義母・Ⅶ(スペシャル)
1話~完結
【義母・Ⅶ】
【一話】
「何するのおお! 止めて!! 止めなさい!! ちょっ! 痛い! 止めて、止めてえぇー!」
「煩せえぇー!! 何でもかんでも口挟みやがってえ!! アンタが俺の母親だってんなら今から確かめてやる!!」
「フザケないで!! こんなことして何になるのお!! いい加減にしてええ!! 放してえぇー!!」
「フザけてんのはアンタの方だろうが!! 俺の母親なら証拠を見せてもらうだけのこと!!」
「いい加減にしてええ!! 何が証拠よ!! 自分がしてること解ってるのおお!!」
「いいか!! 俺は今からアンタの身体を愛欲(あじみ)する!! 一度でも!! 一度でもヨガリ声上げたり身悶えしたらアンタは俺の母親じゃねえ!! その時はこの家から出てくか、俺の女になりやがれ!!」
「馬鹿も休み休みいいなさい!! 義理とは言え私はあなたの母親なのよ!! 母親を愛欲(あじみ)すね息子が何処にいるのおおー!!」
「煩せええ!! アンタが俺の母親かどうか試せばわかることだろう!! はぁはぁはぁはぁ… だけど心配すんなよ… 中に入ったりしねえからよ!!」
口論から始まった不幸な出来事は義理の息子が義理の母親をベッドに押し付けると言う惨事へと発展した。 押し付けられる義母の早苗は必死に両手足と怒声で抵抗したが、力の強い義理の息子の隼人らよって動きを封じられ、ベッドにうつぶせにされるとその両腕を後ろに縛られ再び仰向けにさせられた。
髪を振り乱し着衣を乱れさせつつも早苗は縛られても尚、自分に馬乗りになった隼人を激しく威嚇した。 隼人は眼下にいる義母の早苗を見下ろし、その視線を早苗の胸元に釘付けすると、伸ばした両手で早苗の上半身を覆う白いブラウスを力任せに左右に引き裂いた。
隼人の両手に引き裂かれたブラウスのボタンはブチブチブツッと音を立て飛び散り、早苗は隼人の目前に晒された黒いスリップの胸元に顔を強張らせ、そして全身と両足を弾ませ暴れベッドの足を床に叩き付けた。
「お願い!! お願いだからもう止めてえ! お願いよおぅ!! もういいでしょぅ!! 私は二年も一緒に暮らした母親なのよおう…」
全身の力を抜いて疲れた身体を休める早苗の息は荒くそして今にも泣き出しそう表情に変わっていた。
「煩せええ!! いまさら謝っても遅せえんだよおおー!! いいかあ!! 母親なら!! 息子に愛欲(あじみ)されたって声ひとつださねえはずだ!!」
早苗は隼人の怒声にビクついて顔色を変えたその瞬間、隼人の手が早苗の身体を包む黒いスリップと黒いブラジャーの肩紐を無残にも引き降ろした。
「いやあぁー! いやいやいやあぁー!! 止めてえぇー!! いやあああぁぁぁーーーー!!!」
隼人の目の前に晒された白い豊満な乳房は、叫び暴れる早苗の動きにその柔らかさを無造作に揺らして隼人の目に焼き付けた。 そして三十四歳にしては美しすぎる乳房と女子高生のようなピンク色した乳首に隼人は思わず喉をゴクリと鳴らした。 早苗は乳房に掴み掛かる隼人の両手に声を限りに叫び身体を揺すって抵抗したが、その乳首に隼人の唇が吸い付くと、叫び声は泣き叫びへと変わった。
ピンク色した乳首は隼人の唇に覆われ次第にコリコリし始め数十秒経たないうちに硬く勃起してしまった。 隼人は乳首を勃起させながらも泣き叫ぶ早苗の乳房を揉みしだきその乳首を舌で転がし更に甘噛みして吸った。 甘い味と香りが口いっぱいに広がり、隼人はウットリするも乳房を揉みしだく手は止めなかった。 そして隼人の右手が早苗の黒いストッキング越しに太ももに這わせられると、早苗は顔を緊迫させ泣き叫んだ。
「何やってんだよ!! 勝手に読むなっていつも言ってるだろ!! 出てけ! 出てけよ!!」
突然、後ろから息子の俊介に怒鳴られ、身体をビク付かせた母親の千里は慌てて後ろを振り向いてノートパソコンのある机から離れた。
「ごめん! お茶を持ってきたら開いてたんで、つい…」
俊介を左前に見て千里は右横にゆっくりと移動し、俊介が机を前に椅子に腰掛けるのを見届けると、逃げるように部屋のドアへ移動した。
「ちょっと待て! 立ち見した割には紅茶、温いんだけど… 替えてもらえないかな熱いのに!!」
ドアを前に呼び止められた千里は胸中をドキッとさせギコチなく再び俊介の方に身体を回し、温くなった紅茶を手に取るとそのまま逃げるように部屋を出て、廊下で紅茶を一気飲みした。
白鳥俊介。 若干、十六歳にして数冊の書籍を出版し、週刊誌等に連載小説を執筆する官能ベストセラー作家。 芥川賞作家の白鳥喜三郎こと白鳥重三郎を父親に持ち、二年前に自費出版した官能小説が大ヒットして作家の仲間入りを果たして以来、数冊を出版しことごとくベストセラーを獲得。 現在、週刊誌や地方紙に作品を連載している。
白鳥千里。 三十二歳で白鳥喜三郎こと、白鳥重三郎と結婚し白鳥家にはいるものの、結婚後二年を経過しないうちに未亡人に立場ほ変えた。 白鳥重三郎とは病気治療のために訪れた病院の患者と看護士の関係だったが、後に恋に落ち千里は白鳥家の後妻にはいったことで俊介とは義母になった。
白鳥喜三郎こと、白鳥重三郎は芥川賞作家として活躍し、書籍数を百冊以上出版する知る人ぞ知る大御所的存在だったが、官能作家の俊介と結婚したばかりの千里を残して、一年前に千里が勤めていた病院で呆気なく他界した。
白を基調とした青屋根の三階建てコンクリート造りの庭付き大邸宅に三十四歳の義母である千里と、十六歳の官能作家である俊介は家族の名の下に暮らしていた。 現在は故、白鳥重三郎が残した莫大な財産には一切、手をつけることなく、息子であって高校生でもある俊介の稼ぎで生計を立てている不思議な家族であることを世間は誰も知らず、そして白鳥俊介が官能作家であることを義母の千里と出版関係者以外は誰も知らない構図が出来上がっていた。
俊介の義理の母親である白鳥千里は容姿端麗、流石は文豪・白鳥喜三郎が妻と言わんばかりの美貌を備えていたが、その真の姿を知る者は世の中に義理の息子である俊介以外に知る者はなく、恐らく本名、故・白鳥重三郎さえも知らなかったのではないかと思われる。 見た目は容姿端麗、絶世の美女であった千里は亭主である、故・白鳥重三郎より長く暮らしている義理の息子の俊介に少しずつ、その素顔を見破られていた。
見た目は大人しく物静かな千里は一旦、家の中に入るとその容姿端麗さからかけ離れた素行を密かに見せるものの、悪意のない素行に俊介も安堵していた。 ただ、純文学などには全く興味のない俊介と千里はその部分では仲間的な存在であった。 俊介はと言えば、著者命を別に持ち執筆活動に専念する傍ら、普通の高校生として学校に通いながら、家事の全くできない義母である千里の代わりに時間の許す範囲で食事から掃除、洗濯に至るまでの一切をやっていた。
女なのに自分のパンツも洗えず目玉焼きも作れない千里は、俊介にとって厄介者のような存在だったが、お茶の入れ方だけは徹底的に教え込まれた千里の唯一の仕事は、俊介に休憩の紅茶を出すことと、それとは別に特殊な仕事をいくつか備えていた、
「入るわよ~♪」
大邸宅の三階の一室、俊介の仕事場にドア越しに声をかけた義母の千里はドアノブを回すと、左足でドアを蹴押して部屋の中に入った。
「ああ。 ソコに置いといて…」
パチパチとものすごい速度でキーボードを叩く俊介の姿に、千里は迫力を感じ立ち止まって見ていた。
『凄い!! ノッてるわ!! 濡れ場かな……』
乗りに乗りまくっている俊介を前に千里は息を殺して、心の中で一言、二言を呟くとそのままパイプ椅子に腰掛けた。
「何してんだ! とっとと出てけ! ああ! いや! いい。 ソコにいろ!」
物凄い勢いでキーを叩く俊介は千里を見ることなく、無心になって創作意欲をキーに叩きつけた。
数分後。
「よおおーし休憩だあーー♪」
椅子に腰掛けたまま大きな背伸びをした俊介は、少し温度の下がった紅茶を口に含むと自分を見入る義母の千里の見ている前で、引き出しからタバコを出して銜えると火を点けた。
「千里。 窓を少し開けてくれ」
美味そうにタバコを吸う俊介を見つつ立ち上がった千里は、言われた通り窓を開くと、両腕を後ろにし興味ありげに口元をゆるくして俊介に視線を重ねた。
「駄目だ! いや。 いいよ。 どうせ隠れて見るんだろうし…」
モニターを見たそうにしている千里の方にノートパソコンを回した俊介は、再び紅茶を飲んでタバコを吸った。
千里はパイプ椅子に腰掛けると、目をキラキラと輝かせモニターに見入った。
「凄い……」
一言、呟いた千里は息を呑むようにモニターの活字を目で追いつつ、マウスを操作して画面をスクロールさせた。
「毎回、くどい様だけど。 別に俺はお前に対する妄想を書いてる訳じゃないからな。 このシリーズはお前がこの家に来る前からだし…」
千里は目の前の活字に夢中になって返事を忘れた。
そして続きを読み終えた千里は大きな溜息を吐き出して、タバコを深々と吸う俊介に目を合わせた。
「ねえ。 アナタ、本当に童貞!? まるで見ながら書いた見たいだよ……」
ノートパソコンを俊介の側にクルリと回した千里。
「お前、 毎回言ってねえか? 書きなれれば誰でも書けるんだって。 こんなの♪ あとはお前の仕事だから、誤字と脱字のチェックと訂正しとけ。 後でメモリー渡すから」
机の下で足組をしながら千里に呆れる俊介は、自分を見つめる千里の視線を外しつつ用件のみ伝えた。
「ああ。 うん。 解った♪」
千里は機嫌よくその場を離れると気になっていた小説の続きを読めたことに、廊下で小さなスキップをして階段を下りて行った。
俊介は千里の小さなスキップ音に呆れ顔すると首を傾げて、窓辺にたって緑豊かな庭園を眺めた。 そして数分後、何かを思い出したように突然、自室を後にした俊介はその行く先を一階の洗濯場へ向けた。 三日に一度の定番中の定番。 俊介は棚から取ったマスクで口元を覆うと、顔を顰めて洗濯機を操作し注水すると大きな洗濯籠のフタを開いた。 毎週水曜と土曜日の洗濯の日と決めている俊介の気晴らしにもなる洗濯だったが、俊介は義母である千里の下着を軍手をはいて長い箸を使って取り出すと、それを見ることなく洗濯機に放り込んだ。 そして洗濯ネットの中に使用済みのパンティーストッキングやらガーターストッキングを軍手を履いた手で押し入れると、それを見ないようにして洗濯機に再び放り込んだ。
「嗅がないでよね!」
突然、後ろからかけられた声にビックリした俊介は、振り向きざまに怒声を放った。
「フザけんな!! こんな汚ねえモン嗅ぐかああー!! だったらお前が自分でやれよ!!」
白いマスクが俊介の怒声で一瞬、膨んだ。
「じょ! 冗談だったばあー♪ そんなに怒らなくても!」
両手を前に手のひらを広げる千里は後ずさりして数歩下がると再び俊介の怒声が放たれた。
「大体なあ! 何で俺がお前の汚いパンツまで洗ってるか解ってるだろおう!! お前が手荒れするって言うから俺が変わりにやってるんだろ!! それよか、ちゃんと用足ししたらウォシュレットしてるのかあ!! パンツの黄ばみとウン筋が手洗いしても落ちねえんだよおお!! 見た目だけ美人なのに… 全く! こんなになるまで履くか!? 何日履いてたんだあー!?」
汚れに汚れたパンティーを軍手をつけた両手で千里に広げて見せる俊介は激怒して頭から蒸気を発していた。
「あわわわわ! そ! それは此間、うっかりお風呂に入るのを忘れて……」
両手の平を前に後ずさりする千里。
「うっかりって、家に居て一週間も風呂に入らねえ女が何処に入るんだよ!! ええーーーーーー!! 一週間も履いたパンティーなんかここに入れるなあ!! ゴミだろうゴミ!! 洗濯機じゃ落ちねえんだぞーーー!! お前も一度、自分で手洗いしてみろよおーー!!」
汚いパンティーを内側に千里に押し付け近づく俊介に顔色を真っ青にする千里は、大きく後ろに下がると、声を発してその場から逃亡した。
「キヤアァァァーー!! そんな汚いモノ押し付けないでよおーー!! ヒイイィィーーーー!!」
汚いパンティーの内側をモロに見せられた千里は足音を立てて行方をくらました。
「畜生… 馬鹿女め!!」
俊介は吐き捨てながら軍手を付けた左手の指にブラさがっていたパンティーを洗濯機に放り込んだ。
容姿端麗、磨かれた知性と教養を兼ね備えた、元・白衣の天使はただのズボラな女だったが、俊介にとって千里は亡くなった父親の愛した女性であって大切にしなければと心の隅で思いつつ、洗濯機から取り出した汚いパンティーをゴム手袋をしてセッセとタライで手洗いしていた。
【二話】
「家政婦さん雇おっか~♪」
「要らねえよ。 そんなもん。 大体、何処にそんな銭があんだよ!」
「連載… もう一つ来てたでしょ… 二つだったかな…♪」
「家政婦入れるのに、二つも仕事とったら、俺はいつ寝ればいいんだよ!」
「じゃあ、一冊出版したら? それならどう…♪」
「今で手一杯で別口の出版なんて出来る訳がねえだろ!」
乾いた洗濯物を前に自分のモノを下手糞に折りたたむ千里と、見事に美しく畳む俊介の会話は成立していなかった。 千里は申し訳なさそうに俊介の顔色を伺いつつ小声をだし、俊介はそれを全て打ち消した。
「洗濯物くらい自分で畳めばいいんだろ……」
乾いた洗濯物の中から、千里のパンティーを取り出しては千里に放り投げる俊介は、愚痴っぽく声を濁した。
「そだね… あは♪ あはあは♪」
不機嫌な俊介を前に、パンティーをただ丸めるだけの千里。
「全く! ほら貸せよ!」
それを取り上げて五つ折してクルクルっと丸めて端っこを中に手際よく入れる俊介。
「わあー♪ 凄い凄い♪ 俊ちゃん凄ーーい♪ パチパチパチパチ♪」
俊介を拍手して大喜びする千里。
「お前が本来はやることだろ!」
拍手する千里をチラッと見て別のパンティーを千里の手元に放り投げた俊介。
「ごめん… 何にも出来なくて… ごめん……」
突然、シンミリしてうつむく千里。
「騙されないから… 毎回、そのパターンは通用しないからな! 毎回、俺に全部やらせようと言うその魂胆が気に食わねえ!」
千里の作戦を見抜いている俊介。
「看護士時代はちゃんとやってたんだけどね…」
シンミリと声を窄める千里。
「ふっ! 嘘をつくな! どうせ後輩にでも洗濯させても作らせてたんだろ!」
噴出して尚も言葉を続ける俊介は最後の洗濯物を畳み終え背伸びして、まだ沢山残っている千里の洗濯物を呆れ顔で見ていた。
「手伝って? ね? お願い~」
俊介の前に手を合わせて拝む千里は、瞑った目をうっすらと開いて俊介の様子を窺った。
「じゃあ、ストッキング類だけは自分でやれよ。 毎回、教えてんだがら解るだろ!」
俊介はパンティーを千里の目の前で手際よく折り畳むと、まだ一足も出来てないパンティーストッキングを千里から奪い取って瞬時に綺麗に仕上げた。
「ごめーん…」
今度は本気でショゲたとばかりな千里は、視線を下に向けると動かなくなった。
「悪いけど、仕事の続きするからさ。 ちゃんと畳んで仕舞っておけよ。 ただクルクル巻いたら縞々になりやすいし伝線しやすいからな!」
椅子から立ち上がった俊介は自分のモノを持つと千里を残して立ち去った。
仕事柄、女モノに詳しい俊介と女でありながら正反対の千里は一人残されたリビングで、手にとったパンティーストッキングを何度もやり直しては深い溜息を何度も吐いた。 仕事場とは別の寝室に入った俊介は壁に埋め込まれている箪笥の前に立って折り畳んだ衣類を丁寧に引き出しに仕舞いながら、千里の言ってたことを思い出していた。
『家政婦が居ればあの女の面倒は俺が見る必要もなくなるな… だけど別口連載はキツいなぁ~ だけど何であんな女と結婚なんてしたんだよ親父のヤツ……』
心の中で自問自答する俊介は、ベッドに仰向けになると両腕を後頭部に天井を見上げて大きな溜息を二度した。
そして三十分後、俊介は二階の自室から三階の仕事場へ向かわずに一階のリビングを覗きに移動した。 足音を消しつつ階段を下りた俊介がソッと開いているドアの隙間から中に視線を移すすと、泣きながらワンピースを畳んでいる千里に俊介は仰天し一瞬固まった。
「おお! 出来てるじゃん♪」
千里に近づいた俊介は、顔を俯かせて無言で手を止めた千里の頭を撫でて褒め称えた。
「エヘ♪ エヘヘヘヘヘ♪」
そんな俊介に思いつめた表情をしていた千里は、化粧のダレた顔を上げると隣りに座った俊介の顔を見て子供のような笑顔を見せた。
「何だぁ~ やれば普通に出来るじゃあーん♪」
十六歳の俊介が三十四歳の義母を褒める奇怪なワンシーンは成功し、機嫌をよくした千里から直ぐに涙は消えた。
「これも。 これも頑張ったんだからね♪」
得意げに俊介に報告する千里は満面の笑みして鼻を膨らませると、庭に水撒きしてくると言い残して家を出て行った。
ショゲる千里を褒めるのはいつものパターンだったが、俊介は千里を見送ると直ぐに、千里の畳んだ衣類を手際よくやり直しそのまま一階の千里の寝室へと運んだ。 俊介の入りたくない千里の寝室だったが、放置すれば箪笥に片付けることをしない千里に代わってやるしかなかった。 容姿端麗の千里は何も出来ない女だった。
俊介は恐々とドアをゆっくりと開くと、隙間から中を確認するように左右上下に視線をすばやく移動させた。 何が落ちてくるか解らない千里の寝室は、元は父親である故・重三の部屋でもあったが、重三が他界して以来、この寝室はゴミ屋敷のごとく散らかっていた。
そして中を覗いた俊介は衣類の散乱した床を持参したスリッパを履いて恐る恐る奥へ移動するも、満杯のゴミ袋の下になって床に転がっていたワインの瓶に足を乗せて床に尻餅をついた。 そして支えるためについた右手の平に三日前にはなかった焼き鳥の串が突き刺さった。
「痛てえぇー!!」
数ミリ程度突き刺さった串の後から俄かに出てきた血を見た俊介は慌てて、リビングにある救急箱の中から出した薬で消毒して、尚も、いつもは使っているゴム手袋をしていないことを後悔した。
普段の俊介なら確実にゴム手袋をして用意万端とばかりに入っていた千里の寝室だったが、千里の頑張りを見てゴム手袋をするのを忘れていたのだった。 だが、俊介はヘコタレルことなく再度、千里の部屋へ移動を開始すると、ゴム手袋した手で床を探りながらゴミを両脇に寄せ除雪車のように壁に埋め込まれた箪笥まで道をつけた。
「よし! 開けるぞ!」
自分に言い聞かせるように引き出しに手を掛けた俊介は、左手で口元を覆った。 そして引き出しが開く同時に中から異臭が俊介の嗅覚を刺激した。
「くそお! まただ!」
引き出しを開いた俊介は、中に入っている使用済みのパンティーから視線を反らし後ずさりした。
「どうりでパンティーの数が足りないと思ったら… こんなとこに入れやがって!」
激臭に嘔吐しそうになりながら、引き出しを一旦閉めた俊介には激臭の元が何なのか解っていた。
千里は三十四歳にもなって怖い夢を見ると糞小便を漏らす癖があって、夜寝る前は飲み物を飲んだら駄目だと言う俊介の小言を無視した結果、ビチ糞パンティーを洗濯に出す訳にもいかなくなって、それを引き出しの中に隠していたのだった。 一度や二度ではない千里の容姿端麗にそぐわない癖と行為に俊介はただ呆然としながらも、引き出しの中から汚いパンティーをゴム手袋のまま取り出しドアの方へ放り投げた。
白いフリルがふんだに使われた乙女チックなパンティーも糞小便に染まればただのゴミだった。 そして無残にも糞小便が他の下着にも移ったことで余計な洗濯物が増えたことは、俊介の仕事を増やす結果になっていた。 俊介は汚物と化した引き出しの下着を洗濯場へ持って移動すると再び洗濯を始めつつ、千里の部屋の掃除に死力を尽くした。 そんな中、そんなこととは知らない千里は俊介に褒められたことでルンルン気分とばかりにゴム長靴を履いて庭園の水遣りに夢中になっていた。
レモン色のブラウスとグレーのタイトスカートは水遣りの跳ね返りで泥に塗れ、セットしてあったヘアーはガタガタ。 美脚を包むブラウンのストッキングは柄物かと思うほどに泥はねがすさまじかった。 ゴム長靴はドロドロに汚れ化粧顔は無数のホクロに覆われていた。 三十四歳とは到底思えない千里の行いは今に始まったことではないが、俊介はそんな千里の様相が事前に予想できるほど熟練はしていた。 そして千里の部屋掃除を終えた俊介は、止まった洗濯機から千里の汚物を取り出すと、中を開いて手洗いで落ちるかゴミにするか検討して何とかなるとの確信に基づいて風呂場のタライに湯を貯めた。
俊介はタライに貯めた湯で汚物と化したパンティーと一緒に引き出しに入っていた下着を次々に手際よく洗い、嬉しそうな顔して戻るであろう千里の水遣りの後の服装を思い浮かべて、ニヤニヤして最後の一枚を洗い終えた。
「ただいまあー♪」
俊介の予想通り、最後の一枚を洗い終えたところで家に入ってきた千里の服装は、俊介の予想通りドンピシャリとばかりに泥はねに覆われていた。
「スカートとブラウスはこっちに籠にいれろ。 クリーニングに出すからな! あと、シャワー浴びるなら化粧もちゃんと落とすんだぞ! それと! いつも言ってるだろ! 水遣りすんなら専用の前掛けしろって! ガキ見たいに泥遊びしてきた見たいだろうが!」
玄関からそのままの格好で家に入ろうとした千里を寸でのところで止めた俊介は、玄関に鍵を掛けさせると、その場でドロドロのスカートとブラウスを脱がせクリーニング用の籠に入れさせた。
「ごめん…」
スリップ姿になった千里はクリーニング専用籠を両手に持つと、そのまま無言で俊介の前を離れ俊介は雑巾を持ってきて玄関に四つんばいで泥を拭き取ると、洗濯場の向こうでシャワーを浴びている千里の方をドア越しに見て脱ぎ捨てた下着とパンストを拾い上げ洗濯機に放り投げた。
『全く、幼稚園児と一緒に居る見たいだ……』
俊介は千里の寝室へ行くと、壁に埋め込まれた箪笥の引き出しから、千里の下着と衣類をバスタオルに包んで脱衣場へ届け、その足で息つく間もなく三階の仕事部屋と移動した。
『さてと! 今日中に書き上げないといけないな!』
ノートパソコンを立ち上げた俊介は、深呼吸を数回繰り返すと気分を変えるようにパソコンの前で目を閉じて執筆の続きを思い描いた。
「やめなさい!! やめてえぇーー!! いやあぁぁーー!! 許してえぇー!!」
隼人は泣き叫ぶ早苗の乳首を吸いながら、スカートの中に手を入れ一気に外モモから尻へと手の平を滑らせると、そのまま抱くように早苗の左足を膝立てさせたストッキングに包まれた弾力ある裏モモを下から触手した。
太ももから尻、そして裏モモへと滑る隼人の手に早苗は逃げようと身体を左右に振り、そして膝立てした左足を伸ばそうと抵抗を始めたが隼人は触手する右腕と脇腹の間に早苗の左膝を挟んでそれを阻止し、続けて触手する手を裏モモから下伝いに内モモへと移動させた。
早苗は左足外側の裏側から滑り近づいた隼人の指先を内モモの付け根に感じた瞬間、今までにないほどの叫びと抵抗にその身を激しく弾ませベッドを床に叩きつけた。 そして既に綻び始めていたスカートの横スリットは「ビリッ、ビリッ!」と、音を立てて上方向に裂け目が広がった。
激しく抵抗する余り、自らを守っていたスカートの横スリットは大きく裂け、パンティーストッキングに包まれた早苗の太ももは不可抗力で我が身を隼人の前に晒す結果となった。 そして抵抗する度に右側でヒラヒと舞うスカートの布を見た隼人は「ニヤリ」と、笑みを浮かべた瞬間、早苗の下半身からスカートを力任せに引き裂いて切り離した。
そして我が身から切り離されたスカートが宙を舞ったのを見た早苗は、顔を強張らせ全身を緊張させつつ腹まで捲り上げられたスリップの裾が巻き起こした微風に声を出して泣き喚いた。 だが隼人は目の前で泣き喚く早苗を見て尚も早苗の下半身を包むパンティーストッキングを目を血走らせ両手でピリピリに伝線させ引き裂いた。
脱がす訳でも触手する訳でもなく、ただ只管に早苗を辱めるべくパンティーストッキングを伝線させ破り続けた隼人は、早苗から離れるとベッドから降りて数メートルの場所にあった大きな鏡台を引きずってベッドの真横に置いた。
「さあ! 見てみろ!!」
大きく揺れる乳房をそのままに早苗の上半身を抱き起こした隼人は、乱れに乱れた義母である早苗自身にその様子を見せつけた。
早苗は自らの恥ずかしい格好に目を伏せ首を回したが、隼人は捲くれ上がったスリップの下でビリビリに破れたパンティーストッキングに包まれた下半身に目を充血させて興奮した。
「酷い… 酷すぎる… こんな恥ずかしい格好をさせるなんて……」
早苗は後ろに両手を縛られたまま、抱きかかえている隼人に体当たりして怒りをブツけ、隼人はそのまま後ろに倒れ木で出来たヘッドに背中を打ちつけた。
「畜生ーーー!! こうなったら容赦しねえ!!」
隼人は右手で背中を押さえつつ、ベッドの上に起き上がると、早苗をベッドに押し付け早苗の下半身から破れたパンティーストッキングを脱がせるべく両手を掛けた。
「ヒャッホオォーーウ♪ イヤッホオォー♪」
早苗は脱がされまいと必死に両足を激しくバタ付かせ全身を左に右に回転させ抵抗したが、隼人は義母の行為を楽しむかのように歓喜し奇声を上げもてあそんだ。
