少年少女物語―夏の陣―

その少女は呟く。   ひたすら呟く。


鴉の羽に見違える黒髪に毛先は白く、下着のようなキャミソールを着て、ミニショートパンツを履き、
黒いニーソックスを履き、そして、黒いロングブーツを履き、右目に眼帯を付けた少女は呟く。

ずっと呟く。

まるで砂漠に落とした小さなビーズを探すように。

「んぉー?やっぱし、遊貴と海斗遅くないか?」

ある少女は高台の上に立ち、街全体を見渡していく。

「それより、桜神。危ないから降りなさいよ。」

落ち着いた雰囲気の少女は高台の上の少女を窘める。

高台少女の名は春陽桜神。自称おじさんの小学5年。
怖いもの無しで変な性格とよく周りから言われるが、桜神は全く気にしてない。
誰にでも差別なく接する。頭のてっぺんにあるアホ毛が特徴的なおバカさん。


もう一人の少女は秋山紅葉。自称私で同じく小学5年生。
しっかりしていて優しい。宇宙人だけは大のニガテ。
桜神の世界一の大親友で、いつものクセで、みんなのことをつっこんでしまう。

「まぁ、いっか。」

そう言うと桜神は高台から飛び降りて、歩き出す。

ピトッ

「ん!遊貴!!?てか、つっめたっ!!」

遊貴と呼ばれた少年は桜神の頬に缶ジュースをくっつけ驚かす。

「まぁ、いっかとは何だよ。春陽の大好物の梅サイダーを無料でくれてやるから、もう少し気にかけてくれ」

そう言ったのは冬堂遊貴。自称自分で同じく小学5年。なぜか掴み所が無い変な奴。
すんごいお調子者で真面目になったと思いきや急に変な事言ったりと、へんてこな奴。

「んじゃあ、俺のアイスやるよ。遊貴のより美味いぜ?」

と言い、少年は桜神に梅アイスを手渡す。

「やった!海斗ありがとー。じゃあ、喜んでいただき…」

桜神がアイスを受け取り食べようとした瞬間、

「俺の食いかけだけどな」

と、格好つけて言ったのだ。

「ぐふっ!?げほっ。え、海斗までこんな事を…」

この少年は夏目海斗。同じく小学5年で自称俺。
ゲームの事しか頭になく、静かになったと思いきや、ずっとゲームの攻略法を
考えたりというネトゲ廃人。遊貴の最高の大親友らしい。

「まぁ、いいかな?」

「って、食うんかい!!!!」

紅葉のツッコミ発動!いえ、食うんです。おじさんはこういう人だから



ここは月闇村。

中学校最後の夏休みだから。
ある日紅葉が突然言い出し、紅葉のお爺さんが住んでいる月闇村に一週間程泊まる事に
なったのだが、本来は桜神と紅葉の2人で泊まるハズが、突然、遊貴達も来るハメに。


今日から一週間、月闇村では一週間祭というのがある。


そして今日から一週間、私達は奇妙な体験をするのだ



祭会場に付くと紅葉がふと、思いついたかのように、

「桜神って今日の8時からお祭で休みなくアニソン
 ライブの歌い手さんを1人でやるんだよねっ。」

と言い、笑顔で問う。
そして、桜神と紅葉の摩訶不思議意味不明なヲタク会話が始まってしまう。

「うぬうぬ、やるおーっ!
 あ、でも衣装がエロくてさなんかビキニとか着てって言われて。まぁ一応、ね。
 やっぱ歌ってると夏だし汗かくから最近流行の黒いひものヤツ着てきたけどさ…。
 いあいあwおじさんも、もうこんな歳になったとは時代には追いつけんなw
 おじさんの時代なんかはまだまだハイレグくらいがイケイケな世代なんだが…」

「だからその格好。というかそれタダのエロヲタ狙いね。
 ま、ヲタの経験値は桜神が1番だとは思うけど桜神の場合は、
 ヲタが萌える経験値も多く兼ね備えてるから…。
 そういう羞恥プレイとかもアリなんじゃないかしら?」

「いあ、でもおじさん的にはニコ動で人気な歌い手さんがデビューした曲が
 №1にならないでおじさんのが、№1を保てたのはある意味奇跡に等しいモノかと…」

と、桜神と紅葉のヲタクな会話が広がっていく。

そしてだんだんと2人の声が大きくなっていき、
回りの人が桜神達の顔をジロジロ見てヒソヒソ話をしているのがよくわかった。

「といーうか!春陽、時間無いならちゃっちゃと出店回ってこうぜ!?な!」

遊貴は急ぎ足でその場から逃げようとしていた。

「それもそーだね。れっつごーっ!」

桜神は明るく言うと、どんどん出店を回っていった。

紅葉はイカ焼きを頬張り、遊貴はたこ焼きの早食い、海斗はかき氷を食べ過ぎたり、
射的ゲームをやったり、金魚すくいをやったりとあっという間に時間は過ぎていってしまった。


