九尾の孫【勇の章】 (3)

九尾の孫【絆の章】(2) の続編です。
主人公 中司優介と相馬優子、彼らが友と言う妖達と共に
9本の尾を持つ金色の狐、玉藻御前の孫 玉賽破との戦いに挑む。

九尾の孫 【勇の章】です。

移動

玉賽破(ぎょくざいぱ)の野望を挫く為に結成された優介達の部隊は、それぞれに別れて行動する。

A班は、ヘリUH-60Jに乗る為に第6高射群第22高射隊の空き地から一気に海上自衛隊大湊に向かいそのまま湯野川温泉に向かう。第1次総合指揮系統になる。
B班は、ヘリCH-47Jで先発隊を乗せ、海上自衛隊大湊に向かい火器弾薬を積みふれあい温泉川内に向かう。
C班は、蟹田港からフェリーで脇野沢、338号線を東へ進み、海上自衛隊大湊で食糧他を積んだトラック数台と合流し、ふれあい温泉川内に向かう。CH-47Jが到着した時点で戦闘開始になる。
D班は、青森港からフェリーで脇野沢、338号線を北上し、253号線へ進みかわうち湖を回って仏ケ浦と天ケ森の側面を狙う。
E班は、陸地を回り込む 4号線から279号線で大崎、大間をグルリと回って338号線へ出て敵の背後を取るチームと46号線で三森山から側面を狙うチームに分かれる。彼らは、すでに昨日、出発している。最も移動距離の長いチームになる為、熟練した戦闘員が用意された。

総合指揮班(A)には、中司優介(なかつかさ ゆうすけ)、相馬優子、白雲、凍次郎、魏嬢(ぎじょう)、胤景(いんけい)、斯眼(しがん)が居た。白雲、凍次郎は、その妖力で瞬時に前線に移動出来る。彼らと一緒であれば同様に連れて行って貰える。4名が出ると胤景が最終指揮を執る事になる。全ては、最後の玉賽破(ぎょくざいぱ)との戦いに備えての配置だった。

前線の遊撃部隊(B)は、権現狸、槃蔵、白隙、来牙と五鬼継、五鬼助の精鋭各5名、一緒に九州まで行った胤景、鐸閃(たくせん)が率いていた特殊特別突撃部隊の面々だ。権現狸と槃蔵の合わせ技、白隙の炎撃と来牙の凍撃、特殊訓練を経て実力は、折り紙付の特殊特別突撃部隊が決めてとなる。白禅の部下10名が後衛を務め、五鬼継一族と五鬼助一族、16名が側面から攻撃し、合流する。

後方作戦部隊(C)は、仏ケ浦を牽制、制圧しながら退路を断ち、時間差で鐸閃らのチームと合流する。
この部隊は、凍次郎の部下で北渡が率いる13名

側面の搖動部隊(E)は、胤景、鐸閃の部下17名、内、10名が三森山から側面を狙う部隊に別れる。その隊長を務めるのは、鐸閃の右腕、鵬辰(ほうたつ)が受け持つ。敵の背面を狙い7名の部隊長は、鐸閃が務め、後方支援部隊を時間差で支援する。

五鬼継(ごきつぐ)一族と五鬼助(ごきじょ)一族を剣岳からかわうち湖に運ぶのにCH-47Jが3機必要になったので時間差を考慮し、46号線家ノ辺とかわうちダムの丁度、中間の三叉路のかわうちダム寄りに約450mの直線があるのでそこへC-1輸送機2機によるジープ3台、重火器類、太郎丸以下五鬼継一族16名を空中投下をする事にした。残りの五鬼助一族は、10名。それを率いるのは、蔵王丸。蔵王丸は、剣岳から地蔵山に向かい地蔵菩薩に事の詳細を話し、玉賽破(ぎょくざいぱ)の分身を捜索する許可を得る事が、急務となる。

作戦連絡等の通信手段は、【葉書き】を使用する為、各部隊には、2名づつの白禅、凍次郎の非戦闘員が同行する。通常の無線を使用した場合、電磁波や、妖の能力により阻害される危険性がある為である。

遂に全面衝突に突入する。
玉賽破に賛同する妖、天ケ森と仏ケ浦に集まっている物の毛の能力、種別が、全く解らない状況は、変わらない。白雲と胤景はそれを懸念しているが、今更、何を言っても間に合わない。
作戦は、開始された。
奇襲が全てを決する。
各部隊の移動が開始された。
日頃は、閑静な高山稲荷神社がざわめく、移動が開始する。
車が、人が走り出した。
優介、優子、白雲、凍次郎、魏嬢、斯眼が胤景の運転するハマーH2に同乗した。
行先は、約8Km先の第6高射群第22高射隊だ。
UH-60J、2機に3名づつ乗る。約30分もすれば、目的地の湯野川温泉に到着する。
第6高射群第22高射隊に到着すると太郎丸、蔵王丸とその部下が、CH-47Jに乗り込む所だった。
大きな船体に2つのローターが、頼もしく回っている。
辺りに激しい風と轟音が巻き起こっている。
優介が、手を挙げると太郎丸、蔵王丸も手を挙げた。
優子が飛び跳ねながら手を振る、がんばってと叫ぶが、届かない。
太郎丸、蔵王丸とその部下達が手を振り機体に吸い込まれて行った。
優介達もUH-60Jに乗りこむ。
風が下から舞い上がる中、腰を落として近づいて行く。
優介、優子、魏嬢が乗り込み、ヘッドフォンをする。
斯眼は、端で蹲(うずくま)る
乗務員が「グッドラック」と言いドアを閉める。
機体は、ローターの音が、大きくなり、舞い上がる。
隣では、白雲、凍次郎、胤景が乗船した機体が斜め下に見える。
優介が後ろ向きにのり、優子と魏嬢が、腕を絡めながら後ろのボードに体を寄せている。
機内は、凄い音と振動だ。
優介は、心がワクワクするのを抑えられない。
横の窓から平舘海峡が見えている。
(まさか俺達が乗っているのを知られていないよな)と優介が呟く。
今、最も恐れる事は、作戦がばれる事だ。
平舘海峡のあの向こうに奴がいる。
緊張が、音と振動を消して呉れる。操縦士からヘッドフォンに声が届いた。
「まもなく作戦通り、海上自衛隊大湊上空になります。ここから現地までは、高度をかなり落として山沿いを飛びますが、見た目以上に高度は、保ちますので御安心下さい」
「はい」と短く答える3人。
機体が傾く、旋回して行く、高度が落ちる。
優子と魏嬢の叫ぶ声が聞こえた。
優介が窓を見る。
山が横にある。木が見える。
体中の筋肉が萎縮する、気持ちと体の反応が、全く異なった。
機体の上部が、上がる。
UH-60Jは、前傾を保ち、高速で飛行していたのだ。
ゆっくりとホバーリングしながら高度が下がって行く。
下から突き上げる衝撃が体を突き抜ける
ドアが開く
「到着しました。御疲れ様でした」声がした。
ヘッドフォンを外して立とうとする、膝が笑う。
ガクガクしながら手を伸ばす。
下から伸ばされた手がしっかりと腕を掴む、安心が体を解して行った。
手が、足が動く。ありがたい 優介は、思った、(これが仲間の力)なんだと。
(たったこれだけの事なのに今更思い知る。其処に何の見返りも求めない行動)
地面に立ち、優子に手を貸そうと手を伸ばす、乗務員と2人で順番に残る2人を降ろして行く。
斯眼は、勝手に走り去って行く。
手を貸して呉れた乗務員が、先導しながら3人をUH-60Jから離して行く。
操縦士がエンジンを切る
ローターの動きが緩やかになって行き、やがて止まった。
「凄かったよね」優子が言うと魏嬢が、「帰りもあれに乗るのか」ウンザリした顔で囁く。
「着陸した時、膝が笑って立てなかったよ」優介が照れながら言うと
「初乗船であれなら大丈夫ですよ。操縦士も戦闘中を意識して救助用の操縦していませんでしたから」
笑いながら優介達を降ろした乗務員が言ってくれた。
3人が「ありがとう」と素直に握手を求め、降りてこっちに歩いて来る操縦士にも手を挙げて挨拶した。
操縦士も片手を上げた。
3人は、設営されたテントへと入って行った。
魏嬢が手を上に上げると獨雅と賽嬢が駆け寄ってくる。
「優介様、優子様、姫様 御疲れ様でした」と挨拶すると、魏嬢が、
「優子ちゃんも姫って呼ばれてるからね、ややこしいね。あたしは、そうだね、今後、御嬢とでも呼んで貰おうか」と言い、笑うと「はい、解りました、御嬢」と獨雅と賽嬢が言った。
それを見て 優介、優子、魏嬢の3人が笑う。
テントの中に白雲、凍次郎、胤景の3人も入って来た。
胤景は、「状況報告」と大声で叫ぶと一人が走って来て、現状を報告している。
優介、優子、魏嬢、白雲、凍次郎が携帯用長机を向い合せにしてある椅子に其々が腰を掛ける。
斯眼は、机の下にいる。
そのとなりの大きな机で胤景が、報告を聞きながら地図を広げて三角定規と直定規で線と標しを書いている。さすがに軍人と言う貫禄が滲(にじ)み出ていた。
書き終えると胤景が、「兄貴、こちらへ」と優介を呼び、地図を見せながら現況を報告して行く。
「遊撃部隊は、現在、海上自衛隊大湊基地で待機。後方作戦部隊は、全員フェリーで移動中。側面搖動部隊は、279号線を大間を抜け南下中。との事です。斥候からの報告では、奴らは、まだ気づいてはいない様です。取り敢えずは、安心しました。」と言い、明日、朝6時を持って作戦を展開します と言い、一人を呼んで、優介、優子、魏嬢、白雲、凍次郎、斯眼を隣のテントへ案内させる。
テントに入ると其処に夕食の準備が整えられていた。
5人と一匹は、夕食を平らげ、テントを出ると数人が忙しそうに走り回っていた。
「いよいよ戦闘開始だね」優介が言う。
「夢でも見てるみたい。現実離れしすぎてる」優子が言った。

会敵

翌日、作戦開始の日は、雨が降っていた。
胤景が、これは都合が良い。奇襲をかけるには持って来いの日和だな と喜んでいた。
「上手く行くかな」優子が言う。
「罠が無ければ良いが」白雲が呟いた。
胤景が、葉書きを送った。(作戦開始、発進せよ)
海上自衛隊大湊基地から5機のUH-1Jが前線の遊撃部隊を積んで発進する。
後方作戦部隊がトリノ沢を出発する。
側面の搖動部隊の鵬辰(ほうたつ)達は、昨晩の内に三森山から移動し、三森山と天ケ森の中間地点にいた。中間地点を出発する。一方の搖動部隊は、佐井村に潜伏し、後方作戦部隊との時間差攻撃に備える。


太郎丸以下五鬼継一族16名を乗せたCH-47J輸送機が飛び立つ。


5機のUH-1Jがふれあい温泉川内北部の家ノ辺に着陸する。
機体から権現狸、槃蔵、白隙、来牙と五鬼継、五鬼助の精鋭各5名、白禅の部下10名が降り立つ。
テントの増設を白禅の部下10名が行っている間に権現狸、槃蔵、白隙、来牙と五鬼継、五鬼助の10名が253号線から二股に別れた道の右側の道路を駆けて行く。獅子矢沢側から天ケ森への侵入ルートだ。
その後ろをテントを設営した白禅の部下10名が、追う。
遊撃隊が獅子矢沢手前に到達した。川の向こうが天ケ森だ。
天ケ森に散会しながら入って行く。
前方に10匹の妖が横になっている。距離約200m、権現狸、槃蔵の2人が近づいて行く。
距離150、140、120、横になって居た一匹が、こちらを見る。
権現狸、槃蔵が走る。散会した白隙、来牙、特殊突撃隊の隊員達も走る。
距離50mに達した。槃蔵が止まって白歯を抜き出す。歯からチリチリと音が鳴っている。
権現狸は、走る。距離20m。
槃蔵が上段から一気に刀を振り降ろす。
刀身から”く”の字に曲がった電撃波が打ち出された。辺りの木や枝を切り裂き燃やしながら権現狸に向かって飛んで行く。
権現狸が、体を丸めて斜め上に飛び跳ねる。
電撃波が権現狸に当たり、権現狸がそのまま横になっている敵にまっすぐ飛んで行く。
ドォォォーンと物凄い音と稲光と地響きが辺りを包み込んだ。
周囲12~13mに渡って木や地面が抉られた。
奥から音を聞きつけ走って来た妖に今度は、炎の斬撃が散弾の様に襲い掛かる。
横から走って来た妖には、氷の刃がこれも散弾の様に襲い掛かった。
権現狸、槃蔵、白隙、来牙の両端に散会した特殊突撃隊もM4カービンを乱射している。
天ケ森の入口は、阿鼻叫喚の騒ぎになった。
敵の鎌鼬(かまいたち)が、銃弾を掻い潜り特殊突撃隊の一人の手首を切り落とす。
来牙が抜き身の刀を手に鎌鼬を追う。
白隙の刃は、青く燃え、その炎の温度を上げて行く。
白隙が、空中を十文字に切り裂く。
十文字の炎が前を飛んで行き、木の後に隠れた妖ごと木を焼き切った。
向こうで来牙と鎌鼬が、切り結んでいる。
来牙が「白隙、鎌鼬に当てろ」と叫ぶ。
白隙が空間を十文字に切る。
白隙の十文字に灼熱の剣撃が飛んで行った。
鎌鼬がその剣撃を受け止めた。
鎌鼬の体が、赤く熱を帯びる。
白隙の剣撃が逸らされた。
来牙が思いっ切り剣撃を繰り出した。
鎌鼬に当てる。
鎌鼬がそれも受ける。
受けた筈が、体がボロボロと崩れて行く。
熱を帯びた体が、一気にマイナス寒波に晒されて崩れて行く。
戦いながら横眼で見た槃蔵が、「ほう、土壇場で力を上げよった」と嬉しそうに呟く。
「槃蔵、こっちに打て」権現狸が叫ぶ。
槃蔵が放つ。
権現狸が飛んで行く。
爆発が起こった。
次の瞬間相手の大きな手が権現狸を弾き飛ばす。
骸骨の顔に燃える赤い目、がしゃどくろだった。
爆発で失った片手が再生して行く。
敵が引いて行く。がしゃどくろの後ろに隠れ、刃物を飛ばして来る。
人食刀(いぺたむ)が後に居る。
全員がその刃物に対処しながらの攻防になる。