だが、早苗の下半身からズタボロのパンティーストッキングは少しずつ脱がされ、パンティーの上辺りまで来まーくると、再び義母である早苗は咽び泣き声を出し自らの下半身を血走った目で楽しむ隼人に恐怖を感じた。
隼人は当初の目的から逸脱していることに気づかず、義母である早苗を辱めて興奮している自分を忘れ、早苗が暴れれば暴れるほど晒していく下半身の素肌に見開いた両目を血走らせ喉をカラカラに渇かせて行った。
「はぁはぁはぁ! お願ーーい! もう許してえ! はぁはぁはぁはぁ! 謝るから! ねえ! 謝るから許してえ!」
抵抗し疲れてぐったりし始めた早苗の両足に馬乗りになった隼人は差し出した両手でパンティーストッキングを鷲掴みすると、早苗は苦しそうに隼人に訴えたが、パンティーストッキングを両手で鷲掴みした隼人の耳に早苗の声は届かぬまま、ビリビリに大きく引き裂かれ下半身から引き離された。
そして早苗の声が届かぬまま、狂乱した隼人はパンティーを剥ぎ取ることなくプリプリと揺れる早苗の両太ももを両腕に抱くと、その滑々した柔らかい裏モモに外側から両手を躍らせるように滑らせ前屈姿勢になって目の前の豊満な乳房にムシャブリ付いた。
早苗は最早これまでと、諦めたように首を横に回しパンティー越しに感じる隼人の硬いモノの感触に悔し涙を頬に伝えた。 まさか息子ととして一緒に暮らした隼人に操を奪われるなどとは夢にも思わなかった早苗にとって、自分が置かれた現実は余りにも惨いものだった。
「よっしゃあ!! 休憩ーーー! あれっ!? いつからソコに居たんだあー!?」
声を張り上げ両腕を頭の上に大きな背伸びをした俊介の目の前、机の向こう側にポツンと立っている千里に俊介は仰天した。
「ああ。 うん。 一人で居たくなかったから… でも俊ちゃん。 ノッてたし…」
千里は俊介が着替え用に用意したブルーのショーパンとレモン色のノースリープを着ていたが、俊介が用意していなかったショコラブラウンのパンストを履いていた。
「千里。 お前まさかノーブラか!?」
俊介の言葉に無言で頷く千里はパイプ椅子を横から移動させてチョコンとそれに座った。
「まあ、自分の家だから別にいいけどさ。 誰か尋ねて着たら困るだろ…」
引き出しからタバコを出して吸い始める俊介に作品が見たいとばかりに俊介をジーッと見入る千里。
「見たいのか? そか… いいよ、どうせ書き始めから見られてるしな」
俊介はノートパソコンをクルリと回して千里の方へ向けると、千里がどんな表情をして見るのか観察し始めた。
千里はモニターに食い入るように目で文字を追いながら息を殺すと、無意識なのか俊介の目の前で組んだ足をモゾモゾし始め両腕の脇をギュッと絞めた。 そして目だけを動かしソッと伸ばした右手でマウスのドラムをゆっくりと回した。 そして数分間、石のように動かなくなった千里を見ていた俊介は、胸の辺りに違和感を覚えた。
レモン色のノースリーブに俄かに突起した二つの立体物。 俊介は文字に夢中になっている千里の前にあるパソコンモニターに隠れるように、椅子を引いてそこに斜屈んだ。 下半身をモゾモゾさせ、時折、何かを挟むようにキュッキュッと両足に力を込める千里は見られていることに全く気づかなかった。 そして椅子に戻った俊介は再び、千里の胸にある二つの突起物が大きくなっていることに目を奪われた。
「千里! もういいだろ。 続きはこの次に纏めて読めばいい。 まだ書かないといけないからさ」
俊介は千里の身体の変化を悟り仕事を理由に部屋を出るように仕向けた。
「あ。 うん。 ごめん… 何か凄くて… あんっ!」
立ち上がろうとした瞬間、足に力が入らずヨロけた千里は壁際へフラ付いた。
「おい! だ! 大丈夫か!!」
慌てた俊介は千里に近づき千里の左側から両脇に手を入れ抱き止めた。
「あ。 うん。 ごめん俊ちゃん」
斜め後ろから抱き止めた俊介は千里をソファーまで近づけ座らせると、横にして両足を持って伸ばさせた。 俊介は目の前の千里の太もも見た瞬間、胸中をドキッとさせた。
「と、とにかく少しここで横になってろ! 動くんじゅないぞ!」
ソファーに横になって目を閉じた千里の全身を身流した俊介は、弱々しく横になる千里に不思議な色っぽさを感じていた。
俊介は千里の足に力の入らない理由を明確に知りつつも何もわからないフリして仕事を続けた。 そして千里もまた足に力が入らなかった理由を知りつつも俊介に気づかれたくないと願っていた。
【三話】
「パンティーとブラジャーとスリップは黒にしてくれ。 あと、髪型はこの写真を参考にして化粧はこっちの写真で。 スカートはこれとブラウスはこれな。 あとストッキングは網のガーターにしてくれ。 今、履いてるヤツは籠に入れとけよ。 後で洗濯するからよ」
千里の寝室、壁に埋め込まれた箪笥の前で、引き出しを開いては手にとって千里に渡す俊介に相槌を打って答える千里は生き生きとしていた。
「俺は三階(うえ)で仕事してるから、出来たら飲み物持って上がってこいよ」
俊介は左側に千里を見てそのまま寝室を立ち去った。
千里は俊介に言われた通り鏡台を前に椅子に座ると、渡された写真をジーッと見て化粧を始めた。 数少ない千里の仕事の一つでもあった描写イメージのモデルは、見た目だけ容姿端麗の美女(ちさと)にはピッタリの仕事だった。 千里は慣れた手つきでテキパキと写真に出ているモデルさんの化粧を真似て取り組んだ。 月に数回しかない描写モデルを頼まれた千里はルンルン気分だったが、その表情は硬く真剣そのものだった。
その頃、俊介は執筆ではなく、ソファーの背もたれを倒し白いシーツを敷いてベッドに作り変えると、大きな枕を置いてその場所を見るための位置決めに表情を硬くした。 義理の母親とは言え、収入を稼がなければならない俊介にとって賃金ゼロ円でモデルを引き受ける千里は都合のいい家族だった。 だが俊介は今日のモデルのポーズに激しい葛藤を覚えてもいた。 イメージ通りに熟した身体を持て余す義理の母親の自慰直前のポーズを千里が引き受けてくれるかどうか、見てみたいと思いつつも断って欲しいとも思っていた。
そして四十分後。
「入るよー♪」
ドアを開いて入ってきた千里は、可愛い声しは間逆にさっきまでとは全く別人であって、気の強そうな表情をした冷血感の漂う様相に仕上がっていた。
その様相に俊介は部屋の空気がピーンと張り詰めたような気迫さえ感じていた。 窓から入る日差しを照り返す黒レザーの膝上タイトスカートとそれを支える黒い網ストッキング。 そして黒いスリップが透けて見えるほどに妖しく光沢を見せる白いブラウス。 キツイと言うほどではないが薄くもない化粧を上から覆う、ふんわり感のある瑞々しさを醸しだすソフトにカールの掛かった長い髪の毛が左右対称に胸元にかかる。 俊介の合図で顔の表情を張り詰めさせ、腕組をした千里は片足を少し突き出してから、今度は腰に両手を掛けて俊介の方を見つめた。
「ああ… いいな… イメージ通りだ…」
千里の表情に息を呑む俊介は突然、パチパチパチとノートパソコンに繋げたキーボードを勢いよく打ち始めた。 千里はその間、ジッとして動かず次に俊介から来るであろう指示を黙って待った。
俊介の指は全力で走るトップランナーのように止まることなく走り続けた。
「そこにある椅子に右足を乗せて膝を曲げろ… そう! 膝に右腕の肘を乗せて頬杖さいて。 そう!」
再び、俊介はジーッと千里を見据えると、突然チーターのような猛スピードでキーを打ち始めた。
千里はいつ俊介が見てもいいように常に真剣に表情や体位をも一寸とも変えずにそのままの姿勢を維持した。 俊介は時折、チラッと見ては直ぐにキーを物凄い音を立てて打ち始めた。
「ちょっと歩き回ってみろ。 自然に普通に街中を歩けよ!」
向こう側に見える千里に食い入る俊介は千里の足、尻、胸、顔と見てから全体を包み込むように見回した。 そして千里は気取らず自然を意識して室内を行ったり来たり回ったり戻ったりを繰り返し俊介は再び書き始めた。
そして三分後。
「よし、少し休憩だ。 千里。 見てみろ!」
俊介の指示に足をピタリと止めた千里は嬉しそうに机に近づくと、クルッと回されたパソコンの画面を見つつパイブ椅子に腰掛けた。
千里の様子をジッと見入る俊介は、見始めて一分も立たないうちに徐々に目を大きし微妙に変化する頬の筋肉に気を取られた。 俊介は何も語らず無言のまま活字を目で追う千里を見つめていた。 そして五分後。 パソコンから離れた千里は俊介をジッと見つめると、恥ずかしそうに困惑する表情を見せそして俯いた。
「次はベッドの上の情景だ」
椅子から立ち上がった千里は軽くフラついたものの、後ろにあるソファーで作ったベッドに足を進め一旦腰をおろした。
「まずはそこに横になれ。 後は俺が直接身体の向きや手足の場所を決めるから。 毎回言ってるが緊張すんなよ!」
千里は無言で頷くとベッドにあがって仰向けになった。
「まず身体は右を下にして。 うん。 そのくらい。 で、右ひじを下にして。 ああいい感じだ。 で、パソコンの方を見て。 右足を下にして左足は曲げて… ちょっとスカート捲くるからな。 左腕は… いや! やっぱりいつもの自然体で行こう! 俺は机の前に居るから千里は好きに寝姿を変えてくれや。 いいポーズの時は声を掛けるから」
ベッドに横たわる千里に近づきアレコレを指示していた俊介は、面倒になっていつもと同じように千里に任せることにして自分の席に戻った。
千里はベッドの上で、思いつく限りの寝姿ポーズをいつものように俊介に見せ、千里の気づかないうちにスカートが上にズレ上がって行った。
「よし! そこで止まれ!」
千里の動きを一時停止した俊介は再び物凄い勢いでキーをパチパチと打ち始め、これを繰り返し続けた。
黒い網ストッキングに包まれた千里の太もも、腰、胸、顔そして全体を見回す俊介は息を殺してイメージを頭に叩き込んだ。 そして再びキーを打つ手を止めた俊介は無言で席を立つと千里に近づいた。
「お前はこのままジッとしてろ」
俊介は千里が乗ったままのソファーベッドを自分の近くに移動させると、自分の側に千里の下半身を向けさせた。
「両膝立ててくれ。 スカートの中が見たい」
俊介の言葉に千里は「え!?」と、無言で表情を驚きに変えた。
「別に大したことないだろ。 普段、下着姿でウロウロしてんだから」
サバサバした感じで話す俊介。 俊介を見る千里。
「でもぉ… スカートの中… 恥ずかしいよぉ… 下着姿見られるのと違うもん…」
煮え切らない千里。
「イメージが欲しいだけだからよ! ネットの写真じゃ今一、生っぽさとか質感がねえんだよ」
仰向けの千里床にの横に移動して顔の真上から話す俊介。 目を反らす千里。
「………」
千里は泣き出しそうな顔して困惑した。
「だったらもういい! ここから出てけ! 仕事を手伝う気がないなら要らん!」
不機嫌な物言いと態度を示した俊介は自分の席に戻ると再びパソコンのモニターを読み返した。
「………」
ベッドの上で仰向けになっている千里は涙目になりながら一旦ベッドから降りようと躊躇いつつ、再び仰向けになると黙って両膝を立てた。
「もういい!! 無理しなくてもいいから出てけ!」
不機嫌な俊介の声が響いた。
「ごめんなさい… 私も俊ちゃんの仕事、手伝いたいから…」
泣きそうな声を震えさせて両手で顔を覆う千里に唖然とする俊介。
「そうか…」
俊介は両膝を立てた千里のスカートの中に食い入るように目を凝らし、再び慌しくキーボードを叩き始めた。
両手で顔を覆い隠した千里はパチパチと物凄い勢いのキーの音に、自分も俊介の仕事に参加しているのだと嬉しい気持ちになっていた。
「よおーし、いいぞぉ~♪ もう少し足を開け♪ そう! そのまま動くな! 太ももを震わせ見ろ! おお! そうだ!」
俊介の指示どおりにする千里は顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。
「いいか。 千里は今、一人ぼっちで薄暗い部屋に居るんだ… そして昼間、テレビで見たメロドラマを思い出した! ゆっくりと右手をスカートの中に入れるんだ。 そう♪ そうだ♪ パンティーの上から指を擦らせて見ろ!」
俊介は頭の中にあるイメージを目を閉じて千里に伝えた。
「そんな…… それは……」
スカートの裾辺りに移動させた手をピタリと止めた千里は顔に火が点いたかのごとく熱さを感じた。
「どうした! 早くやれ! 早くやって見せろ! さあ!」
俊介は千里の手がスカートの中に入るのを今か今かと焦りなが見入った。
「無理だよぉ… 自慰の真似なんか出来ないよおぅ……」
声を詰まらせる千里。
「解った! じゃあ動かさなくてもいいから指を当てて見せろ! それでいいから」
俊介の言葉に深呼吸を数回繰り返した千里はゆっくりとスカートの中に右手を入れると、中指をクリトリスの辺りに指を当て様とした。
その瞬間、爪が掠った。
「んぐうぅっ!! ぅんぐうぅっー!!」
身悶えして身体を震わせ耐え切れずに出た声を喉に溜め込んだ千里は、不覚にも感じてしまったことに口を半開きにして顔を強張らせた。
「!!!」
突然の重々しい千里の恥ずかしい声と身悶えに両目を大きく見開いた俊介は呆然とし石地蔵のように固まった。
「ぅうううう…」
クリトリスに指を当てようとして爪で掠めた千里は、身悶えと耐え切れずに発しそうになった恥ずかしい声を必死に喉に溜め込んだことに恥辱を感じ泣き出してしまった。
すると固まっていた俊介から信じられない言葉が飛んだ。
「もっと弄れ! もっと激しく弄れ! 嫌らしい声を出して身悶えして見せろ! グスグスすんなー!」
泣き出した千里は俊介から飛んだ耳を疑う言葉に呼吸と泣き声をピタリと止めた。
「何をモタモタしてるんだ! イメージがこみ上げて来たぞおー♪ あっはははははは♪」
突然、ベッドに近づいた俊介は歓喜な声を高らかに上げると、千里の着ていたブラウスのボタンを慌しく外し左右に開いてスリップを露出させた。 そしてスリップとブラジャーの肩紐を左右から外すと今度は千里の下半身に回りこんで、開いた両足の真ん中に入り込んで中を覗いた。
千里は突然のことに金縛りにあったように身動きできなくなってしまった。
「早く指を動かせ!! イメージが飛んでしまう!! 早くしろ!!」
俊介から連続して激が飛ぶと、千里は大粒の涙を頬に伝えてスカートの中に入れた右手中指を上下に動かし始めた。
「ああんっ!! あんっ! あんっ! ァヒイィッ!!」
千里は俊介に丸見えになっているスカートの中の指を訳も解らず夢中になって動かし、恥を忘れたかのように悶えそして鳴き声を奏でた。
俊介は目玉が瞼から抜け落ちそうなほど千里の動く指を見つめ、内側から液体が滲んで来る様子に震撼して息を殺した。 そして千里はパンティーに滲んだ液体が全体に広がっていることを知りつつ、中指に絡みついたヌルヌルに「見られている」と、言う激しい恥辱を感じていた。
「よし! スカートをもっとあげろ! 両足をもっと大きく広げろ! あっはははははは♪ 堪らん♪ もっと激しく! オッパイを揉みながら弄るんだあー♪ あっはははは♪」
俊介は容赦なく千里を辱める指示を出し歓喜な声を出しそして満面の笑みを浮かべた。
ああああーーーーーーんっ!!
俊介の指示通りにスカートをグイッと上に捲り上げた千里は、俊介の前に晒した乳房を左手で揉みまわしつつ、右手でヌルヌルが滲んだパンティーを縦筋に沿って大きく擦り始めた。 俊介はそんな千里を見て股間を覗きながら拍手喝采し「うおおおぉぉぉーーー!!」と、雄叫びを発して千里の両足を左右に大きく広げさせた。
「よおおぉーし!! 脱げ! 早くパンティーを脱げえぇーー!!」
俊介な指示されると千里は流れに逆らうことなく躊躇せずガーター紐の上から履いたパンティーを左手で尻側からスルリッと脱ぎ始めた。 そして千里の死ぬほど恥ずかしい究極の行為は直ぐそこまで来ていた。 だが、千里はそんな俊介と自分に違和感を感じてもいた。 そしてその違和感の謎は直ぐに解けた。
おい! いつまで寝てるんだ!! 起きろおー!! この役立たずがあ!!
突然、雷のような怒声が千里の耳元に張り付き、全身をビクンッとさせ恐る恐る瞼を開くと目の前に自分を覗き込む顔を引き攣らせた俊介が居た。 俊介は千里の瞼が開くと同時に席に戻ってパソコンを落とし仕事場から出て行ってしまい、千里は口からヨダレを流して寝ていたことに気づいた。 千里は仕事中に眠ってしまったことと同時に夢の内容に酷く衝撃を受けた。 そして起き上がって辺りを見回すとスカートの中に手を入れ、パンティーに指を滑らせ震撼した。 ヌルヌルした紛れもない液体に大きな溜息をついて肩を落としそして慌ててベッドを降りて俊介の後を追った。
『謝らなきゃ… 謝らなきゃ!』
心の中で焦るように同じ言葉を連続させた千里は屋敷の中を一階に降りて髪を振り乱して俊介を探し回った。 だが二人住まいには広すぎる屋敷は千里を阻み三十分以上も千里を走り回らせた。 そして階段の踊り場で諦めかけたところに、二階の奥にある俊介の自室からトランスの重低音が壁伝いに千里の耳を掠めた。 千里は再び二階の俊介を目指して息を切らせた。 室内から激しい爆音がコンクリートの壁を刺激し重低音が厚いドアをミシミシと揺らした。 千里は怒られるかも知れないと躊躇いながらドアを開いて中へ入ったが、俊介は千里のことには気づかず巨大なスピーカーの前で額から汗を流してジッとしていた。 激しいトランスの曲を前に、目を閉じてジッとしている俊介の着ているシャツの背中は汗でビッショリと濡れていた。千里は呼んでも聞こえないと俊介のそばへ足を進めそして肩をチョコンと叩いた。 その瞬間、俊介はゆっくりと右後ろに首を回したが、音量を下げようとはせず再び首を元に戻した。
「さっきまでヘッドホンを使ってたが、やっぱりスピーカーからの音はいいなぁ♪ どうよこの重低音♪ 肌で空気の揺れを感じられるんだぜ♪」
俊介は嬉しそうにソファーの右側に腰をおろした千里に耳打ちした。
千里は俊介の右側に居て何とかさっきのことを謝ろうとしたが、大音量と重低音の中で話し声がかき消され困惑していると俊介は前を向いて目を閉じたまま黙って千里の左手に自分の右手を重ねてきた。 千里は胸中を「ドキッ!」と、させ顔を強張らせたが、俊介の手からは嫌らしさはなかった。 俊介の右手と千里の左手が繋がるとトランスなど解らない千里だったが俄かに俊介同様にそのリズムに全身が溶け込んでいった。 俊介は額から汗をポタポタと落としそして背中はそのシャツが透けるほど汗だくに、そして千里もまた俄かに身体の中にトランスのパワーが染み込むように熱を帯びて次第に額から汗が滲み始めた。 千里は俊介と不思議な一体感を感じていた。 そしてしばらくすると俊介は、千里に左手の親指を立ててオーディオのリモコンを操作した。 一瞬、音が消えたが千里は黙って次の曲がかかるのを待った。 そして次の瞬間、爆音と共に激しい重低音が地響きのように室内に轟音を轟かせた。
四十センチの大口径ウーハーが四つ、物凄い勢いで激しく揺れ俊介と千里の包む空気を激しく揺らしたが俊介は両肩から力を抜いて両腕をブラリと下げ頭をガクッと前に倒すと、俊介の頭からオビタダシイ量の汗が洪水のように流れ落ちた。 千里はその汗の量に目を丸くし仰天して俊介の肩に手を添えようとしたが、トランスの世界に旅立っている俊介の身体は喪の家の空だとその手をゆっくりと引っ込めた。 千里は自分がこの家に居る所為で僅か十六才の俊介を追い詰めているのだと思った。 このまま自分がこの家に居れば俊介は疲れ果てていくばかり。 執筆(しごと)と家事のために学校を病欠し土日返上で昼夜働いている俊介を横に見て、千里は目を充血させ何かを決心したように喪の家の空になっている俊介の右手を握り締めた。 そして心の中で俊介に「ごめんね俊ちゃん」と、何度も詫びて汗とは違うモノをその瞳から滴らせた。 そして部屋を出ようと立ち上がろうとした千里の手を俊介の右手は突然「ギュッ!」と、握り締めた。 そして突然、俊介は千里を自分側に引き寄せると肩を抱いて尚もトランスのリズムに酔い痴れた。
俊介に肩を抱かれるのは千里にとって初めてのことだった。
【四話】
「いいか! 読者の三割はヤオイを望んでいるんだ。 山無し、落ち無し、意味無しの三拍子! 要は男は扱く切っ掛けがあればいいし、女は豆弄りの切っ掛けがありゃあいいんだ! 解りやすい方が受ける。 要は自慰ネタが欲しいだけだからな。 そして三割はストーリー重視派だ。 想像力豊かな連中で勝手にキャラクターを頭の中で作れる連中だし、ヤオイじゃう満足しねえヤツラの想像力を書きたてるストーレリーが必要なんだが、あんまりくどいと敬遠するし緩いと敬遠する我侭な連中だ。 そして残りの三割が本当のファンのようそうでないような。 まあ、言い換えれば固定客って訳なんだが、この三割が曲者でもある。 まあ、長くは語らねえが出版して真っ先に来るのがこの三割なんだ… だがこの三割を凌ぐのが残りの一割なんだ。 コイツらが焚き火の火種的な存在で頑固者の塊っつうー訳よ♪ ヤオイを書けば厳しく批評したり悪い点数をつけたりと厄介な連中なんだ! 三割のファンはそんなこたあしねえが、この一割が率先してやるから手に負えねえんだ、まあ小説界のネト右みたいなモンで文体に心がこもってないとか訳のわかんねえことを言いやがるんだ~♪ あとは同業者のストーリー泥棒だな♪」
三階の仕事場、机を前に千里に演説する俊介は血圧を上げていた。
「凄いね… なんでソコまで解るの?」
ショートパンツにノースリーブの千里は黒いネットストッキングに包まれた脚を組んで前かがみにたずねた。
「偶にネットにも掲載してるだろ。 読みに来る時間帯で社会人か学生か、年齢なんかもある程度絞れるだろ。 解りやすく言えば深夜の二時に俺の書いたモノを読みに来る小学生は居ないだろうさ… この時間なら主婦。 この時間なら学生。 この時間なら大人って具合に解るからな~ それにアクセス数でも一ページで五千人超えるモノと千人も来ねえモノがある。 作品数をある程度出していると見えてくんだよ。 だからってアクセスが多い種類ばかり出してちゃあ、捻くれる読者も出るから満遍なく偏らないように書くが、この手の小説は口コミは期待できないからな、自分はこんな小説見てオナニーしますって自白するようなモンだしな。 まあ、とにかく万遍なく種類の枠を増やすくらいがいいとこだな♪ 序に言えば官能ってのは文学と比べると一番大切なことを書いてる割に下種に見られるんだ。 子供はいろんなことから正しい性を学ぶが、決して文学からは性は学びとれない。 文学は心の描写に対して官能は本能の描写だからな。 文学に喘ぎ声を入れた瞬間、全てはボロボロの木っ端微塵てことだ…」
俊介の語りに息を飲んで腕組する千里の豊満な乳房が上へ押し上げられる。
「奥が深いのね官能って… お父さんの書いてた文学が何か悲しく感じるわ…」
前かがみの姿勢を背もたれに戻す千里。
「まあ、人間てのは聖人君子を美学にすっからな~ 聖人君子もパコパコやって受精して出産されるんだが、特に日本人は自分たちが普段やってる性行為を卑下する風習がある割りにオスはメスをメスはオスを常に心の何処かで捜し求めているのに気がつかないんだ。 可愛そうな生き物なんだよ…」
タバコに火を点けながら大きな溜息を漏らす俊介。
「一服したらもう少し書くから、向こうで後で歩き回って女の魅力(ゆれ)を見せてくれや。 ああ、偶には黒のネットもいいけど俺的にはショコラかグレーも好きなんだが、ああ。 あと。 ショーパンじゃなく今度はトレバンもいいな♪ 読者が変態なら書き手も変態になってイメージするのが大事なんだ♪ 書き手は色んな種類の変態にならないといけないからな。 ふっ♪」
タバコを美味そうに吸っては煙を自分の後ろに吐き出す俊介。
十五分後。 俊介は執筆を開始し千里は俊介の要望にこたえるべく全身をプリプリと揺らしながら部屋の中を歩き回った。 熟しきった千里のボディーは俊介の脳を活性化させながらその情報を余すところなく入力していった。 黒いネットパンストに包まれた下半身の揺れは行き場を失い黒いネットパンストの中で弾力として全体に伝わりそしてその弾力が全身に伝わった。 ノーブラのノースリーブの下で無造作に揺れる千里の乳房は周囲の空気を柔らかく震わせ、その揺れを執筆する俊介に感じさせ続けた。 プリンプリンと揺れる千里の尻は肉肌を押さえ付けるショートパンツを内側から狭っ苦しいと俊介の目に陳情を繰り返した。 そして飛び跳ねる千里。 全身がコンニャクのようにブルンブルンと大きく揺れ頑丈な屋敷を崩壊させそうな勢いが俊介に波動を感じさせた。 楽しそうに嬉しそうに笑顔でクルクル踊り回る千里を嬉しそうに見つめてはキーを激しく打ち付ける俊介。 そして仄かに俊介に届く千里の甘い大人の香り。 俊介は千里の揺れを余すことなく活字にしたためた。 そして俊介に近づく千里。 仄かだった甘い香りがその濃厚さで俊介を包むと、俊介は目を閉じてその濃厚な女の香りにしばし酔い痴れる。
「俊ちゃん♪ 触ってもいいのよぉ~♪ ねえ♪ 俊ちゃんてばぁ~♪」
執筆の手を止めた俊介の真横で全身を踊り揺らす千里は楽しそうに、そして恥ずかしそうに持ち上げた左足をプルプルと振るわせ、逆向きになって尻を突き出して腰を左右にプリプリと振った。
俊介は目を大きく見開き無意識に喉をゴクリと鳴らしたが、その音は千里には届かなかった。 俊介は左側で全身を揺らす千里を見て奥歯を噛み締めていた。 すると、千里はそんな俊介に動きをピタリと止め顔を真剣な表情に変えた。
『触っても… いいんだよ! 俊ちゃん! 私を好きなだけ触って! 私を俊ちゃんのモノにして!! 俊ちゃんなら死んだお父さんも許してくれる!!』
千里は真剣な表情を見せ自らの想いを吐き出そうとした。
だが俊介はそんな千里の気持ちを知ってか知らずか、席を立つと逃げるように仕事場を離れ三階にある洗面所で顔に冷水を浴びた。
「仕事を続けるぞ! 今日はもういいから少し一人にしてくれ… プロットを組み替えるから」
事務的な物言いをして席に着く俊介は危うく手を出しそうになった自分のプロ意識を憎みそして後悔を打ち消すように、別シリーズの話しをパソコンの中に開いた。
千里は黙って仕事場から姿を消し仕事場には千里の甘い女の香りだけが残った。 そしてそんな中で、俊介は千里への想いを払拭するかのように、パソコンの中に開いた自分らしくないコンテンツを前に何かを書き足していた。
『親父に書けて俺に書けないはずはない!』
俊介は書いては消しそして消しては書き直したが、時間を経過させるものの一行を書き終えるのが精一杯だった。
『何が面白いんだ… こんなモノ! こんなマヤカシで人の心を躍動させられるのか!』
心の中で亡き父親を罵倒するがごとく自分の無能さに怒りを込み上げさせる俊介は、純文学の参考文献を開いて目を凝らした。
『全く! チンプンカンプンだ! くそ! 俺は無能なかの!? こんなモンに掛ける時間の価値があるのか!?』
参考文献を前に頭を両手でモシャモシャとかく俊介は顔を顰めた。
『第一、たったの百万だぞ! 何年も何十年もかけて受賞しても百万ポッチじゃ合わないだろ!!』
両手の平を机の上にピタリと張り付かせ文献を見入る。
俊介は髪の毛をモシャモシャして席を立つと窓辺に近づいて、窓を開き実を乗り出して庭園を見た。 その時、俊介は本能とは違う何かを庭園で子供のように水撒きする千里の姿に見出した。
『純文学。 もしかしたらこれが文学の入り口なのか!?』
楽しげなに泥だらけになって水遣りをする千里の姿に何かを見出した俊介は、慌てて席に着くと綺麗な言葉で千里を文字で語った。
そして三十分後、俊介は疲れ果てて執筆を中断した。 その二時後、某雑誌社から電話が入った。 新人社員が中途で入ったとかで俊介と年代も近いことから雑誌社側で気を利かしたと言う内容だった。 小説や漫画によくあるパターンだったが、翌日、俊介は千里を年相応の服で担当者を待った。
「初めまして! 白鳥先生♪」
ショートヘアーの二十代半ば、スーツスカートの女性は義母である千里に案内されて三階の仕事場に通された。 水色の膝丈のスカートに同色のスーツ、白いフリルの付いたブラウスに似合う明るい笑顔が光っていた。
「新しく担当をさせて頂くこになった大野真由美です♪ 苗字でも名前でも適当に呼んで下さい♪」
仕事机から席を立って近づいた俊介にペコリと照れ臭そうに笑顔した真由美は名刺を差し出すと、千里の勧めで応接ソファーに腰を下ろした。
「早速で恐縮なのですがフロッピーを御預かりしたいのですが♪」
物事を単刀直入に進める性格の真由美は俊介に視線を重ねると恥ずかしそうに少し俯いて見せた。
「ああ。 母さん。 何か飲み物。 ああ、紅茶を頼むよ♪ 母さん!!」
滅多に千里と母と呼ばない俊介に、千里は自分のことだと思わず無言で立っていると、再び俊介に強めの口調で呼ばれ咄嗟に自分を指差した千里は慌ててその場を離れた。
二人きりになった。
「あの? お母さん… 凄いお綺麗な人なんですね♪ 流石は名門白鳥家って感じで♪」
新人研修で教わった通りの世辞を言う大野と、大野を見る噴出しそうなのを耐える俊介。
「ああ。 親父の奥さんだからね、僕の彼女ではないし。 ところで頼みたいことがあるんだけど」
俊介はテープルを挟んだ正面にいる大野真由美のお世辞を断ち切るように視線を重ねた。
「あ! はい! なんなりと♪」
突然の俊介の頼みに驚いた様子を見せる大野真由美。
「今、書いてる作品。 まあ、義母系なのは真由美(きみ)も知ってると思うけど、近々、二十代の女性を登場させる予定なんだ。 そこで、まあ… 頼みなんだけど、スカートの中… 出来ればソファーかベッドか、まあ。 床でもいいんだけどね。 モデルとして見せて欲しいんだ! 生のイメージが欲しい… ネットに転がってる写真じゃなくて質感が欲しいんだ…」
俊介は単刀直入に大野真由美に頼みの内容を真剣な表情で笑み一つ浮かべずに語った。
「え!? えぇー!? スカートの中ですかあぁー!?」
顔を真っ赤に声を裏返して仰天する大野真由美は背凭れに背中を押し付けた。
「うん。 写真撮ったりする訳じゃあないから安心して欲しいんだけど。 数分間、場合に依っては三十分くらいなんだけど僕のイメージのための被写体になって欲しいんだ。 無理かな? モデルは?」
俊介の言葉に無言で固まる大野真由美は顔を前に視線だけを下に向けた。
「スカートの中… で… すか…… あのおぅ… そう言うのは私ではなく… そう言うお店に行かれた方が……」
怯えた口調で言葉を途切れさせる大野真由美。
「僕の執筆する作品には商売女は登場させたくなくてね。 ちゃんとした女性を登場させたいんだ! イメージはそのまま作品に文字として刻まれるからね。 見せることを生業にしている女性ではイメージが曇ってしまう… それにこんなこと、母には頼めないし… 駄目かな?」
真剣に表情で熱い視線を真由美に向ける俊介。 その視線から逃げるように目を泳がせる真由美。
「すいません!! 私! そう言うの出来ません!! 許して下さい!!」
顔を真っ赤にして両手を膝の上に置いた大野真由美は慌てるように上半身を前に何度も下げて断った。
「そっかぁ… モデルは無理か… 前の担当さんには偶に協力して貰ってたんだけどね。 まあ、そのこともあってお宅の仕事を受けたんだけどね… こないだもう一本別口で頼めないかって相談受けてたんだけど… イメージ沸かないし… 被写体が無いんじゃこっちも無理だね… 前の担当さんはどうしたの?」
足組と腕組して困り顔をしつつ、大きな溜息を放った俊介を追い込まれた子犬のような表情で見入る大野真由美は肩を震わせていた。
「前の方は別の部署に移られて… その… 私が代わりに…」
肩と同様に声まで震わせ始めた大野真由美。
「いや。 いいよ。 忘れてくれても♪ そうだよね、初めて会う人には突然、スカートの中を見せてくれってのはセクハラだよね♪ うん。 御宅の仕事は増やせないからと伝えておいてくれればいいよ♪」
俊介は笑みを浮かべて部屋の緊張感を断ち切ると、立ち上がって移動し仕事用の椅子に腰掛けた。
大野真由美は俯いたまま会社で上司にクドクドと言われたことを思い出していた。
『白鳥作品を二本に増やして貰う。 そのために年代の近い君を起用することになった! 三十代に達したベテランよりも二十代の君の方が白鳥の心を自分たちに向けさせることが出来るのではないか。 君の使命は会社の総意なんだ! 白鳥俊介に二本目を書かせられれば君の試用期間を即刻返上し正規雇用を約束しよう! それに白鳥の担当ともなれば手当てや賞与にも上乗せも期待出来るし、頑張って欲しい!』
編集長の激を頭に思い浮かべた大野真由美は、手ぶらで帰社した時のことに顔色をドンドン変えて行った。
俊介はそんな大野真由美の表情の変化をチラチラとパソコンモニターの向こう側で見ていた。
「お待ち同様~♪ おいしい紅茶が出来たわよ~♪ ああ。 そうそう俊ちゃん、これ♪ ○○出版からと週刊○○から来てたわよ♪」
テーブルに紅茶を置いた千里は郵送されてきた封書を俊介に嬉しそうに手渡した。
「チッ! また増やせって言って来やがった! もう手一杯だって断ったのに! 母さん、これ。 商品券! やるよ母さんに…」
俊介は同封された商品券を千里に手渡すと大きなアクビをして、パソコンに繋がった外付けフロッピーの口にフロッピーディスクを差し込んだ。
俊介は紅茶を飲みながら悩み続ける大野真由美をチラッと見ると、その場の雰囲気が重いことに何も知らない千里は自分の居場所に迷い逃げるように仕事場を立ち去った。 大野真由美は何度も何度も会社で激を受けたことを繰り返し思い起こし、両膝をピタリと張り合わせて肩を窄めた。 右も左も解らない真由美(かのじょ)は残酷な選択の答えを導きだそうとしていた。 そしてその頃、紅茶を飲みながら俊介は事前に来た雑誌社の電話の内容を思い出していた。
「ええ!? それは困りますよ! 突然、担当者代えられたら!」
「ああ。 いや。 白鳥先生の担当者の別の仕事の件は心得ていますからご安心下さい♪」
「ああ。 知ってたの? モデルのこと」
「ええ♪ まあ、担当代えには引継ぎがありますから♪ ただ新人の彼女には伝えていませんから白鳥先生の方で♪」
「ああ。 そうか… それならそうさせて貰うよ」
「まあ、ピチピチとまでは行きませんが~ 前の担当者よりは若いので先生の創作意欲も高まるのではと♪」
「そうだね~ 前の高井さんはもう三十過ぎたしね。 若い女性(ひと)の方が創作意欲は沸くかもだね♪」
「ええ♪ その代わり一つ! 二本目の方を何とかですね♪ お考え頂ければと~♪」
「ああ。 いいよ。 その新人さん次第だけどね♪」
「まあ、味見させろって話しではないですからね♪」
「そだね。 取り敢えず新人さんと交渉して見るよ」
俊介はフロッピーディスクに記録が終わった辺りで、記憶の世界から現実に我を戻すと、思いつめたような大野真由美をチラッと見てからフロッピーディスクを机の上の隅に置いた。
「ハイよ♪ 出来たよ♪ 場かな頼みして悪かったね♪ まあ、紅茶でも飲んでってよ♪ 母さんの入れた紅茶、おいしいんだよ♪」
笑顔で大野真由美に声を掛けた俊介はさっきの頼みは無かったことと言う表現をしてみせた。 すると突然、大野真由美が険しい表情で俊介を見据えた。
「先生! 本当に! 本当に私がモデルになれば二本目を考えて頂けるんですか!」
怖いくらいに真剣な表情と視線を向ける大野真由美。
「うん。 モデルさんを見ながらなら創作意欲も沸くしね。 まあ、作品の中身に依っては一度だけってことじゃないけど… でも、いいよ。 もう」
大野真由美の決心を知りつつも諦めたフリをする俊介。
「もし! もし本当に二本目を考えて下さるなら。 私! 私!」
突然立ち上がった大野真由美は下げた両手に拳を握っていた。
「考えるだけじゃないよ。 ちゃんと二本目を受けさせて貰うよ♪ 君みたいなモデルがいれば書けそうな気がするしね♪」
足組して両手を前側に置いた俊介は真っ直ぐに大野を見据えた。
「それなら! それなら私! 私にモデルをやらせて下さい! エイッ! ぅぐう!」
突然、たったままで自らのスカートを捲り上げた大野真由美はライトブラウンのパンティーストッキングに包まれた下半身をその場で露にした。
大野真由美は目を閉じて堪え切れない恥辱に込み上げて来る辛さを喉の奥に溜め込み、見られているであろう両足を内側に締め付けた。 そしてこの時、大野真由美は閉じた瞼の内側から大粒の涙を床にポタポタと落とし前身を震わせていた。 そしてその光景を目の当たりにした俊介は突然、パソコンの前に姿勢を向けると、物凄い勢いでキーボートーを叩き始めた。 パチパチパチと言う音が目を閉じて泣いている大野真由美の耳に激しく連続して辿りつくと、閉じていた瞼を薄っすら開いた大野真由美は、さっきとは様子の違う恐ろしい程の形相をした白鳥俊介に恐怖を覚えた。 俊介は物凄い勢いでキーボードが壊れるのではないかと思えるほどの音を立てて機関銃のように慌しく文字を刻んでいた。 そして我に返った大野真由美は、自分の姿を眼下に見て込み上げる恥辱にスカートを降ろそうとしたが、自分をモデルに形相を変える白鳥俊介を見て、スカートを降ろさずに逆に再びグイッと捲くりあげた。 そして一時間が経過したが俊介の嵐のような執筆は止まることがなかった。 大野真由美は心の中で「これが作家… これが芸術家なのだ!」と、武者震いをせずにはいられなかった。 そしてそれから更に三十分が経過した頃、俊介はピタリとその手を止めた。
「真由美! これ。 見てみろ! これでいいか!? 二本目は!?」
突然、吐き捨てるように自分を呼ぶ俊介にスカートを待ち上げた手を無意識に離しつつ、足を移動させた大野真由美は、クルリと向けられたパソコンモニターを見て、見る見るうちにその様子を恥じらいに変えた。
『す! 凄い… 流石は白鳥喜三郎の……』
恥じらいつつも自分をモデルに書かれたとは思えない内容に大野真由美は息を飲んで心の中で呟き、活字の中に引き込まれていった。
そして数分後、再び俊介が大野真由美に指示を出した。
「真由美! もう少し書くぞ! いいか! お前はこれに座れ!」
命令口調の俊介は厳しい表情のまま席を立つと、部屋の隅からキャスターの付いた高さ一メートルほどの台に乗せられた一人掛けの椅子を引っ張ってきた。
大野真由美はその高さの意味を明確に理解すると、無言で頷いてから丸椅子を足掛かりにして高さのある椅子に座った。
「スカートを捲り上げろ! そしてこっちを見て両足を広げて座るんだ!」
俊介の大きな仕事机を挟んで、こちら側。 俊介の目の高さに合わせられた椅子に指示通りにすれば、大野真由美はパンティーストッキングに包まれた白いパンテイー越しに恥ずかしい部分を突き出すことになるのを悟った。
「早くしろ! 意欲が失せちまう!」
大野真由美は俊介の恐ろしいほどに真剣な目を見た瞬間、大きな深呼吸をして黙って指示通りにした。
下着の上からとは言え、白鳥俊介が自分の恥ずかしい部分を凝視している。 そう思っただけで大野真由美は身体の中はさっき見た作品の影響もあって、熱く熱を帯び次第に作品の内容の中に自らを溶け込ませ始めた。
『これが官能なの!? これが官能なのね! ああん…… 気持ちいい……』
大野真由美は俊介の強い視線を恥ずかしい部分に感じつつ、パソコンの中に見た自分に自らを重ね合わせ官能の世界へと浸かり沈んで行った。
そして間髪入れずに再び、パチパチパチとキーボードを激しく打ち付ける俊介の指に不思議な快感を覚え始めた。 それはまるで直接、俊介に恥ずかしい部分を弄られているようなそんな錯覚だった。 大野真由美は俊介のキーを打つ音に涙を流して女であることの喜びを噛み締めていた。 それはもう執筆と言う名のメロディーだった。 有名バイオリニストは指で弦を引き全ての情熱を注ぎ込むと言うが、白鳥俊介はキーを打ち付ける指に官能と言う名の情熱を込めているのだと大野真由美は悟りつつ、パンティーの内側に体内から溢れた恥ずかしい液体が滲み始めていることに気づきつつも、時々突き刺さる俊介の視線にその足を閉じることが出来なかった。 そして再び一時間以上の時間が流れた頃、突然仕事場に自分と白鳥俊介以外の気配を感じた大野真由美は、咄嗟に我に帰り両足を閉じようとした。
「お疲れ様です…」
高椅子に座り俊介に大股開きを見せる大野真由美に後ろから声を掛けつつ、右横をすり抜けた千里は神妙な面持ちで、その様子に驚きを見せることなく平然と俊介の横にメモを置いた。
「おお! もう昼かあぁ~♪ 何だ~ また寿司かよ~! さっぱりとソバでも食いたいが仕方ない! 真由美! メシの時間だ! お前も来い! ああ、その前にトイレ行って拭いて来いよ。 濡れてるぞ。 ああ。 母さん。 新品のパンティーとパンスト、真由美に出してやってくんないかな♪ グショグショだからさ~♪」
大きな背伸びをしなながら背居立ち上がった俊介は、真由美の股間を見て千里に声を発し、真由美は顔を真っ赤ににして両足を閉じると慌てて椅子から降りてスカートを元に戻した。
「はいはい了解しました~♪ 真由美さん、着いてきて~♪」
千里は大野真由美を連れて仕事場を離れると、そのまま一階へと移動した。
「あのぉ… お母さんは驚かれないんですか…?」
普段は使わないエレベーターを使った千里は、中で大野真由美に質問されたが動じることはなく落ち着いて返答した。
「彼は女性を嫌らしい目で見ている訳ではないですからね♪ 見たままを見た通りに読者に伝える… そのための被写体でしょうかね…」
静かな物言いで華麗さを極める千里。
「そ… そうですね。 馬鹿な質問しちゃいました…」
急に自分の質問を恥ずかしく感じた大野真由美だった。
大野真由美は千里に連れて行かれた一階の寝室の前で、新品の白いパンティーとライトブラウンのパンティーストッキングを手渡すと、ダイニングに連れて行ってからトイレの場所を教えた。 大野真由美はトイレの中で汚れたパンティーとパンティーストッキングを纏めて脱ぐと、便座に座ってウォシュレットを数回、陰部に勢いよく注いだ。
『芸術家の家族って変わってるわ……』
大野真由美は脱いだモノを千里に言われたように汚物入れに捨てると、新しいモノを下半身に纏ってトイレを後にした。
そしてさっき案内されたダイニングに来るととんでもない光景を目の当たりにした。
「あああああああああ… あのお! な、何してるんですか!?」
恐ろしいモノでも見たげに顔を強張らせる大野真由美は、台所に立つ千里のスカートの真下に仰向けになる白鳥俊介を目撃した。
「ああ。 昼から執筆する他の雑誌社向けの熟女モノの執筆があってね♪ そのためのイメージ作りだよ♪ さすがに真由美だと若過ぎて被写体にならないんだよ♪ まあ、見るだけだからね♪ ああ。 そうそう。 これはプライバシーだから誰にも話しちゃ駄目だからね♪ 僕… ああ、俺も真由美のこと誰にも話さないしね♪」
俊介の悪びれない喋りと笑顔だったが大野真由美は顔色を変え立ち尽くす千里の後姿に見入った。
「そ… そうですか…… す、凄いですね作家って……」
大野真由美は意気消沈し俯きながら自分とは違う世界を垣間見たことにカルチャーショックを覚えた。
俊介はイメージを頭の中で組み立てつつ起き上がると、テープルの席について七人前はあろうかという特上寿司の一つに箸を付けた。 そしてホケットから出した電子手帳に文字を凄い勢いで打ち込み始めた。 大野真由美はその様子に呆気にとられつつ、千里から勧められるがままに寿司を頬張った。 千里は淡々と寿司を口に運び、俊介に話しかけることをせず、大野真由美もまた千里同様に俊介を見つつも何も話さなかった。 そして三十分ほどして千里も大野真由美も満腹を唱えた頃、突然、俊介は手帳をテーブルに置くと物凄い勢いで寿司をパクパクと口に入れアレヨアレヨと言う間に、残っていた四人前ほどを食べつくした。
「母さんお茶!」
満腹を感じた俊介は一言、口を開くと再び台所に立って御茶を入れる千里のスカートの中を床に仰向けで覗き込んだ。 その異常な光景に大野真由美は何か得体の知れない恐怖を感じた。
芸術のためなら義理とは言いながらも母親すらも利用する白鳥俊介に、大野真由美は芸術の奥深さのようなものを感じていた。 そして再び席に戻った俊介は御茶を一口飲むと物凄い速さでイメージを手帳に打ち込んだ。 そして千里は何事も無かったかのように平静、平穏の表情を大野真由美に見せ御茶を喉に流し込んでいた。
【五話】
俊介は珍しく学校に居た。 学生服姿で真剣に黒板を見入る俊介はクラスでは病弱と位置付けられていたが、仕事の忙しさから週に数日しか来ない俊介にとって病弱扱いは願ったり叶ったりの位置付けであって不満は何もなかった。 だが、そんな俊介に密かに想いを寄せる同級生の立花小雪がいたが俊介の眼中にはなかった。 俊介は一分、一秒を無駄に出来ないと言うことから時間の殆どを勉強に費やしていて恋愛どころではなかった。 だが小雪の目には病弱な身体を押して青白い顔して勉強に取り組む俊介の姿は周りに居ない新鮮な印象に見えていた。
「白鳥君♪ 一緒に帰らない♪」
徒歩で学校から出た俊介はいつものように裏路地に入ってからタクシーを携帯で呼ぼうとしていたが、背後から声を掛けられ身体をビク付かせて驚いた。
「え!? 君は… 誰?」
見た記憶の無い俊介は色白の小雪に言葉を失いかけた。
「えぇー♪ ヤーダァー♪ 後ろの席にいるじゃなーい♪ もおう♪」
頬を膨らませて両手を後ろに前かがみになって照れる小雪と、驚いて首を傾げる俊介。
二人は青春ドラマのワンシーンの中に居た。
「ああ。 あっ、は、初めまして…」
咄嗟に出た言葉に俊介は顔を真っ赤にして照れた。
「キャハッ♪ もおうー♪ 一緒のクラスなのにぃー♪」
俊介以上に顔を真っ赤にして逆照れする小雪は俊介の周りを飛んだり跳ねたり忙しく動き回った。
「いや… あの… ごめん」
笑みしながら忙しく動きまわる小雪に言葉が見つからずに立ち尽くす俊介。
「ねっ! ここを真っ直ぐ行くと綺麗な小川があるって知ってた? これからそこへ行かない!? ねっ♪ いいでしょー♪ ねー♪」
俊介の右手首を握った小雪は嬉しそうに俊介を引いた。
「えっ、いや、あの…」
どう対処していいやら解らない俊介は戸惑いつつ引かれるままに足を進めた。
本当は大人しくてクラスでは目立たない存在の小雪だったが、小雪はいつ会えるか解らないと言う想いが募り本当の自分を押し殺し勇気を振り絞って無理して朗らかにそして楽しそうに笑顔していたことを、俊介は知らなかったがプロの作家である俊介はそんな小雪に何故か違和感を感じていた。 そして十五分後、俊介は小雪に引かれてサラサラとそしてキラキラ流れる小川に到着した。
「ここはねえー♪ 私のお気に入り場所なんだよ♪ ここに来ると何もかも忘れられるから♪」
小川を前に斜屈んだ小雪は川を見てそして立ち尽くす俊介を見上げて嬉しそうに語りかけてきたが、俊介は返答に困惑してただ頷いているだけだった。
「どうして僕なんか誘ったんだい♪ 殆ど初対面みたいなのに…」
キラキラ光る小川の流れに小さな手を滑り込ませる小雪に声を窄めた俊介を、嬉しそうに見上げた小雪は突然、黙って深呼吸をするとスッと立ち上がった。
「私! 私! 前から白鳥君のこと。 白鳥君のこと好きだったの…… だから! あの… お話ししてみたくて…」
追い込まれたような表情を見せた小雪は、目の前の小川を前に俊介に告白をし、そして俊介の方に身体をクルリと向けた。
「え!? ぼ、僕を!?」
思いも依らぬ小雪からの告白に俊介は呆然とそして声を失った。
「いいの… 私のこと好きになって貰えなくても… 伝えたかった… 伝えたかっただけだから… ごめん…」
切羽詰まった表情を見せた小雪は俊介を見上げると直ぐに斜屈んで小川に見入った。
俊介はどう答えていいのか解らず黙って水の流れを見つめる小雪を見ているしかなかった。 だが、俊介には目の前の小雪に只ならぬものを感じても居た。 そんな俊介の前に再び立ち上がった小雪は、顔を少し上に上げて瞼を閉じた。 俊介はそれが何を求めているのか悟りつつも躊躇い戸惑った。 そして僕は君が思っているような人間じゃないんだと、真実を打ち明けたい衝動に駆られつつ十秒、二十秒と時間が経過していった。
「キャハッ♪ 私何してんだろ? 馬鹿みたい♪ 今日は付き合ってくれてありがとうー♪」
一分ほどが経過した後、突然瞼を開いた小雪は照れ笑いをして俊介から離れ大きく一礼してその場を立ち去った。
だがその時の俊介は小雪の瞳に光った小さな涙の意味が解らなかった。
俊介は何か釈然としない面持ちでタクシーを使って帰宅したが、小雪のことが頭から離れなくなっていた。 無理して頑張って笑顔で楽しげにしていたことに気づかない俊介ではなかった。
「ああ。 戻ってたの♪ さっき大野さんの雑誌社(とこ)から俊ちゃんに電話来てたから件楽してみてー」
二階自室で着替えを済ませ三階の仕事場にいた俊介を千里が訪ねた。
「なあ、千里。 女の子が男に愛の告白をするってのは…」
俊介はストーリー展開を構築しているようなフリして千里に尋ねた。
「そうねえ~ 人にもよるけど普通は相当の勇気がいることね… 一か八かの賭け。 そんな感じかな~♪」
千里は腕組して俊介の周りを歩き回りながら重々しく答えた。
「じゃあ、突然、告白した後でキスを求めるってのは?」
千里の話しの終わりに続けた俊介。
「ああー。 うん。 その場合は相当、追い込まれているわね~ 周囲からか、自分にか、或いは自分ではどうにもならない何かに直面しているか… 女の子から告白してキスを求めるなんて草々出来ることじゃないわね♪ で、今度は青春物でも書くの?」
腕組みしつつ顎に手を当てて考えながらゆっくりとした口調で伝える千里。
「ああ。 うん。 まあそんなとこ♪」
適当に返事する俊介の脳裏に、水の流れを見つめる小雪の後姿が浮かんでいた。
『応じれば良かったのだろうか… 初めて会った女の子からのキスに…』
俊介は幸とが出て行ったのも気づかずに小雪とのことを考えていた。 そして我に返るとパソコンに電話してと書かれたメモが貼ってあったのを見て、俊介は慌てて携帯を握った。
「いやあぁ~ なかなかの出来ですよ先生~♪ あれで行きましょう♪ こっちとしてはアレでOKですよ♪」
電話が相手に繋がった瞬間、編集長は歓喜をそのまま俊介に伝えた。
「ああ。 先生! それでですね~ うちの大野を……」
俊介は電話口から聞こえる訳の解らない提案に唖然としている内に相手に電話を切られた一時間後、白鳥家を再び大野真由美が尋ねた。
三階の仕事部屋。 目を開いてはキーを叩きそして消去しては再び目を閉じイメージを膨らます俊介の仕事部屋のドアが開いたのは午後五時過ぎだった。 薄いグレーのスカートスーツにリボン付きの白いブラウス。 両足を包むアッシュグレーのストッキングを履いた大野真由美の存在に気づかずに淡々とキーを叩く俊介が大きな背伸びをして初めて大野の存在に気づいた。
「お前なんか要らねえよ… 全く! 何考えてんだよお前んとこの親父はよぉー! 一日中、お前の顔見てたら仕事みてえで休めねえだろうがぁ!」
不機嫌そうに大野真由美を見ることなく引き出しからタバコを出して火を点ける俊介。 それを見て驚く大野真由美。
「ああーー!! せ、先生ー!! 駄目! 駄目ですよおー! 高校生がタバコなんか吸っちゃぁー!」
タバコを吸い始める俊介を見た大野真由美は両手に持った荷物を床にバサッと落とすと俊介の傍に駆け寄った。
両手を広げて慌てふためく大野真由美。 そして無視する俊介。
「先生! ね! ね! タバコなんか止めましょうよ! ね♪ ね♪」
美味そうにタバコを吸う俊介の身体に触ることの出来ない大野真由美は慌てそしてオロオロを繰り返しそれを続けた瞬間、突然の俊介の怒号に仰天してつまずいて床に尻餅ついた。
「煩せえぞおおぉぉーー!! この女あああぁぁーーー!!」
突然の俊介の怒号にスカートの中を露にして尚、気が付かない大野真由美は身をかばうために着いた両腕を震えさせていた。 そして次の瞬間、俊介から浴びせられた一言に顔色を青ざめさせた。
「こんなモノを高校生に書かせるのはどうなんだあああぁぁー!!!」
呆然と見上げていた大野真由美の耳と脳に突き刺さるように放たれた言葉は大きな仕事場に響き渡った。 そして俯いて立ち尽くす千里が机の前に居た。
「こんなモノを高校生に書かせておいてタバコは吸うなってかぁ~ どの顔下げて言ってんだ! ここには二度と来るな!! 出て行け! 出て行かないと二本とも書かないぞ!! 何が出向の家政婦兼、担当者だ! フザケんなってんだ!」
俊介は椅子をクルリと回して大野真由美に背を向け、ドア近くに立ち尽くす千里は悲しげに困惑する表情を見せ、大野真由美に近づいて首を数回左右に振ると手を差し伸べた。 千里も見たことのない俊介の形相に千里自身、ショックを受けたがそれ以上に俊介に寄り添って暮らす自分が憎らしく思えた。 千里は大野真由美の荷物を一つ持つと仕事場から黙って出て行った。 そして一階のリビングで俊介の言葉に愕然とする大野真由美を慰めていた。 すると数分して三階の俊介から電話が来た。
「真由美はカレーは得意かと聞いてくれ! ポークがいいと言え! 無理なら帰していいぞ。 もう少し書くからここへは来るな!」
千里は俊介が本気で怒った訳ではないことに笑みして大野真由美に伝えると、大野真由美は目頭を熱くし涙をこぼして大きく頷いた。
『少し薬が効きすぎたかな…』
パソコンを前に一人、思い出し笑いする俊介はだらしなくスカートの中を見せた大野真由美のイメージを再び活字に変えた。
忙しくキーボードを叩く俊介は蒸れていそうなグレーのパンストに包まれた白いパンティーのクロッチ部分を脳裏に膨らませていた。
「ああん! やめてぇ! 先生! やめて下さあーーい! あああんっ!!」
「クッククククク♪ 臭せえ臭せえぇ♪ クッククククク♪ 物凄い匂いだ~♪」
「いやあーーん♪ そんなとこ! やめてぇー! 汚いからやめて下さーーーい!」
「ゲヘヘヘヘ♪ 臭い臭い臭ーーーーーい!! 堪らんこの匂い♪」
女子医療事務員を個室に呼んだ色ボケの病院理事長はソファーに押し倒してグレーのワンピースを巻くり上げると、グレーのパンティーストッキングに包まれた彼女の両足をグイッと掴んで大きく広げさせた。 事務員は顔を強張らせて抵抗しつつも高齢理事長に思い切った抵抗を出来ぬまま、恥ずかしい部分を守る白いパンティーに顔を埋められ、そして体温(におい)を奪われた。
「イッヒヒヒヒヒ♪ 一日中の汚れが凝縮しておるわい♪ あっひゃひゃひゃ♪」
「やめて! 先生! やめてえぇ… ぅぅぅううう…」
「泣け! もっと泣け~♪ 女は泣けば泣くほどココに汗をかくからのおぅ~♪」
「ああーーーん! いやああぁーーん!!」
色ボケ理事長の鼻先はグレーのパンスト越し白いパンティーにグイッと押し付けられると、事務員の恥ずかしい部分は「クチュッ…」と、嫌らしい音を放った。 色ボケ理事長は顔を左右に振って鼻先をグイグイと押し付け恥ずかしい部分を刺激し続けた。 そして逃れようと動けば動くほどに事務員は下半身を知らぬ間に露出させた。 理事長の手が事務員の下半身を包むパンティーストッキングをビリビリと破り始め、事務員は唇を震わせながら逃げようと抵抗を続けた。
「ホリャホリャホリャァ~♪ あっひゃひゃひゃ♪」
色ボケ理事長は歓喜して抵抗する事務員の下半身からグレーのパンティーストッキングを小刻みに破り伝線させた。
「いや! いや! いやああぁぁーーー!!」
髪を振り乱し泣き叫んで抵抗する事務員の左足は高齢とは到底思えない力で掴まれ手の跡が残るほどだった。 色ボケ理事長は事務員のパンスト破りを歓喜して続け程よいところでそれを止めると今度はワンピースの裾と白いスリップを思いっきり首方向へ巻くり上げられた。 事務員は見る見る間に玉ねぎのようにワンピースに包まれ頭の上に両腕を上げたまま、事務員の右足から剥ぎ取られたパンストの残骸は彼女の両腕を縛りつけた。 彼女は顔を自らのワンピースに覆われ目隠し状態のまますさまじい恐怖に見舞われ絶叫した。 だが勢い付いた色ボケ理事長は動けなくなった彼女のブラジャーを上にズリ上げると、晒された見事なまでの白い豊満な乳房を前にゴクリと喉を鳴らした。
作品とは全く無縁であっても活字にすることでイメージトレーニングしている俊介だった。
「美味しい! すごーーーい♪」
一階の厨房では大野真由美のポークカレーの出来に千里は飛び跳ねて喜んだ。
「先生の口に合えばいいんですけど…」
神妙な面持ちを見せる大野真由美は千里に視線を合わせて直ぐに俯いた。
そして夜の七時。 無言のまま一階のダイニングに足を運んだ俊介は大野真由美を見ることなく席に着くと、千里に声を放った。
「家政婦兼の担当者なんだろ。 任せておけばいいんじゃないかな…」
俊介の言葉に千里はチラッと不安そうに大野真由美を見て頭を下げ席についた。 そしてカレーが盛られて俊介の前に置かれた瞬間、俊介が声を窄めた。
「ここの家長は向こうさんなんだぜ… 家長に先に出すのが礼儀だろ… 全く常識もなにもあったもんじゃないな!」
俊介の言葉に千里は大野真由美に頷いて見せると、俊介の前からカレーを千里に移動させた。
「馬鹿野朗ーーー!! 一旦出したモノを移動させる家政婦が何処にいるんだよ!! 一旦下げてから気づかれないように出すか盛りなおして出すのが礼儀だろうがあ!!」
両腕をテーブルに置いたまま怒声を発した俊介にビックリして俯く千里となみだ目になる大野真由美。
「先生の言うとおりです… 申し訳ありません… ぅぐう… ぅぅぅううう…」
俊介の左に立って大きく頭を下げると泣き出した大野真由美。
「ちょっと俊ちゃん!! いい加減にしなさい!!」
テーブルの下で両手に拳を握る千里は我慢出来ずに俊介を叱責した。
「だったら! 家政婦だなんて軽々しく口にするなと言っている! どんな仕事でも奥が深いんだ! 家政婦と言う事で来たんなら家政婦の訓練、礼儀作法の一つでも勉強してくるのが礼儀… だったら家政婦なんて言わずに家事手伝いと言えばいい。 純文学も推理もオカルトもコメディーも専門分野があってそれを勉強した者だけが名乗ることが出来るんだ… 上手い下手は別として名乗るからには責任を持てといっているんだ! 違うか!」
千里は俊介の言葉に自分がした叱責を恥じ、そして大野真由美は涙を落として尚、目を大きく見開き俊介の正しさに突然、床に土下座して頭を床に擦りつけた。
「俺は官能作家だが、俺の作品をけなすヤツもいる居るし小馬鹿にするヤツもいる。 だが支持してくれる読者もいる。 上手い下手はどうでもいいんだ… それなりにでも読者を満足、或いは楽しませられればそれは名乗れる証なんだ。 それだけだ。 早く俺のもくれ…」
大野真由美は床に頭を擦りつけ俊介の話しに心から軽率な自分を恥じそして詫び、千里は返す言葉もないほどに息を潜めた。
だが大野真由美は数分後、俊介の一言に報われた想いを涙に代えた。
「おおおー! こりゃぁー美味い!! この味ならカレー屋と名乗ってもいい腕前だ!」
何処にでも転がっていそうな臭いこのシーンは後に、大野真由美の人生に大きく関わってくることになることを誰も知る由はなかった。 だがこれもまた何処にでも転がっている言葉の一つだった。 俊介はこの後、千里に大野真由美の部屋を用意することを提案し千里は何故か感動して嬉涙を頬に伝えた。 娯楽の少ない千里にとって一つのストーリーに入り込めたことに感涙したようだった。
【六話】
担任は具合が悪ければ早退してもいいと青白い顔の俊介を気遣ってくれたが、俊介はこの日、徹夜で執筆をして作品を仕上げてきたばかりで普段なら病欠するはずの俊介だったが、俊介には学校へ無理してでも来たい理由があった。 だが、その理由は呆気なく消え失せた。
「あの先生… 僕の後ろの人は?」
担任教師を前にした俊介。
「ああ。 立花か… 立花も白鳥(おまえ)同様に身体が弱くてな… 今日は病欠すると連絡があったな…」
小雪の席を見てから俊介を気まずそうにチラッと見た教師はそのままさの場を離れた。
俊介はガックリと肩を落とすも、せったく来たのだからと真剣にその日の勉強を終え、職員室へ足を運んだ。
「立花の家かぁ……」
担任教師は立花小雪の名に何故か表情を曇らせたが、俊介は見舞いに行きたいと小雪の家の住所を担任教師から聞くと、学校を出てそのままタクシーで花屋へ。 三十分後、小雪の家の前に来た俊介は家の前をウロウロした後、意を決して玄関のチャイムを鳴らした。
「小雪の同級生の? ごめんねー♪ 今、病院で… え!? 白鳥くんてもしかしたら白鳥喜三郎先生の?」
俊介は花を母親に手渡すとそのまま帰路についた。
小雪は俊介のことを普段家で話し、小雪の母親は故・白鳥喜三郎の読者であったことを俊介は知った。 小雪の母親は看病疲れが顔に出るほどやつれていたことに俊介は内心驚いていた。 そして翌日もその翌日も俊介は学校に小雪を尋ねたが、小雪の姿は何処にもなく、執筆の締め切りも迫っていた俊介はその翌日は学校を病欠して仕事場の机に向かっていた。 だが、小雪のことが頭から離れない俊介はとても官能をイメージ出来る状態ではなかった。
「駄目だ、駄目だ、駄目だぁー!! くそおぉー!!」
熟女をイメージし描写をはじめものの、イメージした熟女に小雪の寂しげな表情が何度も何度も重なった。
千里は俊介の苛立ちの原因が解らず黙って見守っていたが、その日は一行も書けず俊介は二階の自室に身を移し閉じこもった。 そんな最中、白鳥家を一人の女性が訪ねてきた。
「夜分、遅くに申し訳ありません… こちらに俊介さんと言う……」
応対に出た千里は立花小雪の母親を招きいれた。
「これは娘の小雪が息子さんに花のお礼だと…… ぅぅぅうううう……」
千里は小雪の母親の只ならぬ様子に、大野真由美を二階の俊介の自室に向かわせた。
「先生! 開けて下さい!! 先生!!」
「ええー!? 何だってぇー!?」
大野真由美の話に二階から一階へと慌てた俊介は、小雪の母親から貰い泣きした千里と小雪の母親を見て只ならぬものを感じた。
「俊介さん! お願いです! お願い一緒に! 一緒に来て下さい!! お願いします!!」
俊介を前に号泣する小雪の母親は絶叫した。
「俊ちゃん!! 行ってあげて!! 大野さん! 車庫から車を玄関までお願い!」
千里からキーを受け取った大野真由美は血相を変えて向かい、泣き崩れた小雪の母の手を取った千里は俊介共々、家を出た。
「大野さん! 後のことはお願いね!!」
千里の運転する車に同乗した小雪の母親は隣りに座る俊介に小雪の危篤を伝えた。
そして小雪が俊介への想いを綴ったとされる一冊の日記帳を俊介は受け取った。
顔を両手で覆う小雪の母親の横で、俊介は小雪の一冊の日記帳を開いた。 そこには俊介への想いがビッシリと書き綴られていた。
千里の運転する車は枝道を潜り抜け大きな通り一路、病院へと向かった。
本来なら危篤の娘に付き添ってやりたい母親の心境を思うと千里は踏み込んだアクセルを戻すことが出来なかった。
そして数十分後、病院に到着した車は投げ捨てられるように止まった。
「こっち! こっちです! こっちです!!」
半狂乱で廊下を走る小雪の母親は俊介と千里をと招きして病室へと導いた。
バタンッ!!
小雪の居る部屋のドアが開かれると、そこには医師と看護士の他に一人立ち尽くす父親の姿があった。
「小雪!! 小雪!!」
声が枯れるほどに取り乱した母親は小雪の手を握り締め青白い小雪の顔を見舞った。
部屋の入り口に立ち尽くす千里を一瞬振り向いた俊介は無言で母親の横に移動すると、瞼を一生懸命開こうとする小雪に視線を重ねると黙って額にキスをしてニッコリと笑顔し、小雪の瞳からキラキラ光る宝石のような涙が頬にゆっくりと伝わった。 そしてそれを最後に小雪の瞼は静かに閉じた。
「八時四六分。 御臨終です…」
心拍数ゼロの警報が鳴り響く中、医師と看護士は一例すると警報機を止め無言のまま部屋を出て行った。
「小雪いいぃぃぃぃぃーーーーーーーーーー!!!」
小雪から離れた俊介の前に割って入った小雪の母親は絶叫しそして狂乱し、父親はその場に崩れた。 俊介は母親と父親だけを残し部屋を出るとドア横の壁に背を持たれて肩を落とし左肩に千里は寄り添った。 部屋の中からは利用真の泣き叫ぶ声だけが響いていた。
「白鳥君♪ 一緒に帰らない♪」
「キャハッ♪ もおうー♪ 一緒のクラスなのにぃー♪」
「ねっ! ここを真っ直ぐ行くと綺麗な小川があるって知ってた? これからそこへ行かない!? ねっ♪ いいでしょー♪ ねー♪」
「ここはねえー♪ 私のお気に入り場所なんだよ♪ ここに来ると何もかも忘れられるから♪」
「私! 私! 前から白鳥君のこと。 白鳥君のこと好きだったの…… だから! あの… お話ししてみたくて…」
「キャハッ♪ 私何してんだろ? 馬鹿みたい♪ 今日は付き合ってくれてありがとうー♪」
俊介の脳裏に新しい記憶は風に回る風車のように繰り返えされた。 そしてその風車を止めるように中から出てきた小雪の母親が扉の前に立って口を開いた。
「今日は… 来て下さってありがとうございました…… 娘も幸せだったと思います… 小雪は、俊介さんとクラスで顔をあわせた時、これが最後のチャンスだと母親である私に電話をくれたんです… 残された時間の中での最後の機会だと… 大人しくて口下手なあの娘(こ)が、電話の向こうで私に元気一杯にリハーサルをしたんですよ~♪ ぅぅうううう… 笑ってしまいますね♪ ぅぅぅうううう…… リハサールして俊介さんに想いを伝えるんだって… 電話の向こうに居た娘は別人のように明るくて死期が近づいているなんて思えないほどで… でも、ちゃんと俊介さんに想いは伝えたよって… そして帰宅して直ぐに…」
俊介は小雪の笑顔を彼女の母親の言葉に重ね合わせ目頭を押さえゆっくりした吐息を振るわせた。 そしてストンッと壁を滑るように斜屈むと両手で顔を覆い隠した。
「この日記帳を貰ってやって頂けませんか…」
斜屈んだ俊介の前に小雪の日記帳を差し出した母親。 それを見ていた千里がその日記帳を横から奪い取った。
「娘さんのことは御気の毒だと思います… でも、うちの俊介に娘さんの面影を背負わせるのは許して頂けませんか!」
千里は奪った日記帳を小雪の母親に押し返すと、自力で立てない俊介の手を引いて逃げるようにその場を離れた。
日記帳を両手で抱いた小雪の母親は愚かなことをしたと悔い、日記帳(こゆき)に詫びるようにその場に崩れた。
俊介は小雪の日記帳の数ページの中に記された「頑張れ♪ 白鳥君! 病気なんかに負けるな!」と、言う文字に申し訳無い気持ちで張り裂けそうだった。 仕事のために仮病を使っていたことを心底から恥じそして悔いた。
「千里! あの日記帳… 借りられないかな…」
俊介の言葉に千里は無言で車をUターンさせると再び病院へと向かった。
貰うことは出来ないがせめて彼女の言葉を聞いてやりたいと俊介は思った。
「彼女の死は僕には重過ぎます… でも、彼女の言葉を聞いてあげたいのです…」
千里を車に残して病室に戻った俊介は黙って日記帳を父親から手渡されその場を立ち去った。
芥川賞作家・故・白鳥喜三郎が一子、白鳥俊介の文学作家としての分岐点は立花小雪の死によって偶然にもこうして齎された。
後に白鳥俊介は官能作家と文学作家の二束のワラジを履きつつ、文学界に故・白鳥喜三郎が本名である白鳥重三の作家名で数年後に登場することになる。
処女作を「小雪」と命名して。
千里の車で帰宅した俊介は黙って日記帳を持ったまま二階の自室へ消え、千里は出迎えた大野真由美に言葉少なに事実を伝えこの日を終焉させ、この日を境に俊介は塞込む日々を過ごしていたが、仕事はそつなくこなしていた。 だが仕事以外の時間の殆どを仕事場ではなく自室に篭り何かに没頭していたが、千里や大野真由美の知るところではなかった。 そして俊介の部屋のベッドの周りには彼に似合わない古本が山積みされ広い寝室は足の踏み場も無いほどに変わっていったが、立ち入りを拒まれていたことで俊介以外は知る由もなかった。 そして翌日、仕事場に居た俊介は千里を椅子に座らせて執筆を始めた。
「確かに鳴き声一つ上げなかったよ… それに間違いなく身悶えも無かった…」
隼人はガックリ来たように肩から力を抜いて両腕を縛られている義母である早苗を跨いで俯いた。
「……」
早苗は肩で息を繰り返しつつ、物凄い目で義理の息子を睨み付ける義母の早苗。
一時間にも及ぶ隼人の早苗に対する舌と手だけを使った愛欲は終焉し一見にして義母の早苗の前に敗北を認めたかのような隼人だったが、この後、直ぐに急展開を見せた。
「ぅぐう!! な! 何するのおぉー!! 嫌! やめて! やめてえぇー!!」
突然、隼人は目の前に横たわる早苗の下半身からパンティーストッキングを引く剥くと、続けて早苗を守るパンティーに手を掛けそしてそれを剥ぎ取った。 早苗は両足を内股にして隼人の視界から陰部を隠すように腰を横に目を吊り上げた。
「人で無しいぃー!! こんなことするなんて!!」
目を吊り上げて隼人を睨み付ける義母、早苗は甲高い声で隼人を罵った。
だが早苗の前に剥ぎ取ったパンティーを手にする隼人は突然、ニヤリと不適な笑みを浮かべ早苗は身の危険を感じて背筋を凍らせた。
「確かに声も上げず身もだえもしなかった… じゃぁ! これは何だあぁーーー!!」
隼人は怒り露にする早苗に、早苗から剥ぎ取ったパンティーの内側を見せそして怒声を上げた。
「え!? そ! そんな! それは… でもそれは最初の貴方の条件には入ってないわ!!」
ベッタリとパンティーの内側に張り付いたヌルヌルした透明な液体を見た早苗は声を裏返した。
「ふっ! 何を言うのかと思えば… これだけ愛液を溢れさせて… これでも俺の母親でございますと言うのか…」
隼人は剥ぎ取ったパンティーを突然、早苗の顔に覆い被せるとパンティーストッキングで縛り付けた。
「うぐう!! オエェー!! 外して、外してえぇー!! 汚ーーーーい!! オエエェーッ!!」
グッショリと濡れた自分のパンティーを被せられた早苗は激しい嘔吐に見舞われ首を振って助けを求めたが、隼人は静観しつつ早苗の両足をグイッと広げると、恥ずかしい部分に舌を押し付けそして慌しく中に張り付いた液体を舌先で絡め取って口の中を回しニヤリと笑みを浮かべた。
「嫌、嫌、嫌ああああぁぁーーー!!! やめて、やめてえぇぇー! ああああんっ! あああんっ!!」
小便臭い塩気の利いたそれでいてキムチのような辛味のある甘臭い割れ目の汚れは時折、隼人を咽させたが隼人は舌を止めることなく早苗の内側の汚れを舐め続けた。 早苗は絶叫して泣き叫びつつも悲しいかな女の鳴き声を混ぜ合わせ隼人を混乱させたが、次第に早苗の鳴き声から泣き声は消えて行った。
白く柔らかい早苗の内モモに両手の指が包まれるように馴染むころ、早苗は内肉に滑る舌に髪を振り乱し腰をガクガクと大きくそしてプリプリと豊満な乳房を無造作に揺らした。 隼人の両手は内モモから外モモへ滑りそのまま尻へと移動すると手入れされた陰毛にムシャブリ付いた。 塩気の利いた割れ目の端からの匂いを嗅ぎつつ弾力のある尻肉の感触に酔いしれる隼人は早苗の陰毛に染み込んだ女の味に夢中になった。 そしてその舌を再び乳房に滑らせれば乳首に絡めた瞬間、早苗は「あひぃ!」と、一瞬にして乳首を勃起させコリコリ感を隼人に伝えたが、隼人のペニスもまたいつでも挿入出来る状態に維持されていた。 生意気な義母を自分の女にすべく隼人の肉棒はトムケソーヤのごとく怒り起っていた。 だが、隼人は直ぐにトムソーヤを使わずに早苗の両足と尻、背中に脇腹、脇の下と余すところなく味わいそして女の香りに前頭葉を刺激し続けた。 早苗は全身への蕩けるな舌使いにグッタリしつつ恥ずかしい部分。 その奥からオビタダシイ量の愛液を溢れさせトムソーヤの出番を早苗は体内の細胞レベルで待ち望んだ。 そして間もなく隼人の意思を受け継いだトムソーヤはミシシッピリバーを横断しようと濁流の肉穴へと紫色の頭を滑り込ませた。
「ズブリユウウゥゥゥゥーーーー!! ヌプヌプヌプ!」
「ちょっ! ちょっとまってよー! このトムソーヤっての止めたほうがいいんじゃないかな… 何か白けるって言うか…」
前に居たはずの千里が突然俊介の横から口を挟んだ。
「それにこのズブリユウウゥーってのが何か毎回同じパターンだよね~ 何かこうもっと違う言い方ないかな~」
モニターを指差す千里の顔を左に見る俊介は、大きな溜息をしてタイピングの手を休めた。
「仕方ないだろ… 挿れたことないんだからさ…」
左に居る千里にショゲた顔見せる俊介。 そして俊介と目が合って頬を紅く染め照れたる千里。
「そ、そかそか… そうだよね… ごめん…」
見る見る間に顔を真っ赤にする千里。
「冗談だよ♪ あっはははは♪ 遠まわしに描写するならいくらでも方法はあるんだけどさ、ただ解らない読者もいるだろうし、全員が性経験豊富って訳じゃないしな♪ それに男と女じゃ感じ方も違うだろうけど、男女に解り易く伝えるってことでは一番ベターなんだよ♪ 作家も少しずつだけど勉強してるんだから読者も勉強してくれると助かるんだが… 何処かの作者の書き方をそっくり持ってきて他人の作品に当てはめるから読めない読者も存在するんだよ♪ 一つのシーンに何行も使うことを喜ぶ人も居れば単刀直入に済ますほうを好む人も居るからな♪」
顔を真っ赤にして照れる千里に怒ることなく語り聞かせつつタバコに火をつけた俊介。
「何だ? 他にも何かあるのか?」
何か言いたそうな千里に余裕の笑みを浮かべる俊介。
「何か、いつもパンティーストッキングが登場するんだけど…」
恥ずかしそうにスカートを押さえる千里。
「あっははははは♪ ああー♪ うんうん♪ そだな♪ それはさ♪ 読者に合わせててるからだよ。 何か知らんが最初の頃に書いたらそれが受けたんでそれ以来ずっと続いてる♪ 自分の書きたいことを書く作家に読者が合わせるんじゃなくて、読者が読みたいモノを作家が合わせて書くのが俺が心情。 作家たって所詮はサービス業♪ テレビやラジオと一緒だよ♪ 俺の読者の九割以上は男も女も含めて複雑なパンストフェチばかりだからな♪ 男はパンストを破く瞬間が大好物で、女は破られて見たい願望を抱く。 口には出さないが男も女も人、それぞれなんだほよ♪ ストッキングの伝線て女にとって恥ずかしいモノだろ? その恥ずかしがる顔を男は見たがるし、女は恥ずかしいが心の中で気持ち良いに変化する… だから、例えばベッドに女が一人寝ているとして素っ裸の人を襲うシーン。 素っ裸だと余りソソらない男が多いのに対して、服を着ている女から衣類を脱がす、例えば引き裂くとかの方が読者が男の場合はソソる。 逆に女性の読者は自分を被害者に重ねて、妄想するからそれの方が喜ぶ♪ 男も女も強姦するほうもされる方も小説の中では素っ裸よりは着衣してる方が萌えるんだよ♪」
千里の質問に照れながら返事を返す俊介に輪を掛けたように恥ずかしがる千里。
「よし! じゃあ早速で悪いが、俺に恥ずかしがる熟女の表情(かお)を見せて貰おうか♪」
突然の俊介の指示に千里は驚いて頬を両手で覆うと後ずさりを始めた。
「おいおい♪ 裸にしないよ♪ あっはははは全く♪ ちょっとこっちに来いよ」
