君の記憶に鍵かけて

嬉しい出会いと悲しい別れを。
君の名前、声、温もりに鍵かけて。


僕は、ずっと×××××だから

儚い君

人の命なんて儚いもんだ。

役目を終えた花のように散ってしまう。

僕、小野木優太は今まで生きて来てたった一人しかいない親友、新月瑠璃音を死なせてしまった。

正確に言えば、たった一人の親友の苦しみを分かってあげられなかった。

僕は、親友が消えた日、4月5日から外の世界を眺めるのをやめた。

01
「優太ー、ここ分からないんだけど。」
新月瑠璃音は、僕に数学の問題を指差しながら、聞いた。
僕は、15年間、中学3年の今まで生きて来て友達という友達がこの新月瑠璃音しかいなかった。
瑠璃音は、誰とでも話せるタイプだが友達と呼べる友達はいなかった。
僕が言えることでもないけれど。
瑠璃音と僕が、知り合ったのは中1の時。
たまたま席が隣だったということだ。
最初に僕に話し掛けてきたのは瑠璃音だった。
他人、しかも女の子に話し掛けられるのは家族以外なかったため、顔が真っ赤になったのを覚えている。
瑠璃音はそんな僕を見てくすくす笑うと、大丈夫、緊張しなくていいんよと言うのだった。
僕は、彼女に恋愛的な好意は抱いたことはないけれど、友人的に彼女が好きだった。
「…優太?どうしたの?ぼーっとして?」
「……あ、ごめん。ちょっと考え事してた。で、どこが分からないんだっけ?」
「?うん?なんか変な優太。うん、えーっとね…」
しとしと、雨のふる音が聞こえた。
春真っ只中なのに、まるで梅雨の時期のように雨が最近ふっていた。
まさか、これから1年後の、4月5日の雨がふる日に唯一無二の大切な親友が居なくなるなんて
僕はこの時思いもしなかったのだった。

君の苦しみ

02
夏。7月23日、夏休み真っ只中。
僕は、唯一無二の友人新月瑠璃音と勉強会というものをしていた。
瑠璃音は頭の回転は早いが、理数系がどうしても出来なかった。
本大好きな、根っこからの文学少女。
僕は、実技系は出来ないが、5科目の勉強ならなんとなく出来る。
なんとなくだから、そこまで頭が良いわけではない。
文系科目のテストの点数とか瑠璃音に勝ったことないし。
「優太ぁ、暑ーーいぃ…クーラーつけてぇ…」
瑠璃音は、暑いのは全くダメらしく凄くだらけてた。
まるで、アイスクリームみたいだ…
「はいはい、分かったよ。クーラーつけるから勉強しろよ。」
そう言うと瑠璃音は目を輝かせて、茶道なみの綺麗な姿勢になった。
瑠璃音って、わりと単純なやつだよなーと思いつつクーラーのリモコン探しをしていた。
「……優太、あのね…」
瑠璃音は唐突にそんなことを呟いた。
僕は、あまりにも唐突だったので、僕は石のように固まった。
「……瑠璃音?どうした?」
少しの間の沈黙の末、僕はようやく言葉を吐き出した。
瑠璃音は、俯いたまま悲しい顔をして
「………私が、もしすぐ死ななくてはいけなかったらどうする?」
と。聞いてきた。僕は、俯いてしまった。あまりにも、唐突過ぎたからだ。
僕は、ようやく
「もし、そうだったら僕は瑠璃音を……」
と、呟いたがそれ以上言葉がでなかった。
僕は、一体何をしたいんだろうか。
こんな僕が、この子を救えるとでも思ったのだろうか。
僕は、なんて、なんて………
「あ、あぁ、ごめんね!もしもだからさ!!気にしないでいいんだよっ!!」
僕は、彼女の悲しい笑顔を初めて見た。
まるで、この世界から今すぐにでも消えてしまいそうな。

僕はどうすれば良かったのだろうか?

僕は、どんな言葉を彼女に掛けるべきだったのだろうか?

変化する君

03
瑠璃音が、3週間学校に来なかった。
あの元気な瑠璃音が3週間も学校に来ないのはおかしかった。
僕は、放課後瑠璃音の家に行くことにした。
「…確か瑠璃音の家ってマンションだったっけな?」
瑠璃音は、新月家の1人娘らしく、相当大事に育てられたとか。
僕は、瑠璃音にそんな質問を全くしたことがないため詳しい所までは、知らなかった。
10階建ての高級マンションの3階に、彼女は住んでいた。
学校から、5分たらずで行けるのでそこまで苦にはならなかった。
なんか、軽い散歩をしたって感じ。
僕は、マンションのロビーを通り抜け3階にエレベーターで行くと、
125号室を、すぐさま見つけた。
チャイムを押すのに少し僕はなぜかためらったが、チャイムを鳴らした。
ピンポーンとチャイムの音が響いて、数分後ドアが開いた。
「……!?わっ!!優太っ!?ど、どうしたの!?」
瑠璃音は、目を丸くして何回も瞬き。
「あぁ、ちょっとプリント届けようと思ってさ」
と、何故か僕は言ってしまった。この素直に言えないのが僕の悪いところだった。
「あ…プリントね。ありがとう、ごめんねわざわざ」
瑠璃音は、にっこり笑うとぺこっとお辞儀をした。
僕は、鞄からプリントを取り出すと瑠璃音にプリントを渡すとくるっと方向転換した。
つまり、僕はさっさと帰ることにしたのだった。
「あ、優太!明日から学校行けるからねっ!!」
と、瑠璃音は手を振りながら言った。僕は、
「あぁ、うん分かった。また、学校で」
と、返事をすることしか出来なかった。

