現代の父親
家族って何か考える機会が、あったので書きました。
視界の隅に縁取る黒い線を、私が影と呼び始めてから数日後、眼前に黒い幕が降りたかと思うと、次の瞬間に
はどことも知れないホテルのベッドの上に、横たわっていた。
気を失って運び込まれたのだろうか?いや、それだけではない。何か酷い事が行われたのだ。そんな気がした。しかし自分がどこで何をしていて、その「惨事」に巻き込まれたのだろう。仕事中?帰宅途中?それとも…。
空調の駆動音でふと、意識を戻す。とりあえず、部屋を…。ベッドを軋ませて立ち上がる。洗面室を越えてドアの方に歩き出す…床におもちゃの家、シルヴァニアファミリーの住む天井が吹き抜けの家を跨ぐ。…やはり、まだ夢を見ているのだ、私は…。ドアは相変わらずそこにあり、ミニチュアの家を跨ぎ続けている。何度も何度も、跨いでも跨いでも。ドアは手が届きそうなくらいの目と鼻の先にあるのに、そこへは行けない。カビ臭くも快適だったベッドに戻ることも叶わない。向きを替えて移動するのにもおもちゃを跨がなくてはならないからだ。
「だから、あれほど片付けるように言ってって。」
聞き覚えのある女性の声がドアの向こう側から聞こえた。
シルヴァニアの家族は、微笑みを浮かべて私を見上げている。
…。…。…。やがて、また例のカゲが、暗幕が…降りる…。
次はもっといい人生を頼む。
現代の父親
多分、「私」は前どこにいたかわかれば、部屋を出ようなんて思わなかったでしょうね。