おしっこ王子とうんこ大王(6)

六 おなら姉妹

「大王。なんとか、無事に、消化活動は終わりました」
 大王の元に、次々と家来たちが、それぞれの持ち場の状況を報告にくる。
「大王、スープも完全に吸収しました」
 王子もやってきた。
「皆のども、お疲れさまじゃ。今日、一日、無事にすんだ、本当に、ありがとう。また、明日に備えて、ゆっくりと休んでくれ」
「大王、まだ、今日の仕事は終わっていません。一時間後ぐらいに、デザートタイムがありますよ」
 王子がすかさず、進言した。
「そうだったな、王子。でも、今日は、二杯もごはんをお代わりしたし、ステーキのボリュームもすごかったぞ。明日の朝まで、主が何かを食べることはないだろう」
「ですが、主は、お菓子は別腹だと、よく言っていると、耳から聞いています。万が一に備えて、私が見張りをしておきます」
「そうじゃなあ、王子。腹はひとつしかないのに、ふたつあるなんて、どういう発想なのか、わしらにはわからん。別の腹を体の外側にでもぶら下げているつもりなのか。まあ、それはいい。それじゃあ、王子。見張りを頼む。それ以外の者は、持ち場は離れずに、休憩タイムだ」
 家来たちは、座って談笑したり、眼をつぶり仮眠したりするなど、様々だ。本格的な熟睡には、まだ、少し早い。
「何もなければ、いいけれど」
 おしっこ王子は、食べ物が流れてくる遠いトンネルの先を眺めた。
「あれ、おかしいぞ」
 王子は、工場内が急に膨張し始めたことに気がついた。お腹が膨らんでいるのだ。
「体中が壁に押し付けられる」
 他の家来たちも異常に気が付き立ち上がった。家来たちの前には、巨大なバルーンの形をした怪物が現れた。
「おーほっほっほほ」
「ひーほっほっほほ」
 怪物は二体だ。異変に気がついた大王も駆けつけてきた。
「おまえたちは、おなら姉妹だな。何故、ここにいる。しまった。消化活動の際、十分にガス抜きができなかったせいだな。くそっ」
大王は、腕組みをしたまま、彼女たちを睨みつけた。体をぷりぷり、ぷりぷりに膨らませたおなら姉妹は、にやにや、にやにや笑ったまま、大王たちを見下している。
「ここから出ていけ」
 うんこ大王の家来たちが、シャベルやのこぎりを持ったまま、姉妹に飛びかかった。だが、相手は気体。体を通り過ぎるだけだ。何のダメージも与えられない。
「あたしたち相手に、そんなことしても無駄よ。おーほっほっほ。食後の運動のつもりなの。せいぜい、走り回るがいいわ。おーほつほっほ」
 姉が、お腹をより一層膨らませて笑う。風船爆弾の一歩手前だ。
「姉さん、あたしに任せて。こいつらなんて、ひとひねりよ。ひーほっほっほほ」
 妹が、突撃してきた家来たちをガスで取り囲んだ。
「くさい、くさい」
 一団は、あまりの臭さに気を失い、妹の足元に倒れてしまった。その様子を見ていた他の家来たちは、姉妹を恐れ、二歩、三歩と後ずさりする。
「どう、あたしたちおなら姉妹の恐ろしさを知った。おーほっほっほ。」
「このまま、この工場をガスで爆発させてあげるわ。ひーほっほっほほ」
 そんなことされたら、自分たちだけが吹っ飛ぶのではなく、主のお腹も裂けてしまう。
「そんなことはさせないぞ」
 おしっこ王子が、いつもは液体の栄養素を吸収するホースを取り出した。
「お前たちを工場だけでなく、体の外に追い出してやる。みんな続け」
「おー」
 おしっこ軍団が、各自のホースでおなら姉妹を吸収しようとした。
「おーほっほっほ。そんなもので何ができると言うの。あたしたちの攻撃を受けてみなさい」
 姉妹が、おしっこ王子の家来を取り囲んだ。くさい、くさい攻撃だ。だが、家来たちは、液体となって、ガスの包囲網から抜け出し、相手の後ろに回る。そして、すぐさまホースを手に取り、姉妹を吸収しようとする。
「ひーほっほっほほ。なかなかやるわね」
 もう一度、姉妹は家来たちガスで包もうとした。再び、液体となって逃れ、反対に吸収しようとする家来たち。その攻防が何度か繰り返される。
「さっさと降参しなさい」
「子どもの鬼ごっこはもうお終いよ」
 姉妹の口調は強気だが、さっきまでの、ほっほっほの高らかな笑い声がない。
「敵は、疲れてきているぞ。いまだ」
 おなら姉妹の妹の後ろに回った家来の一人が、ホースのボタンを押した。
「ブウォウォーン、ブウォウォーン」
 最大限の出力を上げたホースは、唸り声をあげて、目の前の気体を吸い込み始めた。
「ひいひい。お、おねえさま。た、助けて」
 妹が、お尻から、体、頭と順々に吸い込まれていく。
「待っていて、可愛い妹よ。今すぐに助けてあげるわ」
 姉は、怒りに満ちた形相で、妹を吸い込んだ家来を毒ガスで攻撃しようとした。だが、体が前に進まない。後ろを振り向く。そこには、おしっこ王子の姿が。王子は、自分のホースで姉のお尻を吸いこもうとしていた。
「な、な、何をするの。やめなさい」
「やめるのは、お前たちの方だ」
「おねえさま、ひゃーあああん」
「いもうとよ、ひゃーあああん」
 妹同様、姉もそのまま吸い込まれて、工場の外に、老廃物として追い出された。
「よくやったぞ。王子」
 うんこ大王は、おしっこ王子を抱きしめる。
「いいえ、みんなのおかげです」
「えいえい、おー」
 いつもよりも、「おー」に「えいえい」が付き、力強く勝鬨を上げる家来たちだった。

「なんだか、お腹が張って来たぞ。やっぱり、食べすぎかな」
 僕は、机に向い、明日の学校の宿題をしていたが、慌ててトイレに駆け込んだ。ズボンを下ろす間もなく、お尻からは、「ぶう」という音がした。続いて、再び、「ぶう」。計二回。おならだ。おならの二弾発射だ。自分のおならでも、やっぱり臭い。急いで、トイレの窓を開ける。
「ふう」
 これは、僕の溜息。おならじゃない。お腹を撫でる。先ほどまでの突っ張った感じはしない。
「さあ、勉強、勉強」
 僕は、安心して、机に向かった。

おしっこ王子とうんこ大王(6)

おしっこ王子とうんこ大王(6)

六 おなら姉妹

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-08

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