乳母車を押しながら
カラン、コロコロコロ。
誰かの投げ捨てた空き缶の音で
今日も静かで、 冷たい夜がきた。
路地の暗い片隅のゴミや我楽多の間で、
寒さに凍り付きそうになりながら
古着に包まって 、みんな白い息吐いて、
いつもの場所で、黙って動かない。
「傍に止めた乳母車に、メアリーて書いて、
それで盗られないように・・・
紐で手首に結んで、眠るんだ。この中には、
要るものみんなあるんだ。
死んだ・・・妹の写真とか、
明日・・・向うの路地の青いごみ箱の横に居るトッドが
持ってる・・綺麗な模様のソーダの瓶と交換する、
雑誌とか・・・ 朝食べるクッキーの
残りとか、いろいろ入ってるから。
今夜はフライド・チキン、
通り縋りのひとがくれたの食べた。
もう、 しゃべるの・・・止めるよ
眠るから・・もう・・・ あっち行ってて。」
「いつも朝は、あの・・新聞売りの犬の声で、
眼が覚める。いきなりワワン!て吠えるから
それで・・・起きて乳母車押しながら、
舗道に落ちてるものや、
ごみ箱の中に手を・・・突っ込んで
いいものないか探して歩く。
早く行かないと他の誰かに取られて、
何も食べられないことも・・あるから。」
「あんた、付いて来ないで・・・
おせっかいは嫌い、
ほっといて・・・このままで・・いい、
このままで・・・。」
そう言い残して、また乳母車を押しながら、
ラッシュ・アワーの人混みの中に
ガラガラ、ゴトゴト消えてった。
乳母車を押しながら