Parallel Mail【24】

もし「もし」が叶うなら、あなたは何を願いますか?

そんな力を手にした一話完結の物語です。

『もし』あの時ああしていれば
『もし』あの時こうしなければ
人は誰しもそう思う生き物です
でも、本当にそうなった時あなたはどう変わるんでしょう?

【プロローグ】
いつも通りの天井が見えた。また目覚ましより5分だけ早く起きちまった。
「はぁ~、起きるか~。」
そう呟いたが、結局5分以上布団でグダグダ。
支度をしてアパートを出たのが結局8時過ぎ、このままでは一時限目の講義に間に合わない。でもまぁぶっちゃけ出席だけ書けばいいから別に問題ないでしょ。最寄りの川品北(かわしなきた)駅に着いて早速スマホを取り出す。
何やってんだろ、俺。
時々そう自分を責めたくなる。小学生の頃はヒーローに憧れて、中学校では部活のサッカーに明け暮れる毎日。高校で始めて彼女ができて浮つい、気づいたら浪人してて彼女とも友達とも疎遠になってた。一浪した結果入ったのは世間一般では二流半の私立大学、そこで講義をダラダラ受ける毎日。
なんてつまらない人生のダイジェスト。だから時々思うんだ。
『もし』あの時ああしていれば
『もし』あの時こうしなければ
って。
そんなくだらないこと考えてたらいつの間にか電車は大学前駅に着いていた。

『新着メールが一件あります』
友達と昼飯を食べ終えた時にメールが入っていることに気がつく。見たこともないアドレス。
「こわ!」
そりゃそうだ、怪しいメールから詐欺や勧誘・サクラに繋がることが多い。だからいつもはこんなメール即ゴミ箱いきなのだが。

『もし』あの時ああしていれば・・・
『もし』あの時こうしなければ・・・
そんな願い、叶えて見ませんか?

そんな一文が見えて思わずメールを開いてしまった。今日の朝たまたま考えていたことだったし。

そんなあなたに三日間だけのチャンス!

やっぱり怪しい勧誘みたいだ。開いたのは間違いだったか?

ルールは三つ。
一つ、このメールにあなたが変えたい『もし』を返信してください。
曖昧でも構いませんが、文章通りの結果になりますので正確に書くことをお勧めします。期限は本日いっぱいです。
二つ、『もし』の世界を体験できるのはメール送信を行った次の日からの三日間。三日目の夜に継続するか否かの確認メールをお送りします。継続を希望しますとそのままその世界に、希望しないと元の世界に戻ります。

ますます胡散臭くなってきた。

三つ、新しい世界でこれらの事実を伝えられる人間は一人だけ。それを破ればペナルティを与えます。
以上が必要最低限のルールとなります。その他に関しては質問を受け付けておりませんのでご了承ください。
Presented by Parallel Mail

携帯をホーム画面に戻した。さて、午後の授業に行くか!

昔の夢なんて時間とともに変わっていく、そんな事言われなくてもわかっている。だから正義の味方にもサッカー選手にもなる気はさらさらない。でももし『もし』が叶うなら、俺は大学受験の結果を変えたい。
元カノの滝沢詩音(たきざわしおん)は黒髪長髪で頭が良くて、高校の時のクラスのマドンナ的な存在だった。だけど何故か俺に惚れていて、しょっちゅう授業抜け出してひと気がないところでイチャイチャしていた。志望校は同じ漣泰(れんたい)大学―今通っている川品大学と比べてもランクが結構上な国立大学だ。だから俺が落ちて彼女が受かったことは当たり前っちゃ当たり前のことで、浪人時にメールも満足に返していない俺に愛想つかすことも当たり前っちゃ当たり前の事だったけど、取り敢えず別れのメールが来た日にはアホほど泣いたのを覚えている。
合格を大学キャンパスで確認したその足で詩音の元へ走った。でも一年ぶりにあった彼女は変わっていた。見た目も性格も隣に連れている男の趣味もまるで初対面みたいで、思わず敬語で大学合格を伝えて走って帰った。
「一緒の大学になってればなぁ。」
久しぶりのメールの最後にはそう冗談っぽく舌を出した顔文字と一緒に書いてあった。
多分これぐらいだ、俺が後悔したことなんて。変えたいと思ったことなんて。

