その目に映るもの

盲目の男が、女の人の顔を抱え上げて、こう言った。

「わたしには君の目が見えるんだよ。
いつも、君の私に向ける視線を見えている。
その視線の、たとえどんなに小さな動きでも、私には感じ取れる。
私にまっすぐ向けて、
熱くなったり、暗くなったり、楽しそうに光ったり、冷静で強く訴えたり、
時に私の目を見てぼーとしたり、時に私の頬を見て微笑んだり……」

「わたしは、君の目のすべてを知っている。
君の目からは 温度や光、言葉や感情、全部感じとれる。
そのすべて感じたことから、私は何度も何度も 心の底に君の目を描いていた。
描いているうちに いつの間にか形が決まっていた。
君が私を見るたびに その形が私の目の前に浮かび、君の表情や感情のすべてを 私に教えてくれる。」

「私には君の目の何もかもが見えている、知っている。
隠しても偽っても無駄だ。
私には君の『真(まこと)』しか見えない。」

「私から目をそらすな。
君は自分の心に嘘をつくことはできないんだよ。」

その目に映るもの

その目に映るもの

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-26

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