことだ。うにがさっき見かけた?実は帰っていなかった?じゃあ今はどこに?駄目だ。頭が混乱してきた。落ち着け、落ち着け。俺の動揺を見抜いたうにが、その説明を始めた。
う「昨日、部活の前に神父さんと会って、言わないでって頼まれたんだけど……神父さん、凄く辛そうだったから。お兄ちゃんは神父さんと仲良いし、言っておかなきゃと思ったんだ。だから、神父さんに会いに行って」
うには、俺のことを気遣って部室の戸締まりを引き受けてくれた。俺はうにに言われた通り、シンちゃんの居そうな場所へ向かった。
そして今俺は二年生の教室がある三階にいる。時間が下校時刻に近い時間ということで、人のいる気配はない。やっぱりもう帰ってしまったのではないか。そんな考えが頭をよぎるが、それをすぐに否定した。このチャンスを逃せば、犯人への手掛かりを手に入れるチャンスはもうなくなる。だからここで諦める訳にはいかない。
主「もう一度別の場所を捜してみよう」
ガタッ
俺がその場を立ち去ろうとした時、遠くの教室で音がした。
今自分がいる教室とは反対側。おそらく一組の教室からだろう。足音を立てないように少しずつ近づく。教室のドアが少し開いていたため、そこから中を覗いた。
そこにはシンちゃんと一人の女生徒がいた。シンちゃんはこちらに背を向け、女生徒と向き合っている。シンちゃん立ち位置と被り、女生徒の顔は見えない。しかし、シンちゃんが何かを訴えているのは解った。
神「もう……やめて……」
女「何を?」
女生徒の顔は見えないが、声は相手を馬鹿にしたように聞こえる。シンちゃんの話をまともに聞く気は無いのだろう。
女「また彼に助けてもらえばいいでしょ?」
神「あの人は関係……ないよ……」
シンちゃんの声はとても小さく、聞き取るのにも神経を使う。シンちゃんが下を向いたことで女生徒の顔があらわになる。
俺はその女生徒に見覚えがあった。それはとても最近に見た顔。
主「あいつ確か……トイレの前でぶつかった奴……!」
そうだ。この前トイレの前でぶつかった女生徒だった。見たことなかったから覚えていたんだ。
俺がその場で動かないでいると、女生徒と目が合った。不味い。ばれた。俺がその瞬間にとっさに思い浮かんだことはこのまま教室に入って止めようかであった。しかし、いざ行動に移すことは出来ずその場に留まっていると、女生徒は「ふ〜ん」と言ってシンちゃんとの会話を続けた。女生徒がシンちゃんの耳に顔を近づけて囁く。
女「……くん……こと……好きなん……しょ?」
主「え?」
驚きを隠せなかった。
まさかシンちゃんに好きな人がいる。名前はよく聞き取れなかった。しかし、確かに誰かを好きだとあの女生徒は言った。
一体誰を?
いつから?
俺の頭の中で、答えのない問いが繰り返される。あの女生徒から発せられた、たった一言で俺は冷静さを失った。
女生徒の勘違いかもしれないという考えは、シンちゃんの様子を見ればすぐに判断できた。シンちゃんは図星を付かれ、何も言えないでいた。彼女に好きな人がいることは、この時点で明白だった。
ガタン‼︎
神「誰⁉︎」
突然後方から聞こえた音に、シンちゃんは大きく驚き振り返る。
その音の主は俺だ。
自分の足がドアに当たってしまった。
迂闊だった。
目の前で起こっている出来事に集中しすぎて、自分の足がドアに近いことを忘れてしまうなんて。
流石にここまでして、逃げるわけにはいかない。それに、ここを去った後にあいつがシンちゃんに何を言うかわからない。
俺は教室のドアを開けて正体を明かした。
主「俺だよ」
シンちゃんは俺だと分かった途端、さっきとは比にならない程の驚きの表情を浮かべた。
そのままシンちゃんは「なんで……ここに……」と呟いているだけだった。それだけ俺に今の会話を聞かれたことがショックだったのらしい。
主「ごめん、シンちゃん。本当はもっと早くに出てくるつもりだったんだけど」
シンちゃんは時間が経って少し冷静さを取り戻したらしく、彼女にとっては一番大事であろうことを俺に聞いた。
神「い……いつから……?いつからいたの……?」
主「…シンちゃんがやめてって言ってるところ辺りから」
それを聞いたシンちゃんは絶句していた。おそらく、相当俺に好きな人の話を聞かれたくなかったのだろう。
人生でそう経験しないようなショックの大きい出来事を、今シンちゃんは立て続けに体験している。その衝撃は俺に容易に想像出来るものではなかった。
シンちゃんはその衝撃にしばらく、「……あ……あ……」と言葉を出せずに口をパクパクさせた後、俺の脇を通り教室から走り去ってしまった。
すぐに追いかけようと思ったが、その前に聞いておかなければならないことがあった。
主「お前がシンちゃんを!」
女「あら。気付いてたんだぁ。意外。知らないと思ったのに。まあそんな事よりも追いかけなくていいの?」
俺がすぐにシンちゃんを追いかけることを分かっているこの女生徒は、余裕な表情を崩さずにシンちゃんを追いかけることを促した。
主「くっ……」
俺は相手からこれ以上のことは聞き出せないと判断して、シンちゃんを追いかけた。
何も出来ない自分が悔しくて、唇を噛み締めた。シンちゃんを一階の階段前の廊下で見つけた。そのまま俺はシンちゃんの手を掴んだ。それに驚いたシンちゃんは俺の方をゆっくり振り返る。
彼女は泣いていた。目は、外から射し込む赤い夕陽と同じくらい真っ赤だった。
神「………て」
主「え?」
神「離して! もう…私に構わないで!」
シンちゃんは俺の手を振り払い、そう言うとその前走って行ってしまった。その時、シンちゃんの声は震えていた。
俺はしばらくその場に立ち尽くし、帰ろうと思った頃にはもう空は暗くなり始めていた。俺もこの空の様に気分は暗かった。
5月3日(土曜日)
昨日も今日もシンちゃんは学校に来なかった。今まで無遅刻無欠席のシンちゃんは大きく心配されていた。あの日の事を知っているのはあの場にいた三人だけだ。誰にも一昨日の事は言っていない。
主「ここもない……か……」
そして俺は今、シンちゃんがネックレスを失くしたと言った河川敷にいる。彼女のネックレスを探すためだ。しばらく探していると見知った顔の人物が俺と同じ様にここにやって来た。
鹿「よお。どんな感じだ?」
その人物とは鹿の事だ。俺と同じ様にシンちゃんのイジメについて知っていて、犯人捜しをしている人物。
主「いや、まだ見つかんない」
鹿「マジか。もうすぐ今週も終わりなのにな」
俺らが今協力してネックレスを探すことを決めたのは今週の月曜日。シンちゃんがネックレスを失くしたと言った次の日からだ。
4月28日(月曜日)
昼休みの教室、俺は飯を食いながら鹿に日曜の事を話していた。
主「どう思う?」
一通り話を終えた後に俺は鹿の意見を求めた。
鹿「俺は、まず自分の意見を言う前にお前の意見を知りたい」
主「俺は…多分シンちゃんをイジメてる犯人がネックレスを隠したか、取ったか、捨てただと思う。でも、シンちゃんの様子を見ると前二つよりも捨てたの方が有力だと思う」
鹿は俺の考えを話してる間も弁当を食べていたが、俺の話が終わった後、手に持った箸を置いた。おそらくこれが話し出す合図なのだろう。
鹿「俺も同じ意見かな。取られたとかだけなら、取り返すことがまだ出来るから、今日の態度とかを見た感じ隠そうとする筈だ。その余裕がないほどの事をされたんだろうな」
主「そこで俺はシンちゃんのネックレスを探そうと思う。鹿も一緒にも探してもらいたい。」
鹿「もちろんだぜ!」
鹿は右手の親指を立てて快く了承した。俺は鹿に今度何かを奢る事を約束して、その日の昼休みは終わった。
5月3日(土曜日)
こういう事もあって、月曜日から俺たちはシンちゃんのネックレスを探し続けている。
鹿「明日と明後日は雨らしいからな。多分今日で見つけないと……」
主「わかってる。絶対今日で見つけるさ」
鹿の言っている事は正しく、天気予報では日、月と雨が降るといっている。それに、雲行きもあまり良くない。
俺たちはそれから、更に一時間半程探していた。男子高校生二人が河川敷で何かを探しているというのは、通る人に変な目で見られるかもしれなかったが、そんな事は気にしていられなかった。もうシンちゃんの悲しむ顔は見たくない。そのために、早くネックレスを探し出さなければならなかった。
しかし、まだネックレスは見るかっていない。焦りでだんだん探し方が雑になってるのが自分でもわかった。一旦落ち着こう。冷静になって考えるんだ。まだここで探してない場所はどこだ。
主「探してない場所……探してない場所……」
辺りを見回してみる。そういえば、土手付近の草木が生い茂っている場所は探していなかった。
俺は腰の辺りまで伸びている草をかき分け、その一帯を探し始めた。
しばらく探していると、遠くの方で何か光る物があった気がした。
主「あれは……」
主「ハアハア……ハアハア……」
俺は今シンちゃんの家に向かって走っていた。ネックレスが見つかったのだ。俺は彼女に早くネックレスを返したかった。シンちゃんには泣いていてほしくなかったから。彼女は笑顔の方が似合う。
シンちゃんの家の前に着いた時、周りのことを何も考えずに叫んでいた。
主「シンちゃん!!!」
神「…………」
シンちゃんからの返事はなかった。それでも俺はシンちゃんに話し続けた。
主「開けてシンちゃん! シンちゃんと話したいんだ!」
神「………」
シンちゃんの沈黙は続いた。俺の話を遮るようにスマホが鳴る。メールが届いたようだ。送り主はシンちゃんだった。内容はとてもシンプルに書かれている。
やめて。
たったそれだけの言葉がそこに綴られていた。シンちゃんにそんな冷たいことを言われたのは初めてだった。それでも俺はシンちゃんを呼び続けた。ここで諦めたら、きっと後悔するから。それだけは絶対に嫌だから。
主「やめないよ! シンちゃん言ったよな⁉︎学校に行って、皆に会えるのが嬉しいって! もう二日も損してるんだぞ⁉︎ それでもいいのかよ⁉︎」
神「……」
主「渡したい物があるんだ! 開けてくれ!」
シンちゃんはもう出てこないかもしれない。そう思う程にシンちゃんの反応はなかった。それでも、そんな考えはすぐに捨てた。俺はシンちゃんを信じたかったから。
窓が開いた。
いや、開いたのではなくシンちゃんが開けたのだ。そこからシンちゃんは少しだけ顔を出して、俺に叫び返した。
神「……どうして⁉︎……構わないでって言ったのに……」
シンちゃんは泣いていた。
シンちゃんは色んなことを抱え込んでいてパンク寸前だった。そして、本当は誰かに助けほしかったが、言い出せずにいたのだろう。
俺はそんな彼女の助けになりたかった。彼女の笑った顔が見たかったから。
主「構うよ。だってシンちゃんのこと……」
好きだから。
そう言いたかった。
でも彼女には他に好きな人がいる。告白したら、もう前の関係に戻れなくなるかもしれない。
そう考えたらその言葉が出なかった。
主「……ううん。なんでもない。」
神「?」
主「それより……これ!」
そう言って、俺は河川敷で見つけたネックレスをシンちゃんの部屋の窓に向けて投げつけた。
神「え⁉︎ちょ、ちょっと!」
シンちゃんは慌てていたが、それをすかさずキャッチした。
神「え?……これ」
シンちゃんは手の中に収めたその物体を見て、驚きを隠せないようだった。
主「探してたんだ。お父さんの形見なんでしょ?」
シンちゃんは、それを胸に抱えて更に泣き出した。それはさっきまでのような涙ではなく、悲しい感じは伝わってこなかった。
俺はしばらく、シンちゃんが泣き止むのを待っていた。
シンちゃんの泣き声が治まり、落ち着きを取り戻してきたところで、俺は再びシンちゃんに声をかけた。
主「あのさ!」
神「あの!」
俺とシンちゃんが声を出すのはほぼ同時だった。
主「どうぞ」
シンちゃんとちゃんと話をしたいから、部屋に入れて欲しい。そんなことは話を聞いてからでも言える事だ。ここはシンちゃんに先を譲ることにした。
神「ちゃ、ちゃんと……ちゃんと話したいから! その……部屋に上がって……もらえるかな……?」
俺は少しびっくりしていた。まさかシンちゃんから部屋に上がってほしいと言われるとは思っていなかったからだ。前にシンちゃんの部屋に誘われた時もこんな感じで驚かされたのを思い出した。
主「俺も、シンちゃんとちゃんと話がしたかったから、部屋に入れてもらおうと思ってたんだ」
俺はシンちゃんに了承をして、教会の裏に周った。
主「入るよ」
家にはシンちゃんしかいないらしく、俺とシンちゃんの二人きりだった。俺はシンちゃんの部屋にノックをして、シンちゃんに確認をとった。
中からシンちゃんの「どうぞ」という声を聞くと、俺はドアを開けて中に入った。
シンちゃんの部屋はこの前来た時とあまり変わっていなかったが、ベッドにしわがあり、さっきまで使っていた痕跡があった。シンちゃんは俺と向かい合うように、テーブルの前に座っていた。
神「座って」
