招霊機「郭公」(後編)
最後、「後編」です。
3.
「やっぱ、風呂って気持ちいい。不思議だな」
シャワーから上がった孝雄は用意された服を着ながら嗤った。
山根社長が息子に呼びかける。
『飯、食うか』
いつものように父が作った料理がテーブルの上に並べられている。
「おっ、美味そう」
孝雄はいただきますも言わずにふわふわのスクランブルエッグに手を付けた。
『食欲あるみたいだな』
父が目を細める。
「食べる事ができるんだ。ロボットの身体なのに」
『もっと、食べろ。小林なんか、張り切って追加の料理の材料を買いに行ったんだぞ』
「小林さんらしいな・・・」
蘇った息子がクスクス笑う。
『お友達、大活躍です』
孝雄の内部モニター中の画面の山田が呟いた。
「山田さんにも見えるの?」
『ええ。総ての招霊機のモニターが私と通じております』
(それって、それぞれの動きを把握して、それでもって自分に建て付く奴は潰すっていうことだよな)
頬杖つきながら孝雄は笑った。もちろん、胸中の推測をわざわざ報告することはない。
「彼等、『転身』するまでは、おっとりさん達だったのになあ・・・」
『永遠の身体を得れば人は誰しも一時期、無敵になったような錯覚をしてしまいます。が』
彼のいる部屋の窓から差し込んでいるのだろうか。夕暮れのオレンジ色の陽の光が山田の眼鏡に反射する。
『本能の底では不安の気持ちが巣くっている。人類は不老不死を認めてはいない。だから、いつか誰かが、自分の生命を終わらせようとやってくるに違いない、と』
「それが、水月神社の方々ってことか」
『今のところ、私が知っている範囲ではね。奴らは通常の限りある人間の魂しかお好きではない』
山田の声のトーンが沈んだ。
『一度は全滅させたんだ。だけど、いつのまにか、また増殖しはじめた』
そんな山田の視線の先には頭を割られ息絶えている山根社長がソファに横たわっていた。
孝雄が笑う。
「じゃ、父さんから」
山根社長の屍が横たわっているソファの隣のソファに2体の銀色のロボットが座っていた。
「もういいんだよ。そのロボットを使って。母さんもだよ」
孝雄は『招霊機』である自分の内部に『収容』されている母親にも声をかけた。
しかし、銀色ロボットに何の変化も現れない。
「おいおい、故障?」
孝雄の苛立った声が山田に向けられた。
「金、払ったじゃん。契約通り、父さんと母さんを『再生』させてよ」
『故障じゃありませんよ』
山田の視線が、山根夫妻の霊魂へと順番に移る。
『どうやら、ご両親は『再生』されたがっていないようですよ』
「何故?49日毎にあんたから招霊機を購入するだけの資金は、あるんだよ?それに、これから母さんと3人でもっと事業で儲けられるんだし」
『あなたが怖いんじゃないですかね』
「何故」
『だって。あなたのご両親は、あなたに殺されたんだから』
「殺してないよ」
孝雄は満面の笑みを浮かべた。
「制限ある人間の肉体、そして、何かと邪魔くさいシステムである輪廻転生から解放する手段だ」
『理屈で言えばそうですがね』
山田も負けずに目一杯の作り笑いを返してくる。
『だけど、『殺される』瞬間ってのは、どんな人間も人生最大級に怖いもんですよ。例え、それが可愛い息子の手にかかろうがね』
孝雄の顔から笑みが消えた。
「・・・ごめんなさい」
招霊機に収容されてから感知できるようになった人間の霊体の状態である父・山根社長に向って軽く頭を下げる。
『ああ・・・』
自分の死体をちらりと見やり、故・山根社長はうなだれる。
『大丈夫、大丈夫だ・・・理屈は解っている・・・元々、私が山田先生に頼んで入手した招霊機だ・・・だが・・・』
孝雄は山田に囁いた。
「・・・もうちょっと時間がいるみたい。御機嫌直るまで」
『ねえ。あなたのお友達方のように、すんなり納得されないでしょうから』
別室のベッドには、孝雄の手にかけられた若者達の無残な遺体。
皆、孝雄がここまで運んできた。
「山田さん。あと、追加注文した招霊機はまだ?」
『もうちょっとしたら届くんじゃないですか?出荷しましたよ』
「えーえっ、マジ?」
『まあ、なるべく早くするようにお願いしておきましたから。で、あのあなたが連れてきた子供の方はどのような関係で?』
山田は、部屋の大画面テレビに映し出されている屋敷内のモニターに映し出されている少女を指さした。
彼女は、ただ恐怖と疲労の表情をたたえ、じっと耐えている。
そして少女の傍には、どこから見てもお嬢様としか例えようしかない若い女性がいた。
女性は少女を庇うかのように励ますかのように抱きかかえている。
『あのええしのお嬢様は、あなたの生前の彼女ですよね。
それは察しがつきます。でも、あの子供は何?彼女との子供ですか?』
「昔の恋人」
『昔の?』
「前世の」
孝雄が解説してくれた。
「招霊機を使えば彼女達は前世の記憶を消失することなく次の生を受ける事ができるでしょ?」
『・・・でも、この子がどうして該当する生まれ変わりだって、解ったの?』
孝雄の瞳は宙を見ていた。
「読むんだ。『空間』に書いてある」
『まさか、アカシック・レコード読んだとか?すごいねぇ・・・でも、当の本人は、あなたと違って前世の事など覚えていないはずですよ・・・招霊機への入れ替えは納得するわけないでしょ。それと、元カノだって納得済みですか?そんな風には見えませんね』
「二人共、ちゃんと説明したけど納得してくれない。だけどチビさんの方は死ねば思い出すよ」
『殺すんですか』
「そうするしかないかも」
『まずいですね。あの子の両親が黙ってないはずですよ。警察に通報しているはず・・・』
「両親は殺してきた。遺体も中々見つからないように『処分』してきた」
『え?』
「だって、もういらないでしょう。これからは保護者なしでも、あの子は生きていけるんだから」
あきれて言葉のでない山田に孝雄は愉快げに我がプランを語り始めた。
「この世に僕の好きな人間だけ存在している・・・機械の身体に人間の魂を持ち合せる、同じ世界に同じ生物として、だ。しかも『死』やら『転生』やらで離れ離れになんかならないんだ」
『・・・それ、いいですな。私も巫女さんだらけの世界を作ろうかな』
山田は大して感情のこもっていない相槌を打った。
彼の視線は水月家の戦闘状態を映し出すモバイルではなく、開け放たれたドアの向こう側で静止していた。
『孝雄君が邪魔なロボットを始末してくれたんだからね。これからは思い存分好きなようにできる』
そこには、原型を留めない銀色の金属の屑がうず高く寄せ集めて放置されていた。
「いいお土産だろ」
孝雄は自分が粉砕したロボットの残骸を横目でちらりとだけ見やった。
