無色の部屋

この部屋の無色を
僕に眠るノスタルジーで塗りつぶしてしまえば
また
あの頃に戻れる気がした
それは黄昏色の
燃えるように
叫ぶように
命を示すグラデーション
あの頃見えていたものが
世界のすべてだったのに
変わってしまった今も
世界のすべてなのに
昨日に吸い込まれた夕日は
もう二度と
顔を出してはくれなかった

幼さを諦めた人たちが僕の部屋に顔を出すけれど
それもまた無色
矢印
記号
看板
解りました
ありがとう
無色に言葉を吐く度に
僕の中から色が溶け出す
萎れた絵具のチューブみたい
空っぽ色の絵具は
この部屋をまた無色にする

部屋の窓から見える空は
地面を裏返したみたいな蒼で
家に帰る頃には茜に飲まれて
ベッドから見上げては藍に還る
世界はこんなにも色付いているのに
世界はこんなにも美しいのに
今は汚れた色の涙が
僕の枕を濡らしている

夢の中で僕は絵筆を取った
顔も
手も
足も
服も
この部屋も
ぜんぶ色付いて
まるであの頃みたいだから
僕もあの頃の姿のままで
そのままで
夢が覚めるまで
夢が覚めても
ずっとこの部屋にこびりついたまま
僕は僕を
夜が明けるまで見守っていた

無色の部屋

ありがとうございました。

無色の部屋

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-02

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