空気が振動する耳鳴りの様な音がした。
CH-47J輸送機の爆音だ。
白隙が 「来たか」
4気筒ディーゼルエンジンの音と機銃音が近づいて来る
62式機関銃改、車載兵器として改造された5.56mmの機銃音だ。
がしゃどくろの後ろに隠れた妖が、一体、また一体と千切れ飛ぶのが見える。
来牙が「骸骨の化け物に血が好きな刃物かよ、厄介だな」呟く。
五鬼継一族が、敵の背後から迫る。
来牙が、斜め前方に爆発音を聞いた
鵬辰の部隊が、M4カービンを撃ちながら白隙達の右斜め前方、敵の斜め後ろから来た。
天ケ森の敵は、3方向からの襲撃に勢力を見る見る失っていく。



仏ケ浦では、上からの攻撃で敵が砂浜を逃げ回っている。
後方作戦隊が仏ケ浦の奇岩の上に散会し、89式5.56mm小銃を撃ちまくり、逃げる妖にM82A1、対物狙撃銃が狙いをつけて撃ち抜いて行く。
虹色の靄を纏い、隊員の一人が後方に飛んで行った。
北渡が後ろを振り返る。
大蝦蟇(おおがま)が北渡が率いる後方作戦隊の背後から現れた。
蝦蟇の口から虹色の気を吐くと当たった一人が、また口に吸い込まれた。
北渡が「こ、こいつ周防の大蝦蟇か、離れろ、その気に触れたら吸い込まれるぞ」
(やっかいだな、どうする)北渡が呟く。
北渡が大蝦蟇の上に飛び乗る。ヌルヌルとしている。
「これでどうだ!」上に乗った北渡が両手の手のひらをその背中に押し当てる。
大蝦蟇の動きが、緩慢になる、止まった。
大蝦蟇の体の周りが氷に覆われて行く。
大蝦蟇が動き出した。体からヌルヌルとした粘液が出て氷が剥がれて行く。
北渡が大蝦蟇から飛び降りて両手を上に上げ、「氷雪」と叫ぶ
何も無い空間が、歪み、冷気が噴き出し、雪と氷と風が大蝦蟇を襲う。
大蝦蟇は、驚いて土の中に潜り込んで行った。
再び北渡は、大蝦蟇が潜り込んだ土に両手の手のひらを押し付け、土を氷で覆って行く。
「冬眠してろ」と吐き捨てて再び崖を振り返る。
残った隊員達が奇岩の下の妖達を追い詰めて行く。



鐸閃(たくせん)以下7名は、苦戦を強いられていた。
戦っている相手は、片目の犬で尾が3本ある相手である。
同行している【葉書き】の使い手の狐に中司本家の傍に居る 白澤に何者かを問い合わせしている。
狐が大きな声で言った。
「鐸閃様、讙(かん)では無いかとの事です」
「讙、だと、中国妖怪が何故此処に」
鐸閃が、62式機関銃改を振り回し攻撃を捌(さば)きながら叫ぶ。
恐るべき怪力だ。
通常、62式機関銃は、ジープ等に装着した状態で使用する。
棒の様に振り回している。
(ちっくしょう、ちょこまかと良く動きやがる)鐸閃が舌打ちした。
鐸閃の2m後方に居た隊員が、ぐゎと叫び、倒れ込む。
爪で首の後ろを裂かれた様だ。
血が噴流となって後方へ飛び散る。
(くっそぉー、この野郎)と歯を食いしばる
鐸閃の体が膨れ上がる。
迷彩服が千切れ飛んだ。
鐸閃の背中が割れる。
背中から真っ黒な蝙蝠(こうもり)の様な翼が出て来た。
手が中指と薬指の間から肩までが裂ける。
足もつま先から付け根までが裂ける。
手が4本、足が4本になった。
全身が真っ黒な剛毛で覆われて行く。
口が耳まで裂ける。
額に目が現れる。
8ケの目が頭の後ろまで並ぶ。
動きも変わった。走るから滑る へ変わった。
背中から真っ黒な羽を纏った翼が出来ていた。
例えて言うなら蜘蛛(くも)そう言う形容しか思い付かない。
重機関銃は、長くなった中指を持った右手が握っている。
讙の移動よりも早い、
地面を走っている。
いや、地面すれすれを飛んでいるのか。
讙が口を開けて鐸閃に斜め後方から襲い掛かる。
鐸閃の右手が素早く動いた。
早い。
右手の中指が、62式機関銃のトリガーに触れる。
銃口が讙の口に吸い込まれた。
指が、トリガーを引いた。
連続した重低音が響き渡った。
白煙が、讙の頭部を覆う。
重量感のある短い音が鐸閃の足元から響く。
讙の首から下が地面に落ちた。
鐸閃の部下が、歓声を上げた。
「遅くなった。急ぐぞ」鐸閃が、残った隊員達に言う。
隊員達は高機動車、高機に走り、乗り込むと鐸閃の横に付ける。
鐸閃は羽を折り畳み飛び乗る。泥をまき散らしながら高機が、駆けて行く。
高機の中で隊員の一人が、迷彩服のズボンを渡し、
「見せびらかさないでください」と言う。
車内にフッ・わずかに笑いが生まれた。

索敵

蔵王丸の前に質素な衣を纏った修行僧の成りをした僧が居る。
蔵王丸は、その人物の前で土下座し、額を地面に張り付けながら少し体を震わせていた。
修行僧の成りをした僧が地蔵菩薩だ。
「その様な禍が、人の世に現れると言うのか」地蔵菩薩が言い、
「嘆かわしい事よ」慈愛に満ち、しかし強烈な意志を湛えた相貌で蔵王丸を見ながら続ける。
「人が其れを阻止する為にお前達と力を合わせ戦っておるのじゃな、お前達のその思いを聞いて断る道理も無い、よかろう、探せ、その憑代が見つかったら持って参るが良い、私が、慈悲を持って冥土へ届けよう」
「この様な身分の物の願いを聞き届け頂き、有難き幸せに御座います」
「その人間が好きか」
「はい」はっきりと即答した。
「お前達に好かれる人間、一度、見てみたいものよ」
「我々妖も愛されております。友と呼んで頂きました」
「ふむ、良い。行くが良い」
「はっ」短く返事をし、また、額を地面に擦りつけ礼をすると立ち上がって再度礼をし、掻き消えた。
「良し、散って探せ。お前達の感知能力を最大にして岩、木、草、残らず当たれ。行け」
蔵王丸は、10人の隊員に言い、索敵を開始した。

恐山は、そのカルデラ形状で宇曽利湖(うそりこ)を中心とした外輪山の総称となっている。
宇曽利湖の水質は、良く知られている。PH3.5前後の酸性水で湖底からは、硫化水素が噴出し、湖水に溶解する事によって強酸性が促進されている。
湖の場所により酸性濃度に落差があり、強い場所では、酸性度はpH4〜6程度にまでなっている所もある。
湖から最も近い外輪山は、鶏頭山で湖面に面している。
蔵王丸は、太鼓橋から鶏頭山をまずは、探索する事にした。
探す相手は、生物体であれば全く動く事の無い物。
憑代、分身としか解っていない。
霊場寺院内は、妖し物達は、普通、入れない。
玉賽破で有ろうと決して入る事が出来ない。
隊員は、2人一組で開始した。
太鼓橋の表裏、総門前、駐車場、塀や堀を飛び越え五智如来前を通り極楽浜へ
血の池地獄前に差し掛かる。
血の池前で経を唱えている修行僧がいる。
横眼で見ながら鶏頭山へ向かう。
徹底的に調べる。
石ころから岩の下、堀の中、塀の端、潰さに見て回る。
ない、居ない・・・・・焦りが募って来る。
(優介さんの推理に間違いは無い筈、理論として成り立っている。俺達は優介さんを信じる)
蔵王丸は、独り言を言う。
横で聞いて居た隊員の一人が、「間違い無く、居てますよ、私達は、蔵王丸様を信じています。其れと同じぐらいに優介様を信じています」と言った。
蔵王丸は、隊員の背中を軽く叩き、「そうだな、もう一度折り返して探してみよう」と言った。
太鼓橋へ向かって探索を再度 開始する。
血の池地獄前に差し掛かる。
血の池前で経を唱えている修行僧がいる。
(何かな、妙に気に成る)独り言を言いながら蔵王丸が近づいて行く。
修行僧の正面に立つ。
動じない、経を唱え続けている。
「失礼」と言い、蔵王丸が編み笠を取る。
顔が無い。修行僧には、顔が無かった。
つぎの瞬間、修行僧が錫杖を持った手を蔵王丸にまっすぐに突き出す。
蔵王丸が吹っ飛んだ。考えられない。
170cmそこそこしか無い修行僧が、身長210cm、260kgの蔵王丸を片手で突き飛ばしたのだ。
蔵王丸が叫ぶ。「こいつだ。見つけた。気をつけろ」
修行僧の周りを取り囲む。
目も鼻も口も無い顔を持つ修行僧が、短く「ハッ」っと叫ぶ。
取り囲んだ10名の隊員達が其々、後ろに吹っ飛んだ。
蔵王丸が、唇を噛む。その血を飲み込む。
蔵王丸の体が膨れ上がった
蔵王丸の顔が、変貌して行く、目が細長く切れ長になり吊り上る。
その奥にある目が赤く燃える。
顔色が赤みを帯びて行く。
鼻が少し前へ伸びる。
動きも変わる。走るから滑る へ変わった。
背中から真っ黒な羽を纏った翼が出来ていた。
正に天狗その物だ。
天狗となった蔵王丸が胸の前で印を結び、何かを唱えた。
周りの空間が歪んで行く。
真っ暗な空間が蔵王丸と隊員達、修行僧を包んだ。
隊員達の背中にも真っ黒な羽を纏った翼が生える。
蔵王丸が「行くぞ、これでも食らいな」人刺指と中指をまっすぐ伸ばし軽く握った左手を目の前で水平にし、素早く左に広げる。
修行僧の周りに旋風が渦巻いた。
旋風の内部に稲妻が無数に発生した。
風が異常な吹き方をする。
風の吹く空間が四角い箱の様に変形して行く。
箱の中でグェっと言う声、音が聞こえた。
胸骨が潰れたような声と音だ。
左手を水平にしたまま、人刺指と中指をまっすぐ伸ばし軽く握った右手を上に上げ顔の前にゆっくりと降ろす。
顔の前で左手の人刺指と中指、右手の人刺指と中指が交差した。
「云!」短く叫んだ。
箱が8つに割れてバラバラに転がる。
両手をまっすぐ前に伸ばし、手のひらを前に向け両手を其々水平にした。
空間が元に戻って行く。
修行僧の居た場所には、8つの半透明な箱が転がっていた。
蔵王丸、隊員達の姿が戻って 隊員達が箱に走り寄り、箱を其々が布に包む。
手際が良い。慣れているのであろう。
「さぁ、地蔵菩薩様に礼を言いに行こう」蔵王丸が言い、地蔵菩薩の元へ走る。
(優介さん、流石です。推理、完璧でした)蔵王丸が心の中で呟いた。

地蔵菩薩の前で蔵王丸が跪き、その後ろに隊員10名と狐2匹が並んで土下座している。
「かような物が御りましたので御約束通り捉えて参りました。索敵の場を与えて頂けた事、御礼申し上げます」蔵王丸が地に額をつけたまま言う。
「この様な物が、居たか。わかった。約束通り、坊が慈悲を持って冥土へ届けよう」
「よろしく御願い申し上げます。では、我々は、彼の地へ赴きますので之にて失礼致します」
「息災でな、御人にもよろしく言っておいて下され」地蔵菩薩が言うと
「解りました。では、これにて失礼致します」
蔵王丸以下隊員10名、狐2匹の姿が消えた。

CH-47J、双発の運搬ヘリの傍に蔵王丸以下、隊員10名、狐2匹が出現した。
蔵王丸は、狐に言い、「憑代確保、処理は、地蔵様に任せた」と葉書きを書き転送させ、ヘリに乗り込み発進させた。



縫道石山の山頂で玉賽破の耳から血が噴き出した。
「くそ、見破った奴がいる」玉賽破が呻き、
「それにあの煙、誰かが気付きやがった。おい、正体を探れ」と横の悪狐に言った。
悪狐は、海岸の方を見ながら 「仏ケ浦でも戦闘らしき騒ぎになって居ます」と答える。
「もう、此処に居ても意味が無い、妖気遠隔吸収のシステムを壊された。天ケ森にはがしゃどくろがいるから手こずるはずだ、仏ケ浦にいくぞ」
玉賽破は、空を駆ける。悪狐が地を蹴って追いかける。
「あのしっぽ、どうなってるんだ」と悪狐が呟く。
仏ケ浦の上空に到達する。
下を見ると自分と同じ妖狐が、自分の誘いに応じた妖し達を惨殺している。
玉賽破の目が血走る。
「このやろう、そうか敵は、妖狐かよ」と言うと仏ケ浦に降下して行く。



総合指揮を執っている胤景(いんけい)の元に葉書きが届いた。
(憑代確保、処理は、地蔵様に任せた)と表題に書いてある。
胤景は、良し、と呟きながらその後の文章を読んで、
「兄貴、白雲さん、白禅さん、魏嬢(ぎじょう)さん、玉賽破の憑代を捕らえ地蔵菩薩様が冥土への搬送を約束して頂けたそうです」と言うと
「まずいな、思ったよりも早かった。玉賽破は、どっちに行くと思う」白雲が答える。
「どうだろうか、天ケ森、仏ケ浦のどっちに本隊かがわかりません」胤景が言う。
魏嬢が、「そんなの簡単じゃない。恐山の憑代を確保し、天ケ森を攻めているのは、玉賽破も もう知っているわ。それに仏ケ浦でも戦闘になっている事もね。どっちが戦闘範囲が広いと思う。そう、縫道石山から見て規模が大きいのは、天ケ森側。玉賽破自身、敵が何者か解らない状態で規模の大きい戦闘地に行く筈無いわ。必然、選ぶのは、仏ケ浦」と言った。
「鐸閃(たくせん)に葉書きを入れろ。北渡は、戦闘中の筈だ。玉賽破がそっちに行く。一旦、仏ケ浦を中心に取り囲めっと書いて呉れ」優介が、椅子から立ち上がって言うと
「優介様、鐸閃から葉書きです。玉賽破が仏ケ浦上空から降下中、との事です。
「まっずいな。北渡は、優等生過ぎる。おい、白雲、俺は、先にいくぞ」
「一寸、待ってくれ。ここは、蔵王丸さんに行って貰います」胤景が言う
「なぜ、胤景?」白禅が聞くと
「現地には、北渡さん、鐸閃さんが居る。妖狐と土蜘蛛。ここへ蔵王丸を持って天狗。どんな力を奴が持っているのか洗い出しに掛かろうかと思います。手の内が解ってからの方が有利な布陣を引く事が出来ます」胤景が答える。
「そ、それじゃ、彼らが危険過ぎる」優介が言う。
「彼らならこの作戦の意味、解って呉れますよ」胤景が答えた。

