塔の姫
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気長に待っていただけたら幸いです。
窓一つない部屋にその少女はいた。
全て白で統一された部屋には必要最低限の家具と一台の黒いピアノだけが置かれていた。少女はピアノの前に座り、手を添える。瞬間、部屋は淡く色づき始めた。
儚く悲しげなその音は少女の人生を暗示しているようだった。音は物語を紡ぎ、物語は終盤を迎える。
音は彼女の心を映して暗い影を落としていく。最後の音を弾いた刹那、ノックが鳴り響いた。訪問者は少女の返事も待たずにつかつかと入って来た。
「なんという歌ですか?」
使用人の女性が微笑みかける。少女は顔も見ずに淡々と「歌ってなんかいない」と言った。使用人は笑みを崩さず、続ける。
「いい歌ですね。なんというか、幸せそうなおだやかな音で。誰から教えてもらったんですか?」
「夢の中で男の子から教えてもらった」
少女の意外な答えに使用人は目を細めた。そしてイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「いいですよねー、お姫様は。私なんか朝から晩まで働きづめで夢の一つも見れないんですよー。本当、大人って嫌ですよねー」
皮肉ともとれる彼女の言葉。だが、そこに嫌味なんか含んでいないことを少女は知っている。彼女はいつもそうだ。ここに来ては少女を笑わすために笑顔を振りまいていく。そんな彼女の日課となりつつある行為を少女は無表情で受け流すのが日常となっていた。
だが、今日は違うことをしてみたくなった。
「どうして、あなたはわたしに関わろうとするの?」
なんとなく聞いてみた。きっと、ひまだったからだろう。
「みんなはわたしを気味悪がっている。わたしといてもメリットはないと思うけれど」
彼女は目を見開き、数秒、黙考した。
そして、彼女は曖昧な笑顔を作って、「それが、私の務めだからですよ」と目をそらした。
〝務め〟。仕事。ただ機械的に業務をこなしているだけ。そう言っている。
少女は興味がなさそうにそう、と呟いた。
塔の姫