日も沈み午後8時になり、桜神のアニソンライブが始まった。

昔懐かしの曲から、最新の電波系の曲など幅広く歌っていた。

曲の途中のトークでは笑ったり、泣いたり。最後は楽しくフィナーレを迎えられた。


そして、ライブが終わると既に11時を過ぎてしまった。

勿論、桜神は帰る時間が遅くなるのを解っていた為、紅葉達には先に帰るように言っておいたのだ。

しかし、やはり夜道を1人で歩くのは怖かった。

―、そう思った瞬間。

「はーるひーっ!お前、1人で怖かったろ?白馬の王様がアホ毛姫と一緒に帰ってやろうか?」

と格好をつけて、遊貴が桜神の目の前にやってきた。

「なんで遊貴が白馬?黒いほうが似てない?」

と桜神はふざけながら言った。すると遊貴は笑いながら、

「自分の名前には、雪って意味もあるからな」

と言う。

「そだね。じゃあ今日は王子様と一緒に帰宅だね」

と言い桜神と遊貴は歩き出す。

その頃紅葉たちは―、

「全くもう!遊貴ったら。荷物荒らしていって。」

お風呂から上がった紅葉は腹を立てながら、遊貴や桜神の荷物を片付ける。

「なんか、胸騒ぎがするな。」

海斗は静かにそう呟いた。

「…え?」

紅葉は驚きながら海斗を見つめる。


―、夜は深まり。次の日付へと移り変わる時。

「ふい~。あったまったー」

桜神はベランダに座りながらうちわを扇ぎ、空を見つめる。

発育のいい体を纏っているのは着崩した長襦袢。

「…、にしても、さぁ。今日は随分と月が紅いね。」

桜神は右目の眼帯を外し、不適な笑みを浮かべる。

左目の黄金の瞳に対し、その右目は、紅に染まっていた。
それも、奇妙に眩い光を放って。

「こんな夜は、何か出るよね。」

桜神は自分の背後に誰かがいるのが解っていた。

「俺に気づくとは、大したヤツだな…。」

男は呆れた声で呟く。

「アンタは、誰…?」

桜神は声を強張らせながら振り向く。

そこにはくろずくめの男の姿があった。

「初めまして、お嬢サン。俺はチェシャ猫と申します。」

チェシャ猫という男はニヤリと笑う。

「チェシャ…、不思議の国のアリス?」

桜神は目を細めて聞く。

「御名答。そう、これは、¨ただの御伽噺¨ですよ。ま、下手すると死ぬけど。」

やはり呆れた声色でチェシャ猫は静かに呟く。

「…何か要求するつもり?」

桜神は静かに聞く。

「キス…かな。」

そう言うとチェシャ猫は桜神を壁に押し付け、唇を塞ぐ。

「、んん…!」

そして桜神の唇には強引に何かが押し込まれた。そして、チェシャ猫は桜神との長いキスを終えた。

「な、に…。したっ…、の。」

正気に戻れない桜神は息を乱しながらチェシャ猫を睨みつける。

それに動じない表情でチェシャ猫は続ける。

「口移しで君に呪詛を与えた。…、それだけだけど。」

飄々としたチェシャ猫の喋りに桜神は苛つきを覚える。その苛つきと同時に右胸に灼かれるような痛みを感じる。

「…、っ!何、これ…。」

桜神は着ていた長襦袢の胸元をはだくと、右胸の刺青を見つめる。

「スペード…、」

「キミの仲間にも、それぞれ刺青を入れたよ。
 あ、あと君のその右目。その右目にも刺青をいれておいた。」

またもチェシャ猫はさらりと言う。

「春には心臓にスペード。夏には太ももにダイヤ。秋には二の腕にハート。冬には首にクローバー。
 神には瞳にジョーカーを。」

チェシャ猫は呪文のようにそう言うと、桜神を壁に押し倒す。

「神はそう言った。そして神は屍を葬った。刺青を授けられた人間は屍を倒し、神をも超える」

チェシャ猫は哀しげな瞳で桜神を見つめる。

桜神はただ、立ち尽くす事しか出来なかった。

少し経った後、桜神達は大きな揺れを感じた。

そこにチェシャ猫の姿は無かった。

そして、どこからか。唸るような声が聞こえてきた。

「…もしかしてコレ、」

「二次元かナニかだな!」

真剣な顔で桜神は呟くが、横から遊貴が明るく顔を出す。

桜神が振り返ると、紅葉と海斗がやる気満々でこちらを見つめていた。

「これって最強に二次元じゃん?」

海斗は目を輝かせながら、桜神を見つめる。

「でも…、」

それでも戸惑う桜神に紅葉は笑って答える。

「桜神?貴方の望んでいたのは、こういう二次元じゃないの?」

紅葉が言った言葉を

少年少女物語―夏の陣―

少年少女物語―夏の陣―

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-11-12

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