シーズン

シーズン

卒業式に泣きながらバイバイした。
理由なんてわからなかった。

ーーーーそして、6年後、君に再会した。

1. さようなら

1. さようなら

待っていたのになんでこうなるのだろう。

「 はる、本当にごめん。新しく好きな人が出来たんだ。」

雅浩を待って1時間。
待ち合わせ場所だったファミレスで
頼んだみるくティーはとっくに冷め切っていた。

「1時間も待たせておいて別れ話?」

つい眉間にシワが寄る。

「ごめん。悪いと思っている。」

付き合いたての頃は雅治がいつも先に待ち合わせ場所に来ていた。今となっては真逆だ。

「…なんで遅れて来たの?」

はるは冷めたミルクティーを飲んだ。喉を通って行く感覚を感じる。

「・・・・。」
「黙ってちゃわからない。話してよ。」
「その・・・好きな人と会ってた・・・。」

もう、この男は何を言っているのだろうか。
今の彼女を放っておいて違う女と・・・。

「はぁ・・・。」
はるは一つため息をついて雅治に何も言わずに立ち上がった。

「はっ・・はる・・。」
雅治がか弱い声でそう言った。

「もうあんたみたいな男と一緒に居たくないわ。さようなら」

もっと言いたいことがあったが、呆れてしまい言葉が出てこなかった。とりあえずこのファミレスから出よう。そう思い、速足になる。

ファミレスの自動ドアを通り外に出た。
外は太陽がさんさんと照りつけていた。

ファミレスの中はエアコンが効いていて少し寒いほどだった。
外は真夏の暑さで気温差が激しい。
はるは、この気温差が大嫌いだった。
大嫌いな気温差と大嫌いになった元彼。
特に後者は考えれば考えるほど嫌気がさしてくる。

考えるのをやめてとりあえず街中を歩くことにした。

静かに物事を考えられるタイプではない。
動いていないと気が済まない。
この性格は亡くなったおばさん譲りだって母が言っていた。

顔も性格もはるそっくりだった亜紀おばさん。
私の大好きなおばさんだった。
亜紀おばさんのロールキャベツが大好きで
よくおばさんの家まで遊びに行った。
トマトソースで煮込んだロールキャベツはどこのお店よりも美味しかった。
いつもおばさんの子供であるいとこの楓と二人で食べたっけ。

亜紀おばさんのことを考えていたら、
さっきまでの出来事を少しだけ忘れていられた。

徐々に足は遅くなって普通に歩く程度の速さになっていた。
スマホが鳴る。

こんな時に一体誰よ…。と思いつつスマホをカバンから出す。ディスプレイには≪ 楓 ≫の文字が写っていた。

楓からの着信だった。
少しだけタイミングいいなと思いつつ出る。

「もしもし…」

少し暗めのトーンで話した。

「あっ、はる? 久しぶり。今、東京に来ているからはるに会おうかなって思って。」
楓の声は中性的な声の高さだった。

「東京に来てるの?」
「うん。大学は東京に進学しようと思ってオープンキャンパスに行く前なんだけど。今、時間空いてる?」

今日一日空いてないんだ、ごめん。
この文はほんの15分前なら言っていた言葉。
雅浩と一日デートするつもりだったから。

「空いてるよ。じゃあ、いつもの場所で待ってるね。」
これが現実。

わたしは、いつもの場所にむかって歩き出した。

2. ブランコ

2. ブランコ

楓との≪いつもの場所≫は丘の上にある。
小さい時、一時的に楓の家に預けられた時期があった。はるの父親が単身赴任でアメリカに行きインフルエンザにかかり、はるの母親がアメリカまで看病しに行った。

はるはまだ3歳だったからうつしたらよくないと日本に置いていった。

その時に預けられたはると楓が遊んだ丘。
開拓された小さな山の一番上が公園になっていて
名前はそのまま「丘の上公園」という名前だった。

はるは久しぶりにきたいつもの場所のブランコに座って楓を待った。楓と会うのは何年ぶりだろうか。そんなことを考えていると後ろから足音が聞こえた。

「はる」
優しい口調で名前を呼ばれた。
後ろを振り向くとそこには楓が立っていた。

「楓、久しぶり!」
楓にそう言うと、楓は微笑んだ。
この微笑みは昔から変わっていない。
目をくしゃっとして楓はいつも笑っていた。

楓は隣の空いているブランコに座る。

「はると会うの何年ぶりかな。変わってないね。はるのことすぐにわかったよ。」

「楓も変わってないね。」

「そうかな?ずっと長野に住んでいたから田舎っぽくなったかもね。」

楓は亜紀おばさんが亡くなった後、親戚の叔母さんがいる長野に移った。楓の父親は楓が2歳のときに亡くなった。

「小学校卒業と同時に楓が引っ越したから6年ぶりかな。」
はるはそういってブランコを軽くこぎ出した。

「そっか。小学校にいた時間と同じだけ俺たちあっていなかったんだね。」
そういうと楓も軽くブランコをこぎ出す。

「長野は山が沢山あってとても自然豊かだよ。みんないい人でいじめられたりしなかったし。」

黒髪がサラサラとブランコの動きに合わせて動く。
高校に入っても髪を染めたりはしなかったんだろう。昔から変わらない髪色がそこにはあった。

「そっかー。長野行きたいな。」
はるはそういって楓に微笑んだ。
楓は動かしていたブランコを止める。

「来年からは東京に帰ってくるよ。
叔母さんにもう迷惑はかけられないし。」

「そうなの?長野の叔母さん、楓がかわいいかわいいって喜んでいたじゃん。」

「たしかに叔母さんは独り身だったから
俺のこと本当の子どもみたいに可愛がってくれたし、
俺も叔母さんを母親みたいに慕っているよ。」

楓がブランコから降りた。
ブランコは少しだけまだ動いている。

「でもやっぱり俺は母さんが一番の家族なんだ。
母さんと過ごした街に戻りたいんだ。」

「楓・・・。」

「俺ってマザコンかもな。亡くなってから毎日母さんの事を考えてしまうんだ。」

そう言ってまた微笑んだ。
少しだけ瞳が潤んでいる。

違う。マザコンなんかじゃない。
あんな風に亜紀おばさんを失えば
亜紀おばさんが一番だって思うのは当たり前だ。

「わたしだって、何か辛いことがあると亜紀おばさんのことを思い出すよ。」

『ほら、楓!はる!今日は煮込みハンバーグよ!』

亜紀おばさんの笑顔が浮かんできた。
じっくり煮込まれたハンバーグと
ハンバーグの上にかかった熱々のソース。
亜紀おばさんはどんなに忙しくても
インスタントとか出して来なかった。

『ふたりにとって今の時期は身体を作る大切な時期だからね!わたしも料理を作るのがすごい楽しみなのよ。』

大変なことを大変とは思わず、
前向きに物事を捉えていた亜紀おばさん。

「そっか。俺だけじゃないんだね。母さんは、はるのことを我が子みたいに可愛がっていたもんな。」

「うん。亜紀おばさんと楓はわたしの本当の家族同然だから。」

そう言ってはるもブランコから降りた。

「はる。あのさ。」

楓は急に下を向いた。何かを伝えたいように見える。

「なに?どうしたの?」

「俺とさ、一緒に住まない?」

3. 1メートル

3. 1メートル

時が止まったかのように感じた。
それと同時に心臓の鼓動が速まり出した。

「え?」

「一緒に住まないか。」

楓の頬は少し赤くなっている。
夕方ではないから夕日に照らされて赤く見える訳ではなさそうだ。

「楓、意味がわからないんだけど。」

付き合ってもいないのに?
私が楓と一緒に住む?
「俺、長野の叔母さんに迷惑かけたくないって言っただろ。だからお金も奨学金とバイトでどうにかしようと思っているんだ。はるが一緒に住んでくれたら家賃が半額になるからいいなって。」