迎撃

鐸閃が高機の武器ケースから84mmカールグスタフM3を取り出した。
スウェーデンFFV社のカールグスタフM3 84mm無反動砲を軽量改良した通称、無反動砲(B)、携行用対戦車兵器だ。
狙いは上空より降下して来る玉賽破。
高機に乗車している隊員達も見守る。
無反動砲(B)の後方から炎が噴き出る。
対戦車兵器、その厳ついイメージに似合わない軽い音と共に煙を吐き玉賽破へと飛んで行く。
通常、上から下へ下がる標的は、狙撃しづらいと言われている。
鐸閃の8つの目は、玉賽破を捕らえ、その腕は、確かだった。
玉賽破は、84mm無反動砲弾に気づき、9本ある内の一本を軽く振る。
爆発が起こった。
閃光を伴っていた。
煙の下から変わらず、玉賽破が降下しているのが、見えた。
無傷であった。
「くそ、無傷かよ、シミも付いてねぇ」鐸閃が罵る。
隊員2人がM2火炎放射器を背負う。
鐸閃は、左手に持っていた62式機関銃改を武器ケース横に置き、74式車載7.62mm機関銃を掴み上げる。
74式車載7.62mm機関銃名前の通り車載もしくはヘリに装着して使用される。
横で3人の隊員が、12.7mm重機関銃M2クイックチェンジバレルタイプを高機に取り付けている。
狙撃手は、1名、バレットM82A1を両手で抱えている。
重機関銃M2の装着を完了した。
隊員達は、其々の手にM4-A1カービンを持つ者、HK416を持つ者、どちらもドイツ、ヘッケラー&コッホ社製の自動小銃だ。
其々、降車タイミングでGOが掛かるのを待った待機の姿勢になった。、
当初、7名居た隊員は、6名になって居る。
高機動車、高機が、停車する。
左に寄せ、山側を背にする。
隊員達が駆ける。狐達も走る。
鐸閃が隊員達を抜いて一番に角を曲がる。
角に隠れた状態で狐達は止まり 葉書きを送り出す。
北渡達が居た。残り10名になって居た。
鐸閃が声を上げる。
鐸閃の姿を見た北渡は、途中で厄介な敵と戦闘があった事を理解した。
玉賽破が、道路に降り立ち、「何故、邪魔をする」と少し、甲高い声を発する。
北渡が、「蔵王丸さんが、憑代を叩いた。隊員10名と一緒にこっちに向かっている」叫ぶ。
鐸閃がそれを聞き、理解する。
「妖狐、天狗に土蜘蛛が、そう言う事だな、今後の作戦展開の為に玉賽破の全ての能力を見ろと言う事らしい」北渡に告げる。
北渡が、片手を上げて答える。
鐸閃が74式車載7.62mm機関銃の銃口を玉賽破に向ける。
腹底に響く重低音を発しながら銃口から出た弾は、空気を切り裂く甲高い音を発しながら共に次々に玉賽破に吸い込まれて行く。玉賽破が衝撃波に押され後退する。
だが、無傷であった、相変わらず弾の飛んで来る方向に1本のしっぽで対応している。
「あのしっぽが、邪魔だ」鐸閃が吠えた。


CH-47Jは 連絡を受け仏ケ浦に急行する。
機内で慌ただしく武器を見繕っていた。
HK416が隊員達に渡される。
銃を受取り、装備を確認する。
蔵王丸は、鐸閃と同じ74式車載7.62mm機関銃を掴みあげる。
全員が胸に装備一式を抱き、背中にパラシュートを背負って戦闘待機で待つ。
仏ケ浦上空に到達すると順番に飛び降りて行く。蔵王丸は装備品を2つ掴むとパラシュートを付けずに飛び降りた。次々に降下して行く。降下した先に北渡と鐸閃が居た。


蔵王丸が鐸閃の姿を見た。完全に能力発動の姿となっている。
見ると北渡も変身しようとしていた。
北渡の鼻と口が伸び、耳が後ろへ後退し、尖って行く。
口が大きく裂けて行く。四肢が犬の様に変形して行き、やがて茶色の毛で覆われて行く。
狐にしては、かなり大きい、ポニー程度の大きさだ。
しっぽが9本揺れている。
蔵王丸も唇を噛み、その血を飲み込む。
体が膨れ赤い顔に切れ長の目と前に付き出た鼻の形相に変わる。
北渡が後ろ足で地面を蹴り、玉賽破の正面に踊り出る。
玉賽破の方が体が大きい。
北渡は、ひるまず前足で地面を叩く。
北渡の前足から道路が凍りついて行く。
玉賽破の前足に掛かる。
前足が凍りつく。
後ろ足に掛かり、これも凍りつく。
玉賽破の口角が僅かに上がる。
玉賽破のしっぽの一本が動いた。鐸閃らの玉を避けたしっぽでは無い。
玉賽破は、しっぽを振り、地面に叩き突ける。
四肢と道路に張り付いた氷が飛び散った。
体をバネの様に撓しならせ飛び上がると地面に四肢を踏んばらせ着地する。
張り付いた氷が辺り一面 跳ね上がり剥がれて行った。
蔵王丸が地面スレスレを飛び、移動すると人差指と中指をまっすぐ伸ばし、拳を軽く握った左手を顔の前で水平にして左手をまっすぐ水平に伸ばした。
空間が闇に染まって行く。
玉賽破のまた別のしっぽが回った。
闇がしっぽに吸収されて行く。
蔵王丸の顔が驚愕に変わる。すかさず右手の拳を握り、人差指と中指をまっすぐ伸ばすと横縦横と【井】の字を体の前で書くと右手を空に翳かざした。
風の刃が玉賽破目掛けて降り注いだ。
玉賽破が消える。
蔵王丸の背後に現れ、蔵王丸の左肩を噛んだ。
「グワ~」と肩を抑え、前に転がる。
噛まれたのは、左の上腕だった。玉賽破の口に蔵王丸の左腕があった。
蔵王丸は、転がって玉賽破と距離を取る。
玉賽破の咥えた蔵王丸の腕には、炸裂弾が握られていた。
炸裂弾が爆発した。
玉賽破の右目に金属片が当たる。
「ぐぇっ」と呻き、右によろける。
右目には、炸裂弾の破片が深々と刺さっていた。
蔵王丸は、それを確認してニヤリと笑うと気を失った。
玉賽破が、蔵王丸によろよろと近づく。
北渡が前足で地面を叩いた。鐸閃が跳ぶ。
凍って行く。玉賽破の足元が凍って行く。
玉賽破の四肢が凍る。
地面に張り付けられた。
しっぽが動いた時、鐸閃が蔵王丸と玉賽破の間に着地し、玉賽破の左顔を殴る。
玉賽破の脳が揺れた。
その強靭な膝が揺れた。
鐸閃が振り返り、蔵王丸の巨体を肩に担ぎ、北渡の後ろへと走った。
玉賽破の左目は、真っ赤に充血し、右目は失明して居た。
金色の毛が逆立っている。
鐸閃と北渡の後ろに高機が走り込む。
12.7mm重機関銃M2が高機の上で火を噴く。
玉賽破が飛び上がった。
空中で器用に身体を捻りまた違うしっぽを動かすと稲妻を発生させて鐸閃と北渡、後ろの高機目掛けて襲い掛かる。
鐸閃が「全員退却、急げ」と声を掛け 担いだ蔵王丸を高機の後ろに乗せた。
隊員達が其々の車に乗込み 338号線を南下して行く。鐸閃達も後を追う。
玉賽破の顔半分は、血塗れになっている。
深手を負っていたのか其の儘 道路に降りると膝を折り横になった。
「追って来ないな」
鐸閃が言うと北渡は、
「あの最後の左フック、見事でしたよ」
「俺たちのコンビネーション結構 良いな。狐君達、怖かったろう」
「は、はい。でも葉書きを送り続けてましたからそれに隊員さん達が守って呉れて・・・蔵王丸さん、大丈夫ですかね」
「・・・多分。出血はとっくに止まっている」鐸閃は、蔵王丸を見つめながら言った。

敗退

胤景(いんけい)が海上自衛隊大湊に携帯から電話を入れる。
救護班とヘリUH-60Jの出動要請を入れる。
海上自衛隊大湊からむつ市役所脇野沢庁舎へ緊急要請が発令される。
むつ市役所脇野沢庁舎駐車場へのヘリの発着と医療チームのテント等の増設である。
胤景が傍らに座っている狐に鐸閃へ蔵王丸他数名をむつ市役所脇野沢庁舎駐車場に連れて行く様に指示を出す。狐が葉書きを使って指示を出した。



特殊突撃部隊の部隊長は、手動単発式擲弾発射器M203A2を使って骨を砕く作戦へと移行する。
隊員達が一斉に背中に背負っていたM203A2をM4カービンに装着させて行く。
太郎丸が重機関銃62式機関銃改を地面に落とす。
上着を脱ぎ自分の下腹を叩いた。
目が細長く切れ長になり吊り上る。その奥にある目が赤く燃える。
顔色が赤くなって行く。鼻が少し前へ伸びる。
背中から真っ黒な羽を纏った翼が出来ていた。
天狗へと変貌を遂げた。
単発式擲弾発射器が10本同時に発射された。
擲弾ががしゃどくろへと飛んで行く。
着弾順に炸裂して行く。
骨が中を舞う様に散らばって行く。
がしゃどくろが地面にへばり付く様に倒れ込んだ。
散らばった骨がまたがしゃどくろへとずるずると戻って行く。
部分部分が結合して行き、それはがしゃどくろ本体へと戻って行く。
がしゃどくろが四つん這いの状態で起き上がった。
悪い夢を見ている様な錯覚に陥る。
太郎丸は、両手を胸の前に持って行き、印を結びだす。
印を結ぶ速度が上がって行き、残像の印が次々と浮かび上がって行く。
空中に浮かび上がった残像の印は、白く光り、全ての印が横並びに太郎丸を囲む。
両手を空へ翳し、今度は勢い良く両手を下に下げた。
骨の折れる音、頭蓋の砕ける音と共にがしゃどくろは、地面に押しつぶされた。
静寂が辺りを包んだ。
がしゃがしゃと骨が再生している。
「これでもまだ再生するのか」太郎丸が言う。
「何か手立ては、ないのか。物理的な方法ではだめだ。何度でも再生しやがる」
白隙が言うと来牙、権現狸、槃蔵、鵬辰、太郎丸、特殊突撃部隊の部隊長が首を縦に振る。
白隙は、特殊突撃部隊の後方にいる狐に胤景に問い合わせる様に指示を出す。
「先にこいつを殺る」と言い、来牙が がしゃどくろが骨を再生している脇を通り、人食刀(いぺたむ)へとその刃を向ける。権現狸、槃蔵が続く。
権現狸がその身を丸く丸めて体当たりするが、刀に弾かれる。
来牙は、刀に凍気を纏わせ、人食刀に切り掛かるが、逸らされた。
「3人で同時攻撃しないとだめだ」槃蔵が叫ぶ。
権現狸が人食刀の正面に立つと「俺を切れる物なら切ってみろ」と叫ぶ。
人食刀が、脇構えから左手を引っ張り、右手で押し付ける様に切ってくる。
権現狸が体を金剛に変化させこれを迎え打つ。
権現狸に刀が当たる瞬間、来牙が凍気を纏わせた刀でその刀を撃つ。
人食刀の動きが止まった。体が氷に包まれた。
続く槃蔵が袈裟切にその体を断ち割った。
本体を切られた人食刀が「ギヤー」と言う悲鳴と共にその体が刀に飲み込まれて行き、古びてボロボロの刀になり地面に転がった。
3人が振り返った。
鵬辰が四つん這いになって手足が其々2本づつに別れ背中に蝙蝠の様な羽が出現していた。
その隣で白隙が変化していた。口には、真っ青に燃える刀が銜えられている。
刀の温度が上がって行く。
赤から青、青から白色へと上がり、白隙の体からも白色の炎が噴き出していた。
鵬辰の背中から糸の様な物が無数に出ている。
がしゃどくろのまだ再生途中の腕に絡み付いて行く。
白隙がその腕を目掛けて飛ぶ。
体の前に中段の構えから刃先寄りに左手を当て体ごとぶつかって行った。
真っ白い炎が飛んでいる様に見える。
自らの体を剣撃とする白隙が修行の結果、得た最強の奥義だ。
一瞬で鵬辰の出した糸に包まれたがしゃどくろの腕が燃え上がり、炭化して行く。
炭化した骨は、再生を試みるが、ぼろぼろと崩れてしまう。
がしゃどくろの肘から先を奪った白隙の技であったが、白隙自身も切った骨からの毒気に侵された。
通過した白隙は、口から血を吐き、倒れている。
「白隙」鵬辰が叫ぶ。来牙が走り寄る。
来牙が凍気を調整して仮死状態にして毒気が浸食するのを止める。
鵬辰が糸を出しその体を包みこんだ。
糸を操り、傍にあるジープへ乗せる。
「一旦、引くぞ」鵬辰が大きな声を上げた。
鵬辰の部下7名が白隙の部下10名が高機動車、高機とジープに乗り込み先行する。
鵬辰、来牙、白隙を乗せたジープが、発進する。
太郎丸、特殊突撃部隊員が、高機動車、高機で発進した。
最後に権現狸、槃蔵、鵬辰、狐2匹がジープに乗った。
後ろからがしゃどくろが自らの骨を再生した片手で投げつけた。
「あいつ、どうすりゃ良いんだ」言いながら権現狸が後ろのシートに座った槃蔵を振り向き絶句した。
槃蔵に骨が背中から突き刺さり腹に付き出している。
「急げ、槃蔵がやられた」権現狸が、叫び、骨を抜こうと後ろに行こうとする。
「何をする」鵬辰が聞く。
「何って、背中から腹に貫通してる骨を抜く」権現狸が焦った様に言う。
「抜いたら出血が余計に酷くなり、止まらん。焼くのが一番だか、白隙があの状態だからな」
鵬辰が叫び、狐に槃蔵がやられた告げろと言うと、もう送りましたと返答する。
5台の車がジャングルを抜け、253号線に向かう。
ヘリUH-60Jが5機待機していた。遊撃部隊が乗って来たヘリだ。
すぐに発進するぞと声を掛ける。
ヘリ1機目に糸を解いた白隙と槃蔵と権現狸を乗せ発進した。
鵬辰が狐にヘリCH-47Jを一機回して呉れる様に連絡して貰う。
2、3、4機と飛んだ時だった。
森の方から音と叫び声が聞こえている。
全員が森の方を見た。
「来やがった」来牙が叫ぶ。
森からがしゃどくろと残った敵が追いかけて来た。
こっちに残っているのは、鵬辰、来牙、特殊突撃部隊員9名のみになっている。
一名は、手首損傷の重傷を負ったので先のヘリで病院に向かわせた。
特殊突撃部隊員3名が、CH-47Jで空中投下した武器の中から87式対戦車誘導弾、通称名対戦車ミサイル砲タンクバスターを設置している。3名は、MK2破片手りゅう弾を地面に埋め、引き抜きバーに糸を絡めて設置して行っている。残りの3名は、単発式擲弾発射器10機、を車から降ろしたり5.56mm機関銃 ミニミをテントから運び出し設置している。
「さすがに特殊突撃部隊だな、俺としては戦車が欲しいところだ」来牙が笑いながら言う。
「さて もう1ラウンド、遣るか」鵬辰が言った。
253号線を家ノ辺へ向かって来る異形の一団、がしゃどくろが四つん這いでその中程をやって来る。
「来たぞ」鵬辰が言った。
特殊突撃部隊隊長が、作戦開始、散開と号令を発した。
家ノ辺の入口は、約200m程の直線と成って居る。
「此処を選んだ理由が漸(ようや)く解った」来牙が言う。
鵬辰が羽を広げ、右周りで直線道路に向かって行く。
来牙が変化して行く。
鵬辰の背中から糸が出て行く。空中に蜘蛛の巣が出来上がると次々に道路へ落として行く。
鵬辰が戻って来た。
道路に出て来た。火の付いた輪っかが走って来る。
来牙が氷の付着した刀を口に咥え疾走する。
来牙の走った後がどんどん氷付いて行く。
来牙と火の付いた輪っかががすれ違う。
輪っかが2つに割れて転がった、
輪っかは凍っていた。近くに居た妖達2~3匹も凍りつき倒れてバラバラに砕ける。
「来牙さん、下がって」特殊突撃部隊隊長が、叫ぶ。来牙が疾風の様に駆け戻る。
「よし、撃て」合図の元、87式対戦車誘導弾、通称タンクバスター3機、単発式擲弾発射器4機が一斉に火を噴く。
戦車誘導弾のミサイルが小さな孤を描きながら着弾して行く。
タンクバスターの補助が次々と次弾を装填して行く。
擲弾発射器は、持ち替えて発射する。
がしゃどくろが来た。
隊員の一人が手を挙げて糸を次々に引いて行く。
がしゃどくろを爆発が真面に捉える。
がしゃどくろがバラバラに吹き飛んだ。
隊員達は、56mm機関銃を手に取る。
タンクバスターのミサイル弾が尽きた。
「突っ込めー」隊員達が突っ込みながら56mm機関銃を乱射して行く。
その後ろを来牙が追う。
鵬辰が74式車載7.62mm機関銃を掴み上げ、走った。
がしゃどくろが再生し始める。
来牙が剣撃を撃つ。骨が凍る。
「くそ、再生を止める事しか出来ねぇ」独り言を言う。
がしゃどくろの中途半端に再生した腕が伸びる。
「危ない」鵬辰が叫んだが、間に合わなかった。
来牙の体が後方に弾き飛ばされた。地面に叩き付けられた来牙が、動かない。
鵬辰が走り寄り、来牙の体を掴んでヘリの方に滑らせ、発進用意しろっと叫ぶ。
来牙の体が150m程後ろのヘリまで滑って行く。
ヘリの乗務員が2人で来牙をヘリに載せ、エンジンをスタートさせる。
鵬辰が隊員の一人を呼び、高機を2台用意しろ、退却するぞっと言う。
隊員がもう一人に声を掛け、高機を取りに走る。
高機がバックでやって来た。
「退却、全員乗車」鵬辰が叫ぶ。
高機に全員が乗り込んだ事を確認した鵬辰が最後に手榴弾5ケを一気にばらまき、
「発進」と叫ぶ。
短いスキッド音とディーゼルエンジンの出す排気ガスを残し、全速で発進する。
鵬辰の74式車載7.62mm機関銃が火を噴き、追って来る敵を肉片に変えて行く。
家ノ辺の交差点手前で爆発が起こった。
ヘリが舞い上がる。
高機が角を曲がって全速で走る。
惨敗だった。
たった一匹に。がしゃどくろに敗退した。

