脱皮

脱皮



 大学卒業後、彼女ができた。

彼女はとても美しい女性だ。鼻筋がすごく整っており、スラリとしている。日本人にしては珍しい女性だなと思った。凛としている姿はすごく魅力的だった。だが、初めて彼女を見た時、言葉では表せないような【なにか】を感じた。【なにか】に疑問を抱きながらも、次第に彼女に惹かれていった。そして、晴れて恋人になったのだが彼女が僕の告白に応じてくれたのは僕自身、いわゆるイケメンの部類に入る顔だった、という理由があったかもしれない。

彼女と付き合ってからしばらくした後、彼女の家に行った。彼女の家は清潔感を感じるすっきりした家だった。しかし、同時に僕は違和感を感じた。違和感の原因は、家族などと一緒に撮った写真がなかったことだった。僕は会話の中で彼女の卒業アルバムを見たいと言った。きっと、今と変わらずとても美しかったのだろう。しかし、彼女の返事は、
「地味だったから嫌かな……」だった。

それからしばらく経った後でも、彼女は昔の写真を見たいという僕の言葉を異様なほど拒んだ。嫌がるにしても不自然だった。もしや、と思った。


結論から言うと、彼女は整形していた。彼女の昔の写真を見た時、何も言えなくなった僕の顔を見た彼女の顔は青ざめていた。
 

私は大学卒業後、整形した。自分を変えたかった。整形してからしばらくして年下のカッコイイ彼氏ができた。私のことを魅力的だと言った。嬉しかった。しかし、同時に以前の自分では考えられないような経験をしたということもあり悲しくなった。ある日、彼に昔の写真を見たいと言われた。見せれるわけがない。彼が私の家に来る日に家にあった忌々しい自分の写真をすべてビリビリに破り捨てた。彼は私の昔の写真を異様に見たがっていた。そしてある日、家に来た彼はさりげない口調で「どうしてそんなに拒むんだ。整形でもしたのかい?」と聞いてきた。ドキッとした。もし彼が私の昔の顔を知ってしまったらどうなるのだろうか。失望される?受け入れてくれる?彼は「まあ、どんな君でも大好きだけどね」とほほ笑んでくれた。その一言で、単純な私は彼に真実を告げようと思った。彼なら昔の私も今の私も受け入れてくれるだろう。真実を告げた。彼は目を見開いて驚いていた。沈黙。あぁ、言わなければよかった。誰も私を受け入れてくれないのか。結局整形は偏見の眼差しから逃れることができないのか。そう絶望を感じていた時、彼は携帯を取り出し、笑顔で私にある画像を見せながら言った

「              」
私は何も言えなくなった。


僕たちが付き合って3年が経った。彼女が僕に整形したという事実を教えてくれたあの日、僕も彼女に隠していた事実を彼女に話した。

蛇は脱皮する。脱皮と言ったら、それまでの纏っていた体表とおさらばする、という意味が主だ。だが僕が言いたいのは「脱皮」という行為の理由だ。大学生時代に聞いた講義で蛇の脱皮についての神話について聞いたことがある。「年老いて弱ってきたら、皮を脱ぎ若返っていつまでも死なずに生き続けられるということを知った蛇は脱皮をし始め若いままで長生きした」という話だった。要するに、「脱皮によって生まれ変わった」ということだ。これはまさに僕たちのことではないのか。あの時のことを思い出していると口元が自然と吊り上がった。

僕たちはお似合いのカップルであると思う。脱皮カップル。そう、僕も高校卒業後に整形していた。僕の昔の写真を見た彼女は、僕の豹変ぶりに動揺を隠せないでいた。僕は、整形によって新しい自分に出会えた。すれ違いざまに僕のことを指さして笑う人はいなくなった。高揚感を感じた。自信を持つことができた。新しい自分と昔の自分は表裏一体であると思う。初めて彼女に会ったときに感じた【なにか】がなんとなく分かった気がする。僕と彼女は生まれ変わることを望んで「脱皮」した同族だったのだ。


僕に向かって笑う彼女の顔に写真で見た昔の彼女の顔を重ねた。
彼女の瞳を奥では、自分も昔の自分の顔と重ねられているのだろうか。
まぁ、そんなことどうでもいいか

脱皮

モンスターという小説を読んで思いつきました。

脱皮

批判・中傷受け付けません。 短編です。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted