詰みかけのゲームみたいな世界に迷い込んで2-1~2-15
2-1~2-15
†††2-1
黒いローブを身にまとった少女がスープをすすりながら言う。
「あなたはこれから私たちのレジスタンスに入るわけじゃない?ジョン?」
「ショウタな」
彼女の言葉にマントをまとった男が答える。
<だから僕たちは君の話が聞きたいんだよ、ジョン>
ローブの少女、ミリアの膝の上にちょこん、と乗っている黒猫が言う。
「ショウタだ。お前たち、俺の話をもっとよく聞こうか」
「そうなのよ。聞かせてよ、あなたの話」
「・・・・・・ミリア、俺の名前は?」
「ジョン」
「・・・・・・名字は?」
「サッキー」
「思いっきり間違ってんじゃねえか!話を聞く前にまず俺の名前を覚えろ!」
「ふう・・・・・・。あなたには一度きちんと話しておく必要がありそうね、ジョニー」
「ジョンだ!・・・・・・間違えた!ショウタだ!」
そこでミリアは丸々二呼吸は間を取って言った。
「この世界では本当の名前を知られてはいけないのよ!」
<なんだって、ミリア!>
黒猫が驚いた声を出す。
「ふふふ、あなたが知らないのも無理はないわ。これは魔術師の間の掟。猫のあなたは知らなくてもいいのよ」
「・・・・・・どういうことだ?」
なんだか聞くのもばからしい、とマントの男、サッキー・ジョン(坂井翔太)は思っていた。
「この世界では本当の名前を魔術師に知られてしまうと非常にまずいことになるのよ!」
<ど、どうなるんだい!ミリア!>
舌っ足らずな声で精一杯な緊迫感を持たせて黒猫、キティが聞く。
「・・・・・・恐ろしいことが起こるのよ」
サッキー・ジョン(坂井翔太)は黙ってスープをすすった。
「・・・・・・で、俺の名前は?」
「<サッキー・ジョン>」
「本当の名前は?」
「<サッキー・ジョン>」
「今の話はなんだったんだ」
「ああ。今の嘘だから」
「カミングアウト早っ」
<え、ミ、ミリア!どこからどこまでが嘘なんだい!>
「黒猫、お前はもう黙れ」
「ところでね、ジョン。今日はあなたの話をしてほしいのよ」
「話の方向を曲げすぎだろ。あとジョンじゃねえ、ショウタだ!」
<そうだね、ミリア。今日は新しい仲間、ジョンの話が聞きたいね>
「ジョンじゃねえ!あとお前はさっきの話はええんかい!」
<え、何の話?>
「もういい、この鳥頭」
「じゃあ、話してね、ジョン」
<面白い話を頼むよ、ジョン>
ジョンは怒る気力を失くした。
†††2-2
「まず俺はこの世界の人間じゃない」
俺の言葉にミリアとキティは驚いた顔をした。
「今朝、俺は元いた世界からこの世界へとなぜかやってきた。最初は夢だと思ってたんだが・・・・・・」
俺はミリアとキティの顔をよく見ていった。
「多分違うんだろうな」
「・・・・・・ここは夢の世界じゃないわよ。現実の世界」
<うん・・・・・・>
「・・・・・・本当に夢だったらよかったんだけど」
キティはうなずき、ミリアはちょっと下を見てぼそりとそう言った。
しかし、すぐにミリアは顔を上げた。
「この世界にきたきっかけは?」
「わからない。雪山を歩いてたんだ。そしたらこっちに来てた」
<雪山を?その格好でかい?>
黒猫キティが聞く。
「そうだよ。俺は・・・・・・あの山に死にに来てたんだ」
再びミリアとキティは絶句した。
「・・・・・・どうして?」
そう聞かれて翔太は二人の顔を見つめた。
言うべきかどうか迷っているようだった。
しばらくして翔太は口を開いた。
「あれは半年前のことだ」
†††
今日のおまけコーナー!
ジョン(翔太)「雪山を歩いてたらこっちに来てた・・・・・・」
キティ<・・・・・・雪山を?その格好でかい?>
ミリア「それはまた・・・・・・。大胆ね・・・・・・」
ジョン(翔太)「ああ、山の上に湖があると思ってたんだけどな・・・・・・」
ミリア「だからって・・・・・・」
キティ<海パン一丁は無いよ、ジョン!>
†††
ジョン(翔太)は露出狂?
次回はちょっとばかし重いよ!
†††2-3
「今日は俺の方が早かったな」
「今日だけよ!」
信号の向こう側に来た花蓮に俺は話しかけた。
「これで俺に偉そうに言えなくなったな」
「一回だけじゃないの!時計が鳴らなかっただけよ!」
もし、時計が壊れていなかったなら。
「俺と同じいいわけだな」
「一緒にしないでよ!」
もし、彼が昨日仕事をクビにならなかったなら。
「まだ変わらないのかしら」
「ちょっと長いな」
もし、彼が昨日の晩にやけ酒など飲んでいなかったなら。
「あっ、点滅した」
「・・・・・・おい、何してるんだ、危ないぞ。走ってわたるな」
「へーきよ!あんたを成敗してやるわ!」
もし、信号が変わらなかったなら。
「行くわよ!」
結果は変わっただろう。
†††2-4
「娘さんです」
俺は病室の外で医者が彼女の両親にそう言うのを聞いていた。
彼女の母親が泣き崩れた。父親は遺体に近づいておそらくは顔の白い布を取って確認したのだろう、そこで彼も泣いてしまった。
一人娘を亡くした親の悲痛な泣き声が聞こえてきて、俺はいたたまれなくなって廊下の向こうまで飲み物を買いに行った。だが、そこまで泣き声は聞こえてきた。
†††2-5
半年がたった。俺はあのショックから半分ほど立ち直っていた。しかし、今でもあのときのことを思い出すと心が締め付けられて何もできなくなる。
このままではいけない。もしもあいつが俺のことを見守ってくれているとしたらこれでは安心して成仏もできない。
そこで俺は踏ん切りをつけるべく、彼女に関する思い出の品を、もちろん捨てるわけではないが、整理することにした。
すると、出るわ出るわ。あいつとは小さい頃からの幼なじみだったから、その時間の分だけたくさんの思い出が出てきた。
写真や、あいつがくれたプレゼント、手紙に交換日記。挙げ句は一緒に見に行った映画の切符なんかも出てきた。
あふれでる思い出を涙を流しながら整理していく。不思議と気持ちも整理されるような気がした。
しかし、心の底では何かが違うような気がしていた。
そして、俺は一枚の写真を見つけた。ある時ゲームセンターで撮ったプリクラだ。『ずっと一緒!!』と書いてある。
これを見てビリッと電流が走った。
そうだ、俺はこのときはっきりと思ったんだった。生涯こいつの傍にいる、と。決意したはずだ。
なのに。
なのに。
俺はこの約束を忘れていた。
あろうことか目の前で彼女を死なせてしまった。
俺は・・・・・・。
このときの俺にはたった一つの答えが光明に見えた。花蓮は絶対に俺にそんなことをしてほしくない、と言うだろう。しかし、それでも俺は花蓮の傍にいたかった。
それだけだ。
†††2-6
「・・・・・・重いわよ。と言うよりも今のあんたの態度が軽いのよ。なんで今そんなに軽いの」
<そうだよ!不謹慎だよ!>
「いいんだよ。心変わりしたんだから」
俺はしゃあしゃあと肉を口に運びながら言った。
そこでミリアは杖の打撃を、キティは猫パンチを繰り出した。
効果は抜群だ!
「全く、昨日自殺しようとした人間の言葉とは思えないわね」
<見損なったよ!ジョン!>
「ぐはっ。てめえら、覚えてろよ・・・・・・!」
俺はそう叫ぶと、ため息を吐いた。
「俺は死ぬのが怖くなったんだよ!笑いたきゃ笑え!死んだ人間が恋しくなって死のうとしたけど、死ぬのが怖くなってやめにしたんだ!俺は・・・・・・」
そこまで一気にまくし立てて、俺は本当の怒りの矛先をごまかしていることに気づいた。。
俺が不謹慎だとか言ったミリアやキティなんかじゃない。
俺だ。
俺は俺に腹を立てているのだ。
死んで花蓮に会いたいと自殺を試み、怖じ気づき、いまだのうのうと生きながらえているこの体たらく。
「情けねえ人間なんだよ・・・・・・」
そんな言葉が自然と口をついて出た。
「・・・・・・死ぬのが怖いことの何がいけないのよ」
俺の言葉にミリアが静かに、しかし怒りさえも秘めた声で言う。
「死ぬのが怖いなんて当たり前よ。この国にいる人は皆その恐怖と戦ってるの。いつ魔物がやってきて、町を、家族を、滅茶苦茶にしていくのかわからない。不安でも毎日を今まで通り生きていくしかない。そんな私たちの気持ちが今日ここに来たあなたにわかる?あたしは、」
ミリアは立ち上がり、俺の目を見据えていった。
「あんたがまた死のうとしたり、死にたいとか言ったり、考えたりしたら、許さない」
俺はミリアの目を見た。真っ直ぐな目。一分たりとも曲がらない正しい目。俺は彼女の目によく似た目を知っている。とても懐かしい、恋しい目だ。同じように覚悟を持って毎日を生きる人間の目だ。
俺もミリアにならって立ち上がった。
ミリアは俺に道を示してくれている。
俺は彼女に俺の心を示さなければならない。
「・・・・・・わかった。俺はもうそんなことしない。二度と。誓うよ。そして一度は過ちを犯した償いとして、あいつに、花蓮に、恥じないよう、俺はこの国でこの国の人のために戦う。これ以上・・・・・・誰かが死ぬのを見ているだけなのはごめんだ」
「当然よ。あなたはもうレジスタンスの一員なんだから」
ミリアが手を差し出す。俺はその小さな手を握り返す。俺たちは強くうなずき合う。キティが握手した手に乗る。顔を洗う。あくびをする。俺がぱっと手を離す。キティが落ちる。キティが猫パンチを繰り出す!効果は抜群だ!
「はーあ、ばかね・・・・・・」
にゃにゃにゃにゃにゃー!と繰り出される猫パンチの連打でやられる俺の情けない姿を見て、ミリアはそうつぶやいた。
†††
今日のおまけコーナー!
「ブラックキャット・スラッシュ」
攻撃力:100
素早さ補正:+300
特殊効果:ジョンに対してのみ攻撃力+150
†††2-7
「おはよう」
「・・・・・・おはよう」
起きるとミリアはすでに片づけを終えており、キティと二人で俺の顔をのぞき込んでいた。正確には寝顔か。
「何してるんだ」
「面白い顔してるから、つい」
「・・・・・・失礼だろ?」
<そうだよ!ジョンに失礼だよ、ミリア!>
「お前もな!黒猫!」
「ジョン、今日は本部に行くわよ」
「ジョンじゃねえ・・・・・・ってお前今すごく大事なこと言わなかったか?」
「昨日言ってなかったかしら?」
「言ってた?」
<全くジョンはこれだから・・・・・・>
「うるさい黒猫。お前これからどこ行くか言ってみろ」
<魔王の城>
「わかった。お前はもう黙れ」
「そうよ、キティ。正解」
<やったあ!>
「本部って魔王の城なのか!?」
「キティがそこに行くと言うなら私は行くわ」
<ミリア!>
「キティ!」
飛びついてきたキティをミリアはがしっとキャッチ・アンド・ハグした。
「・・・・・・結局行き先はどこだよ」
俺の言葉にキティとの熱いハグを終えたミリアはこう言った。
「都よ」
†††
今日のおまけコーナー!
<・・・・・・>
「・・・・・・」
<・・・・・・>
「・・・・・・」
<・・・・・・ねえ、ミリア?>
「何、キティ?」
<いつまでジョンの顔を見てればいいの?>
「ジョンが起きるまでよ」
更新遅れちゃった、ごめんね!
†††2-8
「都に行くわよ、覚悟はいいかしら?」
「覚悟って・・・・・・。都はどんだけ危険なんだよ・・・・・・」
「生き馬も目を抜かれるようなところよ」
「じゃあ、キティは全身を持って行かれるな」
<都怖いよー!助けてミリア!>
「かわいそうに。誰にいじめられたの?」
<ジョン>
「まあひどい!私が今からやっつけてあげるわね!」
「ひどいのはお前たちだ・・・・・・」
俺は昨日買ったマントを羽織りながら言った。
「・・・・・・改めて聞くわ。準備はいい?」
「俺には何の荷物もない」
<僕もオッケー!>
「じゃあ、行くわよ!」
そう言うとミリアは右手に持った杖を上から下に切りおろした。
ミリアが切った空間に裂け目ができる。まるでファスナーを開けているようだ。
そしてその向こうはこことは違う所へとつながっている。そりゃもう昨日散々な目にあったから嫌と言うほど知っている。
「行きましょうか」
俺たちはその裂け目をくぐり抜けた。
†††
今日のおまけコーナー!
「ところで宿屋の代金は払ったのか?」
「~♪」
「・・・・・・払えよ!毎日を恐怖と戦いながら必死に生きてる人の宿で無銭飲食すんなよ!」
「うっさいわねえ。あんただけじゃもう帰れないでしょ」
「確信犯め!ごめんなさい宿屋の人!宿代ケチりました!」
俺は遙か彼方の空の下の宿屋の主人に謝った。
「・・・・・・本当は前払いだったりして」
「なんだとー!・・・・・・え、本当はどっちなの・・・・・・?」
「さあーね~」
「答えろよ!」
<仲いいね!>
「うっせえ黒猫!」
†††2-9
「これが都よ!」
「これが・・・・・・ってここ城外じゃん!」
俺、ミリア、キティの二人と一匹は巨大な城壁を外から見ることができる場所に立っていた。
「でもすごいな、これ・・・・・・!」
「でしょ」
その巨大さときたら、端から端まで見通せないほどだった。
まさに圧巻だった。
これなら相手がなんであろうと揺るぎもしないだろう。
俺が城壁を感心したように見ているとミリアは俺に向き直り、まじめな顔で言った。
「よく見ておいて。私たちの敵はこんな城壁を持つ城さえ一ヶ月足らずで落とすような連中なのよ」
「あ・・・・・・。そうか・・・・・・」
そうだ。魔物って奴はわずか五年でこの世界の七割を奪った連中なのだ。人間では何年かけても落とせないような城でも落としてきたにちがいない。
ミリアは城壁を端から端まで眺めて言った。
「・・・・・・この城も連中ならきっと落とすわ」
思えば俺はこのとき初めて敵の恐ろしさを認識したのかもしれない。
†††2-10
「さー入るわよー」
キティを肩に乗せてミリアが城壁から出ている橋に向かって、てけてけと歩き出した。橋は深く幅の広い堀をまたいでかかっている。堀は全て見ることはできないが城壁をぐるりと囲んでいるようだ。
橋を渡るときにのぞき込むと堀には川が流れていた。流れは結構速い。
「落ちちゃダメよ」
「あ、ああ・・・・・・」
<う、うん・・・・・・>
俺とキティはそろって似たような返事をした。
城門の中は人々がにぎやかに歩き回っている。買い物、仕事、ナンパ、・・・・・・目的は様々でとても滅びかけの世界とは思えないほどに活気がある。
門をくぐり抜けるとミリアはくるりと華麗に振り返り、言った。
「さて!じゃ、あたしは一度レジスタンスの本部に行くわ」
「え?」
「キティ、ジョンのこと見といてね。迷子になるといけないから」
<ラジャー!>
キティはミリアの肩から俺の肩へと器用に乗り移った。ちょっとすごい。
いやいやそうじゃなくて。
「俺も付いていけばいいだろ。なんでわざわざ別行動を・・・・・・」
「怖いの?」
「怖くねーよ!・・・・・・いや、やっぱちょっと怖いかも」
「あんたをいきなり本部に連れていくの、正直面倒なのよね」
「面倒だから置いていくのかよ!?」
「まあ、じきに迎えに行くからその辺ぶらついててよ」
<よろしくね!ジョン!>
「ショウタだ!」
かくして俺とキティだけで都をぶらつくこととなった。
「さすがに活気あるなー」
<都だしねー>
「武器とか売ってないな、食いモンとか服ばっかりだ」
<武器って・・・・・・。そんな危ないものその辺に売ってないよ>
「そりゃそうか」
<あ!見てよ、あの娘かわいい!>
「何!どこだ!?」
そんな感じで俺たちがぶらぶら、ぶらぶら、ぶらぶら・・・・・・しているとさすがに飽きてきた。というか腹が減った。
「お前金ある?」
<ないよ。猫にお金なんか期待しないでよ>
「弱ったな・・・・・・。金がないから飯も食えないぞ・・・・・・」
はあああぁぁぁ・・・・・・とキティと二人、空腹にため息をついて、とぼとぼと歩いていると、
「きゃっ」
なんか当たった。
†††
今日のおまけコーナー!
