世界設定妄想記 No,5 炎の洞窟

アルテ平原の彼方先、聳え立つソロス山脈の中腹辺り。少年は大きな空洞になった祠を発見する。
(まるで狛犬のような姿の)二体の守り神が左右に並び、この洞窟に入る者の侵入を拒むようだった。少年は意を決して歩を進める。

中は暗く、それでいて広い。王国からの炭鉱夫たちが鉱石目当てにやって来てここら一帯を開発して行ったという話通り、入り口からしばらくは良く整備されていた。マトックや荷車がそこいらに散乱している。
「(今は人の気配すら無い廃坑、と言ったところかな。)」
少年は手にした松明を頼りに進む。
次第に強まる奥から吹く熱風が容赦無く少年の体力を奪っていった。

しばらく行くと大きな壁画が掘られている空洞に出た。
(行き止まりかな?)
そう思って引き返そうとした瞬間、突然頭の中に
「(待って!!)」
という声が。
「!?…えっ?今誰か…うわっ!!」
聞き返そうとした矢先に地面が揺れ始めた、地震だ!急いで逃げ出そうとしても足が言うことを聞かない。
「まずい!崩れる!!」
ガラガラと音を立てて地面が割れ始めた、少年は轟音と共に眼下の暗闇へと落ちて行った。
……


しばらくして静まりを取り戻した洞窟に弱々しい声が響く
「い、いたたた…。助かった、のか?」
強い衝撃こそ受けたようだが奇跡的に大した怪我は無いようだ。
「ここはどこだろう?随分と落ちたようだけど…。」辺りを見渡した瞬間、少年は絶句した。
周り一面が真っ赤な溶岩で埋め尽くされている。ドロドロと流れる赤いマグマが僅かながら残された地面の合間を隙間なく埋めていた。
道は人が一人歩くぐらいがやっとの幅で続いており少しでも足を踏み外すともれなくドロドロの溶岩に全身を溶かされてしまうだろう。
ドーム状に広がる天井付近に建造物らしきものがあるのが見えた。と言ってもはるか前方に薄っすらと視界に映る程度だったが。
「あれが炎の神殿だな。でもここからじゃ登れないな…、どうしようか?」
「(私に任せて下さい!)」
「!!」
ここに落ちる前に聴いたあの声だ。
「だ、誰だ!?」
キョロキョロと辺りを見回しても誰もいない。
「(怖がらないで、安心して下さい。私は炎の一族の末裔です。)」
「…炎の一族?国王様の言っていた火の精霊のことか?」
「(はいその通りです。と言っても今は姿形を溶岩に変えられてしまい、会話もままなりません。僅かながら残された火の力を使って思念を送ることは出来ますが、聴こえる人は限られています。)」
「それで直接脳内に…、ところでどうして溶岩に変えられてしまったんだ?」
火の精霊はしばらく間を置いて答えた。

「(数ヶ月前のことです。私たちはいつもと変わらぬ生活を送っていました、火を祭り、監視し、この世の全ての火の災いを未然に防ぐように努めていたのです。ところがある日突然、その日常が音をたてて崩れていきました。)」
少年はいささか悪い予感を覚えたが黙って聴くことにした。
「(遥か東の彼方から闇の者達が大挙してあらわれ、この炎の一族を魔法で溶岩へと変えていったのです。)」
「闇の者達?」
「(ご存知ありませんか?400年前の大戦が終わりを迎えた際に戦いの中心にあった場所、その場所に巣食い新たな火種を巻こうと画策する闇の者達、彼らが魔物や怪物となり各地を襲っているのは昔からですが、ここ最近特に激しくなっており私たちもその渦中に遭ったと言うわけです。)」
魔物達の仕業・・、出来れば遭遇したくなかった言葉だが彼らをこのまま見捨てておく訳にもいかない。
「どうやったら君たちを元に戻せるんだ?実は国王様の命令で、君たちの状況を把握し打開するように言われているんだよ。」
「(なんと、ありがたい!それには一つだけ方法があります。)」
火の精霊は嬉々として続けた、
「(私たちの命の源である『火の神』を助け出して欲しいのです。そうすれば元々あった火の力が完全なものになりこんな魔法はすぐに解けるはずです。)」
「『火の神』だって?そんなの何処にいるんだい?」
「(いつもはあの火の神殿にあるご神体、「火鏡(ひかがみ)」に宿っておられたのですが、闇の者達の襲来時に壊されてしまいました。そしてその隙を狙って彼らが連れてきた竜の口に吸い込まれ、火の神はその竜の胃の中に閉じ込められてしまったのです!)」
(何てこった・・、最悪のパターンじゃないか。)自分に背負わされた大きすぎる試練に少し意気消沈しかかった、が嘆いていても始まらない。
「・・その竜を倒して火の神を助け出せばいいんだね?」
「(はい、そうです。その竜は神殿の奥深くに巣食っています、あろうことかこの世の火の事をコントロールする中枢に身を置いているのです。これでは世界中が火の海にされてしまいます!お願いです、旅のお方!どうかこの火の民を救って下さい!)」
目の前にある驚異に恐怖しながらも、少年は逃げ出す事を選べなかった。何より自分たちの故郷にもその魔の手が伸びているかもしれない事を思うといても立ってもいられなかったのだ。
「分かったよ、あの神殿に向かえばいいんだね?どこか抜け道は無いかい?」

(続く・・)

世界設定妄想記 No,5 炎の洞窟

世界設定妄想記 No,5 炎の洞窟

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  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-08

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