「簡単だったよ。僕は闘い慣れているからね、誰にも負けない」
『鼻』『ゆるパーマ』『奥目』『濃い眉・丸顔』は水月神社にいた面々を一室の片隅にまとめて追いやることに成功した。
「おい、巫女さんは?」
部屋の入口で『鼻』が仲間達に確認した。
「こっちに追い込んだ」
隣の部屋のドアを抑えつけながら『濃い眉・丸顔』が怒鳴る。
「OK,OK」
これは、とても大事なことだ、と彼らの鋼鉄の身体の奥底の何者かが強調してくる。
いくら真剣を持って応戦してこられようが、人間とロボットでは動作の速度や身体の頑丈さに別段な格差がある。
水月家、一緒にいたオツとかいう乙種の坊さんは自分達相手によくやった。
全員、打ち身と、骨折、それだけで済んでいるのは天晴としかいいようがない。
部屋に閉じ込めてある人数の割合で、男共らの部屋ドアに『鼻』『ゆるパーマ』『濃い眉・丸顔』がへばりつき、残り『奥目』が美月の部屋のドアについた。
「一気に、殺るぞ」
『鼻』がわざと中に聞えるように指示をだした。
まず言葉で全身創痍の連中の神経を傷めつけてやる。
「坊さんは絶対に生かしておくな」
「判ってる、て」
『ゆるパーマ』が応答した。
「早く逃げられよ。巫女殿も必ず私が助け出す」
オツがドアの真正面に立ち、水月父子と伸に言った。
「ここはあなた方の住居であろう。そこの窓から逃げられるのが判らないか。私の巻き添えになって殺されたなど寝覚めが悪い」
二人とも普段から鍛錬しているのだろう。
並みの人間なら今頃殺されたところを、まだやっと歩けるくらいの状態で生きているのが幸いだ。
眼鏡の青年は宮司の息子に護衛されたお陰で、顔面をかすめて殴られた程度ですんだ。
「いや・・・巻き添えじゃないかもしれない」
伸が鼻血対策に部屋にあったティッシュを詰め込みながら言った。
「あっちに山田がいることは確実だ。その証拠に美月ちゃんだけを僕達から隔離した」
「え?わざと?何故?で、山田って誰?」
「美月ちゃんだけ生きたまま、ひっさらうつもりです。山田は試作機の製作者です」
「そいつ、荒くれ女フェチ?」
「いや、巫女フェチ。特に霊感持ちが大好きです。以前、あなた達は木村さんの為に試作機をとっ捕まえて調達した。その時にデータが奴に送られたのでしょう―つまりは存在を気がつかれて目をつけられた。で、あなた達を始末して美月ちゃんを頂く、という思惑です」
「マジかよ!それって、俺達まで殺さないで、たんまり結納金を払ってアイツを嫁に貰えば済む話しだろーが!」
「最低でも1千万円以上、それと養子に来ることが絶対条件だ」
「アンタ達、美月ちゃんの意思、無視してません・・・?」
血に濡れた歯を見せて宮司が笑った。
「と、いう訳で俺達にも殺される理由があるってわけだ。だったらますます他人様に守って頂くわけにはいかねぇな」
「その怪我でですかっ?」
相当、痛みがあるはずで、これからの戦闘に耐えきられるはずがない。
「多分」
左半分の顔面が腫れあがっている息子が低く呟く。
「水月神社(ここ)から出て行っても、連れ戻される」
「誰にだ?」
オツの問いに宮司が答えた。
「水月様に、だよ」
「お嬢さん」
ドアの向こうの巫女に『濃い眉・丸顔』は呼びかけた。
「大人しく俺達についておいで。君だけは助けられる」
「嫌」
部屋の中から速攻に拒絶の返事が返ってきた。
「って、言ってるけど」
『濃い眉・丸顔』は隣の部屋のドアにはりついている残り三人に尋ねる。
「この人、連れて帰るって絶対なの?」
「いや、無理にはいいんじゃない?」
「最悪、霊体だけでもいいってさ」
「あ、そっか」
「だって僕らにだって『招霊機能』がついてるもの。『収容』して持ってけるんだよな」
『鼻』が判断を下した。
「だってさ」
『濃い眉・丸顔』は美月に告げる。
「別に君を殺したっていいって。どうする?」
徹底的に負傷している左腕を傷めつけられた彼女に反撃する力が残っているはずがない。圧倒的にこっちが有利だ。
「死にたい?嫌でしょ」
ドアの向こうからの声に美月は答えなかった。
暗い部屋で十六夜丸を握りしめ目を光らせるばかりである。
その息は荒い。
『さて』
招霊機のモニターを通して監視している山田が舌舐めずりをした。
『最大のピンチに連中、どう出るか』
「さてと」
和男は座ったままで満月丸を構えなおした。
怪訝げにこちらを見やる坊さんと伸を気にかけることなく、宮司・和男は口の中で詞を唱え始めた。
同時点で隣の部屋の美月も詞を唱え始める。
こんな危機的状況の中であっても、父・娘の瞼は閉じられていた。
息子の圭が俯いた。
軽く溜息をついた。
「宮司さん、どうしたの?」
外部から激しく蹴りまくられるドアから目を話すことなく伸が訊ねる。
圭が答えた。
「降りてこられる、んだ」
ドアが蹴り破られた。
『鼻』がオツを、『奥目』が息子を、『ゆるパーマ』が宮司に襲いかかった。
一番深手を負っている宮司が真っ先に片付けられると三人は予測していた。
だから『ゆるパーマ』は宮司の息の根を止めた後、オツを担当している『鼻』のフォローにまわるつもりであった。
飛び込んだ時、当の宮司は目を閉じ正座していた。
(観念したか)
日本人らしい、と一瞬、感心したが容赦は無用だった。
『ゆるパーマ』は鋼鉄の拳で和男の頭部を粉砕するべく狙いをつける。
「離れていろ!」
気のせいだろうか。宮司の息子の声がなんだか遠くに聞こえた。
『鼻』も『奥目』もとまどった。
宮司の息子の意外な動き。
逃げるどころか、圭の腕を自分の方にひきこんで、守るべき傷ついた父親から離れて行く。
その理由はすぐに判った。
「―?」
見たことのない現象に『ゆるパーマ』は息を呑む。
あんな小っこい女の子一人、とっ捕まえるなんて訳ない―可愛いからちょっかいを出してやろうかという気持ちの余裕まである。
『濃い眉・丸顔』はゆっくりとドアを開けた。
水月の巫女は窓を背にして俯いていた。
右手にしっかり刀を握りしめられているが、さっき折ってやった左腕はだらんとぶら下がっている。
「痛いだろ」
歩み寄りながら『濃い眉・丸顔』は手を差し出した。
「あの人なら手当してくれる。つまらない生身の身体なんか、いつまでもいるもんじゃないよ。来なさい」
返事はない。
窓から入る陽の光が逆光になって顔の表情が良く見えない。
「無理矢理に君の魂を連れていくことが僕にはできます。抵抗しても無駄だ」
時間をかけるわけにはいけない。
「ごめんね。ちょっとの我慢」
殺す為の手刀が振り落とされる。
巫女―水月美月の顔が上がった。
閉じられた彼女の瞼が上がった。
「―っ?」
白い瞳孔。
確かに最初見た時は綺羅綺羅と光る綺麗な黒い瞳であったのに。
(アルビノ?)