家に帰って友達から借りたレポート写してたらいつの間にか外は暗くなっていた。
「あぁ、もうこんな時間か。」
時計を見るともう既に20時を回っていて、夕食を買いにコンビニに出かける。
カップラーメンとおにぎりを買って、星空が綺麗で帰り道にある公園に入った。ブランコに座って空に見とれていると、ふと昔の記憶が蘇る。
高校の制服を着た俺と詩音との約束。「いつか一人暮らしするぐらい大人なったら、二人で朝まで公園で星を見ながらお酒飲もう」なんて高校生らしい可愛い約束。なんで今まで忘れてたんだろう?
「・・・嘘だろおい。」
頬に手を当てて思わず自分自身にツッコミを入れてしまった。こんな事で涙を流すなんて思ってもなかった。やっぱり歳取ったな、俺。
そして同時に決心した。自分から動いてみよう、たとえそれが切れそうな藁だとしても。そう思うか早いかでスマホを取り出した。


【一日目】
いつもと違う天井が見えた。また目覚ましより5分だけ早く起きてしまった。
「はぁ~、起きる・・・かぁ!?」
目覚まし時計も寝ているベッドも部屋の家具もまるで違う。俺は頭でもおかしくなったのか?
そう思いスマホを取ると、これまた違う機種だ。ただロック番号は同じだったのですんなり開けられた。新着メールが一件。

土門悠里(どもんゆうり)様、三日間ルールを守った上でご存分にお楽しみください。

あっ、そっか。本当だったんだ。いつの間にか呟いた言葉と一緒に、送信済みメールが目に入った。
『もし俺が漣泰大学に受かっていたら。』

アパートの鍵から始まりカバンや財布など、自分とはいえ部屋が違うとここまで置き場所が違うのかと悪戦苦闘しながら家を出れたのは8時過ぎだった。ただせめてもの救いは漣泰大学が下宿先のアパートから自転車で三十分だということだ。そして実家にも近いので何と無く場所はわかる。
取り敢えず大学に行ってみる、それが5分ほど部屋を物色した後に思いついたことだった。幸いにも部屋の棚には大学の同期と一緒に撮った集合写真があり、日付からしてつい最近のものだったので仲はいいらしい。念のためにポケットに入れてきた。
でも不安が二つ。
一つはこいつらの名前が誰一つわからないということ。
そしてもう一つ。詩音が写真に写っていないということだ。

見慣れないキャンパスだったが、なんとか一限が始まる前に教室に入る。何人かにおはよう、と挨拶されたが距離感がわからない。たまたま空いている席に着くと、その前にやたら髪の長い男が座ってきた。
「お~す、おはよ~。」
多分こいつはかなり自分と近しいらしい。集合写真でも俺と肩を組んでいた。
「すまん、携帯忘れたかもだから鳴らしてもらっていい?」
自転車をこぎながら考えていた作戦を決行。わかったよ、と一言いって携帯を操作するとカバンに入れたスマホがなり出した。取り出してみると『タック』と書いてある。アダ名で登録してる俺グッジョブ!取り敢えず授業が始まるので礼だけいって筆記用具を取り出した。
といっても授業なんて聞く気はサラサラない。誰が誰かわからないこの環境を少しでも理解するため、そして何より詩音と連絡を取るためにひたすらスマホをいじっていた。タックも突っ伏していびきをかいていたので大丈夫だろう。そのうち出席表が回ってきた。

「滝沢がどこにいるか、だって?」
一限が終わったタイミングで俺はタックと学食に向かった。その日の授業の残りは昼食後だ。
「そう。最近あいつと連絡とってないならどうなったか知ってるかなぁ、と思って。」
食べ慣れていないカレー定食を前に畳み掛ける。一か八かの賭けだ。しかし残り3日しかない時間を惜しんでいる暇はない。
「・・・ふふっ」
ラーメンライスセットを食べる箸を止めてわずかに口元を緩めるので、不安になった。
「なんか変か?」
ボロが出るかもしれないが、ここは引き下がれない。
「いやいやいや。ただお前から久しぶりにあいつについて聞いたからな。」
再びラーメンをズルズルとすする。きちんと飲み込んでから話しはじめた。
「お前たちが別れてからだから半年前からかな?」
カレーにスプーンがどっぷり落ちた。

