おいわい

特にありません。

おいわい

 男と目が合う。

 どうして。あたしはずっと、ここにはいなかったのに。

 その目は真っ赤に充血して、血走って、二倍くらいにふくらんでいた。

 たった一度、たった一度だけなのに。

 アスファルトが紫色にゆがんで、波打って、それでも男は立っている。

 (だからそれは、あなたのことを、ずっと見つめている、ということ)

 ハンマーを打ち下ろして、固定しようとする。つよくつよく、打ってのばせば。

 ねえ、だから、ドアはいつまでも、開かれていたから。

 次の扉に押しのけられて、それは最後に、あなたをのろうために。湿ったくちびるの端から、だからあのとき食べておいたのに、と言わんばかりに。

 弱っていくのを見ているだけでいい、だってそれがいちばんの罰なんだから。だってそれがいちばんの罰なんだから。

 口ずさみながら、すこし楽しくなって、光の反射から目をそらした。

 探すのはやめよう。だって悲しくなるだけだから、だって悲しくなる、だけなんだから。

 ポールのまわりを、ぐるぐる回って、ビニール袋の中身を見たら?

 赤いポスト、黒いナイロンのジャンパー、おじさんの目玉、青紫色の、たくましい骨、そのほかのお肉。

 わたしは喜びで、おかしくなって、げえげえ、げえげえ、と、あたりを汚しながら、伝えにいく、伝えにいく。

 わたしの大好きな人、もういいの、わたしの大好きな人、もういいの。

 だから二人でお祝いしましょう、今日も明日も明後日も、すてきな歌を、歌ってあげるから。

おいわい

特にありません。

おいわい

特にありません。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted