気ままに艦これ
あらすじ的なもの
7年前、私は確かに艦隊を指揮していた
7年前、私は確かに上官に逆らった
7年前、私は確かに愛する艦娘達を失った
この7年間で私は確かに変わった
良くも悪くも、変わった
そんな私が7年ぶりに艦隊の指揮を執ることとなった
ある日、ある鎮守府に新たな提督が配属された
これはそんな物語
※この物語は作者の妄想で成り立っています
また一部の設定は作者が勝手に考えたものです
ご了承ください
第一話 始動
辺境の地の鎮守府…
今日からここが私の新たな職場となる
私がここに配属になった理由は
大半の司令官の指揮能力不足及びこの地おける圧倒的な指揮官不足だ
辺境の地とはいえ流石に基地の一つは機能させたい当鎮守府
人員を派遣したいのやまやまだが適当な人員が居ない本部
そして、犯罪歴があり、あまり司令部に発言力も無く、ある程度の指揮能力を持ち合わせている私
本部とここの意見はすぐ決まり、私に白羽の矢が立った
「本部では提督になりたくてもなれん奴でごった返してるというのに…。
司令部は人員の扱いが相当下手なんだな。」
皮肉を言えど聴く者はおらず
私は一人寂しく鎮守府に入ろうとした
「もしかして、新しい司令官さん!?」
後ろから元気のいい声が聞こえた
振り返るとそこには、元気そうな少女が立っていた
「そうだけど…君は?」
「あ、失礼しました!私、吹雪型一番艦、吹雪です!!どうぞよろしくお願いします!!」
「…もしかして、君が秘書艦の!?」
「はい!その通りです!!」
「ええぇぇぇ!?」
私は驚きを隠せなかった
艦娘とは専用の装備をした女性のことである
専用の装備とは特定の機関が作っておりそれを装備することによって特別な能力を得ることができる
ただ、その装備や艦娘になれる条件などは公表されてなく、謎な事が多く残っている
この事は7年前と変わってはいない
しかし、明らかに変わった点はあった
「君…年齢は?」
「今、14歳で中学二年生です!」
適正年齢の低下である
この少女はまだ穢れを知らない。社会の、そして戦争の穢れを知らない
7年前ではありえないことだ
「あの…。どうかされました?」
「あ、いや。すまない。じゃあ早速司令室に案内してくれ」
「りょーかいしましたー!!」
私はかなりの戸惑いと焦りを持ち、これからの生活に不安を感じた
目の前の少女は私のそんな気も知らず、楽しそうに案内を始めた
鎮守府には様々な施設があった
工廠やドッグ、艦娘達の居住スペース。他にも生活に必要な施設が一通りあった
「こんな場所でも施設はしっかり出来ているんだな…」
「7年前の大海戦直後に完成した基地ですからね…。まぁ、その海戦以降全く敵が出現しなくなりましたからね」
「人は?」
「間宮さんと…技術者数人だけですね。」
そんな他愛もない話をしているうちに私たちは目的の場所に着いた
「ここが司令室です!さ、どうぞ!」
「あぁ、ありがとう………え?」
司令室と言われてるその場所には物が全く無かった
積み上げられているダンボール箱があるだけだった
私は急いで部屋の名前を確認した
しかし、何度確認しても[司令室]という文字に間違いなかった
「…長らく使われていませんでしたからね」
「だとしても、こんな扱いがあって良いものなのか!!」
「ひっ!す、すいません!!私がつい先日初めて見た時は今の状態で……。」
「あ!いや、良いんだ。君に怒ったわけじゃない。すまんな、急に怒鳴り散らして…」
「いえ、提督の怒りも当然だと思います…」
「……………」
場は静まり返った
なんとかして状況の打開策を考えていたら廊下から声がした
「新しい司令官ってどんな人なんだろうね」
「もう居るんじゃないかなぁ?」
「司令室…覗いちゃう?」
「ダメだよ!会議とかしてるかもしれないし…」
「へっへーん!とりゃ!!って、うわ!!」
「おわぁ!!」
「ちょ、ちょっと!」
「提督、大丈夫ですか?」
勢い良く扉が開いたと思った瞬間、私は入ってきた少女に押し倒された
別に重くはなかったが…
「いてて………ん?はわ!すいません」
「あわわ………もしかして、この人が………?」
入ってきた二人の少女は吹雪と同じような年頃だった
勢い良く入ってきた方は黒いセーラー服に身を包み、ネクタイには三日月のマークが入っており綺麗な金髪をしている
もう片方は吹雪と同じような服を身にまとっているが髪は後ろで縛っており
オドオドしたような感じを醸し出していた
「二人共、何やってるの!?」
「吹雪、私は大丈夫だから……」
二人の少女は急いでを姿勢を正した
私は嫌な予感がした
「先程は失礼しました!私は睦月型5番艦、皐月といいます!!」
「わ、私は吹雪型9番艦、磯波です。よ、よろしくお願いします」
「………はぁ」
…これから先が本当に不安に思えてきた
辺境の地での艦隊は可憐な少女3人。全員がまだ幼い子供だった
この場所で上手くやっていけるだろうか
私は色んな意味で本部を恨んだ
午後7時―
司令室には私と艦娘3人が居た
「改めて挨拶しよう。私がこの黒崎鎮守府所属第一戦隊提督を務める上村俊作[カミムラ シュンサク]だ
以後の行動は基本的に私の指示で動くように」
「「「はい!」」」
「堅苦しい挨拶はこの辺にして…質問はあるか?」
「はい!」
元気よく質問したのは吹雪だった
「あの……基本的にこれからどう生活するんでしょうか?」
「まずは訓練だな。ある程度の実力は持ってもらわんと困る」
「もしかして………一日中訓練ですか?」
「それは……」
「ちょっと……」
訓練という言葉に皆、顔を曇らせた
一体どんな訓練を想像したんだ、と私は呆れた
「逆に今まではどんな訓練をしてきた?」
「私たちは同時期にここに配属になったのですが…
臨時の提督さんは毎日、朝7時から夜11時まで訓練をしていました」
「………やり過ぎだな。適正時間じゃない」
「そうなんですか?あの人はこれでも軽いほうだ、と言っておりました。」
私はかなりの嫌悪と怒りを本部に持った
思わず握り拳が震える
結局、熱い所は7年前と変わらないと実感させられた
「あの、提督?」
「あ、ああ、すまない。」
「…やっぱり、同じようなスケジュールなのでしょうか?」
怯えながら吹雪は尋ねる
私は笑って答えた
「安心しろ。スケジュールは私が一から作り直す。………しっかりした奴をな」
「!…あ、ありがとうございます!!」
吹雪は安堵の表情を見せた
吹雪だけでなく、残りの二人も喜んでいるように見えた
「もう、あんな訓練しなくて済むんだね」
「あそこまで厳しいと、流石に参っちゃうよ~」
「そうですね」
安心しきったのか、今までの訓練の不満をそれぞれ吐き出した
私は彼女達の仲の良さを見て、思わず昔を思い出した
[良い組織とは上下関係なく全員が笑えるような組織だ]
亡くなった上司の言葉が頭をよぎった
…今度こそ作ってみせる。最高の艦隊を
それが亡き仲間へ出来る唯一の弔いだと思ったからだ
私は彼女らを勝利に導かなければならない
私は改めて、強くそう感じた
「さて、次はちゃんとした自己紹介をしてもらいたいが…いけるよな?」
「「「はい!」」」
「良い返事だ!じゃあまず吹雪から」
「はい!じゃあ、改めて…吹雪型一番艦、吹雪です!本名は松田由紀子[マツダ ユキコ]といいます。
好きなものはスイーツです!よろしくお願いします!!」
「次!」
「私は吹雪型九番艦、磯波と申します。本名は磯部詩織[イソベ シオリ]です。
趣味は読書です。よろしくお願いいたします」
「次!」
「ボクは睦月型五番艦、皐月!本名は月野澪[ツキノ ミオ]!
運動が大好きなのさ!よろしくな、司令官!」
「ちょ、ちょっと!皐月ちゃん!もっと丁寧な言葉使いを…」
「大丈夫、私は細かいことは気にしない主義でね」
「まぁ、提督がそう言うなら……」
私は三人をぐるっと見回した
三人とも良い目をしていたことに今更気づいた
「よし!我が艦隊の本格的な始動は明日午前9時!場所は表玄関!内容はその時伝える!!
…これから私達は仲間だ。それだけは絶対に忘れるな。困ったら仲間を頼れ!!良いな!」
「「「はい!!」」」
最初に持っていた不安はこの時には微塵にも無かった
明日から忙しくなる。しかし、楽しみで仕方がない。
彼女らの活躍は案外近いかもしれない
私は彼女らの未来に思いを馳せつつ、静かに提督初日を終えた
翌日朝9時―
全員が準備をおえ指示通りに集合を終えた
これが厳しい訓練の賜物だと思うと複雑な気分になる
…正しい軍隊にするには慈悲を無くすべきなのか
様々な思考が頭の中を駆けるが一向に答えは見つからない
私は考えることを止め、これからの事に集中することに決めた
「よし、全員揃ったな!?」
「「「はい!」」」
「よし、今からテストを行う!」
私は高らかに言うとざわめきが起こった
3人だから、小さいざわめきだが…
「司令官!」
「なんだ、皐月」
「詳しくはどういうことをするんでしょうか?」
「それは今から説明する。少し待ってろ。今からあるものを渡すから」
「あるもの?」
私は準備していた用紙を3人に渡した
「これは…?」
「その紙にはそれぞれ火力、回避力、持久力、夜戦能力、センスの5項目がある
火力はそのままのお前たちの火力、雷撃能力
回避力はいかに敵の攻撃をよけれるか
持久力はどれだけ活動でき、敵の攻撃に耐えられるか
夜戦能力は夜戦で上手く戦えるか
センスはこれからの伸び代があるか
それらを表している」
「今からそれを計るってことですか?」
「その通りだ。さぁ、早速海に行くぞ」
黒崎鎮守府は東北の方に有り、日本海に面している場所にある
先の大海戦ではこの場所にも深海棲艦が攻めてきたこともあり、当時は中々の激戦区だったらしい
しかし、その海戦以降、深海棲艦がの出現がめっきり減ったこともあり
今では田舎にある小さな基地というイメージしか残ってない
鎮守府を出てすぐに海がある。岸辺には少しの船がある程度の小さな軍港があるだけ
艦娘は基本この場所から出撃をする
私達はその一角でテストをする
眩しすぎる太陽のせいで逆にテストがしにくいくらいだった
「まずは火力のテストをする。ルールは簡単、時間内にどれだけ多くの的を壊せるかを計るだけだ
まずは、吹雪!準備は良いか!」
「よーい…始め!」
私の合図と共に、テストは始まった
「よし、そこまで!…あがっていいぞ」
「お、お疲れ様です」
いくつかテストを行ったが、三人とも中々優秀だった
吹雪は全体的に能力が高く、実戦でも十分なレベルだった
皐月は旧式の睦月型とはいえ、ちゃんとした成績を残した
特に回避能力は特型である吹雪、磯波を差し置いてトップだった
磯波は多少成績が低いものの伸び代は高く、これからが期待できるように感じられた
そして、残りは最後のテスト、夜戦のテストのみとなった
流石に夜戦のテストを昼にやるわけにはいかず、夜まで自由行動とした
「提督!」
「どうした、吹雪?」
「秘書艦である私は何をすれば良いのでしょうか?」
「あー、そうだな……」
何か仕事を与えようと思ったがめぼしい仕事もなく、特にすることは無かった
しかし、何もせずにただじっとさせるのもなんだか悪い気がしてきた
「よし、自由行動!」
「へ?私も?」
「あぁ、そうだ。だから、他の連中と一緒に居ても良いぞ」
「分かりました!では、また!!」
そういうと、吹雪は先に戻った二人のもとへと走り去ったいった
「……やっぱ、子供だな。」
結局、私もやることがなかったので、司令室で昼寝でもしようと鎮守府に戻ったいった
「……カミムラ………テイトク………」
一瞬、懐かしいような、恐ろしいような声が聞こえたような
そんな気がした
第二話 深海棲艦
夜9時
田舎にあるこの鎮守府ではこの時間では既に静寂に包まれる。都会に比べるとなんて寂しいことか
しかし、逆に言えばそれだけ夜戦の訓練に集中できるという事でもある
夜戦の訓練は少しだけ沖へ出る。私の操作している小型艇以外の明かりは一切無い
不気味だが、ある意味現代においては貴重なものでもある
…都会などに毒されるよりはここで静かに暮らす方が幸せなのかもしれない
そんな自分勝手なことを思いながら、私達は訓練場所に着いた
「ただいまより、夜戦能力のテストを行う。ルールは単純だ。この先1km先に的が設置してある。
一斉に出撃し、素早く破壊し、戻ってきたタイムを計る」
「提督、破壊した的の確認って、どうするんですか?」
「的には装置が付いている。的の破壊と同時にこちらに信号が送られる。つまりズルは出来ない訳だ」
「目標タイムはどのくらい!?」
「そうだな…。往復で10分。破壊で10分はかかる。もし20分を切れたら、間宮のアイスでも奢ってやる」
「本当!?よーし、ボク頑張るよ!!」
「私だって頑張っちゃうんだから!!」
「私も……が、頑張ります」
三人ともいき込んでいるものの、この訓練の最速記録は18分程度であり、もちろん
初めてやる、それも駆逐艦が出せるタイムでは到底ない
せいぜい、30分以内なら良好である
やる気を出させるのに間宮は良い手段であった
「よし、準備は良いか!?」
「「「はい!」」」
「よし!夜戦能力テスト………始め!!」
私の号令と共に三人は勢いよく飛び出し、三人は瞬く間に夜の海に消えてった
その後、私は直ぐ様PCのモニターに目を移した
モニターには的の状態と艦娘達の居場所が記されている
当然、テストの結果の判断資料と安全管理である
もし、動きが止まったりコースから外れた場合、安全のため救助しに動く
こんなところで艦娘を失うわけにはいかないからだ
2分経とうとしたその時、モニターに動きがあった
艦娘達にではなく、的にだ
「!?………どういうことだ!?」
モニターには付近に艦娘が居ないにもかも関わらず、的が次々に破壊されていく状況が伝えられた
当然、当鎮守府に他の艦娘は居ない。他の鎮守府の艦隊なら連絡があるはずだが
連絡なぞ一切来ていない
第一に、この暗闇の中、短期間で的を破壊できる艦娘など存在しない
私は犯人の正体が検討ついた
それしかありえないからだ
信じたくないが信じるしかない
認めたくないが認めるしかない
7年前、多くの艦娘の命を奪った、人類の敵
「深海棲艦………!!」
奥歯がガチガチとなる。酷く焦燥に駆られているだろう
「このタイミングで…。くそっ!!!」
私は無我夢中で三人を追いかけた
あの悪夢を再現させたくないとしか考えられなかった
「ねぇ、皐月ちゃん。司令官のことどう思う?」
私達三人は真っ直ぐに的に向かっていた
しかし、暗闇の中の移動の最中とはいえ、流石に無言の状況に耐えられなくなった
「どうしたのさー急に?」
「なんとなくかなー」
「なんとなくって…。そういう吹雪はどう思ってるのさ?」
「え、私?」
質問しようと思ったのに、逆に聞かれてしまい、私は返答に困った
だけど隠す必要もないので、私はありのまま思っていることを言った
「…良い提督だと思うよ。経験も豊富だし、なんだかんだで、私達の事を大切に思ってくれてるし」
「へぇ~。結構ぞっこんだね」
「だけど…」
「だけど?」
「今の提督は本当の提督じゃない気がする…。何か…本心を隠してるというか…」
「あっ!それ、私も思いました!」
今まで会話を聞いているだけの磯波が同調し始めた
「何か…。私も違和感を感じてるんです…。上手く、言い表せないけど…。」
「ふーん。二人共難しいね」
「皐月ちゃんは思わないの?」
「あんまりねー。ボク、小難しいこと苦手でねー」
「へぇ~。……あ!そろそろ着くんじゃない?」
「ほんとだ!!……あれ、なんか……的、壊れてない?」
「確かに……壊れて……嘘!?」
「磯波!?」
急に磯波の顔が青ざめだした。磯波はただ一点に指を指した
その先には、何か、人影のような物が見えた
それは徐々にこちらの方へ近づいてきた
私たちの射程圏内へ入ると同時に、それの正体が分かった
頭部には大きな被り物をし、マントみたいな物を背負い、右手には杖を持つ
見た目のそれは人間に近く、美しいとすら思ってしまう外見
そして、背後には黄金のオーラが出ていた
フラグシップの証である
「もしかして、これは…」
「ボクたちの倒すべき敵、深海棲艦…」
「空母ヲ級!!!」
ヲ級は私たちを見るや、空を覆い尽くすほどの艦載機を飛ばしてきた
私達三人は敵艦載機よって瞬く間に包囲されてしまった
暗闇からか音だけは鮮明に聞こえた
「あ…あぁ…嫌…来ないで!!」
「磯波、落ち着いて!!」
「で、でも…」
「吹雪!魚雷発射用意!!磯波は艦載機を狙って」
皐月が指示を出し始める。
普段では考えられないような険しい表情をしていた
「分かった!魚雷、発射用意!」
「で、でも、今の装備じゃ…」
「いいから敵を撃って!早く!!」
「は、はい!」
「吹雪、頼むよ!!」
私は皐月の指示通り、ヲ級に魚雷の照準を合わせた
改めてヲ級を見ると、負の感情みたいなものが湧き上がってくる
嫌悪?恐怖?苦痛?