タックに根掘り葉掘り聞いた後、結局午後の授業はふけて急いで家に帰ってきた。パソコン・授業ノート・アルバム、朝には見きれなかった部屋中のこの一年間半の思い出を掘り起こす。大学に入学して半年後にはもう、クラスの奴らに俺と詩音の中は知れ渡っていたらしい。一学期、夏休み、二学期と俺たちカップルを含めて何人かの中のいい奴らでキャンプ行ったり旅行に行っている。しかし半年前のある日、ちょうど春季休暇直前あたりでその二人が全く喋らなくなっていた。
「二人とも頑なに俺らに説明してくれなかったろ?だからそれからみんなその話題避けてたんよ。」
タックの言葉を思い出す。その続きの理由の追求をなんとかあしらったが。
別れた原因はわからない。生憎日記をつける習慣もないし、当時のメールも全て削除されていた。わかっているとは、彼女は今早い夏休みを取って実家に帰省中だということだけ。
「あぁ~も!や~めた!!!」
八方塞がりのこの状況では何もできない。そう諦めて外を見るともう日がくれかかっていた。
「・・・俺、何のためにこんなことしてんだよ、全く。」
そうぼやきながら部屋の片付けを始めた。

当たり前っちゃ当たり前だが、俺がここにいること以外に世の中何も変わっちゃいない。見慣れない土地とはいえ、近くにスーパーもコンビニも本屋もガソリンスタンドもあるし、ラインナップも値段も何も変わらない。だからまるで旅行でも来ているつもりでコンビニで晩飯を買う。昨日の夜と同じカップラーメンとおにぎりを買って、見慣れない道を歩く。
残り二日間どうするか~。せっかくだから大学の授業真面目に受けるか?それともどっか行くか?っていうかこっちで犯罪犯しても、向こうの世界に帰れるのか?こっちで借金して豪遊しても向こうに影響ないのか?
そんなこと考えていると、公園が目に入る。昨日とは違う公園。でも見上げる空は相変わらず綺麗だった。
「・・・ふん、三日坊主―いや、一日坊主か。」
決めたはずだ、自分から動くと。
動いたはずだ、この世界に来ようと。
「過去は誰か知らない人に変えてもらった。だから決めたんだ、せめて未来は自分で変えてやると。」
昨日の自分より少しだけ前にいこう。そう思い俺は走り出した。


【二日目】
「なんやあんた~、帰ってくるなら連絡してよ。」
季節外れのコタツに入り込み、季節外れのミカンを放り込む。
「いやぁ~授業がなくなったからたまにはね。」
台所からお茶と菓子を持ってきたお母さんが目の前に座る。
「今日はお父さん帰るの遅いってよ。晩御飯どうする?」
「う~ん、わかんない。どっかで食べて来るかもだし、今日中に帰るかも。」
こっちの世界でもお母さんは変わっていない。まぁ向こうと違い下宿先が近いからちょくちょく顔出ししてるんだろう。
「あぁそういえば、詩音ちゃんも帰ってきてるっておばさん言ってたよ。」
やっぱりタックの情報通り、詩音は帰省中のようだ。
「そっか、じゃあちょっと会ってくるわ。」
残りのミカンを頬張りそそくさと立ち上がる。お母さんも玄関まで着いてくる。
「いってらっしゃい、がんばってきなね。」
送り出すその笑顔は全てを悟ったような顔だった。

「『三つ、新しい世界でこれらの事実を伝えられる人間は一人だけ。それを破ればペナルティを与えます。』、つまり伝えなければいいのか。」
スマホの画面の文字を口ずさむ。なぜだかわからないけど、お母さんに気づかれてしまったかもしれない。が、伝えたわけではないからペナルティにはならないだろう。
そんなことを考えながら昔歩いた詩音家への道を辿る。何度歩いたかわからない道だが、少しでも気が緩めば逃げ出してしまうかもしれない。
もしかしたら昔からそうだったのかもしれない。自分が傷つくのが嫌で誰かを犠牲にして、誰かに嫌われるのが嫌で自分で背負い込んで。そうやって大事なことから逃げてきた。
『未来を自分で変える』
そんなこっぱずかしい言葉を何度も何度も口ずさむ。そうしないとまた逃げてしまうから。また楽な方に流れてしまうから。
「・・・ついた。」
見慣れた道の右側に塀を割って黒い門が構えられている。普通の大きさの普通の二階建ての家。だけどいつもここに来る時はドキドキしていた。今も理由は少し違うが。
ピンポーン
チャイムを鳴らすとすぐさま、はい、という返事がスピーカーから聞こえた。
「お久しぶりです、土門です。」
ガチャっと開いたドアを見ると、そこには彼女―ではなくおばさんがにっこり出迎えてくれた。

