小さな反逆者
意識の世界に囚われた「彼」
「彼」を救うため、彼女たちは動き出し、大きな物へと反旗を掲げる。
暇潰し程度に見てくれれば幸いです。
鎖色の町
鎖色の町。鎖で縛られたように窮屈で、冷たい温度が肌を包む町。
吐く息は白く、徐々に自分の体から体温が奪われて行くのがわかる。
この寒さはなんなんだろうか。
異常な寒さ、というほど寒くはないが、心の中を冷やしていくような寒さだ。
俺はそんな冷たい町を一人寂しく歩いていた。
高いビルが立ち並び、信号も無言で点滅を繰り返す。
人の声もせず、ただただ自分の足音が耳に響いた。
歩き始めて一時間ほど経つのだろうか、未だ生命体に会うことは出来ていない。
と言うか、まず事の発端は何で、これから俺はどうすべきなのか。
住みやすい家を見つけて食料の備蓄でもした方がいいのか…。
そう考えると、俺は人類最後の一人ときそういうのなのだろうか?だとしたらさっさと自殺するべきだろう、変に生き延びてもこの生きざまを評価してくれる人はいないだろうしな。
もちろん自殺なんかするわけもなく、ただただ歩き続ける俺である。
そして歩き続けて3時間は経過したであろう時、1つ気づいた事がある。
何かに監視されている。
視線を感じるとか、『なんつう気だ!!』とかそんな生ぬるいものじゃない。
明らかに俺の足音と、それに重なるもう1つの足音がある。
俺に話しかけるでもなく、ただ俺の後をつけている。
とりあえず悟られないように歩き続ける。
__刹那。
背中に違和感が走った。
痛みも、痒みもない。
なのに思いっきり脱力し、冷たいコンクリートに倒れこんだ。
そして、今まで空だった記憶に全ての記憶が巻き戻った。
「あぁ、思い出した…これで199回目だ」
恐らく自分のであろう赤い液体が、辺りを埋め尽くした。
ザ・普通女子
普通の女の子を頭に思い浮かべて欲しい。
可愛いスカートをはいてケータイ電話には可愛いストラップ、そして甘酸っぱい恋の話…。
私の姿を思い浮かべて欲しい。
スカートではなく男用のズボンをはき、ケータイ電話は持っていない、そして友達もいない。髪も寝癖が解けていない。
こんなのを女子というのだろうか。
ましてや女子中学生とあろう物が、嫌々ながらも男子の制服を着て学校に通っているなど世間に知れれば大変なことになる。
…こんな生活をしていてストレスが溜まらないわけがない。
私だってこんな格好じゃなく可愛いスカートをはいてきゃっきゃうふふと恋の話でもしたいのだ。
そしてこんな生活を続けて役二ヶ月…私に限界が訪れた。
「彼」の部屋のベッドにどっかりと横たわり、大の字で天井を見つめている私、影宮ほるるは疲れていた。
それはそうだ、わけもわからないまま変身能力を使い学校に放り込まれたのだ、期限は「彼」が目覚めるまでというほとんど卒業までに近いかも知れない。
とにかく疲れている。このまま名一杯寝てしまいたかった。
でもそれができれば疲れていない。やることがたくさんある。
学校から出た課題や小さい妹のご飯、風呂等だ…。考えただけで眠気が襲う。
とりあえず疲れの元である変身を解こう、じゃないと体力は削られるばかりだ。
深呼吸をし、目を閉じるとふっと体が軽くなる。やはり男の体は重い。
そして胸が膨らみ、ブレザーの下に着てるワイシャツが張る。
最近の悩みでもある胸、何故が膨らむ…。
普通の女子なら喜ぶのかもしれないが今の私には必要ない。母さんもよく「肩が凝る」といっていたし、若いのに大変だ。
するととんとんと部屋の薄い扉が叩かれた。
「ほるるんお疲れー!」
びっ!と敬礼しながら扉を開けたのは「彼」の姉である緑野ミナミだ。ツインテールが可愛い。
「あーはい…お疲れです」
「おや、元気ないねぇ」
「疲れちゃって…ははは」
するとミナミさんは元気な声で言った。
「じゃあ今日は私が料理とかするから、休んでて!」
嬉しい言葉だった。
体力をほぼ使ってしまった私にとって、なんと言うか目頭が熱くなる言葉だった。
「じゃあ…お言葉に甘えますね……」
私は言葉を伝えた瞬間眠りに落ちてしまった。
朦朧とする意識の中でミナミさんは優しく毛布をかけてくれた。私はそれが心地よくて、より深い眠りへと誘われた…。
目覚めたのは夜9時、真夜中だった。
寝ぼけた足取りでリビングへ向かうと、長髪で黒いジャージを着た女性が椅子に座っていた。
「母さん…」
その母さんの膝には猫のようにぐったりとしたミナミさんがいた…。
「…何してるの?」
「大人の遊びを教えてやったんだ」
なんだかよくわからないけど、やっぱりよくわからなかった。
「って言うかどうしたの?こんな時間に」
すると母さんは目を細めた。
「ちょっと…ヤボ用でな、コイツに用があった」
そう言いながらミナミさんの顎を撫でた。ミナミは気持ち良さそうに母さんの膝に頬擦りした。ホント何したんだろ…
「そろそろ事が動きそうだ、お前も用心しとけよ?」
そう言い残し、母さんは家を後にした…。ミナミさんは何かを思い出したように目を擦っていた。いやホント何されたの…?