僕は、瑠璃音が3週間前よりも急激に痩せていることに気付いたのだ。

瑠璃音は、一体…

何が、瑠璃音の身に起こっているのだろうか

僕は、この時瑠璃音に詳しく聞けば良かったとあとから後悔するなんて、
何も分からなかった。

透明な君と××な僕

04
もう、中学校の卒業式も終わり春休み真っ只中。
瑠璃音と僕は同じ高校に合格し、無事高校進学出来るはずだった。
幸せな高校生活が送れるはずだったのに、君は……

05
高校の入学式は4月9日だった。
僕は、春休み思いっきり瑠璃音と春休みライフを満喫してたりしてなかったり…
そんな、春休み中の4月5日。
この日は雨がふっていた。
おまけに、僕は高校進学に向けての何かがあったので、学校にいた。
いつまでもやまない雨が、僕にとってとても憂鬱だった。
そんな雨の中、やっとで家に帰った途端、電話が鳴った。
僕は、この時とても嫌な予感がした。
心の奥が冷たくなるような、凍るような。
電話に出たくなかったが、仕方なく出た。

僕の嫌な予感は的中した。

「……優太?えへへ…私…瑠璃音だよ。優太ごめんね、私もう限界なの。」

瑠璃音のか細い声が僕の胸を貫く感じがした。

「瑠璃音?どうしたんだよ…急に…」

僕は、やっとのことで言葉を紡ぎ出す。

「私ね、もうこの世界にいることが疲れたの。家族に疲れたの。」

瑠璃音の声は何故か優しかった。

「だからね、もう私…消えるの…ごめんね、優太…でも私優太のこと…」

瑠璃音は、深呼吸をして言った。

「優太のことずっと××だった。」

そう言うと、電話が地面に落ちる音がした。

そして、次の瞬間

瑠璃音の身体が、飛び散る音が聞こえた。

君という名の花束を

06
僕は、しばらく何も出来ずただ、立っていることしか出来なかった。
立っているのがやっとだった。
僕は、目から大粒の涙を流した。
拭いても拭いても涙は、止まらなかった。

そうやって、泣くこと数時間。
電話が鳴った。

「新月瑠璃音さんが、亡くなりました。」

それは、担任の声。
現実を突きつけられた僕は、人生で初めて泣きじゃくった。
僕は…僕は…人との付き合い方を知らないうえに、たった1人の友人を
救えなかったのか…

僕は、何のため生きているのか分からなかった。

僕は、何故か瑠璃音のマンションの方へ走り出した。
何故走り出したのか自分でも分からなかった。

07
瑠璃音のマンションの前には、警察がいた。
そう、瑠璃音は自分の家の前の道路に飛び出て死んだのだった。
土の匂いと瑠璃音の血液の匂い。
すぐそばに、瑠璃音…生きていない瑠璃音がいた。
あの、色白な肌は血で、真っ赤に染まり、この前よりもさらに痩せていた。

僕は、血で染まる瑠璃音を見てただただ

「××××」

としか言えなかった。

08
あとから聞いた話。
瑠璃音は、親から暴力を毎日受け続けていた。
瑠璃音は、きっと僕にあの時もこの時も助けて欲しかったのかもしれない。

僕は、結局彼女に何もしてやれなかった。

そして、僕は…

何も出来なかった僕は…



君との記憶、新しい未来に鍵を掛けた



さようなら、瑠璃音
僕は、君が×××××

君の記憶に鍵かけて

憂鬱で、悲しい別れを題材に書きました。
長い小説書いたのは初めてなので、四苦八苦しました。
読みにくいところもあったと思いますが、
最後まで読んで下さりありがとうございました。

君の記憶に鍵かけて

友達は今まで生きてきて、一人しかいない僕、小野木優太は 高校1年の4月5日の雨のふる春の日、たった一人の友人新月瑠璃音を失った。 瑠璃音と今まで話してきたくだらない話題や、勉強のこと。 瑠璃音の笑顔、声、温もりを 僕は心の奥にしまって鍵を掛けた。 永久に開かない心の鍵を。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-09

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 儚い君
  2. 君の苦しみ
  3. 変化する君
  4. 透明な君と××な僕
  5. 君という名の花束を