―違う、言葉で言い表せるようなものじゃない
冷たくて寂しい…。一人で深海にいるような気がした
「きゃあ!!」
「磯波!?うわぁ!!」
「―っ!皐月!磯波!!」
咄嗟に二人を見ると、二人は敵艦載機の攻撃を受けていた
違う、私を庇っているんだ
「吹雪ちゃん!私達はだいじょうぶだから!!」
「ソイツを倒せばこの攻撃も止むはず!だから早く!!」
私は二人の言葉を聞き、視線をヲ級に戻した
さっきと同じ感情が湧き上がる。しかし、それよりも二人を助ける意思の方が勝っていた
私はヲ級に照準を再度合わせ―
「いっけぇぇぇ!!!」
魚雷を発射した
「!」
魚雷はヲ級に直撃し、轟音を発しながら水柱を立てた
「やった!?」
確かな感触が感じられた
しかし、水柱が消え、見るとそこには
「……………ヨワイ」
無傷のヲ級が居た
よく見ると左手に魚雷の残りカスがある
「魚雷を…受け止めたの…?」
「そんな馬鹿な!?当たれば戦艦だって無傷じゃ済まないぞ!?」
「そ、そんな…」
絶望する私たちにお構いなく、ヲ級はさらに艦載機を繰り出してくる
上空を飛んでいる艦載機の数は次第に増えていき
「深海ニ………シズミナサイ………!」
ヲ級の一声によって、艦載機は私たちに向け、夥しい数の砲弾を発射した
「うぅ………」
「くそっ……こんなところで……!」
砲撃によって磯波は意識を失い、私の肩に担がれてる
私と皐月は何とか立っているものの、最早出来ることは何もなかった
「サラバ………ヨワキ艦娘ドモヨ…」
ヲ級の声でさっきの攻撃が思い出させられる
次にあんなのを食らったら、間違いなく轟沈である
そんなのは二人共分かりきっていた
沈みたくないと願っても、死にたくないと祈っても、ヲ級にはその思いなど意味の無いものだった
「嫌だ……助けて……司令官!!」
ヲ級の指示で再び艦載機が私たちに向け飛んできた
「!?」
瞬間、ヲ級が爆発で包まれた
何が起こったのかと思い周りを見回すと
「無事か!?お前ら!?」
「提督…!」
私たちの提督が、そこに居た
「三人とも、早く船に乗れ!!すぐこの海域から離脱するぞ!!」
「は、はい!」
吹雪、皐月は直ぐ様反転し、船に乗ろうとした
当然ながらヲ級が簡単にさせる訳もなく、艦載機による攻撃を始めた
「こなくそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
私は所持していた機関銃を乱射した。
深海棲艦とは言え、所詮は艦載機。機関銃でも十分な弾幕が張れる
「皐月!船を出せ!!ここから脱出するぞ!!」
「了解!すぐ出すよ」
手持ちの機関銃が弾切れになる頃には船は十分な速度になっていた
その頃には、敵の攻撃も止んでいた
私は気を失っていた磯波が心配になった
「吹雪、磯波の様子は?」
「大丈夫です。気を失っているだけです。怪我も軽傷で済んでいます」
「そうか。二人は?」
「私は軽傷です。装備が破損していますが」
「ボクもそんな感じ。」
「そうか…。無事で良かった」
幸いにも轟沈をした艦娘はおらず、結果として三人は負傷、装備の一部が破損だけで済んだ
敵が単艦だったとは言え、駆逐艦だけ、それもまだ新人があんな状況で生き残る可能性は低い
今回の訓練はとんだものとなってしまったが、同時に三人の潜在能力の高さを発見できた
しかし、喜んでばかりいれる状況ではない。今回の事は不可思議な点が多すぎた
「司令官、何で急に深海棲艦が現れたのでしょうか?」
それこそ、今回の事件の元凶である
深海棲艦の出現だ
深海棲艦は7年前の大規模海戦の最後に、全く出現をしなくなった
それにより、この国は軍部の機能が停滞。司令官及び艦娘もほとんどが実戦未体験となってしまった
だが、深海棲艦は復活した。まず驚くべきことは出現した場所である
今回の訓練場所は、比較的に陸地に近く前大戦時には敵が出現していない場所である
何故、そんな場所に出現したのか
その他にも、艦娘の行き先に待ち伏せ、先制攻撃を行ったことや
艦載機などの装備がやけに充実、及び強化されていたこと
そして何より、何故今回みたいな圧倒的有利な立場に居ながらも今まで攻撃してこなかったのか
それが何よりも不可解だった
「………詳しいことは分からない。鎮守府に着いたら本部に問い合わせてみる」
私達はその後無事に鎮守府に到着した
私は三人を医務室に運び、このことを本部に報告した
私は本部に連絡を取り、先ほどの一件を事細かに説明した
「…では、深海棲艦が復活したと?」
「あぁ、そういうことだ」
通信相手の声には動揺の色が見えた
仕方のないことだ、私だって正直信じたくないし、見ていなかったらにわかに信じられないだろう
「しかし、証言だけでは…。何か、物的証拠はありませんか?」
「襲撃を受けた艦娘の装備、及びヲ級艦載機の破片を送る。これだけあれば十分な証拠になるだろう」
「分かりました。念のため、今回の事は上層部のみに伝えておきます。」
「懸命な判断、感謝する」
相手が話の分かる人で助かったと安心した
中にはこういう話を一切信じない若手通信兵も居るからだ
通信を終えた後、装備一式と敵艦載機破片を司令本部に郵送し、艦娘たちの居る医療室に向かった
「三人と、も!?」
「司令!!危ない!!」
部屋に入るやいなや、何故かバレーボールが飛んできた
私は何とかそれを綺麗に捌いた
顔を前に向けると申し訳なさそうな吹雪と皐月、困り顔の磯波が居た
「…医務室は遊ぶ所ではない。以後は慎むように」
「「……すいません」」
「だからいけないって言ったのに…」
改めて三人を見回すと、三人とも包帯などしているものの、見た限りでは元気そうだった
「ところで司令官さん、これからどうやって訓練します?」
「もうあんなのと戦うのは懲り懲りだよ~」
「いや、訓練は当分しない」
「え?」
三人ともきょとんとしている
「早急に近海の調査が必要だ、そのためには足の速い駆逐艦が働くことになる」
「つまり、実戦……ですか?」
「あくまで調査がメインだが…状況によっては戦ってもらう」
「えぇぇぇぇ!?」
実戦という言葉に全員が驚愕した。
当然だろう、今の艦娘はほとんどが実戦をしたことないからだ
「落ち着け、あくまで調査だ。」
「で、でも…」
「お前たちはは先程の戦闘を生き抜いた。ヲ級の数は少なく、基本的には訓練された大型艦が戦う相手だ。しかしお前たちはそれと戦い、無事に帰ってきた。自信を持て。出来るから指示を出すんだ。」
「自信…」
三人は互いに顔を見合わせた
多少は理解してくれたようで安心した
「しかし、今は怪我を治せ。…詳しいことは後日伝える。それじゃ、大事にな」
「はい、お休みなさい、司令官さん」
「あぁ、お休み」
私は医務室を後にし、自室に戻った
私は自室で頭を悩ませた
先程はああ言ったが、やはり駆逐艦娘三人じゃ心許ない
せめて、もう一人駆逐艦娘か軽巡洋艦娘、よしんば重巡洋艦娘あたりが居れば大分負担を減らせる
しかし、この鎮守府はまだ小さい。要望を出しても通る可能性は低い。
その上、早期から要望を出すと本部の評価が下がり、いざという時に対応をしてくれないこともある
だが、三人だけでは………
私は一晩悩んだが結局、要望を出すことにした
翌日―
私は本部に荷物を送り、要望書を書こうとした
その時、机の上にふと手紙が置いてあった
「転属通達書………?」
中には信じられないような事が書いてあった
軽空母鳳翔を本日1200付で黒崎鎮守府に所属とする
第三話 再開
「軽空母だと…!?」
空母とは艦載機を自在に操り、艦載機から強烈な攻撃を放つ。他の軍艦とは一風変わった船である
しかし、その威力は高く、空母が居るか居ないかで作戦の成功確率は大きく変わる。
空母はそれゆえに貴重だ。正規空母と言われる大型の空母は戦艦以上に数が少なく、見た事がない提督も数多い
軽空母はそれを小型にし、生産コストを下げ、大量生産用にしたものだ
だが正規空母に比べての大量生産用だ。まだ配備は進んでいない
そのような艦船は普通ならこんな小さい鎮守府になんかやってこない
精々、問題を起こしての左遷か、この鎮守府に転属をしたかったか。
後者は考えられにくいため、前者の可能性が高いと判断した。
「しかし、急だな…。何の連絡もなしに…」
このような所からも、本部のずさんさが垣間見えた
しかし、戦力として見るならかなりの好都合だった。喜んでこの娘を受け入れよう。
ただ問題は、どのような問題を起こしてここの左遷されたのか。
それが唯一の気がかりだった。そのことを心配しながら、鳳翔が配属となる時間まで待った
―1200
私が雑務を済ませ、司令室で待っていると、時間ちょうどにノックの音が響いた
「入れ」
「失礼します」
言葉と同時に鳳翔が司令室に入ってきた
その女性は綺麗な和服に身を包み、凛とした佇まいをしていた
しかし同時に、私は何かの違和感を感じた。
「本日1200付けで黒崎鎮守府に配属となりました、軽空母鳳翔です。よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく頼む」
やはり私はその姿に違和感を感じた。
何かが違う。この娘は鳳翔とは違う何かが感じられた
「一つ聞くが、貴官は何故この鎮守府に配属となった?」
「はい、ここで働きたかったからです」
「!?」
その言葉に私は驚愕を隠せなかった
何をおかしなことを言ってるんだと思いながら、再度問い合わせてみた
「冗談はよせ、前の基地で何をやらかしたんだ。正直に言ってみろ」
「…お言葉ですが提督、私は何の問題も起こしてませんよ」
やはり同じような答えだった。流石に私も訳が分からなくなってきた
「…提督、何故私がここに転属したいと思ったのか分かりません?」
「い、いや………さっぱり………」
ふと鳳翔の表情が暗くなったかのように見えたと思ったら、鳳翔は持ってた弓を私に向けた
その姿は心なしか、私には見覚えある気がしてならなかった
「………残念です。そんなに提督さんは私に爆撃されたいんですか?」
「!…お前……まさか……」
爆撃という言葉を聞いた瞬間、懐かしい記憶が鮮明に思い出された
7年前の海戦では私の指揮のもと前線で戦い、無事に生き抜いた艦船
多くの戦いを共に過ごしてきた、相棒とも言える正規空母
「………瑞……鶴……」
「やっと思い出してくれましたか。お久しぶりです、上村提督。」
「お前、まだ艦娘をやっていたのか!?」
「現役でもかなりの長さですよ。すごいでしょう!?」
「あぁ、まさか昔の仲間に出会えるなんてな…」
艦娘は基本、十代から二十代前半の間の女性で構成される。故に、7年前に海戦を生き抜いた艦娘はそのほとんどが
艦娘を辞めていった。それには諸説あるが、詳しいことはやはり本部にしか分からない
今の鳳翔の年齢は大体25。そろそろ本部から引退勧告を出されてもおかしくない
そんな疑問を考えたが、今は再び会えたことに感謝しようと思った
「まぁ、当分は駆逐艦娘と行動してもらう。良いか?」
「了解です。」
「よろしい。じゃあ、自室にて待機。」
「はい」
鳳翔を自室に戻し、改めて今後のスケジュールを練り直した
夕方―
私は鳳翔を連れて医務室に入った
流石に三人は遊ぶことはしていなかった
「あ、司令官!………その人は?」
「あぁ。新しい仲間だ」
鳳翔は一歩前へ出て丁寧にお辞儀をし
「軽空母鳳翔です。これから一緒に頑張りましょう。」
と礼儀正しく挨拶した
「えっ、軽空母の人!?」
「ボク、空母の人なんて初めて見たよ」
ざわめく艦娘達に挨拶を促した
「ほら、お前らもちゃんと挨拶しないか」
「す、すいません!私の名前は―」
一通り自己紹介した後、新たな命令を艦娘達に出した
「鳳翔が加わった事により、作戦の幅が広まった
当分は四人で行動し、鎮守府近海の調査を行ってもらう」
「はい!」
四人とも良い返事を返してくれた
これなら問題ないだろう
しかし、本部からの返答が何もないことが気がかりだった
今の本部は、確かに能力は低い。だが、流石に深海棲艦の出現を
無視するほど愚かでは無いはずだ
そんなことを考えていたからか吹雪の質問が聞こえなかった
「司令官!」
「…ん、何だ?」
「鳳翔さんって昔の司令官の仲間なんですよね?」
「あぁ、そのときは瑞鶴として戦ってくれてたな」
「自身の艦が変わるって出来るんですか?」
最近の装備の発達は凄まじく、ある程度の艦ごとの条件をクリアしていたら
自由に装備を変えれるらしい
しかし、その条件は難しく、実際に装備を自由に変えられる艦娘は
およそだが、2~3人くらいである
当然、その数人は7年前の海戦を戦い抜いた者たちである
「へぇ~、そうなんですか。」
「まぁ、今はまだ自分の能力を高めることだけに集中しろ。」
吹雪と話していると鳳翔が近づいてきた
「吹雪ちゃん…本名は松田由紀子ちゃんで合ってる?」
「は、はい!不束者ですが、これから宜しくお願いします!!」
吹雪は緊張しているのか、言葉が裏返った
「そんな緊張しなくていいわ。…あ、まだ本名言ってなかったわね。
鶴野杏里[ツルノ アンリ]っていうの。改めてよろしくね」
「よ、よろしくお願いします!!」
またしても声が裏返った。二回目だからか、流石に顔を赤らめた
「うぅ……」
「ふふふ、可愛かったわよ」
「や、止めてください!!」
その後、少し話した後、私と鳳翔は医務室を後にした
私と鳳翔が司令室に戻ると同時にタイミング良く本部から連絡が入っていた
私は通信を始めた
「こちら黒崎鎮守府、提督の上村だ。」
「本部からの連絡です。昨日の連絡の件なんですが…」
通信相手は昨日の通信相手と同一人物だった
おそらく深海棲艦のことの連絡だろう
だが、何故か相手は言葉を発するのをためらっている
「その……。深海棲艦の出現を……上層部は認めないようでして…」
「何だと?」
思わずドスの聞いた声を発してしまう
相手にも苛立ちが伝わったらしく、声が徐々に小さくなっていった
「すいません、上からは証拠不十分としか言われてなくて…」
「不十分!?証拠品は本部に渡したはずだ!!」
「それが…[そんなの嘘っぱちだ]と言って、直ぐ様そちらに送り返したようでして……」
ありえない、それが司令本部のすることか
湧き上がる怒りは凄まじく、目の前にある通信機を叩き壊したい気分だった
しかし、司令本部の決定は絶対。私にはどうすることも出来なかった
「………申し訳ございません。自分が説得出来なかったばっかりに」
相手は申し訳なさそうに話した
その言葉に、私は冷静になった
「…いや、君のせいじゃない。むしろ、ちゃんと取り扱って頂き、感謝する」
「…本当に申し訳ありません。それでは」
「了解した。それでは」
「貴官の武運を祈ります」
「あぁ、ありがとう」
私は本部との連絡を終えた
後ろで話を聞いていた鳳翔が声をかけてきた
「残念…でしたね」
「今から対策を練らねば、また多くの犠牲者が出てしまう可能性があるのというのに…」
もし、現在の状況で深海凄艦が総攻撃をかけてきたら、間違いなくかなりの被害を受けるだろう
その時、犠牲になるのは前線に立つ艦娘達だ
それはつまり、7年前の海戦を繰り返すと言うことだ
それだけは避けなければならない
「…最悪、お前たちだけでも守らなければならないな」
「いえ、提督。貴方が私達を守るのではなくて、貴方が私達を使って全員を守るんです」
「鳳翔…」
鳳翔を見ると、その顔には迷いなどなかった
「今度こそ、全員で生き残るんです」
その言葉には強い決意が込められていた
「…そうだな。全員で生き残らないとな。そのためには、強くならないとな」
「あの子達なら直ぐに強くなりますよ」
私は再度これからの計画を練り直した
来るべき戦いの為に
三日後
吹雪たちは無事に医務室から出ることが出来た
私は早速、四人を出撃させ近海の調査を始めることにした
「現在時刻は1300。ただいまより、近海調査作戦[見聞作戦]に入る」
別に大掛かりな作戦ではないが、より実戦らしさを醸し出すために
大層な名前を付けた
作戦名に鳳翔がクスリと微笑した
「…鳳翔、何かあるのか?」
「いえ、提督のネーミングセンスはやはり素晴らしいなと…」
「そう思うなら、笑うのを止めてくれ」
他の艦娘達も微笑している
私は仕切り直しをするために咳払いをした
「作戦内容を通達する!これより第一戦隊は黒崎鎮守府近海の調査を行ってもらう!まずは北東方向に向かい、[久慈島]に向かってもらう!!」
久慈島とは黒崎鎮守府の北東にある小さな島である
昔はより遠くの海域に行く時には久慈島まで提督が見送りすると言うのが通例だった
「久慈島に到着後は南西方向に向かい[真崎湾]まで行ってもらう!」
真崎湾は久慈島と逆の方向にある湾のことだ
中々入り組んでおり、小回りの訓練をする際には打って付けの場所だ
「真崎湾に到着後は真っ直ぐに黒崎鎮守府まで帰ってきてもらう!!
なお、道中もし深海棲艦を発見した場合は直ぐ様状況を私に報告し指示を待て。ただし、先に発見され、攻撃を仕掛けられた場合は各艦状況に応じ交戦せよ。なお、全ての行動において自機の安全を最優先する。危険と感じたら第一に撤退を優先せよ!良いな!!」
「了解!!」
その力強い言葉とは裏腹に吹雪達三人は不安そうな表情をしていた
またあんな化物と戦う可能性があるとなると無理もない
私は鳳翔に耳打ちをした
「あの娘達のフォローを頼む」
鳳翔は笑顔で小さく分かってますよと言った
その後四人はそれぞれ自分の装備チェックなどを済ませ海上に並んだ
「よし、各艦出撃準備完了したか!?」
「吹雪、出撃できます!」
と一番に元気よく言ったのは吹雪
負けじと皐月も元気よく
「皐月、いつでも行けるよ!!」
と叫んだ
「磯波、出撃準備完了です…!」
磯波はまだ緊張と不安が残っている様子だったがしっかりと準備は出来ていた
「鳳翔、行けます」
鳳翔は最後にゆっくりと言った
やはり、七年前の海戦を経験した者らしく、非常に落ち着いていた
「よし!全艦出撃!!」
言葉と同時に全員が勢いよく出撃をした
鎮守府を出撃してから2時間が経過していた
既に久慈島を折り返し、真崎湾へと足を進めていた
「貴女たちは深海棲艦と戦った事があったんですって?」
唐突に鳳翔さんが私達三人に聞いてきた
移動する際も鳳翔さんはかなり余裕を持っており、実力者の片鱗が見えた気がする
「はい、つい最近に一回…」
「どういう感じだったのかしら?」
私は起きたことを事細かに話した
「…そう、ありがとう。」
「どうして聞いたんですか?」
「いや、本当に復活したんだな、って
また、戦いが始まると思うと…ね」
そう語る鳳翔さんの顔は険しかった
七年前の海戦。参加した艦娘たちは総勢300人近くと聞いていた
だけど、実際の結果は、あまり公表されていない
精々、深海棲艦に大打撃を与えたとしか公表されていない
「あの戦いって、どんな感じだったんですか?」
私の言葉に皐月や磯波も興味持ったのか、耳を傾け始めてた
「………一言で言えば地獄、かしらね
なんせ無事に帰還できたのは20人足らずしか居なかったからね…」
その言葉に私達は声を失った
この人はさらっと言っているが300人の中で帰ってきたのがたった20人ちょっとしか居ない
逆に言えば280人近くはその戦いで戦死したということだ
そんな過酷な戦いなんて経験してない私たちにとっては
想像すら出来もしなかった
「あの時は大変だったな…。私たちの艦隊は最前線にいたの。だから敵の攻撃も最も激しかった。
上空はもう敵味方区別できないくらい航空機が飛び交っていて、海上では大小様々な水柱が立ち上がっていたの。」
言葉にすると簡単だが、実際その状況はまさに地獄と言える
「でね、旗艦の長門さんや陸奥さん、利根に筑摩、それに同型艦も翔鶴さんまで沈んでね…。瞬く間に殺られちゃったの。でも悲しんでる暇もなかった。自分の事で精一杯でね。
結局、お互いの戦力が尽きる頃に、内海で待機していた別働隊の増援で何とか私達は勝利した訳。」
その時、鳳翔さんは泣いていた
表情は全く変えず、ただ、静かに泣いていた
「結局、あの戦いで最前線で戦い生き残ったのはおよそ2人
増援に来た艦娘たちもほとんど戦死…。勝利なんて、建前上の言葉だったわ」
鳳翔さんは涙を拭った
「ごめんなさいね…。暗い話を聞かせちゃっ―」
瞬間、鳳翔さんの目の色が変わった
同時に前方に巨大な水柱が立った
それを見た瞬間、先日の戦闘を思い出させられた
「もしかしてヲ級!?」
「う、嘘でしょ!!」
私達はやはり慌てふためいた
しかし、鳳翔さんは冷静に指示を出した
「落ち着いて!!…あれはヲ級じゃないわ」
「え!?」
「あれを見て」
鳳翔さんの指先の指す方に目を向けた
そこには船のような化物が複数いた
全部、駆逐艦ロ級だった
ロ級は編隊を保ちながら、こちらへ接近してきた
「な、何だ、ヲ級じゃないのか…。」
「油断しないで!全艦、砲雷撃戦用意!」
「は、はい!!」
私達は敵艦を確認すると戦闘態勢を取った
最も高威力の砲雷撃戦を期待できる、単縦陣を取った
「まず私が敵艦隊に爆雷撃を仕掛け同時に援護射撃を行う。それが終了後、接近してくる敵艦隊を迎え撃ちます。この状況なら丁字有利に持ち込めます。それで敵を殲滅しましょう」
「はい!!」
鳳翔さんの指示は的確で効果的だった
私達3人はその指示に従い、丁字有利になるように陣形を直した
「敵艦、射程圏内に入りました!!」
「分かりました。では、行きます!!」
鳳翔さんが腕を払うとどこからともなく九九式艦爆や九七式艦攻が現れ
瞬く間に敵艦隊へ飛んでいった
それを見た直後、駆逐艦達は手持ちの主砲で援護射撃を行った
駆逐艦の主砲は艦娘の主砲の中では最も小さく、威力も低い
しかし、それでも立派な主砲、当たれば当然ダメージも受けるし
それが重なればいつかは沈む
少数の艦載機と駆逐艦の主砲いえども、まともにくらえばひとたまりもないだろう
それがロ級という小さな奴なら尚更だった
一次攻撃が終わる頃には、敵の数は1隻まで減っていた
「やった!」
皐月が子供らしくはしゃぐ
私も気が緩みそうな程気分が良い
「気を緩めないで!敵に止めをさします!皐月、魚雷発射用意!!」
「了解!目標、駆逐ロ級!!」
皐月は足に付いている魚雷の発射体制に移った
「魚雷、打てます!」
「発射!!」
魚雷管から発射された魚雷は海中に入ると一気に速度を増し
駆逐ロ級へと一直線に向かっていった
数秒後、駆逐ロ級は轟音と共に海中へ沈んでいった
「…駆逐ロ級、撃沈。敵深海棲艦の艦隊を撃滅と判断」
「私たちの…勝ち…」
「………っ、やったああぁぁぁ!!!」
今度ばかりは私も大はしゃぎし、皐月、磯波と手を取り合い
喜び合った
鳳翔さんもほっと、胸をなで下ろしていた
「…よくやりました。敵は全滅なのに対し、こちらの損害は0。最高の出来です」
「ボクたち、意外とすごいかもね!」
「皐月さんの魚雷、見事でした!」
「磯波も砲撃すごかったよ~!」
全員が今回の戦果に喜んでいた
しかし、その喜びは直ぐ様消え散った
「………!!全員、退避!!」
「え?」
「いいから早く!!」
「は、はい!!」
私たちがその場を離れた直後、魚雷がその場所を通過していった
もしその場に居留まり続けていたら、間違いなく一人は死んでいただろう
「近くに船型の深海棲艦は居ない…。なら、艦載機からの…。まずい!!」
鳳翔さんは魚雷が来た方向に視線を合わせた
遥か遠く上空に、点みたいなものがたくさんあった
「三人とも、逃げて!!敵の艦載機が来る!!」
「えぇ!?ほ、本当ですか!?」
「私が敵を食い止めるから、早く!」
鳳翔さんの顔は鬼気迫るものがあり、異常な事態だということだけは感じてれた
「じゃ、じゃあ、鳳翔さんは?」
「………どうなるか分からない。」
「そんな…!」
「早く!早くここから離脱して!!」
私は迫力に飲み込まれそうだった
だけど、ここで逃げたら、鳳翔さんを置いて逃げたら、いつか、いつか必ず
深海棲艦に殺される気がした。
何故だか分からないが、逃げる気など微塵にも起きなかった
「私も戦います!!」
私は力強く言った。
「ダメです!!今の貴女達じゃ太刀打ち出来ないところだけでなく
間違いなく殺されてしまいます!!」
「でも、私は前、生き残りました!司令官の助けがあったけど…。
でも今度は!!」
「ダメです!!」
「嫌!!私も戦います!!」
口論は互いに譲らず、平行線のままだった
「もういいです!!磯波!皐月!吹雪を無理やり連れ帰って!!」
「え…?で、でも…」
「早く」
怒気を含んだ言葉に磯波はためらいながら吹雪に近寄った
「吹雪ちゃん…。」
「磯波、ここで逃げたら、一生の恥だよ!!」
「でも…。皐月ちゃんも手伝って!!」
皐月は黙り込んだまま俯いていた
しかし、何かを決意したように顔を上げた
「皐月ちゃん…?」
「ボクも戦う」
「皐月、貴女まで!?」
「吹雪の言う通り、ここで逃げたら一生の恥だし…。
それに死ななければ良いんでしょ?」
「簡単に言わないで!!」
「死なないよ」
「鳳翔さんが指示を出してくれれば、勝てるよ」
皐月はゆっくりとだけどはっきりと言葉にした
「でも、貴女達が…。」
「吹雪、ボクたちはへっちゃらだよね?」
「当然!!どんな作戦でもやってみせるよ!」
私達は笑い合う。確かに危険だが、死ぬ気など毛頭に無かった
「わ、私も!」
「磯波…」
「鳳翔さんには教わりたいこといっぱいあるから…。
みんなでヲ級を倒して、全員で帰りましょう!!」
三人は静かに鳳翔さんを見つめた
「………。分かりました。作戦を伝えます。」
「!……はい!!」
鳳翔は諦めたのか、それとも私たちを信じたのか、作戦を話始めた
「まず、私が艦載機を飛ばし、艦戦による敵艦載機の撃破を狙います。しかし、物量では劣っているため、おそらく、制空権奪取は不可能でしょう。
貴女達はその敵艦載機の中に突っ込み、ヲ級本体を砲雷撃を行ってください。ヲ級の損害が大きくなった頃、残りの艦攻、艦爆全てつぎ込みヲ級撃破を狙います。」
鳳翔さんの作戦は的確だった
私たちでも成功率が高いと思えるほどだった
「この作戦は成功率が高い代わりに、貴女達が危険に晒されます。…いけますか?」
「問題ありません!」
「分かりました。では……始めます!!」
鳳翔さんの艦載機の発艦と同時に、私達は一斉に動き出した
第四話 戦闘。そして問題児。
私達は最大戦速で目標に向かった
ヲ級がそれに気づいたらしく、新たに艦載機を出し始めた
「21型、発進して下さい」
声と同時に複数の艦載機からなる編隊が、真上を通り過ぎた
艦載機はすぐに乱戦になった
しかし、数で圧倒的不利のためか押されているように見えた
「…吹雪、磯波、君たちは迂回してヲ級に向かって。ボクがあの中に突っ込む」
「え!?」
皐月が突然、自らを囮にするように買って出た
「奴を倒すにはやっぱり魚雷じゃないと無理だ。
…ボクはもう魚雷撃っちゃったからね」
「皐月…」
「大丈夫、ちゃんと機銃を装備してるから」
「分かった…。でも無理はしないでね!」
「うん!頑張ってね!!」
そう言って私と磯波は皐月から離れた
「さて…と」
目の前にはもう、艦載機の大群が迫っていた
両手につけている単装砲を機銃に付け替えた
―ボクとやり合う気なの?可愛いね!