治癒

むつ市役所脇野沢庁舎前の駐車場に緊急設置されたテントに蔵王丸が横たわっている。
診察台には乗らない大きさなのでそのまま床に寝せている。
無くなった片腕の断裂面から真新しい肉芽が出て来ていた。
外科医2名と妖仙の弦泊それに看護師5名が居た。
当然、外科医師は、人間である。
弦泊は、空狐に頼まれやって昨日やって来た。
昨日は、海上自衛隊大湊基地に居て、大事を聞きヘリに同乗して来た。その際に同行させた3人の弟子を湯野川温泉の本部に行く様に言い付けた。
「これで安心じゃ、儂は薬を用意するで傷口だけこれを掛けておいてくれ」と言うとサッサとテントを出て行ってしまった。
「妖怪なんて本当に居たんだな」
「あぁ、それに今の仙人とか言っていたぞ」
「うーん、其れにしてもこの治癒力は、凄いな。トカゲのしっぽみたいに再生してる」
「再生スピードも半端じゃない」
医師2人は、腕組しながら見守っている。
「この方ってまさか、天狗?」
「だよね、私も絵本か何かで見た覚えがあるよ」
「襲われませんよね、いきなり神隠しとか」ビクビクしながら看護師が作業している。


特殊突撃部隊と鵬辰乗った高機2台は、武器の補充と調達、それに体制の立て直しを計る為に海上自衛隊大湊へ向かっていた。


一方、家ノ辺を飛び立ったヘリUH-60J、5機は、湯野川温泉、本部へ向かった。
到着してすぐに手術が始められた。
本部の医療班に運ばれた白隙、槃蔵、特殊突撃部隊員は、妖仙の弦泊の弟子3人に其々、治療されていた。
特殊突撃部隊員に付いている医師が
「右手をどうする」と隊員に聞いている。
「無くなった物は仕方無いでしょ」
「いや、妖の手に変えればお前さんのイメージ通りの手になるが、義手でも良いし、どっちにするかね」と又、怪しい事を言う。
「妖の手? 何処に有ります?」
「なぁに俺達の先生のコレクションにある」
「デメリットは?」
「お前さんが死んだら返して呉たら良い。但し、お前さんのイメージで変形するから精々気をつけろってところだ」
「解った。其れ取り寄せてくれ」
その医者が空間に手を掛け右側に開く動作をした。
「待っておれ、直ぐに取ってくる」と言って空間の中に消える。5分もしないで空間からその医師が赤黒い3本指の手を持って戻って来た。
「そ、それ3本しか指がないじゃないか」
「これか、これゃぁ鬼の手だよ。妖だったらこんな上物は、使わねぇ。お前さん胤景(いんけい)の部下だろ、珍しいじゃねか、あいつが普通の人間を使うなんてのわ」
言いながら何かをその腕に塗っている。
縫っている部分からミミズの様な物が出て蠢いている。
隊員は、その光景を見てぎょっとし、顔色を変えながら
「まぁ良い。俺も男だ。さっさと遣ってくれ」と反対側を向いた。
「一寸、辛抱しな」と言い、隊員の口にタオルを押し込んだ。
「舌を噛まねぇ様にな、用心だよ、用心。さぁ、遣るぞ」
医者が切れた手首に鬼の手を押し当てた。
鬼の手からミミズの様な物が出て、絡み付き隊員の腕とむにゅむにゅと同化して行く。
3本あった指が、5本に変わり、人間の手の様になってくっついて行く。
「ぐぁ、ぐぁぎゃぎゃが」と隊員が呻く、叫ぶ。
四肢が突っ張る。
口から泡を噴いて気絶した。
医師は、顔色一つ変えずに口に詰めたタオルを抜き取り、
「ほぅ、大した奴だな。もう、馴染んでるか」
隣の医師を見て「こっちは、終わったぞ。手伝おうか」
と言いながら隣のベットへ移動して行った、
隣には槃蔵が寝て居た。骨は取り除かれていた。
担当の医師が、茶碗や湯飲みを砕いて其処に何やら怪しげな黄色の粉を入れている。
しゅーじゅーじゅわーと言う音と異様な臭いが立ち込める。
「出来た。これでこいつは、完治だ」
言い傷口に手を突っ込んでその怪しい薬を塗り込んで行く。
山盛りに塗り込んだ後、腹周りに晒を巻いて行く。
その隣の入り口近くに寝て居る白隙は、更に悲惨な状況だった。
担当医師が色々な薬品を試して毒素の種類を見極めようとするが、見つからない。
担当医師が治療を終えた残りの2人の医師に状態を説明する。
「とにかくこの患者、妖気が全く足りない。今は、冷凍状態で鎮静しているが、解凍し始めると一気に毒素に侵されて消えて無くなってこの毒素を持った相手に同化してしまう」
「胤景に妖気を集める様に言うしかないな」
「よし、私が説得しに行こう」テントを飛び出して行った。
テントから戻った医師は、胤景、白雲、凍次郎、優介、優子を連れて戻って来た。
「この姫様がこの3人から少しづつ妖気を引き出して患者に移し替えるそうだ」
戻って来た医師は、疑心暗鬼に他の2人の医師に言うと
「そんな事出来たら俺達、要らねーんじゃねーか」完全に疑っている。
「おい、お前ら一寸どいてろ」凍次郎が言い、場所を空けさせる。
「姫、御願いします」胤景が言う。
「上手く出来るか・・・とにかく遣ってみます」優子が言い、歌を歌い始める。
「あたしらのも使いな、姫」と魏嬢と白愁牙も現れる。
歌を歌いながらゆっくりと頷く。
感情が籠って行く。
胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙が額から汗を流し、はぁはぁと息が荒くなった。
優子の体の周りを白く輝く靄が掛かった。
優子が白隙の胸に手を置く。
白隙の顔色が、土色からどんどん明るい色に変わる。
同時に靄が消えて行く。
優子が手をどけて一歩後ろに移動すると医師が一人割り込み、白隙を見ると、
「信じられん、妖気が十分になっている」と驚愕の表情で言い、
「でもまだ、毒素が全然減っていない」と言う。
「優子、歌え」優介が言い、優子の手をにぎり、優子の片手を白隙に置き、自身の手を白隙に置いた。
丁度3人で輪を作った形にする。
「イメージを、毒素を追い出すイメージを持て」優介が言う。
優子は、頷いてから歌い始める。
医師3人は、その光景をじっと見つめる。
胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙たちは、呼吸が収まって来たがそのままテントの床に座ったままだ。
床に座ったまま見ている。
優介の体中から黒い靄が出て白い光に覆われ消えて行く。
歌が終わり、優子は、優介を見ると顔や首に血管が浮き出て黒い靄が出続けていた。
「まだ、手を離すな」優介が優子に言う。
黒い靄が出なくなり、優介が座り込む。
優子が手を放す。
医師が一人割り込んで白隙を診て
「毒素が消えている。後は安静にしてれば勝手に治る」声を震わせて言った。
「どうやったんだ」医師の一人が優介に問いかけると
「優子が白隙の毒素を押し出し俺の中へ入れた。俺は、そいつと浄化しただけだ」
と言うと胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙、優子に軽く握り親指を立てた右手を突き出し、
「優子、やったな」嬉しそうに笑った。
「それが中司家の力の一部なのか」医師の一人が呟く。
「いや、これが俺達の」凍次郎が言い掛けると
「兄貴だ」胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙、優子が一斉に言って笑った。
医師達も「全員、助かって良かった」とほほ笑んだ
ベットの上の3人が、看護師は、全員、魏嬢の手の物でそのにベットごと奥に運ばれて行く。



弦泊がテントを潜り、帰って来た。
手に碗を持ち、何やら磨り潰しながら鼻歌を歌っている。
医師が、「それ、何ですか」と聞くが、
「秘薬じゃ、仙人以外は、門外不出での。すまないね」
と言われてしまった。
よっこらしょっと言いながら蔵王丸の横に腰かけ、
碗に手を突っ込みその内容物を千切れた腕の根本にべったりと塗りつける。
医師達と看護師達も蔵王丸の傍で見ていた。
付根に出来ていた肉芽が、スルスルと伸び始めた。
伸びるのが止まると今度は、震えだした。
震えが暫く続くと震えながら膨張を始める。
丁度、腕の太さになった時に膨張がとまり、今度は、先端に肉芽が出来、しだいに赤ん坊の手のひらが出来上がった。
また手のひらが、震え、ぷっくりと膨れて来て片手と釣り合う大きさになり止まった。
「あと、3時間ってとこじゃの」と弦泊は、立ち上がり腰をとんとんと叩きながら出て行ってしまった。
「なんだ、あの薬は」医師の一人が言った。
「オカルト映画みたいに腕が出来た」
「やっぱり、怖いよ」看護師達は、控え室に戻って行く。
「しかし、あれで本当に動く手なのか」医師が言いながら控え室に頭を抱えながら向かう。

対策

優介、優子、胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙、の7名は がしゃどくろの対策を考えていた。悪い事に がしゃどくろには、物理的な攻撃が殆ど効かない事が解ったからだ。
唯一効いた攻撃が白隙の必殺技だけで 其れも完全に相討ちと言う結果に終わっている。
では、何か霊的な攻撃となるが、破壊しても相手は 再生する化け物だ。
優介は、がしゃどくろの誕生に付いて考える事にして集まった全員に聞く事にした。
「そもそも がしゃどくろはどうやって誕生したのか 知ってる者は 居るか」
白愁牙が小さく手を上げ、
「私が聞いた話では、戦国時代に戦(いくさ)で死んだ魂、この場合、怨念がそばにあった人骨に取付き その怨念が怨念を呼び巨大化して行った物と聞いています」
「では、骨では無く その怨念を消滅若しくは浄化をしないと何度でも再生するって事で良いですか」
今度は、魏嬢が小さく手を挙げて
「その通りだと思うわ。今の世の中漸(ようや)く人は 死ぬと焼くと言う埋葬をしているけど ここ何年って言うぐらい歴史は浅い。と考えると 恐ろしい事に至る所に材料の骨が地中にはある事に成るわよね」
白雲が小さく手を挙げ
「そうだな。其れでも核となる人骨が必ずあると言う事には成らないか」
白愁牙が手を挙げ
「そうか、取り憑く為には何れか一つに集まる必要があるわねで無いと強大な力は生まれない筈だわね」
優子は、(もし、乾電池見たいに直列に繋がってたら、全ての妖が 並列乾電池である必要性がないわ)と呟いた。
魏嬢が「そうよ、姫、其の可能性も有るよね」と言ったので 優子はもう1度同じ事を喋った。
優介が「うーん、成る程。擲弾発射器M203A2を使って10発撃ち込んでバラバラにしてもダメ。太郎丸が術を使って押し潰してもダメだった。これをどう思う」
胤景が肘から上だけを挙げ
「其れは単に物理攻撃だけだったからでしょうね。其処には霊衝と言う攻撃は無かったからと考えたらどうです」
「霊的攻撃と言えば、其処は天狗の旦那方でしょうが、蔵王丸さんの結界術や兄貴の結界、太郎丸さんのは 霊衝を物理現象に置き換えてるからダメだったって事っすね。まぁ、平たく言えば、俺達の技ってのは、基本太郎丸さんと同じなんだけどさ」
凍次郎が言と優介が、
「結界技は良いんだが 結界は永久じゃないからね。結界が切れるとまた 再生する。がしゃどくろを滅殺すると言う事は、結界で包み込み結界内部を灰にして中から怨霊を叩き出す方法と言う事になるな」
「白雲の炎は、結界内に侵入出来るのかい?」魏嬢が聞くと
「いや、やった事がない」と返答する。
「凍次郎は、大きさに対して凍砕の技を使えるのか」胤景が聞くと
「森一つ、凍らせたもんね、あんた」白愁牙がにやにや笑いながら言うと
「だから、九州で謝ったやんけ」と優子を見ながら言うと優子が眉間に皺を寄せていたので
「ごめんなさい」と言い直した。
「では、凍次郎さんが凍砕を使って粉砕してそれをあたしが風を使って一ヶ所に山積みする。それを蔵王丸さんが、結界に止め、断ち割る。それを外部から白雲さんが火焔を使って内部に高熱を発生させる。出て来た怨霊を優介さんが浄化もしくは滅殺する。こんな感じかねぇ」魏嬢が言うと
「蔵王丸さんは、片手を犠牲にして玉賽破の右目を潰して今は、治療中なんだぞ」胤景が言う。
「わかってるわよ。だって今の話の流れ的には、これしか無いじゃない」魏嬢が言った。
「こっちに来てる医師は弟子っていってたぞ、俺一寸聞いてくるぜ」凍次郎が席を立って出て行った。
「優介、コーヒーでも飲もうか」優子が言いながら席を立ち、コーヒーポットとコップを8ケをボールに乗せて皆に配り出した。
「ふ~、落ち着くな」優介がタバコを取り出して火を点け、コーヒーに口をつける。


