現代のかくれんぼ
現代の寓話シリーズ、二作目。
あれから、二世紀にわたり私は鬼であり、彼はその姿を隠し続けた。長きにわたる闘争の果てに、たどり着いた真相。それは、忘却の淵に沈む彼の死であり、私にとっては取り返しのつかない時の喪失だった。
朧な記憶を辿ろう。境内の、公園とよぶにはあまりに粗末な空間は、小さなブランコと遊具の放置された砂場があり、そこで私と彼は友達になったのだ。
私が一人で、ブランコで遊んでいると、いつの間にか隣のブランコに知らない少年が乗っている。
「遊ぼうよ。」
けんぱ、なかおに、そしてかくれんぼ。彼処は二人だけの空間、覚めない夢だった。しかし、やがて辺りに夜の帳が降りる。静寂が二人を包んだ…。
「まるで、世界が終わってしまったような気がするよ。」
自分の声が遠くから聞こえた。
「そんなわけ…。君は…覚えているかな? 自分が何処から来て、両親はどんな人達かを。」
彼の声が、はっきりと聞こえる。
「わからない。両親がいたかどうかすらも…。ずっと此処にいたんだ。誰かが僕に此処で待つように言って、いなくなっちゃたから。でもいいんだ、君が来てくれた。」
白い月が高くなる。
辺りの杉林が、濃い闇に飲み込まれた。
境内を照す明かりだけの世界。
「かくれんぼをしようか。」
彼は悲しそうに、しかし断固とした口調でいった。
「さっきやったよ…。」
「違うよ。あれは君が隠れて僕が見つけただけさ。かくれんぼだから今度は、君が鬼。僕を見つけてくれよ。」
僕は、頷く。でも。言う前に彼が制止した。
「範囲はこの公園の外、君の世界の果てまでだ。何年かかっても見つけない限り終わらない事にしよう。
」
彼は、公園を出ようと、鳥居を潜る。
「また会える?」涙を必死に堪えながら叫ぶ。
「さあ、お前が会いに来てくれるんだから、お前次第じゃないか?」
彼は59年後に、殺された。
私はまだ鬼だ。結局会えず仕舞いだから。
あいつに言いたいことは山ほどあった。こっちに来てから散々だったから。
燦々と輝く忌まわしい太陽に、呟く。果たせなかった再会の時に、最初に、そしてずっと言いたかった言葉。
「ありがとう。」と。
現代のかくれんぼ
泣いた赤鬼に影響を受け、書きました。
彼の死は、自分なりの青鬼解釈です。