遠くで皐月がそう言っている気がした
「そろそろ…!」
私達は既にヲ級を射程範囲内に捉えてた
磯波も発射体制に入っていた
「まずは主砲で目標との正確な距離を図る!!磯波、撃てる!?」
「磯波、撃てます!!」
「主砲、ってー!!」
放たれた砲弾はヲ級付近に着弾し、小さな水柱を建てた
「目標との差異、およそ30!軌道修正!!」
直ぐ様魚雷の照準を、正しい位置に変えた
ヲ級はこちらの攻撃には目もくれず、正面に居る皐月に攻撃を集中させていた
―その油断が命取りになる
私は心でそう思った
「磯波!魚雷発射用意!!」
「あ、はい!!」
今、こちらに気を向けてない内に魚雷を発射することにした
今度こそと思ったからか、操作する腕に力が入った
「発射用意よし!」
「魚雷、発射!!」
私達は必殺の魚雷を発射した
………かのように見えた
「え…?」
発射された魚雷は駆逐艦1隻分
磯波の魚雷だった
しかし、その魚雷をヲ級は軽くかわした
私はそんなことに目もくれず、発射出来なかった理由を考えた
「何で…?」
私は慌てて手元や魚雷管付近を見回した
そこで、魚雷発射装置の安全装置を解除していないことに気づいた
―さっき、手に力を入れた際、誤って触った!?
私は戦場にも関わらず、酷く混乱した
しかし、磯波の声で我を戻した
「吹雪ちゃん!艦載機が!!」
「えっ」
ふと気がつくと目の前にはヲ級の艦載機が飛び交っていた
そのうちの数機が私に、攻撃を―
「危ない!!!」
私は撃たれなかった
いや、撃たれはしたが無事だった
「あ…あぁ………!!」
何故なら、目の前に
「な、何で…?」
私を庇って、直撃を受けた磯波が居たからだ
「ゴホッ…うっ…!」
「磯波!!何で!?」
磯波の装備は大きく破損し、磯波自身も大きく怪我を負っていた
特に右目が酷かった
「まだ……。ヲ級は生きている…!吹雪!」
「磯波!貴女は!!」
「もっと近づけば…!吹雪、早く!!」
「でも!」
「早く!!!」
私は磯波に圧倒され、ヲ級の方向へと向かった
先程の攻撃で敵艦載機は燃料を切らしたらしく、ヲ級に近づくものの
攻撃はしてこなかった
私は機関出力を上げ、さらに加速した
ヲ級との距離はすぐそことまでなっていた
―まだだ!!確実に当てないと!!
そしてヲ級との距離が200mを過ぎたと同時に、
「魚雷発射!!」
魚雷を今度こそ放った
魚雷は真っ直ぐにヲ級に向かった
至近からの必殺の魚雷は普通ならかわせはしない
「………フン」
しかし、ヲ級はそれを悠然とかわした
フラグシップの貫禄を見せつけた
「本命は………」
だけど、よけられる事は計算済みだった
私は慌てずに
「こっち!!」
再度、超至近から残しておいた最後の魚雷を放った
その距離、約10m
さすがのヲ級も反応できなかった
「!!!」
直後、ヲ級は大きな轟音と水柱に包まれた
衝撃は凄まじく、私まで吹っ飛ばされた
「やった!?」
しかし、ヲ級は立っていた
ただ、その姿に余裕はなく、頭部に付いている帽子らしきものは吹き飛び、
マントも破れていた
「くそ、後一撃が…。」
「ヨクモ…!」
「!?」
ヲ級が艦載機を発艦させようとした瞬間
再度ヲ級は爆炎に包まれた
「虎の子の兵器、彗星の威力は如何ですか?」
「クソッ、ナゼ!?」
突然、ヲ級が鳳翔さんに向かって叫び始めた
「ナゼワタシヲ攻撃スルノ?ナゼナノ!?」
「……貴女は何を言って―
「コタエテヨ!」
「瑞鶴!!!」
「え…?」
時が止まった
いや、正確には時は動いてはいる。しかし、場の静寂が、沈黙が、
あたかも時が止まったのかのように思わせた
「マサカ、アナタマデ…!」
「待って…。どういう事なの?」
「カナラズ、タスケルカラ…!マッテイテ、瑞鶴!!」
「何で私を………?」
「艦娘ドモヨ!!」
ヲ級は今度は私に向かって叫んだ
しかし、その声には怒気や憎しみがこもっていた
「ツギハ…シズメル!!」
そう言うとヲ級は海底に消えていった
瞬間、何か赤いものが見えた気がした
「何なの…。あのヲ級…?」
鳳翔さんは明らかに困惑していた
「そうだ!磯波!!」
私は急いで磯波の近くにに寄った
出血は止まっておらず、顔、特に右目からの出血が酷かった
「吹雪ちゃん…。」
「待ってて、すぐに鎮守府に向かうから!」
その後、私達は負傷した磯波を庇いながら帰港した
戦果
駆逐ロ級 四隻撃沈
空母ヲ級 大破
被害
鳳翔 ほぼ無傷
吹雪 同上
皐月 中破
磯波 大破(被害甚大)
「やはり深海棲艦は活動を始めてたか…。」
「はい…。」
あの後、帰港した私達は直ぐ様医務室に運ばれた
私と鳳翔さんは軽い治療で済んだものの、皐月は約3日の入院
磯波に至っては、2週間は外に出れないらしい
それと
右目はもう二度と、見ることは出来ないらしい
「幸いにも、死亡者は出ていない。それが、不幸中の幸いだったな」
「…あの時、私がちゃんと魚雷を発射出来ていたら、磯波はあんな怪我しなかったかな」
つい、そんなことを考えてしまい口に出た
考えても無駄なんだけど、責任を感じてしまう
「…いや、逆に殺られていたな」
「え?」
「もし、最初に全てを発射していたら、おそらく避けられていただろう」
「………」
フォローなのか、本当なのか分からなかった
だけど、何故だが分からないが、そういう風に思うことはしたくなかった
その心を汲み取ったのか、司令は話を変えた
「…吹雪、当分の間は戦力増強に徹するぞ。
今の戦力じゃやはり、いずれ殺られる」
「訓練ですか?」
「いや、訓練じゃ限界がある。一番良いのは実戦だが、今の艦隊じゃ下手に動かすのは危ない。」
「それじゃあ、何を?」
「呉鎮守府の総司令とは知り合いでな、そいつには貸しがある。」
「つまり…」
「艦娘を増員する」
そのことよりも、呉鎮の総司令と知り合いの事に驚いた
呉鎮は日本の中でも一二を争うほど大きな鎮守府である
当然、艦娘だけでなく、そこで働く人はほとんどがエリートみたいなものばかりだ
それをすべて束ねる総司令なんてかなりの大物だ
そんな人物と知り合いな上、貸しまであるなんて…
上村司令はどんな人物なんだろう…?
考えると憶測は多数出るが、めんどくさいので考えるのを止めた
どうせ、どれも外れてるだろう、と
「とりあえず、今日はもう休め。」
「あ、はい」
私は自室に静かに戻った
―――――――
書類をまとめてたら電話が鳴った
俺は秘書艦にとらせた
「こんな時間に誰だよ、全く」
「あの、提督に変わってくれと」
「断ると返しとけ」
「はい」
苛立ちながら珈琲を口に入れる
程よい苦味は喉の奥に消えていった
「一つだけ言わせてくれと」
「何だ」
「嵐の中、赤城と加賀の救助、骨が折れた…と」
「ブッ!!」
「て、提督!?」
懐かしい記憶が、脳裏に浮かぶ
その出来事は、アイツしか居ない
俺は恐る恐る受話器を耳にした
「…俺だ。代わったぞ」
「久しぶりだな。前田。」
「はぁ~。やっぱお前かよ、上村」
案の定、電話の相手は予想通りだった
思わずため息が出る
「…ため息が聞こえたぞ」
「気のせいだろ。耳鼻科行ってこい」
「…相変わらずだな、全く」
「お前もだろ、どうせ」
「さぁな」
相手は同期の提督で先の大戦では共に指揮を振るった仲間
上村俊作だった
「で、何の用だ?俺はお前と違って忙しいんだ」
「私もある鎮守府の総司令だが?」
「………マジ?」
「マジ」
正直、驚いた
提督に戻っていたなんて、聞いていなかったからだ
「どこの鎮守府だ!?」
「黒崎。」
「ド田舎じゃねーか!!お前の能力なら佐世保や舞鶴でもおかしかねーぞ?」
「私に言うな、場所は決めれない」
これにも驚かされた。黒崎は田舎中の田舎の基地
とても上村程の実力者が配属になる場所ではない
「そういや、用って何だ?」
「お前の鎮守府から艦娘を一人、こちらへ譲って欲しい」
「何故だ?別に敵が出るわけでもあるまいし」
「その事なんだが、実はな…。」
「な、何いぃぃ!!?」
「わっ!び、びっくりした…。」
「あ、すまん榛名」
あまりの大事に、俺は夜中ということにも関わらずに、大声で叫んでしまった
「それ、本当なのか?」
「こんな冗談言えるか。嘘だと思うなら、証拠品でも送るが」
「い、いや、良い…。話だけでも信憑性が高いしな…。」
「本部は全く信じなかったがな」
「本部は期待するだけ無駄さ。今は弱腰体制だからな」
「…話を戻そう。そういう訳で、こちらの戦力強化をしたいんだがな…。
頼めるか?」
「おう、そういう事なら分かった。そちらに一人…で良いか?」
「あぁ、済まないな」
私は考えを巡らせた。誰をあちらに送るか…。
一人、適任が居た
「よし、そちらに阿賀野を送ろうと思う」
「阿賀野だって!?最新鋭の軽巡じゃないか!むしろ良いのか?」
「というか頼む。阿賀野はうちじゃ手に負えない」
「…問題児か」
「いや、問題らしい問題は無い。だが…。」
「だが?」
「…極度のサボり。そして無謀なほど単独行動を好む傾向がある」
「…ワケありだな」
「色々あったんだよ…。色々と、な」
彼女の心は俺でさえ癒せなかった。
上村なら、もしかして…。
俺は異動の日時を決め、電話を切った
「しかしまぁ、めんどくさい事になりそうだ」
「何があったんですか?先程も大きな声を出されていましたが…」
「榛名、お前今、いくつだっけ?」
「へ?」
榛名は唐突な問いに首を傾げたが、直ぐに返答をした
「今年で19です。」
「ということは、当然見たことないよな。」
「何を…ですか?」
「深海棲艦」
「それは勿論…まさか!?」
遠まわしに言ったが榛名も理解したらしく、とても驚いていた
「近いうち、お前達の主砲を使うことになるだろうな」
「……そう、ですね」
「ビビってんじゃねぇぞ!」
俺は榛名を抱き寄せた
途端に榛名の顔が紅潮した
「て、提督!?そういうのは時と場所をわきまえて―
「何言ってんだ、お前」
「え、あ、い、いや、その…。」
「……期待しているからな。でも、絶対に死ぬんじゃねぇぞ」
「あ…………はい!!」
その後、偶然入ってきた青葉に写真を撮られ、二人で青葉を追い掛け回した
結局、転属関係の書類は明日に回すことにした
――――――――――――――――
電話を切った直後、鳳翔が部屋に入ってきた
「どうした、鳳翔」
「…相談したいことが」
「……そんな事があったのか」
「はい。………提督は何かご存知では?」
「いや、無い。むしろ今、初めて聞いた」
「そう…ですか」
空母ヲ級の謎の呼びかけ
このことは本当に初耳だった
―ヲ級はまさか、亡くなった艦娘の生まれ変わり…?
いや、ならば何故攻撃をしてくるのか
そもそも、生まれ変わりなどあり得るのか
「提督、調べてもらえませんか?」
「…その事は調べても分かりそうもないな。何せそんな話、聞いたことすらない上、深海棲艦が喋るかどうかも危ういからな」
「…………分かりました。夜分に失礼しました」
鳳翔は落ち込みながら部屋を出ようとした
「鳳翔」
「…何ですか?」
「戦闘に支障をきたすなよ。その事は、私が調べるべき問題だ
…次会った時、鹵獲でもしてみろ」
「……フフ、狙ってみましょうかね」
私はこうやって冗談でしか、艦娘達を喜ばせることは出来なかった
…明日から一層忙しくなる
私は書類を適当にまとめ、床に就くことにした
一週間後―
朝、目が覚めると本部から手紙が届いている事に気づいた
「軽巡洋艦阿賀野の転属…。もしやと思ったが今日とは…」
鳳翔の時と同じように、当日に配属の通達が送られた
二度目の事だからか、あまり驚きはしなかった
「司令官さん、ちょっと」
声の主は吹雪だった
最近、ずっと秘書艦をしている為か司令室を頻繁に出入りしていた
「どうした」
「砂浜で妙な物を発見しました」
「妙な物?」
吹雪を見ると、それを既に持ち込んでいた
「これって…。」
「先ほど工廠の近くを歩いていたら偶然見つけたんです。
何か…艦娘の装備に似ているような気がして」
「なるほど…」
吹雪の言う通り、それは非常に腐食していたが、艦娘の装備だった
しかも、大変貴重な装備だった
「この装備、どの艦の装備ですか?」
「…おそらく、翔鶴型だな」
「もしかして、正規空母の!?」
「あぁ。おそらく、だがな」
翔鶴型は正規空母の中では燃費、運動能力に優れ、搭載数もトップクラスを誇る型だ
ただ、一、二航戦に比べ配備が進んでおらず、開発段階の大和型、大鳳、雲龍型を除けば、最も少ない
このことは七年前から変わっていなかった
「でも、なんでそんな物が砂浜に?」
「大方、波に煽られ打ち上げられたんだろう。ともかく、もしかすれば使えるかもしれん。」
「じゃあ早速…」
コンコン
ノックの音が部屋に木霊した
時間を見ると、既に阿賀野の配属時間となっていた
「…吹雪、このことは後だ。仕方ないからお前も対面しとけ」
「はい」
「よし、入っていいぞ」
返事をすると、高校生くらいの女の子が部屋に入ってきた
いや、高校生というには立派なものが付いていた
「…大きいですね」
「あぁ、立派な装備だ」
「あ、そっちですか」
阿賀野らしき人物は入ると部屋を見回した
それは何か品定めをしているように見えた
「阿賀野型一番艦阿賀野、本日付でこちら黒崎鎮守府に配属となりました。以後よろしくお願いします」
「総司令の上島だ。よろしく頼むぞ」
「秘書艦の吹雪です。お願いしますね。」
「…提督、秘書艦が駆逐艦って、大丈夫なんですか?」
「……む」
その言葉に吹雪はあからさまにムッとした
「少なくとも、サボり癖のあるお前よりは大丈夫だろ。」
「………むむ」
そしてその言葉に、阿賀野はムッとした
「お言葉ですが提督、私は面倒くさいから訓練をサボっているのではなく、訓練の必要がないからサボっているんです」
「堂々と言うな。」
しかし、確かに阿賀野の言うとおり、送られてきた阿賀野の訓練の結果は世辞抜きに高かった
「したがって、ひよっ子の駆逐艦に艦隊は任せられません。」
「…私の何に不満があるの!?」
さすがに吹雪も我慢の限界だったらしく、血相変えて反論し始めた
こんなに怒る吹雪は初めて見たため、すこし驚いた
「貴女自身に不満は無いわ。」
「じゃあ何で!?」
「嫌いなのよ、駆逐艦。特に貴女程の年頃は最高にね」
その言葉には何か裏のあるように聞こえた
しかしまだ、単なる我が儘にしか理解できなかった
「駆逐艦の何が悪いの!?」
「弱い上に、表面上の仲間意識だけやけに高い。その癖いざとなったら
その仲間を簡単に裏切る。そんなもんでしょ。」
「そんなの一部だけでしょ!!全部が全部そうじゃないでしょ!!」
「…そこまでだ」
これ以上、無駄な言い争いはさせたくなかった
別に怒ってはいないが、低く、ドスの効いた声を発した
「阿賀野…着任早々問題を起こす気か?」
「…私は私の意見を言っただけです」
「…吹雪、熱くなりすぎだ。もう少し、冷静さを持て」
「……は、い」
場は収まった
しかし、明らかに雰囲気は最悪そのものだった
―前田め、バリバリの問題児じゃねぇかよ…
心の中で、前田を恨んだ
「とにかく、阿賀野。貴官はこれより艦隊に加わってもらい、生活してもらう。私からの指示が無い時は、秘書艦である吹雪の指示に従うように」
「しかし、駆逐艦の指示な―
「良いな」
「……了解しました。」
「…よし、自室に下がれ。今日は自由行動で良いぞ」
「はい、失礼しました」
阿賀野は納得がいかない様子のまま、部屋を出た
「何なんですかあの人!!」
こちらも、まだ怒りが収まっていなかった
「落ち着け。」
「でも…」
「戦場ではちゃんと意思疎通をしあえ、隊の乱れは死を招く」
「……分かりました」
「…お前も自由行動だ。」
「はい、失礼しました」
吹雪も何か納得のいかない様子で退室した
何か訳ありなのは直ぐに分かった
しかし、その「訳」が全く分からなかった
―当分、休みは取れんな
そう考えながら、今後のスケジュールを計画した
スケジュールの計画を終え、私は工廠に向かった
着くとそこには、皐月が技術者と話していた
「何を話しているんだ?」
「あっ!司令官!!ちょうどいい所に来たね!」
皐月は私の存在に気づくと笑顔で近づいてきた
「どうした」
「相談なんだけど、ボクの装備。もっと強化出来ない?」
「装備か…」
確かに皐月の装備は特型以降の艦娘に比べ性能が低い
おそらく、睦月型である皐月は装備の強化を頼んでいただろう
そこに私が来たから、許可を取ろうと思い近づいてきた。
「12.7cm連装砲に強化したいのか?」
「主砲より、対空兵装に!」
「対空兵装?また何で?」
「一つでも何かに特化したのがあったら心強いし、それに…」
「…?」
「……空は……怖いんだ…。」
その言葉に、深い訳があるのを感じとることが出来た
皐月、いや、駆逐艦皐月は空襲で沈んだ艦だ
艦娘の装備は所有者に与えるものは力だけではなく、その艦の記憶も受け継がれる
例えば、潜水艦に沈められた[大潮]は潜水艦に敏感になり、不当な扱いを受けた[曙]は何かとひねくれている
ただ、艦種装備を変えれる事同じように、詳しいことや理由などは公表されていない
「…分かった。25mm連装機銃でも作ってもらえるよう、頼んどくよ」
「本当!?ありがとう、司令官!」
皐月は無邪気に喜んでいる
その光景は微笑ましかった
「勘弁してくださいよ~提督さん…」
「何がだ、佐々木」
「これ以上注文されても手一杯ですよ~」
佐々木は黒崎鎮守府工廠技術長だ
若いながらも腕は良く、仕事も早かった
故に、無理難題をいつも押し付けていた
「後、これ」
「これは…装備の残骸ですね。解体ですか?」
「いや、復元」
「じょ、冗談…ですよね…?」
「お前ならできると信じている」
「……ア、アハハ」
佐々木の目はまるで深海棲艦の目をしていた、冗談抜きに
仕方なく、佐々木に耳打ちした
「今度、磯波と二人きりにしてやるよ」
「ちょっと本気出しますわ」
佐々木の眼光はまるで戦艦のようになっていた
―恋に溺れる男ほど動かしやすいものは無い
心の中で、黒く笑った
「司令官、何か黒いよ?」
「おっと、いかんいかん。さ、そろそろ戻るぞ」
「はーい。」
私と皐月は工廠を後にした
「磯波さんのために!」
―いや自分のためだろ
心の中で突っ込んだ
「あれ…。お昼か…。」
私は目を覚ました
眠気はまだ残っており、目を擦る
だが、右目は包帯に覆われており、擦ることも見ることもできない
そのことが私の目をはっきりと覚まさせる
「まるで皮肉みたい…。」
クスリと自嘲した
やることもなかったので持ち込んでいた本を読み始める
読書を始めてから数十分経とうとした時、ノックがあった
―皐月かな?
