失恋エンヴィー

二人の目の前で少女は捕まれながら、舌ベラを噛み千切って自ら命を絶った。
「…あれが末路、ですか。」
サングラスをかけている黒い背広をピシッと着ている男は、隣にいる背の低い男に話しかけた。
「あぁ。もっとも、アレは醜いほうだけどな。」
煙草を吸う男はそう言った。
「…ありゃあ下級の悪魔だな。ったく、あんな弱ぇヤツでも人間の体に入れるとか可笑しいだろ。」
「可笑しいんですか?」
「おう、それにな。…レクチャーしてやるよルーキー。悪魔が人間の体の中に入ると俺たちにしか見えない黒い雲みたいなのが、憑いている人間の周りにできるんだ。しかし、下級ともなれば、力が弱い分、雲を出しにくいんだ。だから、俺たちでも見限ることは難しい。」
「…じゃあ、どうすればいいんですか?」
「カンだ。」
「はい?」
「すべてはカンなんだよ。お前も見ただろ?俺たちが放っておくと、今みたいなことになるってことをよ…。」

「じゃあね、松田くん。」
「あぁ、咲菜(さな)。また今度な。」
ピンクいコートの女が私の彼氏に話しかけた。ここは駅のホーム。二番線と三番線のホーム。なんでアイツの隣にあんな大人な女がいるのよっ!!
両手で拳を作って。足を開いて仁王立ちした。あっちは気づかない。気づくはずない。
女は二番線に止まった電車に乗っていった。陽太(ようた)は白いため息をついた。はら、やっぱり。私じゃないとだめなんだ。
「あれ?陽太じゃん!どうしたの?一緒に帰ろうよっ!」
「っ!!……なんだ、菜月(なつき)かよ…脅かすなよ。」
何も知らないふりして話しかける。案の定、陽太はビクッって反応した。これはさっきまでのことを隠す証。
「……菜月……。」
「んー?何?」
友達からメールが来たから、返信メールを打ってる途中、陽太が話しかけてきた。お?謝ってくれんのか?私の自慢の背中まである黒髪がなびく。

「俺たちさ、別れよう。」

「え、……はぁ?」
突然頭が真っ白になった。もしかして、別れ話、してんの?
「ま、待って。なんでよ?」
「…声が大きいぞ。」
ここが駅のホームだってことを忘れてた。いやいや、そんなことどうでもいいじゃない!!大丈夫、誰もいない。
陽太を椅子に座らせた。
「はぐらかさないでよ!何?なんで?……好きな人でもできたから?さっきの女?」
「……っ!!なんでっ!!」
「そうなの?ねぇ、そうなんだよね!」
「咲菜は関係ないだろっ!」
「…なんでそうやってかばうの?」
「かばってないだろ!!」
「かばってるよ!!」
携帯を落として足で踏みつけた。陽太とお揃いのクマのキーホルダーまで踏んだ。
「おい、落ち着け。」
「嫌ダ。……絶対別れナい。アタシは別れたくナイ……。」
「……ナツ、どうしようもないんだって。俺はお前と釣り合わない。それに、最近ズレてきてる。」
「そンなの関係ない……。陽太はズっとアタシといるんだ。」
「ナツ……。」
切なそうな陽太の声は、アタシの涙とともに下に落ちる。
アタシは陽太の首に手をかけた。


「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああぁああああぁぁぁぁあああああ」
叫び声と涙がホームに散らばる。改札を出た人も、何事かと来た警備員もアタシにくぎ付け。
「ううううぅぁああああああああああぁあああぁあぁぁぁあああああああああああ!!!!」
私の前には、力なく舌ベラを出して死んでいる陽太がいた。なんで?どうして??陽太が死んでるっ…!!
「あああああああああぁぁああああぁぁぁぁぁ―――――。」
声を止めて、息を止めた。思考を働かせる。どうしてこうなった?
―――陽太ガ別れ話をシてきた。
どうしてこうなった??
―――あの女だ!!あの女がァ陽太ヲ……
あのおん、な。あの女……
「あの女ぁ……殺してやるっ!絶対殺してやるっ!!」
突然何人もの警備員がアタシを止めようとする。なんで邪魔するの!?
腕をとられ、足をかけられた私は床とキッスする。
うげー、最悪。鼻頭をぶって鼻から血がでる。鉄の味。
「あのおんながぁっ!陽太っ!!ようたぁ!!!あああああぁああああぁぁぁぁあ!!!!!」
「君っ!落ち着くんだ!!」
「クソッ――――えー、こちら○○。応援を要請するっ!女子高校生がホームで男を殺害、その後叫ぶなど暴れたり。繰り返す――――」



陽太、陽太。アタシの陽太。
絶対手放さないヨ?
誰ニモ邪魔サセナイ。
アタシと陽太のラクエン

失恋エンヴィー

高梨恋(たかなし れん)でござる。
舞台は駅のホームでした。

人間憑きの悪魔退治ってどうよ?
的なノリで書いてしまいました。ごめんなさい。

ここまでお読みくださりおりがとうございました。
感想など、お待ちしております。

失恋エンヴィー

「なぁ、菜月(なつき)。」 「何?」 「俺たちさ、別れよう。」

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-02

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