ぴんくのながぐつ

ぴんくのながぐつ

「あ〜あ、雨降らないかなぁ」
小学一年生の繭ちゃんは大人っぽくため息を零した。

繭ちゃんは新しいピンクの長靴を買って貰ったばかり。早く新品の長靴を履きたくて堪らない。
ピンクの長靴で水たまりに入って、バシャバシャビシャン、とやりたくてウズウズしていた。

毎日お母さんに明日雨降るかな?と聞くのが日課となっていたけれど、
「最近お天気続きだから、当分降らないんじゃない?」お母さんの返事は素っ気ないものだ。

こんな事ではいつ新品のピンクの長靴を履けるのか分かったものじゃない、と繭ちゃんは色々試してみた。お父さんに頼んで照る照る坊主を作って貰って逆さまに吊るしてみたり、寝る前には雨が降れーと雨乞いをしてみたり…

けれどなかなか雨は降らなかった。もうお天気の日に履いちゃおうかな、と悪魔の囁きが繭ちゃんを誘惑する。
けれど繭ちゃんは水たまりでバシャバシャビシャン、としたかったから、悪魔の誘惑にも耐えた。耐え忍んだ。

ピンクの長靴を買って貰ってから二週間。
学校が明日はお休みの週末に、「明日雨降るみたいだよ〜」呑気にそう言ったお母さんの言葉が繭ちゃんには神様の声の様に聞こえる。明日新しいピンクの長靴が履ける!その夜繭ちゃんは興奮してなかなか眠る事が出来なかった。夜中に雨の音が聞こえ始めてやっと、繭ちゃんは雨音を子守唄にして眠りに就けた。

翌日、お母さんに起こされて繭ちゃんは雨音の激しさにイヤな予感を感じた。
バケツをひっくり返した様な雨音に繭ちゃんはビビった。

「こんなに降ってたらお出掛けは無理だね…」お母さんの残酷な宣告に繭ちゃんは愕然とし、やだ!絶対新しいピンクの長靴履いてお出掛けするんだもん!必死で主張する繭ちゃんだったけれど、こんなに降ってたらびしょ濡れになって風邪ひくからダメ!とお母さんに敢え無く却下されてしまった。

繭ちゃんはガックリと項垂れて、「何その大袈裟なコントみたいなガッカリ感は」とお母さんとお父さんを笑わせた。

ぴんくのながぐつ

ぴんくのながぐつ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-16

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