ちょっとした男の子と女の子の話
いつも騒いでる隣の奴の静かな雰囲気に気付き、香奈はさり気なく聞いた。
「どうしたの?元気ないみたいだけど。何かあった?」
それを聞いたとたん、無表情で黙り込んでいた彼がいきなり甘えた顔つきになって、可哀相な表情を作って彼女に近づく。
「香奈ちゃん~~」甘えるような声だった。だが、違和感やいやな感じはさせなかった。そのきれいとも言える整った顔の効力かもしれない。
香奈は力いっぱい込めて、両手で近づいてくる亮太の顔を拒んだ。
「痴漢顔をくっつくな!」
「うっ香奈ちゃんひどい~~」口では文句を言うものの、亮太はおとなしく離れた。
香奈は、こんな奴にかまった自分が悪いといわんばかりのいやな表情で彼を睨んだ。
「そういう香奈ちゃんこそ、元気がないみたいだけど。」そう言って亮太はまた顔を近づく。「いやなことなら聞くよ、俺。」
今度の亮太は前回以上な力を出していたらしい。香奈は両手で彼を止めないとふんだのか、いきなり彼の足を狙って一蹴りを入れた。
「うわっ!」亮太はしゃがみ込む。泣きそうな声を上げる。
「香奈ちゃん、痛いよ~~」
「プッ」二人の向こうに立っている二人の女子高生が思わず噴き出した。
この二人、なんか面白い。クールな女の人とお茶目でKYなイケメン。漫才コンビみたい。そう思ったのだろうか。
「うるさい!」彼女は不機嫌そうだった。「君に選択肢は二つのみ。一つ、君の事情を話せ。二つ、」彼女は少し間を置いて、強く亮太を睨み付けて言った。
「黙れ。」低い声だった。
さすがの亮太もチャラい表情をおさめた。
二人はそのまま黙り込んで、地下鉄の窓の外に目をやった。窓の外は真っ暗。ときどき広告が走馬灯のように映り出す。
突然、亮太が香奈の袖を小心に掴んだ。
香奈は動かない。
そして、亮太は悪いことをした子供みたいな、しかしどこか複雑な感情を混ぜた口調で、小さな声で言った。
「香奈ちゃん、すきだよ。」
香奈は相変わらず動かなかったが、目はすぐに彼のほうにやった。
だが彼は下を向いたまま、顔がよく見えない。
少し彼を見てから、香奈は視線を元に戻した。
地下鉄は走る。
風に紛れた雑音は耳の中で騒ぐ。
そして、香奈は、小さく、軽く、ため息をついた。
(20120603)
ちょっとした男の子と女の子の話