「さすがに活気あるなー」
「武器とか売ってないな、食いモンとか服ばっかりだ」
「そりゃそうか」
「何!どこだ!?」
・・・・・・町人たちから奇異の視線を送られるジョン。
まあ、猫に話しかけてればね。
†††
†††2-11
「きゃっ」
都の市場をぶらついているとなんか当たった。
ん、と下を見下ろすと髪の白い女の子がうずくまっていた。
白い髪に白いローブ。頭に輪っかがあって翼が生えてたら完全に天使だ。
「君、大丈夫?」
俺が心配して声をかけると、
「あ、歩くときはもっと気をつけて歩いてください・・・・・・」
天使はまだどこか痛むのか、声がいやにぎこちなかった。
「本当に大丈夫・・・・・・?」
「平気です。鳩尾に膝が当たったくらい・・・・・・」
全然大丈夫な事態じゃない。っていうか俺、この子に膝蹴りをかましたのか。
<ジョン!君って奴はいたいけな女の子になんてことを!>
「その言い方おかしくない?」
「・・・・・・?あなたは魔術師なのですか・・・・・・?」
天使は俺とキティの会話を不思議に思ったようだ。
ん?この子、キティの声が聞こえるのか?
「君こそ魔術師?」
「ええ。私も魔術師です。あなたも?」
「俺はわからないんだよ」
「わからないというと?」
俺はこの世界の人間じゃないんだよ、と言わずにおくかちょっと迷って
結局言うことにした。特に問題は無いだろう。
「俺元々この世界の人間じゃなくて、昨日来たばっかりだから」
「・・・・・・え?」
途端に天使の顔つきが変わる。
・・・・・・この世界の女の子、皆表情変わりすぎて怖い。
†††2-12
「昨日来た、と?」
「ああ」
「何時頃?」
「午前中、かな」
「どこに出てきました?」
「どこだっけ・・・・・・?南東の大陸の山の上・・・・・・?」
「ふむ・・・・・・」
白づくめの天使みたいな女の子は俺を質問責めにした後思案顔になった。
<なんだろうね?>
「さあ・・・・・・」
俺とキティがこそこそと話していると白天使は懐からでっかい角笛を取り出した。どのくらいでかいかというと、
「<でっか!>」
くらいでかい。明らかに天使の身長よりもでかい。どこに持ってたんだ、そんなん。
天使はその角笛をどん!と地面においてぶうおぉお~、と吹き鳴らした。
ざっざっざっざっ
ざっざっざっざっ
ざっざっざっざっ
・・・・・・
しばらくすると俺の周りを兵隊が取り囲んでいた。
「うおっ、ちょっ、待っ」
<僕は無関係だよー>
キティは逃げた!
「あっ!裏切り者!」
ジョンも逃げた!
しかし、兵隊に回り込まれてしまった!
「ふっふっふ、逃げられませんよ」
天使が悪役みたいな笑い方をする。でも似合ってなかった。
「さあ!みなさん!この人を連れてっちゃって下さい!」
天使が号令をかけるとうおー、と兵士たちは俺を胴上げみたいにしてかつぎ上げ、えっさほいさとどこかへと向かい始めた。
「うわー!キティ、ミリアー!助けてくれー・・・・・・」
俺の叫び声は都の市場へと消えていった。
†††
今日のおまけコーナー!
<・・・・・・なんてことがあったんだよー>
「あらまあ、大変ね」
<ジョンはどうするの?>
「そうね・・・・・・、ご飯を食べてから考えましょう」
<さんせー!>
†††2-13
場所:城の中、かなり深いところ
時刻:お昼時
状況:たくさんの兵士に囲まれてローブで白づくめの天使みたいな女の子に棒でつつかれてる
「なにこの状況!?」
「・・・・・・静かにして下さいよ」
突然叫びだした俺に白い天使が口をとがらせる。ついでに棒もぽいっと捨てる。要らないのかよ、それ。
「いやー、いきなりこんなマネしてすみません」
「・・・・・・とりあえずはこの状況を説明してくれ」
「そうですね・・・・・・。まあ、ちょっと聞いて下さい」
「・・・・・・わかったよ」
「ありがとうございます。実はですね、魔物が圧倒的に強いので勇者でも呼ぼうと王様がおっしゃられまして。そんなわけで、一昨日、我々は召喚魔法を行ったのですよ。異世界的なところからなんか出てこいー的な」
「なんかってなんだよ。適当だな」
「魔術なんてそんなもんです。・・・・・・まあ、効果は見られず失敗に終わりました」
「・・・・・・適当だからでは?」
「かもしれません。で、ダメだったかー、ははは、と笑っていたのですが」