「悠里くん久しぶりね。大学順調?」
はい、と返事をして出された緑茶を一啜り。リビングに通されて勧められるがままにお茶をもらっている。
「詩音ちゃんね、今ちょっと出かけてるの。すぐ帰ると思うけ―」
ガチャ
ただいまぁー。聞き覚えのある声が玄関から聞こえた。おばさんが玄関に迎えに行こうと立ち上がるとほぼ同時に、廊下のドアが開く。
久しぶりにあった彼女はやっぱり変わっていた。見た目も性格も手に持ったカバンの趣味も、まるで会って二回目のような感覚だった。
「久しぶり。」
敬語とも取れる言葉を選べた自分を少しだけ褒めたかった。

「何々?どうしたのいきなり?」
前より少し派手になった彼女の部屋で、あっけらかんと話している目の前の彼女に困惑する。
「いや、久しぶりにお前に会いたいと思ってね。」
やっと口から出た言葉だったが、それを聞いた彼女の顔が少し曇る。でもすぐに明るくなった。
「うれしぃ~。最近全然話してなかったもんね。」
最近どころかこっちは一年ぶりだよ、と言いたい気持ちを押さえ込んだ。彼女は見慣れないカバンの中身を整理し始める。
こっちでの半年に一体何があったのか?俺と別れた後何があったのか?そもそもなんで別れたのか?
そんな言葉が出かけてまた無理やり消していった。全部何を聞いてもボロが出る。だから昨日言うと決めた言葉を丁寧に発する。
「やり直さないか?」
彼女の手が止まる。こっちを向く顔は悲しみも苦痛も困惑も怒りも、何でもかんでもしっちゃかめっちゃかな顔だった。
「なんで?今更?」
でもその言葉はどんな感情かわかってしまった。


【三日目】
時計は4時を指している。でもカーテンの向こうは明るい。ってことは今夕方の4時か・・・
「!!!よじ!?」
ばっと起き上がり携帯を開く。16:24。
やっちまった、盛大に。しかも頭が痛い。ガンガンする。どうやら昨日の夜飲みすぎたようだ。
「水水水」
ベットから抜け出そうとした時、全裸の自分と布団の中の違和感を感じた。嘘だろおい。意味なんてないがそーっと布団を覗き込む。見知らぬ女が全裸で寝ていた。

昨日の詩音との会話はほとんど覚えていない。だけど最後のセリフは覚えている。
「違う大学になってればなぁ。」
どないせいっちゅうねん。もうそっからは自暴自棄だ。とりあえずお母さんに実家に帰らないとメールして、なんとかこっちの家に戻ってきた。でも何もする気にもならなくて、近くの飲み屋街に出かけた・・・はずだ。
「いやぁ~、ご飯まで奢ってもらって悪いなぁ~。」
テーブルには急いで買ってきた弁当が二つ、そして髪の短い、こっちの俺のジャージを着た関西弁の女の子と意気消沈の俺が座っていた。つい一時間前まで二人が寝ていたベットのサイドデッキにはティッシュの束と緑色の細長い箱。あれって・・・それじゃないよね?
「悠里くん激しすぎやわぁ~。」
それだったらしい。っていうかなんだこの女、心でも読めるのか?俺は目の前の女の子をまじまじと見る。
綾瀬麻美(あやせあさみ)、こっちの家の近くの歯科系短大に属しているらしい。単発・ボーイッシュ・関西弁で弁当の食べ方もあぐらをかいて肩肘をついている、つまり要約すると下品。自分が今まで好きだと思っていた人物の真裏を行きやがった。やっぱりお酒って怖いのね。
「それにしてもうちナンパなんてされたん初めてやったわ。」
俺も初めてだったよナンパ、覚えてないけど。俺も弁当のご飯を掻き込む。
「しかも斬新やったね~。『自分は違う世界から来た』とか~。」
ブフォ!ゲホゲホ!!!
「大丈夫?ほらお茶のみな。」
差し出されたのは彼女の飲みかけのお茶だったが、慌てて飲み込む。そんなことより今なんて言った!?
「ゴホッゴホ・・・、い、今なんて?」
箸を咥えたまま首をかしげる。あぁ~もう何から何まで下品に見える。
「ホンマなにも覚えとらんの?昨日飲み屋で散々言うとったで、自分が別の世界から来たけど元カノに振られてやけ酒やって。」
・・・マジかよ・・・あれって最後の切り札とかじゃないのか?詩音にそのこと伝えきれなかったし、もう一回今日話をしたかったのに・・・なんでよりによって・・・
「キャハハハハ!初めて見たわ、リアルorz!!!」
やばい・・・泣けてきた。