そう思いながら返答をした
「どうぞ」
「失礼します。」
だが、入ってきたのは見たこともない女性だった
「すいません、どちら様ですか?」
「今日からここの艦隊に加わる事となった軽巡阿賀野です。以後お願いします」
「わざわざすいません。駆逐艦磯波です。よろしくお願いします。」
まだ安静にしてろと言われているので軽く会釈をした
「……敬礼も出来ない程重症なんですか?」
「え?あぁ、恥ずかしながら…はい」
何か刺があるように聞こえたが正直に返した
「安全管理が出来ていないとは…。ここの艦隊のレベルは相当低いようですね」
「はは、呉に比べればそれはもう…」
少し頭にきたが、呉に居たエリート艦娘。彼女の言っている事はあっているだろう
「どんな訓練をしたらそんな怪我をするんですか?」
「え?実戦…ですけど?」
「実戦?………模擬戦の事?」
「いや、深海棲艦との戦闘ですよ…?」
「…………え?」
私はさも当然のように答える。ここに来たのだから聞いていると思ったからだ
だが、阿賀野さんは信じられないと言わんばかりの表情をしていた
「聞いていないんですか?」
「いえ…何も……。」
―どうしよう、この空気!
何かいけない事を言ってしまった?
この空気を打開すべく、言い訳やら冗談やらを考えた
しかし、出ては消えを繰り返し、結局何も言えなかった
しかし、あまりの沈黙に耐えられなかったのか、勝手に口が動いた
「…しかし、味方を庇ってこんな怪我するなんて、私もまだまだですね、あはは…」
「味方を庇って!?」
地雷を踏んだのか気に障ったか分からないが阿賀野さんは突然詰め寄った
「はい、で、でも最後はちゃんと倒したんですよ」
「何でそんなことしたの!?普通、自分の方が何よりも大事でしょ!!」
「落ち着いてください、阿賀野さん!!」
「あっ、ご、ごめんなさい…」
落ち着きを取り戻したのか、素早く離れていった
「確かに、自分の命は大事ですけど、大切な仲間が目の前で殺されそうになったら、いてもたってもいられなくて……」
「……………仲間…か…」
「……阿賀野さん?」
「………ねぇ、もし…さ」
「はい?」
「もし、信用していた仲間が、突然自分を裏切ったら、どうする?」
「そんな事……!」
ある訳無い、と続けようとしたが出来なかった
阿賀野さんの目は、まるで深海棲艦のような寂しい目をしていた
「………正直、分からないです。けど……」
「けど?」
私は自分の思ったことを全て正直に言った
「……その事は良い意味で忘れられないと思います」
「どういう事?」
「…裏切られたという経験は、決して無駄にはならないと思うんですよ。
その経験を糧にして、それからをどう過ごすか…。そっちを考えますね」
「……随分、楽観的なのね」
「でも、私は誰も裏切りませんよ」
「え………?」
真っ直ぐ、相手の目を見つめた
―この人は何か暗い過去を持っているんだ。なら、助けないと!
「当然、阿賀野さんもですよ?これから一緒に頑張りましょう!!」
「…………ったのかな」
か細い声だからか、なんて言ったのか聞こえなかった
「え?今、なんて?」
「ううん、何でも無いです。これからよろしく頼みます
じゃあ、お大事に」
「え?あ、はい」
そう言うと、阿賀野さんは足早に去っていった
まるで、何かから逃げるみたいに
―なーんて、本の読み過ぎか
一人になった私はまた、本を読み始めた
私は急いで自室にこもる
嫌な記憶が、鮮明に脳裏に浮かんだ
「貴様!!大事な演習に何をしとった!!!」
違う
「あいつ、阿賀野型だからって調子に乗ってるんじゃない?」
そんな事ない
「ふん、阿賀野型のくせにそんな事も出来んのか」
止めて
「私が阿賀野型なら、もっとすごいこと出来るのになー」
「所詮、サボりの子だからね」
「全く、提督の私としても全く遺憾だ」
「アイツ、いらないんじゃなーい?」
「そうだね!この艦隊にはいらないね!!」
「じゃ、どこか適当なとこにでも送るか」
「「さんせー!!」」
いや、止めて…。私は!私は!!
「私を信用したアンタが馬鹿なのよ」
「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
嫌な記憶は、まだ消えない。
一生、私を蝕み続けるんだろう
「仲間なんて…仲間なんてぇ!!!」
涙がこぼれる
悔しさと悲しみを堪えられなかった
「あんな苦しみを味わうなら、私は……」
「一生、一人で良い」
――――――――――――――――――――
「そんな事が………」
「あぁ、全部事実だ」
私は阿賀野の事を前田から聞いた
余りにも壮絶な事に、私は度肝を抜かれた
「演習直前、入院中の母の容態が悪化。友人に伝言を残して病院へ行ったが、帰って来たらサボり扱い。それ以降、明らかな陰口、イジメが横行…か…」
「結局、その事は一部の関係者が暴露、提督及び関係した艦娘は全員処分。だけどそんなことでアイツの心は治る訳もない…。我々も全力を挙げて彼女のアフターケアに務めたが……ダメだった」
申し訳なさそうに前田は話す
しかし、別に責める気は無かった
「…呉鎮は人が多いから仕方ない。」
「そんなの言い訳、情けない話だ。…上島、恥を忍んで頼む!アイツの心の闇を払拭してくれ!今のままじゃ、アイツは勝手に死んじまう!」
その懇願の言葉は涙声で聞こえた。前田もかなり心配しているんだろう
今思えば、アイツは最後の希望を俺に賭けたんじゃないかと思えた
「…分かった。任せろ。」
「…すまない!」
「その代わり、今度演習な」
「あぁ!任せろ」
通信を切り、考え込んだ
阿賀野はもう大事な仲間だからだ
―阿賀野の心、どうすれば……
第五話 阿賀野
「すごいな……」
「そうですね…」
阿賀野が来てから、一週間が経った
磯波も無事退院し、久々に全員揃っての訓練となった
そこで初めて阿賀野の実力を見たが…
「全てに置いて結果優秀…。素晴らしいな…」
「お褒めいただき、ありがとうございます。
ですがこの程度で満足はしません。」
「その意気良し。」
「では、これで」
そう言うと阿賀野は訓練場から遠ざかっていった
私は慌てて引き止めた
「何処へ行く、訓練は終わってないぞ」
「私にはもう必要ないので」
「先程の意気込みはどこへ行ったんだ?」
「この訓練じゃ無くても、実力はつけれますよ。
急いでいるので、これで」
そのまま阿賀野は何処かへ行ってしまった
直ぐ様鳳翔が近寄ってきた
「立派なサボリ魔ですね」
「訳ありなのが大層タチ悪いな…。仕方ない。それに今はあいつよりこっちの方が重要だ」
私は海面へ目を向ける
そこには右目に眼帯をしながら、射撃訓練をする磯波が居た
タイミング良く、磯波の砲塔から砲弾が放たれた
しかし、その砲弾は的の横を掠めていった
磯波のため息が聞こえた
「あぁ~。また外れた…」
「磯波、片目しか使えないお前は前以上に集中しろ!
もう、その目しか残されていないんだからな!!」
「はい!司令官さん!!」
再度、磯波は砲撃訓練を始めた
心なしか、先程より精度が上がっているように思えた
そしてその近くで吹雪と皐月が防空訓練を行っていた
皐月は艦載機の攻撃をさばききれているが、吹雪は所々被弾していた
「吹雪!移動に気を取られすぎだ!!もっと空に注意しろ!!」
「っ、はい!!」
「厳しいですね」
「死なれるよりマシだ」
「ふふふ、ちゃんと分かってますよ」
一段落着いた頃、皐月と吹雪が何やらヒソヒソ話をしていた
何を話しているのかは聞こえなかった
「あの二人って付き合ってると思う?」
「思わない。皐月は?」
「付き合ってるに一票」
「賭ける?」
「イイね!」
その後、訓練は2時間程度で終了した
「ご苦労だった。今日の反省を忘れないように」
「はい!」
「よし、解散!!」
解散直後、吹雪が寄ってきた
「司令官さん、少し良いですか?」
「……阿賀野のことか?」
「はい…。」
話のために、食堂に移動した
「…あの人の実力は分かりました。それはとても尊敬に値します。ですけど…」
「サボリのことか…」
「それと、あの人、何か単独行動しかしませんでしたよね?」
「あぁ…」
阿賀野は確かに能力は高かった、しかし、全て連携行動を無視した行動だった
実際の実戦はそうはいかない。常に仲間のことを気にかけないといけないからだ
「この前はつい、熱くなってしまったんですが…。阿賀野さん、何かあったんですか?」
「………そのことについては言えない。だが、吹雪。あいつの事を悪く思うな。」
「……はい」
「素質ならお前だって負けていない。頑張れよ!」
「あ、ありがとうございます!!」
「よし、じゃあ早く―
「もう一つ良いですか!?」
立ち去ろうとした瞬間、吹雪が思いっきり体を前に出し、私の服を掴んだ
ただ、その顔には何か笑みがある
「な、何だ?」
「提督と鳳翔さんって、付き合ってますか!?」
「……………は?」
「どうなんですか!?」
その時、吹雪の目は何故かキラキラしていた
突然の出来事に、私は言葉を失った
「………何故、そう思った?」
「二人が一緒にいる時のあの雰囲気!もう夫婦に見えてましたよー!!」
「へぇ、そうなの。」
見るとそこには笑顔の鳳翔が居た
「あ!鳳翔さん!!聞いてました!?」
「えぇ、とっても。でも残念、貴女達が期待しているような答えじゃないわ」
「じゃあ、付き合っていないと?」
「えぇ、そうよ」
「ありがとうございます!ではこれで!!」
そう言うと吹雪は瞬く間に消えていった
「最近の女子中学生って怖いな…。」
「提督、タジタジですね」
ある意味、吹雪達が怖くなった瞬間だった
食堂を出ると、阿賀野が誰かに電話をしていた
「分かってる、死なないように頑張るから………うん、……顔出すから。
じゃあね。」
電話を切るとこちらに気づいたのか怖い顔で詰め寄ってきた
「聞きました?」
「聞こえなかったな。」
「そうですか、誤解を招くような事は止めて下さい」
「付近を通ると邪魔だと思ったので、以後は気をつける」
「では」
そして阿賀野はさっさと去っていった
「阿賀野!……有給取ってから行けよ」
「……全く、聞こえているじゃないですか」
それから私は司令室で、再度近海調査に乗り出す計画を練り上げた
翌日―
「明日より実戦に入ってもらう!作戦内容は前回と同じく近海付近の調査だ!!」
「深海棲艦に出来れば会いたくないですね」
吹雪が呟く
それは全くもって同じ意見だった
その時、阿賀野の表情が一瞬、曇ったように見えた
「旗艦は鳳翔!頼むぞ」
「お任せ下さい」
「よし、明日、1300より開始とする!それまでは待機!!」
「了解!!」
艦娘たちはそれぞればらけていった
大方、明日のための準備だろう
ただ、阿賀野だけは残っていた
「どうした?」
「提督……その、明日の演習、……いえ、何でもありません」
そう言うと阿賀野は足早に去っていった
疑問は残ったが、直ぐに準備に取り掛かった
――――――――――――
…気分が重い
日課のトレーニングすらやる気が起きなかった
「どうしよう……」
酷く悩んだ
だが、結局納得のいく答えなど出なかった
私が頭を抱えていると、ノックがした
「誰ですか?」
「あの、私たちです」
声は吹雪だった。いや、よく聞くと他の駆逐艦娘の声も聞こえた
気が乗らなかったが大事なことかもしれないので渋々通した
「あの、お時間大丈夫ですか?」
「それはいいけど…。一体何の用なの?」
「あの、クッキー焼いたので、食べないですか」
見ると、三人分をはるかに超えている大量のクッキーが皿に乗っていた
思わず苦笑いする
「貴女達だけで、それだけの量を食べようと思ったの?」
「いえ!ちゃんと阿賀野さんの分も入ってますよ」
「ね!一緒に食べない?」
「吹雪ちゃんの作ったクッキー。美味しいんですよ」
ありがたかったがそんな気分じゃなかった
「ありがたいけど、私、お腹すいて―
グギュルルルル~
「………………」
腹は正直だった。
よくよく思い返せば、まだ晩ご飯食べてなかったんだ
「…るのよね~。ありがたく貰おうかしら」
「はい!」
流石に断りきれず、クッキーを頬張った
「何これ、すごく美味しい…!」
「ありがとうございます!」
結局、ほとんど食べてしまった
お腹のお肉を初めて気にした…
「それじゃ、そろそろ戻りますね」
「明日の実戦、頑張りましょう!!」
「え、えぇ、そうね。」
「では、また」
吹雪たちは笑顔で戻っていった
「………昔、あんな仲間が居たら、変わってたのかな。」
ふと呟く
少しだけ、ここの人たちを信じてみようと思った
だけど、忌まわしい過去はそれを許してはくれない
「でも、………仲間なんて、所詮薄っぺらい物…」
「そんな事はないですよ!!」
「……え?」
なぜかそこに磯波が居た
「貴女いつから…?」
「お皿を忘れてたので取りに来たんですけど、ノックしたんですけど、反応無くて…。すいません」
「……聞いてた?」
「……はい」
何て事だ、まさか人に聞かれるなんて…
先ほど独り言を呟いていた自分を殴り飛ばしたいぐらい気分だ
「何か…何か力になれることは無いですか!?」
「…え?どうしたの急に?」
「その…何て言うか……初めて会った時、阿賀野さん、何かに苦しんでいるような気がして…何か、力になりたくて…」
「……………どうして」
「……え?」
――――――――――――――――
阿賀野さんは泣いていた
「どうして、私を気にかけるの…?そんなに優しくしてくれるの…?」
「阿賀野さん…?」
「私は貴女達を信じてないのよ?………なのに、何で…?」
この人は、信じられないんだ
仲間を、そして、自分を
何があったか知らないし、阿賀野さんがどう思っているかは分からない
けど、どうしてもこの人を助けたかった
私は無言で阿賀野さんを抱きしめた
「磯波…?」
「阿賀野さん、私達は命を共にして戦う仲間です。仲間が困っていたら、私は全力で助けます。」
「……………」
「だから、私は貴女を助けたい。ただ、それだけです」
「…………もう一度、仲間を信じて良いのかな?」
「………はい!!」
阿賀野さんが落ち着いた頃、電話が鳴った
「はい、……………なんですって!?」
阿賀野さんの表情が変わった
どうやら、嫌な知らせらしい
何か私も、胸騒ぎがした
「………はい、分かりました、直ぐに向かいます!!」
その時の阿賀野さんは青ざめていた
「磯波、私はこれから病院へ行ってくる。明日の作戦までには必ず戻るから!」
「何があったのですか!?」
「…母の容態が一変した。今から緊急手術らしい」
「だったら、早く行ってあげてください!!」
「ごめん、頼んだ!!」
そう言いながら、阿賀野さんはダッシュで部屋を出て行った
胸騒ぎは、終わってなかった
――――――――――――――――
時刻はちょうど、0000になった
私は書類を終わらせ、眠りにつこうと思った
その瞬間
爆発音が、起きた
同時に鳳翔が入ってきた
「何だ!?」
「提督!敵襲です!!」
「敵襲だって!?」
今までの経験で鎮守府が攻撃されるなど一度もなかった
様々な思考が頭を巡ったが、それどころではないと判断した
「数は!?」
「海上に軽巡二隻確認!艦級は不明!!」
「状況は!?」
「詳しいことは不明ですが、敵が明らかにここを狙って砲撃中!!」
「分かった!鳳翔は非戦闘員の避難の補助を!!」
そして直ぐ様基地内に通信を入れた
「現在、黒崎鎮守府は敵襲にあっている!!非戦闘員は急ぎシェルターへ向かえ!!吹雪、磯波、皐月、阿賀野はスクランブルをし、敵艦隊撃破を狙え!これは訓練ではない!繰り返す、これは訓練ではない!!」
―――――――――――――
通信を受け、私は急いで吹雪、皐月を起こし、倉庫へ向かった
倉庫には、提督と技術長が居た
「阿賀野は!!」
「そういえば……」
「いないね…」
私は、先程の阿賀野さんの状況を思い出し、直ぐ様進言した
「提督!阿賀野さんは母が危篤のため、病院へ向かっています」
「えぇ!?」
「そうなの?磯波」
「本当なんです!提督、信じてください!!」
提督は黙り込んだままだった
「……分かった。磯波、その言葉を信じよう」
「提督…!」
「ただ、お前ら三人には厳しい戦いになるが…。行けるか?」
「行けます!!」
―阿賀野さんの分まで私が戦う。
その時私はそう決めた
「ボクも行くよ!」
「私も行けます!!」
続いて皐月、吹雪が呼応する
とても心強かった
「よし、敵をぶちのめしてこい!!」
「はい!!」
私達は直ぐに技術長から装備を受け取った
「整備は万全だ、弾薬、燃料ともにバッチシだ!!」
「ありがとうございます!佐々木さん!!」
「頑張ってこい!ただし、死ぬなよ!!」
「はい!」
そうして装備を装着し、私達は出撃した
海は薄暗く、昼とは違った顔を覗かせていた
夜の戦闘だと接近して戦うことになるので火力が期待できる分、より敵の砲撃に注意しなければならなかった
「そこにいるよ!」
「よし、砲雷撃戦用意!!」
吹雪の一言で直ぐ様発射準備に入いった
幸いにも、敵はこちらの存在に気づいてなかった
「磯波、撃てます!」
「皐月、準備良し!!」
「よし、半数残し、魚雷発射!!」
そして、魚雷を敵めがけて放った
魚雷は真っ直ぐに敵軽巡に向かった
放たれた魚雷のほとんどが直撃した
轟音をあげ、一隻が海の中へ消えていった
「敵軽巡一隻撃沈確認!!」
「次弾発射用意!!」
もう一体の軽巡が怒り狂いながら、こちらに砲撃を放ってきた
放たれた砲弾は吹雪ちゃんの付近に弾着した
「くっ!!」
「吹雪、大丈夫!?………うわっ!!」
「皐月ちゃん!!」
砲撃は激しくなり今度は皐月ちゃん付近に弾着した
「少し距離を………!」
『いや、そのまま迎え撃て!!』
「提督!?」
『夜戦は先手必勝!後手に回るな!!近づいて確実に沈めろ!!』
「はい!吹雪ちゃん!皐月ちゃん!!」
「了解!!」
私達は猛スピードで突っ込んでくる敵軽巡に向かっていった
深海棲艦は速度を緩めなかった
「敵との距離、約1000!!」
『まだだ…!』
徐々に距離が近くなり、はっきりと敵の詳しい姿形が見えるようになってきた
深海棲艦の軽巡は半分が人にような形をしており
人とも艦とも違っていた
「距離500!!まだですか!?」
『まだだ…!』
もう敵はすぐそこに居た
お互い猛スピード。ぶつかればただでは済まない
「距離300!!もう限界です!!」
『まだだ!!あと少し…!!』
あまりの恐怖に、思わず速度を落としそうになった
だが、阿賀野さんの事が脳裏をよぎり、恐怖を打ち消した
そして、もう、近くに…
「距離100!!!」
『全弾発射!!!同時に回避!!!』
ありったけの砲弾を敵にぶちまけた
―――――――――――――
病院に着いてから、3時間が過ぎようとしていた
私は治療室の前の椅子に腰掛けていた
まだ、治療中のランプは消えなかった
「…………喉が渇いたな」
私はその場を離れ、ロビーに向かった
ロビーに着き、自販機でジュースを買った
その時、ふとTVに目を向けた
他愛もないバラエティーが流れていた
しかし、その直後に急に映像が変わった
『臨時ニュースです。東北地方にある、黒崎鎮守府海軍基地で爆発が発生、及びその近海で、深海棲艦らしきものを確認されました』
「え………?」
『詳細は不明。現在もまだ戦闘中らしいです。』
頭が真っ白になった
何故、このタイミングで?
呆然としていると、TVに動きがあった
『新しい情報入りました。……海軍本部の公表では、先程の一件は過剰な訓練であり、深海棲艦ではない。ということです。しかし、付近ではまだ銃声や火災が確認されており、詳しい状況は確認されておりません』
「えー!つまんなーい!!」
「そういうこと言うんじゃありません!!」
「どんな訓練してんだよ~」
「これ、明日の一面じゃね!?」
「かもな~!ははっ」
ロビーからは何も知らない連中が戯言を抜かしている
全員殴りたいほど怒りが湧き上がった
しかし、それどころではなかった
「行かないと…!」
足を進めようとした瞬間、母を思い出した
いま、母は戦っている
応援できるのは、自分しか居ない
だけど、戦っているのは母だけではない
提督や仲間、磯波が戦っている
それなのに、私一人でこんな所にいて良いのか?