席を立ってソファーの傍に来た俊介は千里を座らせると、体育座りさせてスカートの中に両手を入れた。
「ちょっ、ちょっと俊ちゃん! えっ!? なに!? え!? やだぁーん!」
自分の目の前の床に片膝立てた俊介にスカートの中が丸見えになった千里は、赤面して両手で顔を覆うと両足を閉じようとした。
「ビリッ! ビリッ! ビリッ! ビリビリビリ!」
俊介は真剣な視線を千里に重ねると突然、千里の下半身を包むブラウンのパンティーストッキングを小さく破り始めた。
千里は顔を覆った両手の隙間からパンストを破く俊介を見て、カアーーーッと顔を熱くさせ恥じらいつつ、破られるパンストからの跳ねつけるような小さな痛みに不思議な心地よさを覚えた。 俊介は両足の外側から小さく破り足の甲まで進めると、今度はグイッと両足を広げさせ千里の内モモに両手の爪を引っ掛けて再び小さく小刻みにパンティーストッキングを破りされを足のつま先まで続けた。
「流石に千里(おまえ)の股間には触れないから両足だけにしたけど、ホラ見てみろよ♪」
スカートの中を映し出した鏡を見た千里は熱く火照った顔を更に熱くして恥じらい身を竦めた。
俊介は千里の恥らう表情(かお)を見た瞬間、慌てて席に戻ると物凄い勢いでキーを叩き始め、それから数分が経過した。
「千里! スカートを脱いでブラウスのボタンを全部外して体育座りして見せろ!」
俊介の言葉に俯き加減で恥じらいつつ千里は言われた通りにすると、再び俊介から注文が飛び込んだ。
「右肩からスリップとブラの紐を外して見ろ! オッパイは出さなくてもいいからな♪」
ショックを受けた千里は目を大きく見開いて固まった。
「どうした? 恥ずかしいのか♪ 下半身♪ 凄い伝線してるもんなー♪」
俊介に視線を重ねた千里は目を潤ませ始めていた。
「レースのパンティー 丸見えだぞ♪ あっははははは♪」
目を潤ませつつもう注文が来ませんようにと祈る千里は肩紐を外して心細そうな表情を見せた。
「よおーし♪ 今日は特別にもう少し辱めてやるか~♪ 股間の匂い… 嗅がせてもらおうか…」
席を立ち上がって近づいた俊介を恐々と見つめる千里は咄嗟に両足を閉じて外した肩紐を直した。
「どうした! 開けよ! 匂い嗅げないだろ!! 熟女の本物の匂いを嗅がないと描写できないだろ!! ああ。 そうだついでに乳房も見せて貰おうかな♪ 乳首も吸わないと味が解らんし♪」
俊介は目を据わらせて上から千里を見下ろし怖がらせた。
「もおう…… もういい加減にしてえぇ!! もうヤダアアァー!!」
突然、泣き出してソファーから飛んだ千里は脱いだモノを持つと後ずさりして怒鳴った。
「あーーーっはははははは♪ そう! そう言う窮地に陥った女の表情が何よりも読者をソソらせるんだよ♪ 服着ていいぞ♪」
部屋から飛び出そうとした千里を大笑いして種明かしした俊介。
俊介はヤオイ物が好きで集まっている読者のことを千里に説明すると、今日は三百人の読者が減っていることを暴露した。 八百人くらいで推移していた読者が、自分に見切りをつけたのだと千里に教えた。 それは自慰をしたくて集まった変質者の群れだと俊介は爆笑した。 義理の母親が犯されて落ちていくのを見たいだけの変質者の集まりも読者には多いと俊介は語った。 そして彼らの彼氏、彼女は指なのだと俊介は今日もホムペに小説を掲載した。
【七話】
「先生、お呼びですか?」
俊介にインターホンで千里伝いに呼ばれた大野真由美はすっかり白鳥家の家政婦と化し顔つきも相当穏やかになっていた。
「ああ。 モデルを頼みたいんだ。 そのままの格好でいいからベッドに乗ってくれ」
席を立ち上がってモデル用のベッドに近づいた俊介は、斜め座りしている真由美の周りを視点決めでグルグル回り始めた。
真由美は普段言われている通り俊介の存在を忘れたたかのように視線を敢えて外していた。
「よし! この辺りでいいか… 真由美、悪いが両手を後ろに回せ。 ああ。 うん。 それでいい…」
ベッドの上に正座した俊介はシーツの上に置いてあったソフトロープでその両腕を縛り始めた。
「えっ?」
突然、両腕を縛られた真由美は不安げに首を左右に回しつつも質問せずにジッとしていた。
「よしこれでいい! ソフトだから痛くないだろ…」
俊介は縛った部分を確認して今度は真由美の正面に立ち膝した。
「あの先生、今日は何を? えっ!? え? え? えぇー? えええぇーー!?」
目の前に立ち膝した俊介は真由美の疑問に答えることなく突然、真由美をベッドに押し付け両足首を掴んで真っ直ぐに伸ばした。
両腕を後ろに縛られたまま両足を伸ばした格好をさせられた真由美は、何も答えようとしない俊介に普段とは違う違和感を抱いた。 すると両膝を跨いで立っている俊介は正座してその両足を固定した。
「先生! な、何か今日の先生変です! 先生!」
真上から自分を見下ろす俊介に異変を感じたようにオロオロしはじめた真由美をニヤニヤする俊介。
「今日はモデルと言うよりは試食品になってもらうよ♪ 本物の女の肌ま匂いと味を勉強させて貰うよ♪」
妖しい顔つきを見せた俊介に違和感を激しくさせた真由美は俊介の目にゆましさを感じた。
「冗談止めて下さい! 私! こんなことされるならモデルなんかお断りします! 解いて下さい!」
俊介に恐怖を感じた真由美は突然、上半身を起こそうとしながら不機嫌な声を俊介に浴びせた。
「だから言ってるだろ~♪ 今日は試食品として俺に肌の匂いを嗅がれて舐めまわされるんだって! あっははははは♪」
俊介は笑みを浮かべて真由美のブラウスのボタンを外し始めた。
「ちょっ! いい加減にし下さい!! 先生! やめて下さい!! ちょっ!! 先生ーーー!!」
ブラウスのボタンは一つ、二つ、三つと外され白いスリップのレース部分が晒され始めた。
「なんていい匂いなんだ…… 甘い香りが切なくなる…… 編集長がさ。 煮て食おうと焼いて食おうと好きにしていいってさ。 お前のこと♪ だから恨むんなら俺じゃなく編集長を恨むんだな♪」
四つ目のブラウスのボタンを外した俊介は面倒だとばかりに突然、ブラウスを左右に大きく開き残りのボタンを弾き飛ばした。
「そ、そんな! え! ちょ! や、やめてえぇー!! 嫌あぁぁーーー!!」
顔色を真っ青に変えた真由美は普段とは別人の俊介に顔を強張らせ歯をカチカチ鳴らして肩を震わせた。
「おいおい♪ まだブラウスだけだろうが~♪ 大げさな女だな~♪ 叫ぶんなら乳房を晒されてからだろ♪ あっははははは♪」
俊介は満面の嫌らしい笑みを浮かべて両手を真由美の肩に這わせた。 そして中指にスリップとブラジャーの肩紐を引っ掛けると再び堪えきれないとばかりに笑みを浮かべた。
「やめて!! やめてえええぇぇーー!! いやあああぁぁーーー!!」
両肩から肩紐を外された真由美は俊介の前に小さな膨らみを露にさせられ顔を顰めて叫んだ。
「なんて可愛い乳房してるんだ~♪ 初めて見る本物の乳房だ~♪ しかもピンク色してやがる♪ ウッヒヒヒヒ♪」
露にされた乳房を真上から甞めるに見回す俊介に真由美は顔を強張らせて涙を頬に伝え始めた。 だが突然、そこでドアが開いた。
「お母様! 助けて下さい!! 先生が! 先生がおかしいんです!! 助けてえぇー!!」
突然入ってきた義母の千里は乳房を露に俊介に馬乗りされている真由美を見て、慌てて近づくと、チラッと真由美を見てから俊介の顔をマジマジと見た。 そして呟いた。
「お楽しみのとこ邪魔しちゃったわね♪ ごめんなさいね♪」
俊介の顔を見た千里は照れ臭そうに笑みを浮かべると、そのまま仕事部屋を出て行ってしまった。
「お母様ああぁぁぁーーーー!!」
狂乱し泣き喚く真由美は全身を上下に弾ませ絶望の淵においやられた。
「さてと邪魔物は消えたな… タップリ味見させて貰うよ♪ 真由美お姉さん~♪」
真由美の右肩を左手で押し付けた俊介の右手はスカートの裾を巻くりあげるとそのまま太ももを包む黒いパンティーストッキングに爪を引っ掛けて電線させ始めた。
真由美は激しく抵抗し身体を上下左右に大きく揺らしそして泣き喚いて千里を呼び続けた。 だが真由美の左足を包む黒いパンティーストッキングが爪先まで伝線しても千里は仕事場へは戻ってこなかった。 鼻水を垂らして大粒の涙を頬に伝える真由美の左足をも伝線させられ終えると、真由美の下半身を包むスカートのスリットは俊介の手に依って力任せに引き裂かれた。
「いやあああぁぁーーーーー!!」
真由美の下半身を覆っていたスカートは意図も簡単に宙を舞い、恥ずかしい姿を露にした真由美のスリップは力任せに俊介にビリビリに破られ肌を露出させられた。
「せ、先生… じょ、冗談ですよね… 冗談ですよね… 冗談だって言って下ああぁぁーーーーーい!!」
声と肩を震わせる真由美は俊介に泣きながら薄笑みを見せ、そして泣き叫んだ。 そしてその瞬間、俊介は真由美の下半身を包む伝線した黒いパンティーストッキングを両手で歓喜しながら破り始めた。
「ヒャッホオオオォーーー♪ ビリビリビリビリビリイィー!!」
「嫌、嫌、嫌、やめて、やめて、嫌ああぁぁーー!! ヤメテエェー!!」
真由美の両足は無造作に跳ね上がり抵抗を始めベッドの足を床に叩きつけさせた。 狂乱した俊介は嫌らしい満面の笑みを浮かべそして楽しげに声を放った。 真由美の下半身を包む黒いパンティーストッキングは跡形もなく千切れ真由美の顔は涙と汗と鼻水に塗れた。 そして真由美がパンティーが剥ぎ取られ両足を大きく広げられた瞬間、天井が崩れ落ちんばかりの真由美の悲痛な叫び声が響き渡った。 両手を後ろに縛られ恥辱され続けた最後の女の砦は真由美の意思に関係なく俊介の前に晒された。
「畜生おおおおぉーーーー!! 白鳥いいぃぃーーーー!! 許さないからなああぁぁー!! 殺してやるうううぅぅーーー!!」
恥ずかしい部分を露にされた大野真由美は恨みの全てを言葉に託して怒声を目の前に俊介に浴びせた。 真由美はブラジャーだけを残した略、全裸状態で号泣しこれから始まるであろう我が身への味見に絶望し首を横に倒すと涙ながらに瞼を閉じた。 だが一向に俊介は真由美の身体を味見する気配を見せず、真由美は身体を見て楽しんでいるのだと込み上げる怒りを喉に詰まらせた。 そして突然、仕事場のドアが開いて歩く音が真由美の耳に伝わった。
「さあ、起きてぇ…」
千里の手が真由美をベッドから起き上がらせると、ガウンを着せて縛られたままの真由美を仕事場から連れ出した。
真由美は何が何だが解らぬままに千里に連れられて一階の風呂場へと導かれた。
「お風呂沸かしておいたからね、ゆっくり入ってきなさい♪ 替えの下着と服も用意しておいたからね♪ あと、仕事場には今から二日間近づかないこと。 いいわね!」
千里は戸惑う真由美を風呂場に押し入れるとそのままそこから立ち去った。
真由美は何が何だか解らぬまま脱衣場から浴室へ移動すると、部屋に備えられているバスルームの十倍はあろうかと言う豪華な浴室に仰天した。 総大理石で埋められた浴室の広さは推定で十二畳の洋室で、超高級ホテル並みの設備を備えていたことに真由美は再び仰天した。 真由美は何が何だか解らぬまま入れと言われた六畳ほどの湯船に身を浸した。 そしてその頃、三階の仕事場に来ていた千里は真由美の衣料の残骸を静かに無言で回収し、物凄い勢いでキーを打ち込む俊介の机の隅に置いてあった真っ黒いコンタクトレンズを拾い上げた。 そしてケースに仕舞うとポケットに入れ再び無言のまま仕事場を離れドアに外側から鍵をかけて立ち去った。 俊介は千里が部屋に来たことも解らないほどに執筆に没頭し脳裏に焼きついたレイプ間際の女の苦しみと悲しみをキーに叩きつけていた。 そしてその一時間後、一階のリビングでは風呂上りの真由美に、千里は仕事場から回収した黒いコンタクトレンズを出して見せていた。
「これ見えないのよ♪ 何も♪」
千里から手渡された黒いコンタクトレンズを不思議そうな顔して見入る真由美。
「ごめんなさいね♪ 事前に喋ってしまうと演技になっちゃうから…」
真由美は千里から俊介が特注の見えないコンタクトレンズを装着して強姦役を演じ、演技ではない真由美(おんな)の真実を脳裏に叩き込んでいたことを明かした。
「じゃあ… 先生は私のところの作品を仕上げるために?」
真実を聞かされた真由美は唖然とした。
「だから安心して♪ 俊ちゃんには何も見えてないし… それに肌には殆ど触れてないはずよ♪」
真由美はブラとスリップの肩紐を外す時の俊介の指の爪を思い出し、続けてパンティーストッキングを破る時の爪を思い出した。 そして両足を広げられる時に俄かに感じたゴム手袋の感触をも真由美は思い出した。 肌を見られずそして触れられていないと悟った真由美は黙って俯いて出されたアイスティーを喉に流し込んだ。
「でも… 私の胸が小さいって…」
俯いたまま小声で呟いた真由美。
「それは服の上からでも誰でもわかることだわ♪ キャハッ♪ ああ。 ご、ごめん…」
真由美の胸が小さいことを指摘した千里。
「そうだ! お昼、お寿司でも取ろっか♪」
突然、思いついたように笑顔を見せる千里に真由美は聞いた。
「ああ。 あん。 普段は滅多に使わないわね♪ あのお風呂は俊ちゃんのお父様の形見だからね♪ でもぜひ大野さんに使わせてやってくれって俊ちゃんが…」
嬉しそうに話す千里と急に沈んだ真由美。
「でも本当にごめんなさいね♪ いくら仕事のためでも物事には限度があるわね…」
千里は大野に頭を下げて詫びた。
そして土曜日と日曜日の二日間。 俊介は本当に仕事場に篭って出て来なかった。 そしてようやく出てきたのは祭日の月曜の朝だった。
「腹減った…」
目じりに隈をつけてボサボサ頭でフラフラと一階のダイニングに降りてきた俊介はダイニングテーブルの席に腰を下ろすと、待ってましたとばかりに千里と真由美は大急ぎで料理を運び本来は出るはずのない缶ビールを数本、俊介の前に並べた。 俊介はボーっとした目で一点を見つめたまま缶ビールを開けると一気に喉に流し込んだ。
「話しかけないでね… 彼はまだ小説の中にいるから……」
千里は真由美に耳打ちすると左手でVサインを出した俊介の手に、ポケットから出したタバコを一本挟みこむと、ライターで火を点けた。
タバコを吸い込んだ俊介は右手の平を出して見せると、千里はサッと電子手帳を渡した。 パチパチパチと物凄い勢いで活字を打ち込んでいる俊介の目は壁の方を見つめていたが、文字は不思議なほどに正確に打ち込まれタバコは灰皿の中で燃え尽きてしまった。 そして掻きこむうに食事を取った俊介は二本のタバコと三本の缶ビールを飲み干すとそのままテーブルの上で眠ってしまったが、俊介は見るも無残なほどにヤツレていた。
「えー 明日から夏休みに入りますが~ 各自、休みだからと~」
祭日開けの火曜日、学校に来ていた俊介は、もうそんな季節なのかと忘れていた夏休みを知らされつつ、空席のままの小雪の席がこのまま空いていればと願っていた。 周囲は夏休みの話題で賑わい活気に満ちていたが俊介は山積みの仕事に追われる日々を想像し溜息をついて凌いだ。 周囲は旅行だのキャンプだのと楽しげな会話が飛び交い俊介を除き誰一人として暗い者は居ず、教師でさえ夏休みに浮かれているようだった。 午前十一時半。 気温は三十度を超え白シャツ一枚でも汗ばむ陽気の中を俊介はエアコンの効いたタクシーを路地裏に呼んで乗車した。
「毎度、ごひいきにありがとうございます♪ ご自宅で良かったでしょうかね♪」
学校へ来る度に指名で呼んでいたタクシーの運転手は顔馴染みになっていた俊介に嬉しそうに笑みを見せた。
「いやぁ♪ 最近は不景気でしょ♪ お客さんのように指名してくれる人も少なくなりましてね♪ ああ。 私の娘もお客さんと同じ高校に行ってるんですよ♪」
毎回、他愛も無い話しを楽しそうにしてくれる運転手の語りに不思議と癒される俊介はこの日、初めて彼の娘と自分が同級生であることを知らされた。 そしてまるで青春ドラマのように俊介を乗せた車は彼の娘と遭遇した。
「ああ。 洋子! 娘の洋子です♪」
車を突然停車させた彼は窓を開けて手を振ると近づいてきた女の子に俊介を紹介した。 そして俊介に向けられた軽いお辞儀に俊介もまたペコリと頭を下げた。
「お父さん! 明日は休み取れるんでしょ!?」
「いやぁ… 最近売り上げが厳しいから…」
俊介を乗せたタクシーの運転手は客である俊介を無視して娘の洋子となにやら声を潜めて会話していたが、特別急ぐわけでもなかった俊介は黙って成り行きに身を任せた。 運転手と娘の洋子はなにやらもめていたが、恐らく年上であろう洋子を見ていた俊介の視線を洋子が感じた。
「お父さん! お客さん!!」
「ああー! こりゃー申し訳ありません! 仕事してたの忘れてたー!」
「あのおー 今日、どのくらい走れば明日は休めそうなんですか?」
「あいやあぁ~ 聞こえてましたか~♪ 申し訳ないです♪ そうですねー 街中を五回くらい走るくらいの距離なんですけどね~♪」
「じゃあ、これから海へ行ってもらえませんか? 海… 親父が死んでから見てなくて… 支払いはこれで♪」
青春ドラマによくある展開のごとく、俊介はプラチナカードを運転手に見せると運転手は仰天し顔を引き攣らせた。
「あの! 良かったら洋子さんもぜひ!」
突然の俊介からのプレゼンに洋子は唖然として戸惑いつつも運転手(ちちおや)からの熱い眼差しに黙って頷くと、俊介の隣りに座った。
「ああ。 お母さん。 僕だけど。 ちょっと出かけるから帰りは夕方になると思うから… お昼? ああ、なんか適当に済ますから♪」
右側から洋子が乗車して直ぐに俊介は千里に携帯から連絡した。
「運転手さん、砂浜! 砂浜が見たいです!」
「え!? はぁ~♪ 砂浜なら○○と○○辺りですかね~ あとは○○辺りか…」
「出来れば海水浴場ではなく静かに海を見れるほうがいいんですが♪」
「えっとぉ… それなら○○海岸♪ あ、でも相当な運賃になりますよ?」
「構わないですよ。 あと高速を使って下さい♪ それとお昼になったらパーキングへお願いします♪」
「ああぁー ありがとうございます♪ 申し訳ない限りです♪」
「いえ。 僕の方こそ毎回、大した距離じゃないのに指名したりして心苦しく思ってたところなんで恩返しをさせて下さい♪」
洋子は隣りでテキパキと用件を伝える俊介を横からジーッと見ていた。
「あのぉ… 貴方。 何者なの?」
「コラコラ洋子! 失礼なことを言うモンじゃない♪」
「ああ、別にいいですよ♪」
「ホラ! 街外れの高台にある白い大きな屋敷があるだろ♪ あそこの息子さんだよ♪」
「え!? あの大っきなお屋敷って? 貴方の家なのぉー!?」
「え、まあ… そうですけど…」
「ああー! 白鳥って名前… 何処かで聞いた名だと思ったけど、やっぱりいー!?」
学園ドラマにある設定はここでも同じように設定されていた。
俊介と洋子を乗せたタクシーは高速へ入ると暫くしてパーキングに入り、俊介のプレゼンで各自は満腹に。 そして再び走る車の中で、洋子はカバンからコソっと一冊の本を出して読み始めた。
「え? 洋子さんこう言うの読むんですか?」
「え? ああ。 うん。 今ね二年生の女の子の間で人気になのよ♪」
「え!? 成田流雲って、確か! か!」
「え! ああ。 うん。 そ、そうそうそう!」
洋子は成田流雲が官能作家であることを知っている俊介に驚きの表情を見せ、慌てて話しの腰を折った。 官能小説を読んでいることを運転手(ちちおや)に知られたくないと言う洋子の慌てた顔に俊介は微笑し、照れ臭そうに頬を紅く染める洋子を可愛いと思った。
「成田流雲はねえ、謎の作家さんで他にも別名で書籍を出しているようなんだけどその全てを読んだ人は居ないらしいんだけどね♪」
本を開いたまま何かを思い描くように目を閉じそして開いた洋子は呟くように語った。
「へぇ~ 詳しいんだね~♪」
何も知らぬ素振りで聞き返しつつ足組をした俊介。
「うん。 それに彼の正体を知る人は存在せず何処の誰なのか男なのか女なのかも皆目解らない不思議な人… もしかしたら複数で書いているのではと言う噂もあるほどよ~♪」
ルームミラーに映る運転手(ちちおや)の目を気にしつつ声を窄める洋子はチラッと俊介を見てその視線を直ぐに窓の外へ向けた。
まさか自分の真横にその成田流雲の他に複数を名乗る本人が居たなどとは夢にも思わない洋子だった。
「次の作品が出るのが待ち遠しいの♪ うふふふー♪」
本を閉じてカバンに仕舞った洋子。
「成田さんのどの辺が洋子さんには魅力的なのかな?」
右隣りの洋子を見て質問する俊介。
「彼の良いところは全てを美化しない。 汚いモノは汚い、綺麗なモノは綺麗って表現するところかな♪ それでいて汚いモノでも見る人に依っては宝石のように煌く…」
腕組して目を閉じた洋子は考え深げに顔を天井に向け深呼吸して窓を少し開けた。
外から入る風が洋子から立ち上がる甘い女の香りを俊介に届け、その二時間後、俊介は誰も居ない夏の海を前に大の字になって砂浜で青い空に魂を吸い込ませた。
「うふふふふ~ なんか白鳥くんて変な人ねえ~♪ 私たち親子のためにお金使ったりして♪ 聞いてたんでしょ! 全部♪」
大の字になって空を見つめる俊介の左横に腰を降ろす洋子の黒髪が風に靡く。
「………」
黙ったままの俊介は洋子に立花小雪の面影を重ねていた。
「ねえ♪ 白鳥くんは小説とかは書かないの? 文豪、白鳥先生の血を引いてるんだから書いて見ればいいのに♪」
チラッと隣に寝ている俊介を見た洋子はそのまま砂に仰向けになると両手足を大の字に開いた。
「………」
俊介は無言のまま閉じた瞼を開こうとはせず、二人は無言のまま熱い砂と強い日差しに挟まれ汗ばんだ肌を乾かした。
そして十分ほどして俊介が口を開いた。
「洋子でいいか…」
「うん。 いいよ…」
「俊介でいい?」
「うん。 いいよ…」
「あ。 でもお父さんの前では…」
「うん。 そだな…」
「洋子。 金やるからアイス買ってきてくれ」
「え? やだよ遠いし…」
「そだな… 遠いな…」
「でも食べたいな…」
「遠いだろ…」
「お父さんに行ってもらったら?」
「アホか… ドライバーさんに頼めるかよ」
「多分喜ぶよ… 走行距離稼げるから」
「そか… じゃあ頼んできてくれ…」
「やだよ~ 私がお客さんじゃないもの~」
「じゃあソフトクリームは要らないんだな…」
「ええぇー? ちょっとおぅ!」
「嫌ならいいよ別に…」
「解ったよ、もおう!」
「はいよ♪ こんだけあれば足りるだろ♪」
「もおう、女の子歩かせるなんてー」
「お姉さんなんだかせサッサと行け♪」
「はいはい!」
俊介は起き上がって金を受け取りタクシーの方へ足を進めた洋子を確認すると、ポケットからパーキングで買ったタバコとライターを出し一本銜えて火を点けた。 白い煙が青い空に吸い込まれ消えていくのを見た俊介は消えていく煙の中に小雪の笑顔を重ねた。
「やっぱり! こんなことだろうと思った! 私にも一本頂戴!」
「え!? ああ、 はいよ!」
洋子は受け取ったタバコに火をつけ吸い込むと吐き出しながら俊介と同じに再び仰向けになって空を眺めた。
「何か恋人同士みたいだね♪」
「そっかぁ?」
「親父の目を盗んでタバコ吸ってる悪い高校生だろ♪」
「官能小説隙なのか?」
「うん。 まあ流行っているから隠れ蓑にはなってるわね」
「だろうな。 高二の女の子が官能小説ってのは他人には言えないもんな」
「まあね~♪ 俊は何か読むの?」
「読まないな~ 興味なしってとこかな。 それより洋子は男、知ってるのか?」
「ちょっ! ゲホゲホゲホッ! 何さいきなり! ビックリするじゃない!」
「いや、官能だからさ♪ だから聞いて見ただけだよ」
「ステキな男(ひと)が居ればあげてもいいかな♪」
「そか… まだ味見されてないんだな…」
「キャッハハハ♪ 味見ってねぇ! まるで成田流雲だわよその言い方♪」
「そか… ふっ! そだな♪」
「でもステキな男(ひと)が居れば何れは味見されるのかな…」
「だな… その時はマン粕付いてないといいな…」
「こおらあぁー! いい加減にしろ♪ 女の子に言う言葉じゃなーーーい♪」
「あっははははは♪ でも成田風だろー♪」
「うっふふふふふ♪ うん成田風だねー♪」
車の音を聞いた二人はタバコの吸殻を砂に隠すと、携帯のアドレスを交換しつつ車の方へ近づき、熱くなった身体を飲み物とアイスで冷やしつつエアコンの効いた車内に逃げ込んだ。 そしてその数時間後、俊介は自宅に送られて洋子と別れた。 当然ことながら日焼けした肌に千里と真由美は口を尖らせて不機嫌になりつつ、帰宅の途に着いた洋子と父親は翌日の海水浴決定の知らせを家で待つ母親に伝えた。
【八話】