医療テントの奥で起き上がる者が居た。
一番奥にベッドを運ばれた特殊突撃部隊の手を無くした者だ。彼は自分の手が異常な手に成っている無くした方の手を見つめていた。
(遂に俺も人で無くなったのか)
独り言を呟き、立ち上がる為にベッドの端に両手を掛けた。
「ガシャーン」という音と共に男は立ち上がるどころか 床に尻餅を着いて仰向けにひっくり返った。見るとベッドは手を付いた所からスチールの骨ごと綺麗に裂け男を挟んで左右に分かれていた。
音を聞いて医師が2人 駆け込んで来た。
「もう目覚めたのか」
「早いな、流石だ。鍛え方が違う」
其々に言っている。
「これは・・・どうなった」男が聞くと
「お前さん ナイフが何か刃物を想像しなかったか」と聞いて来る。
「敵を・・・鎌鼬(かまいたち)を」
「だから其の手がベッドを切ったんだ」
別の医師が「そうだなテニスボールを想像してみろ、それで起き上がれる」
男は丸くて瓢箪の様な筋が入ったテニスボールを想像して床に手を付いて見るとグニュというボールの感触がある。ゆっくりと腕に力を入れると起き上がった。
「な、出来ただろ、想像でその手の能力は変化する。其れが鬼の手だ。最初にお前さんは3本の指の其の手を見た。お前さんの手のイメージは指が5本だった、だから今の其の手は人と変わらぬ手に成っている。しかし、能力は違う、全てイメージで能力は瞬時に変化する。しっかり勉強するんだな。おめでとう退院だ」と言い、別の手を掴んでテントの外へ追い出されてしまった。
掴み出された男は、胤景へ退院の報告とこの手の報告をする為に作戦本部が置かれたテントへ向かう。入ろうとすると中から凍次郎が出て来て鉢合わせになった。男は思わず手を自分の胸辺りに持って来てガードをイメージしてしまうと凍次郎が後ろに吹っ飛んだ。
「すいません、まだまだ慣れて居ないもので 遂、ガードをイメージしてしまいました」慌てて近づき、別の手を差し伸べる。
「びっくりしたぜ、触れただけでこれか」
凍次郎が言う。男は必死に謝る。
「いいって」凍次郎が立ち上がる。
「退院か、おめでとう。早かったな。どうだ其の鬼の手、気に行ったか」胤景の声がした。
「自分はまだ慣れていませんので訓練しないと」
「其処らに座って訓練しろ、無理するな」
「はい、了解しました」と言い椅子に座り色々手を動かしている。
凍次郎が戻って来た。手にボールやバーベルや色々持っている。「また吹っ飛ばされたら堪らんからな」にっこり笑いながら男の前に其れらを置くとそそくさと会議テーブルに戻る。後ろから「ありがとうございます」という声が聞こえた。凍次郎が「おう、頑張れよ。手伝い欲しかったら言ってくれ」答え、「後、2〜3時間ぐらいで手が元に戻るらしいぞ、がしゃどくろ見たいな奴だぜ」とテーブルに向き直りながら言った。
「え、千切れた手が元に戻る? どういう事」
優子が聞くと「姫、流行りの再生治療の究極だな。生えて来たって言ってました」
凍次郎が答えた。
優子は絶句した。

「そろそろ昼か 取り敢えず飯にしよう。飯を喰いながら考えてみよう」
優介が言い、テントを出る時に練習している男にも声を掛けて一緒に食事に出て行った。
「すまない」優介が男に言った。
「何を言うんですか、私達は、この国を守る為に戦っているんですよ。優介さん、貴方が責任を感じる事なんて何一つ無いんですから 謝らないで下さい。こんな機会、無いですからね。義手にするかこの手にするって聞かれた時には正直、びっくりしましたけど、普通だと義手ですよね。それにこの手、結構気に入ってるんですよ」と逆に頭を下げられてしまった。
「がしゃどくろをやっつける作戦、何か思いつかないか」優介が聞く。
「この手、使えないですかね」手を見せながら男が言う。
「君の名前は」と聞くと「上條真一と申します」男が立って挨拶をする。
「イメージか・・・・イメージねぇ」優介が呟く。
「炎をイメージして見て」優子が横から口を出す。
「はい」と真一が答える。
優子がメモ用紙を一枚ちぎってその手に乗せる。ゆっくり焦げて行く。
「ダメ、もっともっと熱い炎、赤じゃなく青を越えて白だっけ」優子が言うと
「はい、白ですね、白い炎」焦げていた紙が一瞬でボッと言う音と共に跡形も無く消え失せた。
「きゃー、すごいすごい。胤景さん、白雲さん、凍次郎さん、魏嬢さん、白愁牙さん 見た、今の見た、もう一回、行くね」優子がまたページを破って手の上に乗せ、「遣ってみて、白よ白」
今度もボッと言う音と共に一瞬で消え失せた。
「すげぇ、白雲の炎みたいだ」凍次郎が言うと
「鬼の手、結界をも切り裂く事が出来るらしい、結界の中に手を突っ込めるな」胤景が言う。
「すごい戦力だけど、真一さん、体は何とも無いの」魏が聞くと
「肘の辺りまで少しだるい感じがします」真一が答えた。
「もしかすると生命力を妖気に変換させて居るかもね。も少し調べて見ないと解らないけど気をつけてね、本物の鬼になっちゃうかもね」魏が言った。
「もし、そうなったら、嫌、そうなる前に殺してください」真一がきっぱりと答えた。
その目には、はっきりとした決意が伺えた。

結界

輸送へり、CH-47Jが、広場に着陸し、太郎丸、特殊突撃部隊隊員9名、鵬辰ほうたつ、権現狸が降り立った。太郎丸は、そのまま作戦司令部に歩いて行く。
鵬辰に抱かれているのは、来牙であった。全身を強打し、背骨、肋骨が折れている。
鵬辰は医療テントへ来牙を運ぶと作戦司令部の胤景の元へ行く。
特殊突撃部隊隊員達は、自分達のテントへ装備を運び、ミーティングを始めた。
上條真一は 特殊突撃部隊のテントに向かった。
中に入ると、同僚達が、「退院したらいいな」と言って歓迎して呉れた。
真一は、【手】の事を話すと 驚いた様子も無く、皆が受け入れて呉れた。
「それで漸ようやく本当の仲間になったなぁー」と言われて驚くと
眼球を入れ替えた者、足や腕を入れ替えた者等、ばかりだった。
「真一は、この部隊に入ってまだ2ケ月だから知らないのは当たり前だ」
「え、指揮官、言って無かったんですか」
「俺だけかと悩んでました。だってね、町中で女の服が透けて中身見えてたり、目のやり場に・・・まぁ、今は、結構、それで楽しんではいますけどね」とか色んな事をしゃべっている。
「結局、知ってたのは、指揮官と胤景さんだけだったって事?」
「だから特殊部隊なんだよ。自衛隊の中で特殊部隊が色々あるけど胤景さんと行動を共に出来る部隊は、俺達だけしかいないんだよ」指揮官が締めくくる。
真一は、「優介さんから、がしゃどくろをやっつける方法を思い付かないかって聞かれています」と言うと「うん、それを我々も考えていたが全く持ってお手上げ状態なんだ」と返事が返って来た。
「じゃ、皆で集まって考えませんか」真一が、言い 無理やりに全員を胤景達の居るテントに連れて来て来ると、優介、優子、凍次郎、白雲が椅子とテーブルを用意して全員で対策会議を再度、開始した。
権現狸もそれに加わる。
優子がコーヒーを全員に用意しながら特殊突撃部隊の面々と話をしている。
「え~、そうなんですか。全員、改造されちゃってるんですか」と驚き、「胤景さん、人の体に何してるんですか」と真剣に怒り出した。凍次郎はそれを見てにやにやしている。
「姫、怒らないで下さいよ。俺も最初は、悩んだんですよ。でも結局、こいつらは、俺の為に命を投げ出してでも作戦遂行を選んだ奴らなんです。俺は、こいつらを死なせたく無かったし、まして片手、片目の不自由な暮らしなんて絶対させてはいけないと考えました。だってこいつらは、この国の為にその身を投げ出してくれた奴らです。そこで空狐の天日殿に相談して 医師、妖仙の弦泊殿を紹介頂き、御願いした訳であります」胤景が、特殊突撃部隊の面々に頭を下げた。
「総指揮官殿、解っていますよ。礼を言うのは、我々の方です」隊員全員が立ち上がって頭をさげた。
優子は、「皆さん、無理は、絶対、絶対しちゃダメですからね」と言うと胤景の尻を盆で叩いて「信頼されてますね。良かったです。ほっとしました」と小声で言った。
胤景は、(姫には勝てないな)と心から思った。



「うぉーーーぉっ、良く寝た」
控えに居た医師2名と看護師5人が飛び出して来た。
医師の一人が傍に走り寄り「腕が元に戻って継ぎ目が全く分からない」と言った。
蔵王丸がその天狗の姿のまま立ち上がり、「すまない、手数を掛けた」と医師達に頭を下げる。
「いえ、私達は、何も」一人の医師が言った。
「弦泊と言われる方です」と言うと
「何、妖仙の弦泊殿が、儂の手当を・・・勿体ない、有り難い事よ」と感激している。
「よう、起きたか」弦泊がテントに入って来た。
慌てて蔵王丸が跪くと、「そんな事するものでは無い、天日殿に頼まれて来てみれば、天狗の蔵王丸ではないか、儂も一寸、びっくりしたぞ。ぬし程の者の片手を捥ぎ取る相手だとは・・・まぁ、儂が呼ばれた訳がなんとのう解ったわい」と言いながら笑う。
「本当に天狗さんだったんですね」看護師の一人が言った。
「はい、申し遅れました。私、天狗一族の五鬼助を率いております蔵王丸と申します」律儀に答え、
「あの本部の方は」と弦泊に聞くと「儂の弟子3人が行っておる。向こうも白隙、北渡、槃蔵の九尾の狐と特殊突撃部隊、土蜘蛛の胤景いんけいの部下じゃな、彼らも重傷であったらしい。白隙に至っては、毒気を喰らい、優子殿と優介殿に治癒して貰い回復に向かっておるらしい」と言うと
「九尾の狐、土蜘蛛・・・そんなに居るんですか。優子殿と優介殿って」看護師が言っている。
「九尾の狐は、人間の女子には、人気があるようじゃな」弦泊がうっとおしそうに言う。
「優介殿 儂らは、兄貴とよんでおる御方よ、優子殿は、姫様じゃ、2人共、人じゃよ。と、儂も本部へ一旦、戻らねば成りますまい、今日の所は、これにて暇致します。間違い無く、ここが前線基地になると思われます。其の時にもよろしく御願い申します」弦泊と医師、看護師に頭を下げるとテントから出て行く、医師、看護師も追いかけて出て行くと
「ひとまず、さらばでございます」と言い、左手で空を仰ぐと瞬時に消えた。



本部前、上空に蔵王丸が現れ、静かに降下し、地面に降り立ち、作戦司令部に歩きだす。
「おう、太郎丸、無事だったか」テントに入り、いきなり声を掛ける。
優子が走り寄り、腕、治った?と聞くと姫、御心配御掛けしました、ただいま戻りました、と答えた。
「腕が生えるからってむちゃし過ぎだぞ」優子が言うと、
「すいません。どうしても一矢報いたくて・・・気をつけます。ですが、これで奴の死角が出来た訳ですから兄貴の反撃が少しだけ楽になったかもわかりません」蔵王丸が言った。
「ありがとう、何も言えないな」優介が言い、「あとは、白隙さん、来牙さん、槃蔵さんの3人だな」
優介、優子、胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙、鵬辰、権現狸、太郎丸、特殊突撃部隊10人
の20人が揃った。
「先ずは、がしゃどくろ 奴を何とかしなければ確実に全滅する」優介が全員を見渡しながら言った。
特殊突撃部隊隊員の一人が手を挙げて「私のこの鬼の目に奴が押し潰された時に骨の7つが禍々しい黒い炎の様な物が見えたんですが、何か解る方居られませんか」
優介が
「其れか、其れが奴の本体か」と言った。
「どの部分だった」胤景が聞くと
「首の根元辺りでした」
「鬼とはそんな物まで見えるのか。流石に妖最強の魔物だ」白雲が言うと
「だから滅殺出来なかった。バラバラにする以外に手立てが無かったんじゃよ」といつの間にかテントに入って来た槃蔵が言った。
優子が「槃蔵さん、大丈夫ですか」と聞くと「歩くのはまだちいーと辛いのぉ」と微笑みながら言い、「もう一人ベットで起きた奴もいるわい」と言った。
「其の7つの骨を叩いて結界に閉じ込め怨念と成った魂を滅殺すれば良いのか」
権現狸が言うが 「結界内で術を使える者が居ない」白愁牙が言う。
優介が「そうか、そうだ、この手が有る。結界を一度解く。聞いてくれ。太郎丸に術を使って押し潰して貰い、鬼の目でどの骨かを蔵王丸かこの俺に伝える で俺達の何方かが其れらの骨に結界を張ると怨念の魂がその結界から逃れようと骨から抜け出る。抜け出た所で一度結界を解き、其の瞬間に胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙、鵬辰、権現狸、太郎丸、特殊突撃部隊隊員達の持つ其々の最強の技を持って7つの穢れた魂を打つ。此れなら行けると思う。7つが集まれば強力だがバラバラの単体相手なら貴方達の力で何とでも出来るはずだ」と作戦を伝えると
「誰と誰が組むかを考えれば良いだけじゃのう。良い策だと思う。決め手はタイミングだけじゃ、練習せねばなるまいて」槃蔵が言った。