悩みはまとまらず、時間だけが過ぎようとしていた
その時、磯波の顔が思い浮かんだ
『阿賀野さん、私達は命を共にして戦う仲間です。仲間が困っていたら、私は全力で助けます。』
その言葉が、私の胸に突き刺さった
「………ごめんね」
――――――――――――――――
「敵軽巡、撃沈を確認!」
『よくやってくれた。』
「これで、やっと寝れるかな?」
「そうだね」
皐月ちゃんも吹雪ちゃんも、そして私も完全に気を抜いていた
深海棲艦はそこを狙っていた
『…!!総員退避!!そこから離れろ』
「………危ない!!」
吹雪ちゃんが私を押し倒した
私の立っていた場所に大きな水柱が出来ていた
「今のは!?」
『しまった…!今のは、囮だったか…!!』
「吹雪、磯波!!あれ!!」
皐月ちゃんの指さした方向を見ると、そこには人間の形をしているモノが立っていた
「重巡…リ級…!!」
『最悪なことに、まだいるぞ!!』
「え?」
その後ろを見るとリ級程とは言えないが、十分人間の形をしているモノが3体、いや、三人立ってた
「雷巡チ級まで…!」
チ級は他の巡洋艦とは違い、主砲をとっぱらい、その分魚雷を倍以上装備している。その攻撃力は圧倒的に高い
そして、リ級。巡洋艦の中では最も強力であり、特に夜戦での破壊力は唯一無二とも言われる
『三人とも、残弾は?』
「主砲はともかく、魚雷が…」
「私も…」
「ボクも…」
そう、この状況を敵は狙っていたんだろう
私たちの最強の武器、魚雷を撃たせることで私たちの戦力低下を狙い、そこで一気に殲滅する
単純ながらも、最も効果のある作戦だった
『鳳翔が今、開発段階の夜戦用戦闘機の発艦準備に取り掛かっている。それまで耐えてくれ』
「…了解!来るよ!!!」
敵は一気に畳み掛けてきた
「雷巡三隻、接近!!」
『迂闊に近づくな!!魚雷を回避出来る距離を保て!!』
三隻のチ級は真っ直ぐにこちらの方へ向かってきた
既に敵は魚雷発射体制に入っていた
『正面に立つな!各艦、自由に動き回れ!!』
「了解!!」
私達はバラバラに分かれた
三方向に別れたため、それぞれに一隻のチ級が追いかけてきた
「引き離せない…!」
後方を見ると、近くにチ級が居た
その距離、およそ400。十分魚雷命中を狙える距離だった
しかし、確実な命中を狙っているのか、ただの余裕なのか、まだチ級は魚雷を撃ってこなかった
「これ以上速度は出ないの!?」
私は機関の出力を上げる
しかし、速度は既に最高速まで出ており
これ以上の引き離しは出来ないと判断した
「こうなったら、時間を稼ぐしか…!」
鳳翔さんの夜間戦闘機に望みを託し、そのまま時間を稼ぐことにした
「提督!まだなんですか!?」
『もう少しだ!!もう少しだけ…!!』
時間を稼ぎ始めてから少なくとも一時間は経過した
全速力で動き回っていたせいか、残りの燃料は二割を切っており
体力も切れかかっていた
「うわああぁぁぁぁぁ!!!」
「皐月ちゃん!!」
「皐月!!」
皐月の叫び声とともに巨大な水柱が経った
最悪な想像が脳裏をよぎった
『皐月、応答しろ!!皐月!!』
「直撃…しちゃった…うっ!!」
皐月ちゃんの元へ寄ると、皐月の装備はほぼ全壊し、衣服もボロボロになり
とても戦闘を続行できる状態じゃ無かった
「提督!早く夜間戦闘機を!!」
『今、夜間戦闘機を発艦させた!!後二分耐えてくれ!!』
二分…?
その二分を絶望的に感じた
私と吹雪ちゃんはほぼ燃料が切れかけ、皐月ちゃんのそばに居る
その皐月ちゃんは戦闘不能
そしてその周りは既にチ級とリ級が囲んでいた
もう敵は砲弾を発射態勢になっていた
「こんなところで…!!」
「どうすれば……!!」
リ級が大きく叫んだ、おそらく勝利の雄叫びだろう
私は、死を覚悟した
「最新鋭軽巡、阿賀野。出撃よ!!」
その声と同時に、チ級が二隻轟音を上げ沈んでいった
それに混乱したのか残りの艦隊は少し離れていった
魚雷の発射された先から、阿賀野さんが近づいてきた
「阿賀野さん!!」
「三人とも、ごめん!遅くなった…。」
「それより、お母さんの容態は!?」
「それは後!皆は下がってて!!」
「私も戦います!」
「磯波…。」
私も戦う
仲間が、親の危険な時にこっちに来てくれたんだ
その思いに答えたかった
「ありがとう、でも皐月を連れて早く退避して」
「阿賀野さん…」
「そうよ、今は戻るべきよ」
「鳳翔さん!」
後ろを見ると鳳翔さんが立っていた
その付近には見慣れない戦闘機が飛んでいた
「皐月、こんなにまでなるまで戦ってくれてありがとう」
「ごめんなさい、阿賀野さん、鳳翔さん。先に戻るね…」
「えぇ、ゆっくり休んでね」
「吹雪、磯波、皐月を補助して。」
「はい。ご武運を!!」
私と吹雪ちゃんは皐月ちゃんを庇いながら戦闘海域から離れていった
――――――――――――――――
ギリギリと言うべきか、そんなタイミングで戻ってこれた
法定速度を無視して走ってくれたタクシーの運転手には是非ともお礼を言いたい気分だった
「阿賀野…。初めての実戦ですけど、大丈夫ですか?」
鳳翔さんを見ると心配そうな顔持ちでこちらを見てた
私は笑顔で返した
「いざとなったら、助けてくださいね」
「あら、……その様子なら問題なさそうですね」
目線を深海棲艦に戻す
チ級とリ級は作戦を邪魔された怒りからか真っ直ぐに向かってきた
『阿賀野、鳳翔。…遅れた分、頑張ってもらうぞ。』
「はい!」
私と鳳翔さんは、迎撃態勢に入った
「月光、全機発進!目標敵チ級!!」
夜間、視界不良のため基本的に空母は活動出来ない
艦載機が何も出来ないからだ
しかし、夜間戦闘機は夜戦用に作られた特殊な艦載機である
ただ、まだ技術的な問題からか、あまり生産及び配備は進んでいない
本部でも量産どころか試作機段階の状態である
「何故、そんなものが…?」
「うちの技術長はとても優秀だからね」
あの人、意外にやるんだな…
気を取り直し、目標を敵リ級に合わせた
私はリ級に突撃した
近づくにつれ、砲弾の数が増えていった
「バカみたいに砲が多いな…。」
しかし、リ級が冷静を失っているためか砲弾のほとんどはそれていった
近くで轟音が起きた
少し目線を向けると既にチ級が沈んでいた
「鳳翔さんすごいな…。」
直ぐに目線を戻す
大分リ級に近づいていた
(一発だけ当てれば良いんだ…。焦るな…。)
私は心を落ち着かせ、雑念を取り払った
(私を信用したアンタが馬鹿なのよ)
雑念の中に、忌々しい記憶が見えた
(今思えば、そうかもしれない…。でも、今度は…!)
目を閉じ、仲間の顔を思い浮かべる
吹雪、皐月、鳳翔さん、提督、
そして、私を信じてくれた、磯波
(私は、もう、独りじゃない。信じてくれる仲間がいる!)
目を開けた時、忌々しい過去はもう私を縛ってはいなかった
魚雷発射の態勢を取る
リ級はまだ、無造作に砲を乱発していた
距離が100を切った時
「いっけええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
残りの魚雷を発射した
魚雷は全弾リ級に命中した
轟音が鳴り響き、リ級は水柱に包まれた
「………!」
水柱が消えるとそこには満身創痍のリ級が立っていた
主砲発射態勢を取ろうと身構えようとしたが、それすら不必要なほど衰弱していた
「ナゼ…?ワガ……イハ……タダ……テイト……アイタ……ダケ…」
「喋った…!?」
「………アァ……チク………オマ……シズムナ……」
そう言い残し、リ級は海に沈んでいった
「……また、喋ったのね」
「鳳翔さん。また、って?」
「また話すわ。今は戻りましょう」
「はい……」
最後の深海棲艦……まるで、何か意思を持ってるような気がした
曖昧じゃない、何か、はっきりとした意思を
私は、リ級の言葉を考えながら帰港した
―――――――――――――――――――
医務室から出ると、二人は既に戻っていた
「お疲れ様。よくやってくれた」
「何とか倒すことが出来ました」
「すまないな。皐月を医務室まで送っていて、通信が出来なかった」
「ご安心を。阿賀野はちゃんとやってくれましたよ」
「そうか、阿賀野もよく戻ってきてくれた。」
阿賀野に目を向ける
心なしか阿賀野の表情は少し穏やかになっていた
「提督、少し、気になることが」
「…重要な話か?」
「…多分、そうかと」
「分かった。なら、医務室で話そう。」
「はい。」
私は阿賀野と鳳翔の装備の片付けをし、医務室に行った
医務室に入ると吹雪達が居た
皐月は幸いにも軽傷で済んだ
「あ、司令官さん。どうしたんです?」
「阿賀野が何か発見したらしい。お前たちも聞くべきだと思ってな」
「そうなの?なら、もう少し起きとくかな」
「皐月ちゃん、無理はしないでね」
「へーきへーき」
「阿賀野、話って?」
「実は…」
私達は阿賀野からリ級が喋ったこと、何かの意思によって行動している可能性があること
そのような話を聞いた
「…なるほど、今度はリ級が…」
「他にも喋った例があるんですか?」
「あぁ、前はヲ級がな…」
私はヲ級が喋った事、何故かそのヲ級が鳳翔の事を知ってた事
全てを事細かに説明した
「…一つ、良いですか?」
「何だ?」
「そのヲ級って鳳翔さんが、瑞鶴だったって事を知ってるだけでなく、一目見ただけで分かったんですよね?」
「えぇ、そうよ」
「なら、そのヲ級ってもしかして……いや、何でもないです。」
「………そうか。」
私はチラッと時計を見た
時刻は既に深夜3時を回っていた
「そろそろ体を休めろ。明日は一日自由だ」
「あっ!お母さん……。」
阿賀野は思い出したかの様に叫んだ
その表情は不安に溢れていた
「今は休め。無理してお前が体をも壊したら本末転倒だ」
「………はい」
「今日は解散。ゆっくり休んでくれ」
艦娘達はそれぞれ自室に戻っていった
私も司令室に戻った
司令室に入り、リ級の言葉を思い出した
その言葉にある一つの答えが出てきた
だが、私はその答えを認めることが出来なかった
「まさか………な」
考えることをやめ、私も静かに眠りに就いた
翌日―
「提督、用とは?」
司令室に阿賀野を呼び出した
「お前の母の事何だが…」
「母に何か!?」
阿賀野は身を乗り出し、切羽詰まった表情になった
「…安心しろ。連絡した所、手術は成功したらしい」
「!!…そうなんですか。」
私がそう告げると、阿賀野は一気に緊張が抜けたのか
しゃがみこんでしまった
「す、すいません!」
「気にするな。」
そしてしばらくし、立つと、何故かまたバツの悪い顔になった
「そういえば提督、昨晩勝手に抜け出したことなんですが…。」
「あぁ、そういえばあったな」
よくよく考えれば夜間無許可外出は軍規違反だった
彼女はそれを思い出したんだろう
「許可書なら出てるが?」
「え………?」
私はさっと机の中から一枚の書類を取り出した
そこには外出許可書に阿賀野の名前と印鑑が押されていた
「そ、そんなの出していませんが?」
「昨日の騒動で忘れたんじゃないか?」
「……………」
「話はこれでお終りだ。早く母のところに行きなさい。」
私は軽く微笑んだ
やってることはそれこそ軍規違反だが別に構いやしなかった
「……提督、ありがとうございます!!失礼します!!」
「あぁ、」
そう言って、阿賀野は部屋を出て行った
私も甘いなと思いつつ、空を見上げた
空を眺めていると何か飛んでいるものが見えた
「カモメか………?」
目を凝らすとその姿ははっきり見え………
「あれ、近づいて………?」
その物体は徐々に大きくなり
「うわぁぁ!!!な、何だ!?」
司令室に突っ込んできた
見るとそれは空母娘の操る、艦載機だった
それも、彩雲と言う貴重な艦載機だった
「彩雲をこんな扱いできるのは……。まさか………!?」
私は扉の方を見た。そこには人が立っていた
「It a サプライズ!!」
「……殴りたい、その笑顔」
呉鎮の総司令、前田が立っていた。その他に赤城と榛名らしき艦娘が立っていた
前田はそのまま部屋に入ってきた
「司令官、今の音は?………どちら様?」
音に聞きつけたのか吹雪が入ってきた
前田に気づいたのか怪訝そうな表情になった
「今の音の犯人。」
「えぇ!?」
「ただのサプライズだ。気にすんな!」
「窓壊されて気にしない訳ないだろぉ!!」
思わず叫ぶ。前田はともかく、二人の艦娘は申し訳なさそうだった
私は仕方なく、一旦窓を放置することにした
「ところで、何の用だ?呉のトップがこんな所に来るなんて、ただ事じゃないだろ?」
「あぁ、大変なことが起きた……」
前田は椅子に座ると、今までの雰囲気は息を潜め、真面目な表情になった
「昨晩、呉鎮守府が襲撃された」
第六話 崩壊
前田の言葉に私は驚きを隠せなかった
「それは本当か?」
「あぁ……榛名」
「はい」
榛名は指名されると懐から紙を取り出し、読み始めた
「昨晩、日付が変って間もない時間に敵の砲撃を確認。
すぐに戦艦及び重巡を発進させ、敵艦隊を撃破。
しかし、直後に第二波の攻撃を確認。それを待機中の雷巡、軽巡部隊で撃破
被害は戦艦二中破、重巡二中破、軽巡二小破となり
敵襲直後は鎮守府の機能が一時的に低下し、つい先ほど、復興が終了致しました」
「と、言う事だ。慣れていないとはいえ、重巡を旗艦にした艦隊に苦戦を強いられた」
「重巡…?まて、その重巡は何か喋らなかったか?」
「え?何故分かったんですか?…確かに私が倒した直後、喋った事を確認しました」
「やはり、お前ん所も…?」
「あぁ、同じようにな…。幸いにも目立った被害は無かった」
まさか他の鎮守府が同じように襲撃されているなんて想像してもいなかった
前田は、昨晩あった事に衝撃を受け、これからの事を話に来たのだろう
何せ深海棲艦の出撃例があったのは此処だけだったのだから
「これから敵の攻撃は激しくなってくるな…。」
「私の方は戦力は整っているが…。黒崎の状況は?」
「万全とは言えないな…。」
「こちらから何人か送ろうか?」
「ありがたいがこれ以上そちらに頼るわけにもいかない。当分は鳳翔を軸に何とかやり過ごす予定だ」
「でも、今の艦隊じゃ…」
横に座っていた吹雪が大人しめに言った
吹雪の意見は最もだ。今の黒崎はまともに戦えないだろう
「なら上島、艦娘候補の人員を何名か送る。」
「提督、良いのですか?」
「あまり多すぎても手が回らん。なら、ちゃんと大事にしてくれるとこに回した方が良い。」
「本当に良いのか?」
「あぁ、お前なら安心して渡せる」
「すまないな、いつか奢る」
「提督、済まないのですがそろそろお時間の方が…」
後ろに居た赤城が申し訳なさそうに言った
「分かった。またな上島」
「待て、前田。その前に………」
私は窓を指差しにこやかに微笑んだ
「窓直せ」
「グッバイ!!」
前田はまるで島風みたいな速さで走り去った
「すいません、後で払っおくので…」
「あいつのポケットマネーでいいぞ」
「そうしますね」
「私の食費減らされたら堪りませんしね」
「赤城さん…」
二人は急いで前田を追いかけた
「提督、あの人が…?」
「呉の総司令だ。ふざけた所もあるが、指揮能力は高いぞ」
先程の会話についていけなかったのか、まだ吹雪は混乱していた
「これからどうします?」
「明日からは深海棲艦の動向を伺うため、出撃は少なくする。
呉から人員が来てから本格始動だな」
「分かりました。」
しばらくして吹雪は自室に戻っていった
私は深海棲艦の襲撃を受け、各鎮守府に注意喚起の通信をした
幸いにも佐世保や舞鶴等大きな鎮守府には私の同期や後輩が総司令をしており、真面目に受け入れてくれた
しかし、中~小規模の鎮守府や基地、そして本部は聞く耳を持たなかった
何故かその日の夜には嫌な胸騒ぎがした
――――――――――――――――――
夜
買い物の帰りついでに夜道を散歩する
遠くには海軍司令本部が見えた
「あそこに艦娘がいるんだよな…。私もなりたいな…。」
そんなことを考えながら歩いていると、既に時間は日を跨いでいた
「そろそろ帰るか…」
帰路につこうとした瞬間、急に背後から光を浴びた
振り返るとそこには、炎上している本部が見えた
「何!?何が起きたの!?」
慌てて周りを見回すと、海上には化物が大量におり、艦娘と交戦していた
「あれが深海棲艦…!?……………え?きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
戦いを見ていると流れ弾がこちらに飛んできて、近くに着弾した
私はその衝撃で吹っ飛ばされた
私は頭をうち、気を失った
意識を失う前に見えたものは、劣勢に追い込まれてる艦娘達だった
―――――――――――――――
私は入ってきた通信を聞き、耳を疑った
全国の基地が攻撃されていると言う通信が入った
ただ、黒崎、呉には襲撃は無かった
「こちら佐世保!深海棲艦の襲撃を返り討ちにした!これより援護艦隊を派遣する!!」
「舞鶴、敵艦隊を撃破!これより艦隊を付近に派遣する!!」
佐世保、舞鶴からは勝利の通信が入った
しかし、他の鎮守府からは悲鳴や怒号が聞こえてきた
「こちら大北基地!艦隊の七割を喪失!急ぎ救援を!!」
「金手基地、艦隊全滅!!落ちるのも時間の問題!!」
「早く救援を!早く!!……ぎゃああぁぁぁぁ!!!」
特に本部とは連絡すらつかなかった
七年前の悪夢すら霞む地獄絵図。
「最悪だ……。このままでは……!」
二時間後にはほとんどの基地が音信不通となった
「今のところ、全基地の中で通信可能なのは呉、佐世保、舞鶴、名古屋、室蘭、沖縄、桜町に黒崎だけ……か」
日が昇る頃、呉に居る前田に通信をした
前田は通信が出来る基地をまとめていた
「全国80近い基地の中で残っているのはたった八つ…。酷いな……」
「既に本部の生き残りが舞鶴に臨時本部を立ててはいるが……」
「今回の襲撃で全資材の7割を損失。及び殉職した艦娘は500人近く……。前田、事態は深刻だ。」
「あぁ、本部に、残った基地の総司令の集合を提案した。おそらく、もう少しで収集がかかるだろうな」
「分かった、では、また」
私は通信を切り、司令室に全員の集合をかけた
数分後、全員は集まった
今回の襲撃のことはニュースで既に報じられているが、詳しいことは放送されてなかった
私は、今の状況を事細かに伝えた
「……そんなに、酷いんですか?」
「あぁ。悪夢は再来してしまった」
鳳翔以外はかなりの衝撃を受けていた
吹雪は口が開いたままになり、皐月は目を丸くした
磯波は口を手で覆い、阿賀野は動きが止まった
「こうなっては、本部にはもう頼れませんね…」
「本部も壊滅状態らしい。上層部や一部の通信兵、偶然居合わせなかった艦娘を除き、ほとんどが殉職したらしい」
「何時も生き残るのは、偉い人間だけ…!」
鳳翔の顔は悔しさに滲んでいた
鳳翔の言うとおり、犠牲になるのは下の人間だけだった
「これから私は残った総司令で話し合いに行ってくる。鳳翔、留守は頼んだぞ。」
「分かりました。」
「済まない、頼んだ」
そう言い、私は会議場所である舞鶴に向かった
舞鶴に着くと既に半分は集まっていた
こちらに気づいた前田が話しかけてきた
「上島、やっと来たか」
「前田、そっちの状況は?」
「幸いにも被害0。お前の所は」
「同じだ。ただ、これからが全く分からないのが、不安だ」
そういう風に会話してると二人の総司令が近づいてきた
「前田、上島、久しぶり」
「折田か、久しぶりだな」
「無事だったか。佐世保の状況は?」
「上島のおかげで、被害は最小限に抑えられた。」
折田は佐世保の総司令しており、私や前田と同期であり
昔は切磋琢磨していた
「本当です、上島さんのおかげで舞鶴も被害を抑えられました。感謝しています」
「伊集院、お前出世したな。元気そうだな」
「上島さんも無事で何よりです」
伊集院は私の2つ下の後輩提督である
しかし、指揮能力は非常に高かった
それからしばらくすると、長細い机の一番奥に海軍元帥が現れた
その隣には秘書らしきひょろい男が立っていた
「全員、席に着け!…会議を始める」
元帥の服装には勲章等が大量に付いていた
―そんな服を用意できる余裕があったなら、ちゃんと指揮しろよ
心の中でそう思った
「今回の襲撃だが……おい、日藤」
「はい」
その指示に秘書が立ち上がり、手元の書類を抑揚なく読み始めた
「現段階でまともに活動可能な基地は呉を始め八つ。これは皆さん知ってると思いますが…。
幸いにも、呉や佐世保、舞鶴が残っており致命的、とまでは行きませんでした
しかし、深海棲艦は我々の本部を知っているかのように横須賀を集中的に攻撃、奮闘するも残念ながら横須賀は落ちました。
この事については松笠元帥も遺憾に思っています」
―逃げておいて何が奮戦だ。戦ったのはお前じゃない、艦娘達だ
そう思い、怒鳴りそうになったが何とか心を静めた
私が嫌悪感を抱いている間にも話は続いていた
「このままする訳にもいかないので、陥落した基地の生存艦娘を各基地に再配備。及び訓練をしていただき、これ以上の被害を増やさないと同時に来たる決戦の時に備え、強力な艦隊の制作をお願いしたい、という訳です」
「そういう事だ、諸君らには頑張ってもらいたい。」
「艦娘の割り振りはこちらの方で吟味するので決まり次第連絡を致します。」
「じゃあ、会議を終わる。お前らには頑張ってもらわないとな」
そのような感じで会議は簡単に終わった
会議が終わった直後、前田が話しかけてきた
「根本的解決にはなってないな…」
「今回の事件で何か変わると思ったが…。無駄だったみたいだな」
私はその後、前田達と食事に出かけた
―とある飲食店
そこに入るとそこには、松笠元帥と日藤秘書がいた
私達はそれにバレないように、静かに座った
「何でこんな所に…?」
「さぁな。分かる訳無いだろ」
「とりあえず、注文しようぜ」
「そうですね」
私達はそれぞれ注文をし、料理を待っていると元帥の方から話声が聞こえてきた
「……ったく、めんどくせぇ事になったな」
「被害額は数百億……これから大変ですね」
「艦娘共が使えねぇからこうなるんだ、全く…。」
「大丈夫ですよ、もう少しであれが完成しますから」
「強制催眠システムか、さっさとしてくれ。あれを使えば勝手に進撃してくれるんだからな!」
「戦果が上がりますね!!」
信じられないような言葉が聞こえたきた