家政婦兼、雑誌社担当の大野真由美が盆に乗せた紅茶を三階の仕事場に届けた。 部屋の中は静まり返っていたが俊介のキーボードを叩く音が天井に跳ね返り心地よさを耳に伝えた。 そして俊介がチラチラ見る視線の先には、濃い目の化粧をした黒いスリーインワンを身につけた義母の千里が居て、右頬を下にしてベッドシーツに両腕を投げ出していた。 そして黒いレースのショーツに包まれた尻をツンッと上に突き出し、それを支える両足にはガーター紐で吊るされた黒いガーターストッキングが光沢を放っていた。 真由美には絶対に敵わない熟女の魅力に真由美は息を飲んでその様子に見入った。 豊満にしてスタイリッシュな千里のボディーは恐らく百人の男が見ればその場で夢中になるであろうものだった。 だが、俊介の千里を見る目は厳しく消して部分的に見ているのではないことが真由美にも伝わっていた。 黒いガーターストッキングに収まりきれない柔らかな肉肌が丸みを帯びて盛り上がり、ストローをプチッと刺せば飲めそうなほどに揺れそして張りのある尻は触れただけで消えてしまいそうなほど華麗なものだった。
「次はケツをこっちに向けろ! 同じポーズだけど見えてないからって気を抜くなよ!」
俊介の厳しい口調での指示の下、千里は無言で身体の向きを変えると今度は左頬を下にして同じポーズをとった。
大野真由美は息を潜めて壁際の椅子に腰掛けると、その光景に自らを溶け込ませた。
仕事場はパチパチと忙しい音が再び鳴り響き、それが十五分ほど続いた辺りで俊介の手がピタリと止まった。
「いいぞ。 休憩しろ。 真由美、紅茶をくれ!」
引き出しからタバコを取り出した俊介は火を点けつつ自分の方へ下着姿のまま近づく千里をチラッと見た。
千里は俊介に近づくと右腕を彼の左肩に乗せ屈んでモニターの中の活字に見入った。
「あとで纏めて読めばいいだろうに… ほらっそっちで見ろ!」
パソコンを左側に回した俊介は椅子を千里から離してタバコを吸い込んで、左側に立つ千里を横にチラッと見た瞬間、突然別のノートパソコンを右側から引き寄せた俊介はタバコを銜えながら物凄い勢いでパチパチとキーを叩き始めた。 何かがイメージ出来たのだと真由美は意気を飲んでその手先に見入った。
そして数分後、ピタリと俊介の手が止まるとその視線を千里に向け、席を離れてベッドに乗った。
「こっちに来てくれ! 俺の上に逆向きに四つんばいになれ!」
ベッドに仰向けになった俊介は何かを考えながら両腕を立てそして斜めにし再びシーツに腕を投げた。
「ああ。 もう少し下だ! 俺を親父だと思ってフェラチオのボーズをしてみてくれ! おい真由美! 軍手をよこせ! それと鏡を左側に持ってこい! 千里は左顔が見えるようにしとけ!」
目の前に千里の股間を見る俊介は両手に軍手をはめると両腕を千里の腰に回して這わせ、顔を左側に向けて真由美に鏡の位置を指示した。
だがそんな千里をチラッと見た真由美は、千里の真剣な表情に圧倒されつつ視線を俊介に戻してその指示に従った。
「真由美! 机の上にある箱の中から黒い擬似ペニスを出して千里に渡せ! 千里は俺の股間にそれを挟んで銜えろ! 千里、もう少し腰を落とせ! これじゃあ舐められないだろう! よしいいぞ! ちょっと両足を震わせて見てくれ! よしっ! ストップ!!」
真剣且つ厳しい指示が俊介から次々に飛ぶ最中、千里はその表情を変えず従っていた。
「よし! 真由美! 電子手帳を持って来い!」
義理とは言え母親の恥ずかしい部分をショーツ越しに十センチほど上に見る俊介は、渡された電子手帳を千里の腰の上に置いて、確認することなく軍手をしたまま激しく打ち込んだ。
「真由美! 鏡をもっと千里に寄せろ! よし!」
真由美に指示を与えつつ物凄い勢いで手帳のキーを叩く俊介の顔を見る見る間に血の気を失って行った。
そして二分が経過した頃、俊介は逃げ出すように千里を避けてベッドから床に転げ落ちると激しい咳き込みをしながら喉をヒューヒューと鳴らして呼吸を繰り返した。
「ぜぇぜぇぜぇ… いくらなんでも母親の恥ずかしい匂いを嗅ぐわけにはいかないからな! ぜぇぜぇぜぇぜぇ…」
床に正座して両手を床に呼吸を整える俊介はフラフラと立ち上がると、電子手帳をパソコンの横に置いて再び物凄い勢いでキーを叩き始めた。
俊介は擬似ペニスを銜えて首を上下させる千里をチラチラと見ながらキーを叩いた。 真由美は執筆にかける俊介と千里の壮絶さに唖然として見守った。
「よし! 出来た!! 千里、いいぞOKだ♪」
俊介の声に擬似ペニスから口を離した千里は大きな深呼吸をしてベッドにアヒル座りして天井を見上げた。
「はあ~~~ 疲れた… 無言でいろって言うから黙ってたけど… 疲れるわ… 喋れないってのは♪」
大きな深呼吸を繰り返した千里は真由美を見て満面の笑みを浮かべた。
「でも、俊ちゃんもね♪ あまり気を使わなくてもいいわよ♪ 匂いくらい別にいいし♪ その代わり凄いモノを書いてくれれば私的には耐えられるわよ♪」
無事に役割を終え安心した千里は席についてグッタリする俊介と真由美を見回して笑みを浮かべた。
『凄い… 凄すぎる…… 何なのこの人たちは…… 恐るべし白鳥喜三郎ファミリー……』
真由美は心の中で密かに呟いた。
だが、真由美をもっと驚かせる事件が昼前の風呂場で発生した。
真由美は千里と一緒に一階の台所に立ち、昼食の用意をしていたが千里一人で用が足りると思った真由美は、普段三人で使っている風呂掃除へと足を移動させた。
『アレ!? 誰か居る……』
浴室の半開きになったドアの隙間から中をソッと覗いた真由美は、何かを必死になって手洗いしている俊介を目撃した。
『何を洗っているんだろ……』
真由美は額に汗して必死になってタライで多荒いしている俊介の持っているモノを見て震撼した。
『な! 何で先生があんなモノを!』
俊介が必死になって洗っている白いパンティーを見た瞬間、真由美は震撼し背筋を震え上がらせた。
『先生に女装趣味が!』
ブツブツ何かを愚痴りながら息を殺してパンティーの内側を洗う俊介の表情に真由美は驚愕した。
真由美は白いパンティーの他に黒や水色にピンク色のパンティーを次々に洗い続け、三十分以上かけてそれを終わらせると、清々しい笑みを浮かべ腰をトントンと片手で叩いた。 俊介は真由美に見られていることを知らぬままタライに入った手洗いした下着を再び洗濯機に放り込むと、辺りの様子を伺って足を忍ばせてその場を離れた。 真由美はその後で洗濯機を止め中から取り出した色とりどりのパンティーを見て直ぐに洗濯機の中に戻した。 なんと言うことだろう。 母親(ちさと)も知らないであろう白鳥俊介の秘密を知ってしまった大野真由美は顔色を青ざめつつ、俊介の横顔を見ながら千里と三人で昼食を摂った。 女に興味を示さない俊介に不思議な感覚を覚えていた大野真由美は、納得行ったような目で俊介を見ていた。
「どした? 真由美」
自分をジーッと見つめる真由美に声を掛けると、真由美はスッと視線を反らし食べ始めた。
「アレ! 俊ちゃん。 手! 大変だわ! 皮膚が擦り切れてるわ! 薬、薬!」
俊介の左手の指の皮が剥けているのを見た千里は慌てて薬箱をとりにその場を離れたが、それが何故出来たのかを知っている真由美はわざと俊介に尋ねた。
「あの… 先生、その指はどうしたんですか?」
知っていて聞く真由美は俊介の反応を見ようとしていた。
「ああ。 何だろうな… さっきやってた草むしりの所為じゃないかな…」
まさか千里のパンティーを洗っていたとは言えない俊介はやってもいない草むしりの所為にしてその場をしのぎ、真由美は心の中で確信した。 そして数分後、薬箱を持ってきた千里は俊介の手を取ると消毒して傷テープを回した。
その数十分後、白鳥家の玄関インターホンが千里と真由美の居たリビングに響き渡り、応対に出た千里はモニターに映った可愛らしい女の子に目を大きくした。
「岡田洋子さんて人が来てるけどでうする?」
室内インターホンに出た俊介は玄関に入れるように伝えると二階自室で大急ぎクローゼットの中に純文学の山のような書籍を隠した。
「よっ! 来るなら来るってメールくらいよこせよ!」
階段を降りて行った俊介は、レモン色ショートパンツに白と水色の横縞のタンクトップに身を包んだ岡田洋子に冷静な視線を重ねた。
「飲み物はいらないから。 冷蔵庫に適当に入ってるから」
千里をチラッと見た俊介は直ぐにその視線を岡田洋子に向けた。
あと一つ階段を残したところで手すりを掴んで足を止めた俊介を、照れ臭そうに見入る洋子と、その二人を見る千里は俊介の目が異様なほどに冷静であることに違和感を感じていた。 俊介の目は何処にでもいる高校生の目ではなく人生を半ばにする疲れ果てた男の目であることが不憫であった。 千里に一礼して俊介の後に続いた洋子は初めてみる白鳥の家の作りに緊張していた。 女の子が五人は並んで歩けるほどの幅広の階段は贅沢極まりなく玄関横から回りながら二階へと続き、燦々と入る陽の光がミラー式のガラス越しに柔らかい光を室内に取り込んでいた。
「遠慮はいらない」
笑み一つ浮かべずドアを開いて中に通した俊介の部屋の広さに洋子は仰天した。
「どうした? ボウッとして♪」
「ああ… うん。 デッカイなあ~ってビックリしちゃって♪」
「さっきの… お母さん?」
「ああ。 血の繋がりはないから死んだ親父の奥さんってとこかな」
「凄い綺麗な人でビックリしちゃった♪」
「何か飲むなら冷蔵庫にあるから勝手にやってくれ」
「あ。 うん。 その前に。 此間はありがとう。 俊のお陰で海に行けたんだ。 ありがとう♪」
「ああー! おお、行って来たのか~♪ そっかあ~♪ そりゃよかったな~♪」
「お父さん、お母さんも宜しく煎ってた♪」
海水浴の報告をうけた俊介はニッコリと笑みを見せると壁にあったスイッチを回して天井扇を回してエアコンを効かせた。
「寒かったら自分で調節してくれ。 ここだからよ!」
「なんかやっぱりお金持ちの家だね~♪」
「ああ。 俺もそう思うよ。 昔は親子三人で六畳二間に住んでたからな…」
「え? 俊もそんな時代があったの?」
「死んだ親父が芥川賞を受賞する前は、悲惨だったけど、まあ母さんが生きてたから良かったけどな」
「そう… そんな時代があったんだ… ごめん。 何も知らなくて…」
「それよりここへ来たこと、学校で言わないで欲しいんだ。 いいな!」
「うん… 解った。 そだね白鳥の家に行ったなんて知れたら大変なことになるものね♪」
部屋の中を歩き回る洋子は一段高いところにあるオーディオ機器の前に立って唖然としつつその巨大なスピーカーに唖然としていた。
「こっちがこの部屋のリビングで、向こうが寝室?」
「ああ。 面倒くさい作りだけど死んだ親父のせめてもの罪滅ぼしで作ったんだろな」
「罪滅ぼし?」
「ああ。 芥川賞と引き換えに貧乏で薬も買えずに母さんは死んだからな…」
「嫌なこと思い出させちゃったね… ごめん」
「ところでもう一度、海水浴行かないか?」
「え?」
「俺はまだ行ってないからさ♪ 今の母さん達も連れて行きたいし」
「お母さんの他に誰かいるの?」
「ああ。 親父が生きてた頃の雑誌社の担当さんも居るし♪」
「今度は親父さんの車を借り切って… ああ。 もう一台必要だな… お前の母さんも一緒に♪」
「ええー!? 一台借り切るだけでも大変なんだよー! 二台って!?」
「ああ。確かに… もう一台はうちの車使うか~♪」
「へ?」
「お前達家族と俺にタクシーを一台。 後は後ろからくっついてくるんじゃね♪」
「駄目よぉ! そんなの! 私はヤダ!! 第一、そんなことしてもらう理由がないよ!」
「理由か? お前は俺の友達だろ? 友達でいいんじゃねえの?」
「そんなあ…… 第一、それじゃあお父さん乗車拒否しちゃうかも!」
「あれ? 確か親父さんの勤めてる会社って運転代行とかもやってたよな~」
俊介は洋子の見ている前で携帯からタクシー会社に電話すると、代行運転手を岡田で頼めないか聞き、それを見ていた洋子は仰天して目を丸くした。
「はあ~ 車種ですか? 確かベンツのリムジンだと思うのですが…」
再び仰天して俊介の肩に手を掛けた洋子と、その手をやさしく振り解く俊介。
「ベンツ… リムジン… なにそれ…」
口をポカンと開けて唖然と俊介を見入る洋子。
「はい。 ええ。 支払いはカードで♪ ええねじゃあ、後度連絡入れますから♪」
俊介は洋子の見ている前で運転代行を洋子の父親で仮予約を入れた。
「どおうするのおうー! 一人で勝手に決めちゃうんだからあー!!」
落ち着き払った俊介の肩を大きく揺さぶった洋子。
「どうもしないよ。 ただの海水浴だし。 お前も早くお母さんの予定を確認しろ!」
困惑しつつ口を尖らせる洋子はフヤケながら携帯から母親に連絡すると、明日は休みだと言う母親に呆然とした。
「ああ。 俺。 明日海水浴行くから用意と、ああ。 ベンツ使うから。 うん、運転代行頼んだ。 うん」
その横で室内インターホンで千里に連絡した俊介の持つ受話器から千里と真由美の大歓声が巻き起こり、その声は洋子の耳にも届いた。
洋子は訳がわからないうちにドンドン海水浴が決まってしまったことに責任を感じていた。 俊介はそんな洋子に笑みして携帯でタクシー会社に代行の依頼を頼んだ。 洋子は肩をー落として自分が営業マンになってしまったことにフヤケてしまった。
【九話】
「え!? なにこれ……」
「ああー! 駄目だ! 見るな! 返せ!!」
「あっはははは~♪ いいじゃなーい見せてよぉ~♪」
「駄目だって! それは人から預かり物なんだから! 返せって!」
「キヤァー! 痛ったぁーい♪ もおぅー♪」
ベッドの枕元に置いてあった小雪の日記を読まれそうになった俊介は、それを奪い返そうと洋子と身体を縺れ合わさせた。 ベッドに仰向けになった洋子は両腕を頭の上、右手に日記を持って真上に身体を重ねた俊介の目に視線を重ねた。
「痛いよ… 放して…」
恥ずかしさから頬を紅く染める洋子の両手首を見てハッとして身体を避けようとした俊介に洋子は声を窄めた。
「いいよ… 味見しても… 俊くんになら味見されてもいい……」
真剣な眼差しで俊介の視線を捕らえた洋子は全身から力を抜くと黙って目を閉じた。
「馬鹿なこと言うなよ… 俺達、知り合ってまだ…」
目を閉じた洋子同様に声を窄めた俊介は身体を避けよとすると、洋子の両腕が俊介の背中を捕らえた。
「私を俊くんのモノにして……」
目を閉じたまま声を窄める洋子から放たれる甘い女の香りに俊介は困惑した。
「わかった… 好きにさせてもらうよ。 でも、その前にシャワーしてこいよ。 マン粕ついてたら困るからさ…」
噴出しそうになるのを抑えつつ、成田流雲風に呟いた俊介。
「プウゥー♪ アッヒャヒャヒャヒャヒャー♪ ヤダァー♪ もおう! ムードが台無しーー♪」
突然、噴出して左手で口元を押さえて大笑いする洋子は笑い終えるとそのまま俊介に下から抱きついた。
「おわぁ! お、おい洋子! 離れろ、離れろってぇ♪ 全くお前って女はー♪」
抱きついた洋子を引き離そうとする俊介は再び身体を縺れ合わせて今度は洋子にベッドへと押さえつけられた。
「だったら… 私、予約しておくからね。 私のバージンは俊くんのものだって…」
洋子は突然、カップ付きのタンクトップを俊介の目の前で脱ぐと、小さな膨らみを露にした。
俊介に馬乗りになって乳房を晒した洋子は顔を真っ赤にして目を泳がせ、咄嗟に目を閉じて首を横に倒した俊介の両手をベッドから拾い上げると、そのまま自らの乳房を俊介の手の平で覆い隠そうとした。
「よせ! 自分をもっと大事にしろよ!! いったいどんな展開なんだよ!!」
乳房まで寸でのところで洋子の手を振り解いた俊介は、目を閉じたまま起き上がると洋子を背にして悔しそうに怒り露にした。
「………」
洋子は愕然と肩から力を抜いて俯きそして涙をこぼした。
「俺のこと本気で好きなら、俺が自発的にお前を求めるまで待ってろよ! 女にせっつかれて肌を重ねるようなことはしたくないんだ!」
洋子が泣いているのを知りつつ怒りを静めようと声を窄めた俊介。
「そだね… 俊くんの言う通りだよ… 私… 何してんだろ…… 馬鹿みたい… でも今日はありがとう…」
静まり返った部屋の中で脱いだ物を着る洋子の涙声が俊介に激しい違和感を覚えさせた。
「え!?」
俊介は聞き覚えのある洋子の言葉に呆然として、小雪が死ぬ前に残した言葉を思い出した。
『キャハッ♪ 私何してんだろ? 馬鹿みたい♪ 今日は付き合ってくれてありがとうー♪』
そして小雪の母親の言葉が脳裏を掠めた。
「小雪は、俊介さんとクラスで顔をあわせた時、これが最後のチャンスだと母親である私に電話をくれたんです… 残された時間の中での最後の機会だと… 大人しくて口下手なあの娘(こ)が、電話の向こうで私に元気一杯にリハーサルをしたんですよ~♪ ぅぅうううう… 笑ってしまいますね♪ ぅぅぅうううう…… リハサールして俊介さんに想いを伝えるんだって… 電話の向こうに居た娘は別人のように明るくて死期が近づいているなんて思えないほどで… でも、ちゃんと俊介さんに想いは伝えたよって… そして帰宅して直ぐに…」
俊介はベッドから降りた洋子に身体を向けると、そこには肩をガックリと落とし力無げな涙目の洋子がいた。 洋子も小雪と同じに勇気を振り絞ったに違いないと、俊介は突然、自分を擦り抜けようとした洋子をベッドに引き寄せると、抱き倒して口付けをした。 俊介にとっても洋子にとってもこれが二人のファーストキスだった。 洋子は再び大粒の涙を溢れさせ驚いた俊介が唇を引き離すと、洋子は「嬉しい… 勇気を振り絞って良かった…」と、涙声を震わせ俊介に聞かせた。 だが、不思議なことに俊介は洋子の声に重なる小雪の声を聞いた気がしていた。
そして三十分後。
「もう一回、胸を見せろ! 見せろよお~♪ いいだろーう♪ ホラホラホラ~♪」
「キャァー! ちょっとおー! もうヤダァーッてぇー! 恥ずかしいからヤアーダァー!」
「ウヘヘヘヘヘ~♪ おらおらおらあぁー♪ 凄げえぇー! ピンク色の乳首だああぁー♪」
「最低! 無理やり見るなんて! ヤァーダァー!」
「何だよ! 見せたり見せなかったりよおー! でも♪ ウヘヘヘヘヘへ♪ 美味しそうだ~♪」
「そ! それは……」
「チュパッ♪ チュゥー! チュゥー! チュパ! チュパ! チュパ♪ モミモミモミモミモミモミモミモミモミ♪」
「いやああぁぁぁーーーーーん!! やめてえぇぇーー!! ヤアーーダアアアァーーー!!」
「かあぁーーー♪ うめえぇぇーーー♪ 堪んねえぇーーー♪」
「やめてえぇーーーーー!! 話すから話すからやめてえぇぇー!! ぅぅぅううううう……」
「え!? 何を!?」
ピンク色した乳首を吸うのをピタリと止めた俊介は、眼下に乳房を見ながら状態を離した。 泣き出した洋子は乳房を隠すようにタンクトップを慌てて首から捲くり降ろすと、咽び泣いて起き上がって一瞬、俊介を見て直ぐに俯いた。
「ごめんなさい!! 私は… 私は俊くんが好きよ! でも… 俊くんの言う通り俊くんに求められてバージンを喪失したかった… でも… お父さんが… お父さんの勤めてる会社… 不景気で… 白鳥家と親戚になれればって… ごめんなさい!! 騙した訳じゃないの! 信じてえ! 私が俊くん好きなのは本当なの!! ごめんなさい!!」
白鳥家と親戚になれば経済的に援助して貰えるのではと言う父親の画策だったことを洋子は涙ながらに語った。 だが洋子の俊介に対する思いに嘘はなく苦しみに苦しみを重ねた挙句の誘惑だったようだ。
「そっか… 解った… でも残念だったな… どうせなら、お前のマン粕、舐めてから告白して欲しかったよ。 まだ本物(なま)のマンコ。 見たことないんだ俺… 誰のでもいい訳じゃないんだぜ。 好きな女の子のマン粕だから我慢して舐めれるくらい臭いらしいんだよ…」
意気消沈して呟く俊介。
「舐めてもいいよ… 私のマン粕… 臭いと思うけど… お父さんにはフラれたって言うつもりだから… 私のマン粕… 舐めて欲しい…」
俊介の目の前にアヒル座りする洋子は顔を真っ赤にして視線を反らした。
洋子は黙って再びベットに仰向けになると両足を膝たてて柔らかい太ももをプリンと振るわせた。 そしてレモン色のショートパンツを脱ごうとボタンを外しチャックを下げた瞬間、俊介が「どうせなら成田流雲の作品みたいに無理やり的にお前を辱めて味見してみたいな…」と、洋子の手を止めた。 洋子は一瞬「え!?」と、固まり動かなくなったが直ぐに満面の笑みに表情を変えた。
その数分後。
「で、どんなのがいいの俊は? 後ろ手に縛るの?」
「どんなのって… そうだな~ お前に一週間の風呂とシャワーを禁じて~」
「そんな! 駄目! 駄目よ! 小説とは違うのよー! 俊くん余りの臭さに失神しちゃうから!」
「そんなに臭いのか!?」
「だってね! 本当に摩り下ろした山芋みたいになるんだよー! 女の子自身でさえトイレの時に吐き気するほどなかんだから!」
「やっぱり内側にベッタリ白いモノが張り付くのか!?」
「うん! そうだよ! 白いって言うより黄ばみがかって変色したような! そんなの舐めたら病気になるって!」
「うん… 何か吐き気を感じるなそれ…」
「じゃあお前は? どうやって処女喪失したいんだよ♪」
「普通に… 入れられた瞬間、おかあさーーーんって叫んだくらいにして♪」
「おいおい、それじゃー二昔くらい前の劇画だろう♪」
「そだね♪ うふふふふー♪ 普通に服着てて後ろ手に縛られてぇー♪ 一枚ずつ脱がされるみたいのって恥ずかしいかも♪」
「で、硬いモノを無理やりシャブらされるんだろ♪ あっはははははは♪ ヤバ! 起ってきた…」
「無理しないでいいよ♪ 今ここで私のこと味見しなよ♪ 心の準備は出来てるし♪」
「そんな訳にいくかよ! コンドームも持ってないし!」
「じやあ私が、口でしてあげる… 初めてだから上手くてかないと思うけど…」
「え!? そ、そりゃあまだ早いって言うか… 時期尚早だろ!」
「だったらー♪ この部屋、お風呂ついてるんでしょ? 一緒に入ろっかあ~♪ ニャァーォン♪」
「てかさ…… 俺、やっぱり今… お前のこと味見したい……」
「うん…… やさしく…… して… ね……」
抱きついてきた洋子からタンクトップを脱がせた俊介は、優しく抱き倒すと仰向けになって首を横に倒した洋子のピンク色の乳首に唇の中に収めた。 甘い香りの漂うようこの胸の匂いにウットリしつつピンク色した乳首に舌を絡め転がし乳房を下からやさしく揉見回した。 洋子はヒクヒクと乳房を愛撫する俊介の唇と舌に全身を揺らし両肩を小さく震わせる途、俊介はベッドの横に置いてあるリモコンでドアをロックし施錠した。 巨大なスピーカーからトランスが重低音を響かせ四十センチウーハーから軽快なリズムが愛らしく放たれる洋子の吐息を覆った。 乳房を愛撫する俊介の口元は濃厚にして軽快に動き、右乳房を優しく揉みまわす手は月明かりを頼りに足を進める動物のように足音を潜めて下半身へと滑り、洋子の肌の温もりを感じるとそのまま優しく回された。 洋子は左足の外側に感じた俊介の体温に瞼の内側を震えさせ投げ出していた両手でベッドシーツに指の震えを伝えた。 そしてレモン色のショートパンツの裾から中に入る俊介の指に全身を「ビクンッ!」と、強張らせると、柔らかな唇を小さく震わせ更にその指が奥へと入りそして滑るとベッドシーツを掴む両手をギュッと強めた。
「ぁん…」
虫の羽音ほどの小さな声を奏でる洋子の甘い吐息が俊介に降り注ぐと、俊介の手はショーパンから擦り抜けそのままボタンを外しファスナーをゆっくりと降ろした。
嫌らしい音を立てないように舌を滑らせる小さな膨らみの真ん中、勃起した乳首を左手の指で摘んで回す俊介の右手は表情を強張らせる洋子からショーパンツを外した。 生まれて初めて異性に見られる下着姿に洋子は全身を不安に震わせ、そしてそれを止めるように俊介の唇は乳房から腹部へ回りながら滑り、両手は洋子の太ももを外側から無造作にそれでいて優しく優しく。 怖さから洋子の両足は緊張して真っ直ぐに横たえたまま爪先を伸ばした。 俊介の唇が左太ももに白いパンティーを超えて滑ると「ビクンッ!」と、不安に腰を大きくビク付かせ首を逆に倒した。 両手で足を開かされた洋子の左足に両手を這わせた俊介が唇伝いに右頬を滑らせると、耐えられないほどの甘く切ない女の香りが顔を包んで俊介の動きを止めた。 左足に感じる俊介の両手と頬の温もりが自らの体温と重なっていることに気付くと無意識に唇を軽く噛んだ洋子は肌に俊介の吐息を感じて首を横に倒したまま軽く仰け反らせる。 そしてその吐息とぬくもりが滑り動くと洋子は腹部を緊張で数回震えさせ、広げさせられた左足の内側に俊介の舌が回るように滑り時折、微かな刺激を伴う貪りに俊介に自分(おんな)を求める異性(おとこ)を感じた。 俊介の唇とその両手は余すところなくようこの洋子の左足をそして右足を愛撫し再び上へと移動を始めた頃、洋子は生まれたままの姿を俊介に見せる時が近づいていることを肌で知った。 そして静かにパンティーを剥ぎ取られた瞬間、思わず洋子は瞼の内側に涙を滲ませた。 そしてその両足を大きく開かれた時、込み上げる感動に瞼の中に隠してあった涙が頬を伝いシーツを濡らした。 恥ずかしさと怖さに広げられた両足を無意識に閉じようとする洋子の両足を肩で阻む俊介の両手の親指を開こうとする大陰唇に感じた洋子は吐き出そうとした吐息を思わず飲み込んだ。 初めて感じる恥ずかしい部分の内側への吐息。 吸い込まれ奪われる体温に脳裏を真っ白に何も考えられなくなる洋子は口を少し開けて息継ぎをした。 そしてその瞬間、恥ずかしい部分の内側に生まれて初めて感じた異性(おとこ)の舌先に「ぅぐ!」と、反応し腰を仰け反らせベッドシーツを力の限り握り締めた。