瞬時に真っ先に浮かぶ知識。
(いや、それなら瞳は赤いはずー)
遅れて出てくる知識。
美月の口から雄叫びがあがった。
可憐な桃色の唇から覗き見えるは獣の牙。
(この娘は何だ―)
もう死ぬことはない機械の身体を手に入れた今とあっても湧き出てきて止められない本能からくる恐怖。
得体の知れない巫女が人ではない速さで襲い来る。
「うわ!」
招霊機のメインカメラを持ってしてでも捉えられない速さの一打を、やっとのことで前腕で受け止める。
腕から全身へと重い衝撃が伝動する。
「・・・!」
腕に刀が喰い込んでいる。
その向こうに見える白瞳孔の巫女が嘲笑った。
牙が生えていた。
柄を握る手を捻じあげた。
刃の回転と共に『濃い眉・丸顔』の腕も捻じれ、あっさりと千切れた。
「あああーっ!」
火花散る切断面を確認し『濃い眉・丸顔』は絶叫する。
痛みではない。痛みはないけど。
『自分ヲ容レル容器ノ破損ヲ目ニシタ感想ハ、ドウダ?』
巫女の声は人間の声とは違った。
男、女、子供、大人、老若、どれなんだか、まるで判別がつかない。
『怖イカ。容器ガ壊レルトイウコトガ、何ヲ意味スルカ一応判ッテイルヨウダナ』
込み上げて止まらぬ嗤い。
「・・・や・・・ああーっ!」
否定もできないままに『濃い眉・丸顔』は、残った腕を振り上げ巫女の顎の下から思いっきり殴り上げた。
予測より簡単に巫女の身体が部屋の壁へ飛んでいく。
(壁に激突、下へずり落ちた時点でトドメ!)
間を置かず『濃い眉・丸顔』は巫女の落下予想地点に駆け寄る。
すでに人間の域を超える動体視覚が美月の身体が壁に到着するのを確認した。
「!」
だが、『濃い眉・丸顔』の人工知能に到達した視覚データはそれだけではなかった。
身を回転させて美月の足が壁を蹴り上げた。
両方の脚が素早く交互に動き、水月の巫女は壁を天井へ向って駆け上がる。
「ええっ?」
天井を仰ぐ『濃い眉・丸顔』へ巫女は嗤っていた。
その後に見たのは、真剣の白い刃か、巫女の牙なのか―。
それきり、『濃い眉・丸顔』の切断された頭部から、データを送られる事はなかった。
壁にもたれ圭は煙草を吸っている。
ここは自分の部屋だから灰皿もすぐに手にすることができた。
隣の義妹の部屋から悲鳴が聞こえてきた。
それが義妹のものでないことを圭は確信していた。
圭の横では伸がオツが、目前の人外バトルを見ている。
「冷静だね」
圭は煙を吐き出した。
「もっと驚くかと思ったけど」
「そう見えますか」
答える伸のすぐそばの本棚に『ゆるパーマ』の頭部だけが飛んできて激突した。
中の本が反動で飛び出し散乱する。背表紙から完全に潰された本が結構、混ざっていた。
「あの刀が斬鉄剣だとしても、金属の塊を叩き切っている。使い手の腕は無事ではあるまい」
三人の見やる先には、白眼の獣と化した水月の宮司。
満月丸の刃が『奥目』の胴体を真っ二つにした。
「無事にすまなそうなら俺が止める。と、いつも思う」
圭の煙草が短くなっている。
「だけど、こうなると俺がどうこうできるようなレベルじゃないんだよな、これが」
宮司が助走もなしに天井近くまでジャンプして大上段で『鼻』に斬り込んだ。
多量の金属部品をばらまきながら『鼻』のロボットのボディは頭のてっぺんから股へと真っ二つに割られた。
「さて」
オツは刀を杖に立ちあがった。
「こいつらの魂の始末をせねば」
招霊機・試作機が破壊された今、外界に放り出された山根家からの刺客達は成す術がなく茫然と立ち尽くしている。
「二度と転生できないようにしてやる」
オツの振り上げた刀を怯えた目で見上げる4人の霊体達。
「甲種の誘惑に負け、人の掟、宇宙の摂理に背いた己を恨むがいい」
刀を振り下ろしたオツの掌に強烈な反動が返ってきた。
刃を迎え打つ刃。
美月が息も荒く刀を握りしめ立っていた。
全身全霊を込めて打ち込んだ一刀を少女のか細い片腕が受け止めていた。
その顔は頭を垂れているので髪で隠れ見えない。
「消滅サセルナ」
そう言って、オツを見やったその瞳の色は人にあるまじき「白色」であった。
「ソウダ」
闘い終り、息を切らしながら顔を上げた宮司の目も同じであった。
「庇うのか、こいつらを」
「イイヤ」
二組の白眼が、機械に身体を失った4人の若者を見やった。
「タダ消滅サセルノデハ、ツマラナイ」
「コヤツラニハ、生命ヲ粗雑ニ扱ッタ罪デ永久ニ中空ヲ彷徨ウ苦シミヲ味ワセテヤル」
「サゾヤ退屈デアロウナ。生マレテイク事モ出来ズ、消滅シテ『自我意識ノ自覚』『思考ノ停止』モ出来ナイノダカラ」
「解ル・・・かしら」
他意識体から解放されつつある、眠りから覚めたような眼をして美月は微笑んだ。
「あなた達、これから人間の感覚そのままで、ずーっと薄暗い霧しか見えない世界で何の刺激も感じることもなく存在するだけ、ってことなのよ」
理由の判らぬ恐怖に襲われ若者達の魂は悲鳴をあげた。
「おいおいおいおいっ!」
『おいおいおいおいぃ!』
孝雄、山田同時にそれぞれのニュアンスで叫んだ。
「何だよ、あいつら化け物か?何?あの白目、わざと?」
一方の山田は歓喜の表情で両手を握りしめガッツポーズをとっていた。
『すっげえー、大・収・穫っ!やっぱりね、アイツらもやればできる子達だったんだ!』
(何が嬉しいんだ?)
孝雄は疑問符を飲み込み山田に問いをぶつける。
「ねえ、山田さん、奴ら来ると思う?」
『そりゃ、来ますよ!なんせ、アナタは水月の神を敵に回したから』
「神?」
『見たでしょ?宮司親子に水月の神が降りられたんですよ。久しぶりだな―降神現象を見たの。ああ、今の代の水月家も降神できるんだ!チョー萌える!』
「神様が降りたって、所詮は生身の人間でしょ?それより・・・」
『何ですか』
「いや・・・なんでだ?」
『どうしたんですか?』
「いないはずの奴がいた」
「私の心配しすぎだったようだな」
刀を鞘に収めるオツの目はいよいよ細く微笑んでいた。
「私達のことより、自分の事を心配すれば?」
美月の差し出す掌の上にはオツから貰った薬の壺がのっていた。
「お気づかいなく。それは貴女がお使いなさい・・・お顔に傷がついている」
オツの姿が薄れてゆく。
「そっか」
美月が小声で呟く。
「あんまり時間がないのに来てくれたんだ・・・行かなければいけなかったのに」
何も残らなかった。
オツの身体を構成していたはずの骨の欠片すらも。
「おい」
和男が誰に尋ねたのか、皆すぐに判った。
「はいよ」
圭が醒めた顔で答えを返す。
「俺に見えたのは、俺の他に親父・美月・BL兄さんの3人だけ、だ」
「行かれましたか・・・」
背後から聞こえる聞き覚えのある老人の声に美月と和男が振り返った。
部屋の入口に子供を連れた老人―山根家の「執事」みたいな人―小林が見知らぬ子供を連れて立っていた。
「あの子は・・・?」
圭が呟く。
丸い顔の可愛い少年。
「小川を連れてきた子だ」
伸が呟く。
「この子は、本来なら山根孝雄になっていたはずの魂です」
にこにこと小林が一同の疑問に答えた。
20年前、跡取りに恵まれなかった山根夫妻。
一企業の社長夫人である妻・奈津子にかかるプレッシャーは壮絶なものであった。
様々な検査を受け、子を授かることは不可能だと判明した時に、あの男―越谷の噂が山根社長の耳に入った。
社長は、当時まだ壮年期だった小林に笑い話で越谷の術について話してくれた。
だから、まさか、本当に迎えた養子に術を施行していたなんて思いもよらなかったのだ。
すべてが小林に内緒で行われた。
彼に知られたら、反対されるから・・・それは、小林とは滅多に口を利くことがなかった社長夫人、奈津子の希望であった。
養子ではあるが、全てに於いて優秀な子供でなければいけない―そうでなければ親戚・役員関係が涎を垂らさんばかりに狙っている山根コンッェルン・社長の座を継ぐのは難しいし、良家の出で才色兼備の勝気な性格の奈津子のプライドも満たすことができない。
「その話が本当だとしても、魂が入れ替わったなんて、どうやって判るんですか?」
孝雄の病死後、初めて事を山根社長から告白された小林は呆れて笑う事すらできなかった。
冗談にしては不謹慎すぎる。可愛がって頼りにしていた息子の死に気がどうにかなってしまったのだと心配になった。
「術の最中、確かに一度、孝雄は死んだ。越谷に確認させられた」
それでも信じられるわけがない。
社長の異様な行動は止むことがなかった。
ある日、怪しい眼鏡男をどこからか連れてきて、ロボット工学博士だと紹介された。
「ショウレイキ」とかいう人間の魂を収容して再生させるロボットだと、銀色の人型機械を見せられた。
これに孝雄の魂を入れる、だが奈津子に取られた孝雄の霊体を開放してもらえるようにしなくてはいけない。その為にいい霊能者を知らないかと尋ねられた。
訳も解らぬ危機感と焦燥感が小林の胸に生じた。
いや、見知らぬ記憶が脳内に発生した、というべきか。
従わずにはいられない、本能に近い記憶からの指令。
「今度こそ、孝雄(コウシュ)を再生させてはならない」
「オツを起こさねば」
「私は一度―」
一気に溢れ出てくる記憶に支配され、小林はそれまで立ち寄った事もない廃墟で集った初対面の人々達と共に「オツ」を「反魂の術」で再生させた。
彼らは、かつて自分と同じ目に合った人々であった。
(私達のような悲劇を起こさない為に―)
いつの前世(?)だろう。
自分は一度「甲種」に身体を奪われ、人生を一つ、失った。
覚えている。
覚えているけど忘れていた。
忘れていたのに「甲種」に出会ってしまった。
正直、忘れたままでも、良かったのに。
「オツ」を再生した帰り道、一人の少年に呼び止められた。
彼が、人ではないことはすぐに判った。
彼は、孝雄奪還の作戦には水月の者を使うように教えてくれた。
「『乙種』と水月の僕(しもべ)と力を合わせれば『甲種』に対抗できるかもしれません」
だが『甲種』は消滅できなかった。
頃を見計らって「ショウレイキ」は出て行き、そして孝雄の姿で戻ってきた。
目の前で動いている、死んだはずの青年の姿、彼の行う生前の友人殺し・父母殺しを目の当たりにして小林はあらためて『甲種』の恐ろしさを認識し直した。
『存在時間・条件に限りがある』という特徴を持つ生命体の人間とは違う形の「生命体」が存在し、彼らの「生命」に対する価値観や常識は「人間」とは大きく異なる事を。
「僕は転生によって、僕のことを忘れられるのが嫌なんだ」
帰ってきた「山根孝雄」は父と小林にそう言った。
「お気持ちは判りますが・・・同意できませんでした」
小林は呟いた。
「孝雄様は疲れきっていたんです・・・長い生命を一人で生きていくということに」
「すげーよな、『乙種』。身体を持たなくっても闘うことができるんだ」
『え?何?』
「母さん家で僕が殺した奴が水月家にいたからびっくりしちゃったよ。だけど物質化しているのも、もたなかった様だね」
『孝雄君』
再度の山田の呼びかけに、やっと孝雄は気がついた。
「何」
『あの、坊さん、殺したの?』
「言ったよね」
目つきも鋭く孝雄が答える。
「引き裂いて元の死人の骨に戻してやったよ。しかし、一体、誰だ?奴にあんなに自分の骨を提供したのは・・・」
『どこ行くの?』
孝雄は振り向いた。
明らかにいらついていて目つきにギラギラした光が宿っていた。
「ね、まだ、追加注文の品、来ないの?」
『真昼間だからね、他人の目に着かないようにソチラに向っているんだ。少々時間がかかる・・・君、何焦ってるの?』
孝雄は部屋のドアを開けた。
そこには水月家に襲撃をかけ大敗して退散してきた友人4人が茫然と立ち尽くしていた。
行きとは正反対の悲惨な表情を浮かべている彼らの身体の一部が溶けて見えなくなってきている。
「彼らにリベンジのチャンスを与える。水月(奴ら)はきっと来る。だから、準備しておくんだ・・・今カノと『元・前世妻』には父達に使う予定だった招霊機に入って貰う」
『可愛そうに。納得いかないまま殺されるんですか』
山田の偽善的な台詞を無視して、孝雄は隣の部屋へと歩んでいく。
ドアを開くと中には怯えきった成年女子と少女がいた。
その両眼は止まらない涙の為に真っ赤になっている。
「怖くないよ」
できるだけ優しい声で孝雄は少女に呼びかけた。
「大丈夫。僕は君の前の世の夫だ。悪いようにはしない」
「・・・ごめんなさい・・・私、お兄さんのこと、知らない・・・」
「思い出すよ、きっと。僕のいうとおりにすればいい。そうすれば、君はもう死ぬ事もなく僕とずっと一緒にいれるんだ」
少女の嗚咽が激しくなった。
今、自分の閉じ込められている部屋の大きなベッドの上の4人のお兄さん達の死体。
自分がこの状態になれば、この知らないお兄さんの望むようになるのだということが、充分に想像できてしまう。
「お願い・・・」
今カノが震える声で懇願してきた。
「この子だけはお家に帰して下さい、なんでも言う事聞くから・・・」
「何でも聞くって言われてもね・・・それにね」
彼女の頭を撫でている手が止まった。
「お嬢ちゃん、君のお父さんもお母さんも死んだ。もうこの世にはいない」
絶望のあまり嗚咽すら止まってしまった少女を孝雄は溜息をついて見つめた。
「最低・・・あなた、そんな人じゃなかったのに・・・どうして?」
「馬鹿な娘達だ・・・今までの僕の奥さんは皆幸せな一生を過ごしたんだよ・・・だけど皆、寿命が尽きて死んでしまった」
孝雄の目が曇った。
「勿論、僕の肉体も死ぬ。だから僕は死んだ後の彼女達に会うことはできる。だけど、その喜びも一時的なものだ。何故なら彼女達は転生する為に僕の前から消えていくから」
孝雄は少女の頭部を揺さぶった。
「解る?僕の気持。僕は何一つ落とすことなく彼女達の事を覚えているのに、彼女達は転生したら僕のことなんか綺麗さっぱり忘れてしまうんだよ。奥さんだけじゃない、僕の親になった人達、友達になった人達、全員が僕のことを永遠に忘れる。僕は永遠に忘れられないの、に」
その手にはオレンジの液体が入ったガラスのコップ。
「・・・お兄さんのこと可哀そうだと思わない?だから、これ、飲んで。ただ眠たくなるだけだよ」
少女はいやいやと首を振り再び一層の絶叫で泣き始めた。
「じゃ」
孝雄は少女の小さな頭を掴んで自分の方に向かせた。
「注射にする?それとも、僕が一気に手を下そうか?そうだ、それがいいね・・・それなら何の痛みも感じる間もない」
彼の言う意味が解らない歳ではない。
恐怖のあまり息を呑みこんでしまい少女は咳き込んだ。
「・・・注射は、痛いよね」
孝雄の手が振り上げられた。
「やめて!」
今カノが少女を我が身の下に匿う。
「試作機の製作者、山田は死人です。だから法律では誰も彼を捉える事はできない」
一同はまじまじと伸の顔を見てしまった。
「兄さん、運転!」
「あ、おお!」
山根家行きの運転手、圭は慌てて前に向き直る。
「死人がロボットを作ってる、って?」
それは、家業が幽霊相手の強者達にも強烈なインパクトを与えてしまう情報であった。
「正確に言えば、『彼』は50年前に死亡しています」
「だから、誰?それ」
「彼は招霊機の製作者、水月博士の助手だった男です」
伸も妙な具合に両眼がぎらぎらしている。
「死亡理由は?」
「自殺です」
「なんで?」
「永遠の命を得る為」
「あーああ、なるほどね・・・」
一同、納得の頷き。その推察の根拠は説明なしでも解った。
「招霊機を使って、ね」
「そうです」
「だけど、それって・・・不可能じゃなかったっけ?」
和男は今までに知りえた招霊機に関する知識を掘り返す。
「確か招霊機が人の魂を保管できるのは1176時間、つまち49日間だけだよな?」
「そうです。招霊機はあくまでも霊媒の代理で霊体を収容するというコンセプトの基で造られました。体を失くした人間の新たな魂の入れ物ではありません」
そうだった。
「ソイツ、その辺のプログラムを書き換えたとか?」
素人が真っ先に思いつくのはそこである。
制作に関わった者ならば簡単にできる真っ先にやる技だ。
「不可能なんですよ。それが」
伸が首を横に振った。
「え?製作者の助手でしょ?プログラムいじるくらいお手のモノでしょ?」
「招霊機の霊体保存の期限のプログラムは書き換え不可能です。まずアクセスするキーワードが何百億分の1秒毎で常に変わっていて侵入することすらできない。もし何かの拍子にアクセスできたとしても、C言語を一つでも変更すればプログラム全体がクラッシュするように設定されているそうです」
「・・・よっぽど信用されてなかったんだな、山田って奴」
「ていうか、山田でなくても万人が招霊機で自分の身体を永遠のものにすればいいかも、って思いつきますよね?そういう輩の思うとおりにさせない為です」
「まあな・・・じゃ、どうやって?」
「他の招霊機に自分の魂を収容させればいいんですよ。今収容されている招霊機の期限が切れたら、新たに別の招霊機に収容させて次の49日間を過ごす・・・彼は、その手段で50年間、やりすごしてきました」
一同は次の言葉を失った。
山田という人物の『生きる』ということに対しての執念に腹の底から生理的なおぞましさが湧きあがってきたのだ。
「そして、皆さんもご存じのように招霊機は一度『収容』して『解放』した霊魂は二度と『収容』できないという機能がある」
「・・・そうだったな」
だから、最初の事件、木村杏奈の再生の為にわざわざ他の試作品(プロト)狩りをしたんだっけ。
あの時は一機だけが相手だったから父娘二人で仕留める事ができたのだ。
「だから山田は生きながらえる為に新たな招霊機を次々と作り続け49日ごと魂の引っ越しを繰り返す。その結果、気が遠くなるほどの多量の招霊機―全てが問題のある試作品がこの世に生まれ、山田は招霊機を必要とする他人に売りつけて制作資金を調達する」
「山田って、Jのような取り込む霊体を選べるタイプの招霊機は造れないのか?」
「J達のようなシリアルナンバー・タイプを造ろうと思えば人間の子供を大人に育て上げるくらいの手間と時間がかかります。無理で無駄です」
「・・・で、悪質な試作品が出回って、人様に迷惑をかけるってことか」
伸は頷く。
「で、アンタ達がそれを始末し続けていると・・・一体何故なんだ?」
「何故って・・・試作品(あいつら)が散々、悪さをしているからです」
「いや、そうじゃなくて・・・あんた自身の動機だ」
「・・・僕自身の?」
「Jの動機は解るよ。彼は試作品(プロト)を始末する為に造られたんだし。だけど、試作品退治が何かと危険を伴う事だと知っていてそれでも関わっているあんたの動機が解らん」
「知り合いを殺されました」
そそくさとした調子で答える、感情が凍りついた声。
「・・・余計なこと聞いたか・・・すまない」
しばらくして返される言葉。
「いいんですよ。いつかはJの保証人に話さなきゃ、と思っていた事です。・・・特に美月ちゃんに、僕らが一緒に住んでいることについて誤解されないようにね」
クスリと笑う伸の顔を、今度は美月が真面目な顔をして見つめていた。
「伸さん」
「はい」
「・・・Jの家族、ソイツに殺されたのね」
伸は頷いた。
『殺すんですか。ヤッパリ』
孝雄の視野に映し出されたモニター画面の山田が彼を憐れむように笑う。
『でも、それも阻止されるでしょうね』
だが、その視線は自分には向けられてはいない。
視界モニター中の山田の姿が掻き消え、新たな画像が出現した。
父と友人の亡骸が置かれてある応接間だ。
そこで起きている現象が孝雄の動きを止めた。
孝雄の山田への土産の銀色の金属の屑が空中に浮かんで塊を形成しだしている。
銀色の脚・・・銀色の身体・・・銀色の両腕が上腕に飛びつき、両手首を引き寄せた。
『やっぱり、タヌキ寝入りだったようだな。私の居場所を見つける為にワザと壊されてお持ち帰りされたということか』
愉快そうな山田の音声。
『孝雄君、君の戦闘能力を以ってしてまで奴(J)の高速度修復ナノ・システムまで破壊出来ていなかった。残念だ。これで貴方との取引は御仕舞にしましょう』
「金はいらないのか」
『命の方が大事です』
取引消滅。
それが何を意味する事か孝雄には解っていた。
『招霊機の収容可能期限は49日間。あなたもあなたの周りの人達も、それ以降は完全なる『あの世』の人間となります』
山田からの次の招霊機の支給がなければ、孝雄達の魂は、この機械から放り出されてしまうだけなのだ。
しかし、孝雄の口には頬笑みが浮かんでいた。
「もし、僕が完全に金髪野郎を壊しきったとしたら?」
『その時は勿論、契約再開させていただきます。できるんですか?』
「やるしかない。僕は、また誰かが蘇らせてくれるだろうけど・・・このままだと両親が転生してしまい―僕はまた『忘れられてしまう』」
完成しきった銀色ロボットが、金髪の美青年の姿に変化した。
「金髪野郎!僕に勝てると思うな!」
孝雄が声高に名を呼び襲いかかってくる。
「お前達は一度は僕にやられたくせに!」
「残念。あれはワザとです」
腹部に衝撃が走った。
「・・・・」
腹部にJの手が喰い込んでいた。
「嘘・・・」
優れた戦闘能力を持ち、しかも機械の身体に入っているというのにJの動きが読めなかった。
「あなたの『魂』・・・いや、『身体(からだ)』を」
目の前の青い目の美しい青年ロボットが微笑む。
「引きずり出し、そして始末して貰います」
Jの手によって引きずりだされたモノは、もはや、人の形を成していなかった。
多種多様の人間の顔の塊入りのチューブ・・・としか形容できないモノ。
そのすべてが咆哮し、そのすべてが人が浮かべうる陰の表情を浮かべていた。
叫ぶ言葉は、総て人の名前―かつて自分にゆかりのある人々の名前であった。
その中でも一部の皮膚が、物陰に怯え隠れている少女と女性の傍まで伸びてゆき名前を絶叫する。
勿論、それは現世での彼女達の名前ではない。
一方、他の個所から浮き出ている孝雄の顔が咆哮をあげる。
『タスケテ!トウサン、カアサン!』
隣の部屋のソファに安置された試作機2機が、床に横たえられた山根(元)夫妻の姿に変化(フォーミンング)しJに襲いかかる。
別れたとはいえ元夫婦でもあり目的も一緒であるからなのか、それはそれは見事なシンクロで同時に息子を捕えているJに攻撃を仕掛けてくる。
「うっ!」
瞬時に二人の身体が腹から真っ二つに割れた。
自分達を腹から切断した人物の名を山根社長は擦れた声で呼んだ。
「・・・小林・・・」
「息子消滅の危機に今更、試作機に乗り移ったということですか」
真剣を構えた老人―長らく山根家に仕えてきた小林が悲しげに言った。
壊れて行く試作品を目にして悲鳴をあげる山根社長夫妻。
彼らは、もう何もできず、何もこの世に影響を及ぼす事はできない。
「オツさん」
Jの呟きのすぐ後に、その姿があの細い目の僧侶に変化した。
「かたじけない・・・金髪殿。しばし、貴殿の身体をお借りする」
刀を構えた僧侶―オツは呟いた。
「消え失せよ、甲種」
突然、現れた金髪の青年に驚きが落ち付かぬうちに、またその姿がお坊さんに変わった。
混乱する少女の背後から、女の人の声が飛んできた。
「こっち!」
両脇に手が入れられ身体ごと引っ張られた。
「早く!」
移動する先に眼鏡のお兄さん、自分を庇ってくれたお姉さんを抱えた七三に分けたおじさんと、おじさんによく似た顔のスーツ姿のお兄さんが見えた。
自分を抱え走る人を見上げた。
綺麗な顔立ちの黒い髪・黒い瞳のお姉さんだ。
「離れろ!」
おじさんの声を合図に、坊さんと化け物がいる部屋から皆で飛び出して、物陰に逃げ込んだ。
爆音。
爆発―いや、見えない何かが破裂する音が鼓膜を襲った。
と、同時に今までいた部屋の入口から、部屋の家具と共に金属の破片が混ざった爆風が噴き出した。
全身に襲いかかる全身が痺れる様な気味の悪い振動。
少女を庇い抱えているお姉さんが呟いた。
「・・・巨大容量の霊体(ビッグファット)・・・?」
「いいえ」
若い男の声が応えた。
風も収まった部屋から一人だけ、金髪の綺麗なお兄さんが出てきた。
「分析の結果、巨大容量の霊体(ビッグファット)とはまた違った構造の生命体様生物でした」
美月は久々に会ったロボットの名を呼んだ。
「J・・・」
「美月」
Jの青い瞳が彼女に向けられた。
「あなた達は『見つけられて』しまっていた」
「誰に?」
「『山田』に、です。彼に『神降ろし』を目撃され確信をもたれてしまった」
「だったら、どうなるの?」
「山田はあなた方を手に入れようとするでしょう。いや、正確に言い直すと、あなた達の魂を、です」
「そんなもの手に入れてどうしようっていうのよ」
Jの代わりに伸が答えた。
「自分ものにして、好きなように扱いたいんだよ」
振り向くと、いつもよりちょっぴり難しい顔をしていた。
「だのに、J、君はまだ水月家から離れて暮らしていくと言うのか?そもそも、君の造られた目的は何だったんだ?」
―霊媒を守る為であろう―
オツがJの横に佇んでいた。
いつのまにか、Jから『解放』されていた。
―かたじけないな、J殿。お陰で甲種を討つことができた。もう、ここらで私は御暇させていただく―
「これから、どうされるのですか」
Jが訊ねる。
「これからは換魂の術を使わず、試作機で再生されようとする甲種が増えてくるでしょう。その時はいつでもどうぞとは、私は言えません」
―そうであろうな。もう二度と私はあなたに『収容』されないのだから・・・ならば、生身の身体で闘うまで。できればその方がよいな―
オツは笑った。
―また、永玄と仲間達が身体を貸してくれるそうだから―
その穏やかな光をたたえた眼差しに移るのは、部屋の隅で佇む老人と少年であった。
「お疲れ様でした・・・兄様」
微笑みながら老執事はオツの前にひざまづいた。
―折角、お前達がくれたこの身体、早くも壊されてしまった・・・また、世話になるな・・・すまない・・・永玄―
「現世での役目を終えれば、すぐさまこの身を捧げます故・・・しばし、お休みくださいませ」
老人の次に、少年がオツにぺこりとお辞儀をした。
Jのその手は山根社長の霊体の頭を掴んでいた。
「私はあなたに質問します」
社長を険しい顔で睨みつける。
「どこから試作機を購入しましたか?」
無言を決める社長。
「お答え下さい。私は霊体にダメージを与える事ができます」
Jの指が社長のこめかみに喰い込む。
うつろな目のまま社長は笑っている。
「秘密厳守の契約をされているようですが」
彼の単調な調子の笑いに応えるかのようにJの唇の端にも笑みが浮かんだ。