驚愕の内容に私達は、料理を来たことにすら気づいてなかった
「今の話って…」
「嘘…なんてこんな所でするわけもないしな」
「本部は、そんな事をしていたのか……」
「とてもじゃないですけど、信じられないですね…」
幸いにもあっちの二人は酔っているのか、こちらの存在に気づいてない
「……今聞いた話は誰にも言うな。それらしいことも絶対に言うな」
「あぁ、分かってる。だが基地の総司令に簡単に手出しなんて…」
「俺の佐世保や呉、舞鶴はそうだろうが、黒崎は…」
「上村さんは、危険ですね…」
「心配するな、上手くやり過ごす」
だがこの時既に、私はそれの破壊を見据えた計画を立てていた
たった一人で出来るものを
あいつらを巻き込むわけにはいかなかった
その後私達はすぐに料理を平らげ、それぞれの鎮守府に戻っていった
私が黒崎についたのは、翌日になっていた
朝―
3時間しか寝てない体にムチを打ち、目を覚ます
今日から訓練を再開させようと思っていた
朝食を取るため食堂に向かうと既に、艦娘達は食事をとっていた
私に気づいたのか、一斉に挨拶を始めた
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
私はそれぞれにしっかり返し、朝食をとり始めようとした
そしたら急に佐々木が話しかけてきた
「提督、少し良いですか?」
「味噌汁が冷めるまでには終わらせろよ」
「横須賀にいる叔父が艦娘になれそうな人材を見つけたらしいんですよ」
「ほう、その人材は艦娘になりたいのか?」
「はい。ですが、司令本部を失ってしまったため試験を受けれないそうです」
「なるほど…。分かった。試験はお前に任せる。」
「はい、分かりました」
艦娘になるには条件をクリアしなければならない
その条件を試す事を試験という
一般的には各鎮守府に申し込みをし、そこの技術者が試験をさせるという方法だ
ただ、その試験の方法は簡単である機械を頭にはめ、一分待つ
それだけだった
なぜそれで分かるのかは秘密にされていた
私はどんな人物なのか考えながら朝食を取った
残念ながら、味噌汁は冷めていた
その日の訓練は今まで通りにに行われた
ただ違う点があるとなれば、阿賀野の訓練の取り組み方に違いが見られた
「三時の方向!敵艦隊確認!!水雷戦隊は魚雷発射用意!!」
「了解!」
「皐月!コースから少し外れている!すぐに修正を!!」
「はい!!」
阿賀野はサボることなく、それでいて連携行動は完璧に取れていた
その様子はもう、私の指導が要らない程だった
「恐ろしいな…」
「えぇ。今まで見た中でも、技術は特に群を抜いてますね」
「あれなら旗艦でも心配いらないな」
「はい。ずっと私では荷が重いですもの」
「…嘘つけ」
そのような他愛もない会話を交わしながら訓練を見守った
しばらくして訓練が終了間際になった頃、唐突に佐々木がやってきた
「提督、完成しました!」
「何がだ?」
「翔鶴型の装備ですよ!ついに復元できたんです!!」
「そうか、すぐに見に行く。鳳翔、訓練の方を頼む」
「了解しました」
私は鳳翔に訓練を任せ、訓練場を後にし工廠へ向かった
工廠に着くとそこには立派な装備一式が置いてあった
私はそれを手にし、見回した
「…完璧だな。」
「流石に骨が折れましたよ。結構資材も飛びましたよ~。」
「それでこれはどっちの装備なんだ?」
「翔鶴か瑞鶴か、ですか?まだ決まってません」
艦娘の装備は同型艦ならある程度似ているのが多い
これは生産した装備はまだどの艦娘になるか決まってなく、まずは保管される
その後、その装備を使う艦娘が決まり次第、その艦娘に合わせた装備に仕上げられる
こうすることによって、生産のの効率を上げることが出来る
だが、この場合使う艦娘なんて居なかったため自由に決めることが出来た
ただ、最初から決めていた
「瑞鶴で頼む」
「了解。しかし、何故瑞鶴なんですか?」
「鳳翔は元瑞鶴、仮にこれを使う奴がいたら指導が簡単になる、それと…」
「それと?」
私は出しかけた言葉を喉に戻した
ただの自分勝手な考えだったから
「……いや、何でもない。仕事、頼んだぞ」
「はい!」
私は翔鶴の事を考えながら工廠を後にした
―今更、翔鶴に合わす顔なんてない。例え、人が違っても
その後、工廠を後にし司令室に戻った
司令室で雑務をこなしていると、吹雪が手紙を持って入ってきた
「司令官、お手紙ですよ」
「ありがとう、見してくれ」
「私も見て良いですか?」
「あぁ、構わない」
差出人は司令本部だった
内容は割り当ての艦娘の報告が書いてあった
「これって、この艦娘がここに来るんですよね?」
「あぁ、そのはずだ。…しかし、昨日の今日で決まるなんてな。」
「仕事が早いのでは?」
「適当に振り分けたかのように見えるがな。しかし、それはそれで助かる。
この戦力、有効活用させてもらおう」
その手紙に書かれていた艦娘は6人居た
扶桑型戦艦一番艦[扶桑]
扶桑型戦艦二番艦[山城]
綾波型駆逐艦八番艦[曙]
綾波型駆逐艦十番艦[潮]
初春型駆逐艦一番艦[初春]
初春型駆逐艦四番艦[初霜]
「駆逐艦娘はともかく、戦艦が入るのは助かるな」
「これで、近海の制海権を取り戻せるかもしれませんね!」
戦艦
それは海の女王
一人でも居れば、圧倒的火力で深海棲艦を粉砕し撃破する
戦艦の有無で艦隊の作戦が決まるといっても過言ではない
たった一人でも、居れば違う
それが、戦艦だ
「この二人の技量が高ければ、すぐにでも近海の制海権の奪取を考える。吹雪、訓練を怠るなよ。」
「はい!」
「よし、この事を全員に伝えてくれ。」
「了解しました!」
吹雪は伝えるために部屋を去った
先程は意気揚々に言ったが、実際に作戦を考えると奪取は難しかった
戦艦がいるとはいえ、まだあとひと押しの火力が足りなかった
鳳翔の艦載機でも限界があり、解決策が見当たらなかった
「………一つ、賭けてみるか」
私は、残りの一人に賭けてみることにした
その賭けは大穴だった
第七話 瑞鶴
翌日―
今日は訓練を全面的に鳳翔に任せ、私は別の場所にいる
そこは試験会場だった
すでに佐々木が機械の準備をしており、後は受験者が来るのを待つだけだった
「なぁ、佐々木。受験者はどんな人物なんだ?」
「あまり詳しいことは聞いていないですが…。
そういえば、姉が艦娘をやっていた。と聞きました」
「……そうか。」
「………何か?」
「いや、何も」
私は受験者の書類に目を通す
そこには名前や顔写真など様々な情報が載っていた
ただ、私はこの娘の姿が何かに似ているような気がしてならなかった
確信は無いが、懐かしく、忌々しい記憶の奥底にその正体があるような感じがした
「あっ、来たようですよ」
佐々木の声に気がつき、前方を見てみると、書類の女性が近づいていた
改めて見ると、やはり記憶の何かに似ていた。
「こんにちは。黒崎鎮守府はここで合ってますよね?」
「あぁ。この鎮守府の総司令、上島だ。」
「技術長、佐々木です。」
「初めまして、鳳 翔流(オオトリ カケル)です。よろしくお願いします」
「では、早速試験場所に」
私と佐々木は彼女を試験場所である、工廠へ案内した
工廠に着くと、佐々木は機械の電源をつけた
「色々あるんですね」
「…そうでもしないと、戦えないからな」
「じゃあ、鳳さん。この機械を頭に被せて下さい。一分後には結果が出ます」
「私は何かするんですか?」
「じっとして頂くだけで、結構です」
「分かりました」
試験はすぐに開始された
頭につけられた機械は正しく作動し。試験は順調に進められた
ただ、私は何が起きているか分からなかった
「この機械、どうなっているんだろうな?」
「さぁ…?」
試験を間近で見ても、機械の事は何も理解できなかった
しばらくして、私は機械に繋がられているPCのモニターに目を移した
そこに試験結果が移される
「そろそろですね…。えっ!?」
「………大穴は、当たったか」
モニターにはこう書かれていた
診断結果 翔鶴型航空母艦二番艦 瑞鶴
「まさか瑞鶴なんて…!装備もある…。…提督、まさかこれを狙って!?」
「……さぁな。機械の片付けを頼む。」
「は、はい!」
佐々木は試験機械を片付け始めた
鳳さんはまだ状況を飲み込めないらしく、キョトンとしていた
この時、私は彼女に似ているものの正体に確信を持った
まさかとは思ったが、それしかなかった
私は鳳、いや瑞鶴に近づき、言葉を発した
「鳳さん。結果を伝える。」
「あ…はい。」
「君は瑞鶴と診断された。つまり、君は艦娘になれる」
「……はい。」
「これから君はこの黒崎鎮守府で瑞鶴として生きる事が出来る。ただ、元の生活に戻るまでに命を落とすかもしれない。それでも、君は艦娘になるのか?」
私は真剣な眼差しで話す。覚悟が無い人間に、艦娘は務まらないからだ
その思いを悟ったのか、瑞鶴は今までの表情と打って変わり、真面目な顔になり静かに言葉を発した
「……承知の上です。深海棲艦と戦ってみせます」
「分かった。これから頼むぞ、瑞鶴。」
「はい!!」
彼女の表情は決意に満ち溢れていた
私は瑞鶴の装備を渡し、他の艦娘に紹介するために訓練所に向かった
訓練所に着くと、艦娘達が休憩していた
「司令官!……後ろの人は?」
「まぁ、待て。…自己紹介を」
「こんにちは。新しく瑞鶴としてここで戦う事となった鳳です。足を引っ張りたくないので、ご指導の方をお願いします」
「鳳…?貴女、まさか…?」
「…?」
鳳という名字に鳳翔が反応した
その反応は私も予想出来てた
「…まぁ、良いわ。私は鳳翔、何かあったら私に相談してね」
「吹雪です。これからよろしくお願いします」
「皐月だよ。よろしくね!!」
「磯波です。一緒に頑張りましょう」
「阿賀野と言います。よろしく頼みます」
自己紹介が一段落したところで、瑞鶴に訓練に入ってもらった
「早速、瑞鶴には訓練に入ってもらう。まずは水上移動からだ」
「はい。」
「鳳翔、阿賀野。サポートを頼む」
「よっ…と」
「何…?」
瑞鶴は何事も無いように海上に立った。その事に全員が驚愕した
―早過ぎる!
ここにいる艦娘誰もが一足目で海に立てていない。それが普通だからだ
海に地上の様に慣れるまで早くて半日、遅くて一日はかかる
それを、たった数秒で済ませてしまった
「えーっと…。これで良いんですか?」
「あ、あぁ。よし、そのまま移動してみろ。機関を稼動すれば、勝手に進む。それを上手く操るんだ」
「はい。…機関最大!!」
「おい!待て!!」
瑞鶴の速度はみるみるうちに上がり始め、速度は全速力となった
当然、素人はそんな速度を扱えるわけもない
だが、瑞鶴は違った
「旋回!!」
もう、問題なく使いこなしていた
「す、凄い…。ボクなんて、一週間はかかったのに」
「私も…吹雪ちゃん達は?」
「私は5日…。阿賀野さんは?」
「ほぼ同じ…。」
当然ながら、目の前の出来事に驚愕しきりだった
あの鳳翔でさえ呆然としている
「提督…。やはり、あの人」
「あぁ、お前の思ってる通りだ」
あの瑞鶴は、私達二人にとっては複雑だった
数分後、瑞鶴は戻ってきた
「提督さん、これで良いんですよね?」
「あぁ、だが反復しとけ。とりあえず今日中はな」
「はい!!」
そしてまた、瑞鶴は海上に出て行った
もう、水上移動は完璧に出来ていた
周りの艦娘達はまだ驚愕していた
中にはその才能に嫉妬している者もいた
「あれが天才ってやつなのかな…?羨ましい…。」
「皐月、不貞腐れるな。お前にしか出来ない事もある」
「そうゆうのじゃないけど…。」
「なら訓練だ!グズグズしてると瑞鶴に追い抜かれるぞ」
「冗談に聞こえないのが怖いですね…」
その後、一通り訓練をし本日の訓練は終了した
瑞鶴のせいかおかげか、皆いつも以上に取り組んでいた
「提督さん、少し良いですか?」
「何だ?」
訓練終了後、司令室で書類を片していると瑞鶴が入ってきた
その表情はやけに真剣だった
「提督さんと鳳翔さんって、前の海戦でも戦ってたんですよね?」
「あぁ、そうだ」
「じゃあ………。鳳 翔子(オオトリ ショウコ)。この人の事、知ってますか?」
「………少し、昔話になる。」
「って事は………!」
「…鳳翔も呼んでくれ」
「え?」
「過去の話は…好きじゃない」
「………はい」
あの海戦、最初は誰も沈ませないと誓った
結局、私はあの戦いで艦娘を失ったんだ
大事な、実の娘とも言える艦娘を失ったんだ
怒号、嗚咽、通信を通して聞こえる悲鳴、爆発音
それを聞いても、私は何もできなかった
しばらくして、鳳翔と吹雪が部屋に入ってきた
「何故、吹雪まで?」
「司令官宛の手紙を…」
「そうか。ありがとう」
「…昔の話、聞かせて下さい」
唐突に吹雪が頭を下げた
急な出来事に、少し頭が混乱した
「提督、どうします?」
「鳳翔、お前はどう思う?」
「……………私には分かりません」
「………吹雪、聞くなら最後まで聞け」
「はい!」
「じゃあ司令官さん、お願いします」
「…分かった」
私は過去を思い出しながら話し始めた
多くの命を失いながら、無様に生き残った男の話を
第零話 小笠原決戦海戦
それは七年前、深海棲艦を撃滅するために作られた作戦
「滅一号作戦」
その作戦に、多くの人、艦娘が動員された
小笠原諸島―
そこに深海棲艦の集団と住処らしきものを発見
司令部は全戦力をもってこれの排除に当たる
私達、横須賀第一艦隊所属第七戦隊は最前線に配備された
「これが総力戦か…。」
モニターを見て呟く。艦娘に付けられたカメラを通して映像が送られていた
その映像には、様々な艦種の艦娘が並んでいた
「長門、艦隊の機関の調子は?」
「全員問題ない。予定通りに進んでいる」
「よし、目標を補足次第各自攻撃開始。第二波の攻撃まで頼むぞ」
「あぁ、この主砲で粉砕してやるさ。ただ、提督。次は46cm三連装砲を頼むぞ」
旗艦を務める長門は自身の41cm連装主砲を見つめ言う
この日のためか、持っていた主砲は綺麗に磨かれていた
「提督、私は新しい美容グッズが欲しいわ」
長門と同じ41cm連装主砲を持つ長門型二番艦、陸奥
無類の美容好きのためか、戦い中に美容商品を催促してきた
「それなら吾輩は、新しい偵察機が欲しいぞ!」
偵察機を欲しがるのは利根型一番艦利根
自慢のカタパルトに似合う最新の偵察機を装備していた
「私も偵察機ですね。利根姉さん同様、頼みますよ」
利根型二番艦筑摩は利根を姉と慕っていた
利根への憧れか、同じように最新の偵察機を装備していた
「私は艦載機!そろそろ烈風を装備してみたいかな!?」
こう語るのは翔鶴型二番艦瑞鶴
新型の空母の為か、装備も最新のを装備していたがそれ以上のを望んだ
「私は…。この戦いが終わったら、皆で旅行とか行きたいですね」
翔鶴型一番艦翔鶴は最年長のせいか、自己より他人を優先させていた
全員での旅行を欲しがる辺りから垣間見えた
「戦いが終わったら考えてやるよ」
「本当か!?頼むぞ、提督」
「あら、気前がいいのね。それなら頑張ろうかしら」
「おぉ!提督、早速準備しておくのじゃ!!」
「瑞雲くらいなものを頼みますよ」
「烈風じゃなくて、流星改でも良いよ!」
「提督、お願いしますね」
それぞれの希望のため、艦娘達はやる気を滾らせ足を進めた
『だけど、この時の約束は守れなかった。いや、守らさせてくれなかったんだ』
通信の数分後、モニターには深海棲艦の姿が見えてきた
その数は数えるのを放棄する程多かった
「第七戦隊、目標を確認した。提督の合図に合わせる」
「了解。残りの戦隊の到着を待つ」
数分後、海域に全戦隊が到着した
到着と同時に、司令部より通信が入り、通信兵に伝えられた
「第一艦隊は各自深海棲艦の群体に攻撃を敢行せよ、とのこと」
「分かった。…第七戦隊!攻撃開始!!」
「了解!!!」
合図とともに、戦隊は一気に動き始めた
敵も動きに気付いたのか、同じようにこちらの方へ向かってきた
「敵第一波を打ち崩す!!陸奥!!」
「了解!!主砲、撃て!!!」
第七戦隊は長門、陸奥の砲撃により戦闘が始まった
放たれた砲弾は敵の先頭集団に直撃し、爆発を起こした
「ハ級、及びホ級の撃沈を確認!」
「よし、長門、陸奥は先頭で対艦射撃!!利根、筑摩は敵艦載機に対応しつつ、二人の援護射撃!翔鶴、瑞鶴は艦載機を使い、敵の中枢の撃破!!」
「敵第一波、三割を損失させました!!」
「気を抜くな!来るぞ!!」
翔鶴が上空に艦載機を放つ
すでに上空では艦戦どうしによる空中戦が行われていた
その隙間を縫うように、敵艦攻が魚雷を発射させてきた
それはこちらに向けられていた
「左舷、敵の魚雷!!」
「各艦回避!!」
長門の指示で編隊は一度バラけた
元の場所には雷跡が残っていた
敵の先頭集団を撃破させていくうちに、奥に大きな物陰が見えた
「敵第一波に増援の確認!」
「長門!陸奥!!雑魚は利根達に任せ、戦艦クラスを狙え!!」
「了解!!」
機関を最大にし長門と陸奥は敵のル級に向かっていった
だが、それを遮るようにチ級が魚雷を放ってきた
「これでは…!」
「吾輩に任せるのじゃ!!」
利根がチ級に向け主砲を構える
チ級は雷撃に夢中なのか、利根の存在に気づいてなかった
「長門達の邪魔をするな!!」
利根の砲撃はチ級に直撃した
衝撃のあまり、チ級は四肢が爆散した
「今じゃ!」
「感謝する!!」
「長門さん達が居ないと少しきついですね…」
「何を言っとる!我輩達は重巡の最終形態、すなわち最も高性能な重巡である!!その利根型が弱音を吐くでない!!」
「…姉さん。…!九時の方向にリ級!!」
「さて、行くぞ!!」
「はい!!」
リ級は真っ直ぐにこちらにに向かってきた
利根達もすぐに砲撃態勢に入る
「撃てー!!!」
重巡同士の砲撃戦は、激しいものとなった
「敵全体のニ割を撃破!!ただ、第三戦隊、第十一戦隊から轟沈者が出た模様!!」
「被害はあるが、順調。って所か…」
「長門、陸奥が敵ル級と接触。戦闘に入った模様!!」
「第一波の中核かもしれん。状況の確認を怠るな」
「流石ル級、中々に硬い」
「感心してる場合じゃないでしょ!!ほら、来るわよ!!」
ル級にはすでに主砲をニ、三発程度をぶつけた
直撃ではなかった事もあるが、ル級の損傷は小さく、他の艦との違いを見せつけられた
砲弾を当てられた怒りからか、ル級の砲撃は激しかった
「これじゃ、迂闊に近づけないわね」
「ここからでは、主砲の命中率も低い…。厄介だな」
打開策を考えていた最中、謎の爆発がル級に起きた
「何だ!?」
「爆撃…。翔鶴たちね」
爆発の正体は翔鶴から発艦された彗星の爆撃だった
後続の彗星がさらに爆撃を加えた
「今だ!突っ込むぞ!!」
「オーケー!!行くわよ!!」
長門と陸奥はル級が爆撃に気を取られてるうちに一気に距離を詰めた
上空に目を向けていたル級はそれの対応が遅れた
ル級が長門達の接近に気づく頃、すでに二人は主砲の発射態勢に入っていた
「くらえ!!」
至近距離の砲撃はル級の腹部を貫通した
ル級は静かに海に消えていった
「戦艦ル級、撃沈!!」
「これで敵第一波の中核はやったか…?」
瞬間、他戦隊から一気に通信が入ってきた
何か嫌な予感が体を駆け巡った
「敵艦隊中心に敵の新型を確認!!付近で戦闘をしていた第十七戦隊が奇襲により壊滅!!」
「何!?そいつの情報は!?」
「詳細は不明!!ただ、砲撃、雷撃を行い、戦闘機も飛ばし、全てが高威力を誇るとのこと!!」
「万能なんてレベルじゃない…!!」
「…!司令部より入電!!第七戦隊は第三、第五、第九戦隊と協力をし、新型を撃破せよ!!」
「………了解。長門!!」
「聞こえている。その海域に向かえばいいんだな」
「無理はするな。危険になったら迷わず下がれ」
「了解!!」
すでに付近の敵は一掃されており、集合は楽に出来た
「……ということだ。すでに第三戦隊が戦闘状態に入っている。すぐに行くぞ!!」
「了解!!」
その場を後にし、第七戦隊は敵新型に向けて足を進めた
幸いにも、全艦傷は少なかった
数分後、敵新型を目視できる距離まで近づいた
「なんて大きさなのじゃ…!」
「怯んでる場合じゃない!!翔鶴、瑞鶴、艦載機を!!陸奥、利根、筑摩は私に続け!!」
「はい!!艦載機、発艦します!」
「えーい、当たって砕けろなのじゃ!!」
「敵を砕くのよ!」
「行きます!!」
第七戦隊はそれぞれ戦闘海域に突入した
新型の周りには戦い散った艦娘の装備が浮かんでいた
その光景は、アニメや映画とかで見るようなものとは全然違った
「第七戦隊が来たか…。これで…!!」
「油断するな!来るぞ」
すでに第三、第九戦隊が戦っており、状況は芳しくなかった
先頭では第三戦隊旗艦の伊勢が砲撃を続けてた
「伊勢、下がれ!!私に任せろ!!」
「舐めなさんな!まだやれる!!」
長門は最大戦速で敵新型に突っ込み、砲撃を始めた
しかし、直撃したにも関わらず、新型はなんともない顔で攻撃を続けた
「くそ!なんて硬さだ!!」
「一点に集中しろ!!いくら硬いと言えど、同じ場所ならいつかは破れる!!」
「分かった!各自、提督の指示通り、敵腹部を集中的に狙え!!第三、第九戦隊もだ!!」
「了解!!行くよ!!」
それから小一時間は経った
戦艦六、航空戦艦四、重巡六、空母四の集中砲火にも関わらず、敵はまだ健在だった
「くっ、まだ沈まないの!!」
「もう少しだ!!敵も動きが鈍くなってきている!!」
長門の言う通り、明らかに新型の動きが遅くなっきていた
それに比例してか、敵の攻撃も弱体化されていた
その時、伊勢の主砲が弾切れを起こした
「そんな…!こんな時に…!!」
「伊勢!!避けろ!!」
「え?」
伊勢が爆発に包まれた
「伊勢ぇぇぇぇ!!!」
付近に雷跡が残っていた
その雷跡は新型から来ていた
爆発の煙が消えた
その場所に、伊勢はいなかった
「そんな…!伊勢…!!」
「長門!!気をしっかりして!!」
最前線で戦っていたリーダーを失ったためか、日向を除いて第三戦隊の動きは乱れた
かくいう日向も、主砲の目標が動揺でぶれ、まともに戦闘が出来なくなっていた
「第三戦隊旗艦、伊勢轟沈!!」
「くそ、敵の新型に何人殺られたんだ!!司令部はこの状況を見て何故第二艦隊を戦場に出さないんだ!?」
「……。……!第十三戦隊壊滅!!これで第一艦隊の損害、五割を突破!!」
「残存戦隊は!?」
