近所のおばあさん

ラストで全て持っていきます。

 実家の近所に古い一軒家がありました。昔のアニメや映画なんかに出て来る、塀があって、瓦屋根がある家なのですが、そこに1人のおばあさんが住んでいました。
 名前はタエさんとおっしゃるそうなのですが、実名はわかりません。いつも家の前を掃除していらして、僕が通りかかると「おはよう」と声をかけてくださいました。声をかけてもらうと、僕も同じように「おはよう」と返す。出かける度に会うので、いつの間にか仲良しになっていました。

 この方の興味深いところは、色々な知恵を持っていることです。
 夏の、いつ頃だったかは忘れましたが、とても暑い日に、タエさんの家でジュースを戴いたことがありました。
 2人きりでいるとき、僕はいつも恥ずかしくなって自分から声をかけるということをしないのですが、せっかく仲良くなったのだし、何か話してみようと思い、話題をふってみたことがあるんです。

自分—いつも玄関を掃除してらっしゃいますよね。毎日続けてるんですか?

タエさん—そうですねぇ。玄関はお客さんが必ず通る場所でしょう? そこが汚れていたら、何だか嫌でしょう?

自分—ああ、そうですね。

タエさん—それにね、神様や仏様だって玄関からお家に入るのよ。泥棒みたいに家の裏口や窓から入り込む神様な
んて考えられないでしょう?

自分—まぁ、そうですね。

タエさん—そう。だからね、玄関は毎日綺麗にしておかなきゃ駄目なの。運気も下がっちゃうし、他の人達からの信頼もなくしてしまうのよ。

 僕は掃除が苦手な人間なので、今度からは自分もちゃんと掃除をしようと思います。

 また、タエさんに愚痴を聞いてもらうこともよくありました。血のつながりの無い、背中の曲がった若造の話を親身に聞いてくださるタエさん。本当にありがたかったです。

自分—天狗になる人ってどうですか?

タエさん—天狗?

自分—自慢して、更にこう、他人を貶したりする人のことです。

タエさん—ああ、そっちの天狗ね。そうねぇ、確かに良い気はしないわねぇ。

自分—やっぱりそうですか。

タエさん—でもね、他の人に対して『嫌だなぁ』って思う箇所って、自分も持っていたりするものなのよ。

自分—自分も?

タエさん—そうね、例えば、あなたも試験を受けたりするでしょう?

自分—はい。

タエさん—問題が解けるのは、あなたがその答えを導き出すための知識を持っていたからでしょう?

自分—ああ、そうですね。僕はあまり勉強しないで試験を受けたりしてたんですが。

タエさん—あらあら。……ね、自分がそれに対する知識とか経験とかを持っているから、「ああ、この問題はこういう風に解くんだ」っていう風にわかるのよ。それは勉強だけじゃなくて、生活でも同じなのよ。相手に対して「あ、きっとこの人は天狗だ」とか「多分この人は意地っ張りな人だ」って思うのは、きっと自分も同じ様な悪い点を持っているからだと思うの。

自分—あ、なるほど。

タエさん—人のふり見て我がふり直せって言うでしょう? 相手を見て悪い面が浮かび上がって来たら、それは自分に対する警告なの。だから、ただ相手を貶すんじゃなくって、自分も気をつけなきゃな、って思うことが大事なのよ。

 これまで僕は、自分自身と向き合うということをちゃんとやってこなかったような気がします。この日から、僕は考え方を変えました。いきなり180度変えるのはやっぱり難しいですが、ちょっとずつでも心を変えることが重要なのかな、と思います。

 他にもタエさんは色々なことを教えてくださいました。
 ここ最近、タエさんは玄関の前に立っていません。心配です。また会えれば良いのですが。
 もし再び会うことが出来たら、また色々なことを教えてもらおうと思います。その日が楽しみです。


*この物語はフィクションです。

近所のおばあさん

 最近よく当たる占いサイトで、自分自身と向き合う、対話することが必要だという文を読んだので、その一環としてこのシリーズを始めました。
 登場人物は自分以外架空の人物で、今回のタエさんもまた、自分の空想上の人物でございます。最初はネガティブな面を体現する人物を書こうと思ったのですが、心が苦しくなって来たので、座右の銘の本を通じて得た考えを体現した「タエさん」を登場させました。
 最後の一文。皆さん、本当にすいません。

近所のおばあさん

こんにちは、鵤牙之郷でございます。今日は、近所に住んでいたおばあさんについて書いてみようかな、と思います。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-23

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