あぶく
なんで一緒に飲むことになったのか、未だにわかってはいない。それでも今、現時点で、私がこのつかみどころのないーーー俗に言えばクズかもしれないーーーそんな男と飲んでいるのは紛れもない事実である。誘ったのは私というのも、また事実で、こうしてこんなくだらないやけ酒に付き合ってくれるのは彼くらいだろう。別の人を裏切る形という別の事実もひっくるめて。
「気持ち悪いな、その関係」
「そうかしら…そうかもね」最愛の人が脳裏によぎって、泡立って消えていくのを感じながら、また酒を煽る。気持ち悪いという言葉にどんな意図があるのかは明確であった。グラスを置くとカラカラっと氷が音を立てて次の酒を知らせる。
「それでも、好きなの」
「だからそれが気持ち悪いんだよ」冷たく見える言葉も、この男にかかれば甘くも聞こえてしまう。この時点ですでにもう、酒に飲まれるのが早いのか、この手管に飲まれるのが早いのか、警戒するには遅すぎたのかもしれない。
そこからはとんとん拍子だった。まさか、という期待とこのまま飲まれたい期待とが入り混じって、遠くの方で睦言を聞きながら、アパートの一室へ入り、もつれるように倒れこんだ。すでに体力というより、気力の問題であった。最愛の人が何を考えているのかもはやわからずに、また喧嘩をして、どうでもよくなって、それで、それで、
「あんなやつのこと、今は忘れなよ」
ニタリ、という笑みが似合う、あの人からは程遠いほどに崩れた顔。不思議と、端正な顔とは重ならない。思い出せない。一夜限りなのか、ずっと続くのか。必然なのか偶然なのか。良いのか悪いのか。全てが泡立って安っぽい蛍光灯に上っていく。背徳の合図に私は静かにすすり泣いて、頷いた。
私は床に溶けて弾けて消えた。
あぶく
お酒って怖いですね。