「第一、二、三、五、七、八、九、十二、十五、十九戦隊!!総員53名です!!」
司令部に対しての苛立ちだけが積もる
敵の新型の強さは士気を落とし、開戦から三時間という短い時間で第一艦隊は半数を失った
しかし、司令部は第二艦隊を前線に入れようとはしなかった
映像には新型を睨みつけている長門が映されていた
「新型未だに沈みません!そろそろ燃料、弾薬の残量がレッドゾーンに入ります!!」
「……新型から後退させる許可を司令部に通達してくれ」
私は一度新型から後退することを司令部に進言した
弾薬はともかく、海上で燃料を切らすなんてことをしたら一大事だ
それは、軍関係者なら誰もが重々承知している
しかし、司令部はそれすらも構いなしだった
「…後退は許可できない。一刻も早く、敵の新型を撃破せよ。とのこと…」
「………ふざけんな!!!!」
信じられなかった
よもや司令部がそこまで人命軽視だとは思ってなかったからだ
怒りは源泉の如く溢れ出る。それはとどまる事を知らない
「…!!日向、轟沈!!第三戦隊全滅!なおも戦況は劣勢!!」
「…くそっ!!」
私はモニターに目を移す
新型の顔は敵を沈めたからか、不気味に笑っているような気がした
「化け物め…!長門!!聞こえるか!?」
「……あぁ、聞こえる」
「一度後退しろ!!状況を立て直せ!!」
その命令に、長門から返事がなかった
モニターには何かを決意したような長門の表情があった
「おい!長門!!返事をしろ!!」
「提督」
「良いから下がれ!話はそれ―
「今まで、ありがとう。貴方の事は忘れない」
その言葉を最後に長門との通信は切れた
いや、無理やり切られた
艦娘の機関は安全の為に、全力の負荷を掛けさせないように出来ている
そのため、普段のスペックはその艦の最大スペックとは言えない
だが、その気になれば無理やりでも機関をフル稼働させることも出来る
「陸奥、後は頼んだぞ」
「長門、貴女まさか!?」
陸奥の言葉を聞き終わる前に長門は動き出していた
その速度は普段の比ではなかった
「深海棲艦…」
新型は長門の速度に驚きつつも向かってくる者に砲撃を始めた
しかし、弾は一つもかすらなかった
長門と新型の距離はほとんどなかった
砲撃戦すら不可能なほど
状況を飲み込めない利根は呆然と見ている陸奥に近づいた
「陸奥!長門は何を!?」
「……見届けるのよ。長門の最後を」
「陸奥……」
長門は新型に衝突し、しがみついた
衝撃は凄まじく、この海域一帯に衝撃波が起きた
そんな衝撃がしたのにも関わらず、新型は倒れなかった
一方長門は衝撃からか、一部の装備は破損し、長門自身も流血していた
新型は長門を振り払うべく、動き出そうとした
だが、長門の力に負け長門に押されていた
「死なばもろとも!貴様も…道連れにしてやる!!!!」
機関はすでに限界を迎えていた
耐えられなくなった機関はオーバーヒートを起こし
大爆発を起こした
衝撃のあまり、近くにいた深海棲艦をそれだけで沈めた
その光景は陸奥のカメラを通して伝えられた
「長門………。」
「………新型の反応、消失。轟沈と確認。同時に、第七戦隊の旗艦、長門。機関のオーバーヒートの爆発により、轟沈」
新型の深海棲艦は海に消えた
しかし、払うべき代償は大きかった
「敵第一波、撃破。第一艦隊の損失、ほぼ七割。」
「…第七戦隊、後退せよ」
「…陸奥、了解」
私は、これ以上の犠牲を出さないために、一刻も速い撤退が必要だと感じられた
まだ、内地には第二艦隊が居たからだ
戦闘海域の艦娘が一斉に後退を始めた
私は作戦が始まって初めて気を抜いた
『その時に地獄が始まったんだ』
レーダーがけたたましく鳴り響いた
部屋中に緊張が走った
「状況報告!!」
「敵の増援!…………嘘だろ!?」
「どうした!?」
「敵の数が……100以上!!尋常じゃない多さです!!」
「………先程の新型ですら囮だったのか!!」
「急にこんな数が……!?」
「各艦、第二艦隊が来るまで凌いで!!」
「りょ、了解!!」
第七戦隊は囲まれていた
軽巡や軽空母が多く存在していた
普段ならこの程度の敵はなんてことないだろう。しかし、弾薬や燃料をほとんど消費し、長門という精神的主柱を失った今の第七戦隊にとっては強敵だった
「もう弾薬が……!」
「何があっても耐え抜くのよ!!生きて帰りましょう!!」
「そうじゃ!!陸奥の言うとおりじゃ!!」
「艦載機、もう少し頑張って!」
「彗星!天山!52型!信じてるよ!!」
その状況の中、第七戦隊は奮戦した
圧倒的不利な状況でも、彼女たちは果敢に戦った
しかし、限界があった
筑摩の弾薬が切れたのだ
「弾薬が……!」
「筑摩、下がれ!!道は吾輩がつくる!!」
利根は残りの少ない弾薬で、ある一方を集中的に撃ち込んだ
しかし、そのせいで利根は狙われたことに気付かなかった
利根に重巡の主砲が照準された。筑摩はそのことにいち早く気づいた
「あと少しで……!!」
「姉さん!!危ない!!」
「……え?」
利根を狙った砲撃は利根には当たらなかった
何故なら、筑摩が利根を庇ったからだ
砲弾は筑摩に直撃し、筑摩の腹部を貫通した
「筑摩あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「…ごめん……先に…」
腹部を貫通され致命的なダメージを受けた筑摩は静かに海の中へと姿を消した
敵重巡はそれを確認し、再び利根に照準を合わせた
「………貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」
「利根!いけない!!」
利根は我を失い、敵重巡へ突っ込んだ
「うおおおおおお!!!」
利根は主砲を敵重巡にぶつけ砲撃した。
ゼロ距離射撃をされた敵重巡は瞬く間に粉砕され、破片となって海に消えた
「はぁ、はぁ……。!!……くそ、こんな所で」
ゼロ距離射撃を行ったせいで利根の砲塔に損傷が起きてしまった
さらには、燃料もほぼ尽きていた
利根にはもう何もすることが出来なかった
「利根!待ってて。今行く!!」
「来るな!!」
「利根!?」
「吾輩はもう役に立たん!早く撤退するのじゃ!!」
逃げ道はあった
先程の利根の砲撃で敵の包囲に一部だけ穴が空いていた
「利根……」
「早く行くのじゃ!!………吾輩の分まで、生きるのだぞ」
「陸奥さん!!………行きましょう」
「………ごめんね、利根」
第七戦隊は利根の作った穴を使い、海域から離脱した
「………さぁ、深海棲艦共よ!!我輩を沈めて武功を得るが良いぞ!!!」
目の前には、数え切れない程の砲塔がこちらを向いていた
―さらばじゃ、提督
砲撃は鮮明な、そして悲痛な音を響かせた
「利根、轟沈!!これで第七戦隊の残存艦は陸奥、翔鶴、瑞鶴のみ!!」
「第一艦隊、なおも劣勢!損失、83%程度の模様!!」
「第二艦隊は………主力は、まだ出んのか!!!」
第二艦隊には、司令本部直属の近衛艦隊が控えていた
近衛艦隊の練度は高く、主力の一角として見られていた
「司令部、なおも返信無し!!」
「………。海域の状況は!?」
「未だ多くの深海棲艦が蔓延っている状況!!第一艦隊の残存戦隊、第一、七、九戦隊!総員十一名!!」
「……!!第七戦隊、新たな部隊と交戦開始!!」
「くそっ、どうすれば…!!」
「頑張って、皆!!」
「限界が………!!」
「もう、艦載機が残ってないよ!!」
どこに行けど、海上には深海棲艦しか居なかった
安全な場所なんて、もうこの海の上には何処にもなかった
「あぁっ!!」
「翔鶴!!」
「翔鶴さん!!」
翔鶴が敵の爆撃に直撃を受けた
損害は大きくなかったものの、疲労もあるせいかもうまともに戦える状態ではなかった
「陸奥さん!!もう限界だよ!!」
「頑張って!瑞鶴!!」
瑞鶴は一番被害が少ないがそれでも装甲はあちこちで凹みや歪みを起こし、艦載機はもう数機とまで減っていた
陸奥も何とか残り少ない弾薬を上手く操りながら応戦するも、燃料も既にほぼ底をつきかけていた
「第二艦隊、発進を始めました!!」
「やっとか!!だが、これで………!」
しかし、内地のレーダーに写っていたのは数戦隊だけの中規模艦隊だった
「第二艦隊の三割が発進…!?近衛艦隊を含む本隊はまだ出る様子がありません!!」
「………いったい、司令部は何をしてるんだ!!」
この艦隊指揮はもう意味が理解できなかった
わざわざ艦隊を小出しにする意味はもう既に無く、敵新型を沈めた今、残りの艦隊全てつぎ込み、残りの深海棲艦を全て駆逐する事が最も被害の少ない作戦だ
しかし、本部はあろう事か、最も戦力を持っている近衛艦隊はおろか、第二艦隊ですら出し惜しみするかのように、艦隊を動かさなかった。
おそらく、第二艦隊の消耗を恐れたのだろう
それは、第一艦隊の消耗が大きくなる事でもあった
「第九戦隊全滅!!第一艦隊、損失は91%!!残存艦は七隻!!」
「もう限界だ!………本部に直訴してくる。後は頼む!!」
「上村提督!?」
私は司令室を後にした
「翔鶴!!動ける!?」
「……行けます!さぁ、行って!!」
翔鶴は残り四機となった艦載機全てを空へ放った
しかし、上空はほぼ敵の艦載機で覆われており、翔鶴の艦載機はなすすべなく落とされた
制空権を失っていた第七戦隊にとって一番の脅威は艦攻だった
艦と違って捕捉しにくいからだ
「瑞鶴!艦載機は!?」
「今、燃料を補給中!!後二、三分で出せます!!」
「陸奥さん!!上!!」
「くっ!!」
翔鶴の言葉によって陸奥は何とか敵艦爆の爆撃を回避した
しかし、それで終わらなかった
第七戦隊は後方から近づいてくる雷撃に気づかなかった
雷撃は徐々に陸奥に近づいてきた
「陸奥さん!雷撃!!!」
「分かっ………!!!………え?」
陸奥は動かなかった
いや、正確には動くことが出来なかった
「陸奥さん!?」
「ごめんね、燃料……切れたみたい。私から離れて、巻き込まれるわ」
「でも……!!」
「良いから!!………貴女達は、生きなさい。絶対に」
陸奥の言葉が終わると同時に、魚雷が直撃し、大爆発を起こした
水柱は高く跳ね、轟音は海を揺らした
水柱の消えた後に、陸奥の姿はなかった
「陸奥さん………!!!」
「瑞鶴、来るわ!!」
「化け物……!化け物め……!!!」
悲しみは怒りに変わる
だが、いくら怒れど、二人にもう艦載機はなく、持ち合わせの高角砲程度しか武器は無かった
「元帥殿!!」
私は、勢いよく扉を開けた
その場にいた全員がこちらに注目した
「何だね、君は?」
「何故、第二艦隊を小出しにするのですか!?第一艦隊が限界なのはお分かりでしょう!!」
「作戦中だ、現場に戻れ!!」
「何故なんですか!!答えて下さい!!」
私は元帥の近くに居た警備兵に腕を掴まれた
「離せ!!何故なんですか!?」
「……………」
「何故黙ってるんだ!!答えろ!!」
「貴様、元帥殿に向かってなんて口を…!!」
「答えろぉ!!!貴様!!」
今まで全く動かなかった元帥の口が動いた
「君たちの部下なんて、所詮消耗品なんだよ」
「!!」
驚愕した
私だけでなく、居合わせた一部の兵士、高官もだった
私は怒りに震えた。組織の頂点がそんな思想を持っていたことに、私は、どうしようもなく怒りを募らせた
「ふざけるなぁぁぁ!!!!!」
「早く追い出せ」
「……了解、しました」
私はそのまま部屋を追い出された
扉はもう開けることは出来なかった
向ける先を失った怒りは、消えはしなかった
『そう、今でもな…。忘れてはいないんだ。あの怒りを』
翔鶴、瑞鶴は戦闘力をほぼ全て失っていた
これは第一艦隊艦隊の残存艦全てがそうだった
「瑞鶴!!頑張って!!」
「もう………無理だよ………!!」
まだ、二人は敵の攻撃の渦の中に居た
艦載機も、燃料も、弾薬も、何もかも無かった
「うわぁぁ!!!」
「瑞鶴!!」
敵の砲撃が瑞鶴に直撃した
装甲は貫いていなかったものの、本人へのダメージは当然計り知れない
それを見てか、その時、戦艦ル級の砲口が瑞鶴を捉えた
瑞鶴はそれに気づいた
「瑞鶴!!」
「あっ…。」
「まさか…!?」
そう、今まで残っていた燃料が底を尽きたのだ
動けない艦娘なんて、深海棲艦からしたらただの的である
そんな事、艦娘である彼女らが最も把握していた
「嫌…!!死にたくない……!!」
化け物に慈悲はなかった
ル級は容赦なく砲弾を放った
「翔鶴…さん…?…何で!?」
「うっ…。ゲホッ!ゴホッ!!」
瑞鶴は無事だった。何故ならル級の砲弾を翔鶴が庇っていたのだ
「翔鶴さん!!しっかり!!」
「瑞鶴……無事……?なら良かった……」
翔鶴の口調は徐々に弱わしくなり、呼吸も微弱になった
しかし、狙った敵は逃がさんとばかり、ル級は再度瑞鶴に砲口を向けた
「化け物…。化け物ぉぉ!!!」
瞬間、ル級が爆発に包まれた
第二艦隊の先陣が到着したのだ
「生存者、二名確認!!」
「よし!敵に注意しつつ救助せよ!!」
「翔鶴さん!!助けが来たよ!!」
「………そう、良かった。」
「だから、早く戻ろう翔鶴さん!!」
「ごめんね……。先に……逝くね」
「嫌だよ!!私、まだ翔鶴さんに教わりたいこといっぱいあるから…!」
「………貴女は……生きてね……約束よ………」
「だから………生きてよ………翔鶴さん………!!」
翔鶴は最後の穏やかに微笑むと静かに海の中に消えていった
「ううっ…。翔鶴……さん。………うう……」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
結局、瑞鶴は第二艦隊の艦娘に連れられ無事に帰投
第二艦隊の攻撃によって深海棲艦は殲滅。人間は勝利を得た
しかし、被害は大き過ぎた
第一艦隊の戦隊は第一、第七を除き全て全滅。かくいう第一、第七戦隊もそれぞれ一人しか生還せず、第一艦隊二百人中生存者はたったの二名のみだった
第二艦隊の被害も大きく、戦闘海域に突入した百人のうち八十二人が戦死を遂げた
結果として近海の深海棲艦の集団を排除出来たものの、被害は大きく、攻勢に転ずることは出来なかった
また、作戦後は作戦指揮に問題を見られ、人命軽視の作戦を強行したとして当時の元帥は作戦後更迭。その後軍法会議により今は牢に入っている
「私は翔鶴、いや、鳳翔子の最後を見届けられなかったんだ」
「これで全部…ですか?」
「今の話し全部が…私の知っていることだ」
場は沈黙した
この事を知っている者は実は少ない
この作戦後、厳しい情報統制が行われ、この作戦の詳細なデータを知る者は体験者くらいしかいない
初めての事実を知らされて、鳳翔以外は困惑していた
「鳳さん、すいません。私のせいで…。」
「あ、いえ…。良いんです。姉の最期を知りたかっただけですから」
「話は以上だ。……そろそろ日が変わる。それぞれ思うこともあるが、明日言ってくれ」
私は部屋の扉に足を進める
開くとそこには、皐月、磯波、阿賀野の姿があった
「お前たちも早く寝ろ」
「………は、はい」
その場は解散し、部屋には私と鳳翔だけ残った
「……お前だけ」
「え…?」
「お前だけでも、生きててくれて、本当に良かった」
「提督……」
目から涙が溢れる
大切な仲間を大勢失ったあの絶望
その絶望の中で唯一の希望は生き残ってくれた、瑞鶴だった
もし彼女まで死んでいたら、私は間違いなく後を追っていただろう
しかし、作戦後に会うことはしなかった
最前線で戦った彼女に、安全な場所で指揮をしていた私は合わす顔がなかったのだ
「提督……。私はあの後、何よりあなたに会いたかったんですよ?」
「何故、だ?」
「私も……仲間を失い絶望していました。ですが、貴方だけは無事だと分かっていて、少し安心がありました。」
「鳳翔……。…!?」
鳳翔が突然抱きついてきた
私は突然のことに驚愕した
「少しの間だけ、このままで……」
「……分かった」
気づけば、夜が開けていた
第八話 戦艦
「あ、おはようございます」
「おはよう」
話をしてから、一週間が経っていた
あの話の後、何かが変わるようなことは無かった
「司令官、今日ですよね?新しい仲間が来るの?」
「あぁ、そうだ。」
吹雪の言う通り、今日は補充人員が配属される日だった
そのためか、吹雪は心なしかそわそわしていた
「確か…1300に配属だったな。」
「じゃあ、今日は訓練は午前のみですか?」
「お前がそうしたいだけでは?」
「あはは…。でも、大勢来るんですから、早いうちに仲良くなった方が良いんじゃないですか?」
確かに、吹雪の言うことにも一理あった
普段の生活が戦場でも影響があることは重々承知だった
「じゃあ、午後は親睦会でもするか?」
「良いですね!早速準備しないと!」
「……準備してたら午前も潰れるじゃないか」
「あ……。ま、まぁたまには…ね!!」
吹雪はもう親睦会のことで頭がいっぱいなのか、目がキラキラしていた
私は艦隊の最近の訓練結果を思い出した
―まぁ、たまには良いか
「分かった。じゃあ、他の艦娘と協力して準備に取り掛かってくれ」
「了解です!!」
吹雪は笑顔で答え、直ぐ様走り去ってしまった
ある意味、吹雪の子供らしい一面を見ることができた
私はひっそりと、佐々木との約束を思い出した
佐々木は結局、装備の復元をしっかりと終わらせていたのだった
その時の約束は奮起を促すためだったから、適当にしたものだった
とはいえ、当然佐々木にも感謝の念があるし、約束を無下にする気など毛頭なかった
しかし、どうやって佐々木の希望を叶えるか考えてなかった
「………あ。親睦会…」
私はそこそこの妙案を思い浮かべた
「磯波、少しいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
私は朝食の片付けをしている磯波に声をかけた
「吹雪から話、聞いてるか?」
「親睦会の話ですか?」
「あぁ、それでだな。料理の食材の買い出しを頼みたいのだが…」
「私でよければ幾らでも」
「提督ー。話って何ですかー?」
私が磯波と会話しているとそこに佐々木が現れた
話のために私が呼んでいたのだった
「佐々木か、ちょうど良かった。頼み事があるんだ」
「何ですか?」
「買い出しに行ってもらいたいんだ。磯波とな」
「えっ?磯波さんと…ですか?」
「あぁ。磯波、男手はこいつで十分だよな?」
「そんな…!佐々木さんに迷惑かけるわけには…!」
磯波の言葉に佐々木が素早く反応し、勢いよく否定をした
「いえいえ!全然迷惑じゃないですよ!」
「本当ですか?」
「はい!ちょ、ちょうど最近外出してなくて、逆にいい機会ですし」
その言葉に、磯波は心配がなくなったのか穏やかな笑顔になった
その笑顔をみて佐々木もにこやかに笑顔になった。
(笑顔と言うよりにやけてるな、ありゃ)
「じゃあ…よろしくお願いしますね」
「こちらこそお願いします!」
「決まりだな」
私はちらっと佐々木を見る
佐々木は私に向け親指を立てていた
私は間宮さんから貰ったメモを磯波に渡した
「じゃあ、これが必要な物のメモだ。遅くとも1500くらいには持ってきてくれ」
「はい!」
「佐々木、何かあったら、磯波をちゃんと守れよ」
「言われなくても!」
「よし、頼んだぞ」
そうして二人はすぐに身支度を済ませるために、それぞれの自室に向かった
「青春ですね…」
「鳳翔、いつからそこにいた!?」
「最初からです」
「マ、マジか……」
その直後、すぐに間宮の人に声をかけられた
何か慌てているように見えた
「すいません!さっきのメモに書き忘れがありました!」
「え…?本当ですか?」
「はい、これがそれです」
私は新しくメモを渡された
中には数個の材料名が書かれていた
「申し訳ないですけど、よろしくお願いします!では、私はこれで!」
そう言って、間宮の人は直ぐ様急いで去っていった
私はメモを見てどうしようか悩んだ
「もう、手空き人員は居なかったよな…?どうするか…ん?」
私は鳳翔をチラリと見た
視線に気付いたのか、鳳翔はこちらを見返した
「暇だよな?」
「えぇ、確かに」
「頼んだ」
「じゃあ…」
鳳翔は少し考えたかと思いきや少し微笑みながら答えてきた
私は何か嫌な予感がした
「構いませんよ。ただ、荷物を持つ男手が必要ですね」
その言葉は真っ直ぐ私を見ながら言った
私はこれからの事を思い出す
特に用事は無かった
「ついてこい……と」
「えぇ、その通りです」
鳳翔の表情はまるで小悪魔みたいな笑みを伺わせた
鳳翔のズル賢さに脱帽しながら、私は渋々了承した
―――――――――
鎮守府を出てから結構経っていた
材料は結構多く、全てを調達するために都市部の大型ショッピングセンターに足を運んでいた
「ありがとうございましたー」
「これで半分くらいは買えた気がします」
「そうですか、じゃあ次に行きましょうか」
ふと、佐々木さんが持っている荷物を見る
両手は結構ふさがり、端から見ると何かの買い占めでもしているのか、というくらい荷物を持っていた
それを佐々木さんは一人で持っていた
とても申し訳ない気分だった
「次は何を?」
「えーっと…。あっ」
ふと時間を見る。時刻は既に1200を回っていた
昼ご飯を食べるには良い時間だった
「お昼…食べません?」
「あっ!そうですね!!そこのフードコートに入りません?」
「そうですね」
私達はフードコートに入り、昼食を取った
だけど、普段の訓練と違い全く動いてないからか、食べる量が少なかった
「結構、美味しいですね」
「磯波さんって、結構小食なんですね」
「あまり動いてないので……」
少しして二人共食べ終えた
代金を払おうとしたら、佐々木さんが伝票を持った
「ここは僕が奢りますよ」
「いえ!そういう訳には……」
「良いんですよ。普段は磯波さん達、艦娘がカッコイイんですから、こういう時ぐらいカッコつけさせて下さい」
そう言い、佐々木さんはさっさと支払いを済ませてしまった
その姿は、心なしかたくましく見えた
「あの……ありがとうございます」
「いえいえ!さて、次、行きましょう!」
その後も順調に買い物を続けた
佐々木さんの荷物はどんどん増えていった
「佐々木さん、大丈夫ですか?」
「だいじょーぶ!これくらいへっちゃらです!」
「凄いですね。えーっと……。あっ、これで終わりですね!」
「そうですか…。」
何故か佐々木さんの表情が暗くなったように見えた
―何か欲しい物でもあったのかな?
