practice(73)


七十三







 それから鈴付きの猫はドライヤーで乾かした後の匂いをさせて,蛍光灯の下を明るく引っ掻いた。匙の音?いや,もっと繋がった音に聞こえたと,人工的な影絵のネズミがその印象を正しく言う。書き割りに真っ黒を足すブラシを持って,鼻の頭にまっすぐな灰色をねずみ色と言いたがらないくせに,妙に胸を張っていうものだから,ああきっとどこかのブリキの玩具が止まっている,早く鍵を持って行かなきゃと思う。道半ばの月光浴をする冷たい胴の金属は,レーザー光線を模した赤い光を放って,メッセージを考えているのなら,なおさら,電信柱に凭れてかくかくしかじかと書かれた銀色の包み紙の文字を食べる。それを一つの喩えにするなら,甘い味は膨らまない。
 ブラシの用途を考え直して,すぐに消えない毛並みを舐める,暗がりに出した靴のままに高い高い,シルクハットの上手な描き足し。もしゃもしゃしている,それは羊と思う。
 ぱらぱら捲れる,『傘』を綴じる,ほんの一箇所を諳んじて,シルクハットに猫が登れば音色が聞こえる。ブリキの玩具が足を下ろして,ブリキの玩具が足を上げて,その胸の内には何もない。点滅するレーザー光線の向きに,発信送信のボタンがついていく。横向きの木製の梯子の上を器用に歩く,名付け親の手帳を思い出しながら顔とともに見上げる,蛍光灯より。







 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-30

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