自傷
正しい事をすれば頭を撫でてもらえたけれど
間違ったことをしたら顔が腫れあがるまで殴られた
その不満は、広大な大地に雪が積もるように
じっくりと時間をかけて僕の心を濁った色に染めていった
その不満はとても歪なものに姿を変えて
気が付けば僕は自分の指を一本切り落としていた
「あれ?」と声に出すより先に、僕はその指を一口かじった
鉄の味と、ぐにゅりとした嫌な弾力が口内に広がる
咀嚼する度に鉄の味と弾力は強さを増し、喉に通す頃には得も言われぬものになっていた
それから僕は毎日、自分を傷つけた
叱られる度に、太い血管が通っていない場所をカッターで切り、血を舐め
「あぁ、自分は生きているんだ」と思って嬉しくなった
そして毎日、親に殴られるように計画をした
テストの点数を、いつもより10点低く取るようにしたり
わざと制服を汚したりして、わざと殴られるように仕向けた
殴られる度に走る痛みが、気持ち良かった
そんなある日、ニュースで見た殺人事件
交際相手をバラバラにした女の人は言っていた「人を解剖したかった」
それを聞いたとき、僕は不思議でならなかった
「そんな事を言うなら、自分の体を解剖すればよかったのに」
僕はまた手の甲を切って血を舐めた
「床が汚れた」と言って怒った母に、掃除機で殴られた
今日もきちんと生きているんだと安心して、僕はゆっくり目を閉じた
自傷