「彼はもう山根家にはやって来ませんよ」
その一言で、社長の顔がひきつる。
『もう・・・来ない?メンテナンスにも、か?金は振り込んでいるぞ』
「そうです。私があなた達を壊そうが壊すまいが彼らはあなた達の元にはやって来ない」
『何故だ?』
「あなたが水月神社と接触した情報が彼らに届いているからです。その地点で彼らはあなた方との接触を断つという判断をしているはずです」
社長の瞳孔が激しく揺れた。
『契約違反だ!』
「そんなものどこに訴えるおつもりですか。あなたはすでに世間で幽霊と呼ばれるものになっている」
『彼らの会社の所在地は解らない・・・連絡はあちらから一方的にしか取れない。連絡先のアドレスも次々と変更される。最初の接触も知り合いの紹介からだ。それ以外の方法で彼らから商品を購入することはできない』
Jの指がこめかみから離れ、社長はへたり込んだ。
「何故、ご子息を試作機の中に入れようと思われたのですか」
社長を見下ろすJの声が一層、暗く低くなっていた。
社長が顔を上げた。
「通常の人間のように転生することによって記憶を消すことなく、積み上げた莫大な経験を元に手腕を発揮する魂と、この世を永遠に謳歌し続けたかったのではないのですか?」
ロボットはすでに背を向けて立っていた。
『J君』
社長は口の片端をゆがませた。
『君は人を愛したことがないのかな?愛する者同士が『死』によって引き裂かれる苦しみ、寂しさ、悲しみが解っていないようだな』
「・・・・」
『すまない、君はロボットだったよね。愚問だったよ。ロボットに感情なんかあるわけない・・・あるのはただ、人間の一般的な基準の善悪だけだね』
「あるわよ」
突然、割って入ってきた少女の声。
「シリアルナンバー付きの招霊機には、長い年月かけて育ってきた経験と感情がある」
水月神社の凛とした美しき跡取り娘が仁王立ちしている。
「それがないモノが魂を預かれば必ず破滅が訪れる」
「美月」
肩にJの手が置かれたのを美月は感じた。
「行きましょう」
「え?」
「もうここには用はない」
そう言い残すと足早くJは行ってしまった。
山根社長夫妻が、うなだれて体を震わせて啜り泣いている。
震えているのは彼らだけではない。
美月は気がついていた。
今はもう肩から離れてしまったJの手も震えていた。
「山根さんよ」
引き上げ間際、和男は呼びかけた。
「自分達の行動が元で色んな人に迷惑をかけたよな。この事でアンタ達、簡単には神世には還られないぜ。迷って困るようであれば、また連絡してくれ」
山根社長は肩を落とした。
『子供に自分が築き上げたものを継がせたい・・・由緒ある神社の宮司のあなたになら、この気持は理解できるでしょう?』
「わかんねえな。できりゃ、可愛い娘にはとっとと甲斐性のある男の処に嫁に行って可愛い孫を見せてほしいもんだよ」
『だが、美月さんは養女ですよね?それに実子の圭さんには霊能力がないと聞いています。だから能力のある彼女を養子に迎えられた、という方がすっきりしますが』
「よくご存じで。だけど、俺はあいつがこの神社に来るその日まで、あいつがこの世に生きている事すら知らなかったんだぜ」
和男は後頭部を掻きはじめる。
「残念ながら水月は由緒から程遠いアウトロー神社でね。善神だか何神だか分からない得体のしれない神様が俺達の様なちっとは腕の立つ霊能力者をとっ捕まえてはこき使うってシステムなんだよ。俺もカミさんも美月(むすめ)もこの神社の神様にスカウトされただけ、ってことなんだ・・・だから」
声のトーンが急に落ちた。
「あんた達のしたことは、俺達の神様と同じだよ」
立ち去る水月一家を小林の声が追いかける。
「山根夫妻には私が傍にいて再び彼らが人の世に戻れるまでお助けします」
うなだれた夫妻が小林を見上げた。
「よかったな。小林さんが一度、この世で受けた御恩を忘れない性質の人でさ」
和男の後に伸が苦笑いを浮かべながら振り向いた。
「でも・・・もう一人がね」
丸い顔のかわいい男の子が小林から離れ、元・山根夫妻の傍に近づいた。
「孝雄!」
奈津子が真っ先に反応して少年に両手を差しのべた。
「違う・・・」
山根社長が恐怖の色を顔に浮かべ呟く。
「そいつは・・・孝雄じゃないぞ・・・」
「だって、ほら、小さい時の孝雄じゃない!あなた忘れたの?」
少年が元・夫妻の手前で立ち止まった。
小林が告げる。
「この子は、あなた達の勝手で無慈悲な願望の為、今世の身体を失い20年も彷徨う事になってしまった。この子の怨念が浄化できるまで貴方達は成仏できない・・・どうすればいいのか私も一緒に考えます」
「おばさん、おじさんが欲しかったのは」
『山根孝雄になるはずだった魂』が呟く。
「僕の魂じゃなかったんでしょ?」
少年の少年の声が、割れて聞えた。
二人を見上げた少年の顔を見て山根夫妻は叫び声をあげた。
「あの二人には、あの子の顔が凄く恐ろしい形相にしか見えないんだな」
「ご愁傷様だね。小林さん、そんな苦労放棄しても神様は許してくれるのに」
「そうですが・・・」
慈悲深い笑顔を小林は返して答えた。
「私と兄様の師なら、こうすると思えますので・・・それだけのことですよ」
圭が父の肩を叩く。
「同じ宗教関係者として見習わなくっちゃな」
和男は肩をすくめた。
空の色がオレンジからラベンダー色へと変わっていく頃、うかない顔をした圭が帰ってきた。
「山根家惨殺事件についてなんだけど・・・」
テーブルの向こう側の美月と父が手を止めて、喋り出した圭を見つめた。
「犯人は遺体で発見された4人の山根孝雄の友人ってことになった」
「え?」
最初に美月が声をあげた。
「どうやって捜査したらそこに行きつくの?」
「素人が見たって、あれは他殺体だろう?」
見たくもなかったが、孝雄の4人の遺体は目も当てられぬ程に破壊されていた。
「俺が捜査についたわけじゃないし、捜査結果は同僚からのまた聞きだから、詳しい経過は解らない。でも・・・捜査を自分の都合のいいように歪めた奴がいるんじゃないかな」
一息ついて圭は言いきった。
「だって、俺をこの捜査メンバーに入れなかったとこからが不自然だ。俺のキャリアなら入っていてもおかしくない。俺が真実を知っているから入れなかったんだ・・・まあ、知っていたところで誰にも信じてもらえないけどね」
「・・・兄さんは誰だと思う?」
「って?」
「その、捜査を歪めた人」
「解らん。でも、そんな技できる奴って所謂『上の人』だろう?手も足も出ねぇな・・・あ、醤油でてねーぞ。俺は焼き魚にはポン酢じゃなくて醤油派だって言ってるよな」
「自分で取りにいきなよ」
深い溜息をつきながら自分で醤油さしを取りに行くべく立ちあがった圭の面前に、醤油さしが差し出だされた。
「多分、『招霊機友の会』に関係するメンバーが署内にいるのでしょう」
手の主は、禰宜衣装の上に割烹着を身に纏った金髪外人であった。
「・・・」
突如、キッチンに音も気配もなく出現したJに一同、息を呑む。
「いつのまに?」
