リクエスト

部屋の中に紐をくくり付ける所なんてないから
鴨居の上の壁にハンマーと彫刻刀で穴を開けた。
長押があれば、もっと安心して踏み込めるのだけど
安アパートにはそんなものは付けられてない。
いやしかし、この程度の重さで折れる訳がない、と思い直した。
壁は思っていた以上に硬くて、彫刻刀を持つ手がしびれた。

考えてみたら、何か目的を持って全力で行動するなんて
10年振り位の事だった。
やろうと思えばできる、という言葉が頭に浮かんだけど
一瞬で消えていった。
そんな言葉もう意味なんてない。

日曜日の10時48分。
部屋の窓には分厚いカーテンを下ろし
電気も付けていなかった。

ずいぶん前に買っておいたロープを、できたての穴に通した。
輪っかの大きさを決めるのに、ちょっと時間がかかった。

もうすぐ、その時が来る。
悲しくはない。悔しくもない。寂しいとも思わない。
むしろ何の感情もない。
ただ、命を欲しがる人々にこの身を分けてあげる手段を選ばなかった事を
すこし後悔した。


ポロン。
床にうつ伏せで転がっていた携帯が鳴った。
踏み台から降りて、それを手に取りひっくり返した。
画面に小さくメッセージが表示されていた。

「猫野らび@rabbityeeeさん​からフォローリクエス​トが届いています。」

六畳一間の薄暗い部屋で、その文字だけが光っていた。
Twitterアカウントのフォロワー数は、たしか17。
人差し指で触れると、18へと変わっていた。

画面のバックライトが消えて、また暗くなった部屋の真ん中で
しゃがみこんだまま、しばらく輪っかを眺めていた。

おなかが空いてきた。
そういえば昨日の夜から何も食べていなかった。
立ち上がり、重いカーテンを払いのけ、窓を開いた。

入り込む軽い風に目を細めたのも束の間。
大変な問題を思い出して頭を抱えた。
ふと、目線の先にセブンイレブンの看板が映った。
大家さんへの謝罪は、アメリカンドックを食べた後にしようと思った。

リクエスト

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-05

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND