懐かしい夢

お題ったーにお題を出してもらい書きました。楽しんでもらえたら嬉しいです。

目を覚ますと、そこは…教室だった。
何が起きたのか、全くわからなかった。今日もいつも通り残業をしてから、自分のアパートに戻って、特に面白くもないテレビを見ながら酒を飲んで、風呂に入って、自分のベッドに入って寝た…はずだった。
「なにが起こってるんだ?」
そう呟いてから、ぐるり、と周りを見渡した。何の変哲もない教室。廊下に出て学級表札を見る。そこには「5-2」と少しかすれた文字が書いてあった。
「5年生…ってことは小学校、か」
「つーか、なんでこんなとこに俺はいるんだよ…。明日だって早いってのに…」
独り愚痴を零しながら、廊下の先を見上げた。長く、暗い廊下を照らすのは窓から月明かりだけで、人工的な明かりは廊下の一番奥でぼんやりと光っている非常口の看板だけだった。
「とりあえず、出るか」
そう思い、俺は重い足取りで廊下を進んでいった。

夢遊病なのか…。知らないうちにこんなとこに来る病気なんて、それぐらいしか俺には思いつかなかった。それとも単に夢なのか。…夢にしては妙にリアルだ。廊下に響く足音もたまに聞こえる風の音も、じっとりとしたこの暑さも…。

そんなことを色々考えているうちに、昇降口についた。
「よっと」
特に鍵はかかっていなく、少し錆び付いていたのだろう、ぎぎっと不気味な音を立てて昇降口は開いた。
すっと、涼しい風が吹く。見上げると青白い満月。その明かりで外は中よりも明るかった。ゆっくりと歩いて校庭に出る。
「なつかしいな」
小学生だったのは、何年前のことだろうか。あの頃は楽しかった。ただ無邪気に遊んで喧嘩をして…そうやって過ごせば良かった。いつから、俺は…。
「なんだか、俺の母校に似てるな」
校舎の位置も、遊具の位置も何もかもがに通っていた。まさか、そんなことはないとは思うけどな。
懐かしい気分になりながら、校門まで歩く。
「よいしょっと…あれ?」
校門を開けようと力いっぱい引いたがビクともしなかった。鍵が付いているのかとも思ったがそういうわけでもなさそうだ。
「なんで、あかないんだよ。仕方ない、よじ登るか…」
しかし、それも見事に失敗した。なにか見えないような壁か何かがあるらしく、出ることができないのだ。
「何がどうなってんだよ!」
八つ当たりで足元にあった石を蹴飛ばした。こつん、と石が校門の柱に当たる。校門の柱には学校がかすれた文字で記されていた。
お化けの学校、だったりしてな…そんなくだらないことを思いながら、ぐっと顔を近づけて、辛うじて読めるか読めないかの文字を読み取った。
絶句した。
まさか、こんなことは…ありえない、絶対に!
そこに書かれていたのは「○○小学校」。
廃校になって、昨年取り壊されたはずの、俺の母校だった…。

「ど、どうすればいいんだ? だってもう、この学校はないはずなのに…。何が、起きてるんだよ」
頭を抱えてしゃがみこむ。神隠しってやつだったりしてな…まさか大人までさらうなんて…聞いてねぇぞ。
「くそっ!」
校門を蹴り飛ばした、その時だった。
「こ、こんばんわ」
声をかけられた方を振り向く。そこには見覚えのない女が立っていた。
「あの、翔也くん…だよね?」
「なんだよ、お前。なんで俺の名前を知ってるんだよ」
「お、覚えてないかな。私、5年生の時同じクラスだった笹本雪美だよ」
そう言って不安げに笑った。
「お前、笹本だったのか」
その笑顔で思い出した。笹本は…俺の初恋の人だった。顔をよく見ると、確かに笹本だ。目の下の泣きぼくろ、よく覚えている。
「えっと、私の顔なんかついてるかな?」
「い、いや、そういうわけじゃない。つーか、お前なんでこんなところにいるんだよ」
「えっと、私は…」

どうやら笹本も気がついたらここにいたらしい。俺は今の状況とここからは出られないことを伝えた。
「そう、なんだ…。どうしよう…」
笹本は少し考えて、はっと思いついたように言った。
「ねぇ、ちょっと待ってて!」
そして走り出した。
「おい、待てよ!」
俺は呼び止めたが、彼女には聞こえてないようだった。

彼女はすぐに戻ってきた。手にはサッカーボールを持っていた。
「お前、なんだよ、それ」
俺の問いかけに彼女は嬉しそうに答えた。
「翔也くん、サッカークラブだったでしょ! 私、覚えてるよ。シュート、すごかったよね」
「だからって、何を」
「シュートして! この門に」
そう言って、彼女は満面の笑みで俺にボールを手渡した。
嘘だろ…、確かに笹本は天然だったが、シュートでこの門を破れと?
「いや、俺、サッカーなんてもう何年も…」
「はーやーく!」
どうやら、俺の話を聞く気はないらしい。まぁ、やってみてできないと分かれば、彼女も諦めるだろう。
そう思っていたのだが…俺は甘かったようだ。

一発、レベルのかなり低いシュートを門に当てる。もはやシュートと言えるかさえも怪しい。
「ほら、無理だろ」
「がんばれ!翔也くん! かなりイイ線いってると思うよ! あと百発くらいやればきっと開くよ!」
「いや、無理だろ? さっきの見てたよな…?」
「? 見てたよ! 今も見てるから頑張って!」

