卒業

卒業

卒業

三月。世間は卒業シーズンである。
職場で卒業していく人たちへの卒業アルバムの作成のお手伝いをしているが、そういう自分も三月末で卒業である。

卒業式には様々なエピソードがあるが、一番強烈なのは大学の卒業式だ。
三月頭、卒業できない人間は大学側から電話があるらしいという情報は聞いていたが、単位だけは無駄に取得していた自分にはそれはないだろうと思っていた。
ただし、持っていないものがあった。内定だ。
無駄に取得した単位から端を発し、同じ大学ではあるが別の学部の大学院に進学することを決めたのはついひと月前のこと。駆け込みのぎりぎりセーフで四月からの行く先を決めることができた。
そんな自分が、ぐうたらしていた昼前のこと。突然携帯が鳴った。
「学生課です。卒業が決まりました。おめでとうございます」
「はあ、ありがとうございます」
「ところで、学部長推薦なのですが、卒業証書を代表で受け取って頂けませんか?」
まさに天と地がひっくり返るような話だった。
おおよそ三~四百人ほどいる同じ学年の、代表になれと?
「取得単位数が学部最多だったんです」
そうか、ここは取得単位数で決めるんだな。成績は専門の授業になると可とか不可が結構出てたのに。
最終的には押し切られるような形でその依頼を受けてしまった。

大変だったのはそれからだった。
卒業式にまともに出る気がなかったので、家にある姉の振袖を着るかスーツで行こうかと思っていたため、袴の予約なんてしていない。ヘアセットも同じだ。
急いで今から借りられる袴をと家族総出で探した記憶がある。
家族以外には誰にも口外しなかった。事前に騒がせるのも面倒だからだ。

卒業式のリハーサルを大学でも行うとは思わなかった。歩き方、頭の下げ方までリハーサルするのだから、緊張だ。知った顔はなかった。

そして迎えた当日。人生最初で最後の袴姿をきちんと記憶に収める余裕もなく、学部代表席に座らされ、卒業証書を受け取った。とにかくガチガチだった。
事情を知らなかった友人知人の間ではちょっとした騒ぎになっていたらしい。

自分の袴姿を記録しているのは数枚の写真でしかない。人生で一度きりの袴姿、着れるなら何も縛りがないときにもう一度着たいものである。

今年卒業される皆様、卒業おめでとうございます。新たな一歩へのスタートライン、どうか大きく羽ばたかれることをお祈りいたします。

卒業

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  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-13

Copyrighted
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