「今です。今日から、ここ水月でお世話になります。私の分の食事はお構いなく。エネルギーは自給自足で補給できます」
「え、何で?アンタ水月神社(ここ)はトラウマのある場所だから住み込みは嫌がってたんじゃないの?」
「『招霊機友の会』とは、山田から試作機を定期的に買い上げている人間が所属する会です」
「質問を無視しやがったよ、コイツ」
Jの発言に勿論のこと圭が即反応する。
「て、ことは・・・本当は死んでいるのに機械の力でこの世に存在しているっていう奴がうちの署内にいるってことか?」
「そうです。珍しい事ではありません。彼らは自分の正体を隠したい、それだけの理由でなんでもやってのけます」
「天下の法律を曲げてまでか?そんな奴が同じ職場にいるって不愉快・・・」
ますます圭は肩を落とした。
「圭」
父・和男が一升瓶をテーブルの上に置いた。
「今夜はこれで一杯やれ」
「俺が下戸だって知っててやってるだろ・・・」
「じゃ、代わりに私が・・・」
Jのエルボーが美月の脳天に入る。
「あなたは未成年です。美月」
「叩いたー!ロボットが人間叩いたー!3原則なってないー!」
「身体が出来あがっていない時期の飲酒は、健やかな脳の成長を妨げる。これは人間を傷つける為の暴力ではなく、人間の身体を守るための指導です。3原則に何ら反していない」
「DVやる親の言い訳だー!」
「うるさい。黙ってJの言う事聞いとけ」
「そうです」
Jが腹が立つほど冷静な調子で美月を諭す。
「美月の進学に向けての脳内の進行がなってない→だから、金銭でなんとかしようと父子で目論む→今回のような危険な仕事に手を出し危険な状況を作る。このサイクルを阻止するべく私はやって参りました」
「ほら、Jが心配して水月に来てくれたんだ、感謝して素直に指導に従え」
「そうだぞ。カップリングの相手がいなくなって寂しがっている伸さんのことを忘れるな」
「その件については、伸から『いや、BLじゃないし―』と説明してくれと頼まれています」
「―だから私が水月にいなければならない」
商品のリストをチェックしていた伸はパソコン画面から顔を上げて憮然としているJの顔を見た。
「あの人達は私がついていないと金欲しさに何をしでかすか解らない。だから、伸。あなたを一人にしておくのは忍びないが・・・」
クスクス笑い出す伸。
「何がおかしいのですか、伸」
「ごめんごめん。いや、そっちの方かー。そういう理由で、やっと水月に帰る気になったのか―」
「アホらしい理由ということは理解しています」
どこまでもJの表情は真面目くさっている。
「ま、これでめでたし、かな。君は君本来の仕事に戻る事ができたってことだ。だから僕の事は心配しなくていいよ」
「しかし、伸・・・あなたの事が・・・」
「大丈夫。僕なら何があっても納得だ。それにJ。僕以外にも考えてあげるべきヒトがいることを忘れないで。香音だって、今回の事をきっと喜んでくれている」
「・・・でしょうか」
Jの目は本当に何も見えない空間を何かを探すかのように見つめていた。
「霊体はどこへでも飛んで行ける―ただ、そう祈るだけでね」
椅子に座ったまままどろんでいると見えた、よれよれの汚れた作業服の天パ眼鏡男は顔をあげた。
「今日は16体、ですか」
完成・未完成様々な出来栄えの銀色ロボットが所狭しと置かれている室内を見回し山田は呟く。
「言っとくけど、もうウチの商品を貴方達にはお売りできませんよ」
死亡後、しかも正確なロボットの目をもっているのに習慣でついかけてしまっている眼鏡のレンズに移る異体の集団。
「その姿は、変な術で再生した身体で永久の命を得ようとした罰ですよ、越谷さん」
かつて「反魂の術」で永遠を詠歌していたかのように錯覚していた越谷永玄とその弟子達は口々に意味の解らない言葉を叫び出す。
「ああー、うるさいうるさい。死後、言語すら失ってしまった貴方達の望みを聞ける霊媒は皆無でしょうね。可愛そうですが救われませんなぁ、アンタ達」
山田は立ち上がりパソコンを立ち上げ、ぎっしり届いたメールを確認してほくそ笑む。
これらは総て招霊機の「購入希望」と「メンテナンス」と「更新」の依頼である。
そんな彼の両脇から若者四人の霊体が口をパクパクさせて何かを訴えてきている。
「また、あなた達ですか」
山根孝雄の友人四人に気の毒そうな顔を作って見せる。
「なにしろ。こちらも慈善事業じゃない。然るべき料金を前払いして頂かないと招霊機をお渡しできないんでね。頑張ってご家族が貴方がたに気がつくまで訴えて下さい」
でかい鼻の一人がしゃがみ込み、『だから、何度話しかけても気づいてくれないんだ!』と叫ぶ。
「それは、あなた達の『力』が弱いんだ―私は弱い奴には用はない」
泣き喚く人間の霊どもらから視線を外し、メールチェックをする山田の頭を誰かが後から叩いた。
「おや、やりますね。物質に感触を与える事が出来るとは見込みがある」
背後の怒れる奥眼の青年の霊を見つめる山田。
その眼に温かみはない。
「だけど、私に逆らう可能性のある奴は更に興味はない」
冷たい眼差しが羅列された銀色ロボットに向けられた。
「うっとうしい。全員『破壊』」
山田を、いや「招霊機」を頼って「この世」に「再生」を願った霊体達は、その「招霊機」の手で完全に「破壊」されてしまった。
「もう、どの「世」にも、彼等は「存在」しない」
山田はキーを打ちながら誰に聞かせる訳でもない独り言を言った。
「美月」
二人並んで社務所の施錠確認の帰路につきながらJが呼びかけてきた。
「私はあなた達に謝らなければいけないことがある」
「何?」
「今回の件で、私は山田の居場所を突き止める事を優先し、貴方達を危険な目に合わせてしまった・・・申し訳ありません」
美月からの返答はない。
Jの謝罪を聞いているのかいないのか、夏に向けてどんどんぼんやりしてくる夜空を美月は見上げている。
「・・・そうだったんだ」
水月の木々が葉を蒼々と茂らせて繁栄の季節の風を受けている音に混じって美月のささやき声が聞こえてきた。
「だからオツ、あなたはあの日、Jのフォローに来たんだ」
Jもつられて空を仰いだ。
空(くう)から「言葉」が、降ってきた。
「音声」ではなく、その者の魂から発せられた「言葉」だけが。
それは単なる「彼」の独り言なんだろうけど。
「そうか」
美月は笑った。
「本当は、そういう姿なのね」
それはJも「感知」していた。
まだ、「彼」は再会を渇望している師の元には行けずに彷徨っている。
「甲種」の犠牲になってしまった誰かに呼ばれる事を待っている。
「あの女の子、小林さんが養女にしてくれたわよ、オツ」
美月の語りかけに答えるかのように、オツは木々の葉をさらさらと奏でて去って行った。
「・・・何も、見えなかったね・・・気配だけで」
「私も分析結果をヴィジョン化することができませんでした。だが・・・」
まだ、空を見上げるJの口元が少しだけ微笑んでいるように見えた。
「それが誰の人生をも奪った事のない『彼等』本来の姿なのでしょう」
招霊機「郭公」(後編)
最期まで読んで頂きありがとうございました。ひたすら感謝、感謝です。