芽吹いて咲いて、儚い恋
青春、恋愛がテーマです
主要人物
・鈴木茉莉 (すずきまり)
・鈴木零 (すずきれい)
・鮎川浩輔 (あゆかわこうすけ)
・中岡早苗 (なかおかさなえ)
合唱部員
部長
・坂上和歌奈 (さかがみわかな)
副部長
・中里千沙 (なかざとちさ)
2年生
・海崎美弥 (かいざきみあ)
・鈴木零 (すずきれい)
・横山豺牙 (よこやまさいが)
1年生
・鮎川浩輔 (あゆかわこうすけ)
・泉沙紀 (いずみさき)
・鈴木茉莉 (すずきまり)
・高瀬祐也 (たかせゆうや)
・中岡早苗 (なかおかさなえ)
バス
・豺牙
・浩輔
テナー
・祐也
・零
アルト
・千沙
・美弥
メゾソプラノ
・沙紀
・早苗
ソプラノ
・茉莉
・和歌奈
プロローグ
春。
桜の季節。出会いの季節。別れの季節。恋の季節…。
やっぱり、最後のはナシ。だって、今まで一度も恋なんてなかったもの。クラスの男子とは、普通に仲が良かった。六年間、普通に接していた。私だけは。
五年生になったあたりから、女子で集まると誰が好きだの誰か付き合っている人がいるだの、恋の話ばかりしていた。
私はその話題になると男子の方へ逃げた。クラスで一番男子と仲が良かったのは、おそらく私だろう。
だけどそれは、裏目に出た。
女子の話を聞きさえしなければいいと考えていた私は、馬鹿だった。クラスの女子は、私に手紙をたくさん渡すようになった。「お願い茉莉ちゃん。この手紙、○○くんに渡してくれない?」といった具合に。
別にそれで私が損することはないので、ひきうけていた。
いつでも、人の恋を応援していた。自分は恋をすることに何の感情も抱いていなかった。
六年生になると、男子のグループにもいられなくなった。
彼らは何をどこで間違ったのか、私に告白をするようになった。自慢ではないんだけど。
私は学校に行くのを拒むようになった。学校でも誰とも話さず、一人で過ごしていた。
そんな私に、恋の季節などという言葉はない。
この間までは、そう思っていた。
今から一週間ぐらい前だっただろうか。幼馴染の美沙ちゃんに、恋の相談を聞かされた。
彼女の話は、クラスメイトの友達とは違った。本気なんだなって感じた。同時に、大切な人ができることは、いいことかもなと思った。
それが、私の恋への第一歩だったと、今はそう感じる。
新天地・中学生!
「鈴木茉莉!」
「はいっ!」
ここは、今日から私が過ごす教室。
中学生になると色々変わると聞いたけど、こんなに変わるなんて思っていなかった。学校の授業内容はもちろん、制服だし、部活動もあるし、なんだか生徒数が多いし(私の通っていた小学校が小さかっただけかも…)
クラスの雰囲気も悪くない。親友なんかができそうな予感までする。これが、出会いの春っていうのかな。
「では早速、自己紹介をしてもらうぞー。じゃあ鮎川からなー」
私のクラスは38人いて、私は出席番号10番。サ行なのに、10番。
鮎川君の自己紹介は、彼の性格がよくわかるものだった。
「鮎川浩輔っす!好きな食べ物は…肉!」
どっと笑いが起きた。元気な人だなぁ。体育会系かな?
「苦手な食べ物は…ピーマン!苦いよね、あれ」
誰かが「わかるー」と言った。鮎川君は「だよなー。もうほんっと嫌いでさ、入ってたら抜いて食べるくらい」と返した。
明るい人だな。面白いし。
「ってことで、よろしく!」
これで彼の自己紹介が終わった。
私は何を話そう。名前でしょ。あと、入りたい部活とか?鮎川君みたいな感じで、好きな食べ物とか言う?
あれこれ考えているうちに、どうやら私まで順番が回っていたようだ。
「次、鈴木!」
「へ?!は、はいぃぃっ!」
ガタッ
はははは…。しょっぱなからこれなんて…。変な子だって思われないようにしなきゃ。
「す、鈴木っんんっ。鈴木茉莉で…す!えと…放送部とか、文化系の部活に入ろうと思ってます。よ、よろしくお願いしますっ!!」
か…。噛んだー!!最悪だ。初日からこんな…。しかもみんな、笑ってる…?
気を極限まで落として座った。
まだこれからだ。この最悪を上回る最悪はないだろう。気をしっかり持って、前向きにね!よしっ!頑張ろう。
春は、いろんなことがおこる。私にはこれからの出会いを知る良しもなかった。
友達
「鈴木さん?」
ホームルームのあと、1時間目が始まる前に私は話しかけられた。
「えっと…」
「中岡早苗です」
笑顔で彼女が言う。
「中岡さん、よろしくお願いします」
すると彼女は笑って
「早苗でいいよー。ね、茉莉って呼んでいい?」
と言った。友達になろう、ということだろうか?相手が呼び捨てだったら私も呼び捨てでいいのだろうか…?
「えっと…早苗?で、いいのかな?何か私に用事あったの?」
「ん?あぁ、そう!茉莉、文科系の部活に入りたいって言ってたじゃん?部活のお誘いしようと思って。茉莉、私と一緒に合唱部入らない?」
合唱部…?私、歌ちょっと苦手なんだけどな。
「えっと、私、歌下手だし、他の人誘ってみたら?」
笑って言った…つもりだが、大丈夫だろうか。傷つけるような発言をしないように気をつけなければ。
早苗は一瞬困ったような顔をした。しかしすぐ笑顔になって、くるりと右を向いた。
右の席、それは、鮎川浩輔の席だった。
「浩輔、合唱部入らない?」
初対面だと言うのに、随分としたしげな話しかけ方だ。それに、鮎川くんはどちらかというと体育会系だ。文化部である合唱部に入ってくれるわけがない。
「早苗、鈴木さんも入るの?」
「えっと…歌は下手って言われちゃって」
「鈴木さん、あーって言ってみて」
いきなりだったこともあって、素直に言うことを聞いた。
「えと…あー」
こんなこと、なんの意味があってしているのだろう。それに、さっきは気にしなかったけど、よく考えてみれば、鮎川くんは中岡さんのことを早苗って…。
「あの、これ、何のために…」
「鈴木さん、合唱部に入りなよ。歌、下手じゃないよ」
顔いっぱいの笑顔でそう宣言された私は、半ば正気を失っていた。早苗までもこちらを向いてうん、うんと首を縦に振っている。
「はい、これ、入部届け!!今日合唱部の練習見に行こう。私、3人で合唱部入りたい!」
「3人って…?」
「私でしょー、茉莉でしょ、あと浩輔!」
また言った…。もしかして2人は同小だったり?
「ね、ねぇ早苗。鮎川くんとは小学校からの知り合いか…何か?」
「うん!幼馴染だよっ!!!」
同小以上の関係だった。なるほど、道理で親しげなわけだ。
「じゃあ放課後、音楽準備室集合な」
というわけで、初日から放課後に予定が入った私でした。
合唱部
時が飛んで、その日の放課後…。
「え、こんなのなの…?!」
驚愕の声をあげたのは、私、鈴木茉莉。では、その驚きの真実とは、一体何なのか。答えはこの合唱部にある。
「まさか、こんなことだとは思っていなかったわ…」
「あぁ、俺もだ。まさか、まさか合唱部が…こんな少人数だったなんて!!」
そう、合唱部といったら大人数だと思えば、おっとどっこい、2年生と3年生を合わせて5人。ソプラノ1人、アルト2人、テナー2人。
「ようこそ合唱部へ!私は合唱部部長の3年、坂上和歌奈です」
朗らかな声で私たちを迎えてくれたのは、本人の口からも言っているが、部長の坂上和歌奈さんだった。
「早速部員を紹介するわ。じゃ、3年からってことで…千沙ちゃんからどうぞ〜」
「え、あの、僕たちは…」と浩輔が何かいいたげな様子だったが、部長も部員も全く気付いていなかった。気づいていない振りだったのかもしれないけれど。
「3年の中里千沙です。一応副部長です」
「一応はいらないわよ〜。まったくもう。もうちょっと自分に自信を持たなきゃ!」
「ふふっ。楽しい部だね、茉莉ちゃん」と早苗がこそっと言ってきた。楽しそう…か。まぁ確かに、今まで見てきた部の中で、一番楽しそうだとは思った。
「ポジション?はアルトです」
中里さんの「ポジション?」にみんなが大笑い。私も、笑ってしまった。つられて、かもしれない。
「じゃあ、次はあたしですね」
と、ツインテールの女の子が言った。ツインテール、と言っても、なかなか特徴的な髪型だ。三つ編みが輪のようになってて、そこの付け根からツインテールをしているのだ。説明しにくい髪型だ。
「私は2年、海崎美弥。同じくアルトよ。よろしく」
芽吹いて咲いて、儚い恋