「何か買い残しでもありましたか?」
「いえ!問題ないです。じゃあ、戻りましょうか」
「はい」
そうして、私達は出口に向かおうとした瞬間、佐々木さんは誰かにぶつかられた
衝撃からか、佐々木さんは倒れた
「佐々木さん!大丈夫ですか!?」
「いてて……。はい、何とか」
ぶつかった方に目を向けると、いかにもとという風貌の不良二人組が立っていた
片方はわざとらしく腕を押さえ、もう片方はこちらを睨みつけていた
「うわぁーー!いてーーー!!ちょーいてーよ!!」
「おいおい、お前ら、ウチの相棒に何怪我させてんだよ!?」
「怪我って……!貴方達からぶつかっておいて、何言ってるんですか!?」
「はぁ!?ふざけたこと言ってんじゃねぇぞこのガキ!!」
片方が威圧してくる
深海棲艦とは違った、変な恐怖が体を駆け巡った
「おい見ろよ。こいつ、眼帯なんかしてるぞ?カッコイイとでも思ってるじゃねぇの?」
「これは深海棲艦と戦ってうけた傷です!!そんなんじゃありません!!」
「はぁ!?お前、あの艦娘って奴なのか!?おいおい、嘘だろ!?」
「テメェみたいなお子様が、あんな風に戦えるわけねぇだろ!!ただのカッコ付けだろ!」
「いわゆる、(厨二)って奴だろ!?自分が特別な人間と思い込んでる、痛いアレだろ!?」
「私は…そんなんじゃありません!!」
怒りが湧き上がる。しかし、それと同時に何故か悔しさが溢れてきた
海上では化物と戦う戦士だが、装備がなければただの人間
それを、バカにされたような気がして、悔しくてたまらなかった
思わず、頬を涙が伝った
「おいこいつ泣いてるぞ!!だっせー!!」
「ぎゃははは!!本当だ!泣いてやがる!!」
「黙れぇぇ!!!」
その時、不良の一人が吹っ飛んだ
佐々木さんが、一人を殴ったのだ
「磯波さんはお前らみたいな人間が、馬鹿にしていい人じゃないんだよ!!」
「やりやがったな!!」
「殺してやる!!」
二人が走ってくる瞬間、何故か不良は動きを止めた
「な…何だコイツ!?」
「これ…本物のナイフじゃ!?」
目の前に、見知った顔が居た
「これ以上、この子達を馬鹿にするような事をしたら………。このナイフの試し切りの犠牲となって貰いますよ?」
その近くにいた人間全員が、顔面蒼白になった
無論、私達もだ
「ひ、ひいい!!!」
「に、逃げろ!!」
不良たちは、慌てふためいて逃げ去った
「鳳翔…こえーよ」
「あら、そうですか?私はまだ本気を出してませんよ?」
その後に、人ごみの中から提督が現れた
提督も顔面蒼白だった
「提督!?なんでここに?」
「間宮の人が追加で、ってことで来た」
「それで、貴女達を見つけたら…。また変なのに絡まれて…」
鳳翔さんが呆れ顔になる
私達はバツが悪くなった
「まぁ、怪我がなくて良かったな。さ、帰るぞ」
「は、はい」
「……佐々木さん、今からこれで磯波さんにジュースでも買ってあげなさい。先に待ってるわ」
「え……」
「鳳翔、どうゆうこ「提督は先に行きましょうか?」……はい」
提督はその後、渋々先に行った
提督の弱いところを見たのは初めてだった
私達は休憩スペースに移動して、ジュースを飲んでいた
大分落ち着きを取り戻してきた
「磯波さん、大丈夫ですか?」
「えぇ、はい…」
「………磯波さんは立派な人です。」
「え?」
唐突に佐々木さんは真面目な顔になった
私は少し、ビックリした
「あんな化け物と戦っている磯波さんは立派です。ですから、あんな奴らの言葉、気にしなくて良いんです」
「……………」
「また、あんな事をいう奴がいたら僕に言って下さい。いつでも助けに行きますから」
佐々木さんの顔は今までより男らしく、格好よく見えた
私は心に安心感を覚えた
「佐々木さん……」
「…すいません、出過ぎました。さぁ、行きましょう」
「あ、缶は私は捨てておきます。先に行ってて下さい」
「そうですか?じゃあ、お願いします。何かあったら呼んで下さい」
そう言って佐々木さんは先に提督の所に向かった
私は佐々木さんが見えなくなったのを確認して
そっと、佐々木さんの空き缶に、口づけをした
私は顔を赤いのを隠しながら、缶を静かに捨て、佐々木さんを追いかけた
「甘いですね……とっても」
「そうだが……盗み見は良くないぞ」
近くに居た誰かの意識には、私は気付かなかった
私達は磯波達と合流し、鎮守府に戻った
艦娘が挨拶にくる数分前にギリギリに着いた
部屋に入ると、見たことない艦娘達が並んでいた
「司令官!遅いですよ!!」
「済まない、遅くなった。これで全員か?」
「はい」
私は気を取り直し、並んでいる艦娘達の前に立ち、見回した
それぞれ様々な装備を持ち、しっかりこちらに注目していた
中でも戦艦の二人の装備は一際目立っていた
「遅くなったのは済まない。私が黒崎鎮守府の司令、上島だ。よろしく頼む。じゃあ、右の方から紹介を」
「扶桑型戦艦、扶桑です。本名は初国 空[ハツクニ ソラ]と言います。よろしくお願いします」
扶桑を操っている女性は美しい立ち振る舞いをしているもののどこか儚げな印象を醸し出していた
「扶桑型戦艦、山城です。本名は初国 海[ハツクニ ウミ]です。姉さま共々お願いします」
山城は扶桑と非常に似ていた。名前から見る限り、歳の近い姉妹なのだろう
「初春型ネームシップ、初春じゃ。春野 菊[ハルノ キク]と申す。よろしく頼むぞ」
少し昔風味に話す少女は手持ちの扇子を仰ぎながら答えた
「初春型四番艦、初霜です。霜田 理沙[シモダ リサ]です。これから頑張りたいと思います」
見た限りでは一番真面目そうに見え、駆逐艦の中では最も期待が出来るように見えた
「あ、綾波型駆逐艦、潮…です。……潮見 愛[シオミ アイ]。……よ、よろしくお願いします」
潮は何かオドオドしているように感じれた。その様子はまるで小動物みたいなものだった
「綾波型、曙よ。日比野 芽衣[ヒビノ メイ]。よろしく頼むわ」
戦艦を差し置いて、何故かタメ口で答えた。
顔も何か攻撃的な目をしていた
こうして、新しい人員が黒崎に補充された
「全員終わったな。これから君達はこの鎮守府の仲間だ。困ったら仲間を頼ってくれ。良いな?」
「はい!」
「よろしい。では………吹雪」
「はい。じゃあこれから鎮守府内を簡単に案内します。私に着いて来て下さい」
そうして艦娘達は全員部屋を出て行った
それを確認し、私は机の上の書類を見る
その書類は親睦会の事など全て忘れさせられる事が書いてあった
「早過ぎる……!!」
書類には、[北方海域奪取作戦]と書かれていた
「十分な訓練すらさせてくれないのか、司令部は……!?」
私は海に目を向ける
海は気づかぬ内に荒れ始めの兆候を見せていた
―1400
私は新しく配属された六人を海の近くに並ばせた。艦娘達には何も伝えていないからか、皆キョトンとしていた
集まってもらったのは勿論、実力を見極めるためだ。
戦艦の二人はその意図を読んでいるのか、駆逐艦と違い、真顔で静かに立っていた
「今から君たちの実力を見してもらう。出撃の準備!」
「えっ!?」
一部の艦娘は状況を理解出来ていないのか、言葉に反応をしなかった
「装備は工廠にある。早くしろ!!」
艦娘は慌てて自分の装備を取りに走った
そうして配属早々、テストが始めらた
テストは簡単で、動いている的を砲撃で破壊するだけというものだった
言葉では単純だが、実際やってみると難しく、完璧に出来るまでは数ヶ月から一年かかるとも言われていた
私が的を海に流している内に全員が装備の準備を終えた
数分後、全員が装備を用意し並んだ
曙や初春は少し不満そうな顔をしていた
「提督、何をすれば良いのでしょうか?」
「簡単な事だ。あの的を破壊するだけだ」
私は海を指差す
しかし、その先に的なんて無かった
「何を言っているのじゃ?的なんて何処にも…」
「あの遥か先、にだ」
「遥か先って……!!見えないじゃない!いきなり何なのよコレ!!」
一気に曙と初春が騒ぐ
普段から気の強い奴ほど、こういう時に文句を言うのは知っていた
だが、当然やる気にさせる事も知っている
「そうか、二人は出来ないのか」
「なっ!!」
「じゃあ下がっていいぞ。残りは出撃準備を―
「やらないとは言ってないわよクソ提督!!」
「舐められたものじゃ、とくと見ておけ!!」
二人は怒鳴るや否や、瞬時に海上に飛び出しそのまま一直線に行き去った
「ちょっと!初春!!」
「あ、曙ちゃん!!置いていかないで~!!」
二人の行動を見て慌てて残りの駆逐艦娘達も海に出て動き出した
「では提督、また後で」
「行きましょうか、山城」
それらを横目に見ながら、戦艦のふたりはゆっくり海に出た
そして慌てることなく、静かに的に向かって走り出した
「戦艦二人はアタリか……?」
今までを見る限りでは扶桑、山城は落ち着きもあり期待が持てそうな雰囲気を醸し出していた
駆逐艦は吹雪達に比べれば、まだ発展途上に感じられた
「まぁ、まだ分からんか…。」
直後、吹雪が慌ててこちらに向かってきた
何やら紙を持っていた
「提督!!大変です!!」
「どうした?」
「近海の漁船が沈没したという連絡が!!」
「深海棲艦か!!」
「おそらく……」
「場所は!?」
「ここより北東へ数十km先付近です」
私は的を流した方向を見る
方向は間違いなく北東に向いていた
「まずい!総員出撃準備!!」
「え?は、はい!!」
吹雪はそれを伝えるため、鎮守府に戻っていった
的は自立稼動をしており、常識的な速度でコースを動き回る
つまり、下手をすると的が深海棲艦とぶつかり、それを追ってきた6人と鉢合わせになるかもしれない
私は嫌な予感に襲われた
十数分後、全員が工廠に集まった
自体は急を要していたので、会議を手っ取り早く行うためだった
「時間が惜しいから簡単に済ます。先ほど、配属された六人を訓練に出した所、訓練場所近くに深海棲艦の出現を確認された。おまけに彼女達とは通信が取れない」
「………危険ですね。下手をすると強襲され、全滅もありえます」
「あぁ。そこで急遽お前達に出てもらう事となった。しかし、厳しい戦いが予想される」
「何で?」
今までの経験で大分なれたのか皐月は、深海棲艦と聞いても驚かなくなっていた
磯波も同様だった。しかし、吹雪は知っていたからか、不安そうな表情をしていた
「…敵に、戦艦ル級を確認した」
「戦艦…!!」
戦艦は当然、味方にいれば心強い仲間だ
しかし、それは敵も然り
ル級は深海棲艦の中でも屈指の戦闘力を誇る。
その力は凄まじく、駆逐艦なんかが直撃弾をくらったらひとたまりもなく、その砲撃の危険度は極めて高い
「だから、今まで戦ってきたお前たちじゃないと倒せないんだ」
「………」
「危険だとは思うが……。頼んだぞ!!」
「はい!」
その後すぐに、艦娘達は整備された艤装を装備し、出撃準備は完了した
「総員、準備は良いですか?」
「はい!!」
「では……第一戦隊!出撃!!!」
鳳翔の掛け声と共に、第一戦隊は出撃した
―――――――――――――――――――
海に出て、結構経った
もう数十分は航行しているのに、的どころか物一つさえ見えなかった
「ほ、ほんとに……こっちで合ってるんでしょうか?」
「提督が指差した方向はこっちで合ってるはずなんだけど…」
今私は、二人で航行を続けてる
潮ちゃんは海に出てからずっとオドオドしているだけでなく、恐怖からか私の裾を掴んで離さなかった
おかげで、大分前の二人から離されてしまった
「ね、ねぇ、潮ちゃん。そろそろ……」
その言葉に潮は涙目になりながら全力で首を横に振る
その仕草に私は離れることを諦めた
結局その後もノロノロと航行していると、何か黒い物体と、初春達が見えた
「あの二人、的を攻撃しているのかな?」
「………待って、こっちに何か…………魚雷!?」
「えっ!?」
海中にこちらに向かって来る魚雷が見えた
それを見て私達は咄嗟にそれを回避した
「何で魚雷が!?」
「イタズラ…じゃなさそうね」
雷跡の発射先を見る
それは黒い物体に繋がっていた
「まさか…。深海棲艦……!?」
―だとすれば、あの二人が危ない
そう感じた私は、機関をフル稼働させ、二人のもとへ向かおうとした
しかし、速度が出なかった
「い、行きたくない……!!」
「潮ちゃん……!!」
彼女が裾を離してくれず、動けなかった
潮の顔は顔面蒼白という言葉がピッタリはまるような表情をしていた
「あんな化け物……!無理だって!!死んじゃうよ!」
私は潮を真っ直ぐ見る
そして、思った言葉をぶちまけた
「仲間が死んでも良いの!?救える命を見捨てるの!?」
「………それは」
「私は戦う。怖いけど、仲間を失うほうが怖いから」
「……………初霜ちゃん」
「じゃあね、潮。」
私は、二人のもとへ向かった
―――――――――――――――
初霜ちゃんが離れてから、少し経った
彼女も戦列に加わり、砲撃戦を行っていた
「でも……でも………!!」
怖い。死にたくない。戦いたくない。
だから、私は逃げる
そんな自分勝手な思考が、頭の中を包んだ
でも少しだけ、少しだけ残っていた
私の中の勇気が、さっきの言葉で目覚めさせられた
私は
「私は……。私は………!!!」
仲間を守りたい
思いは体を動かし、全速力で敵に向かった
深海棲艦の真横を取り、突っ込んだ
「潮!バカ!!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴にも似た叫びは、砲撃音と共に響き渡った
砲弾は全て、敵駆逐艦を貫いていた
砲弾を撃ち尽くす頃には、敵はもう沈んでいた
「はぁ、はぁ…」
意識がしっかりと戻ってくる
砲弾を直撃させた艦が居ない事にようやく気づいた
「潮!危ない!!」
「え…?」
そのため、後ろに構えていた敵駆逐艦に気づかなかった
敵は砲口を真っ直ぐこちらに向けていた
「くらえっ!!!」
しかし、初霜ちゃんがはなった魚雷が直撃し、その敵駆逐艦は海に消えていった
私は初霜ちゃんの方を見る。初霜ちゃんは笑顔で親指を立てていた
私もそれに応じ、笑顔で親指を立てた
「気を抜くでない!まだ来るぞよ!!」
初春ちゃんの言葉を聞き、辺りを見回す
すでに周囲は数体の駆逐艦に囲まれていた
「中々数が多いわね…!」
「……曙、右舷の方は任せる。左舷は私と初霜に任せよ!!」
「分かったわ!潮!アンタの命、私が預かる!!」
「う……うん!!」
「初霜!参るぞ!!」
「はい!!」
こうして私達は二つに分かれた
曙ちゃんが猛スピードで突っ込んでくるのに気づいたのか、敵集団の先頭に居た敵駆逐艦の一隻がこちらに砲撃を行ってきた
「邪魔よ!!」
「あ、当たって下さい!!」
私達はそれに向かって雷撃を敢行した
発射された魚雷は敵に直撃し、爆発を起こし沈んでいった
それだけでなく、当たらなかった一部の魚雷が後続の駆逐艦に直撃
爆発に数体を巻き込み、数を一気に減らせることが出来た
「や、やった!!」
「……まずい!回避!!」
「え?」
直後、私の身体は鈍い痛みに襲われた
一瞬、何が起きたか分からなかった
同時に敵からも魚雷が発射されたのだ
いち早く気づいた曙ちゃんは上手く避けたものの、私は直撃をくらい戦闘不可能にまで持ってかれた
「潮!!無事なの!?」
「ごめん……。戦うのはちょっと…無理っぽい……。うっ!!」
痛みは引かず、意識を持って行かれそうになる
しかし、最後の意地が私を倒れさせはしなかった
――――――――――――――
潮の状態を確認し、直ぐ様敵の軍団に目を向ける
潮を討ち損なったからか、再び魚雷発射態勢に入っていた
私は込み上げる怒りを魚雷と砲弾に載せ、発射口を敵に向ける
「この………クソどもがぁぁぁぁ!!!!」
私は一気に残弾全てを発射する
駆逐艦言えど、一斉射の威力は凄まじく一気に敵の集団は大爆発を起こした
それを見て装備の状態を確認する
破損は無いものの、砲弾、魚雷は全て使い切っており、攻撃手段は残っていなかった
「くそ…これじゃあ、初春達の援護が……!」
「危ない!!」
「え!?」
一瞬の油断を敵は見逃さなかった
敵はまだ一艦残っていた。それがこちらに砲口を向けていたのだ
私はそれに気付かなかった
しかし、潮がそれに気づいたのだ
潮の声はしっかりと私に届き、私はそれに気付くことが出来た
「間に合ってぇぇ!!!」
潮が残りの力を振り絞って砲雷撃を行う
砲雷撃は成功し、敵は炎に包まれた
私は潮に助けられたのだ
「曙ちゃん、大丈夫?」
「……うん。ありがとう」
私は潮に肩を貸す
初春達の方を見ると既にあちらも敵を殲滅していた
「曙!潮!無事か!?」
「私はともかく、潮が…」
「大丈夫ですよ。ただ、速度が……」
「とりあえず、この海域から早く離脱を……」
初霜の言葉は遮られた
今、理解した。敵駆逐は囮だってことを
目の前に、軽空母ヌ級が現れた
それも三隻もだ
ヌ級はまだ攻撃をしてこなかった
どうやら予定より早く駆逐艦が殺られたらしく、艦載機の準備が終わってなかったようだ
「全艦撤退!!急げ!!」
初春が怒鳴る
私達はそれを聞き、すぐにその海域からの離脱を試みた
しかし、駆逐艦の速度は速いものの、空中を飛び回る艦載機から振り切ることなんて当然出来なかった
気がつけば敵艦爆による爆撃が周囲を取り囲んでいた
「対空戦闘!」
「は、はい!」
離脱は不可能と判断し手持ちの機銃で敵艦載機の破砕を試みる
だが、たった四隻の駆逐艦の対空戦闘など所詮陳腐なもの
爆撃はますます勢いを増した
「くっ……!これじゃあ……!」
「諦めるでない!!」
必死の反撃も無駄かと思われたとき、空中で三式弾が火を噴いた
その威力は高く、一気に数機の艦載機を撃ち落とした
「これは…!」
「遅くなってごめんなさい!戦列に参加します!!」
「主砲三式弾、全砲門斉射!!」
さらに三式弾が炸裂し、一気に敵艦爆は海に消えていった
三式弾の初謝された後方に扶桑姉妹の姿が見えた
これにより、戦況は一気に有利になった
「やった!これで爆撃が止む!」
「気を抜かないで。敵軽空母はまだ健在です」
そう、艦載機を操る母艦、軽母ヌ級はまだ存在していた
扶桑姉妹は三式弾から徹甲弾に主砲を装填し直した
しかし、敵ヌ級は艦載機を失ったからか、反転し艦隊から離れていった
「あいつら…!!」
「…艦隊、反転します」
「扶桑さん!?」
「潮ちゃんが大破している今、追撃に移るには不利。ムダに戦う必要はないわ」
「…了解しました」
「貴女達は先に行って。殿は私たちが努めるわ」
「はい」
駆逐艦たちを先行させる
ふとヌ級の逃げた方向に目を向ける
………何か、嫌な予感がした
気ままに艦これ