編成

優介、優子の見守る中、胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙、鵬辰、権現狸、太郎丸、蔵王丸、特殊突撃部隊10人は、テント前の空き地でコンビネーションの訓練を始めた。
白雲、必殺の火炎は、白い炎だ。白隙の白式牙突は、体ごと突っ込んで行く技だが規模が違う。辺り一面が炎に包まれてしまう、通常では火が点き燃え上がり炭となって燃え崩れ落ちるが、彼はこれをコントロールして矢の様な炎に変えて発射した、20m程向こうに立っている木が、炭化を越え、蒸発した。驚くべき燃焼温度だ。
凍次郎の凍砕は無色の寒波を発生させるこれも来牙の凍牙に比較出来ない、絶対0℃の強烈な冷気だ。世の中の全ての物質を瞬時に凍らせる容量と温度を持っている。驚くべきは、温度もそうだがその容量にあった。白雲の隣の木を狙い一点集中で狙い打つとこれも凍ったを越えて半透明となって崩れ落ちた。
権現狸はぶちかまし、体を金剛に変えて傍の木にぶつかって行くと木が粉砕された。
白愁牙の炎の盾、通常は、縦に使い壁を形成するのだが、水平に凪ぐと傍の木、5本が炎に依って切断された。焼き切った跡が残って焦げ臭い匂いが立ち込める。優子が咳をすると蔵王丸がその木を結界で囲み、6つに割って内部に雷を起こして煙を消すと匂いも消えた。プラズマで匂いまでを分解した。
魏嬢は、片手で無造作に手を握ると水を出し残り火を消した。空気中から掌のひねりだけで水を集めたのだ。特別な事は、何一つしていなかった。白愁牙が、「すいません、まだまだですね」と謝る。
優子、特殊突撃部隊隊員達は、あっけにとられて見ていた。
「すごいですね、特に白雲さんと凍次郎さん、あの2人が遣りあって回りが荒れ果てた理由が何となくわかりますよ、あの調子で遣ったんなら溜まったもんじゃないでよね」優子が言い、「不思議なのは、蔵王丸さんと魏嬢さん、手品を見ている見たいですね」
隊員達も「凄い」「まるで次元が違う」等、其々に言っている。
「でもね、優子、隊員さん達、彼らは、まだ変化していない状態であれなんですよ。変化すれば今の3倍いや10倍の力技が可能になるよ。俺が知ってる限りで魏嬢さんがその気になれば池や沼の1つや2つ簡単に作ってしまうよ。彼らが敵で無くて良かったよ」、「本当」優子は、短く答え(この集まった友達は優介の生き方の結果なんだよね)と思い心が熱くなった。
隊員達が一列に並んだ。鬼の力、目が2人、腕が1人、手が1人、足が2人、念動力が1人、空間移動が1人、近時間予知が1人、千里眼が1人。
目は魂を見る事が出来、腕は怪力、手は能力変化、足は、俊足の者と怪力を発する者、念動力は、物体拘束や移動させる事が出来、空間移動はテレポーテーション、近時間予知は、相手の攻撃が先に見え、千里眼は、どんな物でも見通す。
足と腕、空間移動、千里眼、近時間予知は、遊撃隊に配備された。
残りの目の2人、手の1人、念動力1人が 対がしゃどくろに配備された。
妖達も蔵王丸、太郎丸、白雲、凍次郎、が 対がしゃどくろに成り
胤景、魏嬢、白愁牙、鵬辰、権現狸が遊撃に回る。
優介は、対がしゃどくろに参加し、優子は、胤景が護衛する。
作戦指揮は、胤景となった。
其々のチームごとに別れてミーティングと個別作戦を立てて行く。



玉賽破(ぎょくざいぱ)は、野狐(やこ)2匹の前に居た。
右目は、治らない、完全に失明している。
野狐の一匹が、「大丈夫で御座いますか」と聞くと「片目などどうでも良い。あれは、何だ、妖狐と土蜘蛛だったぞ、奴らが何故、徒党を組む、組むからには、その上に何者かが居るはずだ。情報が入らぬ。何故だ」片目を赤く爛々と輝かせて怒りを2匹にぶつける。
「情報が入らぬのは全く持って我らにも解りませぬ」
「あちらは、我らの場所を完全に把握しておりました」野狐2匹が交互に答える。
「このままでは、済ませぬ。残っている妖共を仏ケ浦に集めろ。奴らを根絶やしにして裏で動いている奴を引き摺りだしてやる」玉賽破が前足で地面を打ちながら言った。
「がしゃどくろを前線に配備させましょう。奴らは物理的な攻撃を得意とし、霊衝なる攻撃が脆弱と見て間違いないかとおもわれます。この後に及んでその様な人材を探す暇等無いと思われます」
一匹の野狐が言うと走り去った。
旧鼠(きゅうそ)は、その会話をじっと道路の上から聞いていた。
(斯眼ちゃんに知らせないと)と心の中で思い。姿を消した。
旧鼠は338号線に沿って近道をしながらむつ市役所脇野沢庁舎に走った。
妖仙の弦泊に逢い、弦泊の力を借りて本部のある湯野川温泉へ転送して貰った。
旧鼠は机の下に居た斯眼を見つけ、2匹で優介の元へ走り、事の詳細を伝えると旧鼠がそのまま寝てしまった。「ほっとしたんだろう」斯眼が言うと、優子は、タオルで丁寧に旧鼠を包み、「ありがとう、御疲れ様」と小声で言い、医療テントの奥のベットに連れて行き、後を付いて来た斯眼も同じベットに乗せ、「ゆっくりしててね、起きたらチーズか何か食べる物持って来て貰うからね」と言い、テントを出て行った。
「胤景さん、どうする」優介が言う。
「遊撃隊を2つに別けたいな、だが338号線はカーブが多いから双発ヘリCH-47Jしか使えない」と言い、千里眼を呼んで家ノ辺周辺を探索させる。「敵、いません」との報告を受け、特殊突撃部隊の遊撃隊に物資のCH-47Jでの搬送を命令し、白雲、凍次郎に護衛を頼んだ。白雲、凍次郎の両名は、快く受け、6名がヘリに乗り込み向かう。
約10分程で到着すると隊員達は、手早くテントをたたみ、ヘリに運び、重機、軽機関銃等の弾薬類も運び入れ、20分程で完了してしまった。その後、CH-47Jは、むつ市役所脇野沢庁舎に飛び、其処にテントを張り、物資を運び込み作業を無事、完了すると海上自衛隊大湊基地から高機動車、高機5台を運んで来た。先行車の(新)73式小型トラックに運転手達は、乗って帰って行った。
弦泊が、「おい、白雲、凍次郎ちょっと来てくれ」と言うので医療テントに入って行くと医師2名、看護師5名が立って待っていた。
弦泊が邪魔くさそうに「この2人が九尾狐の日本最強の2強だ」と紹介している。
「御無沙汰しております、弦泊様、ところでなんですか、これ」白雲が聞くと
「いやな、九尾の狐ってのは、この国の女子達にも人気でな、一度見て見たいと言うだけの事なんじゃ」と少し、照れながら言うので、
「御初に御目に掛ります。天狐の白雲と申します」
「初に御目にかかります。天狐の凍次郎と申します」嫌がらずに丁寧に挨拶をする。
其れを見て 「お前さん方、いつに無く丁寧ではないか」と驚くと
「いや、姫におこられますので」と凍次郎が言った。
「え、姫って人間ですよね」看護師の一人が恐る恐る聞くと、
「はい、兄貴の嫁になる方で・・・ある意味、兄貴より怖いっす」凍次郎が答えた。
隊員の1人が「白雲さん、凍次郎さん完了しました」と呼びに来たので白雲、凍次郎は、1人1人と順番に握手して今後、此処が前線基地になりますが、御安心下さい。此処まで戦火が広がらない様にしますと言い、それでは、作戦展開中ですので失礼致しますと頭を下げヘリに走って行った。
「すっごい紳士ですよね」看護師の1人が言うと
「ぷっ」弦泊が飲んでいたお茶を噴出して「あいつらが・・・こりゃ良いや」と膝を叩いて大笑いし、
「え、でも紳士でしたよ」
「あいつら元々仲が悪くてな、喧嘩をすると直ぐに山の1つや2つは、草も生えない荒地にしおった物よ。今は、姫が居るから完全に奴らは、仲良くなったけどな」
「姫様に逢ってみたいわ」
「儂もまだ逢うた事が無いんじゃが、儂の友達の空狐と白澤も完全に下について働いておるわ」
「え、空狐や白澤も実在しているんですか」
「しとるよ。お前さん達も何処かですれ違っておるかも知れんぞ。記憶に残らない存在に成っておるから覚えてられないだけなんじゃ。さて、戦が始まると忙しく成るかも知れんから今の内にゆっくりしよう」と言い、医師2名、看護師5名を従えて控え室に戻って行った。

配備

「佐井村立福浦小中学校横の駐車場に輸送へり、CH-47Jを2機向かわせよう。それとCH-47J1機をむつ市役所脇野沢庁舎に向かわせる。こっちの戦力は、この土壇場だが、小数精鋭で挑む」胤景が全員の前で言う。
「奴らは確実にがしゃどくろを先鋒に持って来るはずだ。我々が苦戦していたのは確実に知られていると思って間違い無いだろう。そこで蔵王丸、太郎丸、白雲、凍次郎、特殊突撃部隊の目の上田と藤堂、手の上條、念動力の山田は、対がしゃどくろ隊としてむつ市役所脇野沢庁舎に向かうそれに」と続けている時、に白隙と来牙がテントに現れた。
「私は、もう大丈夫です」白隙が言いながらミーティングに加わった。
「後衛援護なら問題ありません」来牙もミーティングに加わる。
白雲は「行けるか」と短く聞くと「はい、御迷惑を御掛けしました。兄貴、姫様、ありがとうございました。それに白雲様、胤景様、凍次郎様、魏嬢様、白愁牙様も御手数を御掛けしました」と頭を下げた。
白雲は「胤景さん、凍次郎さん、蔵王丸さん、太郎丸さん私の代わりに白隙を使って下さいませんか」
頭を下げると「白雲、さん付けは止めてくれ。確かに俺と白雲が同じチームってのも偏ってるしな、良し、俺が白隙と来牙を見てやろう」凍次郎が言い、「いいだろ胤景」と言い、強引に決めてしまった。
蔵王丸、太郎丸、凍次郎、白隙、来牙、特殊突撃部隊の目の上田と藤堂、手の上條、念動力の山田がむつ市役所脇野沢庁舎 配備に決まる。
胤景が「鵬辰、千里眼の山城、近時間予知の伊庭こっちに加わってくれ」と言い、「後は、俺と一緒に 魏嬢、白愁牙、権現狸、白雲 特殊突撃部隊の足の新と斉藤と腕の柳、空間移動の林が、佐井村立福浦小中学校」「斯眼、槃蔵行けるか」と聞くと「良し、行こう」と返事があった。
「これが最終戦だ。この人数のみで行く」胤景が決定した。
「特殊突撃部隊総員、装備点検開始、残りの非戦闘員は、むつ市役所脇野沢庁舎には、高機動車、高機5台が配備されている高機に12.7mm重機関銃M2を装備する。佐井村立福浦小中学校には、C-1輸送機を下ノ崎から侵入させ12.7mm重機関銃M2を装備した高機2台と84mm無反動砲3機を搭載し、338号線に空中投下で資材を投下する。其々に弾薬、手榴弾一個小隊分を配備、C-1輸送機は、400m程しか直線が無いから気を付ける様に。以上 作戦展開開始、明朝1000時攻撃開始、解散」胤景が発した。
特殊突撃部隊全員が、走り、テントから飛び出て行く。
その他の隊員達も其々が走り、武器庫に行く者、ジープで海上自衛隊大湊に輸送機C-1に装備を準備に行く者等、一気に緊張が高まり、喧噪に包まれた。
「兄貴、玉賽破のしっぽ一つが、砲撃に対して絶対の防御になっています。また、御聞きの通り一本は、雷を発生させます。まずは、この2本を何とかしなければなりません。佐井村から行く我々には直接 玉賽破とぶつかる可能性があります。兄貴と姫は、私が絶対に守り抜くつもりです。よろしく御願いします」胤景が言うと「こちらこそ宜しく御願いします」優介が言った。
「一寸、早いけど取り敢えず、皆で晩御飯にしようよ」優子が言い、食堂のあるテントへと移動し始めた。彼女の後ろをぞろぞろと歩んで行く。
「獨雅、賽嬢」魏嬢が呼んだ。
「はい、御嬢」
「わらわは、戦闘に行く。着替えを用意しなさい。其れとこの子らを頼む」
言いながら胸の隙間から白い蛇を2匹出し2人に渡した。
「私達も御共します」獨雅が言う。
「成らぬ、万が一の時は ソチが我が一族を率いらねば成らぬ故、わらわだけで良い。明朝10時に出陣する。用意せよ」と言い放つ。
優介と優子は黙ってその会話を聞いていた。
獨雅がそれに気付き、
「優介と優子と同じチームで良かった」少し照れながら言うと優子が
「うん、良かった。御飯 行こ」
明るく言って 魏嬢と獨雅の手をとると魏嬢が賽嬢の手を取り4人仲良く食堂に入って行った。優介は仕方が無いとは言え心から妖達に謝りたい気持ちで一杯になる。
そんな優介の肩を後ろから手を添え、白雲が「兄貴、兄貴の気持ち良く解ってますよ、なぁ、みんな」と声を掛ける。
優介が振り向くと白雲を始め 蔵王丸、太郎丸、凍次郎、白隙、来牙、白愁牙、権現狸、斯眼、槃蔵、胤景がにこりと笑って居た。
「俺達は、そんな兄貴が好きなんだ」
白雲が続けた。
特殊突撃部隊の上條が走って来て
「後で俺達も御一緒させて下さい。ゆっくり食べていて下さい」と言い、走り去った。
「俺は、幸せ者だ」優介が言う。
「さぁ、兄貴 行きましょう。今日の晩餐は賑やかに成りそうだ。特殊突撃部隊の連中も来るし、うん 楽しみだ」凍次郎が言った。



「玉賽破様」野狐が1匹走り来んで来た。
「なんじゃ」
「物見の者が 青森市内で消息を絶っております」
「奴等に殺されておるわ、もう良い。其れより配備は 終わっておるのか」
「集結して来て居ります。ですが 先の戦闘で大半が殺られ残る妖共の数、30と少しかと」
「この道何と言ったか・・・338号線だったか、此処から南向きに配置させろ、がしゃどくろもその先頭集団に居らせろ」
と言い仏ケ浦を見下ろす場所に横になり、
(何故、何処からこの計画が察知されたのか)
と独り言を言いながら考える。