未だ計画に過ぎず
「あんた…何者よ…っ!!」
金髪の少女は両手を手錠で塞がれながらも、歯を食い縛り、威嚇を続けている。
「質問してるのはこっちだ、私に協力するのか?しないのか?」
相変わらずリノはクールな声で少女の尋問を続けている。
「素性も知らない相手に協力も何もあるわけないじゃない!あんた頭おかしいんじゃないの!?」
少女は相当怒りにきてるようで、額に青筋を浮かべている。
それもそうだ、気絶させられ、目覚めたらわけもわからないままこの状態だ。かれこれ30分は経つ。
「…お前も強情だな。アイドル程度だからもう少し楽かと思ったが…」
アイドル?俺も初耳だった。
最近忙しくてテレビやら雑誌やらに目を向けている暇はなかったし…何より興味もない。
「アイドル舐めんなクソ女!!」
アイドルとしてその発言はどうなんだろうか…。
「…仕方ない、か。アヤ、外に出てろ。耳も塞げ。」
突如俺に降りかかった命令、多分俺が邪魔なんじゃなく男が邪魔なんだろう。
「あいよ、あまりやり過ぎんなよ」
そう言って冷たい扉を開け、外に出た。
もちろん聞き耳をたてたり覗いたりはしない。耳にイヤホンを突っ込みJポップを大音量で流す。
…3つ曲が流れた頃だろうか、部屋に入るよう指示が入った。イヤホンを仕舞って再度部屋にはいる。
「この変態!あたしの初めて返しなさいよ馬鹿あああ!!」
もはや泣き声だった。何をされたか、考えるのは野暮ったいので止そう。
「さて、協力するのか?しないのか?しないなら…」
リノは手に持っていたアイドル少女のタブレット機器を操作し始めた。
「この恥ずかしーい写真をお前のブログにアップしちゃうもんね、ファンは大喜びだな」
すると少女は「うぅ~」と唸った後、卑怯者!とリノを罵倒した。
「…明日までに決めておけ。アヤ、世話してやれ」
「…うぃーす」
正直断りたかったが、断ったら断ったで面倒なので受けることにした。
「えーっと…」
俺は少女にかける言葉もなく、ただ困惑していた。
「うぅ…お家に帰らせろ馬鹿ああああああ!!!うぁああああん!!」
…子供かよ。
俺は額に手を当て、項垂れた。
羊の少女
【お知らせ】
『霞原町にて大規模なテロ行為を行う事をここに記す。警察の諸君は念入りに準備をしておくように』
「……何です?このふざけた文は」
武将髭を生やした課長に手渡された「予告ぢょう」と書かれた紙を丸めて屑籠に放る。結果は入らず、縁に当たって落ちた。
「二年前、ニューヨークでテロが起きただろう?アリエスと呼ばれるテロリストたちがこの町に来るそうだ。」
真顔で説明する課長に俺はこう言った。
「あれですか。最近流行りの…お・も・て・な」
「いやいや、違うからね。」
すると課長年期の入った机からぶ厚い紙束を取り出した。
それを俺に押し付けるように渡す。
「君の追っている事件の被害者がそのアリエスにいるらしいんだ…羊の少女と呼ばれている」
「羊…」
俺は顔をしかめながら紙束を捲る。
「本来は公安の仕事なんだけどね、一応君に知らせた方がいいと思ったんだよ」
「なるほど…」
一通り読み終えると、それを机のドサっと置いた。
「用事思い出したんで、ちょっと出て来ます」
くるりと方向転換し、後ろ姿で手を振った。
自分の席の椅子にかけてあったジャケットを肩にかけ、俺は署を出た。
「……あのガキ共はどう動くか」
コード 【MDN-398】
「お前も強情だな」
『…………』
「やっぱりお兄ちゃんじゃないと嫌なのか?ん?」
『……………』
かれこれ数時間続いている。
反応のないパソコンとのやりとり、一体何の意味があり、どう結果が出るのかはわからないが、説得に成功すれば何らかの成果は得られるだろう。
「…お前が協力してくれれば、大好きなお兄ちゃんも帰ってくるのになぁ」
呆れながら柔らかいソファーから腰を剥がし、締め切った部屋を出た。
どうもあの部屋はいかんな、空気が重苦しい。
廊下を歩いていると、アイドルの説得をしていたアヤが歩いてくる。
「リノ」
「どうだ?」
「まぁ餌には食いついたよ…今はナズ……ベルと射撃場だ」
「わかった、ご苦労だったな」
「……おい、話がある」
珍しく呼び出され、私とアヤはロビーに居た。
重苦しい雰囲気の中、アヤがゆっくりと喋り始める。
「いい加減教えてくれてもいいんじゃねえか?俺らの目的を、お前の素性を」
少し沈黙が流れた後、私は口を開く。
「…悪いな、話は皆が揃ってからだ」
ほどなくして、射撃場から彼女らが戻ってきた。
さっきまでベソかいていたアイドルのツボミ、そして元傭兵のベルだ。
ツボミの表情は心なしか明るくなっていた。
「一応見たけど、悪くはないんじゃないかしら」
ベルがツボミの撫でながら言った。
「そうか」
背の低いツボミを見下すと一瞬目が合い、そしてすぐに反らされる。
「戦力にはなりそうだな。そろそろ飯にしようか」
「そうね」
ベルは相変わらずだったポーカーフェイスを少し崩し、口角をあげた。やはり誰でも飯は楽しみなものなのだろうか。
地下二階にある生活スペース、そこが私たちが寝泊まりする場所だ。現在はそこでアヤが飯を作っている頃だろうか…
ホルカが居ればもっと味がよくなるのだが、今は任務なので仕方ないか。
来訪者
209回。それは俺が死んだ回数だった。
死ぬ度に思い出す、人生が終わる恐怖。
相も変わらずこの町は鎖に巻かれていて、どれだけ歩こうと町は俺を離さなかった。
小さな反逆者