out of memory
この作品を読んだことで、
何かが変わることはないけれど
少しでも感動を感じて頂ければ嬉しいです
夕日、丘の上
その日俺たちは、夕日が照らす丘の上にいた。
俺は自転車を傍らに持ち、ひよりはスクバを肩からかけ、黙っていた。
どんな話題を持ちかければいいか分からなくて、俺は思わず下をむく。
すると、俺が下をむくのを待っていたかのように、ブワッと物凄い風が吹いた。
ひよりが飛ばされていないか見る。
ひよりも心配そうにこっちを見ていた。
「あ…」
何か話題が見つかりそうになったので、口を開けたら、ひよりの目線が鋭い威圧感を漂わせ、俺は口をつぐんだ。
駄目だ。俺は昔からこんなんだ。
泣きたい衝動に駆られ、上をむく。
「…一緒に歩いてあげるよ」
ふいにひよりが口にしたその発言。
俺はチラリとひよりを見た。
ひよりの細くて白い手が、俺の左手伸びてくる。
「秋人…」
パシンッ。
俺の手はいつの間にか、ひよりの手を振り払っていた。
ひよりの顔は「何で?」と言っていた。
「うるさいな…!」
俺は自転車のサドルにまたがると、一回も振り返らず坂をかけ降りた。
ここじゃないどこか
俺の体はやけに軽かった。
まるで浮いているかのように。
俺はうっすら目を開けて、横たわっていたところから急いでガバッと起き上がる。
汗をひどくかいていた。
「どこだよ、ここ……」
立ち上がってあたりを見回すと、真っ黒で、所々に返り血のようなものがついている。
洞窟の奥にいたのか、向こうに何がいるのか検討もつかない。
俺はズキズキと痛む頭を押さえ考える。
俺は今日ひよりと丘の上で別れてから、まっすぐ家に帰…ろうとしたんだ。
なのに、交差点で信号待ちしていたところから記憶がない。
確か、トラックが赤になったから止まって、俺は歩行者信号が青になったから歩いた…。
そこから何があったんだ?
成績の平均10段階で4の頭で考えていると、洞窟の向こうから、ヒタ…ヒタ…と足音が聞こえた。
そっちの方向を見ると、何か黒いものが歩いてくるのが分かった。
out of memory