無垢な君の
「声、出しなよ。」
目の前の彼は言った。
ぱらぱらと人の居る図書室は、悲鳴をあげればすぐに助かった。それを知ってて彼は私を捕らえ、私は声を潜める。
馬鹿だと思った。
私も、彼も。
本棚に抑えつけられた手が彼の指と交差する。
低い声が耳元で囁いて、誘うように吐息だけが重なる。
「なんで?」
「何、続きしてほしいんだ?」
「する度胸もないくせに。」
小さく笑うと、目を細めて笑う彼が横目に私を睨んだ。
「そんなこと言ってると、ほんとにヤッちゃうよ?」
「可哀相。」
「…なんだと?」
「悲しいの?」
ふっと息を呑んだ彼が、眉を潜めた。
そして影が覆いかぶさって、今度こそ唇が奪われる。息がしずらくなったうえに手首から離れた彼の冷たい指は、私の首に添えられて力が込められた。
少しずつ強く、苦しくなる。
すうっと空気が肺に入って思わず咳き込んだ時、背中を丸めて下を向く彼の顔は落ちた髪で見えなかった。
そっと手を延ばして髪に触れると、強い力で振り払われる。
「…っく……、」
小さな小さな嗚咽。彼が見せた苦しさも強がりも、私にはどうすることもできない。
私の心はもうあの人のものだから。
でも貴方が泣くから、崩れ落ちそうな彼にまた手を延ばした。
「悲しいね。」
ズルリと首から手が落ちた。
彼が崩れ落ちるのと同時に。
その白さが
俺を壊す
私は貴方のものにはなれないけど、貴方が悲しいなら慰めてあげる。
無垢な君の