世にも奇妙な女の夢 第4夜 14日の夜
世にも奇妙な女の夢 第4夜 14日の夜
これは、ジェーンがいつか見た夢である。
居酒屋からの帰り道、ジェーンは劇団員のルパートと2人で歩いていた。27歳のスタイリストは中型グラスの紹興酒を2杯も飲んだおかげで、1人ではまともに歩けない状態だった。真っ赤な顔で、彼女は言った。
「ありがとうルパート、送ってくれて」
「ふふっ、いいんだ。俺の家も君のと同じ方角だから」
言葉こそおとなしいが、心の中の彼は跳ね回っていた。
彼女は彼の両手を握り、彼を少しにらんで言った。
「もし何か変なまねしたら、あんたの体ぶっ壊してやるからね」
「おいおい、んな怖いこと言うなよ。俺、こう見えても理性はあるんだ」
それを聞いて、彼女はほっとしたように笑って言った。
「だったらいいけど」
そんな2人から100メートルほど離れた場所で、フード付きの黒いコートを着た1人の男が、何やら青い液体の入った注射器を手に彼女らを見つめていた。
その男に気付くことなく、2人は人気のない通りに入っていった。ジェーンはルパートに体をくっつけると、少し不安げに尋ねた。
「ねえルパート、本当にこっちの道でいいの?」
彼はうれしそうに驚くと、格好つけて答えた。
「ああ、俺はこの道をよく知ってる。夜は、見てのとおりだけどさ」
「そうなの」
彼らの50メートルほど後ろには、あの黒コートの男が、出っ歯をむき出して残虐な笑みを浮かべていた。
彼らは離れたところに、誰よりも血に飢えた男がいることにまだ気付いておらず、二つ目の角を左に曲がった。すると、ジェーンがさっきよりも不安になってルパートに尋ねた。
「ルパート、ちょっと、さっきよりも寒く感じない?」
「うーん、確かに。でも、もう10月半ばだし、夜も遅いし、こんなの普通さ」
「う、うん、それはそうよね」
どうやら、彼は背後に迫る危険を少しも感じていないようだった。
2人はまた少し歩くと、さらに暗い路地に入り込んだ。そこには、柄の悪い者たちの姿さえ見なかった。空から、青く輝く満月が危険な夜を照らしていた。
ジェーンは相変わらず不安な顔でルパートの顔をのぞき込んで言った。
「ちょっと、ルパート」
「ん?今度はどうした?」
「後ろに誰かいるような気がしない?」
「はははっ、意外と怖がり屋なんだな、ジェーンは」
彼女は不安げに下を向いた。
そのときであった。ルパートは後ろから何者かに口を塞がれた。あの黒コートだ!彼は被害者の首の付け根に注射針を刺し、青い液を注射した。 ― それは、有毒の液体であった ― 大きな口を開けて笑う殺人鬼の顔は、まさにこの世のものとは思えなかった。この身の毛もよだつ光景を見て、ジェーンは悲鳴を上げ、パートナーの名を呼んだ。
人間の皮をかぶったその魔物がルパートから手を離すと、哀れな被害者はうつ伏せに倒れ込んだ。彼女は涙目になってしゃがみ込むと
「嫌よルパート!死なないで、お願い!」
と叫びながら、虫の息の彼の体を必死で揺さぶった。しかし、彼にはこちらを向く力も、彼女に返事をする力さえも既になかった。ほどなく、彼の呼吸が止まった。
ジェーンは、大切な友人を殺した男を悲しみをたたえた目つきでにらみ、立ち上がって右手の拳を彼の目の前に勢いよく突き出した。しかし殺人鬼は彼女の拳を片手で受け止めると口を左右いっぱいに開け、あの残虐な笑顔でもう1人の標的を見つめた。彼女の体は死の恐怖に乗っ取られ、震えが止まらなかった。
― 彼女ののど元に、ルパートの息の根を止めた凶器が素早く打ち込まれた。
彼女は大きく目を開いて上を向いたかと思うと、すぐさま右に倒れ込み、そのまま目を閉じた。
― ルパート・シモンズとジェーン・トンプソン、ともに27歳だった。
魔物の化身ともいうべき黒コートの男はジェーンの頭がルパートの腰の上にくるように彼女の遺体を仰向けに置き、満足げに笑うと、次の獲物を求めて夜の闇に消えていった。14日の夜のことであった。
ストーリーテラー登場
男女2人で夜道を歩いてもこのような悲劇が起こるとは、物騒な世の中になったものです。しかし、私は怖くありません。なぜなら、彼の弱点を知っているからです。それは何かですって?それは…秘密です。
世にも奇妙な女の夢 第4夜 14日の夜