開戦

輸送へり、CH-47J 3機が湯野川温泉の空き地、駐車場に降り立った。
戦闘員の全員が、ヘリの周りに集合し、整列した。
彼らを取り巻く様に非戦闘員の全員が周りに集まっている。
胤景、優介、優子の3人が戦闘員達の前に並ぶ。
胤景が「之より最終作戦を行う。各自、モチベーションを高め自分の仕事を行え」と激を飛ばした。
優介は「玉賽破の野望を阻止する為に此処に集まって呉れた全員に感謝する」頭を下げ、「この戦いを最終戦とする為、玉賽破を完全に叩き潰す。だが、忘れないで下さい。私は、貴方達を危険に晒す事に成ってしまった、貴方達其々、怪我をしない様に気を付けてください。相反する事を言っている事は、重々解っています。ですが守って下さい。貴方は貴方の隣の人を守って下さい、それがこの局面を打破し、勝利する事の出来る最良の方法と考えています。私達は、1人で戦う訳ではありません。此処に集まった戦闘員、非戦闘員全員と共に戦います。その上で勝利を勝ち取り、1人1人の大切な人を守りましょう」と演説した。
戦闘員、非戦闘員全員から拍手が沸き起こり、勝鬨(かちどき)が上がる。
胤景が「戦闘開始、行くぞ」と号令を掛けると、戦闘員達は一斉に其々の機体に乗り込んで行き、胤景、優介、優子も機体に乗り込んだ。



玉賽破は、東の空を仰ぎ見た。横にいた野狐も空を見る。
CH-47J、ヘリの機影が2つ見えた。
玉賽破が「来たか、良し、全員に伝えろ、戦闘開始だ」と言い立ち上がり338号線を南へ歩き出した。
この時、玉賽破は、決定的な見落としをしていた。ヘリが一列に並んで飛行していた為、実際は3機だったのだ。途中で別れ、2機と1機に別れ、2機は、むつ市役所脇野沢庁舎に1機は佐井村立福浦小中学校に向かって行た。



むつ市役所脇野沢庁舎に到着した2機から
鵬辰、太郎丸、凍次郎、白隙、来牙、特殊突撃部隊の上田、藤堂、山城、伊庭、上條、山田の11人が降り立ち、高機4台に装備を移し替え出発準備を急ぐ。
山の向こうから鳥達が飛び一斉に此方に飛んで来て、飛び去って行く。
鵬辰が「来るぞ、急げ。押し返すぞ」大声で叫んだ。
医師、看護師達に「高機1台は、置いて行きます。けが人搬送や退却用に使用して下さい」と言いフォーメーションを大声で戦闘員に伝えた。「前2台、斜め後ろに各1台、行くぞ」と言った。



佐井村立福浦小中学校西の空からC-1輸送機が超低空飛行でやって来た。
先にCH-47Jで到着して居た特殊突撃部隊の新、斉藤、柳、林の4名は、道路の脇に待機している。
胤景、蔵王丸、太郎丸、白雲、魏嬢、斯眼、槃蔵、の7名が見守っていた。
優介、優子も迷彩服に着替えこれを待つ。
12.7mm重機関銃M2を装備した高機2台が、パレットに衝撃吸収部材を装着した台座に乗って道路の上を滑って来る。槃蔵が「上手いな、あのパイロット」と呟いた。
特殊突撃部隊隊員達が走り寄り保護装備を外し、高機2台を運転して此方に走って来る。
13名、全員が乗車すると338号線に出て左折し、南方向に向かった。



小さな橋を越えた所で鵬辰達が会敵した。
先頭車2台の高機2台に搭載された12.7mm重機関銃M2が、火を噴く。
発射音の後、ピーと空気を切り裂く音と共に連続して敵の前衛を撃ち払って行く。
鵬辰がその後ろを走って来る妖達に向けて84mm無反動砲を発射する がしゃどくろ正面に着弾した。
斜め後方左右の高機2台の上に白隙、凍次郎が其々立ち、向かって右の山側上から来る妖達は、火炎の剣撃を浴び切断されて行く。左から来る妖には、凍次郎が術を放ち氷となり其れが振動で砕けて行く。
驚く事に凍次郎は、軽く握ったこぶしに人差し指と親指を立てた鉄砲の形を手で真似て人差し指をピンポイントに敵に向け一体一体確実に仕留めていた。
ついにがしゃどくろの正面に到達した。
他の妖達は、がしゃどくろの後ろに下がる。
高機4台が停車する。
鵬辰、太郎丸の前に凍次郎、白隙、来牙が道路に降りたった。
上田、藤堂が、鵬辰、太郎丸の背後に居る。
白隙が命がけで奪った がしゃどくろの腕が治っていた。新しい骨がその腕となったようだ。
白隙が「くそ、腕が再生してやがる」と小声で叱責する。
高機4台の12.7mm重機関銃M2に山城、伊庭、上條、山田の4人が張り付き前後左右を警戒している。
がしゃどくろが 雄叫びを上げた。



338号線を高機2台が疾走する。山間の道に4気筒ディーゼルエンジンの音が響いている。
玉賽破の横にいた野狐が、「後ろから車が近づいております」
「観光客だろ」玉賽破が言う。
「気に成ります。先程、双発の飛行機が低く飛んでおりましたので。私、見て参ります」
言い、体を捻りながらジャンプして来た道を引き返して行った。
高機が八柄間山を左周りに周り込んだ時、前方から疾走して来る野狐とぶつかった。
先頭の高機に搭載された12.7mm重機関銃M2が、火を噴いた。横に薙ぎながら連射する。
野狐が立ち止り、「やはり、挟み撃ちか、こちらが本隊って事は無いだろうな」と呟いた。
野狐が強く上下の顎(あご)を噛む、
野狐の体が2倍、3倍と膨れ上がった。
前足で地面を叩くと道路のアスファルトが捲(めく)れ上り盾とする。
白雲が「ふん、小癪な、野狐の癖に。今までの相手と一緒にするんじゃねぇ」
いつもの温厚な物言いからは想像出来ない怒りを露わにして高機の後部ドアを開けて出て行く。
高機の横に来て おもむろに右手を斜めに振ると野狐の盾にしていたアスファルトが、鋭利な刃物で切った様にバッサリと切断された。切断されたアスファルトは、落ちてから切り口が溶けていった。
野狐は後ろに飛んだ。左肩が少し切れて毛が燻っていた。
「こ、これは、もしや火炎の白雲か」野狐が呟く。
「そうだ、俺が火炎の白雲だ」と言いながら斜めに薙いだ右手を水平に往復させた。
野狐は「ぐっ」と声に成らない音を伴ってその首と両足を切断された。
切断された頭が(玉賽破様にこの事を)と考えた時に
「そうはさせる訳にいかん」と言い、掌をその頭に向けるとその頭が蒸発した。
白雲は、高機の方へ向き直り「さぁ、急ぎましょう」と言いながら急ぎ、乗り込んだ。

戦闘

巨大ながしゃどくろの体躯の前で凍次郎、白隙、来牙が自分達の技をコラボする。
凍次郎が右足を大きく後ろに出し、両手を大きく前に出し、一気に上に上げ、両手を前に突き出す。
がしゃどくろの上部の空気が波打った。
温度の全く違うエリアが発生し蜃気楼の様な現象が起こる。
空気が凍る、空気中の水分が雪化しダイヤモンドダストが発生するが、其れすらも凍り降り落ちて来る。
恐ろしい程の冷波が上から降りて来た。
凍次郎の必殺技、凍砕だ。
彼の二つ名になった技であった。
この技を受けて過去、立って居た者など無い、絶対零度の物質すべてが凍る冷波の攻撃である。
がしゃどくろの巨大な体が上から急速に凍って行く。
頭蓋の頭頂部から肩、背骨、肋骨、腰骨、大腿骨から足首、つま先へとどんどん凍って半透明になって行く。地面のアスファルトもピキピキと音が鳴っている。
太郎丸が「敵じゃ無くて良かったな」誰に言うでも無く呟いた。
パキッ、バキバキ、ピキッ、ガシャーン、カランカラン
がしゃどくろの最も重量の掛る足首がガラスが砕ける音がする、砕けた音だ。
足元を失い、その上に乗った腰骨が落ちる。
腰骨に引きずられ上半身が落ちて行く。
衝撃で背骨が砕けた。
鎖骨が落下し、頭部、頭蓋は元ある場所から段々に落下して行き氷ついた道路で砕けた。
その間中、カシャカシャパキパキと砕ける音がしている。
半透明、そう曇りガラスの山の様な骨の山が目の前に盛り上がっていく。
白隙が骨喰藤次郎を左手に下げ、右手で抜くとその山に向かって熱量を極端に抑えた十文字剣撃を連発する。妖気を纏った剣撃が飛んで行く。
一発、山が弾け飛ぶ。
一発、弾けた山が更に粉砕される。
一発、奥の山が弾ける。
計5発で完全に平坦化した。
来牙も長篠一文字を下げ、ゆっくりと抜刀し袈裟に構えた。
ユラユラと刀の刃から靄の様な物が纏わりついていた。
斜めに振りおろし、横に薙いだ。剣撃が飛んで行く。
がしゃどくろの後ろに隠れていた妖達が凍る。
次いで薙いだ剣撃は、がしゃどくろの後ろに凍りの厚い壁を作った。
凍次郎を真ん中に右後ろに白隙、左後ろに来牙が其々待機し警戒態勢を取った。
凍次郎が「太郎丸、上田、藤堂準備してくれ」と後方に言いながら三角形のフォーメーションを維持しながら後方に下がって行く。
替わって太郎丸が先頭に立ち、上田、藤堂がその左右に分かれて少し後ろで待機する。
凍次郎が「山城、伊庭、上條、山田、後方左右、上部は、問題ないか」と声を出す。
山城、伊庭、上條、山田が其々に「はい、現在侵入者無し、オールクリアです」と答える。
凍った骨が動き出した。
太郎丸が「上田、藤堂、頼む。遣るぞ」と小声で言うと上田、藤堂は無言で頷いた。
藤堂が「光ってます。左の2つ目、その後ろもです。5つの光が見えます」
太郎丸が「上田、どうだ」
「こっちは、光ってませんね」
太郎丸が「左のを結界で包むぞ」
2人が、「はい」と答えると凍次郎が「白隙、準備しろ、蒸発をイメージしろ」と叫んだ。
太郎丸が両手を胸の前に持って行き印を結び出し、結ぶ印の速度が上がって行く。
太郎丸の周りに印が現れ、その印が梵字に変化する。
梵字が太郎丸の周りをぐるぐる回り出し、がしゃどくろの氷の塊2つを囲んで行く。
丸く回っていた梵字が停止して四角く停止した。
内部が黒い靄で充満して行く。
内部にパチパチと光る稲妻の様な火花がうっすらと見える。
その四角のキューブが2つゆっくりと上昇して太郎丸の前に並ぶ。
驚く事に太郎丸は、2つの結界を形成させ、それを同時に操っていた。
これは、現在居る自分の世界と其れとは別にもう2つの世界の時間までを操っている事に相当する。
蔵王丸は、1つが限界であった。だが、太郎丸は、難なく2つの結界を形成している。
凍次郎、白隙、来牙、鵬辰は、目を丸くしてその光景に見入る。
太郎丸は、「えっ、何か変?一寸待ってねもうじき安定するからね」としゃべっている。
キューブが2つ並び、内部でプラズマの発生が激しく成り、それに連れて内部が透明化して行く。
太郎丸が「透明の方が見やすいでしょ」と驚くべき発言をしながら両手は印を切り結びながら「どう、出て来た?まだ2つだからしんどく無いんだけど熱いよ」と額から汗を流しながら言っている。
白隙は、抜き身の刀を鞘に納め腰を落とした。
居合の構えにし、目を閉じる。
右手を軽く柄に当たるか当たらない位置にし、やや左手寄りにした位置でとまった。
左手に持った鞘が赤から青、青から白色に変化し、眩しい光を発している。
来牙が「あいつ、何時の間に新技を・・・やっぱ、凄えなぁ、あいつ」と呟く。
凍次郎が、後ろから黙って来牙の頭を叩(はた)き、「あいつは、暇があったら刀を振っている、お前もちょっとは見習え、あの勤勉さを」と言った。
藤堂が「キューブの中で何か動いてます。出ます。キューブの中で骨から分離して集まって来ています。黒い靄が集まって丸くなって来ています。骨からの靄の出が少なく成って来ました。靄が固形化して来ました。もう少し、もう少しでキューブ2ケ共、中の固形化が完了します・・・・・今です」
太郎丸が結界を梵字に変化させ、印に戻した。
印が両手に吸い込まれる様に掌に消えて行く。
結界が解けた。
白隙がヒューと言う呼吸音の後、目を開き抜刀した。
同時に2本の白い閃光が2つのキューブを切り裂いた。
電光石化の燕返しであった。
藤堂が「やった、靄の固形物が粉になって蒸発して行く。凄い。完璧に焼失しました」
興奮した声で叫んだ。
凍次郎が、「あと2つ、全部で7つだったよな」と言うと
上田が、こっちには無いですねと言い、藤堂ももう無いと答える。
鵬辰が「切っちまったんじゃないのか」と言い、「このままだと邪魔だから山側にどけるぞ」と言い両手から蜘蛛の巣を出し、それをガラスの塊の様な堆積物の真ん中に張り、一気に横方向に引っ張ると真ん中が綺麗に無くなり、山の斜面に張り付けた、そして「乗車するか」と言い、隊員達と太郎丸が乗車した。
凍次郎が「おい、来牙、お前一番後ろの車に乗れ、後ろからの敵を全部殺っちまいな」と言い、「白隙、前の氷壁を壊せ、侵攻するぞ、こっからが本番だ」と言い、変身する。
凍次郎の肢体は、真っ黒な毛に覆われた9本の尾を持つ巨大な狐へと変貌する。
「はい」と返事をし、白隙も変化する。
口に抜き身の骨喰藤次郎を銜えた白い毛に覆われた9本の尾を持つ狐だ、凍次郎に比べ2周り程小さい。
太郎丸が車内で「取り敢えず あの2人に任せようぜ」と言い、近くの鞄からおにぎりを出して、出かける前に10ケ程、作って貰ったんだ、食べる?とか聞きながら大きなおにぎりをモシャモシャと食べ始め、あ、これ昆布だ、おいしいなぁと独り言を言いながら右手の指を口に入れながら左手で2ケ目に手を出している。

囲繞(いにょう)