え。そうゆうこと?
はるは心の中でそう叫んだ。
てっきり告白されたのかと思った。

「それに。はるは料理が苦手だろ?」

「なんで知ってるの。」

「はるのお母さんにさっき会って聞いた。」

娘の生活力が低いことをいとこに話す母。
恥ずかしいと思わないのだろうか。

「苦手なんじゃなくて、分量計ったりできないから。」

「できないじゃなくてやらないでしょ。」

すべて楓の言う通りだ。なにも言えない。
どうしても分量を計るのが苦手だ。めんどくさいのだ。

「でも、私は実家から大学通うからいいの!」

心の中で必死に言い訳を捜す。
楓のことが嫌いな訳じゃない。
むしろ話が合って一緒にいたい。

でも、一緒に住むというのは抵抗がある。

「はるのお母さんが言っていたよ。自立してほしいって。」

前々から母親に言われていた言葉。
『大学に行ったら、ひとりで生活しなさい。』

「うっ…。でも、ひとつ屋根の下に男と女が住むのは…。」

最終的な言い訳はこれになってしまった。
楓を否定しているようになるのであまり言いたくなかったが、
他に見つからなかった。

楓が軽くため息をついた。
そしてはるの目の前1メートル近くまで来た。

顔が近い。

「はる、俺たちに男女関係が生まれると思う?」

「なっ、ないです…。」

お風呂だって小3まで一緒に入ったし、同じ布団で寝ていたし。
そういえば楓はいつも私とは間逆なタイプのクラスメイトを
好きになっていたし。(小学生の頃だけども)

「はる、俺は久しぶりにはるに会えて思い出したよ。
俺の中で1番楽しくて、はると母さんの思い出がたくさんだった。
またあの頃みたいに楽しくはると過ごしたいんだ。」

真剣な目ではるを見つめてくる楓。
楓の中では、はるは恋愛対象ではなく家族なのだ。

「うん…。」

「一緒に住んでほしい。料理は俺が作るよ。」

「うん…。」

楓の言葉が告白にしか聞こえてこない。
むしろプロポーズだ。

楓は相変わらず視線をはるから外そうとしない。
はるの鼓動は益々速くなる。



ぐるるる〜〜。

「…。」

「…ごっ、ごめん。」

「ははっ、お腹すいたんだね。どこか食べに行こうか。」

楓がはるから離れた。距離は5メートルぐらいだ。
楓が離れていくのと比例してはるの鼓動は下がっていった。

4. ぽっぽ

4. ぽっぽ

「ああ、大学のオープンキャンパスは14時にいけば
見たい学部は見れるから大丈夫だよ。」

丘を下り、はる達は市街を歩いていた。
新宿から20分ほど離れた場所にはるは住んでいる。

住宅街が広がる中にある小さな喫茶店。「ぽっぽ」
友人の家がやっている喫茶店だ。

はると楓は中に入る。

「いらっしゃいま…あっ!はる!」

友人の小雪がポニーテールを揺らしてはるに駆け寄って来た。

「小雪〜!お腹すいたよ〜オムライスお願い〜」

はるはお腹に両手をあててお腹すいたとサインを送った。

「わかったよ!じゃあお父さんに言うね!」

そう言って小雪ははるの隣に楓がいることに気づいた。

「えっと。彼氏さん?」

「ちがうって。楓だよ。いとこの。」

「えっ、楓くん?」

小雪ははると楓と同じ小学校に通っていた。
はると楓は一緒にいることが多かったから小雪も知っているはずだ。

「久しぶり。小雪。」

「楓くん、身長高くなったね。」

「最後に会ったのが小学校の卒業式だからね。
一応あの頃から25センチは伸びたかな。」

楓は148センチしかなかったのに。
勝手に時の流れを感じた。ああ、そうなんだ。
楓と会ってない期間って長かったのだと。

「楓くん、遊びにきたの?」

「いや、こっちの大学に来ようと思っててさ。今日はA大学のオープンキャンパスに参加しようと思って東京まで来たんだ。」

小雪の口角が上がり、目も見開いた。

「そうなんだ!また3人で遊べるね!」

小雪は楓の手を取って喜んだ。小雪も大学進学を目指して受験勉強をしていた。

みんな、目指すことがあるんだ。

カウンター席に座り、美味しそうな半熟卵のオムライスがはると楓の前に置かれた。

「いただきまーす!」

シーズン

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  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-30

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  1. 1. さようなら
  2. 2. ブランコ
  3. 3. 1メートル
  4. 4. ぽっぽ