「あんっ! あひぃ! あああーーんっ!!」
無意識に止め処なく鳴き声を連続させて放つ洋子の脳裏は真っ白になり、そしてその身体の部位は分離したように個々の生命体のように反応した。
今まで感じたことのない部分への快感(しげき)は洋子の脳を貫いて尚もその細胞の一つ一つにまで激しいクサビを打ち込んだ。 だが、そんな洋子とは対照的に冷静沈着にして大胆な俊介は洋子の内側から放たれる独特の匂いに顔を顰めつつも、まるで何かに挑む挑戦者のように真っ直ぐに見つめた部分に舌先をチロチロ動かしそして時には貪りついた。 そして洋子の内肉の更に奥の窪みからはオビタダシイ量の透明な液体が溢れ出し俊介の舌に絡み付いてヌルヌル感を伝えた。
『うわっ! ヌルヌルしてやがる!』
洋子とは対照的に冷静沈着にして大胆で淡白な俊介は透明な液体から逃れるべき舌を時折、ベッドシーツに擦りつけて拭き取ると甘い香りに包まれるボディーとは対照的な陰部から直ぐにでも離れたいと願ったが、洋子の激しい身悶えにもう少し付き合わなければと、目を閉じて液汁壷(あな)に舌先を少し入れチロチロと動かした。
「アヒィアヒィアヒイィーーーー!!」
突然放たれた洋子のヨガリ声に全身を大きくビク付かせて仰天した俊介に、腰を前側に振った洋子の蜜汁壷(あな)に舌先を偶然にも中へと挿入してしまった。
「アヒィ! アヒィアヒィアヒイィーーー!!」
そろそろこの辺りで舐めるのをやめようとしていた俊介は突然のトラブルで放たれた洋子の激しいヨガリ声と身悶えに味見の継続を余儀なくされた。 どうせ最初から恐ろしく感じるはずなど無いと思っていた俊介は激しいカルチャーショックに見舞われつつ、涙目になって嘔吐感を隠して舐め続けた。 そして目の前に突出したクリトリスを見て中指にヌメリを付着させ回した瞬間、再び洋子の恐ろしいほどのヨガリ声に俊介は震撼した。
『余計なことをしなけりゃ良かった!!』
後悔したものの洋子は腰をガクガクと震えさせ、俊介にもっと舐めろと催促するように恥ずかしい部分を押し付けた。 俊介のウゴの下のシーツは拭き取ったヌルヌル液でドロドロになって拭き取るところが狭くなってきた辺り、俊介はそろそろいいだろうと、洋子の部分から口を離すと洋子に見えないように口の中を布で拭き取ってベッドから降りるとタバコに火を点けて吸い込んだ。 そして数分後、洋子はボウーとする意識の中でタバコを吸いながら缶ジュースを飲む俊介に激しい違和感を覚えた。
「ねえ… 何してるの…? ねええ! 何してるのお!! ねえってばあー!!」
全裸の洋子は両目を大きく見開いて満足げに一服する俊介の左肩を激しく大きく揺すり声を大きくした。
「え? 何って… 俺はもう満足したし… 続きはこの次だ!」
タバコの煙を吐き出しながら洋子を右に振り向いた俊介は突然、左頬にバシーンと激しい痛みを感じた。
「馬鹿じゃないのおアンタああー!! 女の子! 女の子を放置して… 満足したってねぇ! なにそれ!!」
俊介の右肩を左前に見た洋子は俊介を平手打ちして尚も唖然とした声を怒声に変えた。
「痛ってぇなあー! どうしたんだよ! お前こそ!」
洋子の怒りの原因が何なのか知りつつも、最後までするつもりは無かったとは言えない俊介は何も解らないフリした。
「酷い… 酷すぎる… 女の子の気持ち、まるで解ってないんだね… アンタって人は… ぅぐ! ぅううううう……」
両手に拳を握り俊介の背中に叩きつけた洋子は悔しさと惨めさに大粒の涙をボロボロと零して俊介の右肩に抱きついて泣いた。
「俺… お前とのこともっと大切にしたいんだ… だから味見だけさせて貰った… 駄目かな… それは……」
右肩に寄り添って泣く洋子を振り向くことなく声を窄めた俊介。
「うそ! 臭くて縮んだんでしょ! マン粕ついてたから… だってさっきまでギンギンだったじゃない!」
勘の鋭い洋子は一つ年上の知能を披露し俊介を追い込めた。
「好きな女のマン粕を食うつもりでなきゃ味見なんか最初から出来るかよ! それにほら!! 見てみろよ、俺はまだギンギンだよ!!」
テントを張った俊介の股間を凝視した洋子は唖然としてその力強い張りを見て吐息を震わせた。
「ごめんなさい… 私馬鹿だから… つい… 許して…」
急にしおらしくなった洋子は俊介の顔をまともに見ていられずに俯いて詫びた。
「いや… いいんだ解ってくれれば… 俺はお前とのこと一夏の恋で終わらせたくないんだ…」
声を窄めて俯いた俊介は、ベッドから降りた時に咄嗟にベッドの下に転がっていた肩こり用の指圧棒をズボンに入れておいた自分の才覚に深く感動した。
「嬉しい… 俊! 私、嬉しい……」
俊介の右肩に今度は嬉し涙を流して寄り添った洋子は、俊介の勧めでバスルームにその身を移動させ俊と巡り合えたことを神様に感謝しつつ身体を泡立てた。
俊介はズボンの中に仕込んだ指圧棒を取り出すと、再びベッドの下に転がすと生まれて初めて見た洋子(おんな)の身体と、不釣合いなほどにグロテスクで凄まじい激臭を放つ割れ目に動揺した。 写真で見て知って居たものの、本物(なま)マンコの形と触感と匂いと味は俊介を急性のインポにしてしまうほどの衝撃を与えたようだった。 だが、洋子(おんな)の身体から放たれる甘く切ないほどの香りを思い出した俊介は身体をゴロンとベッドに横にして尚もウットリしてもいた。
【十話】
生まれて初めて本物(おんな)を味見した俊介だったが、余りのショックに執筆する気力もなく洋子が帰った後、シーツを丸めてそのまま一階の洗濯機に放り込んだ。 元々、女の部分が臭いのは十分知っていた俊介だったが、その臭さに加えて凄まじい味と触感そしてグロテスクな構造に嫌気をさしてもいた。 だが、本物(おんな)の身体(はだ)から漂う甘い香りだけは否定することなく記憶の中にしっかりと埋め込んだ。 そして「臭いアソコは女に必要ないかも知れない…」と、思いつつその思いを直ぐに打ち消した。
「いいか真由美。 明日は俺の事は先生と言うな。 俊介か俊ちゃんと言え。 と言うか、普段から言ってるけど先生と呼ばれることは嫌いなんだよ本当に…」
海水浴を明日に控えた夕方、ダイニングテーブルを前に夕飯のすき焼を食いながら俊介は真由美に念を押した。
「はい♪ では明日から俊介さんと呼ばさせて貰います♪」
真由美は俊介と千里の顔を見回してペリと頭を下げた。
「ところで明日は何処へ行くの?」
箸を休めビールを一口飲んだ千里は俊介に視線を重ねた。
「わからん! 運転手任せだし、立て込んでる時はドライバーの方が情報を持ってるだろ♪」
好物のシラタキを口に運ぶ俊介は口中をホクホクしながら真由美と千里を見回した。
「時間は朝の六時半に迎えにくるから用意しとけよ! 支払いはカードででもいいし現金でもいいらしい♪ あと、此間話したけどドライバーの家族も同乗するから、俺のことがパレるようなことないように頼むな!」
缶ビールを喉に流し込む俊介。
「ところでさ、その… さっき来てた洋子ちゃん? 俊ちゃんの彼女なの?」
缶ビールを飲む千里。
「彼女じゃないよ。 ガヘルフレンドだな強いて言えば」
千里と真由美の目を気にしつつも、落ち着いている俊介。
「ガールフレンドに部屋のバスルーム貸したんだね~♪ てか洋子ちゃん御風呂に来たの? うっふ♪」
俊介に突っ込みを入れる千里は疑心の視線を俊介に向けた。
「個室に付いてる風呂が珍しいらしいな。 まあ、普通は付いてないし… まあ、あんまりつまんねえ勘繰りすると一人で留守番だな明日は…」
豆腐を箸で取りながらチラッと千里を見て缶ビールを喉に流す俊介に千里はギクッと背筋を寒くした。
「それより後で少し執筆するからモデルやってくれや… 喪服でスカートに黒系のブラウスな。 あと化粧は暗めでスリップは黒、ストッキングは当然、黒で切り替え無しのマチ付きパンスト。 パンティーは白にしてくれ。 ああ。 一応履き替えように黒も用意しとけよ… 髪型は暗そうなのを頼む…」
俊介は真由美の横で淡々とイメージを伝え、千里は真っ直ぐに俊介を見て頭にイメージを入れていた。
「後片付けは真由美に頼むとして、先に風呂入ってゆっくりしてていいぞ! 多分、数時間は掛かるからな」
銀シャリを腹にかきこむ俊介は麦茶で腹に押し込めると換気扇を回してタバコに火を点けた。
「じゃあ、私。 仕度してくるわね。 用意できたら仕事場(うえ)へ上がるから待ってて♪」
缶ビールの残りを喉に流し込んだ千里はそのままその場を立ち去り、残された真由美も慌てて夕飯をかきこんだ。
「真由美。 ごめんな。 なんか真由美のこと当てにしちゃってさ。 ごめんよ…」
タバコの火を消した俊介は真由美に頭を下げるとそのまま仕事場へ向かった。
真由美は自分に頭を下げた俊介を見て「自分も白鳥家の一員?」と、俄かに感動を覚えルンルン気分で後片付けを始めた。 そして髪を後ろに束ねた千里は暗めの化粧して鏡の前で表情が自然になるように余念なく臨んだ。 不自然な表情を嫌う俊介の良き相棒としての千里は一旦、全裸になるとそのまま指定された衣服で身を包み真剣な表情と自然な表情を鏡の前で繰り返すと「よしっ!」と、掛け声をかけて仕事場(うえ)へと移動した。
「スーツのボタンを外して。 ブラウスのボタンは三つ目まで。 そう。 うん。 右膝まげて左足は軽く伸ばして。 そう。 いい感じ。 表情は… そだな、緊迫か… 切迫したってな感じだな。 数人の男達に取り囲まれて窮地に陥った貴婦人てな感じたな。 このままでは強姦される… よし! いいぞ! そのままにしてろ!」
突然のGOサインで始まった俊介のイメージ描写の戦いに仕事場にキーを打ち付ける音が凄まじい勢いで連発した。
キーは壊れんばかりの音を立てその都度、俊介から与えられる指示で千里は手足と身体の向きを変えた。 そして俊介が執筆と言う本当の戦いに入ったことを知らせるヘッドホンが頭に掛けられた時、静まり返った仕事場にヘッドホンかせ漏れた大音量が千里の真剣さを増させた。 俊介の指示を待つ千里は自らブラウスのボタンを外し黒いスリップの肩紐を指示通りに右から外し乳房の端っこ落とした。 俊介の額から汗がダラダラと落ちた。 俊介は今、イメージの中に自分をそして千里を沈め激しい緊迫の中で活字と戦っているのが千里にも感じられた。 突き出した右足を限界まで、そして左足の爪先をピンッと伸ばし束ねた髪を解いて左右に振り乱した千里は犯される間際の貴婦人を俊介の脳裏に焼き付け続けた。 そしてスカートのファスナーを降ろして途中で止める。 スカートが無残にも下半身から奪われる瞬間、千里は唇を噛み締めて恥辱と屈辱の中で男達を下から見上げて目を吊り上げた。 そして再び始まった俊介の活字との戦いはキーの音の連続を保った。
「パンストをビリビリに破れ!」
突然、放たれた声に千里は自らの下半身を包む黒いパンストを小さく小刻みに破りつつ、俊介に向ける顔の表情は恥辱される貴婦人の辛さと悲しさを醸し出していた。
パチパチパチと激しく打たれるキーの連続音の中、スカートを奪い取られ伝線して肌を露出させた千里を複数の男達が嫌らしい笑みを浮かべ見入りそして、その笑みに恐怖を覚えつつ逃げようとした千里を男達が寄って集って押さえつけた。 千里の下半身から無残にも破きとられた黒いパンストは暴れる足にヒラヒラと揺れ黒いスリップの右肩紐をも外され仰向けにさせられた千里は、悔しさに涙して動かそうとしても動かせない四肢に激しい悲しみを、そして剥ぎ取られそうな白いパンティーは陰毛ギリギリのところで止められ、男達はその光景に硬くした下半身を千里に見せ付けそして笑みを浮かべた。 気丈だった貴婦人はいつしか涙を目に滲ませ首を横に倒し唇を噛んで両手でシーツを握り締めた。 そして執筆が始まって一時間が経過した頃、突然俊介は「うおおぉぉぉーーーー!!」と、大声を発し更にキーを叩くスピードが増し俊介はシャツを着たまま全身からオビタダシイ量の汗を沸きあがらせていたが、千里は複数の男達に強姦され泣き叫び大量の涙と鼻水を垂らして恥辱に耐えていた。 そして次に俊介の雄叫びが始まった時、俊介はキーを叩いていた手をピタリと止め仕事場は静まり返った。
「よし… いいぞ千里…… よく頑張ったなお前……」
ベッドの上にアヒル座りして涙と鼻水をティシューで拭き取りつつ笑みを浮かべる千里を労う俊介はニッコリと満面の笑みを浮かべた。 そして千里はスリップの肩紐を直すと再び笑みを返した。
俊介のイメージが手に取るように解る相棒(ちさと)ならではの完璧過ぎるイメージへの感情移入はこの夜も見事に成功した。 俊介はフフラと席を立つと千里のそばへきて腰を下ろすと、黙って笑みを浮かべて左腕で千里の肩を抱いた。 そして耳元で「毛が見えてるぞ♪」と、千里は慌てて両手でその部分を隠し顔を真っ赤に恥じらいを見せた。 俊介は心の中で「母親じゃなければいいのに…」と、密かに呟き、千里もまた「息子でなければいいのに…」と、密かに呟いていた。 二人は同じ思いであったが故・白鳥喜三郎こと重三である父親そして主への強い遠慮が本心の前に大きく立ちはだかっていた。 俊介が童貞を密かに守っているのは捧げたい女性が居たからであることは言うまでもない。 だが、どうにもならない親子の関係はまだ継続される。
「千里……」
真剣な視線を左側の千里に重ねた瞬間、千里もまた真剣に俊介に瞳を釘付けにしたが、千里は黙って俯いて小さな声で「ごめんなさい…」と、呟いて首を俊介とは逆の方へ回した。
「いや… いい… 助かったよ」
千里から離れた俊介はベッドから腰を上げると、散らばった黒いストッキングの破片拾いを始め、千里は黙って仕事場から出て行った。
俊介は叫びたい程の欲望をぐっと押さえ、満たされない気持ちのまま疲れた頭を癒すべく直ぐに眠ってしまった。 そして同じ頃、一階の風呂場の浴槽に身を沈める千里もまた心の叫びを押し殺すように両手で乳房を強く抑えて耐えていた。 ドラマなら直ぐにでもドンデンガエシのあるところだが現実は中々思うように行かないのだと千里は自分に言い聞かせた。 そして洋子の父親が自家用車で白鳥家を訪ねたのが朝の六時半だった。 千里は敷地の中にある車庫のシャッタースイッチを家の中で押し、巨大な車庫の中にある数台の高級車に岡田は目を丸くした。 黒塗りのベンツのリムジンにロールスロイスにキャデラックと流石は白鳥家と息を飲んだ。 そして玄関に待たせていた洋子と母親の幸子をチラッと見た洋子の父親は、家から出てきた千里から車のキーを預かると整備の行き届いたベンツに目を丸くしつつ、車庫から車を出した。
「今日は宜しくお願いしますね♪ 車には全員乗れますから~♪」
洋子の父親は初めて見る千里の美しさに仰天し唖然と立ち尽くした、そこへ洋子が近づいた。
「おば様♪ おはようございます♪ 今日は宜しくお願いします♪」
千里と一面識ある洋子は明るく元気よく礼儀正しい俊介のガールフレンドを務め、洋子の母親も気恥ずかしそうに頭を下げた。
そしてソコへ荷物を持った俊介と真由美が登場した。
「おはようございます♪」
挨拶を重ねた俊介と真由美は笑みして自己紹介をすると洋子とその両親も笑顔を注いだ。
「では参りますか♪ どうぞ奥様♪」
最後部のドアを丁重に開いた洋子の父親は千里を当主として一番最初に乗せ次に俊介と真由美に席を回し、真ん中に洋子と妻をそして自分は運転席へと移動した。
「流石はベンツのリムジンですね♪ スムースですし整備が行き届いてますが何処か工場に依頼されているんですか? いやあ、凄いもんだ♪」
車を走らせるなり洋子の父親は初めて乗るベンツのリムジンに感動して話し始めた。
「ちょっと! お父さんたら… もおう!」
誰にも解らない車談義を始めた父親に照れながら洋子からの釘が刺された。
最後部に俊介家族と差し向かいで洋子と洋子の母親が乗ったが、何をどう話してよいやら解らない状態が続いたが、洋子の母親が世間話を始めパートで働いている病院の話題に、元看護士の千里が乗った。 そして千里の知っている病院であることで話しが盛り上がった。 まるでドラマのような展開であったが病院の話題からドンドン話しが広がり映画や芸能にも発展した。 千里も洋子の母親も昔からの知り合いだったように談笑を継続させたが、話題の合わない俊介と洋子は時折、視線を重ねてはそれを外しあった。 そしてそれは真由美も同様だった。 だが、洋子がうっかり口にした田代流雲の名前に真由美の目が大きく見開き、真由美と洋子の談笑に俊介は真由美が口を滑らせるのではないかと心臓をドキドキさせ、洋子が俊介との仲を口を滑らせるのではとヒヤヒヤしていた。 だが車は高速道路をドンドン進んでヒヤヒヤする俊介に構わずに談笑で車内は大盛り上がりした。 そして到着した海水浴場を目の前に車内は歓喜したが車はそこほ通り過ぎて人気からドンドン離れて行は車内は静かになってしはまった。
「ねえ! 何処行くのの!? 本当に大丈夫なの!?」
耐え切れずに父親の運転に口を挟む洋子に父親は頷いてニコニコしていた。
そして人里を離れて尚も進んだ車は、一つの漁村の狭い道を通って外れに差し掛かると、漁業関係者のトラックが路上駐車する道を更に進んだ。 そして陸に上がった漁船郡を左右に見て突然開けた場所を目の前にした瞬間、車内からは大歓声が生まれた。
「本日は当社の代行を御利用頂きましてまことにありがとうございます♪ 本日の海水浴場は当社のサービスと致しまして取引のある○○漁業共同組合様より特別にお借りした海水浴場であり、本日一日はプライベートピーチとしての御利用が可能になっておりす♪ 尚、見ての通り売店やトイレにシャワーも完備しておりますれば、どうぞ皆様におかれましては御ゆるりと海水浴をお楽しみ下さいませ♪ ピンポンパンポーーーン♪」
洋子の父親のジョーク混じりのアナウンスが車内に大歓声を巻き起こした。
拍手喝さいの中で停車した車から飛び出した俊介たちは一斉に海に向かって走り出し、波打ち際に足を入れて走り回った。
「俊ちゃん! テント! テントよ!」
海水浴場の更衣室を嫌う千里は手招きして俊介を呼ぶと、思い出したように慌てて浜辺から戻って砂の上にテントを張り始めた。
「流石、洋子の親父さん、凄えーや♪」
猿の芋洗い状態に見える遠くの海水浴場を見据える俊介は、一緒にテントを張る洋子に笑顔を見せ、洋子は照れ臭さそうにはにかんで見せた。
そしてワンタッチテットは着替えようと日除け用と荷物用の三つがあっと言う間に張られ、女達は着替え用の一番大きいテントに夫々に入った。 そして出てきた洋子は鮮やかな水色に赤いハイビスカス模様のワンピースに包まれ、真由美は濃い青系のビキニ、そした千里は黒系ビキニにその豊満なボディーを包んでいた。 そしてズボンの中に海パンを履いてきた俊介はその場で衣服を脱ぐと真っ直ぐに海を目指して突進した。
「凄げえぇー♪ 気持ちいいーーー♪」
みんなを手招きする俊介は小学生のように大はしゃぎして歓声を上げた。
「アレ? 親父さんは?」
辺りに洋子の父親を探した俊介に洋子は波打ち際に腹ばいして答えた。
「だめだよおぉー♪ 仕事だもーーん♪ てか、疲れると運転に支障でる見たい♪ でも後で水虫の足を洗いに来るわよお~♪ キャッハハハ♪」
顔にはねた海水を手で払う洋子。
「ゲェ! 水虫? ヒエェーーーーー♪」
バシャバシャと波を立てて沖へ走り逃げた俊介と、突然立ち上がってそれを追う洋子。 そして仲良しな二人を見つめる千里と真由美。 そして楽しげな娘を喜ぶ洋子の母親と、車の傍でタバコを吸いながら見る父親。
二つの家族は互いの垣根を越え親戚のように戯れ時間を共にした。 そして午前十時を回る頃、浜辺に何組かの別の家族が近づいたが「貸切」と、書かれた大きな村の看板と係員の説明で次々に引き返して行き、横目にそれを見る洋子は御姫様になったような優越感に浸ってもいた。
「くっそ。 タバコ吸いたいな~」
水の中でビーチバレーする千里と真由美と洋子の母親を砂に腰を降ろして見入る俊介は、辺りを見回してタバコの吸えるところがないか目で探していた。
「この辺だと右側の岩場の陰かな~♪」
突然、横に腰を下ろした洋子が左百メートルほどのところの岩場を見て言い出した。
「そだな… チョッと行ってくるかな… ああ。 お前は来るなよ。 二人で行ったら怪しいからな!」
俊介はジャンパーを上に羽織るとブラリ見物とばかりに岩場を目指し、洋子は目の前でビーチバレーするその輪の中に身を投じた。
昼の十二時過ぎ、二つの家族は港町ならではの海鮮炊き込みご飯と海鮮ラーメンに歓喜し空腹を満たし、休む間もなく再び間傍の海に足を急がせた。 そしてみんなが遊ぶ場所に来て海に足を浸けた洋子の父親を見るなり「うわあああー♪」と、略全員が驚きそして楽しげに逃げ出した。 洋子の父親は「え!?」と、自分から逃げる二つの家族を見て首を傾げた。
「今日はとても楽しい一日でした♪ 本当にありがとうございました♪」
夕方の六時過ぎ帰宅した二つの家族は名残惜しそうに白鳥家から去り、疲れた身体を個々に休めた。
そんな中、二階自室で身体を休めている俊介に洋子からメールが入った。
「今日はありがとう♪」
私の写真、送るからオナニーのオカズにしていいよ♪ キャハ♪
洋子から送られてきた写真は二枚。 顔正面が一枚と、そして左右に広げた女の恥ずかしい部分が一枚だったが、俊介は恥ずかしい部分の写真を見て直ぐに吐き出しそうになって直ぐにそれを消去し、消去したことを洋子に返信した。
「変なモン送るな! 消去したからなアレは! 顔写真は気に入ったから貰っておくよ!」
早押しで返信した俊介は携帯をソファーに放り投げると、直ぐにメールが再び入った。
「女の子の気持ち解らない人だね! 全くもおぅ! てか、また行くから… チュッ♪」
面倒くさそうに拾い上げた携帯の画面を見た俊介だったが、不思議と青春している自分に笑みを浮かべてゴロンと横になって目を閉じた。
だが、瞼の裏側に居たのは洋子ではなく千里だった。 黒系のビキニに包まれた千里のボリュームあるボディーはモデルとして普段見ているモノとは違っていてイキイキしていた。 そんな千里を描きつつ眠ってしまった俊介だった。
その頃、一階でグッタリする千里と真由美もまた久々の行楽に話題も尽きることなく話し込んでいたが、どちらからともなくいつしか俊介同様に眠ってしまった。 ただ、そんな中、俊介は何やらニヤニヤして笑みを浮かべていた。
いつものようにモデルをを千里に頼んだ俊介はイメージを膨らませるために趣向を凝らしていた。
黒いスリーインワン、ガーター紐に吊られた黒いガーターストッキングと黒いレースのパンティーで包まれた千里の両腕は、前に差し出された状態で壁に取り付けられた金属に白いロープで縛られていた。 両足を適度に開いて尻を突き出す千里は両足が閉じられないように幅止めをされ、天井から伸びた白いロープで腹部を縛られ斜屈むことを禁じらていた。 そしてその尻斜め横にはパイプ椅子に座り足組する俊介が右手に黒皮の鞭を持っていて、硬い柄の方で千里の尻をパンティーの上から撫でて時折、恥ずかしい部分を柄の先で擦り付けてもいて、陰部をバンティー越しに擦られる千里は両足をヒクヒクさせ脳裏に伝わる快感(しげき)に耐え恥ずかしい声を喉の奥に溜めた。
「さあどうだ千里! 恥ずかしい声を出して見ろよ♪ 気持ちいいだろう千里~♪」
快感(しげき)に耐え声を押し殺す千里を辱めるように俊介は黒いパンティーにその形を露にする千里の立て筋に鞭の柄を強弱つけて擦り続けた。
「ぅぐう! 今日の俊ちゃん何か変よお! 解いて! 解いてえー! こんなの嫌ああー!!」
両腕を縛られ身動きの取れない千里は俊介の変貌に恐怖を感じ、椅子に座ったまま悪戯する俊介に声を放った。
俊介は千里の声に動じることなく、むしろ縦筋を擦る力を強めた。
「ううううー!! や! やめてえぇー!! 俊ちゃん!! やめてえぇー!!」
堪えきれない快感(しげき)に堪らず俊介を制止する千里は、椅子を立ち上がる俊介の気配を感じた。
「何するのおおおー!! やめ! やめなさあーーい!! やめないあーーい!!」
黒いガーターストッキングに包まれた左足、太ももに両腕で抱きついて頬擦りする俊介に思わず声を張り上げた千里は、続けざまにパンティー越しに滑らせされた右手に思わず尻をギャッと閉じた。
「別に何もしないさ… イメージのために仕方なくしてるだけ過剰反応すんなよ!」
俊介は冷静に千里に返事を返すと黒いストッキング越しに自らの熱い吐息を千里の太ももに感じさせた。
そして次の瞬間、俊介の右手の平は尻から再び下へ滑り降りると、千里の左足の内モモ奥深く指が入り込んだ。 千里は首を持ち上げ左側に首を振ると内モモに滑らされる俊介の右手に思わずパンティーの中で肛門を閉じさせた。 ガーターストッキングの上から滑る俊介の手はそのままモッチリとした素肌(うちモモ)に上陸して、直接指で千里の弾力と柔らかさを確認しムニュムニュとその感触を楽しんだ。
「いい加減にしなさい!! 俊ちゃん!!」
首を限界まで左に回して自らの内モモをムニュムニュ掴む俊介に千里は怒りにも似た声を放った。