玉賽破は、野狐が帰って来ない事に疑問を思い、338号線の脇道に隠れた。
暫くすると4気筒ディーゼルエンジンの音と共に自衛隊車両2台が走って来る。
そして後ろの車両に乗っている人間2名を見て理解する。
(片方の女、もしや儂が印を付けた女ではないか、と言う事は能力に目覚めたと考えて間違いがあるまい、其れとは別にあの男、なにか強烈な霊的能力を感じる。こいつか、此奴が全ての妖達を先導して居るみたいだな・・・直ぐにでもあの女を喰らい、能力を我物としたいが・・・今は、あの女の能力よりもあの男の能力の方が必要だ。あの男を喰うには・・・どうする・・・女を人質にするか)と言い、その脇道に自分のしっぽを1本噛み切り咥えると宙に投げる。
そのしっぽが孤を描いて落ちて来ると玉賽破より3周り程小さい玉賽破が立っている。
双方の玉賽破が顔を見合わせ、頷くと小さい玉賽破が飛び上がり、消える。


野狐を撃破して順調に338号線を飛ばす2台の高機。
前を走る車両には、胤景、白雲、蔵王丸、新、斉藤が搭乗し、後ろの1台には、柳、林、魏嬢、斯眼、槃蔵、優介、優子が乗車している。
先頭車が、左へのヘアピンを曲がった時である。
いきなり先頭車の右側面に玉賽破が現れ、後ろの車両にぶつかって行った。フロントガラスをすり抜け、まるで幻(まぼろし)の様な透明感を持ちながら林、魏嬢、槃蔵をすり抜け、優子に掛る。
先頭車が停止する。中から胤景、白雲、蔵王丸、新、斉藤が走り出る。
半透明の玉賽破が、優子の腰部に噛み付くと優子共に透明感を持った幻の様になり、そのまま車を抜けて行く。優子が「あっ」短い驚いた声を上げ、気を失った。
車内の全員の時間が止まったかの様に「・・・・」、一瞬、固まる。
間(ま)を置いて優介が「ゆうこー」と叫び、「車を止めろー」と大声で叫ぶと走る車体の後部ドアを開けて高機の後ろに転がり出る。
優介は、玉賽破が優子を咥えてこちらを見ているのをその目に捉えた。
2台の高機が停車し、中から全員が降りた。
全員が降り立った時、玉賽破が「この女は、頂いて行く。儂が先に目を付けておったからのぉ。喰ってこの力、我物にする」と言うと佐井村の方向に駆けだした。
白雲が走り出す。
走りながら変身して行く。綺麗な金色に輝く毛を纏っている。
玉賽破も金色だが、白雲に比べると黒っぽい印象を受ける。
蔵王丸が宙に舞う。飛びながら変身して行く。どんどん体が膨張して行く。変身しながら追いかける。
胤景が「乗車」と声を掛けるとほぼ同時に全員が乗り込み、高機がUターンして追いかける。
高機からは、白雲の姿は、もう見えない。
白雲は玉賽破に追いついていた。
後ろからその背中に爪を立てる。
玉賽破の背中に3本の赤い炎が点く。
熱さに堪らず喘ぎ、空中で絶叫した。
牙から優子が剥がれ落ちて行く。
蔵王丸が追いついた。
右手を振る。
突風が、優子の体を跳ね上げ、蔵王丸の方へ飛んで行く。
蔵王丸が手を伸ばした時、目の前から金色の影と共に優子が消えた。
玉賽破が優子を口に咥えている。さっきの玉賽破より遥かに大きい躯体をしている。
白雲と殆ど変らない。
赤い炎が点いた玉賽破は、落下して行く途中でしっぽの形になり、燃え尽きて消滅した。
高機2台が空中戦の下に着いた。
魏嬢が飛び出ると変身して行く。
尾骶骨が伸びる、手足が体に呑みこまれて行く、胴が丸く太くなっていく。
巨大な蛇に変って行く。10m、16m、20m、23m、25mとどんどん大きく成って行く。
真っ白な穢れの無い鱗が全体を覆っていて日の光に反射し、キラキラと輝いていた。
首を持ち上げる時に「優介、乗れ」と言う。
優介が頭に乗る。勢いよく跳ね上がると空中に踊り出た。
玉賽破の真正面にその頭が向く。
玉賽破が、立ち止まる。
胤景が下から蜘蛛の糸を投げつけた。
玉賽破の全身が覆われると思われた時、玉賽破のしっぽが動き、その糸を消滅させた。
蔵王丸がそのしっぽに向かってボールを投げた。カラーボールだ。
しっぽに当たり黄色く染まる。玉賽破は、後ろを振り向き首を傾げる。
斯眼を抱いて槃蔵が飛び上がりながら変身する。赤茶色の毛を纏った大きな狐だ、しっぽも9本あった。
槃蔵が参ると言い、玉賽破に飛び掛かる、口には、千鳥を咥えている。
空中で体を捻ると斯眼が隙を着いて玉賽破の背中に飛び乗った、一気にしっぽに噛み付いて行く。
1本、また1本と8本全てを噛み終わり、1本にしがみ付きながら蔵王丸にこれだと叫ぶ。
蔵王丸がそのしっぽに向かってボールを投げる、今度は、青だ。
ボールの当たる直前で斯眼は、空中に踊り出る。
槃蔵目掛けて玉賽破のしっぽが唸りを上げて襲い掛かる。
千鳥がチリチリと雷を発生させながらこれを迎え討つ。
玉賽破が、作戦を変えたのか、別のしっぽを振り出した。
蔵王丸がそのしっぽに向かってボールを投げた、今度は、オレンジだった。
槃蔵とそのしっぽが、ぶつかった時、閃光と共に槃蔵が弾き飛ばされた。
魏嬢の上で胡坐をかきながら印を結んでいた優介が【五行束縛符】3枚を飛ばす。
其々が、黄色、青色、オレンジ色のしっぽに飛んで行く。
其々のしっぽに張り付いた瞬間に埋まって行く。
玉賽破がギャーと一声泣く。3本のしっぽが黒く染まり、力無く項垂れた。
優子がその牙から滑り落ちる。
蔵王丸が右手を振ると突風が吹き、優子の体を風の渦で包み込み そのまま、魏嬢の方へ飛ばす。
優介がしっかりと抱き留め、自らの上着を脱いで、優子の体を自分の体に縛りつけた。
高機4台が新に到着した。
がしゃどくろ討伐チームだ。
凍次郎が走って来て、そのまま跳躍し、空中に踊り出る。
太郎丸は高機の後ろに立ち、変身し、玉賽破を挟んで蔵王丸の逆位置に飛び上がった。
地上では、鵬辰が、槃蔵と斯眼を蜘蛛の糸で受け止め地面に降ろしている。
特殊突撃部隊の新、斉藤、柳、林、上田、藤堂、山城、伊庭、上條、山田の10人は、其々にM4カービンを撃ちながら後方からの敵と応戦している。
権現狸が「槃蔵、行けるか」と聞くと「よし、遣ってやる、其処の崖を駆け上がってこちらに飛べ」と言うと、千鳥を咥え直して準備する。
権現狸が走って崖を駆け上がり、飛んだ。
斯眼が「いっけー」と叫ぶ。
槃蔵が千鳥を振り切った。剣撃が権現狸に当たり、衝撃波と共に下から玉賽破目掛けて飛んで行く。
下に異様な気配を察した玉賽破が、しっぽを使ってこれを阻止する。隙だらけになっている。
蔵王丸がそのしっぽに向かってボールを投げた。
優介も印を使って【五行束縛符】1枚を飛ばした。
権現狸が当たる前に【五行束縛符】が当たる。
権現狸がそのしっぽに当たると玉賽破が、また一声鳴く。
しっぽを叩き折り権現狸が落下していった。
優子は、気が付いた。「え、ここ、どこ」と恍けた事を呟く、
「あたいの頭の上だよ。姫が無事で良かった」魏嬢が言う。
優介が、背後から「優子、そろそろ引導を渡すぞ、始めてくれ」と言う。
優子が周りを見渡して、「うん、はじめるね」と力強く言った。
胤景、鐸閃が地上から蜘蛛の糸を玉賽破に絡めて行く。
優子が、歌い始める。
腕の輪が輝きだした。
優介が縛りつけていた服を取ると優子が右手に扇子を軽く握り、舞い始める。
それを見て、優介は、肩から弓を降ろし、構えに入る。
狙いは、一ヶ所、玉賽破の首の後ろの逆毛。
玉賽破の周りは、白雲、太郎丸、凍次郎、蔵王丸が囲み、下からは胤景、鐸閃が蜘蛛の糸で縛っている。
地上の敵の妖気が優子に集められて行く。
優介は、扇子を懐から出し、それを弓に沿わせる。
扇子が、矢に変った、眩しく温かい光を放っている。
優子の集めた妖気を矢が吸い取り、さらに輝きが増す。
優子の歌と舞が終わった。
胤景、鐸閃が糸を操り、玉賽破の背面を優介に向かせる。
優介が矢を放った。
玉賽破の逆毛から眉間を光が貫いた。
斯眼と権現狸が、「やったー」と声を上げる。
玉賽破は、落下しながら分解され、粉に成り、風に舞って消滅した。
優子が優介の後ろから抱き着く。
魏嬢が地上に二人を降ろして人の姿に戻って行く。
白雲、太郎丸、凍次郎、蔵王丸も地上に降りて人の姿に戻って行く。
全員で勝鬨(かちどき)を上げた。
特殊突撃部隊隊員達も互いに抱き合っている。
優介は、全員に向かって頭を下げ、「ありがとう、皆の御かげで勝つ事が出来た」と言うと
それっきり言葉に成らなかった。
優介は、嬉しくて笑いながら、大声で泣いた。

嚮後(きょうご)

338号線を高機動車、高機6台が南下している。
乗員達の顔には、笑顔が張り付き、其々の車両で話が弾んでいる。
次のコーナーを曲がればむつ市役所脇野沢庁舎が見えて来る。
田ノ頭で338号線を右方向の道に入ると正面左手にむつ市役所脇野沢庁舎が見えた。
林の中を抜け、左に曲がりむつ市役所脇野沢庁舎駐車場に車を乗り入れて行く。
双発輸送ヘリCH-47Jが2機待機していた。
優介達23人が高機から降り、CH-47Jに向かう。
テント類は、全て積載されていた。
CH-47Jに乗って来た他の隊員達が、優介達の乗って来た高機に乗り込み338号線へと出て行く。
現場指揮官が、胤景に湯野川温泉基地の撤収が完了し、全員が大湊基地へ帰還している事を告げる。
胤景が、報告を兼ね大湊航空隊基地に行き、全員と合流の後、大湊地方総監部に出頭すると答えた。
胤景は、優介の方を向き、「兄貴、御足労ですが、私と一緒に総監部に出向いて貰えませんか」と聞くので優介は「事後処理が必要だからな、良いよ」と答えた。
CH-47J2機に其々が、別れて乗り込んだ。
優介達の乗った機には、すでに妖仙の弦泊、外科医2名とそれに看護師5名が乗船していた。
胤景を先頭に、蔵王丸、白雲、魏嬢、優介、優子、凍次郎が、乗り込む。
看護師の1人が、九尾様だっと騒ぎ、白雲、凍次郎の周りに集まった。
優介が「九尾は、モテるよな」と笑いながら優子に言うと、
「だってねー、妖(あやかし)の中で一番恐れられてる2人だもんね」笑いながら言う。
凍次郎が「姫、勘弁して下さいよ」と言うと弦泊が走り寄り、「主が優介殿、でこちらが優子殿であられるか、儂は、天日殿より依頼された妖仙の弦泊と言う者、天日殿がべた褒めされておられましたぞ」と優介、優子に言った。優介は「いや、あの方は、大げさで、困ります」と笑いながら返答する。
優子の前に看護師が2人来て、「貴女が【姫様】ですか」と聞くと優子は「ただのあだ名ですよ」と答えると胤景、蔵王丸、白雲、魏嬢、凍次郎の5名が口を揃えて
「あだ名等では御座いません、立派な我らの姫君です」
「迷彩服を着た姫が何処にいますか」優子が立ち上がる。
「だから我ら妖一族の姫君なのです。戦得ぬ姫等我らには無用、戦えて尚、我らへの気遣いがある御方、その心が無ければ我らは、認めぬ。優子様、貴女は紛れも無く我らの姫君です」と魏嬢が言った。
余りにきっぱりと言われ優子は「はぁ~、姫ねぇ、解りましたでも其れ以上に友ですよ」と言った。
(妖狐一族、土蜘蛛、大蛇に天狗の姫かぁ~)とウンザリした顔を上げ、座り直した。
「あの、御聞きの通りです」優子は看護師達に小さく告げた。



揺れる機内で優子は、優介の手を両手で優しく挟み、目を瞑った。
父が死に、色々な人達と会い、優介を探し出し、優介に惹かれていった今年の冬、優介がその生涯を通して守り続けて来た妖達との信頼関係、神様達との出会い、そして生まれた妖達との気持ちの交流、彼らは、本当に純粋だった。彼らの社会を少し見ただけであったが其処には人間社会以上の厳しさがあった。その厳しさ故の愛情、信頼に対する深さもあった。日本古来より伝統として培われた【結び】と言う言葉の深さ、そして其れを凌駕する【絆】に昇華させた優介。今にして思えば其れこそが世界有数の自然と対話して来た民族、日本人としての在り方なのかも知れない。それらが結実してこの戦いの中で私の中に【勇気】が生まれたのだろう。この旅は、優介と歩んだ旅だった。優介が思い出させて呉れた。優介が大切にして来たこの思いを此れから私も大切にして行きたい。そう思うと嬉しくて涙がこぼれた。その涙は、優子の頬を伝い、顎から優子の手の甲に落ち、指の隙間から優介の手へ染み込んでいった。
「ありがとう、優介」優子が優介に聞こえる程度の小さな声で言った。

初夏の日差しが優しく機内を照らしていた。

九尾の孫【勇の章】 (3)

完結します。 外伝とかも考え中ですが、読んで頂き、ありがとうございました。

九尾の孫【勇の章】 (3)

平安時代末期に人々に禍や、災厄をもたらした、白面金毛九尾の狐、その身は滅んだが、死しても尚、殺生石となり周りに毒を吐き 災厄をもたらした。源翁心昭により永久に滅殺されたかに思えたが、そのDNAは、滅んではいなかった。現生に孫を名乗る金毛九尾の狐が現れ、また災厄をもたらそうと画策する。 中司優介と相馬優子は、その野望を打ち砕くべく 神に逢い、妖狐、妖達を仲間にしながら戦いを挑んでいく。 結の章(1)、絆の章(2) の続編です。

  • 小説
  • 中編
  • 冒険
  • アクション
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 移動
  2. 会敵
  3. 索敵
  4. 迎撃
  5. 敗退
  6. 治癒
  7. 対策
  8. 結界
  9. 編成
  10. 配備
  11. 開戦
  12. 戦闘
  13. 囲繞(いにょう)
  14. 嚮後(きょうご)