「笑うなよ。反省して改善点を見いだせ。次に活かせ」
「手厳しいですね。じゃあ、今日は次のアイデアでも考えに市場をぶらつきに行ったことにしましょうか」
「・・・・・・本当は何しに市場へ?」
「食べ歩きです。そうして市場をぶらついてるとあなたに出会ったというわけです」
「俺が召喚された勇者だとでも?」
「そうです。っていうか、そうだったら私の手柄なので、そういうことにしておきました」
「過去形!?妙なところ仕事速くない!?」
「まあまあ」
白い髪の少女はひらひらと俺をなだめるように手を振る。
「・・・・・・ところでさあ」
「はい?」
「お前誰?」
俺は天使を指さしてそう言った。
†††2-14
「お前誰?」
俺が目の前の天使を指さしてそう言うと、
「私の名前のことですか?」
天使はそう聞き返した。
「そう」
きょとんと目を丸くした白い髪の少女の問いかけに俺はうなずいた。
「こほん。・・・・・・私はレイン・フィーラ・エストラルト・ジャベリン・イーラ・・・・・・・」
「ごめん。長くて覚えられない」
「私もです。途中から間違ってます」
「お前は覚えとけよ!」
「レイン・エストラルト。これは合ってたと思います。この国の大魔術師です」
「合ってたのそれだけなんだ・・・・・・」
「・・・・・・この国の大魔術師です」
「・・・・・・そこスルーしたの怒ってる?」
「少々。で、あなたは?」
「俺は坂井翔太だ」
「サッキー・ジョンですね。わかりました」
「なんで『サッキー・ジョン』を知ってるんだ!?」
「ジョンさんにはまず属性の適性検査を受けてもらいます」
「・・・・・・人の名前を間違って覚えてんじゃねーよ」
「いいですね、サッキーさん?」
「・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・はあ。もうジョンでいいかな・・・・・・」
「・・・・・・坂井翔太さん?」
「やっぱわざとか!?わざとなのか!?」
「属性・・・・・・、わかってます?」
「・・・・・・属性?」
名前の下りに夢中で気づかなかったが俺は属性の検査を受けるようだ。
「ままま。検査の前に軽く属性とか魔術についてレクチャーしておきましょうか」
†††
今日のおまけコーナー!
<ミリアー、その魚ちょーだーい!>
「しょうがないわねえ、キティは」
<ふぐふぐ・・・・・・。ありがとうミリア!そしてお魚さん!>
「えらいわねえ、キティ」
<ミリア、なんか忘れてない?>
「え?・・・・・・ああ!」
<思い出した?>
「本部から出るときに受付に置いてあるお菓子をもらうのを忘れてたわ」
<なんだってェ!そいつは聞き捨てならねェなァ!>
†††2-15
「魔術について何を知っていますか?」
「・・・・・・何も。ただ、瞬間移動したり、異性を幻惑させる魔術があることは知ってる」
「何ですか、その極端な知識は・・・・・・。まあ、それであなたがどうやって昨日の今日でここまで来れたのかはわかりました。瞬間移動ですね」
「そうだ」
「その瞬間移動の魔術師はミリア・ワッフルワインですか?」
「ミリアを知ってるのか?つーか、あいつの名字ってワッフルワインだったのか・・・・・・」
ワッフルワイン・・・・・・。なんかぴったりな感じもするがかなりへんてこな名前だな。
「やはりワッフルワインですか・・・・・・。瞬間移動と異性幻惑と聞けば彼女しか思い当たりません」
「瞬間移動はともかく異性幻惑でも有名なんだ・・・・・・」
「彼女の美貌とあの魔法の組み合わせは完璧ですからね。あなたも引っかかった口ですか?」
「引っかかったけど魔術にかかってはいないよ」
「なんですか、それは・・・・・・」
「ところであの魔術がかからないことってあるのか?」
「どんどん話が脱線していきますね・・・・・・。ありますよ。相手に想い人がいるときです。・・・・・・いるんですか、あなたにも?」
レインは少し意地悪そうな顔をして言う。男友達が彼女いるのかよ~、と聞くときのノリにちょっと似ている。
「・・・・・・ああ。いるよ」
ちょっと口調が苦々しくなった。
「そうですか。では・・・・・・」
そのとき、俺の隣の空間に穴があいた。何のことかは察しがつくだろう。
奴が来る!
†††
詰みかけのゲームみたいな世界に迷い込んで2-1~2-15