シンちゃんに促されて、俺はシンちゃんの前に座った。
しばらくの沈黙が続いた後、最初に口を開けたのはシンちゃんだった。
神「あの! 酷いこと言って……ごめんなさい」
そう言って頭を下げるシンちゃんに俺は慌てて、返事をした。
主「いやいいって! 顔上げて! 俺だって、その……シンちゃんの事傷付けるような真似しちゃったし。俺の方こそごめん!」
俺もシンちゃんと同じように頭を下げる。
神「ふふ」
シンちゃんからそう聞こえて、顔を上げた。すると、シンちゃんは笑っていた。気付くと俺も笑っていた。部屋の中に二人の笑い声が響いた。どうしてシンちゃんが笑ったかはわからないけど、やっぱりシンちゃんは笑顔の方が似合うと改めて思った。
お互いに笑いも治まり落ち着いたところで、シンちゃんがまた話を切り出した。
神「それと、ネックレスありがとう。どうしてこんなにしてくれたの? 私、あんな酷いこと言ったのに」
主「シンちゃんは悪くないから。いじめられてただけだし。それに……」
好きだ。と言いたい。でも、ここで想いを告げて振られたら、前の関係には戻れない。彼女には好きな人もいる。それでも、この機会を逃したらもうチャンスはこない。そんな気がした。
俺は少しの間悩んで答えを出した。
主「だって……シンちゃんのこと、好きだから」
告白することに決めた。思いとどまる選択肢もあった。でも、俺はこの想いを抱えたままではいられなかった。
シンちゃんは驚きを隠せないようで、ただ唖然としていた。それでも俺は続いた。
主「シンちゃんには、他に好きな人がいるけど、それでも俺は……シンちゃんのことが好きなんだ。シンちゃんのためなら何でも出来る」
シンちゃんは好きな人がいると言った辺りでシンちゃんはさっきよりも驚いていた。これは少し急だったかもしれない。シンちゃんに少し整理させる時間をあげようと思った。
主「いきなり変な話をして悪かったね。じゃ、じゃあ俺帰るから」
神「待って!」
俺はシンちゃんに整理する時間を与えるため…もあったけど、気まずくなりそうだったので、一旦家に帰ろうと思った。しかし、立った時にシンちゃんに腕を掴まれ、止められるとは思わなかった。
神「そ……それって、私の好きな人が誰か聞こえなかったってこと……かな?」
シンちゃんが何を言いたいのか、わからなかった。それでも俺は彼女を話を無視出来なかった。
神「いいよ……私の好きな人……教えてあげる」
シンちゃんは恥ずかしいのか、少し言葉と言葉の間に間があった。
主「む、無理に話さなくてもいいって! 別に」
神「ううん! 私が言いたいの」
俺は、そう言いつつもシンちゃんの話の続きが気になり、その場に再び座り込んだ。
神「私が好きな人はね……」
シンちゃんの顔が近付いたと思ったら、次の瞬間。シンちゃんの唇が自分の唇に触れていた。
何が起きているのか全く理解出来なかった。ただシンちゃんの唇はとても柔らかく、気持ちが良かった。
しばらくの間、俺が状況を飲み込めてないでいると、シンちゃんは顔を離して気恥ずかしそうに笑ってみせた。
神「これが私の答え。私もあなたのことが好きです」
シンちゃんが俺のことを好き。それを信じることが出来なかったが、今の行動を見たところ、信じないわけにはいかなかった。
主「……本当に?」
それでも、そう聞かずにはいられなかった。
神「うん」
主「本当の本当?」
神「も、もう! 何度も言わせないで……恥ずかしいんだから!」
俺は嬉しさのあまり、その場でガッツポーズをとってしまいそうになった。人生の中で最も嬉しい出来事だと、そう思ったから。
主「俺、シンちゃんのこと一人にしないよ。シンちゃんがいじめられてるなら、シンちゃんの助けになる。シンちゃんと一緒に戦うよ」
神「うん。ありがとう」
その時のシンちゃんの顔は、今まで見た中で一番綺麗で可愛かった。俺の身体はシンちゃんのことを勝手に抱きしめていた。
神「あの……さっきは私からキスしたでしょ……?今度は、その……」
主「うん……。俺からするよ」
そうは言っても、俺もシンちゃんも恥ずかしいことには変わりなかった。しばらく顔を見合わせた後、俺はシンちゃんの唇に自分の唇を重ねた。そうしてる間はとても心地よく、いつまでもこの時間が続けばいいと思った。
Not Mature
まだ途中です。続きが書け次第投稿します。