だが俊介は千里の内モモの感触を延々と飽きることなく楽しみ千里は諦めたように首を下に下げて沈黙をしたが、直ぐに尻に這わせられた二つの手と真ん中に押し付けられた俊介の顔と鼻息に目を大きく見開いて沈黙を破った。
「嫌ああー! やめて、やめてえぇー!! やめてええぇぇー!!」
首を左右に振り自らを振動させる千里は自由を奪う複数のロープと尻の匂いをかぐ俊介に激しい苛立ちを覚えそして叫んだ。
俊介は千里のパンティーの中の匂いを深呼吸するかのごとく物凄い勢いで嗅ぎ吸すい込むと口を外側に向けて吐き出した。 自らの吐き出した吐息で千里の匂いが薄まるのを避けていた。
「堪らねえ♪ 今まで我慢してたんだ! 今夜は浴びるほど千里(おまえ)を感じてやる!!」
尻の中の匂いを嗅いで妖しい笑みする俊介は、立ち上がるとそのまま千里の左肩へと近づき、怒鳴って制止する千里をチラッと見て笑みを見せつつハサミでスリーインワンの肩紐を千里の肩から切り離した。
「嫌ああああああぁぁぁぁーーーーー!!」
肩紐を切り離された千里は顔を強張らせケタタマシイ叫び声を上げ首を持ち上げ左側にいる俊介を物凄い目で睨み付けた。
「夢にまで見た千里(おまえ)の乳房… 見せて貰うよ……」
白い肌を覆う千里の身体から黒いスリーインワンを両手で後ろから剥がして降ろした俊介は、直ぐに身体を屈ませて引力に逆らわない千里の豊満な乳房を目を見開いて凝視し、千里はポタポタと床に大粒の涙を落としていた。 だが目を大きく見開いていたはずの俊介には千里の乳房は白い光に包まれて見ることが出来なかった。
「そんな馬鹿な!! なんで見えねえんだあぁー!? そんな馬鹿な!!」
俊介はソコにあるはずの千里の乳房を両手を突き出して捜した。
俊介は心待ちにしていた千里の乳房を前にして眩しく光って何も見えないその場から悔しがって離れると、突然、千里の両足を包む黒いストッキングを吊るガーター紐をハサミで全て切り離すと、ハサミを床に投げ捨て目の前の黒いパンティーを両手で勢いよく剥がした。
「嫌ああああぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
凄まじい千里の叫び声が俊介の耳をつんざいたが、そこにあったのは乳房同様に白く目の眩む光でも俊介は目を凝らして光の中を覗き込んだが、ソコには何も見えなかった、
「畜生おおおおおーーーーーーーーー!!」
剥ぎ取ったパンティーの中に何も見えない俊介は怒り心頭しその場を離れると、床から拾い上げた鞭で千里の尻を数回左右から打ち付けた。
「うわあああぁぁぁーーー!!」
打ち付けた千里の尻の左右から突然、洋子と小雪が夫々に顔を出し物凄い形相で俊介を睨み付け、俊介は恐怖から悲鳴をあげて後退りして床に背中を強打した。
「よくも! よくも私を辱めてくれたわねぇ…… 小僧!」
倒れた俊介を凄まじい形相で睨み付けていた父親である重三の顔した千里の身体は、一歩そしてまた一歩と俊介に近づき後退りして逃げる俊介は突然後ろから千里と洋子と小雪の三人から押さえ付けられた。
「好きなら好きだと正直に伝えなさい! お父さんは貴方と千里さんのことは許してくれているわ♪ いい! ちゃんと気持ちを伝えなさいね♪ でないとお父さんもお母さんも貴方のことを許しませんよ!」
突然、近づいてきた重三の顔が幼い頃に死んだ実母に変ると俊介は安堵して、懐かしい母親の顔に涙を零した。 そして再び顔を上げた時、そこに居たのは恐ろしい形相をした重三だった。
「うわあああぁぁぁーーーーーーーー!! はぁはぁはぁはぁはぁはぁ…… ゆ、夢か………」
顔を強張らせ夢だと気付いた俊介はソファーから転げ落ちた自身を起こして冷蔵庫へヨレヨレになって移動すると、麦茶を出して一気に乾いた喉へ流し込んだ。
だが俊介が麦茶ボトルを持ってソファーに戻って来て腰を下ろそうと何気なく床を見た俊介の目に、亡くなった母親が大好きだった椿の花びらが落ちていた。 そしてそれを拾い上げようとした瞬間、目の前で音もなく消えた花びらに俊介は、天国で母親が重三に話してくれたのだと胸の奥が熱くなった。
「母さん… ありがとう……」
俊介が心を熱くさせていた頃、一階寝室で眠っていた千里にも不思議な夢が齎されていたが、知る由もない俊介は心を癒され今度はベッドに入って直ぐに眠りの世界へと身を投じた。 夢と言ってしまうばそれだけのことだろうが、俊介は心穏やかに眠りの世界へ身を投じていた。 そして熟睡し疲れも取れた俊介は早朝、小説「小雪」の執筆に取り掛かった。 純文学・小雪は少しずつページを重ねて行った。
【十一話】
「千里、頼みがあるんだけど… 親父の書斎。 使わせてくれないか? 文豪・白鳥喜三郎の書斎で書き物をして見たいんだ…」
突然の俊介からの申し出に台所にいた千里は困惑した。
故・白鳥喜三郎の書斎は、喜三郎亡き後は千里の一存で封印され息子の俊介でさえも入ることを千里は禁じていた。 千里と喜三郎こと重三の思い出の重なる書斎は千里にとってこの家で唯一の聖地でもあった。
「どうして急に…」
困惑する千里は作家に取って書斎が戦場でることを俊介同様に知っていたが故だった。
「親父の気持ちになって書いて見たい作品(モノ)がある…」
千里は無言のまま、俊介の前から立ち去ると数分後、故・文豪白鳥喜三郎の書斎(せんじょう)の鍵を俊介に手渡した。
「旦那様が亡くなる間際まで活字と戦っていたままになってるから…」
千里の言葉に一瞬、ためらった俊介は渡された書斎の鍵を千里に返そうとした。
その瞬間、千里は突然、俊介の頬を平手打ちした。
「生半可な覚悟で旦那様の書斎を使いたいなんて二度と言わないで頂戴! 例え俊ちゃんでも許さないから。 私……」
千里は真剣な表情を俊介に見せつつ、返された鍵を握り締め再び俊介の前から立ち去った。
大野真由美は一人の若き作家と文豪・白鳥喜三郎が妻の物静であって壮絶な戦闘を見た想いがしていた。
文豪・白鳥喜三郎の書斎(せんじょう)を使うと言う事はそれに相応しい作品(モノ)を扱うと言うことであって、安易な物見であってはならない。 文豪・白鳥喜三郎が妻、千里は書斎(せんじょう)の番人として喜三郎を守る任を全うしていた。 大野真由美は例え息子であっても入ることに相応の覚悟を持たなければならいことに背筋を凍らせた。
俊介は黙って三階の仕事場に移動すると、部屋の中を見回して安易なことを千里に言ってしまったことを心の底から恥じていた。
「芥川賞か……」
席に腰を下ろした俊介は、再び室内を見回し自分の戦場に他人(さっか)が踏み入ることの重大さを改めて認識した。
「親父はいい番人を手に入れたな……」
俊介は自らの軽はずみな言動を後悔しそして恥じ、自分への悔しさを噛み締めつつ大きな木目の机を両手の平で激しく叩いて立ち上がると、窓辺へ移動し開いた窓から入る夏の風に身を晒した。 そして掃除しに入ってきた大野真由美に思わず聞いた愚問に真由美はその返答に苦慮した。
「真由美! 俺は人気作家か?」
藪から棒を出されたような俊介の質問に真由美は無言でコクリと頷いて見せた。
「じゃあ、俺は文豪か?」
真由美は返答に困り首をゆっくりと傾けると口を開いた。
「あの先生… 官能界では… その… 文豪と言う表現は… その… 確かに先生は人気作家ですが、文豪と言うのは官能界では使わない表現なので…」
困ったとばかりに言葉を途切れさせる大野真由美。
「いや… 変なことを聞いたよ… まあ、文豪と言うには未だ著作数も少ないしな… やっぱり芥川賞か直木賞か… それをゲットすれば文豪か……」
部屋の壁に遠くを見る俊介。
「いや、あの先生。 私も入りたててで詳しく知らないですが、どんな賞を取っても売れないと駄目なんじゃ… ないですかね? 賞を取った後が大事で大抵は二作目で消えてしまうって編集長も言ってましたし…」
遠くを見る俊介に慌ててフォローを入れる真由美。
「確かに… 大抵は二作目で消えそうになって慌ててお笑いタレントになるんだよな… それは言えてるな確かに! だが実際問題、文学は商売にはならんし…」
遠くから近くにいる真由美に視線を移した俊介はニヤリと笑むと、スッとその場で床に仰向けになって真由美の足元に顔を入れスカートの中を覗いた。
「キャァー!! す、すいません! 反射的につい! どうぞジックリ眺めて下さい」
突然の俊介の行動に悲鳴を上げた真由美はスカートを押さえていた手を離し曲げた膝を伸ばした。
「今日はピンクのパンティーか… 年相応だな… てか、パンストのシームが少しズレているから直してくれないか? 縦筋にフィットさせてくれ…」
床から起き上がった俊介は窓際に背凭れして真由美がパンストを直すのを待った。
「先生OKです! どうぞ覗いて下さい♪」
腕組する俊介にニッコリと微笑んだ真由美。
「ああ。 いやいいよ。 ただ覗いただけだし…」
腕組したまま真由美を見ることなく席に移動した俊介。
「えぇ!? な、なんすかそれ!?」
不満げな表情を浮かべる真由美は掃除機のスイッチを入れて掃除を始めた。
そして数分後、掃除に熱中していた真由美のスカートの中をキャスターの付いた台に仰向けになって付いて覗いて回る俊介に真由美は再び顔を顰めて不機嫌な表情を浮かべた。
「よし! 止まれ!! そのままだ!!」
移動しようと右足をズラした瞬間、真由美は動きを禁じられ、俊介は慌しく電子手帳に文字を打ち込んだ。
「いいぞお~♪ 臭そうだ~♪ あっひゃひゃひゃ♪ 匂ってきそうだ♪」
俊介の言葉に口を尖らせる真由美は他人には見せられない顔をして苛立っていた。
「よし! 動け! いいぞお~♪ よし止まれ! 堪らん♪ マン粕が溜まってそうだ~♪」
俊介は文字を入力する手を早め、そして打ち終えると立ち上がって席につくと、信じられないことを真由美に言った。
「悪いけどパンティー脱いでここに出してくれ! 内側の汚れ具合を見たいから…」
真由美は俊介の言葉に震撼し石地蔵のように固まった。 だが次の瞬間、俊介の言葉に我に返った。
「何してんだ! 早くしろ! イメージが飛んじまう! 早くお前の汚いパンツの内側を見せてくれ!」
情けの欠片もない俊介の言葉に真由美は赤面しつつその表情を激怒に代えた。
「フザけんな!! この糞ガキ!! 何で私がそこまでしなきゃなんないんだよおー!! ガキにパンツの中見せる女が何処に居るんだよ!! てめぇ警察にチクるぞゴオウラァー!!」
持っていた掃除機を床に叩きつけた大野真由美は俊介が見たこともないような形相を見せ付けた。
だがその瞬間、突然、俊介はパソコンのキーボードを凄まじい勢いで打ちつけ始めた。
「はめられた…」
俊介にワザと激怒させられたと知った大野真由美は呆然と活字を打ち込む俊介を見詰め、フラフラと床に崩れた。 そして十五分ほど経過した後、俊介の手がピタリと止まった。
「そか… 俺はガキなんだな… じゃあガキらしくもう働かないよ。 ガキは黙って夏休みを謳歌するからさ~」
床にヘタリ込んでいる真由美は震撼した。
「あああのぉ… あああの! あの! すいません! 堪忍して下さい! 本気で言ったんじゃないんです! 許して下さい!!」
立ち上がって俊介の前に立って頭を下げて詫びた大野真由美。
「いやいいよ。 もう出て行ってくれて… 担当替えして貰うから。 俺は糞ガキだしさ… ガキに仕事させてちゃアンタもバツが悪いだろ?」
俊介は真由美に目を合わせなかった。
いると大野真由美は深みにはまった。
「私に出来ることあったら何でもします! いえ、やれと言えばなんでもします! だから許して下さい!! お願いします!」
顔を真っ赤にして詫びる真由美に俊介が口を開いた。
「そかぁ… 何でもするんならして貰おうか… 全裸になって机の前で大また開きして陰部を開いて奥まで見せて貰おうか! もちろん、コントクレンズはしないし、匂いは嗅ぐかも知れないな…」
ふて腐れたように言い放った俊介の前でポロポロと大粒の涙を見せる大野真由美。 そして突然千里の声が二人を覆った。
「もうその辺で許してあげたら!」
腕組して立つ千里は大粒の涙を零す大野真由美を庇うように俊介を見据えた。 だがその瞬間、俊介は反撃に出た。
「ここは俺の書斎(せんじょう)なんだ! 俺の書斎(せんじょう)で、書斎の主と番人が揉め事を起こしただけ… 部外者が口を挟むべきことじゃないだろ! 違うか!?」
タバコに火をつけて吸い込む俊介は千里をチラッと見て直ぐに視線を外した。
「そうね… 貴方の言うことが正しいわ! でも、女性を辱めて楽しむガキなら言うことなんか聞く必要はないわ! 行きましょう真由美ちゃん!」
真由美の右手を掴んだ千里は俊介に目を吊り上げると、真由美を自分の方へと引き寄せようとした。
「奥様! 悪いのは私なんです! 私が! 私が!」
千里の手を振り解こうとする真由美。
「見てたわ~♪ 私も一部始終をね! だから言ってるのよ! この子は作家でもないただの変態なのよ! 女性を辱めて喜んでいるだけの変質者なの!」
俊介を睨む千里と千里の視線から逃げる俊介。
「で、どうすんだい♪ 俺はどっちでもいいぜ♪ 罪を償うならこのまま仕事は続ける… 償わないならもう書かない。 電話入れてやるよ… 社長さんにな…」
腕組して真由美に視線を移動させた俊介は不適な笑みを浮かべた。
「やります…… それで先生のお気が済むのなら……」
顔色を真っ青にして全身を振るわせる真由美は、千里をチラッと見て頭を下げた。
「じゃあ、とっとと見せて貰おうかな… 女が死ぬほど恥ずかしい部分… そしてその奥まで開いて…」
千里に勝ち誇ったように笑みを浮かべた俊介の机の前でブラウスを脱ぎ始めた真由美は泣いていた。
「ゥグウ! ゥゥゥッグウ!」
咽び泣きながら白いスリップ姿になった真由美はグレーのタイトスカートを脱ぎそして、俊介の前でグレーのパンティーストッキングを脱いで見せると、白いスリップの肩紐を外した。
白いブラジャーとピンクのパンティーだけになった真由美は咽び泣く声を大きくしてブラジャーの肩紐を外そうとした。
「人で無し! 真由美ちゃんの弱みに付け込むなんて! 見損なったわ!!」
白いブラジャーを外し片腕で乳房を隠す真由美は、右手でピンクのパンティーに手を掛けた。
「今の千里の一言で罰を追加するよ! 大また開いたら俺の目の前でオナニーしてみせろ! 一度、目の前で見てみたかったんだよ♪ 本物をさ♪ ああ。 序にオッパイも吸わせてもらおうかな!」
千里を見据える俊介の言葉に真由美は声を出して泣き出した。 そして次の瞬間、見かねた千里がツカツカと俊介の方へ来ると、突然、俊介を平手打ちした。
「バシンッ! さあ!戻るわよ! こんな馬鹿は相手にすることはないわ!!」
片腕で乳房を覆い隠す真由美を部屋の外に押し出した千里は脱いだものを拾って俊介を睨みつけると、物凄い音を立ててドアを閉め出て行ってしまった。 今までみたことの無いほどに激怒した千里を見た俊介は、無関係な真由美をいじめたことを激しく後悔しつつも、やり込められなかった千里に憎しみにも似た感情(いらだち)を抱いていた。
「アレ? 俺間の分は?」
昼食時間、ダイニングを訪れた俊介は自分の席に何もないことに首を傾げた。
「千里! 俺のは何処にあるんだ?」
無言で真由美と二人揃って黙々と食事する千里に声を掛けた俊介は、自分を見ようとしない千里に目を据わらせた。
「おい! 千里! お前、どう言うつもりだ! バンッ!」
自分を無視する千里の前、テーブルを両手で叩いた俊介を千里が睨んだ。
「私は貴方の妻でもないし、貴方の母親でもないよ! 食べたきゃ自分で作るなり、私に頭を下げて頼みなさい!」
目を据わらせた俊介を睨みつける千里は声を荒げた。
「そうかい! 全くガキ見たいだな! お前!」
二人が美味そうなスパケッティーを食べる前で、カップラーメンにお湯を注いだ俊介は、千里の頭をグイッと手で押して二階の仕事場へ立ち去った。
「いいのよ! 全くあの馬鹿は女を奴隷くらいにしか思ってないんだから!」
困惑の表情を見せる真由美に千里は言葉を吐き捨てた。
だが、三十分ほどして突然、リビングで千里とお茶を飲んでいた真由美の顔色が一変した。
「大野! どう言うことなんだ! 白鳥先生から仕事を断って来たぞ! ちゃんと説明しろ!!」
編集長からの怒鳴り声は携帯から漏れ千里にも届いた。
「もしもし♪ お世話になっています。 白鳥でございます。 ええ。 はい。 息子には私の方からちゃんと言い聞かせますから……」
真由美の携帯を借りてそのまま千里は編集長に誤りであると訂正して事なきを得た。
「全くあの馬鹿は! 貴女はここに居て!」
真由美を残して二階へ移動した千里は俊介の仕事場に足を踏み入れた。
「どう言うことなの!! 貴方はプロなのよ!」
血相を変えた千里はソファーで横になっている俊介を前に怒声を放った。
「煩いなあ~ お前は黙って親父の番人してればいいんだ! 一々、俺に指図すんなって… てか、本当に千里(おまえ)は馬鹿なんだな~♪ こうなるのは予想できるだろ普通~♪」
千里の法を見ずに仰向けから真横に身体の向きをかえる俊介はダラッと片足を床に下ろした。
「貴方って子は!」
両手に拳を握って怒る千里は肩を震わせた。
「で!? 俺に仕事をして欲しいと? 誰のために? 世の中のためか? 真由美のためか? 俺はプロだから自分のため以外には書かないよ♪ 一つ仕事が減ったから楽に成ったよ♪」
千里を見て薄笑み浮かべる俊介は起き上がってテープルに両足を投げ出した。
「何してんだ! ここは俺の書斎(せんじょう)だ! 用が済んだらトットと出てけ! 書斎は大切な聖地なんだろ?」
千里はいきり立つように背伸びすると上へ持ち上げた拳をスッと力無く振り下ろした。
「今の仕事は続けなさい! ちゃんと完結させなさい! そしたらもう仕事を取らなくてもいいから。 貴方の気まぐれに大勢を巻き込むのはやめなきゃいけないわ!」
振り下ろした拳を打ち消した千里は目を合わせようとしない俊介を左前に見た。
「全く、誰のために取ったと思ってんだか… 千里(おまえ)が家政婦雇いたいって言うから無理して連載受けたのに… 全くこの馬鹿女は…」
足組して腕組した俊介は隠しておこうと思っていたこと悔しそうに言い放った。
「え!?」
俊介の言葉に驚きを隠せない千里は思わず目を大きく見開いて言葉を失った。
「だけどもう疲れた! 朝から晩まで官能塗れなんて疲れたよ… イメージも沸いて来ないし。 そだな… 完結だけさせるか… だが義母シリーズの結末は俺にとって未知なる世界の描写だからな… 俺に執筆を続けさせたいなら、お前も覚悟を決めた方がいいな… 続けさせるために相応の覚悟を持ったほうがいい…」
ソファーから立ち上がった俊介はそのまま開いている窓辺に近づくと庭木に視線を移動させた。
「覚悟… って…」
小声で呟いた千里はその言葉の意味に恐々と息を潜めた。
「いくらモデルを見てイメージを膨らませても、作家自身が感じるしかないモノを描写することは極めて過酷だってことだよ。 義母シリーズの最終完結は俺と千里(おまえ)の関係を根底から破壊してしまうかも知れない… いいモノを書くってことはそう言うことだ。 もし今のまま執筆を続ければ、俺はお前を一人の女として抱くことになる… まあ、そうならないように修正はするが、だがそれは俺の納得の行く作品にはならないってことだけどな…」
俊介はグルリとその向きを千里に向けると、その目は文豪・故、白鳥喜三郎そのモノだったことに千里は全身を強張らせた。
「旦那様……」
俊介に重なる喜三郎を見た千里はその恐ろしいほどの気迫に息を飲んだ。
「いいモノを書くということは掛替えの無いモノを引き換えにするってこともある… まあそうならないように祈っていればいい」
俊介は机に向かうとそのまま執筆に入り、千里は俊介から放たれる異様な程の気迫に後退りして部屋を出た。
『何をしようとしているの… 旦那様(あなた)……』
階段の踊り場で俊介に重なる喜三郎を見た千里は壁に背をもたれて心の中で呟き、壁に飾られた喜三郎の肖像画を見つめ、この夜、千里は喜三郎が乗移った俊介に恥辱されながら犯される夢に全身を汗で濡らした。 だが、深夜の二時過ぎにも関わらず二階の仕事場ではまるで銃弾の飛び交う戦場のようにキーボードを叩く音が鳴り響いていたが、千里はこれから自分の身に起きることを喜三郎が教えているような気がしていた。 そして自分がどう受け止めるのか答えを見出させようとしているのだとも感じていた。
【十二話】
俊介は仕事場にこもって二日が経過し三日になっても下りて来る気配は感じられなかった。 大野真由美は俊介を案じていたがそれは千里も同じであったが、書斎(せんじょう)の様子を見に行くことは番人としてしてはならないことだった。 恐らく書斎(なか)では壮絶な活字との戦いが繰り広げられているのだと承知しつつ、千里は俊介がいつ降りてきてもいいようにモテナシの準備だけは欠かさなかった。
『旦那様(あなた)… 守ってあげて下さい……』
天井を見上げる千里は故・白鳥喜三郎に願いを込めた。
だが、俊介は四日目も五日目も下りてくることはなく、待つことに限界を感じた千里は思い余って、二階へと足を急がせたのは六日目に入ろうとしていた深夜の十二時だった。 そして千里は信じられない光景に呆然とした。 真っ青になった俊介は脇目も振らずに一心不乱にキーを打ちつけながらも、着ていた白いシャツの両腕は真っ赤な血に染まっていた。 それを見た千里は震撼しそして驚愕する自分を抑えつつ静かに俊介に忍び寄ると白いキーボードも真っ赤な血で染まっていた。 その光景は病に侵されこの世を去った、故・白鳥喜三郎の姿、そのものだった。 ペンを持つ腕が硬直して動かなくなったことで、自らの腕を刃物で深く傷つけ固まった血液を出欠させて尚も書き続けた喜三郎を思い出した。 恐らく俊介は自らの両腕を刃物で傷つけ出血させたであろうことは明白であるように、その両腕に巻かれた包帯は真っ赤に染まっていた。 そして床にはオビタダシイ量の血痕が残っていた。 作家にとって書斎は戦場であると言い残してこの世を去った、文豪・白鳥喜三郎の忘れ形見は千里の目の前で同じ光景を見せていた。 戦国時代、弓を射る武将は腕に凝り固まった血を自らの刀で斬り付け流血させて尚も矢を射ったと言う。 だが、目の前で一心不乱に書きつつ付ける俊介を千里は止めることは出来なかった。 そして後ろで震撼する大野真由美をつれて静かに書斎(せんじょう)から離脱した。 この夜、千里は仏壇前で俊介の無事を祈りながら朝を迎えた。
『俺の大切な女を小説のための道具(エサ)にしてなるものか!』
そして俊介が書斎(せんじょう)を離脱したのは更に二日が経過した夜の十時だった。 それは実に九日目を目前にしていた。 仕事場のドアの前で衰弱して倒れていた俊介は救急車で運ばれ大学病院に搬送された。 奇しくもそこは故・白鳥喜三郎が運ばれた病院でもあった。 医師は俊介の激しい衰弱に目を丸くし緊急措置を講ずるために大勢の医師や看護士が集められたが、千里を驚かせたのは担当の医師だった。
「大丈夫! 御子息は白鳥先生の後を追わせませんからね!」
故・白鳥喜三郎の主治医は号泣する千里に笑みを浮かべて元気づけると厳しい顔をして処置室に姿を消した。 だが俊介の衰弱は医師達の予想を遥かに超え体内の血液残量は僅かしか残っていなかったことが判明し多臓器不全を発症していた。
「やれることは全てやりました、後は天に祈るだけです…」
危篤状態に陥った俊介をガラス越しに集中治療室の中に見た千里は泣き崩れ大野真由美は寄り添った。
その時、千里に俊介の声が聞こえた気がした。
「見た物を描くならそれは作家じゃあないことに気付いたよ♪ それに気付くのが少し遅かっただけ♪」
千里は声の聞こえる方に耳を澄まし立ち上がると集中治療室に視線を移した。
するとそこには、死んだはずの白鳥重三と仏間の遺影の女性と俊介がいて楽しげに話しを弾ませていた。 千里はベッドに横たわる俊介と透き通って見える俊介を目で追った。
「連れて行かないで… 連れて行かないでえぇ! 連れて行かないでえええーー!! 連れて行かないでええええええー!!」
千里は窓を叩いて狂乱者のごとく取り乱し制止する医師や看護士を振りほどいて治療室に入った。
治療室に入った千里に俊介の左に居る実母は深々と頭を下げ右に居る重三もまた頭を深々と下げそして二人の真ん中に居る俊介はニコニコと笑顔で千里に手を振った。 そして午前零時、俊介の寝ていたベッドの血圧アラームが異常を知らせると間もなく俊介は息を引き取った。 奇しくもそれは白鳥重三の命日だった。
そして成田流雲の遺作となった義母シリーズは完結が発表されたが、白鳥俊介の名前は表に出ることはなかった。
その数年後、白鳥重三の名前で芥川賞にノミネートされた一冊の作品は、ひっそりと白鳥千里の手によって立花小雪の墓に供えられた。
その後、白鳥家は空き家となって千里は消息を絶った。
そしてそれから十数年が経過した頃、元編集者の経歴を持つ一人の女性監督によって白鳥家と言うドラマが放送された。
高視聴率を獲得したドラマはフィクションとしながらも史実であることを知る者は監督の他に白鳥千里しかいなかった。
【完結】
義母・Ⅶ(スペシャル)