その後、俺はひたすらシュートをさせられた。なんだか、昔を思い出した。サッカークラブではひたすらこうやってシュート練習とかさせられたな。息切れをしながら、水飲み場に向かう。幸いなことに水は出るようだった。
「ダメ、だったね」
「だから言ったろ?」
「けど、絶対、翔也くんならいけると思ったのになぁ」
残念そうにため息をつく。
「俺を信じてくれたのは嬉しいよ。なんだかそういうこと言われたの久しぶりだしな」
そう言って、俺は彼女の方を向いた。その言葉で元気になったのか、大きな声で言った。
「よーし! じゃあ、今度は抜け道探そうよ! 抜け道!!」
そんな笹本の提案に、俺はもちろん反抗したが、意味などなく、抜け道探しをすることになった。

「つっかれたぁ!」
どすっと校庭の真ん中座り込む。結局、抜け道などなく、出られそうなところは全部見えない壁のようなもので出ることは不可能だった。そのことが分かると次は、出口がわかるおまじない、というよくわからない本を図書室から持ち出し、それを試した。まぁ結果は分かるだろうが、だめだった。その後もいろいろと校内も調べたが、どうやら出る方法はなさそうだった。
「夜があけたら出られるかと思ったけど、それも無理そうだな」
「そうだね」
「このまま、俺たちずっとここにいなくちゃいけないのかな」
「そうかもね」
彼女の返事は素っ気無かった。
「なんだよ、お前、帰りたくないのか」
そう俺が言うと、笹本はこっちを向いて言った。
「今日、楽しかったね」
「いや、俺が聞いてるのは…」
俺の言葉を遮って彼女は続けた。
「私はすっごく楽しかったよ。翔也くんと遊べて。私さ、あの頃からずっと病気がちであんまり外であそんだことなかったの。だから、今、すっごく楽しい」
そういえば、笹本は体育の授業はほとんど見学だった気がする。外で遊んでいるのも見たことがなかった。
「なんだか、私、今すごく調子がいいの。帰ったら、きっとまた病院暮らしなんだって思うと、私は…帰りたくない」
「そう、か…」
「翔也くんは? もう、帰りたいの?」
「俺、俺は…」
俺が答えを言うのを渋っていると、彼女は俺に顔を近づけて言った。
「私ね…翔也くんのこと…好きだよ」
「っ!?」
いきなりの告白に思わず後ずさる。
「翔也くんはきっと覚えてないよね。放課後、宿題忘れで居残りしてたとき、いきなり私に発作がおこちゃって…それで翔也くんが助けてくれたの。きっと翔也くんがいなかったら、私、死んでたと思う。翔也くん、私はあなたが、好き。翔也くんは…どうかな?」
うれしくないといったら嘘になる。初恋の相手だ。笹本はかなり可愛い。
「あ、りがとう。すげぇうれしい。けどさ、俺、小学校の頃のお前しか知らないからさ」
「それじゃあ、だめなの?」
「俺はもっと今のお前を知りたい。だからさ、帰ったら、もし帰れたら、すぐにお前の家に電話するよ。電話番号変わってないだろ? それでさ、暇があったらまた今回みたいに遊ぼう。それでお互いをよく知ってからにしよう。もしかしたらお前の方の気が変わっちまうかもしれないしな」
そう言って俺は笑った。
「そっか…じゃあ、帰るんだね」
「あぁ、帰る方法が分かったらな」
そう、と彼女は残念そうにつぶやいて、また俺の方に向き直った。
「ねぇ、じゃあさ、最後に一つだけお願い、聞いてくれる」
「あぁ、叶えられる範囲ならな」
「大丈夫だよー! あのね、少しの間だけ目、瞑って? いいって言うまで開けちゃダメだよ」
「そんなんでいいのか?」
「うん」
彼女は嬉しそうに笑った。俺は呆気に取られながらも、言うとおり、目を閉じた。

それは一瞬のことだった。

「もう、目、開けてもいいよ」
そう言われて、おれはゆっくりと目を開いた。
そこは…

自分の部屋だった。
少し空いたカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
「夢…だったのか」
妙にリアルな夢だった。時計を見るともう十二時すぎで、かなり寝ていたようだった。
「笹本……。電話、するか」
なんだか夢だと思いきれず、俺はやっと見つけた連絡網から笹本の番号を見つけ、電話をかけた。
プルルルル…
無機質な呼び出し音が続く。
出ないか、そう思ったとき、電話は繋がった。
「はい、笹本ですが」
「あ、こんにちわ。○○小学校で同級生だった椎名ですが、笹本雪美さんはいらっしゃいますか」
俺の問いかけに、向こうはしばらく黙っていた。どうしたのだろうか。
「すみませんが、うちの娘は…」

がちゃり、受話器を半ば落とすようにして置いた。信じたくなかった。
『うちの娘は…昨夜、なくなりまして…』
その言葉の後のことは覚えていない。葬式は身内だけでやるらしい。
あいつが、あそこまで、帰るか帰らないかに執着していたのはそういうことだったのか。
「っ…!」
自然と涙が溢れてきた。
そんなとき、「泣かないで、私は、大丈夫、だよ」そう言ってにっこり笑う、彼女の姿が見えたような、そんな気がした。

懐かしい夢

懐かしい夢

主人公 椎名翔也は気が付くと古ぼけた小学校にいた。なぜか開かない校門。外に出られず、学校内に閉じ込められた翔也は、そこである女性と再会する・・・。恋愛要素が少しだけ入っております。楽しんでいただけるとうれしいです。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-10

CC BY-NC-ND
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