昭和の風

「はい はい こつち こっち」
おばさんたちは いつものように 子供たちの食べる ゆであがった
ばかりの子鰯を 砂浜に敷いたむしろにどっさりと大きなザルでうつしこんでくれます。
おやつもろくにない時代のことです、子供たちは砂浜にお行儀よくかしこまってむしろの周りに座って ふう ふう 息を吹きかけて あつ
あつの鰯を食べるのです、磯の香りがぷんとして自然の海水味の鰯はみんな大好きです、
この鰯を天日でから から になるまで干して 煮干しいりこ にするのです、おばさんたちはおやつもろくにない子供たちのために いつもこうして分け与えてくれるのです、
そして 茹で鰯を食べたあとは ラジオ体操をして 夏休みの朝が始まります、


10時ごろジープ が4~5台位い 土煙をあげながら連なって近くの町の基地から進駐軍のアメリカ兵が千鳥ヶ浜に海水浴に今日もきました、

パンパンガールを連れて ジープから チョコレート 乾パン ガム キャラメル 子供たちを見かけるとジープからまいてくれます。
元気な和江は、裸足で家から駆けだして めくりあげたスカートにひらったお菓子をかたっぱしから入れています、
「よっちゃん どくらいひろうたね」
「たつたのそれだけね」
和江はいつもの調子でスカートからあふれんばかりにひらった菓子を得意気な顔でいばっています、佳子は家の中で洗濯をしていた道子に キャラメルと 乾パンを一つづつポケットから出して
「大きい姉ちゃん これあげる」 とさしだした。
「よっちゃんの あるん?」
「うん あるよ 」 ポケットの中を開くようにして道子にみせて
にこっと笑って うれしそうに ぴょん ぴょん スキップするように
はねてみせた、
お昼 母が 亀吉と田んぼから帰ってきた和江は先ほどのアメリカ兵の話をご飯を食べながら二人に話していた、食事の後母は 
「佳子もひろうたんか?」 と聞いたので
「うん」と言うた。
「アメリカは日本の敵じゃ お父ちゃんもアメリカにやられたかもしれん なんぼう何でも はぁ帰ってもええ頃じゃ 今度からは、もう拾うちぁだめだよ」
佳子は 悲しくなって 涙ぐんでいました。 子供心にお菓子が食べられなくなることと、まだ見ぬ父恋しさと が同時に佳子の小さな胸をあつくしていました、




  

昭和の風 父恋し

道子は時々父[勇]の薄れ行く思い出を手繰り寄せるように 父を覚えていない和江や佳子に得意げに父の話しをしてくれた、
趣味が多く手先が器用でやさしくて、父の話を始めると日頃呑気で
ゆったりしている道子とまるで人が変わったように佳子には思えた、
ある日、母が田んぼに出かけた留守に
「よっちゃん 誰にも言うちゃあいけんよ、和ちゃんにも言うちゃぁいけんよ、 まもれる?。」
「うん まもるよ。」
「そんなら ついておいで」
そう言うと道子は、佳子が一度も上がったことのない二階へ佳子を連れて上がった、日頃から二階には「父ちゃんの大事な物がいっぱいあるから勝手に二階には上がらんように」と母がきつく言っていたので佳子はこの時初めて二階へ上がったのです、初めて見る二階の部屋は広くて大きな窓が南側と西側にあり、正面に大きな床の間があり北側の壁側にガラス扉の立派な本箱、椅子式の机と椅子、そして床の間には作りかけの木箱のようなものに赤 白 黒の線のようなものが 絡むようにその根元はハンダでつけた鉛でしつかり固定してありました、
「これ、なに?」
佳子はその木箱のにうな物を指さして道子に聞いた、
「これはね、お父ちゃんが戦争から帰ったら続きをつくるけぇ絶対にいろうちゃぁいけんよ、出来上がったら布団の中で寝たまんま映画が見られる機械でテレビちゅうもんになるんよ。」

昭和の風

昭和の風

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-24

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