空に見る
僕
空を見上げていた。理由はない。ただなんとなく、何かがある気がしたからだ。
何も無い空。僕らの住む地上とは違って、命の無い空。こう言うと、鳥や虫が居るじゃないかと言われるかもしれない。けれど、それは違う。僕が言いたい事はそうじゃない。
命が無い。そう、空には何も無いんだ。青色も、黄色も、赤も黒も、全部本当は光の色。空は光の色を反射している。それだけ。地上にも光は降り注いでいるけれど、あんなに綺麗に光を反射できるのは、空と海だけだと思う。
いや、違う。地上だけが綺麗になれないんだ。そう考えたほうが、納得できる。違うか?
どうしてこんなに、地上は汚れているのだろう? 僕とは違う人間にこれを聞いてみると、「人間が居るから地上は汚れてしまった」そういう意味の言葉を、よく返事として返される。それは、確かにそうだ。
そうして、人間は自分の罪を自分だけのものにしてしまう。何をしたとしても、「自分は人間だから」その一言で、許されてしまう。罪は生まれてから今まで、連続的に増え続けていると言うのに。
人間は、醜い生き物だ。それが絶対。それが根底に在る真理。そう定める人が居るから、そして、それを認める人が居るから、それが正しくなる。いつだってそうだ。本当の事はいつだって見えない。濁っている。数が多い方が正しいのだから。そういう風に世界は出来ているから。
あるいは、本当の事は似合わないのかもしれない。現に、上等な言葉は上等な人にしか似合わないし、上等な作品は上等な人から生まれる。それと同じで、本当の事は、人間にはどうしても綺麗すぎるのかもしれない。綺麗事は、いつだって笑われるものだ。
それでも僕は、醜さを認めて、それを許す人が嫌いだ。それは僕も同じなのだけれど。ただ生活をするだけで、人は罪を重ねてしまうのだから。だから、僕は僕が嫌いだ。そうして僕も、僕を許そうとしている。そんな僕が、また嫌いだ。どれだけ嫌っても、僕は居なくならないのだけれど。こんなに近くに居るのに。いつでも死ぬ事は出来るのに。
人はどうしたら死ねるのだろう? ナイフで心臓を刺されたら? 弾丸で脳を打ち抜かれたら? 内臓も、骨も、何もかも焼けて無くなったら? 誰の記憶にも残らなくなったら? 自分で自分を殺したら?
きっと、どれでも同じだ。僕が僕じゃなくなった時。その時に、僕は死ぬのだ。
僕一人。
この命だけで。
ああ、それは、
なんて、素敵な事なのだろうか。
僕は空に、僕の死を見る。
私
ここは、何処だろう。何かを踏んでいる。地面だ。硬い。何者も寄せようとしない、自分を守るのに必死になっている地面。
堤防に立っている。右に、緩やかに流れる川、背の高い草。遠くには、橋。左には、舗装された道路。車が走ったり、人が歩いたり。アスファルトの地面は、この地面よりももっと硬いんだろうな。そんな強さが羨ましい。
私は空。だった、と思う。ついさっきまでは、私は空だったはず。そう覚えている。なのに、どうしてこんな所に?
ああ、上手く考えられない……何かが私の中に、無遠慮に入ってくるような、私が濁っていく感覚。
音。
匂い。
色。
色。
色。
「帰りたいな……」
空を見上げて、手を伸ばして、呟いた。そうする内、頬を、涙が伝っているのが解った。止めどなく溢れてくる。その内、視界が青色で滲んだ。
驚いて、涙を拭ってみると、涙が、青色だった。そして、私の手が、涙を流すと共に、透けていた。
どうして?
私、消えちゃうの?
何も解らないまま、消えるの?
私って何?
どうしてここに居るの?
私は誰?
止まってよ、涙。
何処か、何処かへ行かないと。何処か、遠くへ。
何処へ?
あ、ああ、
フェードアウト。
地面に、引っ張られる。身体が、嫌な音を立てて、打ちつけられる。
途端に、何もかもが真っ暗になった。
空に見る
短編小説を書きたいです。
続くかもです。続きを書けるようにしたいです。
ありがとうございました。