世にも奇妙な女の夢 第5夜 心の行方
世にも奇妙な女の夢 第5夜 心の行方
ストーリーテラー登場
現代では、心の病にかかる人が増えていると言われています。また、それに対して多くの治療法が行われています。
これから登場する1人の女性も、心の病を抱える青年の治療に付き添います。しかし、彼女は奇妙な世界に入ってしまうのです…。
「心の行方」
これは、アデルがいつか見た夢である。
昼下がりの緑の丘のふもとに、アデルとコンラッドが座っていた。時折吹いてくるそよ風が、オーデンセ出身の心理カウンセラーとオタワ出身の相談者の顔や体を撫でてきた。彼は周りを見わたすと、穏やかな調子で言った。
「ああ、何てのどかな景色なんだろう」
アデルも、優しい顔をして言った。
「本当にのどかね」
すると、コンラッドが右手で上のほうを示して言った。
「ミス・ニールセン、あっちを見て!」
彼の示した方向を見ると、5、6人の子どもたちが丘の上から元気いっぱいに駆け下りていた。この何ともほほ笑ましい光景を目にした彼女は、
「ふふっ、楽しそうね」
と言った。このとき、彼女は思った。コンラッドの回復は予想より早いかもしれないわ、と。
コンラッドは、大きく伸びをすると仰向けに寝転がり、目を閉じた。アデルは、気持ちよさそうな顔でうとうとしている彼に温かい眼差しを向けた。彼女の顔は、まるでわが子の寝顔を見つめる母親のそれのようであった。
「時よ、このまま止まって…」
彼女は小さくつぶやいた。相変わらず、そよ風が気持ちいい。
しばらくすると、コンラッドが目を覚ました。彼の目には、柔らかい表情のアデルが映った。彼も軽く笑った。
やがて2人は立ち上がると、歩き出した。歩いているうちに、街に入っていった。さすがに午後なだけあって人通りが多く、通行人の話し声があちらこちらから聞こえてきた。通りの左側を見ると、1軒のおしゃれなカフェがあった。そこの雰囲気のよさに惹かれたアデルは、コンラッドに話しかけた。
「コンラッド、このお店でティータイムはいかが?」
彼に承諾しない理由などなかった。
彼らはそこに入り、テラス席に座った。そこは街の景色や人々の姿を間近で見られる。コンラッドは、目の前を通り過ぎる人々をまじまじと見ていた。すると、彼の胃袋が叫んで空腹を訴えた。彼は恥ずかしそうな顔をして下を向くと、おなかを押さえた。そんな彼の有様を見たアデルは、くすっと笑って言った。
「何か注文しましょうか?」
コンラッドは控えめな笑顔で頷くと、メニューを開いた。
「そうだね、僕は…」
そのときだった。突然、1台の大型トラックがテラス席に突っ込んできた。 ― 不幸にも、それはコンラッドを直撃した ― アデルをはじめとする客たちは悲鳴を上げ、逃げ惑ったりその場で大泣きした。アデルは事故の衝撃で椅子もろとも後ろに倒れ込んで頭をぶつけたが意識はあり、痛そうに頭を押さえていた。
― しかし、コンラッドは衝突によって遠く高く飛ばされ、急降下して全身を強打した。
衝撃に続いて起こった煙で、彼女はしばらく目の前が見えなかったが、煙が晴れて視界がよくなると、彼女は両膝を震わせながら彼のもとへ向かった。
何とかそこに着き、彼女は頭を血で真っ赤に染めている彼を腕に抱いて揺さぶった。
「コンラッド、コンラッド、生きてる?」
彼はうっすらと目を開けてアデルの姿を見ると、小さく笑みを浮かべて言った。
「ミス・ニールセン…今度アナベルに会ったら、伝えてほしいんだ…。僕にこれほどすばらしいカウンセラーを紹介してくれた君は、間違って…なかっ…た…と…」
― 27歳の気象予報士は目を閉じると、がくんと頭を垂れた ―
「そんな、嫌よコンラッド…。嫌ーー!」
アデルの流した滝のような熱い涙が、静かになった彼の胸をしばし濡らした。
やがて彼女は涙目で空を見上げ、美しい声で「アメイジング・グレース」を歌った。
エピローグ
それぞれタイプの異なる女性たちが見た奇妙な夢の物語、いかがでしたか。
アデルとコンラッド以外の男女の現実での関係は、私にもわかりません。
しかし、各々の間に確かな愛があったことに間違いはありません。
彼女たちは今夜、どのような夢を見るのでしょうか…。
世にも奇妙な女の夢 第5夜 心の行方