落ち込んで思考停止している俺を無視したりいじったりして彼女は食後のまったり時間をうちで繰り広げていた。そんな彼女を家に送ることになった。というか無理やり連れ出された。外はすっかり暗くなっている。
「ねえねえ、あっこよってこうよ~。」
ちょうどこっちに来た日に見つけた公園を指差す。もうあと数時間したらメールが来て、明日には元の世界に戻るかこっちの世界に残るかどっちかだ。やることは何もない。
ブランコ~と叫びながら走っていくジャージ姿の彼女。立ちこぎをし始める。渋々俺も隣りのブランコに座る。
しばらく揺れながらたわいのない話をしていた、いや聞いていた。学校のことテレビのこと最近よんだ小説のこと。不意にブランコをとめて俺を見る。
「ねぇねぇ、悠里くん。いつまで落ち込んでるん?」
もう詩音のことも麻美のことも落ち込んではいない。でもこの三日間、何をしてきたのかという気持ちになった。そしてこっちの世界に来て初めて、その気持ちが言葉に出てしまっていた。
「・・・俺はさ、今までの自分って好きじゃなかったのよ。」
黙って聞いてくれている麻美の顔の後ろには相変わらず星が光っている。俺はブランコを漕ぎ出した。
「多分頑張って何かにすがる自分がかっこ悪かったんだろうね。ずっと誰かに影響されてきたんだ。」
正義の味方になりたいと思ったのはテレビの影響。サッカーをやり始めたのは周りの影響。彼女と付き合い始めたのは彼女の影響。大学を目指したのも彼女の影響。川品大学を受けたのは予備校の先生の影響。
「だけど初めて変わるきっかけが出てきた。だから思ったんだ。今までは変えられないけど、これからは変えられるんじゃないかって。」
でも変わらなかった。せっかくメールを受け取って過去を変えても、何も変えられなかった。
「だから分かんなくなっちゃってさぁ~。ごめんね、こんなわけのわからない話。」
ブランコをとめて彼女を見た。難しそうな顔をしている。その横顔は悪くないと思えた。
「うち・・・思うんやけど・・・。」
大きな目を開いて俺を見る彼女は、なんだか可愛く見えた。
「だれも未来なんて変えられないと思うんよ。」

立ちこぎでブランコを漕ぎ始める。
「過去を変えられるんなら、そいつはきっとタイムトラベラーや。じゃあ未来を変えられるんなら?それはきっと神様だけや。」
あぁそうか、なんで彼女をナンパしたのか。
「うちら人間は未来なんて変えられへん。だって何かをやった先が未来やもん。」
自分とは違う存在だからなんとなく惹かれたんだ。
「だからうちらはなんもでけへん。でも同時になんでもできんねん。何やっても間違いじゃないねん。」
そう言ってブランコの勢いのまま飛んでいった彼女をただただ見つめていた。
「悠里くんの今までもこれからも間違いじゃないよ。だから胸張ってこれからも悩み続ければええんちゃう?」
俺も勢いをつけて、そして彼女の隣に飛んだ。メールの着信音が鳴った。


【エピローグ】
俺は記憶を頼りに昨日来た道を歩いていた。昨日より寒いので、さっき買った缶コーヒーを両手で転がしていた。公園の入口が見えてくる。確信があったわけじゃない。ただなんとなくここに居たら、
「うんしょ、うりゃ。」
ブランコを扱ぐ彼女は昨日と違い上下スウェットだ。声をかけないまま隣のブランコに座る。
「ねぇ、俺が違う世界から来たって言ったら信じる?」
公園に唯一ある街灯が照らすのは相変わらず子供っぽい笑顔だった。

Parallel Mail【24】

読んでいただきありがとうございます。
根っからの関東人のため、自分なりの関西弁に違和感をもつ方がいたら申し訳ありません。
精進します(汗

このシリーズも時々続けていきたいと思います。
一人でも心待ちにしていただける方がいたら幸いです。

Parallel Mail【24】

「もし」を叶えれるParallel Mailを受け取った主人公が悪戦苦闘する三日間。 ※題名横の数字は話数ではありません。一話完結なので気軽に見てください。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-08

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